【三十六計】無中生有アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/17〜03/21

●本文

 いつもの簡単な確認も終り例によって‥‥。
「今回は『無中生有』っすよね‥‥今回の解説文は割とマンマな感じっすね‥‥最後の方は相変わらず訳分かりませんけど」
「まあ、とりあえず実体は無いけどとりあえずある振りをしといて、相手が騙されてる間に実態の方も整えようって感じよね。最後の方はやっぱり易とかの関連だからその辺詳しくないとちょっと難しいわね」
「はぁ‥‥易っすか」
 今ひとつ気のない返事を返すがとりたててリアクションはなく‥‥。
「戦前の取り付け騒ぎの時だったかに窓口に札束を積み上げて押しかけて来た群衆を安心させた銀行があったって話よね。いわゆる見せ金ってやつ」
「現代版の応用ってことっすか」
「それとハリボテのお城をパパッと作っちゃって相手が気付く前に内側で本格的な城を工事してたなんて話もあるし」
「なるほど‥‥意外と使える感じっすね」
「まっ、そんなわけだから今回もよろしくね」
「はぁ‥‥」
 全く誠意の欠片もない返事を返すが全く気にする素振りもない。

 そしていつものようにキャスト兼スタッフ募集がかけられることになった。


●三十六計
 書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
 その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
 序文に曰く。

『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』

 太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。

●第七計『無中生有』
『誑也 非誑也 実其所誑也 小陰 太陰 太陽』

 とりあえず(実態を整えることが無理な場合は)見た目だけでも相手を欺いておく。かと言ってそのまま欺き通すと言うわけにもいかない。相手が見た目に騙されている間にその中身も実現してしまう。
 小さな不備をわざとらしく大げさに見せつけることで相手を惑わし、やがて陰を陽に転じて逆転する。

●今回の参加者

 fa0182 青田ぱとす(32歳・♀・豚)
 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa3726 新田・昌斗(22歳・♂・一角獣)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)
 fa4773 スラッジ(22歳・♂・蛇)
 fa4905 森里碧(16歳・♀・一角獣)
 fa5367 伊藤達朗(34歳・♂・犬)

●リプレイ本文

● ドラマ『無中生有』
 平原を埋め尽くすように二つの軍が対峙している。
 一方は国境を侵して攻め入ってきた隣国『幽』の、他方はこれを迎え撃つ『越』の軍勢であった。

「援軍の到着が遅れるだと?」
 報告を受けた趙飛(烈飛龍(fa0225))が使者に視線を向ける。
 単なる確認の問いかけではあるのだが、『越』本軍を率いる勇将――胸元まである顎鬚から覗く顔の面に無数の刀傷を刻んだ偉丈夫である――の鋭い眼光に射竦められ、使者は改めて地面に額をこすりつけた。
 不利な戦況を打開すべく都から呼び寄せた援軍が折からの大雨で足止めを食っているらしい。
 趙飛が目顔で合図すると傍らに控えていた参謀呂白(グリモア(fa4713))が使者に声をかける。
「ご苦労様でした。さぞお疲れでしょう、あちらでお休みください」
 丁重に労をねぎらうと兵士に案内させてその場を下がらせる。
 使者と入れ替るように一人の少女が姿を現した。
 蔡氏(森里碧(fa4905))と呼ばれる少女は、かつて禁軍の軍師を務めた人物がその才を見込んで養女とした娘だ――師父が隠遁した後も、軍の補佐としてこの場に同行している。
「良くない知らせでしょうか?」
 その場の空気を察して呂白に問いかけると、さして慌てる風もなく頷く。
「まあ、そんなところですね」
 暫し沈思黙考していた趙飛が徐に口火を切る。
「やむを得ん、援軍の遅れが敵に知れるのを遅らすため、ここは一つ古の兵法書に則って多少の策を弄するしかあるまい」
「策と申しますと?」
「まずは煮炊きに使っている竈の数を徐々に増やす。それに合わせて、軍の一部を密かに裂いて夜間に後方に下がらせ、日中わざと土煙などを立て、鳴り物を鳴らしながら合流させる事で恰も援軍が陸続と到着しているように見せかける」
「なるほど、それならその策に援軍と挟撃できるようにもう一つ策を重ねてみてはいかがでしょう? 遅れて来る援軍に、迂回して挟撃するための伝令を出させるのです」
 趙飛の策に呂白が更なる提案を重ねたが、蔡は懸念を口にする。
「どれだけ時間を稼げますか‥‥。竈の数で見せかけの大軍は作れますが、間者を放たれれば兵糧などの物資の動きで、いずれ悟られてしまうでしょう。更に、援軍に迂回路を通らせるとなれば、それを悟らせぬ工夫も必要になります‥‥」
「無論それで長く騙し果せるとは考えて居らん。あくまで時間稼ぎに過ぎんさ」
 趙飛が不安を払拭するようにニヤリと笑う。蔡は慌てて話を進めた。
「いえ、反対なのではございません。むしろ逆手に取りましょう!
 ある時点で敵にこちらの虚を悟らせるのです。
 ある時以降、竈に煮炊きの火は架けませんよう。煙の色で虚を悟らせるのです。兵糧燃料の徴収は援軍の来る方向とは反対からに、これも虚を演じましょう。
 軍馬が居ない、兵糧もない、酒も女も買わない。塵芥の数すら合わない。けれど何かを待つように、一方向にはしっかり物資を用意しておくのです。間者も、進んで招きいれましょう」
 聞いていた呂白が裁可を仰ぐように趙飛へと視線をめぐらせる。
 趙飛が頷くと蔡に向って静かに言葉をかけた。
「策の細かな調整については、蔡、あなたにお願いします。私より上手くやってくれそうですから」

