【PSF】レガッタヨーロッパ

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/20〜09/24

●本文

 WEA主催の『Powerful Sports Festival』が開幕し、数日前からさまざまな競技が行われている。
 テームズ川で行われるボート競争と言えば春先に行われるケンブリッジ対オックスフォード戦が有名であるが、今回『Powerful Sports Festival』の中でもボートレースを開催することになった。
 とは言え芸能人による運動会企画ということもあり、本格的な競技規則に則ったものと言うより、あくまでもバラエティ要素の強いものとなる。
 使用するボートも競技コースやルールも色々な種目から寄せ集めた番組オリジナルのイレギュラーな組合せとなるこの競技の参加者募集が開始された。

●競技内容
・種目:カナディアンペアによるフラットウォーターレーシング500m
カナディアンペア:
 二人の選手が立てひざの姿勢で進行方向に向かって座り、片側の端にブレードのついたパドルで艇の片方だけを漕ぐやつです。舵はは付いていないので漕ぐと同時に方向を調えることになるって、真っ直ぐ進むだけでもけっこう難しそう‥‥。
 息を合わせて乗り切りましょう。
(基本は二人一組、赤・白の組分けで人数が奇数になった場合、NPCで補います)
フラットウォーターレーシング:
 通常湖面などの流れのない静水面で行うものですが、今回はテームズ川を遡っていただきます。

