【三十六計】囲魏救趙アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
9.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/06〜01/10
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●本文
新企画第一弾の製作も無事終了し、編集の終った画がモニタに映し出されている。
第一回と言うことで多少企画の方向性などの周知に不備があったようだが、参集したメンバーの手際もあっておっさんとしては予想以上の仕上がりになっているらしい。
満足気な笑みをもらしながらコーヒー片手に画面に見入っていた。
「なかなか見事なものね。歴史上の伝承をベースにしながら、史実上の人物やシチュエーションに拘らずに女性キャストの多さも含めてうまい具合に纏まってるし」
打合せの段階では、引き合いに出されることの多い『太史慈の策略』を再現するという案も出ていたのだが、最終的にはこれをモチーフにしたオリジナルキャストでの古代中国風シナリオを作り上げている。
別に俺やおっさんの趣味でキャストを集めた訳でもないのだが、女性陣が多かったこともあって、なにやら英雄豪傑が集うのとは別種の華やかな作品に仕上がっていた。
「そう言えば打ち合わせの途中で現代モノのドラマ展開って話も出てたみたいっすけど」
スタッフから出ていた質問の一つを投げかけてみる。
「戦いの華は肉弾相打つ一騎打ちとかでしょ。宮廷の場面なんか扱うにしても、女性の衣装だって時代モノのほうが断然華やかだしね。画としてのインパクトを考えると目安としてはやっぱり新しくても三国志の時代辺りまでかしら」
夢見るオトメというか、なにやら自分の世界に入りかけているおっさんに軽く注意を促す。
「肉弾戦と言っても弓とか弩なんかは結構昔からあったような‥‥」
皆まで言わせず後ろ頭をすぱーんと張り飛ばされる――どうやらオトコの浪漫に水を差すなということらしい、口は災いの元とはよく言ったものだ。
「弓ならまだいいけど、いくら現代に通じる策略って言っても、銃なんか乱射し始めたら三十六計の『らしさ』がなくなっちゃうでしょ」
「ハァ‥‥そら、そうっすね」
逆らっても無駄なので頭をさすりながら相槌を打つ。
「次の計略は『囲魏救趙』だったわね。戦国時代に『魏』に攻められて援軍を求めてきた『趙』の国を『齎』の軍隊が救った時の策略が元になってるんだけど、こんどはどんなアレンジになるか楽しみね」
そろそろだな、っと思ったところへ例の一言が続く――さしずめ俺の予知能力バンザイと言ったところ。
「じゃ、そう言うことで、人集めの方よろしくね」
どうやら、今回は自己流の戦術解釈は無し、と言うことらしい。
そして第二回目のキャスト兼スタッフ募集がかけられることになった。
●三十六計
書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
序文に曰く。
『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』
太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。
●第二計 『囲魏救趙』
『共敵不如分敵 敵陽不如敵陰』
敵が共に寄り集まっている状態ならこれを分断するに如くはない。敵に攻撃を仕掛けさせて叩く方が護りを固めている敵を攻めるよりも有利に戦いを進めることができる。
●リプレイ本文
● ドラマ『囲魏救趙』
長引き始めた籠城戦に『華』国の都を囲む城壁の中は日一日と憂色を深めていた。
かつて隆盛を極めた大国『華』も既に昔日の勢いは無い――新たに興りつつある国『因』の攻撃を受け、戦況は日を追うごとに悪化の一途を辿っている。
僅かな休息を終えて城壁の守りに向う兵士の一団を道路脇に身を竦めるようにしてやり過ごした幼い少女(月見里 神楽(fa2122))が、去っていく兵士達の後姿を目で追いながら震えるような溜息を漏らす。
