【三十六計】以逸待労アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/03〜02/07

●本文

 第三回の放送分も無事完成――この回は戦場から所を移して宮中劇となった。
「前回はまったく戦場での駆け引きとか戦闘シーンとかなかったっすね」
「まあ戦場での応用ばかりが『三十六計』じゃないわよね。現代じゃ経営戦略や人生訓として活用されることも多いみたいだし、絢爛豪華な宮廷の裏に潜む謀略ってのもなかなかいいんじゃない」
 例によって妄想モードにトリップしそうなおっさんを現実に引き戻す。
「え〜っと今回は『以逸待労』っすね」
 戦略やら人生訓なら国や時代を問わないはずだが、古代中国限定というのは完全におっさんの趣味であるらしい――いわゆる職権乱用というやつだ。
「そうね、優勢な相手が疲れるのを待つっていう策なんだけど、待ってる間にこっちも一緒に疲れちゃったら意味ないわけだし‥‥そういえば堅固な城に籠った敵を包囲して兵糧攻めにする時に、回りに町を一つ作って商人はおろか芸人や遊女まで呼び寄せていくらでも待てるように日常生活を再現しちゃったって例もあったわね」
 中国好きと言う割りに、なぜかいつも取り上げる例が日本の戦国時代だったりする辺りがこのおっさんの訳のわからないところだったりする――。
「包囲しながらドンチャン騒ぎを籠城軍に見せつけたんでしたっけ」
 こういった話は広まるに従って盛大な尾ひれがつくのが常である――どこまでが史実でどこからが後世の作り話なのかはさだかでない。
「そんなとこね、まっ、今回もよろしく」
 何をよろしくなのかは改めて聞くまでもない‥‥‥‥。

 そしていつものようにキャスト兼スタッフ募集がかけられることになった。


●三十六計
 書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
 その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
 序文に曰く。

『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』

 太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、無理に作ろうとすればそれは失敗に終る。


●第四計『以逸待労』
『困敵之勢 不以戦 損剛益柔』

 敵に勢いがあるときにその勢いを殺ごうとするならば、無理に戦う必要はない。(じっと守りを固めるだけにして敵の疲れるのを待てば)敵の勢いが損なわれるのに反比例するように劣勢だったものが有利になる。

●今回の参加者

 fa0756 白虎(18歳・♀・虎)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)

●リプレイ本文

● ドラマ『以逸待労』
 晩秋の平原を埋め尽くして進む騎馬軍団があった――西方中南部に位置する遊牧民族の戦闘国家『赳』の軍勢だ。
 日も暮れかかると見て行軍を止めると野営の準備にかかる。
 近くの小高い丘に馬を駆け上がらせた狗維(森里時雨(fa2002))は、彼方に霞む『龍門関』を眺めると軽く口の端を上げた。
 東方侵攻のための遠征軍を預かるだけに、若輩ながら幾つもの戦場で名を馳せた猛将であり、その勇は群を抜く。
「柳か? 単于への土産に、勢いに乗じて『克』に侵攻するぜ!」
 背後から近付く蹄の音に、振り返りもせず言葉を投げる。
 馬を寄せた副官の柳・慈娘(白虎(fa0756))も同じ方角へと視線を向けた。
 遥かに見える龍門関は周囲を険しい山に囲まれた要害であり、これを抜きさえすれば克の都までほとんど遮るものはなくなると言われる防衛の要でもある。
 隣接する小国を難なく落としたことで兵達の士気は高い――が、反面既に皆凱旋気分でもあり遠征のために用意した糧秣なども心許なくなっていた。
「高々地方の農業国だ、労せず陥とせるだろうさ。今なら兵糧も奪い放題でな」
 慈娘の懸念を見て取ったのか、振り向いた狗維がカラカラと笑う。
「御意」
 確かに野戦で遅れを取る相手でもない、迎撃に出てきた敵を打ち破り、そのまま砦に雪崩込んで占領すれば、次の戦のための橋頭堡を確保できる――尤も国許に戻って縁談話を持ちかけられるのも煩わしい、と言う個人的な思惑も働いていたのだが。