●今回の参加者

 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0521 紺屋明後日(31歳・♂・アライグマ)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa4042 蕪木ラシェイル熊三郎萌(27歳・♂・アライグマ)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●乗り心地の程は‥‥
 ボート乗り場に集まった一同はまず赤白に分かれると、同乗するペアを決定する。
「大道具やっとる、コンや。あんじょう頼むわ。一緒に頑張っていこか」
 撮影技師で写真家でもある蕪木ラシェイル熊三郎萌(fa4042)と組むことになった紺屋明後日(fa0521)が相方に手を差し出す。
 身長も同じ、見たところ体格もそう変らない二人ではあるが、日頃力仕事に従事しているコンと、スタジオ撮影がメインらしいラスカルでは体力に大分差が出る。高所での作業も多いせいかバランス感覚や身軽さも同様。
 パドルを漕ぐスピードと力強さは参加者中でも屈指と目される烈飛龍(fa0225)と犬神 一子(fa4044)のペア。
 共に隆々たる巨躯だが、アクション俳優であるフェイロンのほうがやや体力と敏捷性のバランスに富み、裏方であるわんこは体力に勝る。
 一方で女性ペアの深森風音(fa3736)と四條 キリエ(fa3797)の二人、お世辞にも運動が得意とはいえないのだが、そこは他のメンバーにせよ初心者ばかりと言うことで練習あるのみと意気込む。
 更に体力的には二人とさほど変らないがバランス感覚では上を行く高白百合(fa2431)は、組み合わせの関係でフェイロン達を上回る巨漢とペアを組むことに――当然パワーだけはあるわけだが‥‥。
「カヌーやセーリングやったらやったことあんねんけど、カナディアンペアははじめてやな、なかなか難しそうや」
 係留されたカヌーと、番組が頼んでおいた指導員達の実演を見比べながらコンが感想を口にすると、相方のラスカルも不安そうに頷く。
「ボートは高校ん時にいっぺんだけ学校で乗りましたね。一人乗りの‥‥カヤックっちゅーんですか。‥‥転覆しましたけど‥‥」
 良く見かけるカヌーは船底に腰を下ろして足を前方に伸ばすのだが、カナディアンの場合片膝を立てて漕ぐ為どうしても重心が高くなり、艇が転覆する前に乗り手が川に落ちそうである。
「まずは真っ直ぐ進めるようにすることだろうな」
「みんな初心者みたいだし、先ずは体験! レガッタでシマッタじゃなくて決まった! になるよう頑張ろう♪」
 精悍な口元に笑みを浮かべるフェイロンの言葉に、キリエも相方の風音に笑顔を向けながら気勢を上げるが‥‥。
「「「‥‥‥‥」」」
 一瞬、ひゅるり〜と吹き過ぎて行く冷たい川風と一同のいくぶん引き攣った笑顔に気付き、あせりながら笑顔で取り繕う。
「やってみない事には何処が拙いかも分からないし――って、良いとこ探す方が難しいかも」
「とりあえずどういったものなのかを体験してみよう」
 相方の風音もフォローをいれ――そんなこんなで簡単な説明の後、ライフジャケットを受け取ると、それぞれ用意されたカヌーに乗り込んで川面へと漕ぎ出した。
「だー! ぶつかるぶつかるー!」
 さっそく沸き起こるラスカルの悲鳴、少しづつ間隔を空けて漕ぎ出してはいるのだが、初心者揃いの事とて、そうそう真っ直ぐに進めるはずもなく‥‥。
 何人かの犠牲者(?)を出しながらも各艇がどうにか出発地点へと戻ってくる。
「いやあ、なかなか難しいものだね」
「普通のカヌーみたいに腰落ち着けられへんし、なんか腰いわしそうやな」
「さすが島があるような川は大きいて深いわー」
 口々に初挑戦の感想を漏らす風音やコンに混じって、濡れ鼠のラスカルも一言、渡されたタオルで頭を拭う。
 一旦岸に上がった一行は、それぞれ練習の方針や前後の配置などを話し合うが、図らずして全艇体力に勝る者が後ろという配置に落ち着き、改めて練習を再開。
「最初は転覆した時の脱出法の練習でしょうか」
「あっ、それ多分重要だね。あとは基本的なパドリングと方向修正。流れを遡る感覚なんかも掴みたいな」
「ライフジャケット着てりゃ、沈しても大丈夫やし、沈すんのは怖がるもんでもないしな」
 わいわいと賑やかだ。数日でなんとかレースに持っていくためやらなくてはいけないことも多い。
 それぞれが目一杯力を込めて漕ぐと真っ直ぐに進めないことが判ったフェイロンとわんこのペアは、体力の劣るフェイロンにペースを合わせて何はともあれ『直進』することを目指す。
 針路を確かめながら最初はゆっくりと漕ぎ出し、互いに息を合わせながら徐々にスピードを上げていく。
 油断するとたちまち舳先が見当違いの方角に寄っていくので、その度にゆっくりと確実な軌道修正を心がける――スピードは落ちてしまうがやむをえないと嘯く。
「こういう競技の場合、慌てれば慌てるほどドツボに嵌るものだからな」
 一方、小柄な上に体力も自身が無い百合は、巨漢で体力抜群の相方となんとか息を合わせようと苦心していた。
「タイミングがあわなければ1+1が0.1になりかねないと思います。いっち、に、いっち、に、とかけ声をかけてタイミングを揃えましょう! そうしたら1+1が2.5くらいになるかもしれませんし!! あ、でも、私は1じゃなくて0.5くらいですからあわせて2を目指すのが現実的かも‥‥」
 体力だけで言えば百合が0.5なら相方は10倍くらいになりそうなので、互いに全力を出してしまうと一箇所を堂々巡りすることにも‥‥。
 幾度かの往復の後、スタートで後塵を拝することになると、蛇行する先行艇に道を塞がれたり、先行艇の起こす波の影響を受けたりすることに気付いたコン。
「スタートダッシュの練習もやった方がええかな?」
 などとラスカルに相談を持ちかけている。
 午後も回り、授業を終えたらしい学生などのグループも姿を見せ始めると、風音とキリエのペアやわんこらは上手そうな相手を見つけては、漕ぐ時のコツでも伝授してもらおうと気軽に声をかけ、一緒に練習に混ぜてもらう。
 やがて陽も傾き始めると、初日から飛ばしすぎても筋肉痛で死ぬかもとラスカルから告げられたコンや、息をそろえるため宿も相部屋をとっており、色々と目論みもあるキリエ・風音ペアなどが次々に宿に引揚げ始める。
 そんな中、身体能力に自信のあるフェイロン・わんこペアは、反復することで体が自然に覚えるだろうと踏んで暗くなるまで貪欲に練習を続けていた。

 揃って夕食を済ませ、部屋に戻ったキリエは持参したノートを立ち上げると、操艇技術に関する資料収拾を始める。
「ずいぶんと器用なのだな」
「予定通りはいかないだろうけどね」
 続いて天候・風向き・流水速度などの予想からレース展開を導き出すシュミレートをやり始めると、作業を見守っていた風音が感嘆の声を漏らし、キリエも笑いながら応じた。
 更に風音が借り出してきたレースのビデオを揃って見ながら見取り稽古をしたり、タイミングの練習と称してやはり風音が持ち込んできたリズムゲームに興じたりして過ごす。
 順調に漕いでいる時には一定のリズムさえ崩れなければいいのだが、波などでタイミングがずれた場合などに再びリズムを取り戻す役に立つのではないかとの考えらしい。
「‥‥何だか遥か遠い昔の学生時代を思い出すな」
 やがてベッドに入って話し込んでいたキリエがふと漏らす――さほど歳が離れているようにも見えない二人なのだが、さて‥‥?

