青空POPs 始動アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/25〜11/29
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●本文
アイベックスの企画部門、今しも会議室の中では20代半ばと思しき若い女性が熱弁を振っていた。
「今や次代のポップス界を担う予備軍と言ってもいい層が日本中で活動を展開しています。彼らの中には現在テレビなどで活躍中のミュージシャンと比べても決して引けを取らない感性や実力を持った人たちも少なくありません。
今回の企画はそういった在野のミュージシャン達にスポットライトをあてて隠れた逸材を発掘しようとするものです」
「そうは言っても出演者の中に『人間』が混じってしまったりすることはないかね」
芸能界の『人間』比率をある程度押さえ込んでおく必要があることは、この会議室内の誰もが共通して持つ認識である。
「無論そのあたり公募とは言っても、WEAの確認をとって出演者の人選は慎重に進めます。応募者全員がだれでも公平に出演できるというわけではありませんし、『人間』を出演させる場合の対応も徹底させます」
「ネーミングがいまひとつじゃないかね」
「一応『ストリート・ミュージシャン』とか『フィールド・アーティスト』などという案も出たのですが、番組放送後に携帯サイトを通じて感想の募集や人気投票みたいなものを実施する関係で1行に収まる名称に‥‥」
その辺は本人も自覚があるのか今ひとつ歯切れが悪い。
「地方取材だと撮影スタッフを毎回現地まで連れて行ったりする費用がバカにならんような気がするが」
「まぁ、その辺は製作側で折り合いをつける問題でしょう。色々と方法はあるでしょうし、必ずしも全く無名である必要もありません。在京でもなかなかテレビ出演の機会のない新人はいくらでもいるでしょうから」
「いいだろう。この企画は本間君に任せるよ」
上座の方で暫く小声で相談している風だったがようやく許可が下りる。
「ありがとうございます!!」
満面の笑みを浮かべながら着席する彼女を眺めながら先輩格の社員が呟く。
「加代ちゃんはりきってるね」
入社5年目の25歳、初の企画通過であった。
●リプレイ本文
公園の中に設置された野外音楽堂――とはいってもコンクリート製のちょっとしたステージとバックになる湾曲した半円形の壁に向い合って何列かのベンチが並ぶだけの安上がりなスペースではある。
管理事務所に一声かけさえすれば自由に使える場所でもあり、昔もめごとで使用禁止になった経緯もあってか利用者達の間にできたいくつかの暗黙の了解の下、幾人ものミュージシャンの卵が集まっていた。
この時期、日が陰ると急激に冷え込む。演奏していた若者達もそろそろ帰り支度を始めていた。
他の聴衆が姿を消すと、暫く前からベンチにかけてなにやら話し込んでいた2人連れが近付いてくる。
「ちょっといいかな」
男の方が笑顔を浮かべながら話しかける。名刺を配りながらTOMITVのAPだと名乗った男が企画の説明をすると、連れの女性も名刺を差し出す。
「ところで、あなた達ってみんな『コレ』かな?」
本間と名乗った女性が不意に両手を頭の上に立てて見せる。一瞬の『間』‥‥
「大丈夫だよ。今残ってるコたちはみ〜んなそうだから」
ひょいと猫耳を出して見せたのは観月・あるる(fa1425)だった。
「アイベックスは私の憧れのプロダクションだもの。私達の歌を認めて貰えるように頑張って歌います」
相方の雪音 希愛(fa1687)と顔を見合せて頷きあう。
「TVかぁ‥‥初めて出るナァ。でもだいじょぶ‥‥ずっと一緒だったこのキーボードとならミスなんかしないよ!」
織(fa0045)も苦笑を浮かべながらまんざらではない様子である。
「俺はダンスヴォーカルになる、シキに伴奏して貰うかな。一応オリジナル曲だ」
