【三十六計】隔岸観火アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/14〜04/18

●本文

 いつもの簡単な確認も終り例によって‥‥。
「今回の策は『隔岸観火』っすか‥‥これって画にするの難しくないすかね?」
「まあ、策を仕掛ける側がほとんどメインにならないわよね。主役は勝手に内部分裂して潰し合いする側になるから」
「策を仕掛ける方は内部分裂を見切ってひたすら静観を決め込むってことっすよね?」
「そうね、構図としては元々仲の悪い二つもしくはそれ以上の勢力があるけど、下手にちょっかいを出すと却って団結してしまう危険があるという状況を的確に見切る感じね。でもって誰か今が互いに噛み合わせるチャンスですよって急かす相手がいるんだけど、まあまあとか言って静観してるうちに事が成るっていう展開ね。いわゆる解説者みたいな役どころかしら」
「はあ、そうすると当然あんまり戦闘らしい戦闘シーンは起きませんね?」
「そうね、‥‥却って前に一度やってた宮廷内の権力争いみたいなののほうが表現しやすいかも」
「はぁ‥‥なるほど‥‥」
「まっ、そう言うことで今回もよろしくね」
 ‥‥そして、いつものようにキャスト兼スタッフ募集がかけられることになった。


●三十六計
 書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
 その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
 序文に曰く。

『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』

 太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。

●第九計『隔岸観火』
『陽乖序乱 陰以待逆 暴戻恣睢 其勢自斃 順以動予 予順以動』

 敵陣営が乖離し内乱が起きたならば、静観しつつ異変が起きるのを待つ。いずれ激しい憎悪や反目によってその勢力が自ら斃れることになる。敵内部の変化に順応して予め準備を整えておけば、その機を逃さず的確に動くことができるだろう。

*『暴戻恣推』の最後の文字は機種依存文字で通常表示できない為、形と音の近い字を当てました。

●今回の参加者

 fa0311 木場修(34歳・♂・虎)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa4773 スラッジ(22歳・♂・蛇)
 fa4941 メルクサラート(24歳・♀・鷹)
 fa5302 七瀬紫音(22歳・♀・リス)

●リプレイ本文

●ドラマ『隔岸観火』
 時ならぬ来客を迎え、『素』の王宮は困惑の色を隠せずにいた。
 隣国『巍』と近隣の強国『淵』の戦いも、暫く前から既に帰趨は見えていたのだが――僅かばかりの護衛と供に現れたのは『巍』国の王子・渦滋(スラッジ(fa4773))である。
 迎えた『素』の君主・雷和(巻 長治(fa2021))も、上辺こそは穏かさを取り繕いながらも心中複雑な想いを抱かざるを得ない。
 過去に幾度となく行われた政略結婚により血縁関係にある渦滋を門前払いにも出来ない――かと言って匿えば強国『淵』の矢面に立つことになりかねないのだ。
 とりあえず専属の女官を付けると、賓客としてもてなすべく宮殿内の一角を住いとして与えたのだが――。
 当然のことながらその後の朝議は紛糾した。折りしも渦滋を追って『淵』の軍勢が国境付近に展開し始めているとの報告も入る。
「『淵』め、『巍』の次は我が『素』にまで攻め入ってくるつもりか!」
 自国の安泰をこそ最優先させるのが常の雷和ではあるが、事ここに及んでは渦滋を旗印に『巍』の旧臣達を取り込み、連合して『淵』と戦う覚悟を固めざるを得なかった。
 が、朝議に列する将軍の一人牙(木場修(fa0311))が猛然と反対する。
「お待ちください主上。ここは攻め込まれないうちに『素』の禍根である王子を先に差し出して、友好を結んでいた方が良いのではありませんか」
 朝議に先立ち、重臣達の何名かにも国力の差や『巍』の王子を匿うことによる危険性を諭して回っており、後押しする声もいくつか上がるのだが、雷和は一向に耳を貸す様子もない。
「今さら王子を引き渡したところで、『淵』がおとなしく引き上げていく保証はあるのか?」
 神経質そうに問いかけられると、一度は賛成に回った重臣達も答えに窮する。
 ひたすら王威に靡くばかりの者も少なからず居り、王家に連なる重臣の中には隣国『素』との血縁関係を持つ者もいるなど大勢は渦滋を匿う方へと決着した。

