えっ! いきなりNW!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/24〜10/26

●本文

 スタジオに向かう人影のない通路を歩いていた俺はふいに呼び止められた。
「千葉ちゃ〜ん、ちょっといいかな〜」
 聞きなれた猫なで声に背筋がムズムズするのを感じながら振り返ると、直属の上司に当るミケいやもとい三宅さんが招き猫よろしくおいでおいでしている。
 この人の前に出ると猫に睨まれた鼠と言うか‥‥いや、この辺単なるものの喩えでもないあたりがなんとも言えないところなのだが‥‥つまるところはそういうことだ。
「ハイッ、なんでしょうか? 」
 できるだけ元気を装って応えながら近づくと、いきなり肩に腕を回して耳元で囁きかける。
「ちょっと前に龍ちゃんが大怪我して病院に運ばれたって話は聞いてるわよね」
「はあ、一応は‥‥」
 龍ちゃんこと海神龍也(わたつみりゅうや)はこの春採用されたばかりの大道具係りだ。バリバリの体育会系でガタイもよく力もある。なによりも骨惜しみせず、重厚長大を地でいくこの種族にしては気さくなほうなので周囲にもすっかり溶け込んでいる。
 で、それがほんの一時間ほど前に崩れたセットの下敷きになって発見された。一緒に作業していたはずのバイトも姿を消してしまっている。
「実はね、出たらしいのよ」
 一瞬の間をおいて背筋を冷たいものが走った。出たと言っても夜のスタジオによくある怪談の類でないらしいことは話の展開から容易に想像できる。俺達の天敵ってわけだ。
 相手が一体とは言え龍のやつだからなんとか大怪我くらいですんでいるが、俺なんかだったら今頃とっくに連中の腹の中におさまっていたに違いない。
「でさっ、なんかまだ局ん中をうろついてるみたいなのよ。アンタちょっと始末してくれる」
「えっ‥‥ええ〜〜っ!! オッ、オレッすか〜〜」
 いきなりスパーンと後ろ頭を張り飛ばされる。
「声が大きい。アンタじゃ返り討ちにあうのがオチだってことぐらいわかってるって。人を集めてくれりゃいいのよ」
「は、はあ‥‥」
「一応上(WEA)のほうにも報告してあるし、ちゃんと報酬も出るからさ。よろしくね」
 肩をぽんぽんと叩くと踝を返してさっさとその場を立ち去っていく。
 ぼんやり見送っていると、途中で挨拶しながらすれ違った女子アナの腰に手を伸ばす。あっさりとかわされると、手持ちぶさたになった手で自分の尻をポリポリとかきながらドアの向こうに消えた。
「20連勝中〜♪ 」
 通りすがりに片目をつぶって歌うように囁いて行く女子アナに笑い返すと歩きだす。
(ったくおっさんそんなことばっかりやってんのかよ。つ〜か、その前にその不気味なオネエ言葉なんとかしてくれよ〜)
 腹の中で毒づきながら、腕の立つ獣人が集まって居そうなプロダクションをあれこれと思い浮かべるのだった。

●今回の参加者

 fa0310 終無(20歳・♂・蛇)
 fa0323 リーゼ・ヴォルケイトス(27歳・♀・鷹)
 fa0347 氷川玲(25歳・♂・竜)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa0566 藍染 右京(22歳・♀・一角獣)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa0891 虎麻呂(20歳・♂・虎)
 fa1454 三間坂 響介(28歳・♂・狼)