友人の陸 琢磨(fa0760)が声をかけると「じゃあ、当日まで練習だね」っと二つ返事で応じた。
亜真音ひろみ(fa1339)と御剣緋色(fa2025)もオリジナル曲で参加することになる。冬月透子(fa1830)とkanon(fa1892)が臨時のバックミュージシャンを買ってでた。
中でもやや年嵩のカノンは本来ロッカーなのだが、自ら芸域を狭めることもあるまいとポップス系の企画に乗ってみることにする。
急遽結成したユニットもあり、本番を4日後に控え、出場する8名は翌日から曲のアレンジや練習に取り掛かるのだった。前日には一通りリハーサルも行う。
そして当日‥‥。
● Take 1
「みなさんこんばんは〜。今日から始まった新番組『青空POPs』、公園や街角で音楽活動を続けるミュージシャン達にスポットを当てようという企画です。
さて、記念すべき第1回はここ森林公園の野外音楽堂に集まる4組の皆さんに登場していただきま〜す」
今回の司会を務めるらしい若いリポーターがカメラに向ってにこやかに解説している。
その後、カメラはひとしきり音楽堂の全景や客席の様子などを映して再びステージ中央の司会者に戻っていく。口コミででも広まったのか、テレビ放送ということで客席も普段にはない盛り上がりを見せているようだ。
「トップを切って歌ってくれるのは、陸琢磨クン。キーボードはお友達の織ちゃんで〜す。ホントは彼女だったり〜、なんちって♪」
いきなり気安い上に、受け狙いなのか余計なことを口走る。緊張しながらもいつも通り元気いっぱい笑顔でステージに立ったシキの顔がいくぶん引きつり、タクマも苦笑いを浮かべた。
「ドラムスにベース‥‥その他大勢はとりあえず省略」
紹介すると見せかけていきなり打ち切ると、曲側で用意したらしいバックミュージシャン達もお約束のスラップな不協和音をたてて派手にこけてみせる。
更にバックダンサーを務める緋色も含めて簡単なインタビューが終るとタクマにマイクを渡す。
「みんな、俺の歌『Your Smiling Face』を聴いてくれ」
やや暗めの前奏から入った曲は、しだいにアップテンポになっていく。
「 何気ない時の中で 気付く物はどれだけあるんだろう?
若しかしたら身近なキミにさえ 気付かないかも知れない
ふとした瞬間も心を変えてしまうのか?
そんな事も分からない 自分に嫌気が差した
I grasp your hand But all I want is your love
何も見えない自分が叫ぶ
情け無いと思いながらも 只、言葉を紡いでた 」
テレビ映りを気にしてか、シキは緊張しながらも笑顔を絶やさない。曲調に合せて踊る緋色のダンスが華を添える。
「 限られた時に抱かれ 交差して人は皆求めるだろ?
自分に無い何かを 其れが身近にあるならなおさら
想う気持ちが満たしてく 枯れた心の内を
もう誰も愛せない筈なのに
I keep you a tight grasp How can I get next to you
二度と見失わない様に 二度と忘れぬ様に
この手を握り続けよう 誰の為でなく‥‥
I keep you a tight grasp All your secrets I will learn‥‥
I need you here with me‥‥ I want to feel you‥‥
何時しか見つめるキミの顔は 笑顔を湛えてた‥‥
キミの瞳に映る自分も 笑顔を湛えてた‥‥ 」
歌が終った後をシキのアレンジした少し明るめのラストが締めくくった。
客席から拍手が沸き起こると、司会者もステージの袖から拍手をしながら近付いてくる。
「それでは皆さんもう一度盛大な拍手を〜」
マイクを受け取るとタクマ達を送り出した。
● Take 2
「いつもの練習通りにがんばろうね!」
「今日も音楽を楽しもう♪」
