午後の思いつき〜W dayアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/11〜03/14
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●本文
いつもの昼下がり。
「‥‥そろそろよねぇ‥‥」
微かに耳に届いた言葉の意味を探り当てようと忙しく頭を働かせる。
「そろそろよね」
もう一度、今度ははっきりと声に出す。どうやら降参した方がよさそうである。
「何が、でしょう?」
私の問いかけに、得たりとばかりに笑みを浮かべる。
「もちろん、言わずと知れた倍返しのイベントよ」
(いや、それは少し違うような‥‥)
言われてみれば確かにそろそろなのだが、と言うよりなぜそれで通じるのか――実の所こちらは対になるイベントの盛り上がりぶりに比べると幾分トーンダウンするのが常である。
何しろ集まる所には思いきり集まった挙句、そういう相手に限ってまずお返しをするつもりがない――というより贈り主から見ればいくら高価でも数は限られるが、こういう山ほど集まる所と言うのは数が半端ではないのだ。
もとより、贈る方も大してお返しは期待していない。
それはともかく‥‥。
「それで、今度はなにを? まさか、男性を集めてお返しのクッキーあたりの腕を競わせるとか‥‥」
「そうね。まっ、男の手作りお菓子教室もいいけど、もう一捻り欲しいわよね」
「まあ、男性の場合、義理ならともかく、お返しは物自体よりちょっとシャレたレストランなんかででデートのセッティングをするとかのほうが一般的でしょうね」
「ふ〜ん、期待していいのかしら?」
悪戯っぽい笑顔を向けられてギクリとする。そう言えば確かに貰っていないわけではないのだが‥‥。
「いえ、あくまでも本命の相手の話ですよ」
「へえ〜、そうなんだ?」
どこまでが本気なのか判らないが幾分不満らしい響きが感じられないこともない――内心冷や汗を書きながら急いで話を企画の方に戻す。
「で、具体的にはどういった企画を?」
「麗しのお姉さま相手に究極のお返しシチュエーションを競ってもらうってのはどうかしら? スタジオ撮影だから、実際に高級レストランでデートって訳にはいかないけど」
「はあ‥‥で、その麗しのお姉さまと言うのはどなたが? 室長自らとか?」
「バカね。そんなわけないでしょ。こういうことにぴったりの人がいるわよ」
「‥‥?」
「美形を集めて愛を捧げてもらえるとなれば二つ返事で引き受けてくれるわよ」
美形と聞いて合点がいく――あの先生か。
「そっちの方はあたしから話をしとくから、出演者の方はよろしくね」
そんなわけで、かのヒメ・ニョン先生をお相手に、プレゼントからシチュエーションまで込みで競い合ってくれる美形や美少年達を募集することになったのである。
●募集内容(一部PL情報)
・職種は特に問いません(出来れば美形・美少年、まぁ「心は男だぜ」な方でも)
・『お返し』の購入用に渡される予算は5万円まで、自腹不可、高価なものは無理ですので、基本はアイデア勝負です
・スタジオ撮影ですので有名レストランや、夜景のきれいな公園などのシチュエーションは、ある程度まではお返しの予算とは別にスタジオセットなどを作ってもらえますが、ほとんど口で説明するだけになりますので、他の方向で考えたほうが吉
・普通の女性が入ってしまった場合、ヒメ先生と一緒に批評する側になりますが、美形が減った分先生の御機嫌は悪くなりますので、受け答えには注意が必要(わざとそれっぽい発言をして「近頃の若い子は何を考えてるの」みたいな反応を引き出すのも番組的にはおいしいかも)
・ヒメ先生は2月13日OTHERの『デリバリーは甘くない』と、かなり古くなりますが10月26日TOMITVの『CLUB☆M●●N』にも登場していますので性格などの参考までに
●リプレイ本文
●出演決定
ホワイトデー企画に出演が決ったと聞いてLUCIFEL(fa0475)は口元に微笑を浮かべた。
「バレンタインのあとのホワイトデー‥‥これは決して避けられぬ愛の運命だな♪ ヒメのココロは俺が射止める」
バレンタインには仲間と共にヒメを追いかけ、神戸くんだりまで往復してチョコのデリバリーに赴いている――確かに『愛を謳いロックを歌う、ココロの調律者(チューナー)』としての宿命なのかもしれない。