まだ幼い少女にとって戦争とはただひとえに『怖くて痛いもの』でしかない。
「お父さんどうしてるかな‥‥?」
都の守備兵を勤める少女の父親も『因』の攻撃が始まると同時に戦場に駆りだされていた。
数日前に一度家に戻ったが、すぐにまた前線に戻っている――父の腕に真新しい傷を見つけて、
「戦争って、痛いんでしょう?」
と涙ぐむ娘の頭をなでて掠り傷だよと笑って慰めてくれたのだが‥‥。
「いったいどうなっちまうんだろうねぇ?」
「華の国も、もうお終いかも‥‥」
やはり兵士達をやり過ごしていた大人達の不安げな会話が耳に飛び込む。
「負けないもん、お父さん達が因なんてやっつけてくれるもん!」
一声叫ぶなり、呆気にとられる大人達を残して家へと駆け出していった。
一方、宮中では亡き夫の遺志を継いだ翔佳(沢渡霧江(fa4354))がひと時の仮眠から目醒め、近習を呼びつけている。
「誰か、誰かある!」
すぐさま控えていたお付の者達が駆け寄り身成を整えさせると、重臣達の集まっている軍議の場へと姿を現した。
「収の援軍は未だ姿を現さぬのか?」
参集している重臣達に向って権高に問う。
「使者は首尾良く敵の包囲を抜けましたゆえ、間もなく吉報が届きましょう。今暫くのご辛抱を」
将軍の一人が畏まって奏上すると鷹揚に頷く――が、勝機の見えないまま延々と続く籠城戦に疲れの色は隠せなかった。
因との戦いは彼女の夫であった先王の時代から幾度と無く繰り返されてきていたが、都まで攻め込まれたのはこれが始めてである。一度は城と運命を共にする覚悟を決めた翔佳ではあったが、『収』の援軍に一縷の望みを託していた。
同じころ、寄せ手の陣営では深紅色の甲冑を身に纏った承旭(篠田裕貴(fa0441))が、遠く華の城市を見渡している――この時、華国の密使が包囲を脱したことには全く気付いていない。
「華国もじきに落ちるか。‥‥かつての大国が、たわいもないな」
ここまでの戦いに思いを致したのか感慨深げにポツリと呟くと、後方に従っていた配下の武将達を振り返る。
「皆の者、華国の陥落は近い、あとはこの都を落とすのみ!」
激を飛ばすと部下達の間からも喚声が上がる――が、一人の武将が発した野卑な言葉を耳にした途端、腰の剣を引き抜きざま件の男の喉元に突きつけた。
「‥‥あの都を落としても、民から物品を奪うことはまかりならん。暴行を加えるなど以ての外だ。規律を破ったものは、この俺自ら制裁を加えてやる、覚悟しておけ」
一騎当千と謳われる承旭の眼光に射すくめられた武将が青い顔で頷く。
勝ち戦に浮かれて、武勇の徒であると同時に略奪や暴行といった行為を激しく嫌う承旭の公明正大な性格を失念していたものと見える。
所変って援軍の要請を受けた『収』では、今しも烈飛(烈飛龍(fa0225))を主将とする軍団が『華』の国へと出立しようとしていた。
「我らが出てゆく以上は因のやつらなど一兵たりとも生かして帰すな。華国の都へ向けて出陣だ」
顔中を無数に走る刀傷が印象的な偉丈夫は、胸まである顎髭を風に弄らせながら馬上から部下達を嗾ける。
その様子をやや離れた所から眉を顰めながら眺めていた軍師渝民(ラリー・タウンゼント(fa3487))は、やれやれと言うように肩を竦めると近くへと駒を進めた。
元来、野蛮な行為を煽り立てる烈飛のやりようをあまり好まず、今回の援軍への同行も不満ではあったのだが、『飢虎将軍』の異名を持つ烈飛が、『因』から蛇蝎の如く嫌われ、恐れられている事に思い至って、その悪名さえも利用しようと目論んだのだ。
尤もそんな想いはおくびにも出さず、縹色を基調とした甲冑を身に纏った軍師はすっと目を細めて微笑むと将軍に声をかけた。
「烈将軍、暫し待たれよ。このまままっすぐ華国を攻めている軍を衝くよりも、因国の都を直に攻めるのです。虚をつき、体勢を崩すのです。そうすれば、自ずと因軍は崩れていくことでしょう」
勢いに水をさされて僅かに眉を顰めたものの、渝民の策に理と利を認めたらしい。
