雨の日には‥‥アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
9.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/25〜04/29
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●本文
放置されたままの廃工場で行われていたロケ隊に奇妙な事件が起きたのは最近のことだ。
敷地もそれなりに広く、破れた天井から空がのぞいていたり、コンクリートの床に雨水が溜っていたりと、ある種の雰囲気作りにはもってこいのロケーションだったのだが‥‥。
数日続いた激しい雨も上り、夜間の撮影が行われる中、獣人スタッフの一人が突然姿を消した。
当然のことながら他の獣人スタッフの脳裏に真っ先に浮かんだのは、尤も忌むべき存在の名前である。
この事態はすぐさまWEAにも報告された。
人間のスタッフも少なくないことから表向きはなんとか取り繕われたのだが‥‥。
ロケも再開され、一時の混乱もようやく収まりかけた数日後、激しい雨が廃工場を包んだ夜、再びそれは起きた――しかも今回は目撃者がいたのだ。
「水溜りに呑まれた‥‥」
っと、だが寝ぼけ眼の目撃者の証言は、深夜でもあり、遠目であったこともありなにかの見間違いだろうと言うことで片付けられてしまった――目撃者が『人間』であったために。
二人まで行方不明者が出たことでロケは打ち切られ、廃工場は封鎖された――なぜか警察ではなくWEAの息のかかった極普通の警備会社によって――
●リプレイ本文
●謎
来意を伝えると、やや錆の浮いたゲートが軋むような音と共に僅かばかり開かれる。
連絡を受けて迎えに来た警備員達に案内され正面の建物へと向うと、一行は警備員達の詰所になっているらしい一室へと案内された。
「想定ゲル状物質‥‥厄介だし色んな意味で危険だね‥‥」
「厄介だけど‥‥一人じゃなし、きっと大丈夫ですよ」
警備員達の不安げな様子を感じ取ったように、用意された折りたたみ椅子に掛けながら呟く藤元 珠貴(fa2684)に、風和・浅黄(fa1719)が伊達メガネをズリ上げながら笑顔を向ける。
「何に感染したんだか知らないが、水溜りが襲ってくるなんてファンタジーチックだな。ま、仲間を喰らった咎は命で償ってもらうかね‥‥塵以下の命だが」
既に幾度かNWとの戦いを経験しているLUCIFEL(fa0475)も、陰鬱な空気を吹き払うためか、事も無げに軽口を叩きながらにやりと笑う。
電波の入が悪いらしく、窓から身を乗り出すようにして携帯で連絡を取っていた封鎖の責任者が、一行の方に向き直るのを見てあさぎは軽い驚きを覚える。向うも気付いたらしく軽く頭を下げる。
「あさぎさん‥‥でしたね。またお世話になりますよ」
以前無人島に同行した黒木という男――表向き芸能関係の会場警備やTV局の清掃業務などを行う会社、その実獣人社会の様々な後始末を請負うWEAの下請けということらしい。
「まずはNWの潜伏先を探るための情報集めって言うことで、目撃者のスタッフさんに詳しい話を聞きに行こうかなって思うんだけど、どーかなぁ?」
「そうだね。行方不明者が出た時の雨の規模と水溜りの状況も聞いておきたいし」
一月ほど前、ルシフやあさぎと共にNW戦に参加した月影 愛(fa2814)の発言には珠貴も賛成のようだ。
「かまいませんよ。少し離れた所にある別の廃工場に移ってロケの続きをやってるはずですから、部下に案内させましょう‥‥ただ、あくまでも『人間』ですからそのあたりは‥‥」
「目撃者ね‥‥水溜りに呑まれたと証言したそうだが、本当に水が襲ってきたわけでもないだろう‥‥実際に水が襲ってきたらお手上げだな」
