【PSF】大江戸ラリーアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/15〜09/19

●本文

 朝晩はめっきり涼しくなったとはいえ、日中はいまだ蒸し暑さの残る昼下がり、一通の企画募集が『午後の思いつきTV』を製作している某イベント企画会社の第3企画室に舞い込んだ。
 夏に開催された『Athletic of Summer』に続く芸能界の一大スポーツイベント秋の陣、『Powerful Sports Festival』の開催期間中に行われる競技の企画を募集するというものである。

「‥‥ふぅ〜ん」
 転送された募集の文面をディスプレイ上で流し読みしながら、上司である室長がいたずらっぽい笑みを浮かべる――どうやら乗り気のようだ。
 尤も「乗り気みたいですね」などとヘタに口にしてヘソを曲げられても困るので、一通り目を通し終えたころあいを見計らって慎重にお伺いを立てる。
「いかがでしょう?」
「いいんじゃない‥‥そうね、都内を回るウォーキングラリーなんかどう?」
「はぁ、まあ激しい運動ばかりでもなんでしょうし開催期間も長いようですから、余り最初から飛ばしすぎてケガなどしても困りますしね」
「ふふっ、ちょっとしたオリンピック並の開催期間よね」
「それでどういったコースを?」
「ん〜っ、日本武道館をスタートとゴールにして江戸五色不動を回るってのはどう? ついでに回る順番も参加者に任せてコース取りの能力も競うの」
「ちょっと待ってください‥‥‥‥」
 急いで『江戸五色不動』の所在地を検索する――
「‥‥ざっと見た感じだとフルマラソンより長いコースになりそうですが」
「たぶんそんなところね」
 あっさりと頷く。
「徒歩、ですよね‥‥そうするとかなり時間もかかりそうですよ」
「そういえば、夏のスイカ割りでも乗り物を使おうとしてた人もいたみたいね。いっそのことこちらで用意したママチャリ限定にでもしようか? 歩くよりは速いんじゃない、多少はカスタマイズもオッケーってことで」
「カスタマイズ? ‥‥ですか」
「もちろん、電動自転車に改造したりするのは禁止よ。軽量化を図るとか色々方法はあるでしょ。パンクの修理キットも支給した方がいいわね」
「パンクの修理は素人には難しいかもしれませんが」
「いつの時代の話よ? 今時はタイヤチューブに樹脂を注入して、穴が塞がったら空気入れ直すだけでしょう」
 どうやら微妙に古い方法のほうを想像してしまったらしく笑われてしまう。
「スタートでデジカメを渡すから、それぞれのお不動さんで待機してる係に証拠写真を撮ってもらいながらゴールを目指すってことで、途中のコースなんかも撮ってきてもらおうかしら」
 こうして、『Powerful Sports Festival』の競技種目として『改造ママチャリで江戸五色不動を回る自転車ラリー』の参加者が募集されることとなった。


●『江戸五色不動』のおよその所在地は以下の通り
目黒不動 龍泉寺 (目黒区)
目白不動 金乗院 (豊島区)
目青不動 教学院 (世田谷区)
目赤不動 南谷寺 (文京区)
目黄不動 永久寺 (台東区)*
*目黄不動は他にも何箇所かありますがとりあえずこちらを使用

●今回の参加者

 fa0259 クク・ルドゥ(20歳・♀・小鳥)
 fa0463 伊達正和(25歳・♂・竜)
 fa1889 青雷(17歳・♂・竜)
 fa3144 大太郎(25歳・♂・牛)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa4040 蕪木薫(29歳・♀・熊)
 fa4463 三島 麗華(19歳・♀・兎)
 fa4466 立花 奈保子(19歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●細工は流々‥‥?
 テレビ局前の駐車場に集まった一同に、中継ポイントの記された地図や注意事項などの書かれた書類と共にレースに使うママチャリが配られる。
「お寺‥‥に、武道館‥‥‥‥見惚れないように気をつけよう‥‥」
 コースが記された書類を眺めてしばしほわわんとするクク・ルドゥ(fa0259)だが、ふとわれに返って気持ちを引き締める。
「最近のママチャリにはギア付のもあるけど、これには付いてないんですねぇ」
 受け取った自転車を確認しながらがのんびりとした口調で呟く。
 改造前提と言うことで、中古でこそ無いがホームセンターの特売チラシに良く載っているような格安自転車のようだ。
 長身の蕪木薫(fa4040)や大太郎(fa3144)が同じ規格の自転車を受け取るといかにも小ささが際立つ。
 このところ仕事で何度か顔を合わせているらしい三島 麗華(fa4463)と立花 奈保子(fa4466)は体力の自身のなさでも共感したらしく、赤白の垣根を越えて協力体制をとることにしたらしい。
 尤も麗華はちょっと誰かと勘違いしているらしく最初は奈保子を河合さんと呼んでいたのだが‥‥。
「せっかく日数もありますからいろいろやってみます」
 支給品一式を受け取ったパトリシア(fa3800)もスタッフに向ってにっこりと微笑んだ。

