これでいいのだ?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/28〜04/01

●本文

●午後は丸ごと思いつき

 世間ではなにやら桜が咲くとか咲かないとか話題になっている、とある微妙な春の午後―――

 ゆったりとしたBGMに混じって軽快に響いていたタイピングの音が途切れ、クツクツという小さな笑い声が流れてきた。
「どうかしましたか?」
 キーボードを打つ手を止めてディスプレイを眺めながら一人悦に入っている上司に向って問いかける。
「これよ」
 どうやら何かの報告書らしいのだが、書きかけと見える最後の一文がなにやら怪しげな内容である――が、間もなくその謎は解けた、文書作成ソフトを使っているとしょっちゅう出くわす『誤変換』と言うやつだ。
 全て仮名に戻して落ち着いて読んでみるとなんの変哲もない極普通の事務的な文章である。
 手書きではありえないような文字の組合せでで全く別の意味がすんなんり通ってしまうこともあり、時にはとんでもなく笑えるものも少なくない。
 どうやら訳が判ったらしいと見た上司が言葉を続ける。
「けっこう言い得て妙だったり、微妙に納得できるのもあるのよね――ちょうど間もなくエイプリルフールだし、この際だから『間違いじゃない』っていう主張して周りを納得させるコンクールでもやってみようか」
 一見問いかけ風の語尾だが当然『?』はついていない――わが上司殿がほんの思いつきとは言え口にした以上は既に決定事項である。
 エイプリルフールと言っても、何かで人を引っ掛ける類のウソではなく、言葉巧みに他人を言いくるめる方向性らしい。
「はぁ、いわゆる青年の主張みたいな感じですか?」
「んっ、別に青年じゃなくても少年でも中年でも熟年でもかまわないわよ。壇上なんかで一方的に解説しっぱなしより、討論会みたいなほうが番組的には盛り上がるかな」
「なるほど、確かにいかにも真剣に討論してるようで、なんとなく世間を茶にしてるような番組はありますね」
「そうね、大真面目に激論を戦わせてくれたほうが見ている方はおもしろいと思うわよ」
「解りました。それではその方向で‥‥」
 一礼して席に戻ると、さっそく出演者の手配にとりかかった。

●今回の参加者

 fa0048 上月 一夜 (23歳・♂・狼)
 fa1340 HIKAGE(18歳・♂・小鳥)
 fa2340 河田 柾也(28歳・♂・熊)
 fa2341 桐尾 人志(25歳・♂・トカゲ)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa4558 ランディ・ランドルフ(33歳・♀・豹)
 fa5196 羽生丹(17歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

 スタジオに集められた何れ劣らぬツワモノ揃いの論客達、各自の前には更にそれぞれテーマが書かれたフリップが伏せられている。
 最初にフリップを持ち上げ声高らか似読み上げたのは、まいむ☆まいむの桐尾 人志(fa2341)だ。
「『乙カレー』‥‥」
 椅子からずり落ちてみたりと様々な反応を示す出演者達。
「おぉ〜っとぉ、番組開始早々散会の挨拶とはかなりの暴挙だ〜!」
 いきなり近くのカメラに駆け寄ったHIKAGE(fa1340)は何処から取り出したのかマイクを片手に実況中継。
 そんな周囲の騒ぎもどこ吹く風、キリー君は淡々と自らの主張を続ける。
「‥‥という言葉は労いに使うべきではない! 『深みのある、奥行きがある粋な』味のカレーに対する賛辞としてだけ使え!」
 どうやら開始早々いきなり番組が終った訳ではないことが判明し、あっという間に騒ぎは静まる。
 キリー君は更に熱弁を振う。
「安易に文字変換しそのまま用いる若者の風潮はイカンと思うのです。正しい日本語を使うべきだと!
 乙は『しんみりとした』『渋い』音や声の響きを示し、芸歴が長く趣深く渋いご老人の謡曲を『乙な声だ』といい、そこから『乙な味だ』というようになったのです」
 出力全開で薀蓄を遺憾なく発揮するキリー君に他の参加者は突っ込む隙もなく。
「カレーは言うまでもありませんね? 日本人に認知されて久しいこの華麗なる食物は間違いなく国民食といえましょう。具・ルー・ライス・ナン・饂飩。定まった型をもたず、無限の宇宙の如き進化を続けるそれは融合と融和を繰り返す地球社会を体現する唯一の食。簡単なのに奥深い。それがカレーです」
 カレーについて『暑く』情熱を傾けるまでは良かったのだが、ついつい調子に乗りすぎ、
「ちなみに突き抜けた辛さのカレーは『甲カレー』として別途に賛美‥‥」
 ついには相方河田 柾也(fa2340)のハリセンの餌食となって撃沈するハメに‥‥。

