今、歴史を創る?前夜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/20〜11/26
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●本文
遅れて会議室に入った俺に視線が一斉に突き刺さる。 が、それも一瞬のこと、一同の注意はすぐに直前の話題に戻ったようだ。
「で、なんとかならんのかね」
「はぁ、先生すっかりご機嫌を損ねちゃってまして、デザインを勝手に使ったら訴えるとまで‥‥」
ここまで聞いてようやく何でもめているか察しがつく。
新しく始まる『今、歴史を創る?』と言う番組で使うはずだったスタジオのセットが、先日のNW騒ぎで壊滅状態になってしまったのだ。ところへ折悪しくデザインを担当した大先生が、当日完成するはずだったセットをぶらりと様子見に立ち寄ったらしい。
普通に局内の美術さんに任せていればなんのことはないものを、プロデューサーが酒の勢いなのかその道の大家として名高い某先生にデザインを依頼してしまったと言うわけだ。
大先生曰く。
「デザインはボクにとって子供と同じなんだよ! こんな粗末な扱いをする連中に託すわけにはいかん。金なんぞいらんから全て引き上げさせてもらう!」
しかもこの先生困ったことにただの『人間』ということで本当の事情を説明するわけにも行かない。そうこうするうちに話はすっかりこじれにこじれてしまい、最初の会話へとつながるわけだ。
デザインといっても大学の先生や歴史小説家などのゲストを呼んで箔をつけるためのスタジオセットと、『時空研究所』なる所がタイムマシンを使ってその時代に行って調査するドラマ仕立ての部分の研究所のセットである。
研究所のタイムマシンもどこかで見たようなエレベーターもどきの代物なのだが、当然そんなことを指摘するやつがいるわけもなく独創的とかなんとか絶賛したことは想像に難くない。
放送予定の時間帯にやっていた番組は既に最終回まで収録済みで製作チームも既に解散してしまっている。残りの放送回数を考えれば新番組の収録もとうに始まっている時期なんだが‥‥。
「まぁそんなわけだからさ。千葉ちゃんそっち方面の人集めよろしくね」
「へっ?」
俺が出る幕じゃないだろうとタカをくくってぼんやりと話の流れを追っていたのだが、突然振られて思わず間の抜けた声をあげる。
(ち、ちょっと待て〜なんで下っ端ADの俺がそんなことまで‥‥)
などと、口に出して言えるわけもなく、あっけにとられている間に次々と「よろしくっ」とか「それじゃさっそく」などと言われて早々に部屋を追い出された。
よく考えるとホントなら俺みたいな平々が会議に呼ばれること自体そうそうあるもんじゃない。ってことは最初からおっさんの差し金か。
なにを考えてるんだかわからないが、先日のNW騒ぎの裏で見せた手並みからするとただの変態スケベ親父と言うわけでもなさそうだ。どうやら見かけの性格とは別にそっち方面での手腕を買われて、割りとお堅い印象の強いうちの局で今の地位にいるのかもしれない。
龍のやつも暫くは病院から出てきそうにないし、局内のスタッフもあらかた次の仕事が詰まっていてたいして当てにできない。
(俺っていったい‥‥)
もしかしたらおっさんにすっかり見込まれたのか、などと考えつつ新たな話題が聞こえ始めた会議室を背に歩き始めた。
●リプレイ本文
集まった一同を前に、なし崩しにセットの製作を一手に押し付けられてしまった新米ADの千葉は思案に暮れていた。
「ちっこいですが、頑張りますよ〜!」
そう言ってニコニコしている月見里 神楽(fa2122)なのだが、ちょっと見ると小学生のようである。本人に確認して14歳だとは判ったものの、多少なりとも危険を伴う作業の性格上18歳未満の学生を雇ったとなるとかなりまずいことになる。
「ホントは、番組のテーマ曲でバック演らせてもらうんでセットのイメージでも掴もうと思って来たんだけど‥‥」
皆まで言わせず神楽の肩をいきなりガシッと掴む。
「そっ、それだ! キミは今からミュージシャンだよ! いいねっ!」