 こちらも支給品一式を受け取って戻った伊達正和(fa0463)と青雷(fa1889)の兄弟はさっそく改造と作戦を練りにかかる。
「ママチャリのチューンだが‥‥そう言えばオフロード用でゴム製ではなくアスファルトかなんかを使ったパンクしないタイヤが開発されているってのを聞いたことがあるな」
「オフロード用のタイヤか、いいだろう。俺はペダルもマウンテンバイクのものに交換するか」
 正和の提案に弟の青雷も同意すると、さっそく交換用のパーツを買いに出かけた。

 一方体格に比べてママチャリは小さすぎる感の強い薫はとりあえずタイヤを大径のものに交換することに――とはいっても、リムを支える前後のホークやチェーン周りの部品も含めてかなりの大改造である。
 同時に最近不精気味で足の遠のいているジムへも通い始めることに。
「せやけど当日筋肉痛になったら本末転倒やから、激しい運動は3日目までやな」
 とは言え、筋肉痛が翌日に来るのは若者だけという説も思い出し、ちょっと苦笑しながらも、ペダルを『踏む』のではなく『回す』ペダリングをマスターすべく訓練に精を出す。
 合間には本番と同じ修理キットを入手してパンク修理の予行練習や、リムやチェーンなどそれ以外のトラブルに対する対処法も一通り予習する――尤も本番に修理部品一式を持って走るつもりは毛頭無いのだが。
 更に改造した自転車に慣れる意味もあり、資料だけでは今ひとつコース取りのイメージが湧かないことからコースの下見にもでかける。
 多少遠回りになってもきつい上り坂は避けたいところ、予期せぬトラブルも考慮して途中の自転車部品を扱っていそうな店のチェックも怠り無い。

 同様に付け焼刃でも基礎体力を上げようとトレーニングを始めたクク。
 6kmから徐々に延ばし始めて試合前日までに1日20kmのランニング、10kmから始めて試合前日までに1日50kmの実車走行、更にプロダクション内のジムでのウエイトトレーニングなど盛りだくさんのメニュー。
 実車走行も3日目からはコースの下見をかねて自分の選んだコースを一通り走ってみる。
「自転車ってスムーズに効率よく走るのが大切なんだよね」
 加えて、自分がどの道を行くかが判っていないと、当日全員迷子になりかねないという不安もある。

 迷子に関しての危惧は「まずレースで大事なのは下見だと思います」と言うパティも同様に感じていたようだ。
 更に局などが予めコース全域の交通整理をしてくれる訳でもない事から、特に開かずの踏み切りや渋滞の場所と時間などにも入念なチェックが入る。
 パティは1日を使ってゆっくりと5つのポイントを見て廻ることにした――途中美味しいパン屋さんでも探しながらと言うオプション付だが。
 そして自転車の改造はと言うと‥‥。
「とりあえずママチャリが遅いのはタイヤがぷよぷよしてるせいだと思うんですよ」
 ということで、どこまで改造が許されるかはっきりしないこともあり、車輪をシャープなスポーツ用に交換、少しでも軽量化を図るために後ろの荷台も取り外す。昼食と修理キット程度なら前の篭だけで十分間に合うと踏んでのことだ。

 一緒に完走を目指すことにした麗華と奈保子もコースなどの計画を立てる。支給された地図上の予定したルートに印をつけ、更に迷わないようにと麗華はGPSも準備する。
 何はともあれ二人の目標は『楽しく完走』の一語に尽きているようだ。