「なるほど、華国へ直接救援に向かうのではなく、因国を攻めるのか‥‥主上のか、卿の考えかは知らぬが、よく思い付いたものだな」
呵呵大笑すると満足げに頷く。
「道理で、今回俺に主将の任が与えられる訳だ。つまるところ、今まで同様に俺と可愛い息子達はかの国で暴れ回ればいいのだな。よかろう。そう言うことなら存分に暴れさせてもらうことにしよう」
言い放つと再び部下達に向って煽り立てた。
「皆、聞いたか? 我らの行先は因の国ぞ! 美女も財物も取り放題だ!」
烈飛の子飼いの部下達の間から歓声が挙がる。
元々華国生まれの渝民は、生国を救う為利用できるものは全て利用しようと言う決意の一方で、その様子を兜の影から複雑な表情で眺めていた。
因の国へと駒を進めた烈飛達の軍は、宣言通り略奪の限りを尽くしつつ一路首都を目指した。
途中の町々も行き掛けの駄賃とばかり略奪し焼き払う――あながち華国に攻め込んだ因軍の耳に『収軍動く』の報を届かせる為ばかりとも思えない進軍の体ではある。
国許にあって収が華への援軍を出したとの第一報を受けた当初は、
「今さら何をしようと無駄だ。華を片づけたら次はあ奴らの番だな」
と余裕を見せていた因の君主・冷真(巻 長治(fa2021))ではあったが、収軍の動きについての続報を受けるに及んで、この酷薄な野心家もさすがに顔色を変えた。
「救援と見せて漁夫の利を狙ってきたか! おのれ、何とか持ちこたえよ!」
都に残る全軍を以って迎え撃とうとするが、いかんせん精鋭部隊はほとんどが華の攻略に向っており、国許に残っているのは老弱な部隊ばかり。
やがて続々と届く敗報に包囲軍を呼び戻すことを決断せざるを得なかった。
そのころ、快進撃を続ける収軍の幕舎では、渝民が旅の商人と思しき喬結花(武越ゆか(fa3306))に向って策を授けていた。
尤もこの結花、実はただの商人ではない――行商を装って諸国の事情を調べて歩く収国の間諜である。
命を受けた結花は一礼するとその場を後にした。
やがて、華国の都を包囲していた因軍の元にも収軍の動きが伝わり始めていた。
「国許はいったいどうなっているのだ! 早く情報を集めんか」
ちぐはぐな風聞に苛立つ承旭の元へ、やがて本国から避難してきたと称する行商人が検問にかかったとの報が入る。
喉から手が出るほど本国の情報を求めていた承旭は早々に軍議の席へと招じ入れた。
召し出されたのは誰あろうかの間諜喬結花。
承旭に向って再拝すると立て板に水の勢いで盛大に誇張した因の惨状を捲し立てる――敵の主将が『飢虎将軍』の悪名高きかの猛将で国許に残った老弱の兵は次々と蹴散らされ、既に都も風前の灯火。
「主上におかせられましては、一転窮地に立たされ亡国の危機ですわ」
更に渝民より授かった地図を広げ、運輸業で培った情報網を駆使して調べ上げたと称して収軍の動きを詳らかに指し示す。
「将軍様、この関が敵軍の背面に通じています!」
最後に承旭の前に広げた地図の一点を指した――無論そここそ渝民達が罠を張って因軍を待ち構える場所に他ならないのだが。
「おのれ烈飛め、いつまでも己の好き放題にはさせて置かぬ。こうなれば華国など捨て置け。全軍を以って収軍の後背を衝くのだ」
慌しく移動を始める兵士達に向って、結花はさらに仮借なき『飢虎将軍』の暴虐振りを吹聴するだけすると何処へともなく姿をくらますのだった。
一方、思うさま略奪の限りを尽くした烈飛率いる収軍は、既に件の関に潜み、完璧な罠を用意して今や遅しと因軍の通過を待ち構えていた。
後方に布陣する軍師渝民の元へ姿を現した結花が首尾を報告する。
待つほどもなく関に差し掛かった因軍は間道を半ば通過しかけた所で、潜んでいた収軍に左右から挟撃されることとなる。
不意を撃たれた因軍は一挙に浮き足立ち、声を限りに叱咤する承旭の命令もほとんど伝わらない。
指揮系統を寸断された承旭は本来の実力が発揮できず苛立ちながらも、命からがら敗走するよりほかなかった。
