怪獣ハロウィン05アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 恋思川幹
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/30〜11/03

●本文

 10月31日はハロウィン。
 だけど、残念ながら平成17年のその日は月曜日。
 代わって10月30日にイベントが行われることも多いのではないでしょうか?

 そんな訳で、このイベントも10月30日の開かれることになりました。
 題して、『怪獣ハロウィン05』。
 怪獣特撮の老舗プロダクションが主催するファンサービスのイベントです。
 プロダクションが所有するヒーロー、怪獣の着ぐるみをすべて出しての怪獣パレードが催さわれるのです。
 パレードのコースはプロダクションの怪獣倉庫から、地元商店街を通り抜けて、公園にあるメイン会場まで練り歩きます。
 メイン会場でのイベント終了後、イベント終了後は再び倉庫へ向かって練り歩きます。

 プロダクションの数十年の歴史は伊達ではなく、倉庫に眠る怪獣の着ぐるみは相当数にのぼります。
 最新の怪獣やプロダクションの顔と言っても差しさわりのない有名怪獣達は最前線で活躍する着ぐるみ俳優達が担当します。ですが、それ以外のマイナーな怪獣達にまで中身を入れるとすると、やはり人手が欲しいというのが本音です。
 そこで新人の獣人達にお呼びがかかりました。

 集められた新人獣人達に与えられた着ぐるみは大半の人間が見たことも聞いたこともない怪獣でありました。
 なぜならば。
 第一次ブーム終焉期に放送された昭和世代の最後の番組、それも後半クールに登場する、マニアでもちょっとすぐには名前の出てこない、ド・マイナー怪獣軍団だからなのです。
 新人獣人達はこのド・マイナー怪獣軍団の中の人になって、イベントの一翼を担わなくてはならないのです。
 交代要員はいませんので、体調管理には十分に気をつけなくてはなりません。さりげなく、人間の出来る仕事ではない、という重労働なのであります。
 イベントの間、着ぐるみ俳優達の為の休憩所が近所に設けられますが、人数の都合上、休憩が満足にとれることはありませんし、ド・マイナー怪獣でももしかしたらその登場を楽しみにしている人がいるかもしれません。

 なお、体力勝負の着ぐるみ俳優の他に、コンパニオン、商店街でのパレードを実況するディスクジョッキーなども若干名募集されるそうです。
 怪獣について勉強して、その的確な解説ができる人が欲しいそうです。
元から怪獣が好きである必要はありません。必要なのは会場でお客様を楽しませることができるかどうかなのですから。

●今回の参加者

 fa0230 アルテミシア(14歳・♀・鴉)
 fa0386 狐森夏樹(18歳・♀・狐)
 fa0437 畑ヶ谷惇子(35歳・♀・兎)
 fa0637 鞘師 朱彦(21歳・♂・鷹)
 fa0677 高邑雅嵩(22歳・♂・一角獣)
 fa0836 滝川・水那(16歳・♀・一角獣)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1713 玄穣(14歳・♀・豚)

