青空POPs IIIアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/09〜04/13
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●本文
ようやく春めいてきたこのごろ、各地から桜の便りも届き始めている。
今日もまたバイトの女の子と共に出場募集や番組に対する反響などの整理に余念がない‥‥っと、一通のメールに目が留まった。
「ん〜、これはミュージシャンの応募じゃないわね‥‥番組ごと参加ミュージシャンをイベントに呼びたいってことかな?」
関東圏のはずれ、東北に近いとある街の商工会青年部という差出人から、『桜祭り』のイベントの一環として番組に来てもらいたいというのが趣旨らしい。
毎年、公園内の広場に簡単なステージを設けて地元の花見客がカラオケなどを競う他に、歌手なども呼んでいたのだが、今年は予算の関係などで断念せざるを得ないらしい。
そこで、この番組を見た青年部がもしかするとロハで呼べるかもしれない考えたらしいのだが‥‥元より興行目的ではなく、あくまでも新人ミュージシャンの活動紹介をメインにした現地ルポ的な番組であり、当然のことながら地方の草の根的な活動を紹介する為に出張取材することも計画には盛り込まれている。
「お祭りのステージは日曜か‥‥番組は金曜の夕方だしね‥‥」
「収録映像にして、翌週に放送すればいいんじゃないですか?」
花見に同行したいという下心もあってか、バイト嬢が口を出す。
「そうね、別に絶対生放送しなきゃいけないって訳でもないし」
日本人としての血が騒いだのか、簡単に納得してしまう。決してステージにかこつけて花見を楽しもうというわけではない――と思う。
「都内さえ抜ければ車で2時間ってとこね」
いつもと違って演奏している場所に出かけていくというわけではないため、応募者達の中で局に集まって一緒に出かけられるか、現地に近そうな応募者達に声をかけてみることになる。
出演者を募集する為、応募者達のリストを検索し始めた。
●リプレイ本文
● Morning
早朝、マイクロバスの周りには『桜祭り』のステージに更なる花を添えるべく募集されたミュージシャン達が集まっていた。
「良く来てくれたわね」
この企画の責任者でもある本間加代が、同年輩の女性ヴォーカリストに声をかける。
「ご無沙汰だね、今回はどうしてもこの間の感謝を伝えたくてね。そのために唄も作ったし」
「どうやら吹っ切れたみたいね。この前とは比べ物にならないくらいイイ顔してるわよ」
本間の言葉に、亜真音ひろみ(fa1339)は照れたような笑いを浮かべた。
「今回は友達と一緒なんだ、紹介するよ、ディー」
声をかけると、ひろみの背後にひっそりと佇んでいたやはり同年輩と思しき女性が進み出る。紹介されたDESPAIRER(fa2657)は、無言のまま軽く頭を下げた。
独特の雰囲気にやや戸惑い気味の本間に、ひろみが笑いながら説明する。
「唄う唄の方向性は正反対だけどなぜか気が合うんだ。こちらは前に話した本間さん」
「よろしくね」
気を取り直した本間が手を差し出すとディーも黙って握手に応じた。
「今回は二人で司会もやることになってるんだ」
ひろみの言葉に本間が応じる前に、つと割り込んだ者がいる。
「すみません‥‥司会なんだけど、僕にやらせてもらえないかな? 打合せや練習に参加できなくて、ちょっと演奏の方あぶれちゃったんだ」
white(fa3315)の言葉に思わず顔を見合すが、そういう事情ならということに――性格的に司会進行はあまり得意でないディーが内心ホッとしていたのかどうか、その表情からは判らなかった。
やはり前回の放送で本間と顔をあわせている畑下 雀(fa0585)もスタッフや共演者の間を挨拶に回っている。