同じようにクールな微笑を持って知らせを聞いたのはディノ・ストラーダ(fa0588)。同じくボーカリストでありながら最近は恋愛系ドラマの二枚目俳優としての方が知名度は高い。
やはりミュージシャンの天照(fa3187)も会心の笑みを漏らす。
(俺は長い時間をかけて女を研究してきた。そりゃあ大変だったぜ。尻子玉を抜かれる勢いでな。
しかし、ついに女の攻略マニュアルを発見した。綺麗なものと甘いもの、それに高価な宝石と甘い囁き――この四つがあればすべての女は俺の虜になる)
勝利を確信しながら予算の段取りに取り掛かる――。
他の出演者を聞いてやや気後れ気味なルリアス・レクシア(fa0313)。
「僕が最年少‥‥なのかな? ‥‥頑張らないと。他の方は皆、カッコイイ男の人ばっかりだから‥‥」
と、別の路線を模索する。結果として唯一半獣化で挑むことを番組制作側に打診し快諾を得た。
路線としてはアットホーム感覚といったところ。同じ路線をとる相麻 了(fa0352)も見た目はそう変らないのだが、実はこちらは全員の中でも年長の部類。
同様にアットホーム派ながら、タッグを組んだのは蘇芳蒼緋(fa2044)と玖條 響(fa1276)。
「今回の仕事は一応競うらしいが、あえて、と言うことだな」
「勝負より楽しい一時を過ごせればそれで満足です。ヒメ先生が心より楽しめる時間‥‥それが今回俺らからのお返しですから」
やや大人びた口調に柔らかな合いの手が入る。勝敗よりもヒメ先生に満足してもらえればそれで満足だという二人、交わされる視線にはなにやら――いや、たぶん気のせいだろう。
「この季節、倍返し、6文字‥‥そうか!」
闘志を燃え上がらせる森里時雨(fa2002)。先日ルシフと共にヒメの元にデリバリーに赴き、ファンの群れには押しつぶされるわ、同級腐女子にはあらぬ誤解を受けるわと散々な目にあっている。
「昭和の香り漂う伝統行事、BL認定卒業の為、先生の為に成遂げてやるぜっ!」
そう叫ぶなり、ヒメ先生の著書や資料を漁るべく、面妖書店目指して一目散に駆け出した。尤も、本人、高校卒業までは後1年あるのだが‥‥。
その後、当日までの間、同級腐女子にコーチを頼んで耽美の世界を極めるべく修業に明け暮れたとか――「‥‥! 奥深ぇぜ耽美の世界‥‥はうっ」連日時雨の苦鳴が夕陽に木魂していた――らしい。
●ムード派(?)対決
最初に登場したのは『赤い狼』ことディノ――その二つ名に相応しく真紅のスーツに身を包んでの登場である。
ディノが要望したシチュエーションは、西洋の城にある謁見の間を模した玉座とそれに続く赤い絨毯といった舞台装置。
玉座に掛けたヒメ先生に向って恭しく赤い薔薇のコサージュを捧げる。あたかも、女王に向って忠誠を誓う騎士のごとくに片膝をつき‥‥。
プレゼントの品――予算一杯を使って購入した材料と機材による手作りしたものらしく、真紅の薔薇の部分はビーズの細工が施されている――を受け取って検分するヒメに、その由来とするところを伝える。
「赤い薔薇は私の代名詞なんです」
プレゼントからディノの目へと移された視線を正面から受け止め、扇情的な笑みを浮かべながら更に言葉を継ぐ。
「麗しい貴女だけに」
暫しの沈黙の後、ヒメは微笑みつつ頷いた。
続くルシフの要求したセットはどちらもやや再現が難しかったらしく――静かな音楽の流れるイルミネーションの踊る場所、又は月の輝く夜の海辺だったのだが――巨大スクリーンに投影された映像をバックに若干の解説を入れ、放映時には画像が加工されることになる。
プレゼントに選んだのはルビーのペンダント。それを、夫々の花言葉から『雄大な愛に包まれた熱き情熱』を表す花束――赤い薔薇をカサブランカの中に隠したもの――の中に更に潜ませる。
一通りのデートを終えた頃合というシチュエーションで花束を差し出す。
手渡した花束の中から潜ませておいたアクセを、花束が崩れないよう注意して取り出し、ヒメの首へとチェーンを回しかける。
「花はただ其処に在るだけでは枯れてしまう。けれど、愛で包めば情熱の結晶となる‥‥永遠の想いを貴女に」
ペンダントを着け終えるとそのまま額に吻け、歌を捧げる――曲は「With You」。