 翌朝、赳の軍勢は一斉に龍門関へと襲い掛かった。
 兵を出して防戦に努めるも戦力、士気供に勝る敵に敵うべくも無くかろうじて門内へと撤退する。
 緒戦敗退の報を受け龍門関を預かる太守徐叔宝(日向翔悟(fa4360))は顔色を失っていた。
 武勇に秀でるとは言うものの、この若さで現在の地位にあると言う大抜擢の多くは克の大将軍を伯父に持つと言う家系に負っており、いかんせん実戦経験は乏しい。
 国の浮沈に係るこの要所を任されたのも、先年の隣国との小競り合いで禁軍の蒙った痛手が癒えていない事と、赳の動きを読みきれなかったと言う事情がある。
「この龍門関を破られれば、王都迄これという要害はない。王都の禁軍の再建も進まぬというのに‥‥此処は我らだけで死にものぐるいで防ぐしかあるまい」
 軍議が始まると、当然のことなら王都への援軍要請を求める意見が出されるが叔宝はこれを退ける、所へ声を上げたものがあった。
「敵はこの辺りの地理に疎いようだ。俺ならあいつらの不意をついて撃退できる自信がある」
 緒戦に加わらなかった一軍を率いる武将・雷麗真(ブリッツ・アスカ(fa2321))だ。武芸百般に秀でており、情に厚い性格から部下達の信望も厚い。
 が、彼女を押止めたものがいる。叔宝の参謀を務める周叡(伊達 斎(fa1414))であった。
「暫し待たれよ麗真殿。先の一戦を見たところ敵軍は士気高く数も多い上に中々の強兵揃いと見えました。仮に奇襲をかけて一度は撃退できたとしてもこちらの損害も見過ごせぬものになりましょう。ここは一つよろしく堅城に寄って敵の鋭を挫くことが上策と思われます」
 周叡の献策に頷く叔宝だが幾分不安げに首を捻る。
「彼我の戦力差はいかんともしがたいか。この龍門関の城壁が如何に堅剛であろうが、それだけを当てにする訳にはいかぬし‥‥何か良い策でもあればよいのだが‥‥」
「ご心配には及びません。元より地の利は我方にあり、天の時も程なく我軍にお味方致しましょう。この上は堅く守って人の和を整えつつ好機の到来を待つことです」
 ここまで述べるとやや不満げな麗真へと向きを変える。
「‥‥なに、何れ貴女の槍働きに頼る時は来ます‥‥その時の為、今は体を休めておいて、万全の体制にしておいて下さい」
 穏やかながら余裕と確信に満ちた周叡の言葉に麗真を始め居並ぶ諸将も反論せずやがて叔宝は断を下した。

 一方、寸での所まで追い詰めた敵に城門へと逃げ込まれた狗維は、敵の血に濡れた三叉矛を撫しながら城内へ向って盛んに挑発を繰り返すが散発的な矢の応酬があるばかりで一向に埒が明かない。
 一気に門内へと雪崩れ込むつもりだった慈娘も月牙を赤く染めた戟を抱え当惑顔で近付いてきた。鞍には弓もくくりつけているが既に矢は撃ちつくしている。
「小賢しくも砦に篭城されたが、此方の騎馬兵力は優勢のまま‥‥軍馬に草を与え、兵糧を収奪し、弱小国が白旗掲げる機を楽しみに待とうぜ」
 狗維は門内に向って聞えよがしにそう言い放つとさっさと引き返し始めた。

 同じころ、龍門関近郊にある小村では関の外での騒動も知らず今しも刈入れの真っ最中である。
「小翠や、まだかかりそうかね?」
「これで最後だよ」
 纏めた収穫を荷台に積み上げた少女小翠(月見里 神楽(fa2122))が元気良く応えると、荷台の端にちょこんと腰掛ける。
 鞭の音と供に動き出す荷馬車の荷台に揺られながら、穏やかな秋の日差しの中所々に残るまだ刈り取られていない秋の実りをニコニコと眺めていた。
 夕方までには近くの村々にも敵襲の噂が徐々に広まっていき、少し遅れて城からも無用に騒ぎ立てぬようにとの御触れが各村へと通達された。

 その夜、関所に詰めるとある役人の家でも赳の襲来が話題に上る。
 小柄な影が帰宅した父親を迎えた。
「おお、阿丈か。今日は少しは加減が良いのか?」
 阿丈(タブラ・ラサ(fa3802))と呼ばれた少年――実は既に元服も近い年頃なのだが生来の病弱の為発育も芳しくない――は当たり障りのない返答を返すと逆に問う。
「父上、このまま戦となるのでしょうか?」
 不安げに尋ねる阿丈に難しい顔で応える。
「戦といえば既に戦なのだが、どうやら太守殿は守りを固めて打って出ないらしい。その意味では暫く戦らしい戦はなしと言うことになるな」
 幾分歯切れの悪い父親の説明を阿丈は考え深げに黙って聞き入っていた。