今回のステージの為に友人同士で即席のユニットを組んだ『tear』の四人組――由来は、星野・巽(fa1359)からタツミの『t』、ぇみる(fa2957)の『e』、アキラ(fa1633)の『a』、そしてラム・セリアディア(fa3004)の『r』を組合わせたもの。
いつもはソロ活動がメインのため、今回グループ活動を満喫しているラム。『tear』には俗語で『真珠』の意味もあることから、「真珠の如き柔らかい輝きを花見してる皆様に届けたいと思うわ♪」と張り切る。
アキラの作った詩に、メンバー全員で試行錯誤しながら作曲・編曲を行い、即席とは言え練習も頑張って来た。
更にラムは、自宅で「簡単な8ビートが刻めないか」と言うアキラの所望による打ち込みも作ってきている。
荷物の積込みが終ると、一行は一路目的地へ。
現地に到着した一行は、番組を招致した地元商店街の青年部の面々に迎えられ、ステージへと案内された。
放送用の収録の為、スタッフ達が機材のセッティングを始める中、ステージ裏に設置されたテントの一角に用意された更衣室で順次着替えをする。
カーテンの隙間からモジモジと顔を出すデボ子。後がつかえているからと言われておずおずと姿を現す。
薄桜色のキャミソールに裾が花びらのように広がった白いスカート。桜色のボレロ風カーディガンを羽織っている。背中に開けられたスリットと短めのスカートからは茶色い羽根が覗いていた。
「今日もお母さんのお見立てなの?」
と訊ねる本間に赤い顔で頷く。
「デイト着っぽい感じで選んだそうです‥‥でも‥‥デボ子は、こんな‥‥む‥‥胸の谷間が見えて、スカートが短い服装では、恥ずかしくってデイトなんて行けません‥‥」
説明しながら更に真っ赤になるデボ子の様子を微笑ましく見守る本間であった。
● Stage
白いタキシードに身を包んだハクが、お花見ライヴらしくステージ上で元気良く第一声を上げた。
「桜咲くこの場所で今、新しき歌の競演が繰り広げられようとしています」
桜祭りの全景から、桜の花のアップを映したカメラが再びステージ上のハクへと戻ってくる。
「それでは、最初に歌ってくれるのは、畑下雀さん! 曲は新曲の『ふぁーすと☆でいと』です! ではどうぞ」
短いスカートの裾を気にしながらステージの中央に進み出たデボ子が会場に向って深々とお辞儀をする中、用意してきたカラオケから、やや緩やかなミドルテンポのイントロが流れ出す。
マイクを口元に近づけたデボ子は、ほんわかとした感じの曲調に乗せて唄を紡ぎ始めた。
「 部屋中に散らかった服の山
さっきから同じのばかり着ては脱いでる
お気に入りのワンピース 子供っぽいかな?
鏡の前に立ってアレコレ悩んじゃう
あなたの好みはどれだろう?
もっと大人っぽい方がいいのかな?
考えてもわからなくて
頭の中は目一杯
はじめてのデイト
明日はあなたと待ち合わせ
はじめてのデイト
『似合う』って言われたい
はじめてのデイト
ふわり あなたと夢気分
はじめてのデイト
『好きだよ』って言われたい 」
初めてのデートに寄せる女の子のドキドキが伝わるようにとの思いを込めて、可愛らしく歌い上げるデボ子に男の子達の熱い声援が贈られた。
ステージ上にデボ子の歌が流れているころ、ステージ裏の控えスペースではアキラが、膝を抱えて震えている。
「う〜ん、本当に緊張してるなぁ」
様子を見ながらのんびりとした口調で近付いたタツミが徐に頭を撫でて額にキスを――どうやら小さい頃に母親にして貰った、所謂「おまじない」というやつらしい。
「ひっ‥‥」
「効き目がないみたいね」
「大丈夫かしら?」
ピクリと体を震わせて更に固まるアキラの様子を、ラムとえみるも心配そうに覗き込む。
「やっぱり駄目かな? それなら楽器でも持たせておこう、うん‥‥」
