募集エキストラリーダーアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 恋思川幹
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/24〜10/28

●本文

『国際地球防衛軍普通科連隊の一部隊が樹海の中を進んでいく。
 周辺を警戒しつつ、時に鳥の羽音に驚いて頭上を見上げ、道なき道を進む疲労に額の汗をそっと拭うと、泥だらけの手が額を汚すのであった。
 時折、声を掛け合いながら、異常の有無、各自の無事を確認しあって前進していく』
『火を噴くAK−74ライフル。発射されるRPG。必死の隊員達の表情。
 敵怪獣は予想以上に巨大な存在であった。小火器しか装備していない普通科隊員達の手におえる相手ではなかったのである。浴びせられる弾丸をものともせず、怒涛の勢いで迫ってくる怪獣。通信機に向かって支援要請を行う隊員。
 物語の主要登場人物は、通信でその部隊の断末魔を聞くことになる』


「以上がエキストラC班の撮影部分になります」
 ADがコンテと台本を照らし合わせて、撮影する場面についての説明をする。
 今回の仕事は怪獣映画で有名な制作会社の、新作怪獣映画の撮影である。
 演じるべき役割は、国際地球防衛軍の普通科、いわゆる歩兵のエキストラである。
 それだけであれば、ごく当たり前の仕事であるが、役者として以外の仕事も今回任されていた。
「ただし、この辺の具体的な場面の説明は一般参加のエキストラの方には秘密にして下さい。作品内容の具体的な部分については原則非公開となっています。撮影時には内容に触れることなく、適当な言葉で演技の内容について説明をお願いします」
 一般参加のエキストラの面倒を見なくてはならないのだ。無名であったり、新人であったりしてもプロの芸能人の端くれであるからには、彼らを上手にリードして映画全体の完成度を上げなくてはならない。しかも、映画の具体的な内容を説明してはいけないという制限付である。
「最近はインターネットで簡単に情報が出回りますからね。その辺り、十分にわきまえて下さい。例えばAK−74を使う設定上の理由なども秘密になっていますから、聞かれても適当にごまかして下さい。言うまでもなく、緊急の場合をのぞいて獣化はNGです」
 ADは次にスケジュールの詰まった用紙を手渡す。
「撮影スケジュールの関係でエキストラの方には1泊してもらうことになります。待機時間もだいぶ長いので、エキストラの方々をうまく監督して下さい。エキストラ撮影は、ファンサービスの一環でもありますので、ホスト役としてエキストラの方々に参加してよかったという気持ちでお帰りいただけるように努めてください」
 ADの話を聞きながら、渡されたスケジュール表を読むと、確かに一般エキストラと一緒にいる時間は多いようだ。
「撮影の性質上、ミリタリーや怪獣などのマニアの方が多いですが、そうでないエキストラの方が仲間外れになるようなことがないように気をつけていて下さい。ついつい、仲間がいるとそういう壁を作っちゃうんですけれどね」
 自身も何かのマニアであると自認しているのであろうか? ADは少し照れ臭そうに笑う。
 長い時間になると、輪に入り損ねて孤独に過ごすのは辛いものだ。
「概ね、注意点はこんなところでしょうか? それではよろしくお願いします」
ADはそう言ってエキストラリーダー達を送り出した。

●今回の参加者

 fa0030 耕也(23歳・♂・狐)
 fa0189 大曽根ちふゆ(22歳・♀・一角獣)
 fa0210 龍田羅漢(35歳・♂・竜)
 fa0265 倉井 歩(27歳・♂・パンダ)
 fa0501 水・蒼遥(26歳・♂・トカゲ)
 fa1215 紅・天華(16歳・♀・竜)
 fa1244 安部彩乃(16歳・♀・アライグマ)
 fa1656 ウィン・クラートゥ(17歳・♂・狼)

