【NiA】危険な予感?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 2Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 普通
報酬 19.8万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 11/29〜12/03

●本文

 自動販売機から取り出したコーヒーに口をつけようとしたとたんに背後から肩に手を掛けられる。
 肩先に感じるぽってりとした掌の感触と背筋を走る悪寒に振り向かずとも相手の正体はなんとなく予想がつく――背後から「だ〜れだ?」などと目隠しされないだけめっけものだが‥‥。
「千葉ちゃ〜ん、ちょっといいかな〜」
 お約束の猫なで声がトドメの一撃を加えた。
 顔面の筋肉を総動員してどうにかにこやかな笑顔を作り上げると振り向く。
「なんでしょう‥‥?」
「いっしょに中国に行こ〜よ」
「はぁっ‥‥?!」
 例によって解説抜きの唐突な発言に思わず手にしたコーヒーを取り落としそうになりながらもどうにか持ちこたえた。
 どうやら諸般の事情により後が続かなくなった某番組の代替案として、中国の古典的兵法書『三十六計』の策略をモチーフにした各話完結のドラマシリーズを開始することにしたらしい。
 内容的にはドラマパートの最後にそれぞれの策の解説パートもつけることになるのだが、ドラマパート自体は中国本土の製作会社に委託することになる。
 つまり、向うの製作会社との討ち合せに同行しろ、っと言うことらしい。
「でね、ついでに『Night in Abyss』の会場にも顔を出すことになってるの」
「えっ、遠慮しましょう! って言うかあそこはやめましょうよ〜」
 【NiA】会場と聞いて即答する――正直な所WEAが管理している遺跡と言えば第一級の危険地帯、しかも先日大規模な映画撮影のためと称して立ち入り禁止措置が強制実施されたばかりだ。
 公式発表はともかく、俺の野生の(?)勘が危険を知らせている。
「そうもいかないのよね。まあ、日中親善の為と思って笑って成仏してちょうだい‥‥ってのは冗談だけど、で、少し同行者を集めてもらいたいのよ。尤も表向きは関羽や張飛みたいな英雄豪傑を演じる役者候補ってことになるけど」
 本人を見ている限り絶対信じられないのだが、ミケのおっさんとて猫族の双璧を担う最強種族の一員――当然毛並みはあだ名のような三毛のはずもない――だから、いざとなればまったく役立たずではないのだろうが、片や俺は鼠系でも逃げ足の代名詞みたいな種族ではある。
 つまりは役者としてよりいざと言うときに頼りになる面々を同行したいと言うのが本音だろう。
「もちろん、集める人達にはちゃんと行先が危険地帯だってことも伝えてそれなりに準備はしてもらってね」
「え〜と、俺がくっついて行っても役に立たないっすよね‥‥だったら、人集めだけって事には‥‥」
「ならないわよ。それじゃよ・ろ・し・く・ねっ!」
 ささやかな抵抗をあっさりと却下すると思い切り背中をどやしつけ、むせ返る俺を尻目にさっさと歩み去っていった。

●今回の参加者

 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)

