封鎖された遺跡ヨーロッパ

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 2Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 やや難
報酬 17.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/19〜08/22

●本文

 ロンドンにある、とあるホテルの一室。
「‥‥WEAの大々的な調査で見つかった例の遺跡だが、その後どんな様子だ」
「未だにWEAの直轄下で封鎖されたままですね‥‥秘密裏に調査は続けけられているようですが」
 ブランデーが注がれたグラスを掌で転がしながら、銀髪の青年が向いに腰掛けたもう一人の青年に問いかける――ただの俳優とマネージャーの会話、と言うにはやや違和感を含む雰囲気――以前、東京滞在中にたまたま流れていた南米遺跡探検番組の番宣を見かけ、急遽調査要員を番組スタッフに紛れ込ませた例の二人組みだ。
 今回は、先日行われた某映画監督主催の映画完成打上と次回作の顔合わせを兼ねたパーティへの出席のため、このホテルに滞在していたのだが。
「長いな‥‥」
 芳香を楽しんでいた琥珀色の液体を一口含みながら呟く。
「最近遺跡周辺で頻発しているNWの大量発生なども関係しているのかもしれませんが、何分件の遺跡に関する詳細はまだ極秘扱いらしく中々情報が流れてきません」
「確かに大量発生しているNWも気になるな‥‥遺跡に潜り込んだWEAの連中がパンドラの箱でも開けたって可能性もある。いつぞやの遺跡にも妙なのがいついてたようだし‥‥もっとも、WEAの手に余るようになれば、いずれコッチにも手助けを求めてくるんだろうが‥‥にしてもずいぶん待たせるな、少し探りでも入れてみるか」
 普段は芸能関係の仕事に従事している獣人たちだが、WEAの出先機関や遺跡関連の調査を進めている大小の組織からの依頼を受けて遺跡調査などに駆り出されることも珍しいことではない。
 中には彼や某脚本家のように、個人的関心からポケットマネーで遺跡の調査を依頼する者も存在する。
「遅かれ早かれ遺跡には足を踏み込むことになるだろうが、今のところはWEAの見張りもいるだろうし周辺調査ということになるな‥‥このところのNW騒ぎが遺跡がらみだとすると、近付けばそれなりに危険だと言うことは予め徹底しておけよ」
「解りました、では」
 暫く黙ってグラスの中の液体を眺めていた青年が銀色の髪を掻き揚げながら命じると、いくらか年長と見えるマネージャーは立ち上がって一礼し、部屋を後にする。
「さて‥‥なにがでるか」
 一人になった銀髪の青年は呟きながらニヤリと口の端を上げると、残った液体を喉の奥に流し込んだ。

●今回の参加者

 fa0565 森守可憐(20歳・♀・一角獣)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1797 小塚透也(19歳・♂・鷹)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2579 藤岡・作治(45歳・♂・蛇)
 fa3161 藤田 武(28歳・♂・アライグマ)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)

●リプレイ本文

 目的地へと向う一行の中、Even(fa3293)は至極上機嫌の様子――それもそのはず、二つに分かれたグループのうちイヴンの同行者は全て女性である。
「周りが女性だけなんて、キンチョーしちゃいますね」
 などという軽口に反して頬はゆるみっぱなし。
 手分けしての調査方針を打ち合わせる中、各務 神無(fa3392)とイヴンが調査終了後に食事でもなどと相談しているのを耳にし、神無から声をかけられていた森守可憐(fa0565)も悪戯っぽく微笑む。
「なるほど、神無様についてゆけば、もれなくEven様にお食事をご馳走になれるのですね。お供します」
 現在の欧州はNW事件の頻発する危険地帯と化しており、それらの事件になんらかの関わりのありそうな遺跡の調査とあって、剣技を得意とする神無に対して、空中からの投射系の能力を持つ湯ノ花 ゆくる(fa0640)も加わった。
 戦闘時は回復役専門の可憐に対して、イヴンは曲がりなりにも銃とソニックナックルで武装している。
 一方のグループは接近戦での壁役を防御力で群を抜くCardinal(fa2010)が担当し、複数の投射能力と銃の腕を持つ小塚透也(fa1797)は更に接近戦用に流星剣も持参していた。
 調査メインで同行する藤田 武(fa3161)も、胡散臭い代物とは思いつついざと言う時の為にレッドと同様アルキメデスの火を持参、探検家魂の疼きに答えて参加したと言う教授こと藤岡・作治(fa2579)も銃を携えている。



