常夏の(模擬)戦場アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 恋思川幹
芸能 フリー
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 0.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/07〜12/11

●本文

 南太平洋上に浮かぶその無人島はリゾート開発が進められていたが、発注元の旅行会社の倒産により工事途上のまま放置されていた。
 それを日本のある芸能プロダクションが買い取ったのは数年前のことである。
 現在では「次代のアクションスター(乃至、悪の戦闘員)を養成する合宿所」ということで島は利用されている。

 というのは、表向きの話である。
 この島が本当の利用方法は‥‥。
「俺が訓練教官の鳩間だ! これからお前らナイトウォーカーの餌どもをみっちりと骨の髄から鍛えなおしてやる」
 鳩間と名乗った眼帯をつけた中年の男が整列している獣人達に向かって怒鳴り声を上げた。
「いいか、お前達は獣人ではない! ただの餌だ! ナイトウォーカーに無残に食い散らかされた挙句、新しいナイトウォーカーを生み出すことにしか役にしか立たん! はっきり言ってしごく迷惑である!」
 獣人を捕食した栄養でナイトウォーカーが増殖するというのは、ナイトウォーカーに関する仮説の一つである。
「よって今からお前達をただの餌から、せめてもの抵抗できる獲物レベルに引き上げてやる! いいな! わかったら返事をしろっ!! 餌ども!!」
 そう獣人達に対ナイトウォーカー戦の戦闘訓練を施す秘密施設であったのである。
 人目のある場所では出来ない、より実践的な派手な訓練が可能なのである。


「喜べっ! これより模擬戦を開始する!」
 鳩間が怒鳴った。
「模擬戦のシチュエーションを説明する。耳の穴をかっぽじって、よおく聞け!
状況は日本国において4階建ての廃ビル内に敵ナイトウォーカーが逃走、潜伏中であるという想定だ。WEAの要請により現場に急行、これを制圧せよ。よって使用できる武装は日本国内で非常に短い準備時間で用意できるものに限定する。まさか、自動小銃や真剣をそう簡単に持ち歩けるなんて思っちゃねーだろうな? 親方日の丸はそれほど甘かねえぞっ!」
 武器については日本国内において携帯が可能な隠匿性の高い武器とする。拳銃、ナイフ、仕込み武器などがそれに相当する。
 廃ビルは四階建てのホテルになるはずだった鉄筋コンクリートの建物である。出入り口は正面玄関、従業員通用口、物資搬入口、非常口。階移動には階段、動かないエレベーター、外側の非常階段。一階はロビー、従業員関連の施設全般。二階はレストラン、厨房、ホール。三、四階はユニットバス付客室複数、リネン室あり。階段は屋上まで続いている。いずれも作り掛けのものである。何度も訓練に使われ、あちこちに弾痕がある。
「ナイトウォーカー役のアグレッサー(仮想敵)は俺ともう一名の教官で務める。お前達は半獣化して挑んで来い! 俺達は完全獣化してお前達を迎え撃つ。こちらの武装は自動小銃、特殊能力の再現として『催涙弾』『スタングレネード』『ネットガン』のどれか一つを携帯している。どれを持っているかは出会ってみるまでのお楽しみだ! つまり圧倒的に強力な敵であるという想定になる! 卑怯だと? ふざけるなっ! ライオンが獲物にあわせて対等の条件で戦ってくれるか? 精肉業者が一対一で牛や豚と戦って肉を勝ち取るのか!? その獣みたいな頭をよおく使って考えろ!」
 アグレッサーは完全獣化し、自動小銃、暴徒鎮圧用兵器を携帯している。訓練生は半獣化の状態で模擬戦闘に参加せよ。これは圧倒的優位にある敵との交戦を想定した訓練である。そういった能力を持つNWがいるかはNW全般に関する調査が進んでいないのでわからない。どちらかといえば、アグレッサーの差別化の為の処置である。ただし、アグレッサーは獣人の特殊能力は使用しない。
「人数はこっちの4倍はいるんだ。頭を使え、戦術を考えろ! 模擬戦に使用する弾丸は共に模擬弾を使用する! ペイント弾なんて生易しい物はここにはない! 当たると死ぬほど痛いが死にはしない! 身をもって味わえ、体に覚えこませるんだ! いかなる状況であれ喰われる前に撃てとな! それが例え30秒前まで恋人であったモノであったとしてもだ! さもないと、こういう目にあう」
 鳩間は自分の眼帯にぐりぐりと親指を押し付けた。
「自分の銃を持っている者はそれを使え! 持っていないが銃の使用を望む者にはM92を貸してやるっ! 刃物類、特殊能力類はそのまま使ってよし!」

