青空POPs VIアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/25〜09/29
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●本文
いつもは応募者からのメールチェックなどでディスプレイとにらめっこのはずの本間が、珍しくあちこちに電話をかけまくっていた。
基本的には、テレビ局やレコード会社あるいは大手のプロモーターなどの後ろ盾無しに、大手プロダクションに所属していないミュージシャン達が主催しているミニライブなどに出向いて行って生中継でライブの様子を紹介する番組なのだが、今回は近場でライブスペースを用意することにした関係もあって色々と手配が必要になっている。
「出演予定のコ達の方もスケジュールのチェックOKよね?」
通常なら金曜の夕方にいきなり生放送でライブを中継に向えばいいのだが、今回月曜から場所だけは確保してあって、最終日の夕方が本ステージの生中継ということで、多少練習などの日程も入っている。
「はい‥‥大丈夫です」
いつものバイトがスケジュール表を確認しながら応える。
「こっちの手配の方もあらかた片付いたし、あとはどんな歌が集まるか楽しみね」
「テーマは『秋の気配』でしたね」
「うん、もちろん『秋』って言っても物静かなばかりのイメージってことじゃ無いけどね、WEAの肝いりで芸能界は世界を結んだ大運動会の真っ最中だし」
準備もようやく一段落する中、そんな取り止めの無い会話が続けられていた。
●リプレイ本文
ステージに顔を出そうとした本間は、今回司会に加えて演奏でも参加する音楽プロデューサーのスモーキー巻(fa3211)に呼び止められた。
「えーと‥‥確か巻さん、よね」
以前、新曲の公募を行った時の記憶を呼び戻して応える。
「実は、バックミュージシャンを用意してもらいたいって言う人がいるんだけど‥‥この人はどうだろう」
調べておいたらしいアイベックス所属のスタジオミュージシャンの何人かを挙げた。
事務所などに連絡をとり、OKが出たことを確認するとステージにいる姫月乃・瑞羽(fa3691)に声をかける。
「今回は精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
駆け寄って来た瑞羽は本間に気付きやや畏まった挨拶。スモーキーから交渉結果を知らされると屈託の無い笑顔を見せた。
「巻さんありがとう。これで歌う事に専念できるよ」
ステージに散っていた面々も集まってくる。
「UNだ。この番組は初めてだな、宜しく頼む」
「大河だ。UNと一緒にGokokuとして参加するぜ。青空POPsはでてみてーと思ってたもんだから、自然と気合も入るもんだ」
番組に合わせてユニットを組んだUN(fa2870)と珂鴇大河(fa4406)も名乗りをあげる――実りの秋や美味しい秋がキーワードになったと言うだけあってユニットのネーミングもなにやら美味しそうだ。
ボーカル担当のUNとショルダーキーボードでバックを勤める大河は初見らしいが。
「UNの事はいいやつだってうちのリーダーから聞いてたからな、実は一緒に演れてスゲー嬉しかったりする」
「この仕事が初見なんだが、ノリのいいやつで曲作りも楽しかったしな。モチベーションあげて、本番が良いものになるように頑張ろう」
と、既にすっかり意気投合しているようだ。
その場を外していたらしい菜姫 白雪(fa4526)も姿を見せ挨拶すると、スモーキーから伴奏の手配が付いたことが告げられた。
この番組には何度目かの出演になる畑下 雀(fa0585)もおずおずと挨拶する――毎回ステージ衣装は露出度が高めなのだが、本番では無いので今日は普通の服装のようだ。
「あの‥‥お世話になってます‥‥この番組で新曲を初めて歌うことが多いので‥‥だから‥‥この番組も大好きなんです‥‥デボ子みたいなのが出演するのは‥‥ご迷惑かも知れませんけど‥‥‥‥」
「そんなことないわよ。もっと自分に自身を持たなくちゃ」
いつもながら自信なげに語るデボ子に、本間も言葉を励ます。
芸能界入り自体は、母の言いつけでもあり自分の意志というわけでは無いらしかったが、常に半獣化して歌うことによる抜群の歌唱力もあり、母親お手製のステージ衣装――本人は毎回恥ずかしいのを我慢しているのだが――やトレードマークとなっている翼と共に巨乳アイドルとして独特の存在感を示している。
「でも‥‥歌うのは大好きなんで‥‥こうやって歌う機会を与えてくださってる本間さんには凄く感謝してます‥‥‥‥」
気弱そうな微笑を浮かべると練習の為にステージへと戻って行った。