 そのころ、対峙する『幽』の陣営――
 周辺の地形の概要を記した地図を広げながらこちらも軍議に余念がない。
「渦滋殿、やはり此処を避けては通れない。一気に踏み潰してしまいたい!」
 地図上に示された越の都への経路を指し示しながら郭将軍(青田ぱとす(fa0182))が渦滋将軍(スラッジ(fa4773))を相手に強気の進言。
「こちらの軍勢は十万。聞く限りでは向こうは五万にも満たないというか、あの様子では‥‥。不意を討たれたらタダではスマンな」
 恰幅のいい腹を揺すり自慢の髭を捻りつつ豪快に言い放つ。やや敵を過小評価しているきらいはあるが、これまで小当たりに矛先を交えた上で郭なりに感触を得たものらしい。
 ここは渦滋としても遅れを取って手柄を独り占めさせる訳にも行かない、夜陰に乗じて敵陣に近付き、夜明けと供に一斉攻撃をかける事に決すると各々の配下に命令を発した。
 が、間近に迫った渦滋は敵陣の竈から立ち上っていた朝餉の支度をする煙の多さに驚愕し、全軍に進軍停止を命じると慌てて郭の元へと赴く。
「あれを見ろ。越に援軍が到着している、こちらも援軍を待とう」
 渦滋の指差す先を見ながら郭は怪訝な面持ちを浮かべた。
「あの煙は何だ!」
「あれは飯炊きの竃から出るものだろう。あの数からしてこちらの倍、いやもしかすると三倍の兵がいるかもしれん」
「竈?」
 渦滋の説明にも得心が行かない様子で、更に参謀にも質問を発した挙句漸く合点がいったらしい。
 渋々全軍を後退させることに同意すると自陣へと引き返し、再び両軍のにらみ合いが始まる。

 時を遡ること数日、『越』の援軍では――
「なんだと!? もう一度言ってみろ!」
 顔の下半分を覆う強い髭を逆立てながら趙武(伊藤達朗(fa5367))は報告に来た部下の胸倉を掴み吊し上げる。
 バタバタともがく部下を放り出すと、件の部下は咳きこみながらも報告を繰り返す。
「せっ、先日来の大雨の為、この先の橋が流された模様です。既に上流と下流に斥候を放って軍が渡れそうな橋を探させては居りますが‥‥」
 皆まで言わせず言葉を遮る。
「援軍を任されながら戦場に遅参するなど、兄者に顔向けが出来んわ!」
 その名から知れる通り実弟でこそないものの趙武は趙飛の一族に連なる者である――尤も趙武の場合武勇には秀でるものの統率力と言う点では問題がなくもない――大雨による行軍の遅れを憤って報告に来た部下に当り散らす。
「とにかく一刻も早くこの事態を本陣に伝えるのだ! 橋がなければ泳いででも渡れ!」
 無茶な言い様ではあるが早急な連絡の重要性は疑う余地もない。部下達も趙武の剣幕に戦々恐々としながら復命するのだった。

