【三十六計】暗渡陳倉アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/31〜04/04

●本文

 いつもの簡単な確認も終り例によって‥‥。
「今回の策は『暗渡陳倉』っすね‥‥例によって解説文と今一結びつきにくい感じっすけど」
「これは元々頭に『明修桟道』っていう対句がつくのよね。明らかに桟道を修理して見せて敵を引きつけながら暗かに陳倉に渡ったと言う作戦が元になってるのよ」
「なんかこの前やった『声東撃西』と似てないっすか?」
「まあ、似てるといえば似てるけど、あれは『敵志乱萃』が前提で、それを利用した情報操作だけで敵を右往左往させようって策よね。今回の場合は囮部隊の作戦がどれだけ相手に本当らしく見せられるかと、思いも寄らない裏道を使って主力がいかに早く移動して、敵が囮に気付く前に目的を達成するかが眼目になる、っと言った違いかしら」
「はあ、そうすると敵の方もそれなりに抜け目がなくて、情報操作だけじゃなくて実際の囮になる作戦行動が必要って言うちがいっすかね?」
「そんなとこね。囮の巧妙さや主力の動きも重要ね。三国志なんかでも、この策を使おうとしたけど、敵の抜け目がなさ過ぎて囮に全然引っかからずに失敗した例もあるし」
「はぁ‥‥難しいもんっすねぇ」
「まっ、そう言うことで今回もよろしくね」
 いつものように事も無げに言い放ち‥‥そして、いつものようにキャスト兼スタッフ募集がかけられることになった。


●三十六計
 書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
 その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
 序文に曰く。

『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』

 太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。

●第八計『暗渡陳倉』
『示之以動 利其静而有主 益動而巽』

 敵に明らかな動きを見せ付けることで、密かに動いている主力部隊に利益をもたらす。主力は素早く迂回して敵が策に気付く前に意表をつくのだ。

●今回の参加者

 fa0182 青田ぱとす(32歳・♀・豚)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4905 森里碧(16歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

● ドラマ『暗渡陳倉』
 国境を越え『挑』の領内へと踏み入った『関』の陣屋では今しも一つの策が提示されていた。
 陣中にありながら道服を身に纏う軍師葛謹(弥栄三十朗(fa1323))が広げられた地図の一点を指し示す。
「現在挑の軍勢は都に集結している。このまま立て籠られては長駆遠征の途に赴いたわが軍に著しく不利。ここは敵の鋭を遠ざけて空の本拠地を急襲するのが上策‥‥奇襲部隊の指揮だが、柴威殿、卿にお願いしたい」
 文官ながら軍監として参陣している葛謹の指名に柴威(伊達 斎(fa1414))が頷く。
「了解した‥‥その役割、引き受けさせてもらおう」
 堅実派の武将として名高い柴威の快諾を受けて葛謹は一瞬表情を緩めるが再び神経質そうに眉を寄せた。
「問題はいかにして敵の精鋭部隊を引きずり出すかだが。こちらの策に気付かれて奇襲部隊の後背を衝かれ、敵本隊と挟撃されることにでもなれ敗北は必至‥‥そこで、この地点に新たに砦を築く」
 再び現在地からさほど遠くない地図上の一点――敵の領内にあって喉元を制する要地――を指し示す。
「こちらの指揮は‥‥管到、卿に任せよう」
 今度は弟子筋にあたる管到(巻 長治(fa2021))へと頭をめぐらした。
 戦場での勇猛さにこそやや欠けるものの、兵法に優れ、持久戦の粘り強さには定評がある。
 管到が畏まって復命するとさらに言葉を継ぐ。
「この策の要諦はいかに奇襲部隊が敵に気付かれずに本拠を衝けるかにある。間者の侵入を抑える為、陣の出入りを厳重にし、少しでも疑わしきはすべて処分するという方針で臨む。蟻の開けた穴が堤を壊す事もある。間者に今計略を知られる訳にはいかぬのだ。この責はすべて私が負う。卿らは私の指示に従って動いて貰いたい」
 自らの陣屋に戻った柴威はただちに奇襲部隊を率いて出立準備に取り掛かった。

