水面下の敵アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
10.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/20〜03/24
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●本文
例の仕事もようやく目処が付き始めたとある夕刻、部屋に入ったとたんなにやらざわついた雰囲気がオレを迎えた。振り向くものとていない。
なにげなく部屋の中を見回していた視線が一点に止まる‥‥どうやら不幸が手招きしているようだ。
目があってしまった以上無視するわけにもいかず近付いていく。
部屋の隅に連れて行くと声を低めて話し出した。
「いや〜千葉ちゃん、ちょうどいいとこに来てくれたねぇ。誰か呼びにやろうかと思ってたところなのよ」
「はぁ‥‥」
(それはよかったですね、いきなり呼びつけられるのに比べれば、不幸中の‥‥‥‥やっぱり不幸だオレ)
そんな心の叫びを知ってか知らずか小声で話を続ける。
「実はね、沖縄の方にロケハンに行ったスタッフが鮫に襲われたらしいのよ。まあ、とりあえず3人掛りだったんでなんとか軽い怪我で逃切ることはできたらしいんだけどね。でさ、またちょっと人を集めて現地に飛んで欲しいのよ」
「はぁっ‥‥? そういう話なら、地元の漁師さんとか海上保安庁とかに持っていった方が‥‥それに例の仕事も‥‥」
みなまで言わせずに肩を抱きかかえると更に声を低める。おっさんのドアップだよ‥‥。
「千葉ちゃん、少しは経験から学ぼうよね」
つまり普通の鮫ではなく『なんか』がくっついてると言う事らしい。逃げ出した3人はいずれも戦闘力が低い代わりに逃げ足だけは速かったと見える。岸が近かったことも幸いしたのだろう。
「とりあえず手を回して、入り江の出入り口塞いで、暫く『人間』は近づけないようにしてあるから、心置きなくやっちゃってくれていいわよ」
つまり、人目を気にする必要はないと言うことか。閉ざされた海の中ということは、逃げ込める情報媒体など容易に見つかるものでもないだろう。逆に何に接触して感染したのかが大いに疑問だが‥‥。
もっとも、ベースが鮫ということは結構やっかいだ。まず水中では普通の銃器が使えないと思っていい。水中銃程度は準備するにしても、そんなもので連中の外骨格を貫けるものかどうか‥‥。
獣人の特殊能力にしても海の中でどれほど役に立つか――俊敏脚足の類の地上向けの能力はまず役立たない――となればまず必要になるのは格闘戦の能力、あとは水面近くに引きずり出せれば、空中からなら銃などによる支援攻撃がかろうじて可能か‥‥と言ったところだろう。
(なんか、俺って最近こんなんばっかりのような‥‥こっちの仕事どうすんだよ〜)
「じゃ、よろしくね」
いきなり普通の声の大きさに戻ると、肩を一つたたいて別のグループの方へと歩いていく。
●リプレイ本文
澄みきった青い海に青い空、入り江の開口部付近には緑の小島が点在する風景の中、白い砂浜に降り立った七枷・伏姫(fa2830)はいかにも南国の海らしい周囲の景色を見回して笑みを浮かべる。
白い競泳用水着の伏姫の隣には、マイクロビキニを身に着けた頭一つ分ほど小柄な月影 愛(fa2814)が並ぶ‥‥が、のどかな雰囲気も足元の荷物から覗く物騒な代物――アゾットにアウトドアナイフ――と、残念そうなアイの呟きによって霧消した。
「南国の海‥‥裏の仕事以外で来たかったなぁ」
続くLUCIFEL(fa0475)の言葉が事態の深刻さに駄目を押す。
「シャークNWか‥‥また厄介なモノに憑依したもんだ。即刻排除しないと、な」