●リプレイ本文

 一連の騒動も収まりつつある【NiA】会場にようやく辿り着いた千葉達は、異変直後に現地入りして戦闘に加わっていた護衛役の面々に迎えられた。
「なんだ、千葉は遅れてきたのか?」
 ヨーロッパで一仕事済ませた足で途中からNW流出阻止に参戦していたシヴェル・マクスウェル(fa0898)が悪戯っぽく笑顔を向ける。
 初日から饕餮戦やNW流出阻止に活躍していた面々も、現地の製作会社が用意してくれた三国志の名だたる武将や美姫の扮装を身に纏っていた。
 シヴィの役所は体躯を生かし五虎大将軍の一人馬超、隣では五将の筆頭とも言える関羽役の衣装を身に着けた敷島オルトロス(fa0780)が一際目立つ巨体に鬚髯を付け気難しい表情を崩さないよう勤めている。
 監督業だけに演技指導を行うこともあるのだが自分が役を演じるとなると勝手が違うらしく緊張は隠せないようだ。
 女優として名高い羽曳野ハツ子もオルトロスの応援に馳せ参じていた。尤も意中の御仁とその相棒の日本見物に同行する予定が入っているため行動を共にできるのは初日のみだが。
「さて、と。トウテツも滅した事だし、万事上手く行ったと思って良いのかな‥‥? いや、安心は出来ないか。終わりは常に始まりと繋がっている。或いは、これが開幕の鐘であったのかも知れないのだから‥‥。
 何にせよ、1日の重大発表と言うのも気になる」
 二人に並ぶとさすがに背の低さが際立ってしまうが、やはり五虎大将軍の一人趙雲役の各務 神無(fa3392)も今回の事変とその後の展開が気がかりな様子――見かけとは裏腹に抜刀術と蹴術を得意とし、接近戦では一同の中でも群を抜く技量の持ち主でもある。
 その隣で道服に身を包み穏やかな笑みを浮かべながらゆるりと羽扇を動かすのは、稀代の軍師諸葛孔明に扮した相沢 セナ(fa2478)。先日のNW流出阻止戦では群れの指揮を執っていた白いNWの捕捉殲滅に一役買っていた。
 蜀の諸将達に混じって呂布を演じるのは森里時雨(fa2002)。
 どうやら饕餮戦に先立つ華清池遺跡の二度の調査でなにかしでかしたらしく――本人曰く、諸悪と根源とか――戦闘終結後の居残り命令に戦々恐々と言った風情。
 この辺りの事情はやはり直前の遺跡調査に同行しているシヴィも気にかかっているようだ。
 厳つい武将達の間にあって煌びやかな衣装に身を包んでいるのは、江東に二喬有りと謳われた美人姉妹の妹、小喬役のパトリシア(fa3800)と、呉王孫権の妹であり蜀王劉備に嫁ぐも後に策を持って呉に引き戻されたと言う孫尚香役富士川・千春(fa0847)の二人である。
「なんだかNiAのスタッフの態度が怪しげとか‥‥12月1日に重大発表があるからと会場に全員残されたり‥‥見方を変えるとこれって拘束とも考えられますよね‥‥ちょっとだけ嫌な予感がします。ただの気のせいだといいのですが‥‥」
 ちょっと不安げな様子のパティ、傾国の美女を演じるのにさすがに役不足と感じているようだが、華麗な衣装を身に纏うのはやはり嬉しいらしく旧知の時雨などに感想を求める、無論ただ浮かれているだけでなく日本刀持参で護衛がメインであることは覚悟の上。
 千春のほうも、
「『肌は玉の如く、美貌は花の如しと称えられるほどの美女』とかの人は恐れ多くも私にはできません」
 などと謙遜を笑いに紛らせつつ、弓腰姫の銘を持つ女傑に擬えて持参したコールドボウを携えて警戒は怠りない。
 二人も先の戦闘に加わっており、ことに千春は二次に渡る饕餮戦でその役柄の女傑に恥じぬ働きを見せていた――オーパーツの力は、物理攻撃を完全に無効とする饕餮に対してもそれなりの効果を上げたようである。
 中国側の責任者達と話しながら先頭を行く三宅達に続いて派手な扮装の一団は、会場を移動し始めた所でやや間延びした物売りの声に足を止めた。
「ちょうちん〜。ちょうちん〜。明かりはいらんかね〜?」
 前方から歩いてくるのは天秤棒に提灯をぶら下げた佐渡川ススム(fa3134)の姿である。
 当然のことながらほとんどが顔見知りの先日まで共に戦っていた同志たちから一斉にツッコミが入るのだが、佐渡ちゃん一向に動じる様子もなく遠い目をして飄々と応える。
「‥‥ん、ああこれ?  ばーさまに自分の食いぶちは現地で稼げって持たされたんだ‥‥」
 どうやら勤め先である『あかり処 玉音屋』店主からの指示らしい、聞けばここ一ヶ月ほどこちらに滞在しているらしいのだが滞在費は現地で稼げとのご託宣だとか。
 友人達の勧めもあって一行に参加することとなり、劉備役に扮することとなった。