 WEAの封鎖線がある側とは別の上り口で車を降りた一行は遺跡へ続く道へと山腹を登り始める。
「‥‥さて、依頼主は周辺調査と簡単に言ってはくれたが」
「WEAが‥‥管理する‥‥遺跡といえば‥‥歴史的価値よりも‥‥オーパーツや‥‥封印された‥‥NWがらみ‥‥の事が‥‥多いですよね‥‥」
「依頼主と言えば、欧州まで来て、同じ依頼人と出会うなんて奇遇ですね〜」
「そうなのか?」
「相手が女性だったら、これは運命かも知れません、なんて口説いてるところなんですけど。この前は南米の遺跡でしたがNWだらけでしたね」
 神無の呟きにゆくるが応じると、イヴンも今回の依頼人との腐れ縁を話題にする。前回のことといい、どうもこの依頼人の行動には胡乱なものを感じているのだが、にこやかにはぐらかす表情からは疑念を伺わせない。
 今回の調査にしても、未だWEAが封鎖していることで、そうおおっぴらに動くわけにも行かないのだが。
「‥‥遺跡を‥‥封鎖すると言う事は‥‥人に見られたり‥‥近づかれると‥‥困る‥‥何か‥‥封印されていたNW‥‥隠している‥‥と言う事‥‥なんでしょうか?」
「仮にNWと遺跡に関係性があると仮定した場合。遺跡を封鎖しているWEAが、その遺跡内からNWを逃がすとは考え難い。ならば逆説的に、WEAが封鎖からNWを逃がしてしまうほどの状況が遺跡内で発生していると考えられるだろう。‥‥だが然し所詮は推測。断定は出来ないがね」
「いずれにしても、日頃お世話になっているWEAの皆様のお邪魔はしないように心がけませんと」
 更なるゆくるの問いかけに神無も自らの推測を述べるが、蓋をあけてみなければなんとも言えないのも確かである。
 遺跡の管理者から話を聞ければとは思いつつも可憐が穏やかな微笑を浮かる。
 ここに向う前の町で、遺跡の資料館や遺跡から持ち出したものをみやげ物として売っている者でもいないかと探ってみたのだが、発見直後にWEAが封鎖してしまった遺跡の存在など『人間』が知る由もなく、封鎖された遺跡から何かが持ち出されているという事実も確認できなかった。
 とはいえそれなりの数のWEA職員が遺跡の封鎖のために常駐している為、必要な生活物資の補給などは当然近隣の町で行われており、それらを供給する町の商人などから仕入れていく物資の量やサイクルなどは聞きだすことが出来た。
 尤も、あくまでも観光客を装って、ここ2ヶ月ほどの間に頻繁に現れるようになったよそ者の噂を興味本位に尋ねる程度の調査ではあったが、遺跡の封鎖に当っているWEA職員のおよその規模は把むことが出来た。

 封鎖部隊の監視を掻い潜りつつ山腹に立つ神殿を視界に納めた一行は遺跡の観察に取り掛かる。
 さっそく双眼鏡を取り出して遺跡の観察にはいるゆくるではあったが、いかんせん打ち合わせが十分でなかったのか別グループでは三人が持っている機種の1/10の倍率だ。
 見張りの位置などから遺跡の入口と思しき場所だけでも特定したいと言うイヴンの意見もあり、さすがに監視に当っているのが獣人であることも考慮して、風下を取りながら徐々に距離を詰めていく。
 途中、山腹に洞窟を見つけるとゆくるがスパルトイの剣を抜き放った神無と共に内部を調べにかかる。種族柄、蝙蝠がいれば話を聞くことが出来ると見込んでのことだ。
 案の定、何匹かの蝙蝠を見つけ話を聞くことは出来た――尤も蝙蝠の知能なりの話ではあるのだが、NWの徘徊を裏付けるものではある――が、何匹目かの蝙蝠に話を聞こうと近付いたゆくるに『それ』は突然襲い掛かった。
 肩口に鈍い痛みを感じながらもとっさに虚闇撃弾を放つ。そのまま尻餅をつくゆくるの脇をすり抜けるように神無が剣で切りつけた。片翼を切り落とされ、地面に落ちたNWに更に幾太刀か切り付け、動きが鈍った所でコアを潰す。
 入口から駆けつけたイヴンは既に片がついたと見るとゆくるに手を貸して外へと連れ出した。すぐさま可憐が治療にかかる。
 が、どうやら昼間だと言うのに洞窟を飛び出してしまった蝙蝠たちの大騒ぎが察知されたらしく、上空に人影が現れる。やがて蝙蝠の翼を羽ばたかせながらWEAの職員が二人舞い降りてきた。
 女性陣が若い職員の気を引いている間に、イヴンが上司と思しき男の友好魅瞳にどうにか成功し、報告の為と称して一人を追い返した後でいくつかの情報を引き出す。
 残念ながら周辺の警備が専門らしく、遺跡内の詳しいことなどは知らないらしかったが、ケガの功名とはいえいくつかの貴重な情報を得ることが出来た一行は、山を降りることを告げると男と別れた。