 同じ頃、未だ戦塵の燻る『巍』国の都に入城した『淵』の国主・宗堅(弥栄三十朗(fa1323))は配下の将軍達から状況の報告を受けていた。
「ふむ‥‥王子は『素』へ逃れたか‥‥いずれは四散したの家臣達を糾合し、『素』国と結んで捲土重来の機を伺う腹積もりやも知れぬな」
 渦滋を追った部隊は国境線付近に留まり、態勢を整えつつ王命を待っているとの報告である。
 居並ぶ将軍達の報告が一段落した所へ、若い女性の声が微かに響く。
「ただいま戻りました」
 宗堅は鷹揚に頷くと報告を促した。
 玉座の影に紛れるように畏まったまま、闇(春雨サラダ(fa3516))が『素』の宮廷の様子を淡々と報告する。
 朝議こそ決戦に落ち着いたものの、王子を差し出して和議を望む勢力も決して少なくはない。
「どうやら『巍』の残党と結んで一戦交える腹のようだな。既にこれまでの戦いで兵の疲労も見過ごせぬ。徒に兵を動かすのは得策ではないようだが‥‥‥‥『素』との国境から一旦兵を退かせよ」
 報告を聞き終えた宗堅は暫し考えた後命を下す――敢えて軍師を置かぬ理由は宗堅を凌ぐ逸材が得難い故。
 口々に訳を尋ねたり翻意を促そうとする将軍達に悠然と答える。
「『素』の内部は一枚岩ではない‥‥ならば、しばし静観する事としよう。『素』の国主らが少しでも聡明ならば、彼我の国力を考えて最も相応しい行動を取るであろうからな」
 宗堅が視線を巡らすと、既に玉座の影の中に闇の姿はなかった。

 数日が過ぎ――決戦の覚悟を決め、準備に追われる『素』ではあったが――。
 この日も菜白(月見里 神楽(fa2122))は渦滋の滞在している王宮の一角を目指していた。
 以前にも友好使節として度々『素』を訪れていた渦滋とは遠縁と言うこともあって幼いころより何度か顔を合わせている。
 部屋へ飛び込んだ菜白はすんでのところで渦滋付きの女官禾李(七瀬紫音(fa5302))との衝突を免れ――。
「姫様、そのように急がれては危のうございますよ」
 笑いながら注意する禾李に、菜白も少し頬を赤らめながら問いかける。
「禾李、渦滋さまは?」
「まだ、宮中から戻られないようです」
 答えを聞いたは菜白は小さく頬を膨らます、が、たちまち機嫌を直すと禾李の袖を引いた。
「なんだ、つまらない‥‥そうだ、禾李、いつものように楽器を教えて」
 何度か渦滋のもとへと通う中、不在の折などは仲良くなった禾李に琴や琵琶などを習うようになっている。