いきなりアップで迫られ、訳も分からずに首をコクコクと振る。
どうやら現場の作業に中学生を雇うのはまずいが、たまたま居合わせた芸能関係者が手伝うということならばいいと言うことらしい。実態は何も変らないのだが。
「そうすると私もなのか?」
2人のやり取りを聞いていた紅・天華(fa1215)が訊ねる。
17歳と言うことで神楽より2時間ほど長くは居られるのだが、許可が下りている局内であっても11時が限度と言うところだ。
「NW騒動でセットが大破、か。大先生の言葉も分からない事も無いが、ついてないねぇ。ま、ギリギリの作業にはなるがバッチリ良い物作るから期待してな」
話は一段落と見たのか、そのやりとりをニヤニヤしながら眺めていた黒澤鉄平(fa0833)が声をかける。
「いや、確かに俺だって自分の撮った写真破かれてたりしたら腹立つけどさ。 大人げ無いよ大先生‥‥しゃあない、やるしかないでしょっ!」
黒鉄の率いる職人集団、Team【極】に所属するカメラマン、有珠・円(fa0388)も同情的な口吻をもらす。
「千葉はん、大道具のコンや、あんじょう頼むわ」
数日前まで2人と共に深夜の音楽番組で使うセットを作っていた紺屋明後日(fa0521)とトシハキク(fa0629)も自己紹介をした。それぞれ、劇団『明天』と裏方集団『Propman』で大道具を担当しているらしい。
「俺は力仕事が特に好きだが、基本的にどんなことでも挑戦していきたいんで、遠慮なく声をかけてくれ」
若いジスは実際の舞台設置を通じて大道具としての技術を学んでいる最中である。
「本職の美術さんに大道具さんか‥‥『研究所っぽい建物』というと、銀色でやたら、硬質的なイメージがあるんだけど‥‥まっ、デザインそのものは任せるぜ」
「ふふ〜ん♪今回のお仕事はセットの制作なわけね? 確かにデザインとかは私のでる幕じゃなさそう」
自己紹介を聞いていた久遠・望月(fa0094)がそう言うと、真神・薫夜(fa0047)も苦笑しながら頷いた。
「ほな、頑張って仕事終わらせよか」
スタジオに案内されると、黒鉄、コン、ジスの3人が中心となってセットデザインの検討が開始された。
ここに来る前に入院したままの海神を見舞って来た黒鉄が病室で聞いてきた前のセットの内容や参考意見などを伝える。
打合せの結果コンが研究所内の施設を、ジスはタイムマシンとその周辺の風景作りを、意見の調整を引き受けていた黒鉄はゲストスペースをメインで担当することになる。
カメラワークの視点から出されたアリスの意見で、会議室風のゲストスペースは土台ごと研究所の手前に移動する仕掛けになる予定だ。
「そういや、未成年もおるさかい、もし手ぇ足らんかったら局内の人にも、ちぃとばかし手ぇ貸してもらおか、納期までに終わらんかったら事やしな」
「そっちの方は千葉君に当たりをつけてもらってるから、俺の方で挨拶してくるか」
デザインが決まり3人が図面を引き始めるとアリスは局内のほかの現場を回り始めた。加工組立が始まれば、さすがに今いるメンバーだけで手が足りないのは目に見えている。
シナリオライターながら「学校際の時には、これでも裏方仕事が得意だったんだぜ!」と自慢する望月や、高所作業なら得意だと言う神楽はともかく2人の歌姫はどう見ても作業員向きではない。
「飯食ってる暇あるかなぁ?」
ぼやきながら千葉に教えられた別のスタジオに赴くとこちらはなにやら時代劇風のセットを作っている最中らしい。責任者を捕まえて事情を説明する。
「おぅ、助っ人ってのは兄ちゃん達か。すまねえな、こっちも後の仕事がつまっててよ。いざとなったら若いのに何人か掛け持ちでやらせるから何時でも声をかけてくれていいぜ」
話は聞いているらしく二つ返事で協力を約束する。いつも仕事が残っててもさっさと帰る件のバイトが海神の手伝いを買ってでた時点で怪しいと気付いてりゃなあ、とぼやきながら作業に戻っていった。
人の手当てがすむとスタジオに一番近い控え室を借りて仮眠室の準備を始めた。コンは寝袋持参らしいがそれだけでは足りないので毛布や目覚ましも掻き集めてくる。