●リプレイ本文

 用意された会議室の中、今回人集めを任された千葉が紙コップのコーヒーを配りながら頻りと礼を言う。
「局内のNW退治かー‥‥。ADに任せる仕事か、それ? あんたも大変だなー」
 若手スタントマンの虎麻呂(fa0891)が人のよさそうな笑顔を浮べながら慰めるように千葉の肩を叩く。
「ギャラは安くてもこういう荒事が俺にゃ向いてる、つか俺にはこういう事しかできんからな」
 格闘技にかけてはメンバー随一のプロレスラー氷川玲(fa0347)も紙コップを受け取りながら苦笑する。
「蟲とやるの初めてなんですけど、どんなもんなんですかね」
 壁に寄りかかってコーヒーを啜っていた終無(fa0310)が伊達眼鏡を軽く指先で持ち上げながら呟く。正式な格闘技の経験があるわけでもないのだが、退屈を極端に嫌う性癖が終無をこの場に導いたのだろう。
 やがて紙コップを配り終えた千葉が状況をかいつまんで説明し始めた。
「海神龍也が襲われバイトが姿を消した‥‥となれば怪しいのは、その消えたバイト君だな」
 額にかかる銀髪を無造作に掻揚げながらLUCIFEL(fa0475)が話し半ばであっさりと断定する。
 『レディーにアプローチをしないのは失礼』が信条らしく、部屋に案内された直後から女性達に向って軽い調子でレディーなどと呼びかけて失笑を買ってはいるのだが、どうやらそれが全てでもないようだ。
「あ、あの‥‥目撃者とかはいないのでしょうか?」
 一同の中で最年少の夏姫・シュトラウス(fa0761)がおずおずと尋ねた。
 早朝だったこともあり、唯一の目撃者は襲われた海神なのだが、病院に運ばれる前に聞きだした限りでは、不意打ちを喰らったため実体化する前の相手は見ていないらしい。襲われた時点では獣化していなかったということから、何時のころからか獣人だと気付いて隙を狙っていたのだろう。
 消えたバイトの人相や体格など捜索するための手掛りを代わる代わる質問する。ナツキが求めた履歴書も個人情報がどうとかいうことだったし、入構証は消えた本人がぶら下げたままと言うことだが、作業中に仲間のスタッフが撮ったという写真が何枚か配られた。
 職業柄手帳を開いてメモを取りながら説明を聞いていた藍染 右京(fa0566)も写真を手帳に挟み込む。細身の体格に、髪を後ろで束ねた大き目のリボンも相まってか年相応に見てもらえずに苦労することも少なくない。
「NWってくらいだからやっぱり夜のほうが出てきやすいんだろうね? 探索は夜ってことにして昼間のうちに建物の中でも案内してくれないかな」
「確かに本格的な探索は夜のほうがいいかもしれませんね」
 リーゼ・ヴォルケイトス(fa0323)の言葉に右京も頷く。千葉の話でも、どうやら事件直後から三宅が裏で根回しをして局の出入りを監視させたり、『人間』のスタッフをできるだけ局内から減らすように動いているらしい。
「そう言う事なら俺は夜の探索を獣人形態でさせてもらう。攻撃重視だ。いちいち変身する余裕はないと見た。それはそうと建物にも被害が出そうだが、補修とかの準備は大丈夫か? なるべく破壊行為はしないつもりだが、何せ敵が見えんからなぁ」
 玲の言うのも尤もだ。虎麻呂もNWとの戦いは始めてらしく大体のの強さや攻撃方法などを尋ねる。
 基本的な身体能力は寄生していた相手とほぼ同じになるらしいが、それに牙を持つ強力な顎や鉤爪が加わり、角のような突起を攻撃手段に用いるものも少なくない。よく昆虫に例えられるので多少意外な感じはあるが、下位の固体が多脚であることは稀だと言う。
 互いに携帯の番号を交換し合っていた終無が千葉に声をかける。。
「ついでに千葉君のも教えてもらいますか‥‥それとこれはスタジオ内自由に動けるんですか?」
 首にぶら下げた入構証を指す。どうやら三宅はこういう事も初めてではないらしく抜かりはないようだ。
 全員が携帯の番号を交換し終えると、とりあえず局内を大まかに案内してもらう。
「‥‥え、えと一番、人の出入りが少なくて隠れる場所が多い所ってどのあたりですか?」
「不意打ちを仕掛けてきやすそうな場所ってことだよなー」
「追い詰めるに相応しい場所があればよいのですけど」
「できれば複数での戦闘が可能な場所がいいですね」
 エントランスにある巨大な案内表示板の前で一通りの説明を受けながら次々と質問や要望が飛ぶ。その後、実際に部屋や周辺の機材を確認しながら一回りして、夜まで用意された部屋で待機することになった。