 見事なハリセンの一撃で相方を沈めたコウダくんが代って改めてコンビの自己紹介――尤も相方は未だ撃沈したままなのだが。
「改めまして‥‥『米無 干し 舞夢』でございます」
 耳で聞く分には普通に名乗っているようだが、フリップには怪しげな文字が羅列されている。
 ふとモニタに自分のアップが映っていることに気付いた春雨サラダ(fa3516)。
「ごめんなさい、うまく突っ込めなくてごめんなさい」
 どうやら何か突っ込みのコメントを求められているらしいのだが、咄嗟のことにうまい反応が思いつかずカメラに向って謝り始めた。
 一方コウダくんはコンビの名前の由来について語り始める。
「このフリップにもある様に、僕らのコンビ名は下積み時代の苦しい生活の中で夢を追い求めた時代に端を発してるのでございます‥‥」
「嘘こけ! コンビ名呼ばれるたび初恋の残酷な思い出を脳内リピートするのが嫌だといったのに‥‥ひらがな表記に変換し☆までつけて採用した悪党は何処の誰じゃい!」
 いつの間にか復活したキリー君が思い切り突っ込むのだが、その体格通り悠然と構えたコウダくん少しも動じない。
「‥‥いや、如何に相方が反論してこようとも僕らのコンビ名はここから来ているのです。
 ある程度の知名度も得て参りましたが未だ八畳一間に共同生活の僕達。二人で暮らし始めたところで仕事もなく事務所で雑務やったりバイトで生活資金を稼ぐ毎日。
それでも世間は貧乏人に辛くあたります。どんなに腹が減っても金がなければ食うことも不可能。飲食店のアルバイトなら多少は腹も膨れますが、ドサ回りの仕事が多い時は大変。安いギャラ、休みの分だけ遠慮なく引かれる給料。
それでも僕らは芸人をやめようと思った事はありませんでした。
『米が無くとも生きていける。干物のような生活でも、夢さえあれば前を向ける。いつかあの大舞台へ舞い上がる!』
そんな夢を抱えて、出汁の味もしないようなうっすーい水団を啜っていたのです」
 延々と昔の苦労話が続き、何とか無理やりフリップの内容まで辿りつく。
「軽やかなダンスをもじったその名前の裏には涙なしでは語れぬ苦労が‥‥」
 そこまで話すと懐からハンカチを取り出し、うう‥‥っと泣き始めた。

 コウダくんのダンスという言葉にハルサの耳がピクリと反応する――先ほどまでのしおらしさとは打って変わって元気いっぱい自らの主張を始めた。
「『歩行者天国はあるのにダンサー天国が無いのはおかしいので作って欲しいっ』
 踊って踊って踊りまくれる、そんな場所がいつでもあったら良いのにっ、と言うわけで、そういう主張です。どうでしょうか?」
 最後の問いかけが終らぬうちにスタジオの照明が一気に暗くなり、ミラーボールの光が乱舞する中軽快なダンス音楽が流れ始めた。
 思わず席を飛び出したハルサは中央のスペースで華麗なダンスを披露する。
 はじめはあっけにとられていた他の出演者からもポツポツと手拍子が沸き起こり――
「いえーっ! おーれっつダンス!」
 スタジオ全体が思いきり盛り上がったところでいきなり音楽が途切れて明るさが戻った。
「歩行者に比べて対象を絞りすぎです!」
 何食わぬ顔で席に戻ったハルサに日景が興奮冷めやらぬ様子でとりあえずツッこんでみたりする――が、なにやら途中から話の流れが微妙に変化し。
「で、できたとして、何踊りですか! 何踊りが主流なんですか! ツイストですか! ‥‥俺も入れますか!」
 結局はそこか! ――しかも十代にしては微妙にネタが古い。
 同好の志発見とばかりにハルサが喜んで引き入れようとする一方で、子供らしからぬ難しい顔で腕を組んでいたラサがボソリと呟く。
「やはりこの場合ダンスのジャンル別に細分化する必要があるだろうな‥‥とは言えバンブーダンスやリンボーダンスの場所は大変なことになりそうだから、そのあたりも慎重に検討を重ねてだね‥‥」
 実現に向けた細部の詰めを――しなくていいから。
 一方いつの間にかハンカチも仕舞い、やはり難しい顔で反論を繰り広げるコウダくん。
「ダンサーが集う場所。互いにシノギを削りあい互いを蹴落とし己の立ち位置を確保していく場所! 言うなれば虎の穴! 『天国』などとは言えません! ‥‥百歩譲って『ダンサー地獄』で」
 ――さすがにそれはイヤだろう。