言葉を濁す黒木にルシフがまぜっかえすと、聞いていた富士川・千春(fa0847)がふと思いついたように口を開いた。
「もしかしたら、過去2回とも十分な水がないと捕食に移れないような生物に潜伏してしまったのかしら?」
「俺は形状が判らないってことで粘菌、アメーバ系もしくは昆虫なんかを予想してみたんだけど‥‥」
あさぎの言葉にちはるも大きく頷く。
「なるほど! そういう生物もいるわよね〜。高校の生物で必ず出てくるわ‥‥確かに貪食作用が水溜りに飲み込まれているように見えるかも」
「粘菌の変形体みたいなものか。もしくは周囲に同化していた、つまりは擬態するような生物‥‥例えばカメレオンとか‥‥思いつくのはそんなところだな」
「粘菌やアメーバにNW感染の可能性‥‥か‥‥女の子にまとわり付くゲル状物体って、中々ぇろいかも」
何を想像したのか、佐渡川ススム(fa3134)がルシフのカメレオン説を一顧だにせずニヤニヤと相好を崩す。
以前ススムと一緒にNW戦に従事したこともある鳥羽京一郎(fa0443)は、やれやれと言った表情で恋人の篠田裕貴(fa0441)に肩を竦めて見せた。
「粘菌だとしたら、普段は単細胞だけど『集合期』にはあたかも1つの多細胞生物のような振る舞いをするから、NWに潜伏されるならその時期しかないわね‥‥というのも、単細胞ならNWは互いに協調しないみたいなのよ」
授業で習ったことを思い出したのかちはるが入れた補足に黒木も頷く。
「確かに複数のNWが協調した例は報告されていませんし、一体のNWが複数の生き物に同時に感染する例もです。満員電車で大勢が一度に汚染された音楽を聴いても感染するのは一人だけですから‥‥それにご存知だと思いますが、元の生き物からそれほどかけ離れた大きさにもなりません。人間が突然3m以上にもなって暴れたら特撮くらいでは目撃者をごまかしきれませんからね」
「水分に依存する生物なら、水そのものを奪うって方法があるわよ‥‥吸水土嚢ってご存知かしら? 水害用なんだけれど、約500グラムのシートで20リットル吸水できるのよ」
「成熟した粘菌なら万一光を浴びて子実体になった時胞子が散らないように大き目のシートでも用意したほうがいいかな」
ちはるに続いてあさぎも対策を提案した。
「なるほど‥‥相手の正体がつかめない以上、いろいろな手を打っておいたほうがいいでしょうね‥‥」
「他にも考えられる相手がいるのかなぁ?」
考え込む様子の黒木にアイが怪訝そうな顔を向ける。
「普通見かけるNWは概ね取り憑いた相手の外見を保持しているのですが‥‥例えば相手が人間なら2本の足で直立し、概ね2本の腕があるというように‥‥ただ極稀にですが、元の姿に囚われないNWもいるんですよ‥‥それらは相手が何であろうが独自の形状に実体化します‥‥尤も、こんな所に自然発生するようなNWではないのですが‥‥」
「自然でないってことは人為的ってことかな?」
珠貴の問いに明確な答えはなかった。
NWに『人間』が近づけば自らが感染される以上、それを成せる者は獣人でしかありえない――噂に聞く闇の存在、戒律に背く者達――――。
●罠
あさぎが調べてきたところによると、ここ暫くは事件が起きた時のような雨は望めそうにないらしい。水がないと姿を現さないのではないかという珠貴の懸念に、アイは消火栓の利用を提案した。
壁に貼られた工場内の見取図を元に、事件の目撃された場所、近くの消火栓の位置などを確認。
現在いる部分が2階建ての事務棟で、いくつかの通路で接続された同じ高さの工場棟は、事務棟から行ける2階の高さに回廊が回らされ、全体が1層になっている。