「勝敗判定はこれといって設けない! 倒れるまでやれ!! 以上っ!!」

●今回の参加者

 fa0175 クラウド・オールト(16歳・♀・竜)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0310 終無(20歳・♂・蛇)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1674 飛呂氏(39歳・♂・竜)
 fa1712 孫・華空(24歳・♀・猿)
 fa2477 アキ(35歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

1日目
「雁首そろえてきやがったな」
 2階の窓から顔をのぞかせて、鳩間は訓練生を見つめていた。
 正面玄関正面からまっすぐに向かってくる訓練生の人数を確認すると、小銃を構えた。鋭い鷹の目が敵をとらえる。
 なんと言っても、小銃と訓練生達の拳銃では有効射程が違う。その結果は‥‥。
「だから言った! お前達は餌なのだと!! 敵の攻撃が遠距離が得意ならそれを最大限に発揮できる場所で迎え撃つ事態は考えられたはずだ!! 先制の打撃を与えられれば、その後の逃走も楽になるっ! 敵が隠れてやり過ごすだけとは限らんぞ!」
 鳩間の怒声が響きわたった。
 訓練生達の失策は建物に入る手段について検討がなかったことである。それ故に見晴らしのいい正面入り口に面する2階の窓からの鳩間の銃撃でしたたかに模擬弾の洗礼を浴びたのである。
「明日はこっちの行動パターンを変えて、もう一度だ!」


2日目
「どう、見える?」
 昨日の反省を活かし、ブッシュ(茂み)の中に潜めてビルの様子を探るMAKOTO(fa0295)は、同じく様子を探っている孫・華空(fa1712)に声をかけた。
「今のところ、見当たらないな。昨日のように張り付いて見張っているってことはないみたいだぜ」
 華空が応じる。鳩間は行動パターンを変えると宣言していたが、変えた行動パターンに昨日と同じ部分が含まれる可能性も考えられた。
「B中隊、そっちはどうかな?」
 MAKOTOはトランシーバーを使い、ビルの裏側にまわったB中隊へ声をかける。

「こちらB中隊。通用口付近にそれらしき影はない」
 裏側の通用口付近で、様子を探りながら通信を受信しているのはクラウド・オールト(fa0175)である。
「そろそろいいだろう。慎重になるだけでも、また教官に叱責されそうだ」
 飛呂氏(fa1674)はそう言うと、再度、周囲に視線を走らせる。
「B中隊はこれから進入する。中で落ち合おう」
『了解』
 クラウドはトランシーバーでA中隊と連絡を取り合うと、懐にそれをしまった。
 辺りを警戒しつつ、通用口へ向かい物陰を縫うようにして接近していく。後ろで待機している夏姫・シュトラウス(fa0761)と富士川・千春(fa0847)は拳銃を構えて、敵が現れた際の援護に備えている。
 通用口付近に到着したクラウドはしばし周囲を探ると、手を振って前進を促す。
 飛呂氏が続き、夏姫が続く。最後に残った千春が歩みだそうとした時であった。
 銃声が響きわたった。
「きゃっ!?」
 すぐさま、その場に伏せる千春。だが、銃声が遠くからであることにすぐに気づく。
「A中隊、そっちは無事か?」
 クラウドはトランシーバーに声をかけた。