●いざ、決戦!
 スタート地点の武道館前に集まった各車――改造自由と言うことだったのだが思いのほか大幅な改造を施したものは少ないようだ。
 一番車体に手を加えたのは、体格に合わせてタイヤを大径のものに換装した薫。全体がひと回り大きくなった感じ、サドルも大き目のものに取り替えてハンドルと共に入念に高さ調整をしてある。
 他にはタイヤをシャープなスポーツタイプにし、荷台を外して軽量化を図ったパティ。改造としてはほとんど舗装された路面ばかりの市街地では一番有効かもしれない。
 逆にタイヤをオフロードタイプに換装したのは正和と青雷の兄弟――実は荒地で威力を発揮するブロックパターンが舗装された路面では抵抗になってしまうのだが、そこは持ち前の体力と気合でカバーといったところだろうか。
 改造こそしなかったが、奈保子は車体にデカデカと『Powerful Sports Festival』の文字を入れている。
 周りを見回しても勝てそうに無いということで、麗華――今回赤と白に分かれてはいるのだが――と共に競技の結果は度外視してマイペースで完走を狙う。
「‥‥デジカメで撮るのは、不動以外もいいのかな?」
 係りからデジカメと修理キットを受け取りながらククが尋ねると、チェックポイント以外は自由に使っていいとのこと。
「いいなら‥‥他の気に入った場所も撮っちゃおう♪」
 嬉しそうに微笑みながらさっそく武道館にカメラを向けるククの横では、中継カメラを向けられた薫がスタート前の意気込みを語っている。
「不摂生な生活で体力には自信が‥‥せやけど頑張ります。秋やからね!」
 控えめながらもカメラに向って爽やかな笑顔を向ける。早起きしてシャワーを浴び、頭も身体も活性化してコンディションは万全らしい。
 一方、正和はパンクしないタイヤを履いていると言うことで荷物になるだけの修理キットはパス。
 ついでに初日に渡された地図の代りに近辺の銘菓などが載った観光案内なんぞを持参、訝る青雷に、オカルトマニアとして江戸五色不動は知っていて当然、道に迷ったりはしないなどと嘯きつつ、たまたま寄ってきたカメラに向って薀蓄を垂れ始める。
「江戸五色不動とは、天海僧正が江戸を守る霊的結界装置として風水と陰陽道を駆使し建立され、更に鬼門には上野寛永寺、裏鬼門は芝の増上寺‥‥」
 延々と続きそうな話に「またか」と呆れ顔の青雷、どこからともなくハリセンを取り出すとスパンと一発、スタート地点に引きずっていった。

 スタートの合図と共にククは北東にある目黄不動を、正和は西南西の目青不動、兄弟参加とはいえアホな兄貴に構っていられないと言う青雷や他の面々は南南西にある目黒不動を目指して一斉に散っていった。

 一団となって南下する一行だが、体力の差からすぐにいくつかのグループに分かれる。
 先頭は黙々とペダルをこぐ大太郎。遅れじと青雷が張り付く。やや遅れながらパティ、更に薫が続き、その後方で慌てる様子もなく談笑しながらペダルをこぐ奈保子と麗華が次第に引き離されている。
 途中、信号待ちのビルの間から遠く東京タワーを認めたパティはカメラを向けるとシャッターを切った。
 やがて順次目黒不動に到着した面々は待機していたスタッフにカメラを渡すとチェックポイントと共にファインダーに納まる。
 ここからパティだけは最も近い目青を、他の五人はほぼ真北で倍近い距離がある目白を目指す。
 祐天寺山門をカメラに納めながら目青に到着、更に道々都庁を撮りながら目白に向うパティは、一人逆回りしていたククとすれ違いながら互いに笑顔でエールを送りあう。
 更に目白から目青へと逆行する大太郎、薫、奈保子、麗華とも次々にすれ違う――青雷だけは目白からすぐ東にある目赤のそばを通り越して更に東側の目黄に向ったのだが‥‥。
 そのまま護国寺やちょっと端折って日暮里駅等をカメラに納めながらほぼ等間隔で真東に並ぶ目赤、そして最後のチェックポイントである目黄へと順調に駒を進める。
 途中、持参したサンドイッチとお茶で昼食も済ませ、パティは一路ゴールへと向った。