●リプレイ本文

「コンテにさ、通信で主人公が通信で主要登場人物が惨劇を聞くってあったよね? あれ音声だけなら、よい悲鳴を出せるようにエキストラさん達にあ〜んなことやこ〜んなことしちゃおうか? きっと最高の悲鳴を出してもらおうよ」
 と言ったのはウィン・クラートゥ(fa1656)である。
「ええと、とりあえずは一般エキストラの人達との顔合わせだ。衣装合わせの後にだいぶ時間があるな」
 水・蒼遥(fa0501)が渡されているスケジュール表を確認している。
「衣装合わせかぁ。じゃあ、その時にこのICレコーダーを使って、ね、ウィンさん」
 倉井 歩(fa0265)がウィンに笑いかける。
「何気ない素材も作品には重要ってのは認めるけどね」
 そんな二人に蒼遥は苦く笑う。
「けどぉ、怪獣映画の、それも軍隊役のエキストラの人達ってぇ‥‥」
 安部彩乃(fa1244)が言いかけた時、ちょうどプレハブ小屋の影からエキストラ達の待機している広場が見える位置にでた。
「‥‥やっぱり男性の方ばっかりですっ‥‥よねぇ?」
 彩乃の視線の先には大勢の男性エキストラがひしめき合っていた。女性もいることはいたが、少数派であることは否めないし、採用にあたってもある程度は調整されていたのかもしれない。
「僕はやっぱり遠慮しておきますね」
 くらがそんなことを言う。
「ストーリー展開が秘密なら、全滅とかを想起させる断末魔とか、別で収録だよね」
 ウィンもそんな具合で引き下がるのであった。

「みなさ〜ん、おはようございます〜っ」
「体調はどうですかー? 今日は元気で頑張りましょう!」
 明るく元気な声で、彩乃と蒼遥が一般エキストラ達に声をかけた。
 業界の挨拶といえば、時間を問わずにおはようございます、と相場が決まっている。
「さて、ようこそ、怪獣と戦う軍隊へ! という訳で今回は皆さんに怪獣と戦う兵士のモブということで、映画のお手伝いをしてもらいますね。僕達は今日から二日間、皆さんの班長をさせていただきます、向こうから順に‥‥」
 くらがエキストラリーダー達を紹介する。
「‥‥以上の四人で中心となって撮影を撮影までの皆さんのスケジュールを進めていきますね。撮影に関して質問があったら遠慮なく聞いて下さい」
 紹介が終わったところで、エキストラの一人が手を上げた。
「はい! この軍隊の正式の呼称、設立意図について教えて下さい。主要な仮想敵である怪獣についても説明お願いします」
 なによりも真っ先に作品設定についての質問が飛び出す。最新作の内容を少しでも早く知りたいというファン心理であろう。
「エキストラC班です。設立目的はこの映画における軍隊モブの撮影の為ですね」
 蒼遥が答えたのを聞いて、エキストラ達の間からどっと笑いが起きる。明らかに質問の意図をかわした回答の巧みさと滑稽さに対するものであろう。
「ごめんなさいです〜。きっと欲しいと思った回答とは違うと思うんですけれど〜、今はオフィシャルから公式発表があるまで待って下さいっ」
 彩乃がぺこりぺこりと頭を下げます。
「俺達もね、撮影に必要な部分は以外はあまり知らされてなくてね。本当にごめんなさい。他に質問はありますか?」
 蒼遥も深く頭を下げて、次の話題に移行する。
「はい。ただの一般人じゃなくて、軍隊って特殊な撮影ですけど、僕達でも大丈夫なんですか?」
 別のエキストラが質問する。こちらはまあ、妥当な質問である。
「はい、この後はまず衣装合わせですけど、その後に交流なんかも兼ねて色々と企画してあります。でも、そんなに身構えなくてもいいですよ。気負わないで、他人に迷惑をかけないで、一生懸命やってもらえれば大丈夫ですから」
 くらがそう言って場を纏める。
「他に質問がなければ、衣装合わせに入りましょう」
 エキストラ達を見回して、質問がないのを確認するとウィンが誘導を開始した。