目撃者はこの回廊から薄暗い工場で起きた事件を見ていたらしい。
天井には鉄骨で組まれた配管や配線のためのダクトが縦横に張りめぐらされていた。
この鉄骨を利用して吸水土嚢を仕掛け、その真下に消火栓から水を撒いてNWをおびき出す策が採られることになり、土嚢以外にも幾つか仕入れておきたいものもあるあさぎとススムは近くのホームセンターへと買出しに――無論ススムは買物が経費で落ちるかどうかの確認も怠らない。
どうやら必要な資材の購入費や使用した銃弾などの費用は報酬と一緒に支給されるようだ。
珠貴とアイは目撃者からNWの更なる情報を聞き出すために別の撮影現場へと出かける。
残った4人は完全獣化して、地上と空中が二人一組で工場内の下調べに取り掛かった。
ドラゴンに変化しようとした裕貴だが、揃いの『風の外套』を纏った京一郎と視線が合うと溜息をつく。
「‥‥本当は好きじゃないんだけど。キリスト教ではドラゴンは悪魔を指す言葉でもあるから、カトリックの俺にはちょっとこの姿はキツいね」
相愛の相棒に向かって苦笑交じりにぼやいてみせると精神を集中した。
一方ルシフと組んだちはるは、超音感視を使い床に逃げ道となる隙間がないかを調べようとしたが、エコーが表面で反射してしまうため、目に見えている以上の隠れた亀裂などは発見できないようである。
その後、買物や情報収集に出かけたメンバーも戻ると、鋭敏視覚や聴覚も駆使して更に通路で繋がる別棟まで捜索の手を広げたがNWらしきものを発見することはできなかった。
やはりこちらの土俵におびき出すしかないだろうということで罠の設置が始る。
アイ達が持ち帰った情報から、散水は目撃者が水溜りを見た場所を中心に行うことに決め、戦闘に不利になりそうな物――専ら地上部隊の行動の妨げになる物――を極力取り除く。
地壁走動を使って壁伝いに天井に登り買って来たロープを命綱にしたススムや、飛行可能な裕貴とあさぎが、NWを追い込みやすく、なおかつちはるが早撃ちで撃ち抜きやすい位置の鉄骨に吸水土嚢を結びつける。
が、NWの襲撃を警戒しながらの作業は地上部分が中々進まず、作戦の決行は翌日に持ち越された。
翌日も周囲に気を配りながら片付けは続き、日が落ちかかる頃、いよいよ水を撒いてNWをおびき出すことになる。
2丁のCappelloM92を構えたちはるは、「16発目が戦闘開始の合図よ」と言い置いて天井に空いた穴から、設置した吸水土嚢を狙う。
普段は持ち重りのする銃だが、完全獣化したちはるの腕は一流と言っていい。
他のメンバーも思い思いの場所に身を潜めている。
そんな中、散水を担当することになった京一郎とススムが作業に取り掛かった。
「‥‥ここまで計画立てといて、別のものだったらどーしよー? まぁ、違うものが出てもやることはいつもと変わらないんだけどな」
いつもの調子で軽口を叩きながら作業を続けるススムに、手を止めた京一郎が溜息混じりの生暖かい視線を送る。
(NWを誘き出す役目だから、慎重にやらなくてはいけないわけだが、この軽過ぎるほどに軽い男が相棒で良いのだろうか‥‥まあ、前に一度仕事しているし‥‥こういうときは真面目にやるヤツだろう‥‥と思いたい)
そんな思いを胸に、再び黙々と作業にとりかかった。
●敵
床一面に撒かれた水の表面が、天井の破れ目から注ぐ星の光を弾いたのは陽が落ちて間もなくのことだった。
天井の破れ目の一つから鋭敏視覚で工場の床を観察していたあさぎは水面の一部が揺らめくのを感じて、精神を集中する――明らかに水面の一部が盛り上がり、移動する盛り上がりの中心と思しき部分に煌く物体が。
目標が所定の位置に到達するのを確認すると、やはり屋根の上にいた裕貴から合図を送らせる。