そうこうしている間に黒鉄はデザインが上がった部分から、必要な資材を集めにかかるよう指示を出す。おおかたは天下のCETの倉庫からかき集められそうだが、在庫のないものも結構ありそうだ。
出入りの業者に発注だけすれば届けてくれると言う千葉に、話を聞いていた天華が詰め寄る。
「今時言い値で買うなどと言う法があるものか。自分の懐が痛まぬからと言って無駄遣いはいかんぞ」
腰を超えるほどの金髪にピンクがかった赤い瞳と、黙っていれば西洋人形のような少女なのだが、口を開くととたんに時代劇のお姫様状態になるらしい。
独特の眼光に押されたのか単に美少女に弱いだけなのかは不明だが千葉はあっさりと兜を脱いだようだ。
どうやら業者に直接交渉するつもりらしく、千葉に主な出入り業者の所在をリストアップさせる。
「必要なものは‥‥材料だけなく副資材も必要じゃな」
倉庫で調達した部材がスタジオに運び込まれると、3人が図面引きを続けている間、アリスは頼んでおいたスタッフの陣頭指揮を執って加工に取掛った。
望月も「本職には負けるけど」などと言いながら部材運びや加工に精を出す。
足場が組まれると、頭上の猫耳に猫尻尾という半獣化状態の神楽も軽業を生かして高所作業などを手伝う。
日中のこととて中には『人間』のスタッフもいるのだが、そこはそれ「友達に流行りと勧められたんだけど、可愛いかな?」などと無敵のお子様スマイルで軽くごまかす。
時分どきになれば、高所作業中で降りてくるのがやっかいなスタッフにも差し入れをして回る。
「お兄さん、お疲れ様です〜。えと、これで少しでも疲れ取ってください♪」
にっこり笑って飲み物などを手渡すと、空き缶などもこまめに回収していく。
一方資材の調達に出た天華は業者との交渉に当っていた。歌姫2人がいきなり交渉にいっても相手が混乱するだけなので千葉も引っ張り出されている。
「高い! もう少し安くならんのか? まとめてこれだけ買うからせめて8がけだな」
普段と違う展開に面食らっている担当者を容赦なく値切り倒す。 背後では千葉が天華の目に留まらないように気を遣いながら、頭の上で手を合せて担当者に拝む真似をしている。
業者で揃わないものは近場のホームセンターへも調達の足を延ばす。こちらはしがらみもないせいか、千葉も値切り交渉を楽しげに眺めていた。
「というわけで、これだけ此処へ届けておいてくれ」
容赦なく値切り倒した後に、これまた手加減なく搬入先まで指定して唯で届けさせ、「うむ、直接交渉は大切だな」などと悦に入る。
その後、薫夜の買物も経費削減を合言葉にこの調子で値切りまくると意気揚々と局に引き上げていった。
夜になるころには図面もあらかた仕上がり、手伝いのスタッフを交えてコン達が図面を囲んで相談しながら作業を進めている。
「月見里と紅はそろそろ帰さないとまずいんだろう」
作業の手を止めた黒鉄が千葉を呼んで促す。ついでに「女の子が大好きなのは解るがな」とニヤリとしながら肩をたたくと、あたふたと言い訳をしながらも天華と神楽の元に帰宅を促しに近付いていった。
その後も作業は続く。スタッフをいくつかに組分けして作業を分担させ、分割できるセットを一つ仕上げては次、と言うように確実に仕上げていく。
コンと黒鉄が指揮を執り、アリスが要所でサポートに入る。
研究所内の小物などを担当するジスも、飾り付けのベースになる施設本体ができるまで少しは手が空くため、あちこち声をかけながらほかの者の仕事を積極的に手伝っていた。
自分の技量を上げるためか、時折作業方法をメモしたり、持参したビデオカメラで作業の様子などの撮影もしていた。
夜半になると、暫く姿を消していた薫夜がおにぎりと豚汁を持ち込んでくる。泊り込み用の炊事場を借りて炊き出しをしていたらしい。
「おなかがすいちゃ力もでないでしょ? 女手ってのいうのは、こういうためにあるものよ」
などと若いに似ず古風なことを口にしながら給仕をするあたりは、やはり家庭の躾とでも言った所か。食べた後を片付けようとするスタッフにも作業を進めるように促してせっせと後始末を引き受けている。
翌日も学校が終った後の神楽や、天華も加わってさらに作業は続く。
頼んでおいた部材も全て揃い、研究施設に置かれる小物などの製作も始められた。