 一方、管到も直ちに砦の建設に取り掛かる。
 無論、この砦が単なる囮に過ぎないことは部下達にも知らせていない。
 管到の伝令や細かな雑用などを仰せ付かる若年の兵士朱志(月見里 神楽(fa2122))も自らの所属する部隊が大役を任されたことに感激して大いに張り切る。
 軍に配属されたばかりではあるが、物怖じしない態度や細かいことを気にせずノリの良い性格などから先輩格の軍人や上官にもかわいがられていた。
 時折、子犬が大きくなったような奴だなと、からかわれたりすることもあるが一向に気にかける風もなく、運びこまれる物資の分類や管理に、はたまた管到の命令を各部署に伝える為にと元気に跳ね回っている。

 国境を越えた関軍がすぐに都を目指さず、領内に砦を築き始めたと言う情報はやがて挑軍も知るところとなった。
 喉元に刃物を突きつけられた形になる挑も手を拱いて座視している訳にはいかない。
 軍師陳泰(青田ぱとす(fa0182))の進言により急遽一軍を送ってこれを完成前に叩くことに。
 が、砦を臨む地へと布陣してみると既に建設は予想以上に進んでいる――尤もこの辺り管到の配慮もあって最小限の『形』を整えることを優先させた結果なのは知る由もない。
 砦を一瞥するや否や副将である厳冑(マサイアス・アドゥーベ(fa3957))が気勢を上げる。
「所詮急拵えの砦、一思いに踏みつぶしてくれましょう!」
 この二廻り程年上の巨漢が、言い出したら中々退かないことを知る主将の沙流(佐渡川ススム(fa3134))は横に大柄な軍師へと視線を送る――ここは一戦、当たらせてみねば納得すまい。
 叩き上げの猛将であり、長年の戦場での働きにもかかわらず、厳冑が沙流の下に甘んじているのも、この辺りの浅慮が祟っているのだが‥‥。
 沙流の許可を得て、勇躍関の砦へと戦いを仕掛けた厳冑であったが、結局は管到の策に翻弄され、成す処なく撤退を強いられる。
 厳冑の攻撃のさなか、既に沙流と陳泰は次の手を打っていた――砦の内情を調べるために密偵を放っていたのだ――が数日待っても誰一人として帰っては来ない。
 幾度かに分けて放った間者の尽くが敵に看破され次々と処刑されているらしい様子に、陳泰はいよいよ本格的な砦の建設が行われているとの観測を強める。
「こんなに密偵が帰って来なければ何かあると言ってるようなもんだ。それで隠したつもりだとしたら馬鹿なヤツらだ」
 沙流も敵の行動を忖度して与し易しと見たようだ。
 一方では、この間にも厳冑は懲りずに速攻を進言している。
「相手の手の内がわかったからには次は負けん!」
 そう言って嘯く厳冑を納得させるため、沙流としても幾度かの出撃は許可せざるを得なかったのだが、その尽くはさしたる成果も無しに追い返される結果となった。
「その程度の小勢でこの砦が落ちるものか! 出直してくるのだな!」
 度重なる撤退に加え、砦の上から敵将管到にそう罵倒されるに及んで、さすがに強気一方の厳冑もついに業を煮やし始め。
「あの砦が完成すれば我が国にとって大きな脅威となる。これまで苦杯をなめてきたのは我が方があまりにも小勢だったからだ」
 頭に血が上ったか沙流や陳泰に食って掛かる。
 陳泰も期待をかけていた敵陣内の親戚筋との連絡まで途絶えるに至って、いよいよ砦に対する警戒を強める――これほど厳重に警戒する以上、防備も備蓄もただごとではないはず、度重なる厳冑の敗退に基づく要求にも鑑み、ここは攻城兵器、増援、諸々の準備を整えて一気に叩きに行くべきとの結論に至った。