内容とは裏腹に口調に緊張感が伺えないのは性格によるもの。加えて、荒事にも拘らずメンバーのほとんどが女性と言う今回の構成が「レディにはアプローチしなきゃ失礼」を身上とするルシフの性格に働きかけているせいか。
ルシフが千葉のNW退治を手伝うのはこれで2度目になる。
「サメには申し訳ないけど、生きてく上で摩擦が生じるのは避けられないよね」
事前にホオジロザメの生態を調べていた風和・浅黄(fa1719)の口調には、、相手がどうやら母親の胎内での生存競争を勝ち抜いて外の世界に出てきたばかりのほんの子供という事実が影を落としているのかもしれない。
尤も一般に3〜4mから7mにも及ぶ成魚であれば、襲われたスタッフ達も生きてはいなかったのだろうが‥‥。
水中で襲われた場合、囮となって敵を引きつけた上で、いつでも上空に離脱できるようにと言うことから、あさぎは翼が出せるよう加工を施したウエットスーツを着込んでいる。
「いくら沖縄でも‥‥海水浴は未だ早いと思ったが‥‥一体何のロケだったんだろう‥‥それでNW持ち込んだんじゃなきゃいいけど」
沖縄と聞いて那覇空港に降りるものと思いきや、更に遥か南の島に連れてこられている――泳いで泳げないこともない気候だ。やはりウェットスーツを借りたイルゼ・クヴァンツ(fa2910)がさらに言葉を継ぐ。
「いずれにせよ、素直に相手のフィールドでやる必要はないはず。浅瀬に追い込むための網や船‥‥借りられないかな。大型の操船が複雑なものでなければ船舶免許がなくても教わりさえすればなんとか‥‥免許の方も『人間』が来ないなら誤魔化せない?」
「地引網みたいに海底に敷設した網を浜から車で引っ張りあげてもいいけど。なんなら私が漁師のお兄さん達に交渉してみようか?」
どうやらきわどい水着も交渉手段の一つらしいアイも網を使った捕獲を推す。
「この辺りは海底に珊瑚礁なんかが多いんで、あんまり底引きとか聞かないっすね。なんとなくこっちの方って網で根こそぎ獲るより、銛なんかで食べる分だけ獲るみたいな感じっすから」
周囲の手前残念ながら心行くまで観賞するわけにもいかず、あらぬ方向に視線を泳がせながら答える千葉だが‥‥。
「そうは言っても相手は水中なのだから、それくらいは融通してもらわないと話にならないな」
シヴェル・マクスウェル(fa0898)からも責められ、何とか使えそうな網を探してみると約束する。
とはいえ、観光地にも係わらず、人払いの方は獣化して飛び回ったり発砲してもいい程度には徹底しているらしく、無免許でのボート使用くらいはなんとでもなると言う。車の方はとりあえず一行が分乗してきたものが流用できるだろうと言うことに。
「そういうことなら、大丈夫ですよね」
人払いは完璧と聞いて背中に竜の羽根を広げながら一息つく泉 彩佳(fa1890)。今回唯一銃器を持ち込んだアヤだが、さすがに2丁の銃を操るのに人間形態では体力的にちょっとつらいものがある。
やはり同じ竜族のアジ・テネブラ(fa0160)も完全獣化で、空中からの偵察、包囲攻撃などの空中戦での支援を行う予定だ。銃こそ持たないが遠距離からの攻撃手段も持っている。
準備が整うまでと言うことで一旦休憩と言うことになり、どうやら交渉の必要もないようで手持ち無沙汰になったアイがタバコに火をつける。
途端に集中する視線に苦笑しながら慌てて「言っとくけど、私未成年じゃないからね」と言訳を――見た目が中学生くらいなのでこういった反応もしょっちゅうなのだろう。
一方マックスはいざと言う時鮫をおびき寄せる為に、自らの血を採取しておく。傷の回復は、たらふく食って作戦開始まで寝ていればなんとかなる‥‥らしい。超回復力もあってのことかもしれないが。
