EtR:闇に蠢くモノ達ヨーロッパ

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 フリー
獣人 4Lv以上
難度 やや難
報酬 17.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/14〜10/17

●本文

 出演中の映画撮影がひと段落したルークは、WEAのサイトにアクセスしていた。
 無論表向きの顔である芸能協会ではない、遺跡やNWに関する保安情報を獣人たちに知らせる為の部署にである。
 WEAから与えられたパスワードを打ち込み、最新の記事を呼び出す。
 気にかかっているのは当然のことながら通称『オリンポス遺跡』――既に幾度か調査団が公募されて、いくつかの成果も上がっている。
 先日の大々的な調査でほぼ制圧された第一階層全体と、第二階層へ通じる通路の安全もほぼ確保され、調査のメインフィールドは砂地に点在する構造物群からなる第二階層に移っていた。
 そこには第一階層に見られたような壁画に加えて、多数のオーパーツも発見されている――それらは、この地に到達し、そしておそらくはその場でNWとの戦いに倒れたのであろう先人達の遺物であるのかもしれない。
 遺品の数が物語る通り、そこは数知れぬNWの徘徊する魔窟である。
 第一階層の制圧に投入された人員を考えれば、そうたやすく一掃できるものでもなかろう――数多くのいわゆるザコNWに混じって発見された中〜大型のNW討伐隊が投入され、標的を追い詰めはしたものの、後一歩及ばず撤退を余儀なくされたとの一報も上っていた。
 直ちに手傷を負ったNWを掃滅すべく第二陣の討伐隊が投入されている。
「ふっ‥‥今の状況なら以外と簡単に首を縦に振るかも知れんな」
 ルークがWEAに協力を申し出るのはあくまで個人的な興味からの遺跡調査がしたいため――WEAが獣人社会に公開している調査報告とは別の、ルークの個人的な目的を達成する手段が眠っている可能性を求めてのこと――と言う事実はWEAでも薄々気付いている。
 順調に調査が進んでいる状況であれば当然門前払いの可能性もあるのだが、調査以前にフィールドの安全確保さえままならない今の状況――いわゆる猫の手も借りたいというやつだ――からすれば断られることもまずありえない。
「次の撮影予定まではしばらくあったな」
 画面から顔を上げずに傍らに控えるマネージャーに確認すると、返事も待たずに言葉を続けた。
「ギリシャに飛ぶ手配だ。それと腕の立つやつを集めろ。少し遺跡の掃除を手伝ってやるとWEAにも伝えとけ。‥‥無論いつもの手はずもな」
 復命して携帯を取り出すマネージャーに向ってそう付け加える。
 暫くすると交渉を終え、結果を伝えた。
「数日後に遺跡内で見つかった遺物を調査に向う一団があるそうです。同行して露払いやら護衛も兼ねてもらえるかとのことで。承諾しておきましたが」
「ああ、入る名目は何でもかまわん。現場に行って状況が変れば臨機応変に対処するだけだしな‥‥遺物と言うのは?」
 鷹揚に頷くが、調査隊が向うと言う遺物にも興味をそそられたらしく。
「詳しいことは答えませんでしたが‥‥どうやら記録のようなもので、持ち出さずに内容だけ確認するとか、遺跡に関して何か解るのではないかと期待しているようですが」
「ふむ、なかなか慎重だな、この目で実物を拝みたい所だが、あまり妙な動きをして出入り禁止になっても困る。何か解ればいずれ公表されるだろう、楽しみに待つとするか」
 そう呟くと、ふたたびディスプレイに視線を戻した。

