青空POPs IIアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/23〜02/27

●本文

 会議室のテーーブルにはいくつかの封書や葉書の山が出来ていた。
「結構集まりましたね」
 仕分けの手伝いを頼んだバイトの女の子が楽しそうに声をかける。
「そうね。やっぱりこういうコ達って多いみたいね。中には売れっ子のミュージシャンに引けをとらないような腕を持ってるコだっていると思うわ」
 声をかけた相手は本間加代25歳。、アイベックスの企画部門の社員である。先日、森林公園で第一回の公開録画を行った時の事を思い出したのか、軽く頷きながら窓の外に視線を投げる。
 既に陽が落ちかけた街には、ちらほらと明かりが灯り始めていた。
 テーブルの上で仕分けされているのは先日放送した『青空POPs』の終わりに流された、出場者募集に対する応募のお便りである。
 昨今の数少ない音楽番組はおおむねごく一部の有名どころの独占市場である。そんな状況の中でも、明日のスターを目指すミュージシャン達はそれぞれの思いを胸に日夜活動をつづけている。彼らの活動にスポットを当て、埋もれた才能を発掘しようと言う目的で始まったこの番組だが、第二回の公開録画の候補地選びの真っ最中である。
 世相を反映してか、封書や葉書よりも、ネットを通じて応募されたものをプリントアウトしたもののほうが圧倒的に多い。中にはデモテープやデモMD、自主製作されたらしいCDなども混じっていた。
 全ての場所を一度に回るわけにもいかないが、冷やかしとしか思えない一部の応募を除けば、なんらかのリアクションを返さないわけにも行かない。とりあえず連絡だけ返すものなどを選り分け、バイトに支持して入力させながら当座放送に使えそうな場所をピックアップしていく。
 応募者のリストをWEAの名簿と照合する必要もある。
 一般公募とは言え、才能次第では一躍日の目を見る可能性もないわけではない。だとすればやはり放送で流す事のできる相手というのも自ずから限られてくる――つまるところ、『人間』の芸能界進出は出来るだけご遠慮願う、という至上命題がここにも顔を出してくるわけだ。
「次の放送は‥‥‥‥んっ、これなんかいいかもしれないわね」
 いくつかの候補をためつすがめつ見比べていた加代が、一枚のコピー用紙の縁をピンッっと弾く。
 入力の手を休めた、バイトの女の子が覗き込む。
 どうやら港の倉庫街で、空いている貸し倉庫をライブスペースにしているらしい。ちょっと『青空』とは言いがたいが、何人かの若いミュージシャンが集まっているということで、幾つかの署名が寄せ書き風に記されていた。おそらく手書きをスキャンか何かしたものだろう。
 受話器を取り上げると、紙面を確認しながら代表者の連絡先をプッシュする。やがて、周囲のざわめきに混じって微かな呼び出し音が、部屋の中に流れ始めた。

●今回の参加者

 fa0313 ルリアス・レクシア(16歳・♂・狼)
 fa0585 畑下 雀(14歳・♀・小鳥)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1425 観月・あるる(18歳・♀・猫)
 fa1687 雪音 希愛(18歳・♀・猫)
 fa2105 Tosiki(16歳・♂・蝙蝠)
 fa2228 当摩 晶(19歳・♀・狼)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

