溢れ出した遺跡ヨーロッパ

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 フリー
獣人 5Lv以上
難度 やや難
報酬 36.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/02〜09/06

●本文

 二ヶ月ほど前、世界中を巻き込んだWEAの大々的な捜索で発見され、その後考古学界に報告されることもなくWEAの手で極秘裏に封鎖されていたオリンポス山の遺跡。
 とある理由から、かねてより遺跡の情報収集に執着していたルークは延々と封鎖が続く状況に業を煮やし、人出を雇って付近の調査に踏み切った。
 調査に向った面々が封鎖作業に当たっているWEAの職員に直接接触したり、遺跡の周辺で派手なNW戦を演じたことが影響したのかどうかは定かではないが、WEAは突如遺跡の封鎖を解除したばかりか、全面的に遺跡調査の人員募集を始めている。
 予想通り――と言ってよいかどうかは不明だが、以前調査した遺跡と同様、いやそれ以上にと言ってよいかもしれない――オリンポス山の件の遺跡はNWどもの巣窟であるらしい。
 WEAが『人間』の研究者がいる考古学界の遺跡の存在を伏せたのもなるほど理にかなっていると言えよう。

 が、こうして開始された内部捜索で中核を担っていたと思われるWEAの調査隊が遺跡深部で消息を絶つと言う事態が発生、更にはこれまでにも増して大量のNWが遺跡の中に発生していると言う。
「‥‥‥‥いったい、何があった?」
 調査依頼の報告と遺跡開放後動きを探る為、遺跡近くの町中のホテルに拠点を移していたルークが低く呟く。
 既に救出やNWの迎撃の依頼などがWEAから矢継ぎ早に出され、遺跡内部の騒動はそれなりに収まったらしいのだが‥‥
「打ち漏らしたヤツもいるようだな」
「はい、完全に押さえ込むと言うのはさすがに無理があったようです」
 問いかけとも言えぬ言葉に、影のごとく付き従うマネージャーが応える。
「ふっ‥‥放置してもおけんか、狩の準備だ。腕に覚えのある連中を集めろ。WEAの方にも話を通しておけ、報酬と経費は向うに持たせる」
「かしこまりました、それではさっそく」
 一礼すると、遺跡から漏れ出したNW達を殲滅する狩人達を集める為部屋を後にした。

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1797 小塚透也(19歳・♂・鷹)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2429 ザジ・ザ・レティクル(13歳・♀・鴉)
 fa2603 ダン・バラード(45歳・♂・狐)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)

●リプレイ本文

 遺跡入口に集まった一行は次々と獣化に取り掛かる――端からNWとの戦闘が目的の上、遺跡の危険性からWEAが『人間』の目に対してはほぼ完全に防衛線を張っている以上、躊躇う理由もない。
「おはようございまっす! 劇団クリカラドラゴン「『裏』裏方」所属、ザジです。かなりやっつけたと思ったけど、まだ残ってたのね。いいわ、もう一稼ぎさせて貰おうじゃない」
 開口一番、勢い良く挨拶したザジ・ザ・レティクル(fa2429)は愛用のリボルバーを手に、見敵必殺の意気込みを示していたが、さすがに宿を出る時には獣化する訳にも行かず――予備の38口径AM拳銃の分も含め162発もの弾丸を持参してきているため、人間形態では歩くこともままならない。
「‥‥おっ、重い‥‥」
 見かねたCardinal(fa2010)が遺跡までの荷物持ちをかってでた。147センチと小柄なザジと並ぶと身長差は実に51センチにも及ぶ。
 同じ背格好で更に華奢な湯ノ花 ゆくる(fa0640)もまたそれ以上の重装備――ショットガンとサブマシンガンに加えて予備のAM拳銃2丁とそれらの弾丸取り混ぜて170発――うちいくらかは愛車のオフロードバイクにくくりつけ、ルークのマネージャーにバイクごと預けているとはいえ、やはり獣化しないと身動きがとれない。
「遺跡からのNW流出阻止、私も参加したのだけれど数体取り逃してしまったので、作戦を提案した責任をとるために殲滅にあたるわね」
「俺も装備のせいで、掃討戦は散々な結果だったからな、NW討ちもらしには少々責任を感じるが」
 富士川・千春(fa0847)の言葉にレッドも頷く。この場のほとんどの者が遺跡からのNW流出阻止にかかわっており、その後の遺跡内での殲滅戦や調査にも携わっていた。
 黙ったままどこか遠くを見るような表情のシャノー・アヴェリン(fa1412)も、過去に家族を殺された経緯から、NWに対しては黒い感情を抱いている。