「やっと会えたね」
挨拶が一段落するのを待っていたかのように亜真音ひろみ(fa1339)が微笑を浮かべながら声をかける――話したい事、話さなくてはいけない事が多いので、少し人がはけるのを待っていたらしい。
「おひさしぶりね。この前お友達から聞いたわよ。ご結婚おめでとう」
「あぁ‥‥ありがとう」
先を越されて、少しはにかむように頬を染めながら礼を言い、続けて最近結成したバンドの仲間――佐々峰 春樹(fa3267)を紹介する。
「バンド『Fragments』ドラム担当の佐々峰 春樹だ。よろしく‥‥」
「今回はスモーキーにもギターで入ってもらうから『Fragments with スモーキー』ってところかな」
緊張した面持ちで名乗るハルキに、ひろみが笑いながらリラックスするように促す。
「そ、そりゃあ初仕事で緊張してるさ、けど絶対成功させてやる。あねさんに恥をかかせないためにもな」
「いい子みたいね」
何気ない一言にハルキが反応する。
「子‥‥子供‥‥」
なにやら怪しげなオーラを放ち始めるハルキをひろみが慌てて宥めにかかる。
どうにか落ち着いたハルキが、少し離れたところで本番の司会進行に役立てるため参加者に曲のイメージやアピールポイントなどを聞いているスモーキーに向って歩き出すと、ひろみは苦笑しながら本間の耳元で囁く。
「童顔や背が低いのを気にしてるから、その手の発言はタブーなんだよ」
大河達と合流したハルキが他の出演者に、曲や練習の様子などを尋ねる声に混じって、曲への思い入れを語るあんの声が切れ切れに流れてきていた。
「歌詞の方も『冬に向かう季節』ではなく、その時にしかない輝きや実りの予感と、あとは命の塊のイメージだ。どれも抽象的なんだが『熱』を感じさせることができるように、気持ちを込めよう‥‥」
● 開演 〜 Take 1
本番当日――。
「これ私の作ってきたプリンなんだ、よかったら食べてね」
楽屋では瑞羽が皆に自分の作ってきたプリンの差し入れを配るなど、初対面のメンバー達もここ数日でずいぶんと馴染んできていた。
ステージの開幕を告げるスモーキーの紹介で最初に観客の前に姿を現したのは、菜姫白雪。
茶色のかぼちゃ帽子に山吹色とカーキ色のタータンチェックのワンピース、足元には焦茶色の革靴と言ういでたち。
「新人歌手の菜姫白雪です。緊張して手が震えてるけれど、今日は精一杯心を込めて歌います‥‥! みなさま、今日は宜しくお願いします」
会場に向って深々と頭を下げると、マイクを握ってまず曲への思い入れを紹介する。
「夕方に道端を歩いていたら鈴虫の歌声を聞きました。草むらでリンリン鳴く声は、自分に気が付かれなくとも、想いだけは届いて欲しいと‥‥切に祈るような声に聞こえます。
もしかしたら、そんな鈴虫に自分を重ねたのかもしれません。切なくて甘い恋心、陰からひっそり誰かを思う人なら共感出来ると思います。
私も、優しさを祈るように温かく包んで歌に乗せて届けたくて‥‥。だから、私も心を込めて歌を作りました。タイトルは『鈴虫』」
ピアノとウインドチャイムのシンプルな伴奏が流れ出す中、静かに微笑むと、祈るように両手に挟んだマイクに、ゆったりと声を吹き込む。
飾り気の無い無色のスポットライトの下、スローテンポな曲に合わせて優しい声が会場に流れだした。
「 草叢から聞こえてきた 消え入りそうな歌声が
小さな体を震わせて 天を仰ぎ歌う声
草が擦れ合い伴奏する 月明かりを浴びながら
ただ1人を想って鳴く 切なく甘い賛美 」
静かな流れから一転、切なげに声を高めると、舞い散る木の葉を受けるように両手を前に差し出し、遠くを見つめながら歌を重ねていった。
「 あなたにだけ あなたにだけ 聴こえればそれでいい
あなたにだけ あなたにだけ 届けたいこの歌声 」
ウィンドチャイムの余韻を残して歌い終えると、再び客席に向って深々と頭を下げた。
● Take 2
続いて登場したのは姫月乃瑞羽、コードレスのマイクを片手にブラックレインを身に纏い、首からハーモニカを提げてステージ中央に進み出る。
髪は左右それぞれに青と緑のリボンを使ったツインテール。
背後にはスモーキーに手配してもらったギターとキーボードとドラムの面々が並ぶ。
「今日お披露目の私の新曲『Lets Go!! My feeling』。秋の応援歌です」
曲の紹介と共にイントロが流れ出すと、アップテンポなリズムに合わせダンスステップを踏みながらとびきりの笑顔で自作の詞を紡ぎだす。
ステップの動きにつれ、衣装に施された銀糸の刺繍が雨が降るようにさざめく。
「 ボクは今日勇気を出す
いつものボクよりも 勇気を出す
あの人が見ているその前で
Let‘s go!