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa3034 牙龍(32歳・♂・竜)
 fa3116 ヴィクトリー・ローズ(25歳・♀・竜)
 fa4218 ゲオルグ・フォルネウス(37歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●闇の顎門
 陽光の下、黒々とした口を開ける地下遺跡への入口を眺めながら鶸・檜皮(fa2614)が呟く。
「この遺跡に来るのもこれで3度目か‥‥よくよく縁があるようだな‥‥」
「さーて、俺もこの遺跡は久々だが‥‥第二階層は一筋縄では行かないようじゃねえか?」
 頼んでおいた得物――2mほどの棒状の鋼材――を受け取ったヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が、重さを確かめるように軽く振りながら相槌を打つ。
 探索班が簡単な地図の作成などの下準備を行う間、護衛に当たる面々も方針を検討していた。
 いざと言う時に知友心話で連絡をとろうと考えている高白百合(fa2431)は、手すきの探索班員を捕まえて話し込んでいる。
 通常の連絡はトランシーバーを用いることにし、3台ほど持つヘヴィが貸し出しを申し出るが、どうやら探索班にも所持者はいるということで周波数を合わせて試験通話をするにとどめた。
「手帳と像と刀のあたり20メートルを中心とし、こちらの班でNWをできるだけ遠く、例えばその円の中心から半径が遠い壁側に集める。流石に全部集めるのは不可能だとおもうので集めきれず探索班のほうに向かったNWをこちらのトップクラスの精鋭の方々が処理する形でいかがでしょうか」
 河辺野・一(fa0892)が提案する――尤もこの辺りトップクラスの精鋭という人選が難しいところ、得物の破壊力で言うとルークを除けば河辺野自身の持つポセイドンの戟が間違いなく群を抜くし、格闘戦の力量ならCardinal(fa2010)に一日の長がある。
 だが、緊急に駆けつけなければならない事態になれば、足を取られる砂地を走るより時速60キロで飛べる他のメンバーの方が素早く対応できるのもまた事実なのだ。
 結局いざと言う時には高速で駆けつけられて戦力も高いヘヴィ、鶸、百合とルークのマネージャーが急行することになる――無論探索班とて丸腰では無いのであくまでも探索を邪魔させないことが主眼である。
 灯りも必要最小限に抑えるという探索班に対して、こちらはの一行は逆にわざと派手な動きを見せNW達をひきつけ可能な限り退治することを目指す。
 さらに河辺野からNWを集めて蹴散らす為の場所に『黄金の枝』を使った結界を張ろうという提案がなされ、レッドからはエリアの限定される探索隊の方に使用してはとの意見も出されたが、探索隊側でも同じ物を使用する計画があったことから各自の場所で使用することに。
「念のためだ、例の物をを配っとけ。使わなかったら返す必要は無い」
 ルークが声をかけると、マネージャーの手から戦闘に参加する面々に無色の液体の入った瓶が配られた。
 戦力が分離した時のためということもあって、百合はゲオルグ・フォルネウス(fa4218)にも以前一緒に仕事をしたことのある彼の子供たちの話題などを振って知己を通じておく。
「お子さん達、凄いです。なんとゆーか、対抗できないです」
 なにやら切々と訴えかけるような調子ではあるが、ゲオルグにすれば子供たちの活躍ぶりを褒められて満更でもないのだろう――尤も、自らの状況を省みれば喜んでばかりもいられないらしく自嘲気味に呟く。
「プロデューサー業に勤しめないこの現状‥‥さっさと打破せねばな」