 翌日。
 混乱の痕は未だ会場内のいたるところに残ってはいたが、NWの残骸などは真っ先に回収され、芸能イベントの会場らしさを取り戻しつつある。
 何事もなかったかのように見せかけるため既に会場周辺は封鎖も解かれており、一般『人』の姿もちらほらと見られる。
 まずやらなければいけないのが、今回の事件をもみ消す為の情報操作――と言うことでシヴィらも見物人の求めに応じて一緒に記念撮影のフレームに収まったりしながら番宣に余念がない。
「俺は、呂布役なんで夜露死苦☆ 映画にも出てただろ? チョイ役で‥‥」
 付近の惨状をいぶかしむ見物人らには全て怪獣映画の撮影の為と言い張りつつにこやかに応対する時雨は、ご丁寧に現地スタッフを動員してNWに似せた敵兵向けの鎧やら幻術者使役のNW風の着ぐるみ等まで準備し、NW戦を目撃された場合に備えている。
 白いNWを倒したことで地を覆うかに見えたNWの群れも表面上は完全に姿を消してはいたが、あれだけの数が全滅したわけでもなかろう。
 野次馬用の仕掛けも各種準備、中にトラップを仕掛け、ダミーカメラも出動させるなど準備に抜かりはない。
 各武将の名だたる武器――時雨扮する呂布の方天画戟やオルトロス扮する関羽の青龍偃月刀――もそれなりに再現され、いざと言うときの為にある程度『使える』代物が用意されている。
 神無演じる趙雲の得物と言えば青コウの剣、実は三国志がらみと言うこともありセナが持参してきた同名のオーパーツを借り受けることに。
「ドラマシリーズの打ち合わせってことだったけれど、せっかく衣装も役もあるので番組宣伝CMの撮影もできないかしら?」
 そんな中、千春が思いついたように口にすると、さっそく佐渡ちゃんがNW騒ぎをごまかすのにうってつけと飛びつく。
 歴史小説好きで、兵法三十六計や三国志にも常々興味があって熱心に番宣に勤しんでいたセナも、見物人に番組のアピールが出来るということで大いに乗り気らしい。
 聞いていた神無も協力を申し出るが、
「そもそも私は元々奏者だからね。役者並みの演技を求められても困るよ」
 っと断りは入れておく、いざとなれば衣装に隠した半獣化で多少の補いはつくだろう。
 せっかくだから立ち回りの一つも演じてみたいと言うシヴィらの希望もあり、番組紹介で流すスポットCM用の撮影が行われることになった。
「それじゃ、ススムさんメインの宣伝バージョンで『美人計』なんかどう?」
 千春の提案に、参加した面々の扮した役柄が一番多く絡めそうな一幕を多少端折って演じることに。
 簡単に言えば千春演じる孫尚香との婚礼を餌に佐渡川演じる劉備を誘い出し暗殺しようと言う呉の計略を、神無演じる護衛役の趙雲がセナの演じる孔明から授かった知略によって打ち破り、途中まで迎えに出た孔明やオルトロス演ずる関羽らが劉備夫妻を無事荊州に連れ帰るまでの顛末をいくつかの見せ場を繋いで再現すると言うもの。
 小喬役パティの勧めで、夫で『美人計』を仕掛けた呉軍の謀将周瑜役は急遽時雨が演じることに。
 コント風味を希望するセナが佐渡ちゃんに向ってバナナをカゴいっぱい差し出して、曰く有りげに視線逸らしして見せたりなどと言う冗談のような場面では、撮影を見物する野次馬から爆笑を買ったり。
 これとは別にシヴィ演じる馬超と関羽が、時雨の演じる呂布と派手な剣戟を演じる場面なども撮影されるが、こちらは本業が監督のオルトロスはほどほどに、アクション俳優のシヴィと路上格闘家の時雨が専ら暴れ回る。
 本番のドラマパートでは大規模な合戦シーンなどの映像も、全編64時間強というかの有名な超大作から借用する手筈になっているらしいが、今回はこの場にいる役者と現地スタッフだけによる撮影となった。