 掃討戦にあたり、ゆくるはWEAに一策を献じていた。
 それは、遺跡内部で遭遇したダークサイド――彼らは明らかにNWに対して『言葉』で命令を発していた――の声を記録したものと声帯模写を使えるスタッフを借りてNWを呼び集められないかと言うことだったのだが‥‥残念ながらWEAの回答は使えそうな記録自体が残っていないとのことだった。
 相談の結果、遺跡を中心とした円周上に広がり、探索を続けながら包囲を縮めて殲滅を図ることに。
「作戦了解!」
 肯じてはみたものの、やはり一人ではやや不安の残る小塚透也(fa1797)。内心ではまた旧知のレッドと同行できないかなどと考えているのだが。
 尤も円形に広がると言っても時速30キロで飛べる者と、足場の悪い山道や森の中を徒歩で移動する者とでは移動速度に10倍近く差が出来てしまう。
 このため飛べるものは道の通じていないエリアを担当することになり、ゆくるのバイクもルークが預かることになった。更にいざと言う時の連携や連絡手段――到達距離10キロの知友心話が使えるのはシャノーとルークのお供だけ、他は発煙筒のみ――を考えればあまり各自の距離をとるわけにも行かない。
 シャノーを除けば翼を持つ者達が高速で到達できる距離は6キロ、しかもその同じ時間で戦闘中の仲間のほとんどの強化能力は時間切れとなる。
 そんな事情から探索の半径は5キロほどと決った――それでも地上部隊は探索開始地点まで1時間半ほど歩くことになるのだが。
 飛べる者も多いと言う事で透也は敢て地上の探索を選択。レッドやモヒカン(fa2944)らと共に主として上空からの見通しが利かない森の中をメインで探索する。装備は剣と銃だが銃弾もフルに装填していない。
「遺跡から逃げたNWは大した強さじゃないけれど、あれから1週間、情報媒体に戻って再感染するには十分すぎる時間よね。山は情報媒体が少ないけど可能性はあるから気をつけてね☆」
 千春が笑顔で地上部隊の二人、モヒカンとレッドを見送る。
 少し遅れて探索開始地点までは徒歩で赴く理由もない透也も含め、飛行部隊も目的地を目指す。尤もスタート地点に同時に着くだけなら空を飛べば10分ほどなのだが、地上の二人だけを先行させて往路でNWと出会わないと断定もできない。
 ゆくるのオフロードバイクを駆ったルークも出発した。

 森に入ったモヒカンは慎重に辺りに気を配りながら前進する――さながら野生の熊が縄張りを歩き回る風情だが――突然頭上の茂みのざわめく音と共に黒い影が降ってきた。
 咄嗟に頭を庇った腕に鈍い痛みを感じながらも手に触れた敵の体の一部を捕まえると力任せに近くの立ち木に投げつける。
 そのまま木にしがみついたNWと向合う。体長1m程度の外骨格に覆われたグロテスクな昆虫。
 睨み合うモヒカンの筋肉が盛り上がる。
「ゲット・セット! レッツビナーヴド・ヴァイス!」
 幸運付与も加え戦闘準備を整えたモヒカンの声に反応したかのように幹を蹴って再び飛び掛った。
「クレイジー柔術は相手を選ばん! 」
 怪しげな流派を名乗りながら、鮭を狩る熊よろしく爪で迎え撃つ。
 耳障りな悲鳴と共に地面に張りつく。
「ぶるらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 肩口に新たに開いた傷にも構わず飛び掛りベアハッグからのスープレックスに続いて大地を踏み抜くが如きストンピングを連打するが、硬い殻に阻まれ掠り傷程度の効果しかないようだ。
 スキを突いて足元から逃れたNWは再び飛び掛ってくる。
 肩に食い込んだ鉤爪を掴むとそのままジャイアントスィングで手を離さず幹に叩きつけ、地に落ちたところへ再び爪撃を連続で打ち込む。
 ほとんど抵抗しなくなったNWのコアを念入りに潰すと、近くの木の根元に座り込み、幹にもたれて傷を調べ超回復力を発動する――とりあえずは1時間ほど何事もなければ‥‥。

