【三十六計】声東撃西アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 03/03〜03/07

●本文

 いつもの簡単な確認で打合せも終り例によって‥‥。
「今回は『声東撃西』っすよね‥‥なんか毎回思うんですがこの四文字のお題と、次の一行くらいの解説って微妙に関連があるのかないのか解らないのが多い感じっすね」
「まあ、言われてみればお題だけ単純に見ると『東から攻めるぞ、って言っておいて敵がそっちに行ったところで西を攻める』ってだけよね」
「そうなんすよ。お題はどう見ても敵を引掛けるって策がメインにしか見えないんすけど‥‥そのくせ解説文のほうじゃ敵を引掛けるとかじゃなくて『敵が混乱してる状況』がメインで、そんなときこそチャンス、みたいなことしか書いてないっすよね」
「普通の状況なら敵さんもそんな簡単にこっちの言うことを信用して右往左往なんてしてくれないってことでしょう」
「そうっすよね、やっぱりそんな間抜けな敵ばっかりなら策とか以前に楽勝っすもんね」
「偽情報を信じさせるにはそれなりの工夫とか相手の性格を読む必要があるってこと。それはそうと‥‥‥‥」
「‥‥‥‥?」
「ジャンケンポン! ‥‥あっち向いてホイ」
 突然のことについ載せられてしまう――しかもジャンケンにも負けた上に一発で‥‥。
「ん〜、以外とひっかかる相手もいるのかもね」
「って、いきなりなにさせるんすか! つか、全然関係ないじゃ‥‥」
「解説に『自主』ってあるでしょ。ちょっとした混乱でも自らの主として判断が狂うのは個人も集団も変りないってことよ。それに千葉ちゃんいつも最初はパーしか出さないし。敵を知り己を知ればって言うじゃない‥‥それじゃ今回もよろしくね」
 ニヤニヤ笑いながら肩を叩く――ったくなんつうオッサンだ、それじゃまるで俺が間抜けみたいじゃ‥‥。

 そしていつものようにキャスト兼スタッフ募集がかけられることになった。


●三十六計
 書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
 その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
 序文に曰く。

『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』

 太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。

●第六計『声東撃西』
『敵志乱萃 不虞 坤下兌上之象 利其不自主而取之』

 敵の指揮系統が混乱して虞ることが出来ない状況と言うのは、『坤下兌上』の象、すなわち易でいう『沢地萃』(沢が地の上に溢れようとする象)の状態である、敵が自ら主体的に動くことが出来ないのを利用して勝利を得る。

●今回の参加者

 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa4203 花鳥風月(17歳・♀・犬)

●リプレイ本文

● ドラマ『声東撃西』
 始まりがあれば終わりもある――隆盛を極めた王朝にもやがて頽廃と衰退の兆しは見え始め、それに呼応するように地方では大小の反乱が頻発する。漢王朝末期の黄巾の乱のごときはその好例と言えよう。
 ここ『征』王朝の繁栄もすでに凋落の兆しを見せ初めて久しい。宮廷は言うに及ばず地方でも官僚の腐敗には歯止めがかからず、乱を鎮定すべき軍も弱体化の一途を辿りつつあった。
「兄者、村役人どもはあらかた片付いたよ」
 小柄な影が血濡れの斧を地面に突き立てたまま辺りを睥睨する漢、高凱(森里時雨(fa2002))に近付き声をかける。
「おぅ、飛か? ごくろうだったな」
 ニヤリと笑いながら声をかけた相手は弟の飛(月見里 神楽(fa2122))だ。子供ながら兄と揃いの真紅の鎧に身を包み手には抜き身をぶら下げている。
 揃いと言えば周囲で村人を追い回し略奪や殺戮など暴虐の限りを尽くしている高凱の部下達もまた色の濃淡や形こそ違え真紅の鎧に身を包んでいた。
 称して『紅鎧党』――首魁の用いた鎧の色に因んだものらしい。
 元々は王朝の腐敗に異を唱えて世直しを名目に立ち上がった反乱軍であったが、規模が拡大するにつれ次第にならず者や騒動に乗じる暴徒の集団と化していた。
 若年ながら一軍を任されている高凱もまた部下達の暴走を統制しようともしない。
「それとさっき斥候に出したやつらから正規軍が近付いてるって報告も入ってるよ」
「けっ、そいつぁウゼぇやつらが出張ってきやがったな。砦に戻って歓迎の準備でもしてやるか? おぃ、野郎共、頂くモン頂いたらとっととずらかるぞ! グズグズしてるヤツは叩っ切るからな」
 飛の報告を受けた高凱の一喝に、周囲で暴虐の限りを尽くしていた手下達も戦利品を手に引き上げの準備に取り掛かった。