●リプレイ本文

●控え室のトラブル
「ちょっとあなた、半獣化した姿を丸見えにして、人前に出るつもりなんですか!?」
 玄穣(fa1713)がアルテミシア(fa0230)の衣装合わせの様子を見て、抗議をしました。
「ええ、カックラキン・ヨネザワという怪獣をモチーフにして、半獣状態の形質を衣装に取り入れるつもりですよ。それに特撮の老舗プロダクションの仕事ですから、これくらい大丈夫ですよ。それに体力を補う為に獣化する人は他にもいますよ」
 頭に紫色のヘドロを塗れた蛸を模した帽子を被りながら、シアはにっこりと笑って答えます。
「そんな簡単に考えないほうがいいです。コンパニオンはそのままでもやれるんですから、獣化するべきじゃありません!」
 ミノリは引くことなく食って掛かります。けれど、シアには動じる様子もなく楽しそうにミノリを見つめています。
「うふふ、一生懸命でかわいい子‥‥食べちゃいたい」
 シアの口元が怪しい笑みを浮かべます。
「ひっ!」
 ミノリは背筋を走る悪寒に全身鳥肌を立てます。
「プロダクションの最新技術という話と、生身の人間に本物の羽が生えているなんて荒唐無稽な話、普通のヒトはどっちを信じると思います? 私の半獣化が駄目なら、着ぐるみの中の方が獣化するのも同じように危険です。同じ危険なら、私は私の持つポテンシャルを最大限に引き出して、お客さんに喜んでもらいたいのです」
「とにかく! あなたのせいで獣人の存在がばれそうになるなら、蹄を使ってでも止めます! 私はあなたを微塵も信用していませんから」
 徐々に大きくなる喧嘩に控え室の雰囲気が険悪になっていきます。
 なぜ、ミノリがシアをそこまで毛嫌いするのかは判然としません。言い分だけであれば、どちらにも一理あります。あるいは硬派なプロレス業界に所属する思い込んだら一直線という猪娘には、シアのチャラチャラして不健全に見える「ゴスロリ」というものへの苦手意識が拒否反応になっているのかもしれません。
「獣化した力を使うの? なら、私も本気で殺らせてもらっていいですか? コロシアイマショウ、私をカンジサセテ」
 うっとりとした表情を浮かべるシア。病、死、破滅、それらはゴスロリファッションの一部であるという言説もあるそうな。
「こ、この変態!」
「可愛いも変態も同じくらい嬉しい評価です」
 二人の言い分はまったくかみ合わなくなっていきます。
「ケンカは駄目ですの」
 と、会話に割り込んできたのは、怪獣レミンゴの幼生体でした。
 直立したハムスターという外見、というよりハムスター獣人の完全獣化そのものの怪獣ですが、これも劣悪な予算状況の中で「作られた」怪獣の悲しさでしょうか。番組製作当時、ハムスターが現在程の知名度を持っていなかったので違和感なく「かわいい怪獣」と認識されたのでしょう。
「一緒に仕事をするのですから、二人とも落ち着いてくださいです。他の人達にも迷惑になっちゃいますの」
 レミンゴの正体は美森翡翠(fa1521)です。お姉さん相手に一生懸命、場を和らげようと頑張っています。
「ね、仲がいいほうがいいですよね」
 翡翠のにっこり笑顔とともに穏やかで落ち着いたオーラが辺りに広がっていきます。ハムスター獣人の能力「和気穏笑」です。
 翡翠の癒しの笑顔はギスギスし始めていた控え室の雰囲気を和らげます。
 近くにいたシアとミノリは当然、「和気穏笑」の有効範囲に含まれおり、
「ごめんなさい、少しムキになりすぎました。でも、本当に気を配って下さいね」
「ええ、そちらも」
 ともあれ、衝突は解消されました。
「仲良しになれてよかったですわ」
 翡翠はにっこりと微笑みました。まさに癒し系子役の面目躍如です。