● 再会‥‥
 夕方からの本番を前に、打合せの為貸し倉庫を訪れた本間は出演者達の中に見覚えのある顔を発見していた。
「おひさしぶり、やっぱりあなた達だったのね」
「あっ、本間さん、寄せ書き見てくれてありがとう! 電話を貰って皆大変だったんだよ」
 声をかけられた観月・あるる(fa1425)が元気に応える。相方の雪音 希愛(fa1687)も続いて挨拶する。
「この前ユニットの名前で行き違いがあったみたいだからちょっと心配してたんだけど、コンビは続いてるみたいね。それで、何かいい名前は見つかった?」
 第1回のステージで、ノアは二人の名前を即興で組み合わせた『Anorua』というユニット名を名乗ろうとしたのだが、事前に聞いていなかったあるるが難色を示したのである――もう少し何か意味のある名前を、と言うことだったのだが。
「それがなかなかね」
 あるるは苦笑しながら相方に視線を向ける。
「この前の放送の後、番組のHPに寄せられた反響だと、結構そのまま定着してるみたいよ。『Anorua』のお二人によろしくっていう応援のメッセージも多かったし」
「そうなんだ。じゃあ、それで決まりかな」
 相方に向ってサムズアップでウィンクを投げる。元気一杯のあるるに比べるとややおとなしい印象を受けるノアも満面の笑みで応えた。
「今回は司会もやるんだ。頑張るからね」
 張り切るあるるの後ろにもう一人見覚えのある女性が立っている。視線が合うと微笑みながら軽く頭を下げた。
 繰り返し演奏し、曲のイメージを確実に明確化させアレンジしておきたいということで『Anorua』の二人がリハーサルで曲の総仕上げをするためにその場を離れると、近付いて声をかける。
「亜真音ひろみ(fa1339)さん、だったわよね? 出演者の中には名前がなかったみたいだけど」
「前回は歌う側として参加したから今回はコメンテーターとして参加しようかと思ってね。夢に向かって突き進む皆のパワーを感じたいんだ」
 穏やかな笑みを浮かべて見つめる本間の様子に弱気を見透かされたような気がして言葉を続ける。
「まだまだ人の事をあーだこーだ言える立場じゃないけど、今、少し見失い掛けてる自分の道を前回、初参加したこの番組で再確認したいから、ってのが本音かな‥‥弱気なんてあたしの柄じゃないし、あたしが前回唄った歌はこんな時のためのもの、だったんだけどね」
「そう‥‥あなたなら、きっと見つかるわ」
 励ますように頷くところへ、中性的な容姿を肩から腕にかけて刺繍を施した中華服に身を包んだ少年が歩み寄ってきた。入れ替りに軽く会釈をしたひろみが練習風景を見る為ステージの方へと去っていく。
「演奏者の豊城 胡都(fa2778)です。どうぞ宜しくお願いしますね」
 フルート奏者である胡都は、今回Tosiki(fa2105)や、同じグループ『蜜月』に所属する当摩 晶(fa2228)のバックを務めるらしい。同じグループに所属しながら今回が初めてとなる競演を楽しみにしているようだ。
 やはり、やや女性的な雰囲気のルリアス・レクシア(fa0313)も、「僕はこの中だと歳が低い方みたいですけど‥‥でも、見劣らない演出してみせます」と挨拶をしながらいたずらっぽく片目を閉じる。実を言えば最年少だったりもするのだが。
 見かけでは更に幼い容貌ながら、胸はFカップという畑下 雀(fa0585)もおずおずと本間たちスタッフに挨拶して廻る。
 母親が用意してくれたと言うステージ衣装――普段着っぽい感じで選んだと言う白のセーラー服らしいのだが――の入った紙袋をぶら下げている。意外と嵩が小さいのはやはり布地が少なめなせいか。
 一通り挨拶を終えると着替える為に控室へと向う。高校に行っていないデボ子は以前仕事で一度着た以外セーラー服を身につけることもなかったのだが‥‥。
(胸当て‥‥ありません‥‥スカート‥‥短いです‥‥)
 全身を姿見に映しつつべそをかくデボ子――いつもの事ながら母の用意してくれるステージ衣装は露出度高めではずかしい模様。背中に空いたスリットから茶色の羽根を広げる。短めのスカートの後ろからは尾羽も覗いていた。

● 開演 〜 Take 1
 陽が落ちると外の空気は一気に冷え込んできていたが、会場となる貸倉庫の中は熱気に包まれている。
 司会を務めるAnoruaの二人とルリアス、それにコメンテーターを務めるひろみがステージの中央に姿を現した。
「みんな元気かな〜。今日のコンサートはTVで生放送されるんだよ! 司会は私観月あるると雪音希愛の『Anorua』コンビ、それにルリアス・レクシア君。コメンテーターはこの番組の第1回に一緒に出演した亜真音ひろみさんだよ」
 会場から拍手が沸き起こる中、紹介された面々が次々に挨拶する。
「どんな熱い演奏を見せてくれるのか楽しみだよ」
 ノアにマイクを向けられたひろみも開演にあたっての期待感を表す。
「最初に唄ってくれるのはルリアス君です。それでは、どうぞお聴きください」
 ステージ中央にルリアスを残して他の面々はステージの両袖へと下って行った。

 流れ出したテンポの良いリズムに合わせてルリアスが軽くステップを踏む。
 情感を込め、明るい曲調にのって歌声を届ける。
 観て聴いてくれる観客ばかりでなく、歌っている自分も一緒に盛り上がれるように気持ちを込めて。