 下準備を終えた探索班が動き出すと共に、護衛に当たる面々もそれぞれの得物を手に腰を上げた。


●第二階層
 ぼんやりとした探索班の灯りを見失わない距離を移動しながら飛来するNWを逐次叩いていく。
 始めは散発的だった襲撃も四方に拡散するランタンの灯りに誘われるように徐々に数を増し始めていた。
「完全に殲滅は無理だが、近寄らせない位はどうという事は無いようだな」
 探索班との連絡を聞きながらゲオルグが呟く。
 やがてトランシーバーを通して元気一杯の少女の声が探索開始を伝えると一行は針路を変える――効率よくNWを退治するため、最寄の壁を背に態勢を整える為だ。
 壁に到達した一行は襲来するNWをあしらいながら壁周辺を一通り調べる――戦闘となれば多少なりとも被害が出る為、壁画などあると不味いのだが――どうやら単なる壁らしく、戦闘の痕と思しき傷も見える。
 やはりここでも過去に獣人とNWの戦いがあったと見え、砂の中からはいくつかの遺品らしきものも掘り出された。
「それじゃ、一回りして来ます」
 レッドとヘヴィを中心としてそれぞれの外側に百合とルーク、上空には鶸他一名という布陣の中央に黄金の枝を立てて念を凝らしていた河辺野が戟とメガホンを手に壁面に立ち上がる。
 ヘヴィは持参したランタンを後方の壁際に置き、灯りの前に仁王立ちで得物の鋼材を構え、更に光を拡散させるため河辺野は持ち込んだ撮影用のレフ板を壁面に固定していた。
 ゲオルグは遊軍として自由に動き回りNWの後方にも回り込むつもりらしい。
 壁を走り出した河辺野のメガホン越しの声が闇の中に響き始める。
「はい、こちらギリシャの河辺野です。おめざめテレビ体操に多くのNWの方々が集まってくれました‥‥」
 この場の緊張感にそぐわないあっけらかんとした煽り口上に、待機していた一同から思わず笑い声が起きるが、それも一瞬、これまでの散発的な襲来とは異なる纏まった羽音が近づいた来た。
 羽音を響かせながら灯りの中に姿を現したNWの群れに上空の闇の中から銃弾が降り注ぐ。
 接近戦を避けるため灯りを落として上空に滞空する鶸達による銃撃だ。
 発砲時の閃光で位置を知られるため、少しづつ位置を変えながら鶸のショットガンが立て続けに散弾をばら撒くと、翅に穴を穿たれたNWが次々に砂地に落ちていく――が致命傷を与えたわけではない。
 翅を打ち抜かれながらも惰性のままに待ち構える面々の前に転げ落ちたNWの群れは数を頼んで獣人たちに牙を剥く。
 更に弾幕を潜り抜けたNWも獣人たちに襲いかかった。
 突っ込んでくる軌跡を迎え撃つようにヘヴィが鋼材を振るうと、いきなり方向転換できるはずもなく正面から突っ込み、甲殻が砕かれる鈍い音を立てて弾き飛ばされる。
 レッドも獣毛で身を守りながらクローナックルとバトルガントレットで着実に群がるNWを撃破していく。
 霊包神衣や金剛力増は以前の蟷螂型NWのような敵が出現した時のために温存する――特殊能力といえど無限に使用できるわけではないのだ。
 騒ぎに引かれたのか砂地からもNWが湧き出し始めた。
「さて、NW共、この私が完膚なきまで蹴り潰してやろう‥‥」
 この自信がどこから出てくるのかは不明だが、ゲオルグも不敵に言い放つと這い寄ってくるNWを踏み潰しに掛かる――動きも鈍く、体調20センチほどしかないこのクラスであれば一撃とはいえないまでもそれなりの対処のしようはあるということか。
 尤も飛んでくるNWには素手はほとんど効き目が無いらしく、ハイキックや拾い物のアゾットで対応する。
 クリスタルソードを構えた百合も、普段のおっとりした見かけによらず、意外な敏捷さで飛んでくるNWを回避しながら剣を振るっていた。
 特に剣術を習っているわけでも無いらしいが、こちらは見かけによらぬ技量の持ち主であるらしい。
 壁面を移動しながら、囮となってNWを集めて廻っていた河辺野も、どこまで続くか判らない壁に、程々のところで引き返すと、追ってくるNWを引き連れて合流する。
 壁面に立ったままポセイドンの戟を振り回して、纏わり着くNWをなぎ払う。
 壁に設置しておいたレフ版は既に何匹かのNWが激突したのか酷く歪んではいたが、今のところ辛うじて光を反射する役目は果たしているようだ。