 数日後――なんとか無事対岸へと軍を集結させ、急ぎ本陣へ合流しようと逸る趙武の下へ趙飛からの使者が到着する。
 呂白の提案になる挟撃の指示を伝えるためである。
「なにぃ! 本体と合流して正面から堂々と敵を蹴散らすのではなく、敵の後方から不意を衝けと言うのか?」
 さすがに族兄である趙飛の命に背く訳にも行かず、今度は命を伝えに来た使者に向って憤懣を漏らす。
 ひとしきり作戦への不満を並べながらも命に果たすため幽軍を挟撃できる地点へ向って迂回すべく全軍へ指示を出す――憤懣に駆られた無理な行軍が却って到着を遅らせることになるのだが、結果的にはこれが絶妙の瞬間に援軍を出現させることになる。

 趙武の率いる越の援軍が幽軍の背後を衝こうと道を急いでいるころ、渦滋達も漸く自分達の対峙している敵の動きが怪しいことに気付き始めていた。
 連日のように新たな部隊が合流し竈の数も日を追って増える一方ではあるのだが、一向に攻勢に出る気配がない。
 ばかりか、先日来、竈から立ち上る煙にもなにやら変化が起きているように見受けられる。
 翌晩、幕舎に顔を揃えた郭と渦滋の前には黒衣に身を包んだ男(新田・昌斗(fa3726))が控えていた。
 渦滋の命を受け越軍の陣中に潜入して内情を探っていた間者達の長である。
 潜入してみれば敵陣の内情は火を見るよりも明らかだった。援軍の到着に備えて物資を集積していると思しき方角も判明する。障害らしい障害もなく情報は手に入っていた。
 報告を聞き終えた渦滋は、ハタと膝を打つ。
「越は奇策に頼らなければならぬ程兵が足りておらぬ! 援軍を待つまでもない、我々だけで落としてみせようぞ!!」
 傍らの参謀から「あれは策で、実際には何もいない」のだと報告を解説された郭も笑い出した。

 翌朝、日の出と供に幽軍は突撃を開始する。
 対して越の前衛部隊は申し訳程度に応戦するとたちまち後退を始めた。
「ふふふふははこの郭から逃げられると思うてか、敵は敗走中、背中を撃て!」
 既に勝利を手中に収めたかのように郭は勝ち誇った笑いを響かせながら嵩にかかって追撃にかかる。
 渦滋もまた、まんまと策に載せられて無駄にした時日を取り戻すかのように猛追を続けていた。
 算を乱して逃げ惑う敵を追って敵陣深く入り込み、既に陣形も伸びきったころ、不意に背後で喚声が沸き起こった――見れば後方は一面越の正旗に覆われている。
「なにっ!? 謀られたか?」
 呼応するように今まで敗走を続けていた正面の敵も新たな手勢を加えて反撃に転じている。
「これ以降は殿方の場。武官殿軍師殿、敵背後よりの援軍と存分に挟撃なされませ!」
 遥か後方より戦場を遠望しつつ蔡も出撃する趙飛達に激励の言葉を贈っていた。
 敵の背後を衝いた趙武もこれまでに溜った鬱憤を晴らすかのように先頭に立って幽軍を蹴散らす。
 趙飛もこのときに供えて交代で休憩を取りつつ鋭気を養っていた精兵を従えて突入する。
 退路を絶たれ、前後から挟撃された幽軍は総崩れとなっていた。
「む、無念‥‥」
 壊走する兵士達を叱咤しつつ退路を切り開こうと奮戦していた渦滋も趙飛との一騎打ちの末ついに討ち取られ、逸早く馬首を返して背後の越軍を突破しようと試みた郭も趙武に阻まれ敢無く最期を遂げた。
 かろうじて生き伸びた幽の兵達も武器を捨て命からがら本国へ向けて逃げ去り、ここに幽軍は壊滅したのであった。