 衣装合わせでのエキストラ達の反応は様々であったが、概ね三種類に分かれただろうか。
「こんなの、着るの初めてだよ」
「これ、かっこいいなぁ」
 単純にエキストラ体験に興味を持ってきただけの人々は、衣装の野戦服や銃、その他の小道具に興味津々といった様子で眺めている。
「これ、AKだよね? 東側の国なの?」
「俺らが出演するんだから、日本か、せいぜいアジア系だろう? わかんねー」
 大半の参加者は、怪獣映画が好きで参加しており、その副次的な知識として銃器などにそこそこ詳しかったりする。AKライフルがいわゆる東側諸国の武器であるということから、様々な憶測に話を咲かせている。
「おいおい、これはEU製のだろ? こっちはアメリカ海兵隊だ」
「滅茶苦茶だな、考証する気が全然ねーんだよ、これ」
 最後のはもっとも濃い層である。銃に注目が行く中で、的確にその他の小道具のモデルが何であるかを見抜いていく。
 この映画の兵士の衣装は、目立つ銃はAKライフルであるが、それ以外の様々な小道具がヨーロッパやアメリカなどの軍隊装備品の寄せ集めになっている。よく言えば多国籍、悪く言えばあまりにゴッタ煮な内容である。
「ほんとにこれってどういう内容なんだよ、納得させる内容くれよ」
「あっちこっちの装備品がごちゃごちゃで、どういうん?」
 何人かがエキストラリーダー達に詰め寄るが、当の本人達はきょとんとしている。
「そんなに変な衣装なのかな?」
「いや、でも‥‥」
 首をひねるくらに、声を潜めてウィンが言う。
『でも、銃に関する設定とか、言っちゃ駄目って言われてますからね? いい加減ってことはないんじゃ?』
『いや、俺はあんまり興味なかったから、気にしてなくて』
 武器がAKライフルであることにも特に興味を示していなかっただけに、よくも悪くも宥めることに専念できたのはよいことだったのかもしれない。この手の話は自分も乗っかってしまうと、なかなか離脱できないものであるから。
 その意味では、撮影スタッフとしてはよいエキストラリーダーに恵まれたのかもしれなかった。


「さて、あらためて、よろしく。俺が司令官の倉井歩だ! これから諸君らに任務を与える」
 くらがビシっと衣装を着込んで言う。恰幅のよい体が逆に威厳になっている。演技力もそれなりにあることも手伝っている。
「という訳でぇ、これから○×ゲームをしてもらいますっ」
 彩乃が声を張り上げる。
「ルールは簡単で、あっちのウィンさんが○。○が描いてあるプラカードも持ってますよねっ。で、そっちの蒼遥さんが×です〜」
 舞台装置職人である彩乃がありあわせの材料で作った○×のプレートを持ってウィンと蒼遥がエキストラを挟んで互いの反対側にいる。
「あらかじめ決められていたグループ分け、『小隊』単位での対抗戦です。ルールは普通の○×ゲームですけれど‥‥」
 ウィンの解説を引き継いで、
「小隊単位で機敏に秩序立って動かないと減点だな。本番の撮影でよりそれらしく動く為の連帯感と衣装を着て動くことに慣れてくれ」
 蒼遥が説明する。
「このゲームの結果は撮影する時の位置取りにも関係する! 各員の奮起奮闘に期待する」
 くらが司令官らしく宣言すると、どよめきが上がった。
 まだ、設定やら何やらに拘りがあるエキストラもいたようであるが、それもゲームの勝敗の重要性の前にゲームに意識を集中せざるをえない。
「それじゃあ、第一問ですっ。気温測定に使う百葉箱ですが〜‥‥一般的な温度計の高さは地面から1mである、○か×か!」
 綾乃が問題を出す。
 いっせいに動き出すエキストラ達であるが、各小隊毎の統制も危なっかしい。
「そんなバラバラじゃ、すぐに怪獣にやられちゃうよーっ! 小隊毎にきっちりまとまって動いて下さい」
 かくて、ゲームという名目の元にエキストラの演技指導が始まった。
 ゲームという形式が練習という意識を緩和させ、目的意識が他のことを考える余裕を奪い取り、全体として即席としてはレベルの高い集団を育成することに成功する。

 映画の序盤を盛り上げる戦闘シーンはこうして誕生したのであった。