ようやく危機を脱しようとしたころ、敵の陣中に見覚えのある縹色の甲冑を見かけた承旭は天を仰いで長嘆息する。
「まさか‥‥収国にあの男が居たとはな。あの才知には武力で敵う筈もない」
自嘲気味に呟くと、馬に一鞭入れて一散にその場を逃れて行った。
他方、潮が引くように包囲軍が退いて行くのを呆然と見守っていた華国の都は、久方ぶりに平穏を取り戻していた。
始めは事情の飲み込めなかった翔佳も収からの使者から事情を聞くと珍しく丁重な礼を述べる。
「ほんに‥‥‥千や万の言葉を尽くしても礼にならぬ」
家柄だけが取り得の貧乏貴族の娘を正室として迎え、その才を認めて政治にも参画させたばかりか死に臨んで後事を託して逝った夫の墓前へも華国の無事を報告するため廟堂へと向った。
市街のそこここでも生還した兵士達を城内に居た家族が泣き笑いで迎える風景が溢れている――その中には父親に頭を撫でられながら泣きじゃくるあの少女の姿もあった。
● 撮影の陰で‥‥
撮影の初日、撮影や道具類の製作スタッフとして参加したトシハキク(fa0629)は、引率の千葉や以前同じ千葉絡みの仕事で一緒になった神楽と久闊を叙していた。
第一回ではしっかり者のお姫様役を演じた神楽も、今回の出演は名も知れぬ町娘役と言うことで、専らBGM製作の手伝いをメインにするつもりらしい。
ジスは打合せで決ったストーリーを元に、早速地元のスタッフ達に混じって『華』『因』『収』の三つの国の宮廷や、華の市街や城門などの製作に取り掛かった。
予算と準備期間の少なさは照明の配置や撮影の角度などを工夫して補うことに。
あくまでも『策』を端的に表現するドラマの流れの中に、それぞれの役者達の人間劇を織り込んで行くため演出にも気を配る。
一方、神楽も持参したアコースティックギターで町中の雰囲気を出すために中国風のアレンジしたやや寂しげな曲調を、宮廷場面用には現地で用意してもらった中国古来の琴のみによる演奏を用意する。
戦闘場面は、楽器を増や、兵士を鼓舞するような太鼓の連打、ついでに銅鑼なども組合わせたのはやや個人的な趣味も手伝っているらしかった。
衣装合わせ中の裕貴とラリーの兄弟――と言っても実際には従兄弟同士らしいのだが――は、ややだぶつき気味の甲冑を合わせるために体にタオルを巻かれながら互いの様子をおかしがっていた。
● 『囲魏救趙』とは‥‥
カメラは『終劇』の文字と供にスクリーン前のソファに並んで座る役柄のままの衣装に身を包んだ七人を映し出す。
ドラマに出演していないジスは裏方に徹するようだ。
全員の挨拶が済むと、因王を演じたマキさんが事前に用意しておいたフリップや、CETの動物番組からの映像などを流しつつ、策の由来となった故事とそのアレンジ等にも解説を振る。
「野生の肉食動物にも、獲物が群れている場合はまずそれを驚かして分断し、群れからはぐれた個体を狙うものがいるそうです。まさにこの計略に近いですね」
尤も、直後にで現実的かつ身も蓋もないコメントでひっくり返したりもするのだが‥‥。
「まあ、実際には相手を分断したつもりが、気がつくと逆に挟み撃ちにあっていたりと、なかなか策略通りに行くことは少ないのですが」
一方、スポーツバラエティアイドルと称するゆか――どうやら本来は得意とするチア技術を駆使しての応援パフォーマンスが売りであるらしい――は、団体競技、特に球技などを例にとって、身近な所での応用を解説する。
こちらはCETのスポーツ番組等からVTRを借りだして、
「蹴球や闘球の試合をみると、守備の厚い所に真っ正面から当たるのじゃなく薄いところを突き、更にその混乱からの回復動作も読んで利用しているのが分かると思うわ。 格闘技でも守備の堅い相手がそれを崩すときは、反撃の際の攻撃動作移行の隙だったりね。皆も競技に参加するときに、自然にとる作戦なんじゃない?」
その後、撮影の苦心談なども織り交ぜながら暫く解説が続き、
「そしてこの計のキモは、万全の体勢を崩されても即立ち直ることの重要さも、裏に隠してることね!」
と言う、ゆかのやや穿った解説で番組は締め括られたのだった。