非常用の電灯が一斉に灯り、それを機にちはるが吸水土嚢を次々と撃ち抜いていった。飛び散った吸水材が一斉に水面に降り注ぐ中、16発目の銃声が響くと同時に全員が飛び出し罠の周りに急行する。
ソレは確かにそこにいた。隠れ蓑と円滑な移動の助けになっていた水はほとんど吸水材に吸い取られ、至る所で膨れ上がった吸水材は逆に移動を妨げているらしい。
不定形でほぼ透明なゲル状の物体の中ほどに確かにコアらしきものが沈んでいる。
近接した裕貴と京一郎がそれぞれアゾットとアサイミーで切りかかるが、床にへばりついたNWの薄い体を通してすぐにコンクリートに刃が達してしまう。ダメージがないわけではないのだろうが効果のほどは‥‥。
薄く広がっている為にコアを狙う為にはNWの体まで踏み込む必要があるのだが‥‥そのまま足に纏わり付かれれしまう可能性が高い。
裕貴とて戦闘経験が薄いわけでもないのだが、コンクリートの床に広がった厚さ数センチの敵というのは厄介である。
攻め倦む男性陣の間を縫って珠貴の放った火球がNWの体に降り注ぐ。全力12個の飛操火玉が張り付くと、NWは表面から白煙を上げながらのた打ち回る。
捲れ上がった縁にルシフのクリスタルソードとススムの仕込み傘が振り下ろされ、体の一部を切り裂く。コアに繋がる本体を離れた体の一部はたちまち動かなくなった。
更にアイの空圧風弾もコアの見えている中央付近を狙って放たれる。始めは夜なので青月円斬をと考えたのだが、あと2日ほどで朔を迎える月は、この時間、影さえも見えていない。
薄い本体を通してではあるが、コアにも何がしかのダメージは与えたようだ。
更に通常攻撃より特殊能力による攻撃の方が効果を発揮することを見て取ったちはるが放った虚闇撃弾のダメージにより更に動きが鈍る。
多数の斬激を受けて徐々に体の部分を削られたところへ、リバウンド上等のブラストナックルとソニックナックルが次々と叩き込まれていく。
尤も見かけによらず空手の心得のあるらしい裕貴はブラストナックルの爆発効果まで使うつもりはないようだが、完全獣化した京一郎、ルシフら3人の破壊力は半獣化に止めたあさぎを上回っている。
とはいえ相手が相手だけに、威力の一部が体を貫通して床のコンクリート片を撒き散らすことも少なくない‥‥遠隔攻撃を使い果たし、ナイフとアゾットを構えたアイや、やはりナイフを手にした珠貴も時折奇襲を試みてはNWの一部を削ぎとっていく。
犠牲者達の遺物が発見されていないことから、あさぎや珠貴はNWが酸液をはくことを警戒していた。のた打ち回るNWから足元に飛び散った液体からは白煙が上がり、靴や衣類も一部溶かされているように見える。
「‥‥ブラスト」
既に体の半ば以上を失い、露出しかけたNWのコアにブラストナックルを見舞いながらボソリと無表情に呟く。
既にかなりのダメージを蓄積させていたコアは耐え切れず崩壊した。
同時にのた打ち回っていたスライム状の物体も完全に動きを止める。
コアの破壊を確認すると、飛び散った体の切れ端や膨れ上がった吸水土嚢の中身等の後片付けをする部門が呼び入れられた。
そんな作業を横目に見ながら、黒木の挨拶を受けて三々五々用意された宿に引き上げる一行の中で、あさぎは珠貴に声をかける。
「何とか終わったみたいですね〜。‥‥ほっとしたらお腹が空きました。一緒に食事でもどうです。勿論奢りますから」
どうやら珠貴のほうも同じことを考えていたらしく笑顔で応えた。
「ファミレスなんてちゃちなことは言わないでおしゃれなレストランにゴー。‥‥仕事の後の一杯はやっぱり基本だよね」
――変種のNWを街中に持ち込んだ者達の意図も実体も判らなかったが、少なくとも一つの事件は終った。暫くは休息の時間である。