 歌が終ると、会場からの拍手に和すように手を叩きながら再びあるる達が姿を現す。
 次が出番のノアはそのままキーボ−ドの前へと移動する。あるるは司会のバトンをルリアスに渡した。

● Take 2
「次に歌ってくれるのは雪音希愛さんと観月あるるさんのユニット『Anorua』です」
 司会を引き継いだルリアスがノアにマイクを向ける。
「キーボード担当の雪音希愛と申します、よろしくお願いします」
 続いてルリアスはあるるにマイクを振った。
「この曲はあるるさんが作詞なさってるんですよね?」
「そうだよ。一緒にいる事が当たり前の様な二人でも『好き』の言葉を言って貰えないと不安になっちゃうもの。そんな乙女心を歌に込めました。これを聞いてくれた彼氏は必ず彼女に愛の呪文を囁いてあげてね」
 一息置いて、最後の言葉と共に会場に向ってウィンクを投げかける。
「それでは、歌ってもらいましょう。『ココロのかたち』――『Anorua』のお二人です」
 曲を紹介し終えたルリアスが舞台袖に引き取る。

 ノアのキーボードからバラードの曲調に合わせて、スローテンポなメロディが流れ出す。
 前奏が終わりに近付くと、あるるがゆっくりとマイクを口元に運ぶ。

「 ときどき不安になる 私は貴方のそばにいる?
  手はつないでいるけど 心はつながってるの  」

 ゆったりと始まった曲は、やや曲調を変える。
 ノアもキーボードシンセサイザーを駆使してそれに応え、可能な音を全て表現していく。

「 いつからだろう 二人の愛が始まったのは
  気が付けばいつもそばに居てくれた
  いつからだろう 同じ夢を語りだしたのは
  希望に向うあなたの横顔が輝いて見える  」

 続くちょっと我侭な女の子のように歌うフレーズには、ノアのバックコーラスが重なる。

「 Ah 横顔ばかり 私のほうも見てほしい
  不安と一緒に髪を切り リフレッシュ
  ねぇ 私ばかり 前も見ないと進めないよ
  下ろしたてのリップも喜んでる

  いつからだろう 二人の愛が始まったのは
  そんな事はもういいよ 心のつながり知ったから
  私は貴方のそばにいる 未来を二人で紡ぎましょう 」

 最後のフレーズを囁くように歌い上げるあるるに合わせ、ノアのキーボードがしっとりとした余韻を響かせた。
 一瞬の静寂が一斉に拍手に変る。

 再びステージに登場したルリアスが、前回の放送で二人と共に参加しているひろみにマイクを向けた。
「ひろみさん、『Anorua』のお二人いかがでした?」
「偉そうな事は言えないけど、この番組を足掛かりに皆の躍進を願うよ」
 ひろみも仲間達にエールを送る。

● Take3
 再び『Anorua』の二人が司会に加わる。
「次に歌ってくれるのは畑下雀ちゃんだよ」
「デボ子の歌う曲は、持ち歌で、『告白』を歌いたいと思います‥‥」
「それでは畑下雀さんで『告白』。どうぞ〜」
 ルリアスの紹介で予めセットしておいた、スローテンポなちょっぴり切なさを感じさせるメロディが流れ始める。やがてやや哀調を帯びたデボ子の歌声が静かに歌詞を紡ぐ。

「 夕暮れの校舎の屋上
  突然呼び出して ごめんなさい
  あなたにどうしても
  伝えたいことがあったから‥‥

  あと少しで卒業式
  二人 別々の道を歩き出す
  もう 逢えなくなるから
  今 勇気を出そうって思ったの 」

 卒業から丁度1年あまり、中学の卒業式の頃を思い出しながら、客席に向けて想いを伝えようと切々と歌い上げる。

「 初めて出逢った桜の季節から
  ずっとあなただけを見つめてた
  いつもいつも あなただけを追い続けてた
  お願い 胸に秘めたこの想いを受け取ってください‥‥‥‥ 」

 余韻を残して歌い終えると深々と会場に向って頭を下げる。
 会場の拍手に合わせて登場した司会の面々。
「畑下雀さんでした。ここで、本日のコメンテーター、亜真音ひろみさんに一言伺ってみましょう!」
 ノアがひろみに話題を振る。
「そうだね‥‥前回のこの番組に出た事があたしにとって大きな力になってる、皆にもそうなって欲しいと思うよ」
 やや内気なデボ子を励ますように言葉を贈る。
 再び会場を包む拍手の中、デボ子はもう一度深々と一礼するとステージの袖へと戻っていった。