「こっちは襲撃を受けてるよ。玄関の物陰からライオンの銃撃を受けてる!」
 MAKOTOがトランシーバーに応じる。A中隊は玄関からの突然の銃撃に近くの障害物に身を隠した。そこに陣取っていた教官はライオンの獣人である。
『持ちこたえられそうか? 裏から突入して援護する』
「わかった。出来るだけこっちに注意をひきつけるぜ。ただ、鳩間教官を見てない」
 華空は鳩間がどこかに潜んでいることへの警戒を促す。
『了解した。注意しつつ急ぐ』
 クラウドの返事を聞いて、華空は物陰から身を乗り出し、玄関に向けて発砲する。
 玄関から続いていた銃撃が一瞬途切れる。だが、次の瞬間には華空の隠れる場所に銃撃が加えられる。
「狙って当てられないにしても」
 アキ(fa2477)が銃撃を加える。再び、銃撃がやむ。
 格闘能力主体のA中隊ではアキがもっとも射撃技術が高いが、それでも物陰に隠れている敵に対して有効な銃撃を加えられるほどの腕はない。まして、完全獣化により身体機能が強化されている敵に対してである。
「敵の動きを封じ込められるわ」
 狙って当てることはできずとも、相手のいる方向に弾丸が飛んでいくことには違いない。飛び交う銃弾の数が増えていけば、それだけ身動きも取りづらくなる。文字通りの下手な鉄砲も数打てば、である。人間や獣人は言うまでもなく、生存本能と状況判断能力を持つNWであれば、銃弾のプレッシャーを感じるであろう。
 テレビゲームではない。命中と外れの二択だけではなく、当たらない弾丸も含めて戦場は構成されていく。銃撃による拘束効果である。
 だが、教官も手馴れている。銃撃がやむ瞬間を見計らっては小銃による反撃を加える。
「やれやれ、敵もさるもの。銃がない僕の出番はもう少し先ですかね?」
 A中隊で銃を持っていない終無(fa0310)がぼやく。敵の動きを拘束しているのは事実だが、敵も自分達を拘束しているのである。
 こういった銃撃戦を制して敵を拘束し、味方を安全に決定打を与える距離に送り込むことが援護射撃の肝である。
「僕にできる牽制もあるけど‥‥やってみますか!」
 終無が物陰から飛び出すと、すかさず銃弾が飛んでくる。すぐさま物陰に戻る終無。有り体に言って囮であるが、敵が隙を見せるのであれば、そのまま突入することも出来る。出来るからこそ、囮にもなりえるのだが。
「さすがによく見てますね。ライオン獣人で視覚強化があるってわけでもないでしょうに」
 状況は膠着状態‥‥に見えている。