 探索開始地点からジグザグに出発点を目指していたザジもその優れた視覚で叢の中を移動するNWを発見し、パニッシュメントの撃鉄をあげる。
「NWみーっけ、全弾ブチ込めフルスロットル! 出し惜しみはナシで行くわよ!」
 速度を上げて回り込み、次々と弾丸を撃ち込む――反撃を許さない有利な位置からのまさに狩りなのだが、少なからず命中しているのに一向に敵の動きが鈍らない。
 一撃である程度のダメージを与えれば特殊な効果を発揮するはずのオーパーツなのだが、22口径と言うこともあり甲殻に阻まれているらしい。おまけにリボルバーなので弾の装填も手間がかかる。
 彼我の移動力の差から逃がす気遣いこそないのだが、ザジもこのままでは埒が明かないことに気付き銃を替える――今度は一発命中する毎に確実に敵の動きが鈍ってくるのが判った。
 すっかり動きが鈍くなりながらもまだ逃げようともがくNWのコア目がけて再び22口径を取り出す。至近距離からほぼ静止している的を外すはずもなく4発ほどでコアは砕け散った。

 一旦森を突っ切ったレッドは引き返しながら探索に入る。
 ネイティブアメリカンの狩猟本能を働かせ、野生動物を追跡する要領で行動しそうな場所にあたりをつけ、生物の生息・活動場所を見つけてはその痕跡――足跡や糞、マーキングなど――を念入りに調査していく。
 一方決められたポイントに降り立った透也も地上の探索にかかっていた。
 連絡用に発煙筒は買ってきたものの、実は戦闘が始まって破雷光撃でも使えばよほど目立つ合図になる――遺跡解放前の調査ではそれでWEAの監視を呼び寄せてしまったという苦い経験がある。
 目が利くのを利用して周囲を監視しながら移動していた透也は、近付いた森から飛び出してくる影を発見して銃を構えた。
 黒光りする外殻と複雑に絡み合った角――元の生物は不明だがNW化していることは一目瞭然――こちらに気付いたのか真っ直ぐに透也目がけて突進してくる。
 が、NWの背にレッドの姿を発見しトリガから指を離して上空へ逃れる。
 レッドも透也に気付くと、角を捕まえていた腕に力を込めた。軋むような音と共に一方の角が折れ、支えを失ったレッドの体が投げ出される。
 方向を変えて再びレッドに向って突進するNWに向って銃を撃ち込みながらコアを探るが、見つけることが出来ないばかりかほとんど効いていないらしい。
 更に合図もかねて重ねがけした雷撃を放つ。多少は効いたのかジグザグの動きを始めると、透也の腕をもってしても容易に命中させることが難しくなる。
 透也の位置に隣接して双眼鏡と鋭敏聴覚で空中を中心に観察していた千春と、レッドの隣のエリアで捜査開始地点まで高速移動し通常飛行に移ってからはアップダウンを繰り返したり地上に降りて確認を取ったりしていたシャノーの耳にも雷鳴は同時に届く。
 逃げ回りながらもスキを見ては地上のレッドに突進をかけようとするNWに、アルキメデスの火と高速で急降下しながら流星剣で攻撃を仕掛けるが思いのほか動きが素早い上、剣のダメージもさほど通らないようだ。
 やがて千春とシャノーも駆けつける。
「‥‥逃がしません‥‥鷹のスピードに‥‥勝てるとでも‥‥」
 高速飛行を発動すると急降下しピタリと頭上に貼りつきながら両手の銃を撃ち込むが動きは鈍らない。驚愕しつつも更に前に回って至近距離から目を狙う。
 さすがにこれは効いたと見え、奇声を発して動きが止まる。
「‥‥今、です‥‥!!」
 後方から急降下した千春がIMIUZIの三点バーストを続けざまに叩き込み、透也も重ねがけした雷撃で更なる打撃を与える。
 深手を負って足が止まったNWにレッドも追いつき、再び片方が半ば折れた角を掴むと渾身の力を込めて横倒しにする。
 心臓の位置にあるコアを見つけると連打で徹底的に粉砕した。
 三人も地上に降り立つ。
「やっぱりこういうのが出てきたわね」
「‥‥38口径でも‥‥掠り傷程度でした‥‥」
「俺の流星剣もな」
「俺の拳もだ」
 結局NWそのものに効果的な打撃を与えられたのはIMIUZIの三点バースト射撃と重ねがけした破雷光撃、そしてアルキメデスの火だけ――弱点であるコアは脆いのだが――と言う結果であった。