●商店街を抜けるパレード
 パレードが始まりました。
「トリック・オア・トリート!」
 声を出す怪獣はあまりいませんが、その中にまじったコンパニオン達が代わりに掛け声を出しています。
 その一人に狐森夏樹(fa0386)、通称ナッキーがいました。オメガ星人の美少女型アンドロイドのコスプレをしての登場です。
 と、夏樹の掛け声にあわせるようにバサバサと翼を動かして通行人を威嚇しているのは、鞘師朱彦(fa0637)です。
「この怪獣は『空撃怪獣ザクバラン』よ! 空を飛ぶ能力でヒーローを苦しめました! さあ、トリック? オア トリート?」
 夏樹は怪獣を紹介しながら、通行人に迫ります。パレードの先頭では怪獣に渡す為のお菓子を配っているので、怪獣やコンパニオン達はそのお菓子を持っている通行人を中心にアクションをかけているのです。
(「ザクバラン‥‥この名はどこから来たのか‥‥? ‥‥‥‥ざっくばらん?」)
 夏樹が自分を紹介しているのを聞きながら、朱彦は自問します。ぱっと見、いい感じのお兄さんな朱彦ですが、その実、朴訥な性格です。その為でしょうか? こんなことをポツポツと考え込んでしまうのは。
(「だが、うまく鳥型の翼を持つ怪獣の割り当てでよかった。本物の翼を利用した構造になっていなかったなら‥‥」)
 けして軽いとは言えない着ぐるみ。可動部分が少ないので動くだけでも大変ですし、通気性も悪いので蒸し暑いことこの上ありません。
(「獣化していなかったなら、きっと倒れていただろう。ただ、誤算は‥‥」)
 獣化した姿での羽毛の保温効果でした。獣化した際の羽毛や毛皮による保温効果は普通の動物と同じ程度にはあるので、場合によっては暑いこともあるのです。
「あっ! 向こうから高速接近してくるのはデミヒュー・アルパだわ!」
 夏樹が突然、声を上げました。
 人々の注目が集まる、その視線の先にゴロゴロと転がってくるのは両手、両足、胸に車輪をつけたメタリックな外観の人型怪獣デミヒュー・アルパにはいった高邑雅嵩(fa0677)でした。
「ふははははっっ!!」
 転がりながら悪役特有の高笑いをしているのは、傍目にもその高速移動形態が怖そうに見えることに由来しているのでしょうか? ブレーキは手ですし、粗末なタイヤでサスペンションもないのでアスファルトのデコボコで激しく振動します。そもそも撮影用のギミックで十分なサポートがある場所で使われた(はずの)ものであって、公道で使えるかは激しく疑問であるのです。
「悪の科学者に改造された悲劇の人間、そして非常なる殺戮マシン! それがデミヒュー・アルパよ! 無数の武器が体中に装備されたまさに『歩く武器』だわ!」
 夏樹が熱く語る目の前を、雅嵩はそのまま転がりすぎて行きます。
「‥‥あっ‥‥」
 もしかして、緊急事態かもしれない。そう夏樹が危機感を感じた時、空中一回転を決めて飛び出したのが、月面怪獣ジュゴヤです。
 表向き着ぐるみ、ということになっていますが、作り物であるのは実は頭部のマスクだけです。ハムスター獣人をそのまま使ったレミンゴ幼生体と同様に、獣化した肉体をそのまま『着ぐるみ』と言い張った怪獣です。予算が切迫していた時期には、文字通り体を張った製作が行われていたのでしょう。
 ジュゴヤは止まるに止まれないように思われるデミヒュー・アルパの前に立ちはだかるとガシッと受け止めてしまいました。
「‥‥す、すまない。感謝する」
 思った以上に制御の難しかったデミヒュー・アルパの高速移動形態の危機から脱した雅嵩はジュゴヤにお礼を言います。もちろん、お客さんにはわからないようにそっとなのですけれど。
「気にしないで。あたしは貴重な怪獣に傷がつくのを見たくなかっただけだわ」
 ジュゴヤのほうはさして気にしている様子もありません。ジュゴヤの中身は熱狂的な怪獣ファンである畑ヶ谷惇子(fa0437)です。
「華麗な月面宙返りを見せてくれたのは、月面怪獣ジュゴヤよ! 脅威のジャンプ力は富士山だってひとまたぎ! 米ソの月面基地を両方破壊した侮りがたい怪獣だわ」
 マスクだけとはいえ、着ぐるみを被った状態での宙返りは凄い技術です。それだけ惇子の軽業の技量は高い水準にあるのでした。その技も含めて、ジュゴヤは数十年ぶりの見事な復活をとげたのでした。


●イベント会場にて
「おや、ルルンじゃないか。懐かしいねぇ。また迷子にでもなったかい?」
 会場の端っこで、泣き虫怪獣ルルンの設定に基づいて、迷子になった様子を演じていたのは滝川・水那(fa0836)に声をかけたのは一人のお爺さんでした。
「‥‥‥‥」
 声をかけられて振り向いた水那は、体を上下に揺らして肯定の意思を示します。
「じゃあ、会場まで連れてってあげようかね。ほら、おいで」
(「このお爺さん、ルルンの名前だけではなく、設定まで知っているなんて凄いです」)
 差し伸べられたお爺さんの手に連れられていきながら、水那はそんなことに感心してしまいます。けれど、その理由はすぐに氷解します。
「その角は本物だね? あなたも仲間のようだ。ルルンはね、私がまだ現役だった頃に撮影した怪獣だよ」
「お爺さんもじゅうじ‥‥」
 声を出した水那をお爺さんはそっと制しました。
「直接、お客さんの前にでる時は、着ぐるみの中の人はあんまり喋るものじゃないよ」
 そう言われて、水那ははっと口を閉じます。どうやら、このお爺さんはプロダクションのOBであるようです。
「今日は色々と懐かしいものを見せてもらっているよ。それにしても、『あの姿』を衣装の一部に使った怪獣がわりと多く見られるのは嬉しいね。『あの姿』を『技術』だけで再現できるようにと頑張ってきたおかげか、きわどい姿を見せている怪獣もお客さんは着ぐるみだと信じて疑っていないようだ」
 あの姿とは獣化した姿のことです。獣化した姿を見られても、「プロダクションの最新技術」という言い訳で疑問が消失する、それはすなわち、プロダクションがそれだけの高い技術力を持っていると思われていることの証です。
(「ああ、そうか。こういう昔の人達が努力してくれたから、自分達が多少、獣化した姿を見せてもよく出来た『着ぐるみ』とか『コスプレ』とか、そうやって人間の人達の認識を逸らすことが出来るようになっているんですね」)
 水那はこの小さな出会いによって先人の努力の恩恵というものを感じられたことを嬉しく思いました。出会いを作ってくれたルルンに感謝しながら。