 ダンス論議も一段落したところで、今度は上月 一夜 (fa0048)が自分の主張を――そこには。
『レストランの見本が立派なのは騙した者勝ちだから』
 っとなにやら人聞きの悪いことが書いてある。
「今回、俺が提示するテーマはこれだ! 大概の場合、レストランのディスプレイに並ぶ見本は実物よりも立派。何故ならあの見本は完璧な囮だから。即ち客の食欲をそそる為のダミー! 餌!
 故に客を店内に入店させて「小っさ!!」と突っ込ませながらも食わせれば勝ちに違いない。そう、これは客と店のガチンコ(フード)ファイトクラブなのです!!」
 イチヤの剣幕と衝撃の新事実(?)の発覚にハルサは、
「えーん、騙されたら悲しいよぅ」
 としくしく泣き始めた。
「実際の商品とは異なります、ってのは実はとんでもない事だよな!」
 一方、日景は逆に怒りながら賛同の意を表する。更にキリー君も、
「あれは料理はこうあるべき! という見本職人達のドリームが籠められてるんですよ! それを購入し店頭に並べた以上店側が見本に近づける努力をすべきかと!」
 安に流れる現状を改善すべく理想をぶち上げるのだが‥‥。
 そんな熱い議論とは裏腹にタブラ・ラサ(fa3802)がのんびりと話題を転ずる。
「そう言えば、最近見かけなくなったよね‥‥フォークが浮いてるスパゲッティの見本‥‥小さいころは騙されてあんな風になると思ってた」
 ポツリと漏らす若き日――今でも十分過ぎるくらい若いのだが――の回想に、イチヤが先ほどまでの話題を放り出して乗ってくる。
「キミッ! 勿論、フォークが空中浮遊してるのも食欲を促進させる為の超能力なのです!」
 ところへ謀ったようにアシスタントのお姉さんが、一部がフォークに巻かれたスパゲティの乗ったワゴンを押して登場。
 イチヤはスックと立ち上がるとワゴンの前に赴き、おもむろに袖をまくり上げると、掌をスパゲティの上に翳して念を送る。
「てーじーかーらー」
 他の出演者達も回りに集まり固唾を呑んで見守る中――。
「‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」