またNWが情報生命体に戻ろうとするタイミングを利用して、トランシーバーを通じて適当な媒体に憑依させるという案も出されたのだが、無線の場合、無関係な人間が傍受する可能性も考えられることから沙汰止みとなった。
遮るもののない洋上では意外と電波の届く範囲も広く、周波数さえ合わせれば容易に傍受できる。
準備が整うと、砂浜に設置した簡易テーブルに入り江付近の地図を広げる。南北に2キロほどのやや縦長の入り江は海に向って開放された南側にいくつかの島が並んでおり、島と島の間の水路は専門の業者が封鎖しているらしい。
サーチペンデュラムでの探索のためホオジロザメの外見を図鑑などで調べてきていたアヤだが、個体レベルでの識別の為、襲われた時の映像が残っていないかを千葉に確認する。残念ながら、逃げるのに精一杯でそこまで手がまわらなかったようだ。
それでも探索の結果、どうやら封鎖された出入り口周辺を移動している程度のことが判った――ということは元の鮫形態に戻っていると言うことになる。
2艘のボートに、とりあえずかき集めてきた網などを積み込むと分乗して岸を離れる。さすがに浜から引けるような地引網は手に入らなかったようだが。
ボートの中では、アヤに次ぐ魔力を持つマックスが、千葉に検索してもらった画像を元に動き回る鮫の位置をサーチペンデュラムで追跡し飛行部隊にトランシーバで連絡。
水中での活動に邪魔になりそうな翼を出し入れする為、半獣化に留めたあさぎと完全獣化したアジとアヤの三人が空中から接近し、目的地が近付くとあさぎとアヤは鋭敏視覚を発動する。
さほど広くもない水域と、ほとんど海底まで見通せそうな透明度や浅い水深が幸いして程なく魚影を確認した。
接近したボートが間に網を展開したのを確認すると、背後から急降下したあさぎが水面に波紋を広げる。方向を変えた鮫は水面に映る影に向って突進してくると、低空で誘いをかけるあさぎに向って跳ね上がってくる。
上昇して攻撃を避けると、空いた射線へ高高度で待機していたアヤの銃が火を吹いた。僅かな時間ではあったが、再び水中に没するまでに少なくとも何発かは命中している。
「むぅ、コアは心臓側でござるか‥‥なんともやっかいな」
ボートの上から高機能双眼鏡で観察していた伏姫が呻くようにコアの位置を報告する。仰向けにひっくり返さない限りコアを攻撃することは不可能なようだ。
水面にほとんど血の広がる様子がないところを見ると、実体化して出血を止めたと言うことだろう。元になった生物に拘らず、実体化したNWにはなぜかほとんど体液と呼べる物が存在しない。
更に空中部隊は鮫の前方低空を避けながら包囲を続け、時折牽制をかけてはボートの方へと追い込んでいく。
NWが網の間に誘い込まれると、2艘のボートは網を絞るように急発進する。
暴れまわる鮫を絡めたまま手近の岸へと向う――が、岸まであと僅かというところで、外骨格化してのこぎりの歯のようになった胸ビレと暴れまわるNWの力に網が引きちぎられた。
既に水深は腰ほどの所である。
いざと言う時の囮役をかってでていたマックスがボートから飛び降りると、NWを誘う為、予め用意しておいた自らの血を水面に撒き散らす。
熊に完全獣化したマックスの筋肉が金剛力増でさらに盛り上がると、突進してくるNWの鼻面を正面から受け止めた。
NWの鼻面を押さえたままバトルガントレットを装備した拳を叩き込むが、敵が水中であるため威力が減殺される上、足場が定まらずずるずると押し切られていく。やはり水中では分が悪いようだ。
「‥‥鮭のようにはいかないか」
いかにも熊の獣人らしい述回を漏らす。
降下したあさぎがNWの背にキックを食らわし、そのまま水中で邪魔になりそうな翼を仕舞う。戦力的にはかなりダウンするが、その分は両腕に装備したブラストナックルを発動させることで相殺。無闇に使うわけにはいかない代物だが、反動によるダメージもこの際ある程度は止むを得ない。