● Take 4
「続いては当摩晶さん。バックには同じ『蜜月』に所属する豊城胡都さんがフルート演奏で参加です」
「曲の雰囲気は胡都さんが上手く醸し出してくれるでしょうから、期待です」
 ルリアスが差し出すマイクにアキラが応えれば、すかさずあるるが胡都にマイクを振る。
「おっ、期待されてるけど、どう?」
「悲しいイメージの曲ということで、当摩さんの声を生かしながら、フルートの良さも出せるように気をつけながら、楽しめてやれたらいいと思っています」
 穏やかな微笑を浮かべながら落ち着いた様子で応える。
「それでは当摩晶さんの『想い‥‥』をお聴きください!」
 ノアの声と共に司会が引き上げると、胡都は静かにフルートを唇に添わせる――やがて、やや切なげなメロディが会場に流れ始めた。そしてアキラの歌声‥‥。

「 仄かに変わる 世界の色は
  暖かく 私を包んでいく

  私の心は 何処か虚しくて
  いつしか 彼を想ってしまう
  意味もないのに・・・

  Ah‥‥ 鼓動が聞こえる
  きっとキミに 触れていたら
  張裂けてしまう キミの所為よ‥‥ 」

 やや眉を顰め、ある時は瞳を閉じ、少し悲しく切ないバラードを切々と歌い上げる。胡都のフルートが、その雰囲気をいやがうえにも盛上げていった。
 静まり返った会場の中に哀しげなフルートの音色が長く尾を引いて消える‥‥暫く余韻に浸っていた会場からパラパラと拍手が起こり始めると、すぐにそれは大きな歓声へと変った。

● Take 5
「いよいよ本日最後のナンバーとなってしまいました」
「曲は『青空見上げて‥‥』――歌うはTosiki!」
 ルリアスの声にあるるが和す。ノアは今回キーボード担当、胡都も続けてフルートでの伴奏に入る。
 トシ自身もご自慢のリモートキーボードを肩に掛けていた。
 ピアノ系の音色に調整されたノアのキーボードと胡都のフルート伴奏が始まる。更にトシ自身が雅楽の管楽器をイメージしたセッティングのリモートキーボードで絡む。
 歌うは70〜80年代のニューミュージック風を意識した『軽く乗れる』J−POP。
 一目惚れした手の届かない人と思っていた年上の女性が不意に声を掛けて来た、しかもデートの誘い! そんなローティーンの驚きと戸惑いと喜びを詠った歌詞が、明るい曲調に乗ってテンポ良く繰り出される。

「 見上げた空は いつも優しく 青‥‥
  見上げぬ空は 心と同じ 青じゃない‥‥
  見上げるときは いつも決まって 青空だけ
  「ずるい」と言われても 青空見上げて 微笑みたい‥‥ 」

 間奏には、ノア・胡都・トシの協奏が繰り広げられ、三人三様の音色が競い合い、響き合う。
 ステージの袖から演奏を見守るひろみも小声で呟く。
「やっぱり、この番組に出る奴はみんな熱いね、音を皆と響かせながらしっかり自己主張してる」
 この点ではややおとなしい印象を受けるノアでさえも例外ではないようだ。
 明るく青春を謳歌する曲は、会場も巻き込んで盛大な拍手のうちに華やかにフィナーレを飾った。

● Power
 全員がステージ中央に集まってくる中、あるるがひろみに質問を向ける。
「今日のステージ観ていてどうだった?」
「皆の音楽を聴いていると知らず知らずのうちに体が疼くよ、すごいパワーだね。」
 キーボードから離れてマイクを手にしたノアも続いて質問を投げかける。
「今までの曲で一番印象に残っているのは誰の曲でしょうか?」
「そいつは難しい質問だね」
 本人達を前にしてさすがのひろみも苦笑する。
「みんな〜、楽しんでもらえたかな〜」
 あるるの声に会場も拍手と歓声で応える。
「「それではお楽しみいただきました『青空POPs』。第2回の会場からでした」」
 ルリアスとノアが声を合わせながら出場者全員が手を振る中、カメラはスタジオに戻された。

「どうだった?」
 ステージの袖に戻ったひろみに本間が微笑みかける。
「あたしももう一度走らなきゃな」
 そう告げながら微笑み返すひろみであった。