なにやらタツミ一人で納得している。ついでに「おまじないは、他にも希望者が居ればやってあげるよ」などと二人に向き直る――とは言え、女の子相手にはちょっと問題が、相手が人妻となれば尚更。
あいにく星野家伝来のおまじないは効果がなかったが、こちらは霊験灼かである。
ベースを手にしたとたんにアキラの態度は豹変した。
「春といえば『出会いと別れの季節』なんて言われるが、せっかくの花見の席だ。甘酸っぱくて爽やかな『恋に出会う季節』を歌うのも一興だろ?」
震えはおろか先ほどまでの緊張状態など跡形もなく、にやりと笑みを浮かべて嘯く。
「さーて、替って登場するのは『tear』の面々だ」
ハクの紹介を受けてデボ子と入れ替りに四人がステージに姿を現す。それぞれに趣向を凝らした『和』ティストの衣装を身に纏っている。
メインボーカルのタツミは黒の細身のパンツにタンクトップ、エンジニアブーツ。上から春らしい色柄の和服を諸肌脱ぎ風に崩した着こなし。
ツインボーカルのえみるも、袖や裾を動きやすいように短く切った、青い色に所々桜の模様入りの着物、肩まで垂らした髪には、桜の花飾り付けて、おとなしめで爽やかな感じのメイクを。
アコースティックギター担当のラムは白地の着物に、赤文字で『ROCK』や『SOUL』などと大書されている。
ベースを勤めるアキラは、ジーパンの上に着込んだ着物の裾をたくし上げ、下駄履きと言う出で立ち。
「曲は『春恋』! それじゃいってみようか」
ハクの紹介でリズムを刻み始める。
ラムが打ち込んできた8ビートに、ラムのアコースティックギターと、アキラのベースがリズムを重ねイントロが流れ出す。曲調は春らしく、明るく爽やかで耳に入りやすいポップロック調。
ラムとアキラ、ギターとベースの音の応酬が、広がりを持たせるように徐々にテンポを上げていき、やがてタツミとえみるのツインボーカルが軽快で爽やかなーモニーを奏で始めた。
「 舞い散る桜 纏う坂道
何度も君と 目を合わせ笑ったこと
幸せ過ぎて無口になって
花びらは 飲み込んできた 言葉だけ
君の上へと 降り注ぐ 」
ボーカルの二人が花びらを受け取るように手を差伸べる。やや控えめに歌うえみるには、メインボーカルのタツミを邪魔しないようにとの気遣いが。
「 ささやかな 」
「 艶やかな 」
「 密やかな 」
「 透明な 」
「「 この想い 」」
体を斜にして互いに見つめ合うタツミとえみるが、一小節づつ大切な人に語り掛けるように優しく言葉の掛け合いを繰り返した後、再び声を重ねる。
「 もどかしいから 恥ずかしいから
少しだけ 繋いだ右手 強く握るよ 」
ラムのバックコーラスも加わり、繋いだ手を高々と掲げながら爽やかに歌い上げると、会場から盛大な拍手が巻き起こった。
再びステージ上に現れたハクが次の曲を紹介する。
「いよいよ本日最後の曲となりました。亜真音ひろみさん作詞・作曲、DESPAIRERさん編曲の 『桜唄』をお聴きください」
拍手が収まると、「出会いと感謝」をメインテーマにしたと言う、優しく暖かい曲調のイントロが会場に流れる。
やや間隔を取ってステージに立つ二人。まずひろみがマイクを口許へ運んだ。
本間に聞かせたいと言っていた感謝の気持ちがこめられた一番の歌詞を、優しさの中にも力強さをこめた声で唄い始める。
「 舞うは卯月の桜
ありがちな出会いの季節
だけどあなたの笑顔を見てこの出会いだけは特別だと確信したよ
落ち込んでた時にあなたとわずかに交わした他愛もない言葉 だけど
それが何故かすごく心に響いた
だからあたしはあなたに感謝するよ
柄じゃないかも知れないけどこの想いは本物だから
短い間奏に続いて、今度はディーが恋人への想いを唄う。基本のメロディーは同じだが、歌詞の内容に合わせてやや繊細な感じに調整されている。
「 見上げれば夜桜
隣には朱色差すあなた