 宿舎へ戻った周叡も弟子の香梨(雅楽川 陽向(fa4371))に迎えられる。
「お師匠様、首尾はいかがでした?」
「ああ、当座は何もしないことになったよ。とりあえず時期を待たなくてはね」
 試すように弟子をはぐらかしながら窓を開け放つと夜空を見上げた。
「時期ですか?」
 釣られるように香梨も夜空を見上げる。
「まだ‥‥暫くはかかりそうだけどね‥‥慌てることはない、天の時は僕達の味方だよ」
 謎めいた言葉を投げかけると笑いながら窓を閉じた。

   ・
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 たちまち一月ほどが過ぎ、季節は既に秋から冬にさしかかろうとしている。
 近隣の村々でも話題は関をはさんで睨みあう両軍の様子で持ちきりであったが、これと言って戦の影響らしきものも無く日々は何事もなく過ぎていた。
 尤も関の外では相変わらず赳軍による挑発や間道を探そうとする努力も続いていたが、城内からは最低限の反撃があるだけで全く関から出て来ようとする気配もない。
 幾たびかの問答でようやく周叡の真意を悟った香梨も忙しげに立ち働いていた。
 この間にも防衛に当る麗真などからは周叡に向って幾度と無く「本当にこれでうまくいくのか?」との問いかけがなされたが、その都度周叡はやんわりとその主張を抑え、部下には交代で休養させるなど、決して無理をさせないようにだけ指示を出し、自分でも余裕げに空を眺めるなど悠然と構えている。
 太守の叔宝もこまめに兵を慰撫しに廻ったり、非番の者には飲酒を認めるなど長引く籠城戦にあたって士気の低下に気を配っていた。
 籠城とは言っても四方を囲まれているわけではなく、少なくとも関のこちら側は平時とさして変らぬ日常が営まれている。
 件の役人の家でも、
「あれから一月以上も過ぎましたが、お味方に未だ何の動きもないのは何故でございましょう?」
 などという会話が交わされていた。

 反面、関の外に布陣する赳軍は進退に窮している。
 関の内側こそ豊かな農業国であったが、関を一歩出れば荒涼たる原野が続くだけの土地だ。容易に関を突破して略奪し放題のはずだった食料が入手できず持参した兵糧も既に底を尽きかけていた。
 かと言って無駄に人馬を消耗した挙句、全くなんの成果も上げずに逃げ帰るなど狗維の性格からして出来ようはずもない。
 そんな中、副官の慈娘は雲の動きや付近の鳥の様子などから天候の変動が近いことを感じ始めていた。
「閣下、雨が降ってきそうです」
 狗維に向ってそう進言し乏しくなってきた兵糧などを雨から守る下知を請おうとした慈娘の目に空中を舞うなにやら白いものが飛び込んできた。
 掌に受けるとたちまち水滴に変る。
「これは‥‥氷?」
 初めて見る雪に驚きと戸惑いを隠せない慈娘とは対照的に、どうやら以前にも見たことがあるらしい狗維は積もる気配を察しておもしろくも無さそうに応じた。
「糞っ! 何事だこの積雪は! 霜どころじゃねぇ‥‥これじゃ、燃料も牧草も見つからねぇぜ‥‥」
 狗維の嘆きを他所に、雪は、近郊の村にも等しく降り注ぎ、一帯の畑を一面の銀世界に変えていく。
 関の兵舎に穀物を納めていた小翠の家では、今しも夕餉の支度に使う穀物を納屋から引っ張り出そうとした小翠が額にかかる雪を袖で拭いながら寒そうに指先に息を吹きかけていた。
「うわぁ、寒いと思ったら雪だ‥‥そう言えば兵隊さん達に納めた穀物はどうなってるのかな?」
「小翠! 何をやってるんだい?」
 一瞬物思いにふけりかけた小翠を母の声が急かせる。再び穀物の袋を持ち直した小翠は台所へと歩を早めた。