 夜になるとどうやら裏工作がうまく運んでいるらしく局内の人影もまばらになってくる。
 思い思いに休息をとっていた一同も活動を開始した。
 ライダースーツから着替えた玲が竜の姿に変化する。同じく鷹の姿に変化したリーゼが誰にともなく呟く。
「傷残らないように気をつけないと。いいんだけどね?」
 初日は三間坂 響介(fa1454)とナツキがそれぞれ囮となって敵をおびき出す作戦にでた。3人ずつが周囲から様子を見守る。
 囮を買って出たナツキは昼間目星をつけておいた人気が無くて隠れられる所が多い場所に向う。
 やや離れた所を、玲達が物陰に隠れながら分かれて付いて行く。さすがに目立つのか訝る人間のスタッフがいるとすかさず右京が近付き、「うちのタレントがいつもお世話になっておりますわ」などと名刺を出しながらにこやかに挨拶をしてごまかす。
 目的の場所に着くと、人がいないのを確認してナツキが虎に変化し、「金剛力増」を発動して敵を誘き出すための演技を始める。予め多少ゆるめのサイズの服を着用しているため獣化しても服が裂けたりする心配はない。
 物陰に潜んで周囲の人が隠れられそうな箇所や物音に気を配っていた終無も、暫くすると半獣化し「影査結界」を使用して探りを入れる。懐中電灯を利用して可能な限り影を伸ばし不用意に危険な場所に近付かない。
 一方の組は、1人離れたキョウが建物の中をうろつき回りながら人気の無い倉庫などの暗闇ををしらみつぶしに探していく。こちらもやや離れた所をルシフ達がそれとなく周辺に不審な者が居ないか探しながら見張っていた。
 敵が用心していたのか、探索した場所が当っていなかったのかは判らなかったが、明け方まで続けた探索もこの日は空振りに終った。