思わず見惚れずっとこのまま今この時が止まればと祈っていました
重ね合わせた言葉の数かぞえ
それが揺るがないものだと安心して
泣いたり笑ったり赤くなったり
あなたと出会えて手に入れる事が出来たもの
それは全て私にとってかけがえのないものとなりました 」
そして最後のパート。二人の声を合わせ、全体のフィナーレに相応しく、聴いてくれた人の心に暖かい余韻が残るようにと。
「 あなたの言葉が弱気だった私の心を強くしてくれた
だから私は今あなたのために歌います
桜舞うこの季節
あなたとの出会いを感謝しこの出会いの唄を 」
普段ディーが歌っている曲とは正反対に近い曲だが、二人の気持ちが届けるためにここまでせいいっぱい努力してきた成果を全て注ぎ込む。特に最後のパート、ディーは、自分を友達と呼んでくれ、また、この仕事に誘ってくれたひろみへの感謝の気持ちも込めて‥‥。
● Cherry Blossom
ステージが終り機材の後片付けが済むと、勧進元の用意してくれた場所で花見の宴が始まる。
多少の酒やつまみも商工会から用意されているとは言え、そこはそれ、決まりきったあてがい扶ちのつまみなどに満足しようはずもなく、持参してきた手作り弁当がバスの中から次々と運び出されることとなる。
いくつものクーラーボックスに花見にちなんだ「花ちらし」やらだし巻き卵、唐揚げなど、オーソドックスな定番メニューを大量に持ち込んできたのは『tear』のボーカルを務めたタツミだ。
桜餅や、寒天寄せなどのデザートも準備してきている。
更にもう一人のメンバー、ラムも弁当を持参。
幼い容貌に似ず、お色気をふりまくラムはこう見えてもロックシンガー兼奥さんの兼業主婦(?)――無論ギリギリではあるが法的にも認められた暦とした夫婦である――料理もできると言うあたりもアピールしておきたいらしい。
タツミと同様、定番の玉子焼きに唐揚とに加えて、里芋と蓮根と菜の花の煮物、主食は、ゆかり、白ゴマ、黒ゴマ、桜でんぷなどを塗した華やかな俵型おにぎり各種を取り揃えている。
友人のえみるやアキラも弁当を楽しみにしてきたらしいのだが‥‥ステージを降りて愛用のベースを手放した途端、再び震えが止らなくなったアキラ。スタッフやら祭りの主催者など見知らぬ人間に囲まれ完全に涙目。
未成年のデボ子とラム、それに酒は飲めないと言うことでジュースにしたえみるを除いてカップにビールが満たされる。尤もアキラはそれどころではないようだが‥‥。
「みんな。おつかれさま」
「「「おつかれさま〜」」」
本間の音頭で賑やかにカップが掲げられる。
「ブレーコーねー☆」
と笑顔をふりまきながら、次々と周囲の一同にお酒やジュースをお酌をして回るラム。
対照的に敷き物の角にうずくまって膝を抱えるアキラの隣では、それなりに花見を楽しみながらも、やや人見知りの傾向のあるえみるや、かいがいしく一同の給仕をして回っているタツミがなにかと世話を焼く。
尤もタツミも人の世話ばかりでなく、ラムの酌などにも気軽に応じる――多少の酒では潰れないらしい。
宴が盛り上がる中、ハクは乾杯を終えると、人気の少ない方へとぶらぶらと歩き始めた。
宴が進むと、ひろみやディーは本間と話しこむ。普段は人付き合いの少ないディーもひろみの勧めもあり、勇気を出して皆の輪の中に入って来ていた。
本人は食べ物などにも控えめに手をつけているのだが、性格的に他人の勧めを断れないため、勢い勧められるままに杯を重ねることになる。尤も存外酒には強いらしく別段態度が変る様子もない。
一方のひろみは本間相手にポツポツと酌の応酬をしながら音楽談義に花を咲かせる。
「かけがえのない出会いがあるのはロックもポップスも同じ、だから本間さんと出会わせてくれたポップスにも力を入れて行こうと思うんだ――」
本間も笑顔で相槌を打つ。
汎かな日差しの中、宴は続いていった。