 砦での攻防が繰り返される中、迂回路を進む柴威率いる軍勢は険しい山道を一路挑の都目指す。
 が、人目を忍んでの隠密行動である上ここは敵地である。住民の目すら避けるように険しい山道を進むしかない。
 行く手に障害が立ちはだかれば多少の遠回りになっても人目を避けるほうが優先される。
「迂回する。少し時間はかかるがやむを得ないだろう‥‥その分強行軍になるが‥‥苦労をかける」
 部下達を労いつつも妥協は許さない。相手に動きを気取られる事無く、なお且つ可能な限り迅速に行軍して敵軍の背後から奇襲を仕掛ける必要がある。
 偶然行軍を目撃した敵国の住人は容赦なく口を封じる――不本意ではあったが、生真面目な性格の柴威としてはここで作戦の成否を犠牲にする訳にもいかなかった。
 やがて柴威の率いる奇襲部隊は挑の都を指呼の間に望む地点へと到達する。
 早速放った斥候の報告によれば暫く前にかなりの規模の部隊が国境に向けて出発しており、都に残っているのは高が知れた留守部隊のみだという。
「どうやら管到殿は上手くやっているようだな‥‥」
 報告を聞き終えた柴威の顔に安堵の色が浮かぶ。
「‥‥一気に攻め落とす! 全軍、ここが正念場だ!」
 柴威からの下知が下った。

 同じ頃、都からの援軍に力を得た沙流達の軍も一気に砦を落とすべく攻撃の態勢を整えていた。
 援軍の到着と攻勢の準備は放たれた間者を通じて管到の元へも届いている。
 管到からの命令を受けた朱志は伝達の為に砦内を巡りつつも首を傾げざるを得なかった。
 外回りが整って以後、度々敵の来襲があったとは言え砦内部の造作が恬として進んでいない様に見えるからである。
 度重なる敵軍撃退の手並みに開催を叫んで士気を高めていた朱志ではあったが、そうこうするうちに突然砦の放棄命令だ。
 しかも砦の各所には藁束を積んで油まで掛けている。
 敵の大攻勢が始まると、軽騎のみを最後に残していた管到は一戦すると見せかけてすぐに退却を開始、敵を砦内部へと誘い込む。
 勢いに乗じて真っ先に砦に乗り込んだ厳冑は、もぬけの殻となった砦内を見渡し勝ち誇って叫ぶ。
「ふん、我が軍に恐れをなして逃げ帰ったか!」
 続々と砦の中を埋め尽くす挑軍の中、外見とは裏腹に意外なほど粗末な造りの内部を見て沙流が陳泰に向って訝しげに問いかける。
「軍師、中はも抜けの空ですぜ!?」
 陳泰が応じる間もなく幾筋かの矢が炎を纏って飛来する――砦はたちまちのうちに炎に包まれた。
「おのれ、こしゃくなマネを!!」
 厳冑の怒号が混乱する兵士達の悲鳴に混じって響き、全軍が砦の外を目指して逃げ惑う。
 甚大な被害を蒙りつつ漸く砦の罠を脱した挑軍に追い討ちを掛けるように都から関軍襲来の第一報が伝えられた。
 残りの手勢をどうにか取り纏めた沙流等は管到の追撃を振り切りつつ長駆都を目指す。
 都を囲む関軍を蹴散らしつつ、城都に拠って籠城し再起を図ろうと目論んだ挑軍であったが、都を囲む城壁に林立する関の正旗を目にするとさすがにそれ以上の抵抗は断念せざるを得ない。
 怒り狂う厳冑や自失する陳泰を他所に、もはやこれまでと観念した沙流は追撃してきた関の軍門に下るのだった。


● 撮影の裏で‥‥
 再会早々‥‥。
「やー千葉ちゃん久しぶりー。華清池調査の後の夜の街以来か。また行こうなー」
 空気より軽いと自称する佐渡ちゃんが謎笑いを浮かべつつ手を振るのを見て、千葉は冷や汗を流す――にこやかに誘ってはいるが、決してまた行こうと言うような体験ではなかったような‥‥。
 前回はドラマ出演を見送って裏方に回った神楽だが、千葉のアドバイスを受けてメイクによる外見年齢の上昇を画策している。
 身長のほうも下駄上げしたいところだが、こちらはアクションとの関係でシークレットブーツなどの使用にもやや限度がある様子だ。
 逆に前回はドラマ出演した森里碧(fa4905)は、今回裏方と座談会の方に専念するらしい。
 尤も、特に裏方向けの技量に優れているわけでもない為、こちらは専ら休憩時等のサポートがメインとなり、その傍ら、
「今回は敵はそこそこ優秀な軍で、それ故に陥りやすい戦略上の罠をはるのですね? 囮部隊を正統派の戦力に見せる反面、奇襲をかける部隊は微塵も悟らせてはならない‥‥と」
 などと現地スタッフに確認を取りながら、座談会用に事例となる「明修桟道、暗渡陳倉」の例を過去の映像ライブラリーから抜粋した開設資料などの作成にも取り掛かる。