「 降り注ぐ光の雨 世界が彩られる
微かに聞こえてくる 音色は何処からか
愛を求めて 俺は彷徨っていた
出会えた奇跡は 運命と呼べるよね
キミのコト抱きしめて 受け止め続けてゆこう
何度でも感じさせる 一番大切だと
輝く未来 キミと描くよ
この熱き想い 永遠に
キミのコト抱きしめて 与え続けてゆこう
何度でも言葉にする 誰より愛してると
溢れる未来 キミと進むよ
この強き想い 永遠に 」
愛の調べは嫋々と余韻を残して夜の闇に吸い込まれていく。
3番手は、自ら長年に渡って研究してきたマニュアルを元に、万全の体制で臨んだと言うテラである。
究極の4点セットとしてテラが用意したのは‥‥綺麗なものとして選んだ色とりどりの薔薇の花束、甘いものとして有名ショップのモンブランとショートケーキ、そして高価な宝石――と行きたい所なのだがいかんせん予算は5万、ブルーサファイアの手ごろなものを見繕う。
最後の甘い囁きなのだが‥‥何を思ったかいくつかの小物を用意している模様。
薔薇の花束には苦笑したものの、ケーキと宝石はにこやかに礼を言って受け取る。次に手渡されたもの――耳元で一つ一つ品名を囁きながらなのだが‥‥。
「さとう‥‥はちみつ‥‥メープルシュガー‥‥」
‥‥甘い(?)囁き‥‥これにはさすがのヒメ先生も目が点になり、次の瞬間腹を抱えて笑い出す。長年に渡るテラの女性研究の成果は――果たして正しく報われたのだろうか‥‥。
そして入れ替えられるセットはなぜか体育館の裏――まぁ、時雨の年齢を考えれば青春の一頁という雰囲気もないことはないのだが、本人曰く『古式ゆかしく』とは‥‥。
単身家を飛び出してきているらしい時雨は一張羅の学ランに自らアイロンをあててきたらしい――恭しく跪いて挨拶をした後、やおら格式に則った誘いの言葉を囁く‥‥。
「オラァ! 体育館裏まで顔貸せや」
再び目が点になっているヒメ先生の手を恭しく取り紳士的にエスコート‥‥ってちょ〜待て!
先生を前にして「仰げば尊し」を一人朗々と歌い上げると、敬愛の恩師を超えると宣言。
「俺が勝てばBL認定卒業、負ければ‥‥贖える対価は無ぇ! 貴女が勝てば、俺のすべてを捧げ従います‥‥先生! 勝負だ!」
呆然とするヒメ先生に時雨が突進する場面で画面はホワイトアウト‥‥が、なぜか薔薇の縁取りの付いた『しばらくお待ちください』の画面からは「くっ!」「‥‥これが至高の耽美の美学か?」「畜生! 俺は負け犬じゃねぇっ!」などと音声だけが漏れている――生放送ではないのだからこれも一種の演出なのだろうが。
「うっ‥‥やめっ‥‥あぁ!」
なにやら艶っぽい時雨の呻き声と共にシンと静寂が広がる。
再び映し出された画面にはガックリと頭を垂れ両腕をついて肩で息をする時雨の姿。「俺のすべては、先生‥‥貴女のものだぜ」それだけ告げると力尽きた。
●アットホーム
セットは一新され、『自宅に招いての飾らない自然体のおもてなし』をコンセプトとした椅子やテーブル、さらに手作り料理を作るためのオープンキッチンなどが配置される。
最初にキッチンに立ったルリアスは、純白の狼耳と尻尾に大きな首輪をつけるという出で立ち――女性に間違われることも少なくないその容姿から、男らしさを強調する路線では勝ち目がないと見てやや変化球で挑むつもりらしい。
「では今日一日、貴方が僕のマスターです♪」
幾分恥らうように頬に朱を刺しながら笑顔を向ける様子は、十分にヒメ先生の母性本能をくすぐっているようである。
料理が趣味だと言うルリアスは、対面式のオープンキッチンを挟んで談笑しながらヒメの好みなどを聞き出すと、手早く料理を作っていく。
無論プロの腕には及ぶべくもないが趣味と言うだけあって中々の手並みである、なにより相手の好きなものを食べてもらいたいと言う気持ちだけは十二分にこもっている。
料理が出来上がると隣に腰掛け、「はいマスター、アーンしてください」などとかいがいしく世話を焼く。既に最初のころのちっぽけな恥じらいなどは捨ててしまったようである。
続いてキッチンに立ったのはジョーカーこと相麻了。
用意してもらったオーブンで、鳴門金時芋を使った手作りスウィートポテトを製作する。
「俺ってば料理なんて全然なんだけど、コレ作ると大好きだったお婆ちゃんが美味しい美味しいって、いつも喜んでくれたんだよね‥‥」