 一方、一人だけいきなり目青不動を目指した正和は、チェックポイントに到着し写真を撮ってもらうと、必勝祈願を行う。構っていられないと言っていた青雷も各ポイントで戦勝祈願をして廻るあたりはやはり兄弟と言うべきか。
 そして‥‥やおら観光案内を広げると付箋をつけた頁を広げ。
「やはり、こいつなんかは外せんだろうな‥‥」
 なにやら一人ごちながら近辺の銘菓を求めて再び走り出した――次の目標は目赤不動、のはずなのだが微妙に方向が違っているのは気のせいだろうか‥‥。
 更にトイレ休憩なども挟んで、続く目白、目黒、目黄でも同様に必勝を神頼みしながら近隣の銘菓を平らげて回る――ゴール前の目黒から目黄の区間など、ほとんどコースの端から端といっていい距離ではあるのだが‥‥。
 目黄に向った青雷も各地点で水分と栄養の補給、トイレ休憩をしながらやはりコースの端から端と言っていい目青へ、更に先ほど飛ばした目赤を経てゴールを目指した。

 他方、途中のチェックポイントに止まったときに軽い昼食を済ませながら目青から目赤と廻ってきた薫。最後の目黄に到着する頃には先行する大太郎とも、遅れている麗華や奈保子とも完全に姿の見えない距離が開いていた。
 かなり疲れは溜まっているのだがチェックポイントでの写真撮影には爽やかな笑顔を欠かさない辺り、タレントとしての嗜みといったところか。途中で撮影するポイントも現場が判るものをきっちり取り込んでいる。
 互いに励ましあいながら最後尾を走る麗華と奈保子も無理をしない程度に休憩を挟みながら、リタイアすることなく何とか付いてきているようだ。

 途中のコンビニで昼食の調達や持参したペットボトルの水分の補充を行い、コース上に目星をつけておいた公園で簡単な食事をとりつつ、一人、目黄不動から反時計回りに目赤、目青、目白と廻って来たククは最終ポイントの目黒不動尊に辿り着く。
 ここは仁王門をはじめいくつかの建物が点在し、バス用の駐車場などもあり、5箇所の中でもちょっとした都内観光のスポットにもなっている。
 写真を撮りながらしばし典雅な日本建築の群れに見惚れるククだったが、ふと競技中であったことを思い出したのかぐっと気合を入れなおすとゴールに向けて寺を後にした。


●さて‥‥結果は
 トップでゴールを切ったのは最年少の白組パティであった。
 入念に下調べした最短コースに加えて、市街地走行にマッチした改造と普通の社会人よりちょっと上を行く現役中学生の体力がものを言ったのだろう。
 チェックポイント以外の撮影場所も中々ツボを捉えている。
 逆回りでやはり最短コースを選択した白組のククが2位に――なにやら日本建築に思い入れがあるらしくお寺メインでメモリを使い果たして来たようだ。
 体力では参加者中一、二を争う大太郎が3位に付けて赤組唯一のポイントを稼ぎ出す。
 コース取りの失敗やら体格と自転車の不釣合いを体力で無理やり押し切ったらしく、チェックポイント以外は撮影もそこそこに昼食すら抜いてひたすらマイペースで走り続けたようだ。
 参加者中唯一の裏方だけにテレビ的なオイシサなど眼中に無いといったところか。
 続いては最長コース――なんと最短コースの約5〜6割にあたる20km以上も長い距離――を気合で走破した白組青雷が4位でゴール。
 正々堂々と、というあたりで女性参加者に配慮したのか、単にコース取りを失敗したのかは定かでないのだが‥‥
 更に白組の薫が5位に入賞、やや暫くしてやはり白組の正和が、更にだいぶ遅れて麗華と奈保子も赤白仲良く並んでゴールインする。
 薫と麗華、奈保子の三人は大太郎と同じコース――募集時の説明書の並び順そのまま、最短の二人に比べると3〜4割にあたる15km以上は距離が長い――を採っていたのだが、人間形態では体力的にさほど抜きん出ているわけでも無い薫が一歩先んじた要因は特訓と改造の成果ということらしい。
 コースこそ違え、ほぼ自身と同じ距離だったはずの兄――体力的には自分より上のはず――のタイムに抱いた青雷の疑問は正和の撮ってきた写真を見れば一目瞭然‥‥。
 写真の説明をしながら、各ポイント毎に付近の数箇所で食してきたらしい銘菓の感想を自慢げに語り始める兄の頭上に再び弟のハリセンが炸裂するのだった。