ジスの発案で書棚に並べて雰囲気を出すための「時のパラドクスに関するレポート」など専門書らしき分厚い本、「歴史全書」や百科事典の類、「時空学会会報」などの架空の雑誌も作られる。
一部には視点を変えるために隠しカメラを設置できるような構造にしたものも用意された。
ジスは力仕事に向かなそうな女性2人に指示だけ出すと、自らは組立作業の手伝いにかかった。
背景となる研究室や可動式のゲストスペースなどの大物が次々と完成すると共に、手伝いのスタッフも追々本来の現場に引き上げていく。
残り少なくなったスタッフと迫ってくる納期に、しまいには交代で一時間半ずつの仮眠を取るだけで作業を続けた結果ようやくセットは完成した。
「さて、こんなもんでどうだ?」
黒鉄がやれやれと言うようにアリスに声をかける。もっともこれで終わりと言うわけにはいかない。動かすセットの動作チェックやカメラ撮りの最終チェックが残っている。
「開かないドアなんて大問題だしね」
準備をしながらアリスも千葉に集めさせた番組のスタッフに笑顔を向ける。実際にセットを動かすスタッフにも説明しておかない訳にはいかない。
司会や研究所の所員などの役もスタッフや手の空いたメンバーに割り振りカメラテストが始まった。
コンが担当した施設中央の「タイムマシン」は奥に向って押し開かれる重厚な造りのドアである。
メタリックな外観で周りの壁にはコードが這い、モニターや計器類が並び、更にドアの上部には行き先の年代を示すための電光表示器が配置されている。
タイムマシンを囲むように近未来的なイメージのオペレーター席が配置され、ディスプレイや操作卓が並ぶ。
所長以下所員達の席の背景にはジスの担当した書棚や小物が配置されている。所員の席に無造作に放り出された「時空学会会報」には毎回の調査の発端となる『ネタ』記事が掲載されることになった。
オペレーターの操作で電光表示板に行き先の年代が表示されると、効果音と共に扉が開きスモークに覆われた空間が現れる。時空調査員達はこの中に飛び込んでいくのだ。
研究所の照明が落とされるとゲストスペースが正面にスライドしてくる。移動してきたフロアには司会者やアシスタントの座る机とゲスト用の机が立体感を出すためハの字型に配置されていた。背後には解説に使用する巨大なスクリーンが設置され、周囲には背景に沈んだ研究所の機械類が点滅している。
全体的に抑えられた照明の中、人物周りだけがスポットライトを当てられていた。司会とゲストの話を挟みながら、スクリーン上には調査員達が踏み込んだ過去の時代での出来事がドラマ仕立てで展開されていく予定だと言う。
一通りの動作を確認すると、曲のスタッフにアリスも加わってカメラを回して邪魔になりそうな物、場所をずらした方がいい物をチェックしていく。
局のスタッフが引き上げた後も、メンバーだけが残って配置の微調整など最後の仕上げに余念がない。既に引き渡しの期限は明日に迫っていた。
「畜生、明日は死ぬほど寝てやる」
そんなことを口走りながら、アリスも夜を徹して最後のアングルなどを調整して回っていた。
翌日、司会やアシスタントも含めた本番スタッフが集まって説明を受けながら最終チェックが行われた。
説明を終えて、スタジオの隅に集まり欠伸を押し殺しながら様子を見守るメンバーの中で、神楽は着々と出来上がるセットを見ながら固めてきた演奏のイメージを完成に向わせていた。
他のメンバーが後片付けをする中、仮眠室に潜り込んでいた徹夜組もようやく這い出してきた。
「どないな番組になるんやろな。ええもんにしてや、千葉はん」
掃除などもあらかた終ったようで、先に起きだしたらしいコンが千葉にはっぱをかけている。
(良い人たちとめぐり合えて良かった。また一緒に仕事できたら良いな)
そんな様子と完成したセットを眺めながら、ジスは一人思いを廻らしていた。
最後に起き出してきたアリスは、帰り際に千葉から「大先生のセットデザイン」などを入手する。
それから暫く経ったある日、いつもの事務所にいたアリスは千葉から一通のメールを受け取る。
ディスプレイを眺めて1人悦にいるアリスを黒鉄が怪訝な面持ちで眺めていた。