 退いて行く紅い軍団の後を追うかのように青い装束に身を固めた正規軍が姿を現す。
 そのまま追撃戦に取り掛かり、砦に逃げ込んだ『紅鎧党』の軍勢が態勢を整えないうちにと一戦を交えたのだが、砦が意外に堅牢な上、有象無象の群れとは言え籠る『紅鎧党』の数も侮れない。
「さすがにこれだけいると、力押しでは厳しいですね」
 中軍にあって戦況を見守っていた呂真(巻 長治(fa2021))が、傍らで城攻めの指揮を執る鄭羽(片倉 神無(fa3678))に進言する。
「ここは一旦兵を退いて態勢を立て直し、策を練り直したほうがいいでしょう」
 参謀を務める呂真の言に主将の鄭羽も頷く。
「ならず者の集まりの割には以外とやるようだな。砦の堅さと賊の頭数もバカにならん、一先ず退くか」
 鄭羽の命は直ちに全軍に伝えられ一斉に退き始める。
「腐った天下に異を唱える義侠軍ってな! 腰抜けの国軍に、この砦は落せねぇぜ」
 自慢の大斧を片手に砦の望楼からこれを眺めていた高凱は、退いて行く正規軍に向って嘲りの言葉を投げつけながら哄笑を響かせるのだった。

 一旦退いた正規軍はやや距離をとりながらも砦の包囲を続けている。
 臨時に設えられた幕舎では鄭羽が呂真を始めとする主だった部下を集めて軍議を行っていた。
「で、あの砦はいったい誰が仕切ってるんだ?」
 国軍の総指揮官としてはやや不釣合いなほどざっくばらんな口調で鄭羽が問うと、参謀の筆頭を勤める呂真がやれやれと言うように肩をすくめながら調べ上げた結果を報告する。
「どうやらかの砦を預かっているのは高凱のようですね。中々の猛者と言う話ではありますが‥‥」
 敵将の名を聞いて、集まった武将の何人かが低く唸り声を上げる――高凱の名は紅鎧党首魁の配下中、五指に入る猛者として国軍の将帥達の耳にも届いていた。
「が、何だ?」
 部下とは言え旧知の間柄である呂真のようすに鄭羽が先を促す。
「まあ猛者であることは間違い無さそうなのですが‥‥有態に言えば、馬 鹿、ですな」
 居並ぶ面々から今度は失笑が漏れる。
「ほうっ。ならば付け入る隙はあると言うことか?」
 旧友の歯に衣着せぬ物言いに思わずニヤリとしながら更に問いかけた。
「どうやらこの砦は山間の地形を利用してかなり広い範囲に作られているようです。現在対峙している正面の門とは別にかなり離れた位置に裏門があり、こちらは守りも手薄なようです」
「そちらから攻めるということですか?」
 幕僚の一人が先走って声を上げるが、呂真はやんわりとそれを制して言葉を続ける。
「と言う偽情報を砦内に流します。敵の兵数は多く、士気も盛んではありますが、所詮はただの賊軍。指揮系統もいい加減ですし、指揮官の高凱もあまり頭は回らぬ様子。噂に踊らされて必ずやそちらに兵を集中させるはず。そこで正面を突けば崩すのは容易いでしょう」
「‥‥なぁるほど、動かないなら動かしちまえってか」
 呂真の進言する『声東撃西』の策をそれと察した鄭羽は一議に及ばず即断する。
 更に情報操作などの手筈や裏門へ向う囮部隊の準備など細部の説明を聞き終えると、
「分かった、そっちは任せたぜ‥‥我らが参謀殿」
 自らは正面の主力を率いることとし、真の目標は自軍の兵士にも知らせぬまま準備を進めると言うことで作戦に取り掛かった。