続いて互いに声をかけながらステージに姿を現わしたのは2人組の女性ユニットだ。
ノアがキーボードシンセサイザーを駆使して表現可能な音を全て表現して演奏するということでバックバンドの面々はとりあえず小休止である。
2人を紹介しつつ司会者があるるにマイクを向ける。
「好きな物は音楽、お菓子、可愛い物、踊りかな。苦手な物は蜘蛛など。希愛とはお友達でよく一緒に練習をして歌ってるので息はぴったりよ。目指すは踊りで見せ歌で魅了できる歌手です、よろしくお願いします」
『もも☆きゃぶ』あたりからスカウトが来そうな胸のサイズが気になったのか、スリーサイズを尋ねると、「な、ないしょですぅ」と真っ赤になる。次いでノアにマイクを向けた。
「キーボード担当の雪音希愛です、よろしくお願いします。あるるさんとはストリートライブで知り合ったんですよ。すっかり意気投合しちゃって、現在ユニット『AnoRua』を組んで活動開始」
「え〜っ、聞いてないよぅ、もうちょっと、こう、なんか意味のある名前にしよ〜ょ」
「あはっ、ごめんごめん、じゃ今のなしね」
どうやら勢いで口にした思いつきのユニット名らしくあっさりと取り下げる。
(ん〜、ここは「聞いてないよ」のあたりでハリセンでも入るとおいしいんだけど‥‥)
などと余計な感想を抱きつつも再びマイクをあるるに振る。
「今回の曲はこれからの季節に合わせてクリスマスソングなんですよね」
「雪降る教会で待合せに遅れるのメール――少し膨れながらも素敵なクリスマスを夢見る彼女の気持が伝われば嬉しいです」
「お〜っ、もしかしてあるるさんの実体験とか」
「内緒です」
すかさず突っ込む司会者を笑顔ではぐらかす。
「それでは、観月あるるさん作詞、雪音希愛さん作曲、『夢のとき』、どうぞ〜」
前奏が始まる。あるるは緊張を解すため軽くステップを踏むと踊り出した。やがて、おもむろにマイクを近付ける。
「 空を舞い散る雪と温かな灯が
聖夜の鐘鳴り響くこの街をデコレーションしていくの
誰もが夢を見れるこの瞬間‥‥貴方はどこに? 」
バラード風に始まった曲は徐々に明るさを増して行き、ややテンポアップした曲にノアのコーラスが加わってハーモニーを奏でる。
「 どんなプレゼントより声が聞きたい
メールじゃなく温かい貴方を感じたい
息を弾ませ駆けてくる
誰もが夢を見れるこの瞬間
私達のメリークリスマス 」
再びあるるのソロパートが続き、最後はノアのコーラスが加わってしっとりと歌いあげた。
曲の余韻が消えると客席から拍手が沸き起こる。会場に手を振り、次の曲のバックも手伝うノアにも軽く手を上げて挨拶を交わすと、あるるはステージの袖に引き上げていった。
● Take 3
ステージの袖、やや緊張気味に出番を待っていた緋色にカノンが声をかける。既にバックでダンスを披露しているがソロで歌うとなるとまた別のようだ。
「TVなんて気にせずに何時もの調子で大丈夫だよ」
「やっぱ緊張して見える? ん〜まぁそりゃしてるけど、楽しんでやらなきゃ俺じゃないしw」
浅黒い顔ににやりと白い歯を覗かせる。180 を超える長身ではあるが、まだ15歳の少年だ。
「さ〜て次の曲を歌ってくれるのは〜、最初に華麗なダンスを披露してくれた御剣緋色クンで〜す」
紹介された緋色は、客席からの拍手に手を振りながら軽快にターンを決めてみせる。
「そしてギター演奏はkanonさん〜」
こちらは短い演奏で拍手に応えた。 司会からマイクを受取ると客席に向って元気いっぱいに声をあげる。
「俺の曲は『荒野にそびえる冒険者』だw んじゃ、kanon、ノア、バック宜しくな♪」
振り向いて合図を送ると、冒険を連想させるアップテンポで明るい感じの前奏が始まり、背後ではタクマが曲のイメージに合せた軽快なダンスを見せる。
「 全てを捨てて旅立った 愚かなる冒険者
その道の先にある栄光を信じて
彼の道に 求む剣はあるのか