「俺の主張はこれ、『小銭を隠せ!』だ」
 スパゲティに念を送り続けるイチヤは放って置いて日景が自らの主張を語り始めた。
「小銭を絨毯の下とかペン立ての中とかそういう所に隠しておくと忘れた頃に見つけて嬉しいから隠すべきだ! 得した気分になるからマジでマジで。存在を忘れているので無くしても痛手ではありません。あと、断固小銭です。コインのほうがお宝っぽいから!!」
 なにやら今ひとつ説得力に欠ける気もするのだが、なぜかハルサはプチ納得?
「あー、あるある、幸せっ‥‥て、隠すの大変っ!」
「好きになれば大変じゃないですよ! 一度この楽しみを味わってしまえば次からは何ひとつ大変じゃなくなるんですよぉ! ハァハァ」
 息を荒げつつなんとか気持ちを伝えようと迫る日景にハルサもただオロオロするばかり。
「た、楽しい? 楽しい?」
「僕らの部屋は隠すも何もまず物がないというという事態。ご覧になります?」
 興奮する日景に向って懐から一枚の写真を印籠のごとく突きつけるコウダくん――明らかに入居直後にしか見えない空っぽの部屋の片隅にはポツンと畳まれた毛布があるだけ。
 さすがに絶句する日景にいつの間にか超能力に見切りをつけたらしいイチヤも追討ちをかける。
「いや。残念ながら俺は記憶力が良いから隠した場所なんか忘れないのでね」
 自慢げに嘯くイチヤに今度は日景が問いかける。
「じゃあこのビル何階建て?」
 咄嗟のことにさすがに答えに詰まると日景がにっこり切返す。
「大丈夫、それならバッチリ忘れられるから!」
 一本取られた形でガックリと項垂れるイチヤ――。
 多少勢いを盛り返そうかと言う日景にラサが追い討ちを掛ける。
「自分で隠しても場所がわかっていてワクワクなんてしないよ。忘れるまでにだってどれだけ時間がかかるか‥‥」
 再び落ち込みかける日景に今度は助け舟を出す。
「他の人に頼んで隠してもらう手もあるけどね」
 持ち逃げの危険もあることは解っているが敢えて言葉には出さない。
「おお、それは名案だ、物凄く斬新かも‥‥」
 落ち込みかけた日景の顔がパァッと明るくなる。
「よし! それは是非取り入れようッ! ネコババなんて疑わない! 友達だもの!」
 一応ラサが隠しておいた危険性には日景も気付いたようだが、どうやらさして気にも留めない様子で一人盛上って行った。

 続いて最年少のラサ――その主張は『少しずつ早い方にずれる時計が一番いい』と言うもの――曰く。
「ほとんどの時計は進むか遅れるかどちらかにずれるが、ずれた時計を放っておくと、次第にずれていることを意識して動くようになるが、その間にも時計のズレは拡大していく。
 進む方にずれるのであれば、『思ったより早かった』だけで済むが、遅れる方にずれて『思ったより遅かった』だと様々なトラブルの原因になる。よって、進む方がマシだといえる」
 しきりに頷きながら解説に耳を傾けていた日景が、
「サマータイムってやつだな! 目覚ましの針を何分か進めるんだけど、進んでるの前提で見ちゃうから何にもならなかったりするよな‥‥! 進みすぎちゃ何にもならないのは確かだな、うーん、12時間進めばよし!」
 と、援護を送るのだが、当のラサ自身が、「デジタル時計だとそうでもないけど」と墓穴を掘る始末。
「はー、なるほどー、遅刻も減るし‥‥って、本当の時間、わからなくならないかな?」
 一旦は納得しかけハルサたも、ふと気付いて尋ねれば、
「そういえば今何時?」
 などと逆に周囲に尋ねる――本人ちゃんと腕時計をしていたりするのだが。
 更にイチヤが、
「でもやっぱり6時間ズレたら意味無くね?」
 っと問えば、
「どっちにずれていくか覚えていれば問題なし」
 と、事も無げにばっさりと切って捨てた。

 最後にランディ・ランドルフ(fa4558)のお題――『バナナサンデーをクリーム大森で』と書かれている。
「メールを送った時に出した文だ。これはクリームを大森、即ち実態が隠れるほどにしてくれという意味である。
大盛りとは似て異なるので注意を‥‥‥本当だ間違いでは‥‥無い」
 端正な表情を崩さず淡々とその真意を解説し始めるが最後に近づくにつれ段々と勢いが怪しくなってきてはいるようだ。
「おー、良い! 私も、バナナサンデー食べたいー!」
 怪しさの方は見事にスルーしてハルサが賛同する――チラリと意味ありげな視線をスタッフに送るのはもしかしてこの場に用意しろということか‥‥。
「木の葉は森に隠せといいますし、クリームの中に果物やアイスを隠して頂戴☆ という店側へのサービスを暗に要求した言葉でしょうか‥‥ぬ、お主やるな!」
 かと思えばキリー君はランディの解説をさらに深読みして妙に納得している様子。
「嘘だっ! 詭弁だっ! 牛丼だっ!」
 そのままなし崩しに承認されそうな流れにすかさずイチヤが突っ込みを入れる――が、なぜかこちらも最後は怪しさ満載。
「なのに何故かその日のクリームはいつもと違う味がした」
 更にランディがそう続けると、はたして味の正体やいかにとか、店員が『大森』をどう解釈したのかが争点になる。
 真相をめぐって大激論のうちに番組はエンディングを向かえた。