この晴れた秋空の下でボクは皆の為に力を出す
ゴールはもう目の前だ
さあ勇気を出そう
this is my obedient feeling 」
途中で髪のリボンを解いて観客席へと投げると、落下地点に集まる人の手でひとしきり細波が起き。
ストレートになった長い髪をふわりと広げながら間奏に合わせてハーモニカを演奏する。
自身の恋を鼓舞するための応援歌を明るく歌いあげた。
● Take 3
「続いての登場は、このステージのために結成したUNと珂鴇大河のユニット『gokoku』」
スモーキーの紹介に応じてブラックのカジュアルスーツをノータイでラフに着こなしたあんと、チャコールグレーのスーツを崩して着込んだ大河がステージに姿を現す。
「では、聞いていただきましょう! 曲は、『秋風』」
照明が茜や黄の暖色系の光で柔らかに包み込まれ、二人の姿がスポットで浮き出されると、大河のキーボードから予め入力した音をミックスした賑やかなサウンドが流れる。
ひとしきりの前奏に続いてバックの音が抑えられると、あんの声が会場に響く。
「 花の咲く季節 全てを賭した
命燃やす目映さが熱を上げ冴えていく 」
「 なくしたと嘆く前に 気がつけば実りの頃だった 」
前に押し出すように調子を強め、更に勢いを引き継ぐように力強くしっかりとした演奏に載せてあんの歌が流れる。
「 紅茶を映した並木に舞う風は
もうすぐ そっと暖かな窓の灯り恋しくさせる
早足の夜 迎えに駆けていく
酸いも甘いも なにもかも いつか
賑やかな足音は確信を連れてやってくる
左の胸の上あてた拳に 一つ予感の鼓動を感じて 」
演奏しながらステージ上を動き回っていた大河は、やがてあんと背中合わせになり――観客を沸かせると同時に自分達も演奏を楽しみながら少しずつテンポを落としていく。
引き伸ばされた最後の一音が不意に途切れ――。
「 なくしたと嘆く前に 気がつけば実りの頃だった 」
あんの声だけが夕闇の中に余韻を残し消えていった。
● Take 4
いつものように半獣化して母親の手作りになるステージ衣装に着替えたデボ子、鏡の前で最終チェックをしながら例によって涙目になっている。
灰茶のキャミビスチェに緑灰のボックスプリーツミニと言う組合せなのだが‥‥。
(「胸元‥‥大きく開いてます‥‥スカートの丈も短いです‥‥もう秋なのに‥‥」)
ステージから聞えてくる歓声が出番を告げると、気を取り直してステージに向う。
「それでは、畑下雀の新曲『サヨナラをください』をお聞き下さい」
スモーキーの紹介に続いて、哀調の漂うミドルテンポなイントロが流れ始めた。
「 サヨナラをください
あなたが好きだから
辛そうな微笑みはもう見たくないの 」
秋の切なさに女の子の悲しさと寂しさがを重ねて――。
「 サヨナラをください
わたしの心から
あなたを忘れる魔法をかけて下さい 」
会場に向って歌詞にこめられた思いを伝えるように歌い上げた。
● Take 5
最後を飾るのは、ここまで司会を務めてきたスモーキーも参加する『Fragments with スモーキー』。
このところの自分の演奏の腕のさび付きっぷりは身にしみていることから、半獣化に踏み切った――亀獣人であるスモーキーは背中に現れる甲羅とさほど長くも無い尻尾さえ誤魔化せればいいため、さして奇抜な扮装を必要としない――せいぜいちょっとゆったり目の衣装を身につけさえすれば済むのだ。
メンバーの紹介を終えると最後にひろみが曲目を紹介する。
「それじゃいくよ『Fragments with スモーキー』、唄うはこの唄『秋風』」
ハルキのドラムがリズムを刻み、スモーキーのギターがメロディーを奏でる――軽快なポップロック調の曲に乗せてひろみの歌声が会場に流れ出していった。
人を信じることが出来ずに一人でもがいている心の動きをたどった一番の歌詞は、間奏をはさんでがらりと趣を変える。
「 紅葉色付く街角
晴れ渡る秋の空に
ずっと一緒に居てくれると笑ってくれた
その笑顔が眩しくて
いつまでも離しはしないと強く心に誓った
差し出された手を受け入れた時
たとえ嵐が来ても大丈夫だと身を委ねた
今は吹き渡る風が温もりを与えてくれる
自分がここにいる意味も教えてくれる
そのままの自分でいい
初めて心が弛んだ瞬間
行くべき道は回り道でも一つだと知った
冬が来ても寒さに震える事はない
いつまでも離しはしないと強く心に誓った想い
この温もりはずっとそばにありあたしを暖めてくれる
これからもこの風を纏っていこう
新たな息吹と共に 」
ひろみの声が心を通わせた相手と共に生きる喜びとあたたかな思いをおおらかに歌い上げた。
●そしてまた‥‥
終演後の楽屋では後片付けをしながら互いにステージの成功を祝っていた。
ハルキが今回バンドに参加してくれたスモーキーに礼を言っている傍らでは、大河があんに向って。
「また別のどっかでも演れるといいな」
と、再度の競演の期待を語る。
この数日、暇を見つけては計画している自主制作映画や立ち上げたばかりのプロダクションことなど、尽きぬ思いを語ってきたひろみは、本間に向ってこう締めくくった。
「本間さんの言葉があったからあたしはここまで来れたんだ、ありがとう」