 だが、これで危険が去ったわけではなかったようだ。
 車を止めた場所まで戻った一行は観光客らしい一人の男を見つける。
 こちらをに向って笑顔を見せる男にイヴンが近付く、が、次の瞬間、用意した水筒の水で読心水鏡を使い男の意図を探ろうとした可憐の悲鳴が響く。
「イヴン様、逃げて!!」
 突如現れた鉤爪が数瞬前までイヴンの立っていた空間を切り裂いた。
 一瞬で半獣化したイヴンは後退しながら至近距離で銃を撃ち放つ。命中した一瞬動きが止まったものの、実体化を終えたNWはそのままその場から離れようとしている可憐へと矛先を変えた。
 上空に舞い上がったゆくるの虚闇撃弾が頭上を襲い、獣化した神無の剣が外骨格の間接に確実に食い込み、ダメージを与える。
 俊敏脚足を発動した神無の剣がNWを翻弄する中、背後に急降下したゆくるの闇の波動がNWの動きを停滞させ、素早く移動しながらイヴンも狙い澄ましたソニックナックルの一撃を叩き込む。
 やがてコアを破壊されたNWは完全に動きを止めた。

 町も近付いたころ、神無が口を開く。
「そう言えば、この件が終わればイヴンが食事を奢ってくれるとの事だが‥‥さて、何処へ連れてくれるのやら。女性三人を連れるんだ、まさか三流の食事処とは言わないだろう?」
 イヴンが応えるより早くゆくるが口を挟む。
「Evenさん達とお食事ですか、やっぱりメロンパンです♪」
 一瞬の間の後、車内は爆笑に包まれた。



 一方のグループはすぐに町を出ず、遺跡の発見時の事情を知らない教授がレッドから情報を仕入れていた。
 本来寡黙な大男が問われるままに訥々と情報を提供しているのだが、実の所、時折入る聞き手側の教授の薀蓄のほうが遥かに饒舌なあたりはご愛嬌と言うもの。
「エジプト−ギリシア、エジプト−ローマ、ローマ−イギリスといったラインが気になるといえばなるのだけれど。そういえば、エジプトの神々やクレタのミノタウロスは我々獣人を思わせる姿をしているな」
「うむ、洋の東西を問わず人身獣頭の存在については枚挙に暇がないな。東洋でも伝説の時代を記述を見る限り黄帝が指南車を作って退治したと伝えられる蚩尤を初めとして、前代の炎帝に連なる一族は牛頭人身だったと伝えられている。そもそもだな‥‥」
「それはさておき、遺跡調査でNWを多数出現なら、調査にNWを活性化させる要因があるんだと思うし、WEA関係者の目をかいくぐって出てくる抜け穴みたいなのがあるのかもと考えてみた。
 小さな洞窟か何かに入り口か何かあるじゃないかと‥‥ちょっと入ると遺跡になっているような感じかな?」
 延々と続きそうな教授の薀蓄に透也がストップをかける。レッドとは幾度か共にNW戦を戦っており、いくつかの番組で競演もしている。
「ううん。遺跡に近寄れないなら、オリンポス山に関して地質や地形に関しての文献調査をメインに行おうか。
公表はされてないけど、前回の調査の過程で判った遺跡の概要と地形や地質を比較してみて、何か構造的におかしい部分が無いかチェックしてみたいと思うからね。鳥瞰図なんかもあったら見ておきたいところだね」
 前回の調査時アナトリア博物館などでいくつかの発見をしているタケも意見を述べる。残念ながら最終段階でシチリア島に向かった為、実際にオリンポス山の遺跡を目にしてはいないのだが。
 町に入って以来、レッド自信も新聞を読んだり、宿泊地のロビーや食堂、立ち寄る店先などで、噂話に耳をそばだててここ最近起こった出来事や事件の情報を仕入れようとはしているのだが、WEAの情報操作が功を奏しているらしく、ここ二ヶ月ほどよそ者の一団が山に居付いているらしいと言う程度の噂しか聞えてこない。
 NWの大量発生にしても、退治の依頼や付近で活動中の獣人に注意を呼びかけるWEAの広報以外の情報は伝わってこないようである。
 結局町中での調査は成果を上げることが出来ず、教授の案で、発見された遺跡など何も知らないというふりをして、テレビの探検隊番組の企画を立てたいので、ここらをロケハンしたいとかいう理由をつけてWEAの警備部隊に直接接触すると言う強硬策を採ることになる。
 とはいえ、正面突破では当然のことながら遺跡より遥か手前の検問所で止められるのは致し方ない。
 それでも、教授と透也がしつこく食い下がった結果、NWが多数出没して危険だと言う地点は聞きだすことが出来た――無論、危険だから近付かないようにとの厳重なお達しであり、その場は素直に頷いて引き下がるものの、それも警備の姿が見えなくなるまでのことである。