 一方、周叡も飛び込んできた香梨から初雪の知らせを受け窓の外を眺める。
「‥‥ふむ、首尾は良さそうだね‥‥ご苦労様」
 数日待って積雪を確認するとやおら腰を上げた。
「いやはや‥‥この冬もまた、寒くなりそうだね」
 香梨に向って笑いかけると、軍議の席に向い、叔宝に向って進言した。
「時は来ました‥‥攻撃命令を‥‥!」
「我が軍の勇者達! 反撃の時は今ぞ!  永く耐えてきたその怒りを今こそぶつけるのだ!」
 頷いた叔宝も武将たちに向って力強く宣言する。事ここにいたってようやく周叡の策に得心した麗真もしきりと感嘆の声を上げながら勇躍して前線に赴く。
 関の門が開くと同時に先陣を切って飛び出した麗真らが喚声を上げて襲い掛かる。
 さしもの精強を誇った赳軍も、既に少なからぬ軍馬を飢えに失っており、兵士達も馴れない寒さと飢えによって衰弱していた。
「こんな時に奴等の攻撃だと! 畜生‥‥これまでか!」
 それでも狗維や慈娘はそれぞれの得物を手に乱戦の中へと身を投じたが勝敗は既に明らかであった。
 討たれる者も引きをきらず、その場を逃れた者も無事本国へたどり着いた者は数えるほどだと言う。
 事の顛末を後に聞き知った阿丈は次のように応じるのだった。
「父上、南方では雪など降らぬと聞きます。敵も初めて見る雪に戸惑っていたのでありましょうか? ‥‥これが兵書に言う『以逸待労』の策というものなのでございますね」


● 『以逸待労』とは‥‥
 いつもの様に『終劇』の文字と供にカメラはスタジオを映し出す。
 例によって最年長の斎から始まって最年少のラサまで順繰りに自己紹介を兼ねた挨拶をしていき、初回から馴染みとなっている神楽が、
「今日も来ました解説コーナー『座談会』皆様、よろしくお願いします」
 と元気良く締めくくる。
 ドラマの中で策士を演じた斎がまず口を開く。
「この計の肝は『待つ事』にあるかな‥‥只待つだけではなく、己の準備を万全にし、転機に的確に行動に転じられる事、それまでに相手が消耗する環境を整えておく事‥‥その為には他の計との併用も有効になるかな‥‥今回に限らず策というものは一つに拘らず最大限使いこなす事が重要だろうね」
 穏やかな笑みを浮かべながら斎の解説が一段落すると、神楽も会話に加わる。
「『楽して勝つ』そんな戦略なのでしょうか? でも、ただ待つだけじゃなくて、自分に都合良くて相手が損をする最良の方法を考えた結果が、この計に辿り着くのかもしれないですね」
「ドラマでは地の利を活かしてますが、地形が不利なときでも勝てる要素はありますよね。いかに勝機を見極めるかが大丈夫なんちゃうかな?」
 続いて陽向もドラマの中とは違い関西弁で別の視点を提供すると、最年少のラサはいかにも子供らしい一知半解の知識で応じて一同を笑わせる――尤もどうやら半ば計算ずくらしいのだが。
 一方で時雨は別のアプローチを見せる。
「東亜での例じゃありませんが、中東〜欧州では劇中同様に冬将軍の到来が戦況に大き影響しました。惨敗記録ではナポレオンのロシア遠征、破竹の勢いながら引き際を誤った結果です。現代の教訓は、ITの開発戦争っスかね。開発経費増大の中、先を見越した戦略は重要かと思います」
 ドラマとは別の視点を示すと、やはり格闘家でもあるアスカは自らの試合経験を引き合いに出す。
「格闘技でも、あんまり無理に攻め続けると、攻め疲れるというか、かえって手詰まりになったりするしな。もっとも、今回のドラマの戦と違って、リングの上じゃ条件は五分だからな。自分が消耗しないように守るにも結構技術がいるし、なかなかうまくはいかないんだけどさ」
 確かにリングの上で一方だけに優位と言うのはまずないだろう。
「恋の駆け引きが当てはまっているかも。『惚れた方が負け』という言葉がありますが、惚れられた方が主導権を握る可能性が高いから、強いのかもしれませんね?」
 陽向も更に恋愛話などを持ち出したり、時雨が騎馬の衰弱場面の裏話を披露したりと、和やかな雰囲気のうちに座談会は終わりを告げた。