砂塵の先に 求めた真実があるのか 」
明るい感じの曲に合せてカノンとノアの演奏も一段とノッてくる。
「 纏う衣で傷跡を隠し
尚彼の者は荒野を行く
悲しみを歩みに代えて
でも聞こえるよ、深く孤独に嘆く心の叫びが
迷うことはない 使命、柵(しがらみ)全てを振りほどき立ち上がれ 」
間奏にはカノンのギターソロやバックで踊るタクマとの掛け合いも取り入れ、客席を沸かせた。
「 さらば孤高の君よ
全てを捧げて 手に入れたもの
貴女に安息の日々のあらんことを‥‥ 」
間奏の後は一転してしっとりとした感じのゆるやかな曲調に変わると、そのままフェードアウトしていった。
客席からの盛大な拍手の中、次もバックを勤めるカノンを残して演奏を終えたノアがステージの袖に消えると、替ってトーコがキーボードの前に現れる。
● Take 4
「次の曲、キーボードは替って冬月透子さんで〜す」
入れ替ったトーコに司会者がマイクを向ける。
参加のきっかけなどを問われたトーコは、少し首を傾げると穏やかな笑みを浮かべたまま語りだす。
「最近、つい周囲と自分を比べてしまうことが多く、特に音楽にかける情熱が他の人たちと比べて自分は薄いのではないかと悩んでいました。そんな時に出会ったのがひろみさんの歌です。
考えすぎるのはやめて、今の自分を受け入れなよと励まされた気がしました。マイペースでもいいから歩いていこう。そう教えてくれたこの曲に参加できてとてもうれしいんです。
だから、自分にできる最高の演奏でこの曲に応えようと思います」
客席からの拍手の中、トーコに礼を述べた司会者は続いてひろみを紹介する。
「そして今日最後の曲を歌ってくれるのは、亜真音ひろみさんで〜す」
司会者からマイクを受取るとひろみが客席に向って語りかける。
「まずは今回組んでくれた冬月とkanonに感謝〜。 3人で最高の音楽を奏でるよ。
この曲はあたしの詞にkanonが作曲&編曲してくれたんだ。本番直前まで題名のなかったこの曲に冬月がつけてくれた名前‥‥『いつかの私へ』」
ひろみが言葉を切るとカノンのギターとトーコのキーボードからゆっくりとした前奏が流れ出す。
「 今はただ暗闇の中 本当の自分探してる
初めて人に言われた言葉 あの時の想い
それが今のあなたを突き動かすものなら
一時の空白期間 恐れないで
全てを失う訳じゃない 次にもっと高く飛ぶための小休止 」
ひろみの声を引き立てるゆったりとした曲調のバラードがいくぶんアップテンポに変っていく。
「 ほら 心を開いて周りを見れば 新たな明日があなたを待っている
焦る必要なんてない無理に自分を型にはめなくていい
人は決して一人ではないから 一緒に歩いて行こう
いつか光の中 本当の自分と向き合える日まで 」
明るくなった曲調が、再びゆっくりとトーンを落とす。
「 今はただ暗闇の中 未来の自分信じてる
いつか光の中 未来の自分が輝けるように‥‥
いつか光の中 昔の自分否定していた
今はただ闇の中 昔の自分も好きになる 」
バックの演奏が途切れる。
「 明日の自分に胸を張って出会いたいから‥‥ 」
ひろみの声だけが語りかけるように最後のフレーズをしっとりと歌い上げた。
一瞬の静寂‥‥鳥のさえずり‥‥やがてそれは沸き起こった拍手に飲み込まれていく。
●そして‥‥
拍手と歓声が続くステージからカメラがスタジオに戻された。
ひとしきり「皆さん素敵な演奏でしたね〜」と言うお約束のコメントが交わされた後、アシスタントがフリップを取り出す。
「番組のHPでは今日放送された演奏について皆さんのご感想を募集してま〜す。携帯からもOKですのでこちらまでどんどん送ってくださいね〜。もしかすると反響の大きかった曲はアイベックスからデビューなんてこともあるかも。それでは、お待ちしてま〜す」
更に出場者募集のフリップも紹介され、番組は次のコーナーへと移っていった。