二人を振り切って逃げ出そうとするNWをアヤの銃撃とアジの波光神息が遮り、更に浅瀬へと追い込む。
「ここまで来て、逃がすわけにはいかない‥‥!」
更に既に膝上ほどの水深を泳ぐNWに回してきたボートを体当たりさせると、クリスタルソードを手にしたルシフやアウトドアナイフを振りかざした伏姫なども次々と水中に飛び込み、包囲を狭めつつ弱点と思しき目やエラの部分に向って漸撃を繰り出す。
与し易しと見たのかアイの足元に突進したNWの、半ば水面に露出した背中に向って空圧風弾が放たれ、一瞬動きが止ったところへ、更に上空から接近したアジの全力波光神息が追い討ちをかける。
「動き回らない的なら‥‥当てるのは容易!」
更に背ビレに取り付いたルシフが突き刺したクリスタルソードに加えて自慢の牙で外骨格もろとも食いちぎる。
「そっちの歯はカナリ強力だろうが俺の牙も負けてねぇぜ?」
手に残った背ビレを投げ捨てるとニヤリと笑う。
既に戦う力を失い、方向を変えて手薄な方に逃れようとするNWの尾に取り付いて押さえ込んだイルが、追いついてきたマックスと共にNWをひっくり返すと、降下したアヤが逃れようと暴れるNWのコア目がけて接射で残弾を叩き込む。抵抗を続ける中、1発、2発と命中する度コアの表面に白くヒビが走る。
銃弾が尽きると、繰り出されたアジの仕込み日傘と、何時もの糸目を見開きアウトドアナイフに渾身の力を込めた伏姫の一撃が同時に突き刺さる。コアが砕け散ると同時に抵抗を続けていたNWも動きを止めた。
「一回り大きくなったと言ってたが、2mまではなさそうだな」
動かなくなったNWを眺めてあさぎが呟くとルシフも相槌を打つ。
「そういえば元大道具のバイトだったって言うNWも、一緒に戦ったやつらが割とまともに組み合ってたな。せいぜい1〜2割り増しってところか? 確かに身長180くらいの人間が倍になったら3m越すから、まともに相手ができないし、ごまかすのも骨だろうからな」
NWの退治が終了したことを連絡すると、入り江を封鎖していたらしい業者が死骸を引き取りに来る。こんな鎧を着たような鮫の死骸が海に流されて見つかりでもすれば、いつぞやの漁師の網にかかった恐竜の死骸もどき以上に大騒ぎになるのは間違いない。
やがて一行は乗り捨てたボートを回収しながら千葉の待つ岸へと戻っていった。
合流後、アヤは千葉に向って、可能であれば、今後のNW研究のために情報媒体が少ない海上で何から感染したのか調べられないかと打診する。
「‥‥多分、ゴミだと思うけど」
同様の見解からあさぎも情報媒体の拡散防止と言うことでゴミ拾いを提案する。ペットボトルのキャップに描かれた商品名でも暦とした情報だ。
仕事が早く終ったため、宿泊や帰りのチケットの関係で、翌日は夫々思い思いに過ごすことに。
上司の手前とんぼ返りしなくてはならない千葉だけは、アヤの使った銃弾を経費で申請するなどの手続きだけ済ませて一行に別れを告げる。
翌日、 あさぎは友人のルシフやイルを誘い。
「もう少し‥‥暖かくなったら海にも入りたいんだけどね‥‥」
と言うアジやアヤも一緒になって島内観光に。
確かにこの辺りでも海開きは4月以降のところもあるようだが‥‥尤も早朝でも概ね20度以上、日中には25度前後まで気温が上り、水温も20度くらいはあることから。
「折角の沖縄だ。普段泳ぐなんてプールで訓練の為くらいしかしないから、たまにはこういうところで羽を伸ばすのもいいかもな」
と言うマックス始め、白の競泳水着から一転して派手な紅いビキニに着替えた伏姫、「折角だから海で遊んでいきたいな」と言うアイなどは、再び観光客で賑うことになった先日の入り江で南国の海を楽しむのだった。