 砦の包囲が始まって暫くすると、包囲軍では周辺の地域から兵の徴用を始めた。
 始めは壮丁と限って集めていた現地徴集の兵だが、やがて数が足りないのか少年といってよい者まで徴用し始める――志願してきた少年兵の中にはどなにやらどこかで見かけたような顔がある。
 砦に立て籠った『紅鎧党』指揮官高凱の弟、飛であった。
 包囲したまま動きの無い国軍の様子を探る為、徴用兵に紛れて潜り込んだらしい。
 少年兵と言うことで調練の合間にはお偉方の身の回りの世話なども命じられるのだが、当に望む所と言ったところで得たりとばかりにそ知らぬ顔で軍の作戦について聞き出そうと勤めていた。
 飛としては中々うまく立ち回っているつもりなのだがそこはまだ子供である、さすがに百戦錬磨の呂真などの目は誤魔化しきれない。
 尤も呂真としても敵の間諜の存在は願ったりかなったりであり、盛んに偽の情報を吹き込んでは自由に泳がせて砦に籠る賊軍へと伝わるようにと算段を巡らす。
 軍議や調練の場でも態と砦の弱点である裏門への本格的な一点突破を議題に載せたり訓辞に織り込んだりと余念がない。
 一方で砦に籠ったままの高凱も、国軍に紛れ込ませた飛だけではなく夜陰に乗じて複数の偵察を出していたのだが、どの報告も飛の情報を裏付けるものばかりである。
 高凱はまた包囲軍を挟撃する為に『紅鎧党』本拠地への増援要請も行っていた。
「ウゼぇ奴等の挟撃の算段は付いたが‥‥、偵察の情報じゃ裏門からの攻撃を図ってるそうじゃねぇか。付近の村娘も同じ事を言いやがるし‥‥」
 高凱にしても砦に籠ってばかりいたわけではない。緒戦で入手した国軍の装束を身に着け、手下と供に何度か周辺の村に偵察にも出ている。
 件の村娘(花鳥風月(fa4203))と出合ったのもそんな折。
「あいたた、あんた達一体ドコの兵隊さん?」
 情報収集に訪れたとある村で高凱らの眼前で派手に転んでいた娘である。幾分媚を含むように姿を作りながら高凱らに向って問いかけてきた。
 部下達共々多少なりとも食指は動いたものの、この場は情報収集が優先である。最近の周辺の様子を問う高凱に答えたのが。
「そういえば、東の方に軍隊が集まっているのを見たわね」
 と言うもの――村の東の方と言えば砦の裏門とは指呼の間にある。
 どうやら高凱にまんざらではない様子で更に言葉を続けようとする村娘を適当にあしらうとその場を後に。
 砦に戻った高凱は部下達に命じる。
「砦の弱味を突くなんざ小癪だが、なぁに、こっちも兵を固めりゃいい! 野郎共、敵布陣への守り固めとけ!」
 中には正面が手薄になるとの尤もな意見を吐く部下も居たのだが、高凱は「かまうこたぁねえ」の一言であっさりと片付けてしまった。
 国軍に潜り込んだ飛は飛で正体が見抜かれているとも知らず張り切って情報収集に勤しんでいる。
 やがて、翌朝に出陣との命を受け、夜分にこそこそと陣営を抜け出すと近くに潜んでいる繋ぎ役の下へと知らせに走る――昼間指示された突入の段取りや突撃の合図に使う太鼓など、事細かに伝えると何を思ったか再び国軍の陣屋へと戻って行った。
 どうやら翌日の乱戦に紛れて兄の下へと戻るつもりのようである。

 翌朝、囮部隊を指揮する呂真は砦の裏門に急ごしらえの部隊を殺到させた。
 尤も、太鼓などの派手な鳴り物を用いてなるべく敵の目をこちらに惹きつけつつ、怪しまれない程度に、しかし被害が大きくなり過ぎない程度に攻めて時間を稼ぐのが目的であるためその矛先は微妙に鈍い。
 押し出してくる砦の軍勢にいとも簡単に押し返されては時折反転攻勢をかける素振りを見せて再び逃げにかかる――調子付いた賊軍は徐々に砦からおびき出される態となる。
「こちらは順調なようですね‥‥将軍、後はお任せしますよ」
 囮部隊の指揮を執りながら呂真は会心の笑みを浮かべた。
 囮部隊成功の報は鄭羽の元へも届けられ、伏せていた本隊が一斉に正面に攻めかかる。
 油断していた賊軍は必死に防戦するものの城壁に取り付かれ内側から門を開け放たれるとたちまちのうちに戦線が崩壊を始めた。
 想いも寄らぬ方向からの敵襲は高凱の元へも伝えられる。
「正門からだと! 太鼓はあそこから聞こえてるのに! くそっ、謀られたか、てめぇら元の配置に就けって!」
 正面の囮部隊を指差しながら悔しそうに罵るとすぐさま取って返す。
 だが、所詮は寄り合い所帯の『紅鎧党』である。一度崩れた指揮系統は回復すべくもない。混乱のままにずるずると押し切られて敗北していき、生き残ったものも散り散りになって落ち延びて行った。
「ま‥‥てめぇの性格と、優秀な参謀が居なかった不幸を呪うんだな」
 呂真の部隊と合流した鄭羽はその壊走する敵の様を眺めながらそう呟くのだった。