●『暗渡陳倉』とは
 終劇の題字と供に映し出されたスタジオでは恒例により年嵩のマシーを筆頭に自己紹介を兼ねたご挨拶。
「おはようございます! 劇団クリカラドラゴン所属、青田ぱとすと申します!」
 パティもお約束の口上を述べ、最年少の神楽が挨拶の締めくくりと座談会の始まりを告げた。
「やー、この番組って色々と難しいなー。お題の計略、例に上げられてるのそのまま使うのも芸が無いし、かといってドラマとして一から考えるのも大変だったもんな。でも、それで番組がうまくいけば『やり遂げた!』って気になるし。
 とゆー訳で見せかけの砦に戦力を引き付け、その隙に〜〜。‥‥って案を出して見たんだけどどうだったかな?」
 開口一番、佐渡ちゃんから製作に纏わる苦心談が飛び出すと、続いてパティと斎も今回の策のツボやら成立要件などのポイントを解説する。
「囮を上手く見せる、ということで台本はアレしたみたいですけどね、他の計と違うところをしっかり強調するのが難しかったかなあと。結構話し合う中で、『歴史上は失敗例もある』とか何とか話になって、これ本当に効果あるんかいな、という計ではありますね。囮を使う、というただそれだけなんですけど、他の計にも、『囮を使った上でこれこれの計を使う』という表現ができるので、実はこれ単独では成功しない計略なのかもしれません」
「ええと、この策においてはいかに囮に相手の目をを向けさせるか‥‥この辺りが一番の肝になるかな? 要動の可否が兎に角策略の鍵‥‥事前の準備工作を万全に行う事で相手の目を向けさせ、手薄になった所を攻める‥‥と」
 話に合わせて碧が用意しておいた、お題の元になった劉邦軍が用いた韓信の計やパティが挙げた蜀の姜維の失敗例等の画像が流れる。
「まあ、見えるものが全てではない、と言うことです。 見えたのか、それとも見せられたのか。まさに虚々実々というところです」
 マキさんが視聴者を煙に巻くようなひねったコメントを付け加え、更に言葉を続ける。
「‥‥が、相手の奇襲を警戒しすぎると、今度は相手に正攻法でつけいる隙を与えることになりかねません。策を仕掛ける側はもちろん、策を警戒する側も臨機応変な対応が必要だ、ということですね」
 一方、何度かこの番組に係っている三十朗は以前の策との比較を。
「以前にこの番組でやりました『声東撃西』においては巧みに間者を泳がせておく事で偽情報を掴ませ、策に嵌めました。そして、今回は情報を完全に遮断する事で成功を収めた訳です。どちらがより優れているという事はないかと思いますが、どちらにしても情報を征するものが勝利へより近付くと考えて良いでしょうね。これは現在にも通じる事ですから、古典とはいえども、馬鹿には出来ません」
 神楽はドラマをやや放れ身近な例を引き合いに出す。
「ドラマだと戦闘シーンになりましたが、身近な例だとオセロや将棋と言った遊びでお馴染みな方法ではないかと思います。将棋は王様や将軍があるから、小さな戦闘として捕らえる事も出来るかもしれませんね。一つを囮にして、裏を書いてる奇襲をかける場面に使われる事が多そうな計略だから、心理戦がけっこう重要になりそうですよね〜」
 マシーも現代版に合わせ、
「子供の喧嘩というか、じゃれあいなどでよく見る光景であるが、右の拳を振り上げると、当然相手の注意はそっちに向く。その隙に、左手で相手の腹を小突くわけである。『正攻法と見せかけて奇襲』という意味では、これもこの策の範疇であろう」
 この後も様々な例や意見が出され、やがて番組はエンディングへと続いていった。