 翌日は囮作戦は中止して班編成を組み替え、純粋な探索に絞ることにする。
 昼の間に新たな目撃情報でもないかと局内を回ったナツキも思うような成果を上げることはできなかった。やはり敵はどこかの暗闇に潜伏しているに違いない。
 陽が落ちると共に再び行動開始。
 能力的に直接戦闘に不向きな右京には今夜も玲がカバーに入り、更に虎麻呂も加わる。
 ナツキ達も昨夜行かなかった人気のない場所を重点的に探索しに行くが、敵は容易に見つからず時間だけが刻々と過ぎていく。
「まいったね。最悪でも今日の内に探し出して決着をつけねぇとな‥‥」
 間もなく明けようとする夜にルシフがそうぼやきかけた瞬間、リーゼの携帯から着信音が流れ出す。
「えっ‥‥音楽ホール‥‥うん、分かった」
 話の様子から場所を察したナツキ達が相次いで半獣化する。更にルシフは「俊敏脚足」も使って目的の場所へと急ぐ。リーゼも別働隊に連絡を回すと急いで2人の後を追った。
 最初に『それ』と鉢合わせしたのはキョウだった。
 物陰から不意に姿を現した若い男がゆっくりと近付いてくる。焦点の合わない白く濁った目は明らかに生きている人間のものではない。
 狼の牙と爪を出現させたキョウが挑発するように声をかける。
「さぁ来いよ‥‥俺と遊びたいんだろう?」
 その声を聞きつけた終無が目にしたのは、半獣化状態で若い男と向き合うキョウの姿だった。
 自身も半獣化しながら仲間と連絡をとる。話しながらも目は近くにあるせり出しを動かすための仕掛けを探していた。連絡を終えた終無は目的のものを発見すると操作法を確認して声をあげる。
「キョウ君、こっちです」
 その意味するところに気付いたのか、キョウも相手を誘うようにジリジリとせり出しの方向へと後ずさる。
 目の前の男は既に大きく変貌を遂げようとしていた。膨れ上がって外骨格に覆われた体が着ていた衣服をボロ布に変える。手足の指はそのままナイフのような鉤爪に変化し、昆虫のような複眼を持つ顔には頑丈そうな顎から蟻地獄を思わせる牙が大きく開き、額の中央に剥き出しになったコアを守るように2本の湾曲した角が突き出していた。
 降りてきたせり出しの上に誘導したところで後退をやめる。振り下ろしてきた爪を迎え撃ち、互いの両手をガッチリと組み合わせたところで再び上昇を始めた。
 ホールの客席に飛び込んできたルシフが見たのは、組み合ったまま奈落の底からせり上がってくるキョウの姿だ。そのまま舞台に向って突進する。
 舞台に上がった敵は鉤爪の生えた足でキョウの腹部を狙う。組み合っているために避けることができない。
「ちっ」
 腹部に傷を負ったキョウが思わず舌打ちをしたとき、2階席から飛来したリーゼが頭上に襲い掛かった。
 不意の攻撃に思わずキョウの手を放して後退するNW。舞台に躍り上がったルシフが怪我をしたキョウと入れ替った。頭上からはリーゼが旋回しつつ敵を牽制する。
 やがて半獣化したまま駆けつけたナツキと奈落から階段を迂回して舞台袖に姿を現した終無も戦列に加わって敵を取り囲む。
 狼の牙を生やしたルシフとアウトドアナイフを構え「金剛力増」を発動させたナツキが同時に襲い掛かる。
 鉤爪を振り回す敵になかなか噛み付くことはできなかったが、時折急降下するリーゼの攻撃や終無のキックも加えて少しずつダメージを与えていく。
 完全獣化の玲が駆けつけると敵の正面を受け持っていたナツキと交代する。
 傷を負ったまま獣化していたキョウの元に、額に角を生やした右京が駆け寄ると「治癒命光」を発動させた。一度使うと同じ相手には1時間ほど使えなくなる能力だが、今の右京の力でも4人までならその場で傷を軽減することができる。
 連絡を受けた場所で完全獣化を行って来た虎麻呂もようやく到着し、傷の癒えたキョウも戦線に復帰する。一旦退いた3人も次々と完全獣化に掛っていた。
 に向って振り下ろされた鉤爪が硬い鱗に阻まれる。生じた隙に乗じて一方の腕に虎麻呂が牙をつきたてるとキョウの爪がキチン質の背中を切り裂いた。
 更に顎に力を入れて腕を噛み切ろうとする虎麻呂の頭上にもう一方の鉤爪が振り下ろされた瞬間、玲が強烈なタックルを見舞う。敵が後退すると虎麻呂の牙には片腕が残された。
 残った片腕を捕らえた玲が思い切り床に叩きつける。
 なおも立ち上る足元に終無の尾が巻きつき再び横倒しにした。
「はっ、タフさも蟲並みか? 何分割がお好みだ? 何処までバラせるか試してやるよ」
 普段とは打って変った粗暴な口調で敵を嘲弄する。
 足を絡め取られて立ち上がることのできない敵に、獣化したルシフが襲い掛かり、振り払おうとした腕に牙を突き立てる。
 更に逃れようと足掻く敵の角をガッチリと掴んだナツキは額のコアを噛み砕く‥‥突然全ての抵抗が止んだ。
 全身を覆っていた外骨格が徐々に形を失っていく。後にはなんとも形容のしがたい死骸だけが残された。
 周囲に集まった獣人たちも次々と獣化を解いていく。
「あーあ、ちゃんと手入れしておかないと‥‥ところでこれ、どうする?」
 自分の肌をさすりながらのリーゼの問いに顔を見合わせる。終無は千葉に戦闘が終ったことを伝えていた。
 やがて現れた千葉は何人かの男女を引き連れていた。昼間局内で見かけた掃除のおじさんおばさん達なのだが、日中のにこやかな表情はなく緊張した面持ちで作業に取り掛かる。
 持ち込んできた道具を使って見る間にNWの死骸を片付けていく。終無に訊いて奈落に残る服の残骸も処理したようだ。
 作業を終えると軽く頭を下げて再びその場から去っていった。
 唖然として見守っていた玲がふと気付いたように隣にいた右京の頭をぽふっと撫でる。
「右京は大丈夫だったか? 怪我なかったなら良かった」
「はい、おかげさまで。とりあえず控え室に戻りましょうか」
 にっこりと微笑を返すとその場を立ち去ろうとする右京だったが、振り向いたとたんに開いていた扉に激突する。声も出せずに額を押えてうずくまる右京の顔をナツキが覗き込む。
「‥‥だ、大丈夫ですか?」
 無言で顔を見合わせる一同の顔からはようやく緊張が解けていくのであった。