 翌朝、試合当日に照準を合わせて体調などを最高の状態に持っていこうと、前日も早めに床に入り充分な睡眠をとったラスカルは、次は健康的な食事と言うことで宿の食堂でフレッシュジュースを口に運びながらコンに薀蓄を披露していた。
「朝の果物は金言いましてね」
 やがてボート置き場に集まった面々は、再び思い思いのメニューで訓練に取り掛かる。
 ラスカルも「どんどん乗って慣れていかなあかんな」と言うコンに置いていかれずに漕げるように準備運動や軽いトレーニングを繰り返す。
 百合は体格も体力も段違いの相方とどうにかしてバランスを取り『2人で全力でこいでも直進する配置』を見つけ出そうと試行錯誤を続けている。
「ともかく二人で息を合わせ、テンポ良いバドリングに的確な方向修正、進行方向に目標をしっかり決めて漕がなきゃね。綱引きとかと一緒で掛声かけながら頑張ろ♪」
 相変わらずテンション高めのキリエ、「しーろー! 勝ー利!」などと周りがやや脱力しそうな掛声を掛けながら練習に精を出す――尤もこの点コンなども「リズム合わせるために声も出していかなあかんな」とほぼ同意見ではあるのだが。
 腕で漕がずに体幹を軸にひねりを利かせ、足を踏ん張って体全体で漕ぐ様子は、夜の研究の成果か幾分さまになってきているようだ。


●そして、当日‥‥
 どうやら天候にも恵まれ波も穏やかな中、いよいよ本番。
 中継カメラが出艇前の選手達の様子を映し出し、レポーターがそれぞれの選手にマイクを向ける。
 一号艇の前を受け持つフェイロンも自信有りげに笑顔でインタビューに応じていた。
「相棒の足を引っ張らないように、それだけを考えている。
 結果は努力すれば自ずと手に入れることが出来るだろうからな、まずは楽しませて貰う」
 その相棒はと言えば、バラエティということもあり、軽量化と称して上半身裸にライフジャケット、そして褌一丁と言う出で立ちで鍛えられた肉体を誇示していた。
 2号艇は、白地にGreenのポイントラインで統一し、白組と二人の色をアピールするお揃いのヘルメットとウェアを準備したキリエと風音のペア。
「息を合わせるのに形からもって事で‥‥。後は練習を思い出し楽しく行こうね♪」
 揃いのユニフォームに話題を振られたキリエが満面の笑みをカメラと相方に向けると、風音も穏やかな笑顔で淡々とインタビューに答える。
「勝負をするからには勝ちたいんだけど、基本的には楽しくやれたらいいなと思ってるよ」
 一方、3号艇の前を担当するラスカル、早朝から熱いシャワーで気持ちを引締め、ベストコンディションで挑んではいるのだが、心ここにあらずと言った風情でカメラに映っているのにも気付かず。
「転覆は免れたい! 転覆は免れたい!!」
 と念仏のように唱えている。後ろに乗る相方のコンも。
「最初、前に出れたらあとは楽そうやけど‥‥まぁ、なるようにしかならんな」
 などとやや達観したようなコメント。
 4号艇に乗る百合達も、「ともかくバランス重視で頑張ります」と決意を語った。

 号砲一発、各艇は一斉にパドルで水を掻きはじめた。
 ボートレースでは先頭に出たほうが前のボートの起す波の影響が無いので有利だということで、全員がスタートダッシュに狙いを定め、出来る限り前へ出ることを目指したのだが、やはり地力に勝るフェイロン・わんこペアが一歩抜きん出る。
 やや遅れてラスカル・コンのペア、更にキリエ・風音ペアと百合達のペアがほぼ併走する形。
 先頭艇のわんこは真っ直ぐ進むように前のフェイロンに力加減を合わせながらも、最初からガンガン飛ばし気味で漕ぎまくる。
 それを追いながら、コンに力負けして進路が曲がっても困るとラスカルも張り切り過ぎない程度に張り切って、呼吸をしっかり取り、息を吐くときに掛声をかけつつリズミカルにパドルで水を掻く。
 力の無さを、練習したフォームと掛け声で息を合わせることで覆そうとし奮戦するキリエ・風音のペア。
 百合達と抜きつ抜かれつしながらも先頭の2艇に食い下がる。
 暫くの間はそのまま推移するかに見えたが、やがて他艇のスタミナが切れ始めたのかじりじりと先頭を行くフェイロン・わんこの艇が差を広げ始めた。
 結局、赤組フェイロンとわんこの艇が他の追随を許さず順当に圧勝。
 同じく赤組のラスカルとコンの艇が2位に着け、何度も抜かれながらも白組のキリエと風音の艇がかろうじて赤組の百合達の艇を振り切ることに成功した。
「素直に嬉しいな、これも良い相棒に恵まれたおかげだ」
 優勝後のインタビューに応えたフェイロンは、カメラに向ってわんこと硬い握手を交わしながら差し出されたマイクに嬉しそうに語るのだった。