 彼らとは正反対の方角、ルークとザジの間にコースを取ったゆくるも外周上の開始地点から探索を開始していた。
「ここまで‥‥関わったんですから‥‥最後まで‥‥サクサク片付けます」
 重装備のどこに潜り込ませていたのか、飛びながらトレードマークのメロンパンをパクついている。
 一方では前回の経験に懲りて用意した高機能双眼鏡を手に地上の観察を続けていた。
 地表に動くものや洞窟のようなものを発見すると降下して調べに入る。
 普通の動物か擬態中のNWか区別のつかない相手には近付いて最低レベルの吸触精気を仕掛けて反応を見る――尤もほぼ確実に悲鳴を上げて逃げ出していくのだが。
「あっ‥‥ゴメンナサイ‥‥」
 実態はともかく、一見か弱そうなゆくる一人なのを見て、実体化して襲ってこないNWは皆無に近いと思われるのだが‥‥。
 やがて発見したNWに上空からハミルトンM870を撃ち放つ、ショットガンゆえに射程は短いが真下に向って撃つ分には射程など意味を持たない――むしろ散布域が広がりすぎて密度が低下する方が問題かも知れない。
 何発目かで逃げ回るNWを捕らえはしたのだが、いかんせん散弾がパラパラと当っても甲殻に阻まれて掠り傷しか負わせる事ができない。
 気付いたゆくるはIMIUZIに持ち替えて更に追いかけつつ銃撃、止めをさした。
 思いのほか弾丸を消費したことで、予備を受け取りに向ったゆくるは、NWと対峙するルークの姿を見つけ双眼鏡を向ける。
 その手に武器は無い――が、次の瞬間、水平に延ばされた手に長大な剣が現れた。
 刃渡りだけでも2mは越えるであろうソレを重さが無いかのごとく構えると、向ってきたNWに無造作に振り下す。
 NWの頭部で光るものが飛び散り、やがて剣は現れたときと同様に姿を消した。
「!? ‥‥コアを一撃‥‥オーパーツ? でも‥‥そんなもの‥‥」
 これまでにNWのコアを一撃で破壊できるのは、一部の獣人の重ね掛けした特殊能力のみとされてきた――虚闇撃弾ならばよほどのザコでも4発分の念を、通常5発分を一撃に込めなければ――だが、今目にしたモノは‥‥。

 やがて探索を続けた面々が三々五々集合場所へと戻り始める。
「‥‥‥‥大丈夫ですか‥‥?」
「ああ、全然大丈夫だ!」
 毛皮や服に乾いた血糊をこびりつかせたモヒカンを見てシャノーが尋ねると、回復は完全に出来ているらしくにやりと笑う。
 ゆくるもルークに例の武器のことを尋ねてみたが、薄笑みを浮かべ「ほぅ、アレを見たのか」と応じただけ、オーパーツかとの問いにも「そんなものだ」と答えるのみであった。
 探索は翌日からも続けられ、なお十数匹のNW――その中には明らかに遺跡から出たのではなく周辺から紛れ込んだと思しきものも含まれていたのだが――を退治して任務を終えることとなった。