「この辺りには鳩間教官はいないようですね」
 通用口から入り、事務所になるはずだったフロアを通過しながら夏姫が呟いた。
「表の銃声はまだ聞こえていますから、うまくいっているのでしょうか」
「不安はわかるが、少し落ち着け。大丈夫だ」
 飛呂氏は不安におどおどしている夏姫の頭を撫でる。
「俺と飛呂氏で突入する。夏姫と千春は建物内部の他の部分から敵がこないか見張ってくれ」
「援護はいらないの?」
 クラウドの言葉に千春が問い返す。
「外から来るさ。いくぞ!」
 飛呂氏がM92を構える。
「そうですね。‥‥これから突入します」
『待ってました。どうぞ!』
 千春のトランシーバーからの返事と同時に、クラウドと飛呂氏が玄関フロアへ飛び込んだ。同時にクラウドは右側、飛呂氏は左側に向けてそれぞれの銃を発射した。視線はライオン教官に向けたまま、銃口だけをそちらにむけての攻撃である。
 目標はあくまでもライオン教官であるが、ドアを出たすぐ横に鳩間が隠れている可能性も考慮したからだ。当たれば幸運、当たらずとも牽制できれば十分。
 続いて飛び出した千春と夏姫が背中合わせに事務所側から死角だった部分へむけて銃を構える。敵はいないと確認すると、次は他の玄関ホールへの出入り口を確保に向かう。
 クラウドと飛呂氏がライオン教官に向けて駆ける。銃声に気付いて振り向いたライオン教官だが、小銃の銃口を二人に向けるより先に肉薄される。
「せいっ!」
 飛呂氏が投げ捨てる動作も惜しんでか、利き腕に握ったままのM92のグリップをライオン教官に叩きつける。ライオン教官は左腕で攻撃を受け止めるが、反撃の為の狙いが定められない。近接戦闘においては銃よりもナイフ等の武器が強いのはその筋では常識である。
「くらえっ!」
 畳み掛けるようにクラウドが拳銃から持ち替えた木刀を突き出す。小銃を持った右手では防げず、銃撃戦の為に姿勢を低くしていたので避けるのも難しい。
「があっ!」
 突き入れられた木刀に顔を歪めるライオン教官だが、そのまま反撃に銃を乱射する。狙いをつけていないので、飛呂氏にもクラウドにも避けるのは容易であったが、肉薄しつづけることは出来ず、距離を置く。ライオン教官にしてみれば、それで体勢を整える隙ができた‥‥
「ネックツイスター!!」
 そのはず、は華空のオリジナル空中殺法により阻止された。相手の頭を掴んで頭上に倒立、体重をかけて相手を捻り倒すという極めてアクロバティックな技である。ライオン教官は無理に逆らわず、華空の倒れる方向へ飛ぶ。ダメージは最小に抑えるが、転倒は避けられない。
 すでに肉薄されている状況での転倒は致命的である。ライオン教官は賭けに出る。胸元にぶら下げていたスタングレネードの安全ピンを抜き、放り上げた。
「まずいっ! 手榴弾だっ!!」
 飛呂氏の叫び声でいっせいに訓練生達は親指で耳を塞ぎ、手のひらで目を覆って、その場に伏せる。その形状から催涙弾との区別を一瞬でつけるのは困難であるが、どちらであっても対応できる反応であった。
 スタングレネードが炸裂する。ライオン教官が先に立ち上がることが出来れば、まだ逃げ延びるチャンスがあるだろう。
 だが、その辺りの対策について訓練生は十全の対策があった。第一に密集しすぎないことである。スタングレネードが炸裂した時、2対1では不確実と感じて突撃した華空を除いてA中隊はこの時、まだ建物の外にいたのである。
 MAKOTOと終無が駆ける。逃げるタイミングを失ったライオン教官を制圧するのに時間は要さなかった。

 アグレッサーの一方を制圧した訓練生達は残る鳩間を制圧すべく、慎重に建物内を探っていく。
「いったいどこに‥‥」
 夏姫はサングラスを外して汗をぬぐう。気温と湿気、そして緊張で汗が流れ落ちる。
 姿の見えない敵に強いられる緊張感は強い。それが随分と長い時間続いた。
「どういうことだ?」
 鳩間の気配さえ掴めないことに苛立ちが生じる。
「‥‥僕が敵なら一方を囮にしてでも生き延びる行動をとりますが‥‥」
 緊張と苛立ちがピークに達した時、終無の発言が訓練生達を凍らせたのである。

「NW一体を制圧したのは誉めてやろう。が、もう一体を逃がしたのはマヌケ以外の何者でもないな。おい、NWとはなんだ?」
 先に帰ってくつろいでいた鳩間は訓練生達の恨めしい視線を浴びながら、千春に指差して問う。
「‥‥あの黒い影は‥‥」
 問われて千春は以前、実際に対峙したNWを思い起こす。
「私たちの『捕食者』です」
「そうだ、単なる害獣と違って追い払えばそれでいいってもんじゃねえ。見敵必殺、サーチ&キル! 逃がせば次は貴様の喰われる番だ! 故に逃がすなんてのは持っての他だ!」
 鳩間が言う。
「奴らは腹ぐあいを我慢すれば、逃亡も攻撃も自由に選択できるが、俺達にはNWを逃がすメリットなんざこれっぽっちもねえ! まったく畜生に生まれちまうと、この世は地獄だぜ!」