● 春の嵐‥‥
 春の嵐に見舞われ到着の遅れた一行を引率して現地に入った千葉はスタイリストの中松百合子(fa2361)と最終の打合せを詰めていた。
「『三十六計』シリーズは聞いた事があったけど、製作に携わらせてもらうのは今回がはじめてね。良いドラマが出来るように尽力するわ」
「中松さんは本編にも座談会にも出演しないんですか?」
「陰に隠れてなんぼの仕事だもの、その分、作品を支えるわよ」
 幾分残念そうに確認する千葉ににこやかな笑顔ながらきっぱりと拒否する。
 現地の撮影スタッフとタイムスケジュールの確認などの打合せを終えると、すぐさま出演者達の衣装の準備やメイクに取りかかる。
 脚本の時代考証やセットに合わせて武具類の調達も行う――メインの役どころを演じる役者達は体力的に本物の武器を振り回すのが難しい者も多いのだ。
 今回男装して少年役を演じる神楽なども男の子らしさを出すためにはメイクに一工夫必要になる。
 リハーサルのVTRなども確認姿がら微妙な手直しも施して行った。


●『声東撃西』とは‥‥
 『終劇』の文字に続いて映し出されたスタジオでは例によって劇中の衣装を纏った出演者達が年嵩の順に自己紹介と挨拶を行う。
「こんばんは〜、解説コーナー「座談会」の時間です♪」
 少年兵に扮装した神楽がいつものように元気よく挨拶を締めくくる。
「いやぁ、指揮系統確立と状況把握は大切っスね☆」
 敗軍の将を演じた時雨が口火を切ると、勝者を演じた知り合いの神さんがジャンケンを用いた例え話で策が有効な状況について説明を提案する。
「リベンジマッチっスね。いつでも受けて立つっスよ」
 なにやらやたらと張り切る森里少年に向って、神さんはニヤニヤしながら「俺はグーを出す」などとしきりと揺さぶりを掛ける。
 いよいよ勝負と言うことで神さんの顔面に向って思い切りグーを突き出す時雨だが‥‥
「おっさんのグーには肉体言語的グーで返す! これが正解‥‥あ、あれ?」
 神さんのパーであっさりと受け止められ再び敗北。
「うぉ〜、ま、また負けちまった〜〜! 次は大阪のおばちゃんの道端コントかっ! ‥‥いや俺ら漫才コンビじゃねぇからっ!」
「‥‥とまぁ、こんな具合に相手を把握してれば、それを二択にも一択にもしてしまえる、と」
 なにやら天を仰いで意味不明のことを吼えまくる時雨には構わず、にやりと笑った神さんは淡々と解説を加える。
「実は宣言しようとしまいと、結局ジャンケンだから確率は変わらず三択なんだけどな‥‥言葉に惑わされない相手には結局意味は無い訳だ」
「この計略は、あまり活かす場面が少なそうに見えて、結構あるみたいですね? 神楽みたいな子供なら、野球みたいな試合が例えに出来るかな? かっ飛ばすぞーと見せ掛けて、バントでゴロを出す。相手の意表を付いた作戦を取る感じです」
 二人のやり取りをおもしろそうに眺めていた神楽も現代版の応用を取り上げてみる。
 暫く現代風の珍問答を取り混ぜた話題が続き、一段落した所で今度は参謀役のマキさんが呉楚七国の乱のにおける『声東撃西』の使用例を話題にする――尤もこちらはプロモーション作成時に使用した『美人計』と同様、策が失敗に終った例であるが。
「どの策もそうですが、この策も使い所が重要ということです。そこの読みを誤ると、『策士策に溺れる』結果になるわけですね」
 などと言いつつ、この策が成功するためにはあくまでも『敵志乱萃』が条件になることを強調する。
 その後も劇中でお色気担当の村娘を演じたカトリも加わり談笑裏に番組のエンディングを迎えた。