 検問所を後にし警備の目を逃れた一行は指摘された危険地帯へと踏み込んでいた。尤も教授やタケに限らず、それなりの実力と実戦経験を持つ透也やレッドも好んで危険を冒すつもりは毛頭ない。
 目的はあくまでもWEAの厳重な警戒にも拘らず各地にNWが出没している事実から、WEAが把握していない別の出口がないかを調べることにある。
 封鎖戦を迂回して山中に分け入った一同は大小さまざまな洞窟を調査する中、洞窟内から突如雷鳴が轟く。
 続いて怒声と共に透也とレッドが飛び出してくる。
 空中に飛び上がった透也の銃が洞窟から飛び出してきた比較的小型のNWの一体を狙い撃ちした。続いて出てくるNWに教授とタケも銃とアルキメデスの火で足止め――レッドが完全獣化する時間を稼ぐ。
 レッドの獣化を待ってタケは後退。透也もNWの配置を見極めて地表に近付くと数匹のNWを射線に収めて効果を重複させた電撃を見舞う。
 小型のNW達が強化された電撃をを蒙ってのたうつ中、一際大きなNWが傷をものともせずに奇声を発しながらレッドに飛び掛る。鋭い爪で襲い掛かるが二重に強化されたレッドの肉体には、さしたるダメージを与えることが出来ない。
 逆に振りかざした腕を押さえこまれ至近距離からまともにアルキメデスの火を浴びることになる、悲鳴を上げて逃れようとするところへ、コアを狙った突きが連打される。
 洞窟の出口付近でのたうちまわっていた小型のNW達も完全獣化を終えた教授も加わって次々と止めを刺されていった。
 数ほどの抵抗もなく一掃することは出来たが、改めて洞窟の奥に踏み込む危険は冒せない。洞窟の奥が遺跡に通じているかどうかを確かめる術こそないとは言え、この一帯が予想以上に危険であることは紛れもない事実らしかった。
 一行は騒ぎを聞きつけたWEAがこの場を調査に訪れる前に素早く撤収する道を選ぶのだった。



 それぞれの調査結果を持ち寄ったところでは、やはりこの遺跡に関する『WEAによる調査の遅れ』の原因は、周辺とそしておそらくは内部も含めて大量のNWの存在によるものとの結論で一致した。
 そして‥‥

 調査の最終日、一行の泊るホテルに倫敦で待機しているはずの依頼人が姿を現した。
 それぞれの報告を聞き終えると口を開く。
「中々派手にやってくれたようだな。そのおかげで――っと言っていいのかどうかは判らんが、WEAから所属する全ての獣人に対して遺跡の調査への参加要請が通達された」
 意外な展開に唖然とする一同に向って意味ありげな笑いを浮かべるのだった。