 撮影や番宣も一段落すると、役の装束を脱ぎ捨てた一行は会場の外れ――華清池方面へと足を向ける。
 警戒は怠らずそれぞれの得物を持参していた。
 無論遺跡近辺は厳重な警戒が行われており近付くことは出来ないのだが、自然会話の矛先は今回の事変へと向う。
「大穴ドコロじゃねぇだろ、アレ‥‥」
 何度か湖底の遺跡に潜っている時雨が目の当たりにした華清池の現状やトウテツ戦跡地の状況を現地を見ていない二人組みに説明する。
 戦闘終了後、事前から続いていたというNW事件の資料も出来る限り取寄せ熟読していたらしい。群生NW事例の有無と推移も念の為調査しているようだ。
「過去の大量発生の話もあるしこちらのスタッフはWEAとのコネクションは強いのよね? オリンポスの遺跡探索の暗号文にあった『ちのそこ』なんかについてもちょっと聞いてみたいんだけど。
 華清池の池の底と、ギリシャ遺跡の地の底の二重の意味かしら?
 地の底は兵馬俑の守る国、ギリシャ神話も同じ世界を指しているのよね。池の底なら九泉をご存知かしら?」
「いわゆる『黄泉』のことっすか? 確かにNW関連の遺跡ってどこも地下深くに向って広がってるみたいっすけど‥‥」
 立て板に水の千春の質問に困ったように首を捻る千葉に三宅が助け舟を出す、大量発生後の戦闘指揮の中心はよく知られるように本部があるロンドンでも事件が起きた中国でもなく日本に移っている、これは距離の関係と、基本的に表現の自由が著しく制限される共産圏ではWEAの力を発揮しにくいと言う事情などもあるらしい。
「そもそも、ミテーラってどっから出て来た言葉なんだ?」
 千葉たちに同行しながら佐渡川が事変後耳にするようになった不吉な名前についての疑問を口にする。
 答えを返したのはやはり三宅だった。
「例のギリシャ遺跡で見つかった黒い塊がNWの卵だって話は聞いてるわよね‥‥元々は卵を産むって事でギリシャ語の『母』って言う意味らしかったんだけど、トウテツや白いNWの話を聞く限りじゃちょっとイメージが違うわよね‥‥」
 ただのおっさんではないらしく多少事情には通じているらしい。
 話を聞きながら周囲を警戒していたオルトロスが口を開く。
「今回のトウテツの件は大事だったが、露骨に危機感を出すことでダークサイドを始めとした、獣人に敵対する意思ある連中を調子に乗らせることは回避すべきだな。
 架空のオーパーツの存在をでっち上げ、「トウテツ戦ではそれを使わずに済んで良かった」との偽情報を現地から実しやかに流すことで、ハッタリをかましつつも、皆が休む時間を稼ぐ――三十六計で言うならば、『樹上開花』と言うことになるだろうか」
 会話に待ったをかけたのは『鋭敏聴覚』と『鋭敏嗅覚』を動員して周囲を警戒していたパティだった。
「この先に何かいます‥‥数は‥‥ッ! 来ます!」 
 抱えていた布を解き日本刀を取り出す。
 数瞬置いて茂みから飛び出した影が氷の矢を受けて再び茂みに落ちる。千春の足がふわりと地を離れた。
 会場からの喧騒も既に遠く去り、この近辺では『人間』とは遭っていない。
 1m程度の不気味な蟲が数を頼んで湧き出してくる。
 預けておいた青コウの剣を受け取ったセナが羽ばたき、逆刃刀を構えた時雨と日本刀を抜いたパティが俊足を利して駆け出す。
 やはり俊足を生かして鞘に収めたままのソニックブレードを手に敵の懐に飛び込んだ神無、引き抜きざまに逆袈裟一閃、素早く幾太刀かを浴びせると再び間合いを取る――見物人を意識して頭を覆っていた布飾りも既に放り出していた。
 降魔刀を構えたオルトロスとホーリーファングを嵌めヴァイブレードナイフを手にしたシヴィの筋肉が盛り上がる。
「ふむ、余興を用意してもらったはいいんだが‥‥馬が用意できなかったのは残念だな?」
 シヴィは千葉を振り返ると、任せておけとばかりにウインク、観客の少ないのを残念がる様子。
 佐渡川の表情からもいつもの笑いが消えた、接近して敵の攻撃を誘い、攻撃して来た前腕を捕らえるとその力を利用しつつ手を引き自分の体を軸にしてテコの原理で関節を逆に折る。
「‥‥先ず、ひとつ」
 そのままのらりくらりと捌きつつ『鋭敏視覚』でコアを見つけ出すと、細振切爪を乗せた爪を続けざまに叩き込む。
 戦力外の千葉も撹乱に走り回り、三宅も参戦しての戦いはやがて数匹のNWの残骸を残して終焉を迎えた。
 幸いに――と言っていいだろう――遺跡から湧き出す小型のNWの多くは数こそ多いものの、人間などに寄生して実体化した敵に比べて格段に弱い。
 試みに回収した矢を点検していた千春は破損したものがないことを確認すると満足そうに頷いた。
「銃弾じゃこうはいかないわね」

 やがて暗くなる前に会場近くの宿泊所に戻った一行は、祝勝会にも参加し、
「この『いざという時頼れる男』に任せろ! 夜の街案内限定だがなっ!」
 っと言いながらニヤリと笑って親指を立てる佐渡ちゃんの口車に乗せられた一部男性陣は悲惨な夜を過ごしてみたり‥‥

 明ければ、翌12月1日、【NiA】実行委員会(?)からの重大発表は、トウテツ戦の更に上を行く一大スペクタクルな怪獣映画を製作することで今回の異常事態を誤魔化すと言う企画であった。