 ヘヴィの鉄槌を逃れたNWの一匹が壁際のランタンを直撃し、火達磨になるというアクシデントも発生したが、飛び散った火と油はそのまま燃え続ける――灯りとしてはやや光度が落ちるのは止むを得まい。
 幾度かの小休止を挟みながらも、NWの襲撃は幾度となく続く。
「外界との情報が遮断された遺跡内の筈だが‥‥いったいどこからこれだけの数のNWが沸いて出てくるんだろうな‥‥」
 呟きながら一旦仲間の元に下りてきた鶸は、既にハミルトンM870の弾倉を空にし、銃をより威力の高いIMIUZIに切替えており、それすらも弾が底を尽きかけてきている――残りはCoolガバメントMk�W用の45口径弾と自らの特殊能力だ。
 NWの死骸で足場が悪くなることから何度か場所も移動している。
 砂地に燃えていた焔も既になく、ボロボロになったレフ板はそのまま放棄され、役目を果たした黄金の枝も塵と消えていた。
 戦闘の合間にとった連絡では、回収作戦も順調に進み、残りの捜索と平行して既に記述された内容の解析にかかっているらしい。
 やがて撤収を告げる連絡があったが、直後になにやら探索班に騒動が勃発したらしい。
 トランシーバーで話している余裕が無いらしいことに気付いた百合は知友心話を発動した。
 どうやら件の像――パラディオンだったらしいが――を回収しようとしたとたんに地中からNWが湧き出して来たため、全力で出入り口方面に撤退中ということらしい。
 尤も相手はこちらでも大量発生していたタイプらしく差し迫った危険と言うほどのことでもなさそうである。
 単に情報を外に伝えることの方が重要な為に戦わずに逃げているだけのようだ。
 百合が仲間達に事情を伝える。
「調査が終わったならこちらもとりあえずは速やかに撤収、で、いいと思う。だらだらと掃討を続けて消耗して損害を出してはまずいと思うし」
 レッドの進言に依頼主のルークも頷く。
 相棒の銃弾も既に残り少ないようであり、さすがにザコの相手もいい加減うんざりしてきたところもあるのだろう。
 周囲のNWを打ち払いながら出口を目指す。
 既に鶸の銃撃の主体は45口径に移っていた。
 出口付近まで辿りついたことを確かめると、百合と鶸、そしてルークのマネージャーが横一列に並んでなおもしつこく追いすがるNWの群れに向き合う。
 次の瞬間、轟音と共に延びる三筋の稲妻が闇を切り裂いた。
 重ね掛けされた破雷光撃を浴びたNWがバタバタと落下し、生き延びた者も蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「一度に敵を倒しきれないことが分かっている作戦では、距離をとっても使える技は撤退のときまでとっておきたいです。撤退時は混乱しやすいですし、移動速度も落ちますから」
 ここまで強力な能力を使わずにとって置いた理由を百合が説明する。
 即死こそ免れたものの瀕死のNWに止めをさし、一行は改めて出口へと向った。
 コアが無事な以上放置しておくわけにも行かない。
 出口も真近になった時、レッドが手にしていたトランシーバーを破壊するのを見てヘヴィが以前聞いたという話を伝える。
「以前仕事で逢った‥‥たしか黒木だったか? あいつに拠れば、トランシーバーはNWの通り道にはなっても媒体には成り得ねえらしいぜ」
 話が聞こえたらしいルークが口を挟む。
「ふっ、どうせ経費だ、気が済むようにするさ。用心深いのは悪いことじゃない」
「本当のところどうなんだ?」
「NWがトランシーバーを使って逃げるとすれば、それを通じて飛ばされる音声情報に潜り込むってことだ。出口側に人間なり音を情報と認識する生物がいればめでたく感染できる」
「めでたくありませんけど」
 ルークの言いように百合が不満を鳴らす。
「やつらにとってはってことだ。もしその音を聴いてるのがやつらの感染できない俺達獣人だけだったらどうなると思う?」
「「どうなるんだ?」」
 いくつかの声が同時に答を求める。
「さあな。確実なのは情報媒体としての音声は記録されなければその場で消滅するということだ。尤も、受話器越しの声に潜んだNWに人間が感染されるって話は良く聞くが、受話器からいきなり空中に現れたNWに耳に食いつかれた獣人の話は聞かんがな」
 そうはぐらかすとニヤリと牙をむき出した。

 やがて一行は通路と第一階層を抜けて再び光の中へと戻って行った。