● 撮影の裏側で‥‥
「初めての参加となります。どうかよろしくお願いします」
「スラッジだ。この番組は初めての出演だがよろしく頼む」
 碧が一礼すると、強面の巨漢スラッジも深々と頭を下げる――どうやら見かけによらず温厚な性格らしい。
「このシリーズでは、ケイ・蛇原が世話になっているそうですが、今回はちょっと代打ということで。お初にお目にかかります」
 いかにも明朗快活と言う表現が相応しいパティも事情を説明する。
 一渡り挨拶も終り打合せの合間に月見里 神楽(fa2122)が旧知の千葉に声をかけた。
「神楽の年齢がもう少し高かったら、色々な役が出来たかもしれませんね。今回は座談会は無理だし、裏方で参加します。次は出来る役があったら良いな♪」
 第一回放送から欠かさず出演してくれている神楽だが、今回はうまく嵌る役が見当たらなかったらしくBGM製作に加わるようだ。
「まあ時代劇だから結構メイクや衣装も特殊だし、そんなに年齢とか外見を気にすることもないと思うっすけどね。大人が必ずしも背が高くなきゃいけないとも限らないし。それに、お茶の間でももうおなじみになってることだし、本編とは別にお姫様の扮装でもして座談会に顔を出すってのもアリっすよ」
 国民的なミュージシャンとなった神楽だが、初めて逢った新人時代と少しも変らぬ気さくな笑顔に千葉も笑顔で返しながら幾つかの提案をしてみる。
「千葉さんや監督さんも毎回、この番組を作るの大変だと思います。ちっこい視聴者もテレビの向こう側で、最後までできるように応援してますので、頑張って下さい♪」
 そう言うと去り際に「でも、無理はしないで下さいね‥‥」と笑顔で付け加えながら音楽スタッフ達の下へと駆け去っていく。
 自らも複数の楽器を器用に操る神楽は、出演者や監督を交えながらシーン展開などにあわせて、平原に両軍が展開する広がりを感じさせる曲調、間者が忍び込むシーンの月夜をイメージした重低音に態と外した高音で怪しげなアクセントをつけた曲、最終決戦のハデな行進曲風の曲調などを提案していった。


●『無中生有』とは‥‥
 いつものように『終劇』の文字と供に画面はスタジオへ移る。
 例によって劇中の衣装を纏った年嵩のフェイロンから自己紹介を兼ねた挨拶が続く――尤もフェイロンなどは自己紹介するまでもなくアクションスターとしてかなり名が売れているのだが。
「おはようございます! 劇団クリカラドラゴン所属、青田ぱとすと申します」
 パティは座長の口癖を真似て挨拶。
 一通り挨拶が終ると、たつやんが終ったばかりのドラマに話題を振る。
「なんや、越の方ばかり格好いいのもなんですよって、敢えてコミカルな武将にしてみましたけど、どないでしたやろか?」
「竈の策そのものは、有名かつ定番ですよね。今回はそれを踏まえ、暴露の機までを図り、他の計を隠し虚実に虚実を重ねてみました」
 碧もドラマで演じた役割に若干の解説を入れ。
「実態の無いものを恰もあるように見せかける、それだけならいつか見破られるかもしれない。今回は時間稼ぎと割り切ったところが成功の秘訣だったんじゃないのか?」
 フェイロンもドラマの展開について他の出演者達に感想を求める。
 暫くドラマの話題で盛り上がったところでグリが話題を現代に転じた。
「恋愛にもいえなくはないですね。相手にいい所をばかりを見せて惹き付けていく間に、中身の心を充実させていきますから」
 スラッジも自らの体験を披露して見せる。
「無中生有、俺の経験から言えば急に人が家に来る事になった時、ちらかっている部屋の中の物を隣の部屋に移し、ざっと片付けた部屋に案内し、その間に他の部屋を片付けた事がある。その時の客はちらかっているのではと勘繰っていたが、片付けた他の部屋を見て感心して帰って行った‥‥」
 ここまで話したところで居並ぶ面々の微妙な視線を感じたのか慌てて取り繕う。
「あ、いや。普段それ程ちらかっている訳ではないぞ? アジアに来たばかりで荷物の整理が済んでいなかったのだ」
 その様子に笑い声が巻き起こり、その後も談笑裏に番組はエンディングを迎えた。