手際よく作業を進めながら話しかける。
「そう‥‥あなた、おばちゃん子なのね」
一瞬ヒメ先生の眉がピクリと動いたようだが、はにかみがちな笑顔に目をやると何事もなかったかのように笑いながら返事を返す。
年上の女性を意識しての発言だったようだが、やはり幾つになっても女性は女性、ことさらに年上を意識させるような発言はタブーであることも多いようだ。
あくまでもお題は恋のイベントである――年上とは言え、逢っていておばあちゃんと重ねられた恋人ってちょっと――若さゆえの経験不足、というより基本的に目の前にいるお相手が問題なのかもしれないが‥‥。
ともかくも出来上がったばかりのアツアツに、自分の仇名であるトランプのJOKERを添えて供する。
試食するヒメ先生の様子を心配そうに見守り、「もし、お口に合わなかったら御免なさい」と先に侘びを入れてしまう辺りの初々しさは好感度に繋がったようである。
これまでに何度も作ってきたというご自慢の手作りスウィートポテトも好評だったようだ。
最後は少しばかり変った趣向を凝らした響と蒼のコンビである。
スーツ姿の蒼と、卒業したばかりの高校のブレザーを着た響。卒業したのに何故制服? っと言えばどうやら響の服装センスが問題なようだ――トップモデルを目指しているらしいのだが‥‥。
蒼が自慢の手料理の仕上げにかかる間に、響は話し相手を勤めながら用意したプレゼントを手渡す。
「お忙しい方の様なので少しでも癒しのお手伝いになれば‥‥と思いまして」
入浴剤やキャンドルなどのアロマグッズのセットを広げているヒメに響が「ヒメ先生の好みに合えばいいんですけど」と控えめな微笑を浮かべながら選んだ理由などを説明する。
礼を言ってプレゼントを収めると響の服装に話題が移り、一番着慣れていて自然なこともあるが、何より私服を着ていると笑われることが多い為と打明けた。
服装を選ぶセンスに難があることはなんとなく自覚しているらしく、勢い無難な制服におちつくということらしい。そんなことでヒメ先生にファッションセンスについてもアドバイスを受けたり。
その間、キッチンに立った蒼は事前に調理して持参した手作り料理の仕上げと盛付けに――『冷たいカボチャスープ』に『サーモンのマリネ』、アサリを使った『冷製トマトスープのスパゲティ』にはカイワレをトッピング。これには隠し味として梅肉を使用。
準備が整うと響も手伝って3人分の料理をテーブルに並べる。
「有名レストランには劣りますが、先生のために気持ちをこめて作りましたので‥‥」
三人で談笑しながら食事が始まる――ヒメ先生はずっと食べ続けていることになるのだが――調理の手順を考えて冷製品で統一した響の料理も上々の評価だ。
「デザートにはなんと俺の大好物アップルパイが出てくる予定なので楽しみです」
との響の発言に、普通は相手の女性の好物を調べて作りそうなもの、というツッコミから二人の関係などにも話題が及ぶこともあったが‥‥。
「俺は普段料理しないんですが‥‥ヒメ先生のために頑張ってみました。不恰好ですが‥‥味は大丈夫なはずです! 貰って頂けますか‥‥?」
最後は響と蒼の合作による手作りクッキーをお土産に渡し幕を閉じた。
●講評
半円形のソファにヒメ先生を中心に、左右4人ずつのチャレンジャーが並ぶ。
正統派の中ではルシフが僅差でディノに競り勝ち、キッチン組は失点の少なかったルリアスがヒメの隣に席を占めた。
トップを逃したとは言え、恋愛評論家のヒメがディノの出演したドラマをいくつか見ていたらしく、中でも『赤い死神』役の死に様はある種の感銘を与えたらしい。
話題がテラの贈った薔薇の花束に及ぶと「黄色い薔薇の花言葉には、別れようと言う意味もあるからね」と苦笑する。
とりわけ場が盛り上がったのは時雨の勘違いである。
「この時期の倍返し6文字と言えば『オレイマイリ』しかないだろう」
との発言に、一瞬呆気に取られた一同は次の瞬間爆笑の渦に包まれる。隣に座ったテラがなにやら耳元で囁くと。
「は? ホワイトデー? そんな、俺と無縁の風習がっ! ってか俺、取返しつかなくねぇ‥‥?」
ソファから転がり落ちると、青い顔でヒメ先生に土下座を繰り返す時雨。先生の高笑いがスタジオに響き渡るのであった。