 無論『素』の全てが渦滋に対して友好的と言うわけではない――どちらかと言えば、むしろ牙将軍のように渦滋を匿うことに反対の勢力も多い。
 女官達の中にも禾李のように『預りの方』としての確固たる態度をとりつつその境遇の脆さを案ずる者もいたが、宮中を束ねる女官長・芽流(メルクサラート(fa4941))などは、渦滋を『淵』に差し出して自国の安泰を購うべきとの意見で牙と一致していた。
 更には渦滋を匿うことへの不安を抱きながらも旗幟を鮮明にせぬ者達への密かなすりこみを行う者の姿も――。
「王子様の件、『淵』の大臣方は良く思っていないとか、このまま戦いになるのでしょうか‥‥怖いですわね」
 眉を顰めながら、王の側近くに使える官僚などを捕まえてはそこここで不安を訴える一人の女官――宗堅に仕える密偵、闇が扮したもの。
 内情を探りつつ『素』の内部に分裂の種を撒く。
 国境の『淵』軍が撤収しつつあると言う報告も、国内の厭戦気分と和睦への期待感を高めており、牙将軍を始めとする非戦派の勢力が日増しに拡大しつつあった。
 今日もまた、この所あまり機嫌の良くない渦滋の部屋へと花を携えて向かおうとする菜白の前に牙が立塞がる。
「姫様、あまり渦滋殿に近寄ってはなりません」
「何でいけないの?」
 牙の厳しい顔を見上げながら涙ぐんで言い返す菜白に対しても、心を鬼にして眉一つ動かさずに言明する。
「彼の所為でこの国に戦が起きるかもしれないのです」
 室外の騒ぎを聞きつけて出てきた禾李がこれを聞き咎めた。
「渦滋様は君主様がお預りになった大事な御方。滅多な事は申しますな!」
 いつになく激しい禾李の口調にも牙は動ずる風もなく、連れていた女官達に命じて泣きじゃくる菜白を自室へと戻らせる。
 菜白が姿を消すと禾李に向きなおり、
「情に流されて国を危うくするわけにはいかんのだ。情勢の変化は主上の耳にも届いておる」
 言い捨てて踝を返す。
 その様子に胸騒ぎを覚えた禾李は僅かに躊躇したもののそのまま牙の後を追った。
 部屋の中からは先行した牙の声が聞こえる。
「主上! 情勢は日々動いております。今こそ最後の機会やも知れません。どうかご決断を」
「う、うむっ、今のうちに攻められる理由をなくして接近しておけば安全かも知れぬな」
 未だ迷いを捨てきれぬような雷和の声に、牙や周囲の重臣たちからも決断を促す声が上がる。
「判った。この上は渦滋殿を『淵』に差出し、和議の道を講じよう」
「「御意」」
 周囲の者たちが口々に賛意を示すのを聞き、思わず禾李はその場に踏み込んだ。
「君主様、最初のお考えを翻すおつもりですか?」
 不意の言葉に雷和も気色ばむ。
「考えが変わったのではない、状況が変わったのだ!」
 苛立たしげに言い放つと席を立って奥へ向かう。
 なおも追いすがって言い募ろうとした禾李を芽流が遮った。
「なんと無礼な。『素』の安泰を願えばこそのご聖断。女官が政などに口を差し挟むものではありません! お下がりなさい」
 女官長の命を受けた同僚達に玉座の間から連れ出された禾李は渦滋の元へと急いだ。
「渦滋様、‥‥ここに居ては御身の為になりませぬ故、どうか御逃げ下さいませ」
 息を切らして駆け込んできた禾李の様子に、渦滋は己の運命を悟ったらしく天を仰いで長い嘆息を吐く。
 禾李に向き直った時には既に覚悟を決めたらしく穏やかに微笑む。
「よいのだ禾李。私はこの国に迷惑をかけた。これ以上迷惑をかける訳にいかぬし、私を逃がせばお前も咎められよう」
 視線を振れば入り口に立った牙が一礼し、外には数名の兵の気配もある。
 鷹揚に頷くと渦滋はゆっくりと立ち上がった。
「短い間だったがよく仕えてくれた。礼を言う」
 その場に平伏して嗚咽する禾李の横を通り過ぎながらそれだけ言うと、牙に付き添われ従容としてて室外へと姿を消す。

 一方、占領した『巍』の都に留まり、強硬派の進言をかわしつつ新たな領土の統治に意を砕いていた宗堅は、ふと何者かの気配を感じて思わず剣に手を掛ける――が、次の瞬間頬を緩めた。
「闇か?」
「はっ」
 影の中に潜んだままの闇が短く答える――これまでにも幾度か『素』宮中の乱れを報告に戻ってはいたのだが――。
「首尾はいかに?」
「『素』王、落ちました。数日中には‥‥」
 闇は、玉座の間などの天井裏に潜んで見聞きした事の顛末を、感情を交えぬ口調で淡々と報告する。
 聞き終えた宗堅が満足げに頷くと、闇は一礼して現れた時と同じように音も立てずに姿を消した。
 その後、『素』の使者が豪奢に飾り立てた箱を携えて宗堅の元を訪れる。
 恭しく捧げられた箱の中を検分した宗堅は、重々しく頷くとの使者へと労いの言葉をかけた。
「土産の品確かに受け取った。雷和殿は英明な君主であられるようだな。これで『淵』と『素』の間も平和が保たれようというもの。此度の使者、誠に大儀であった」
 御前に畏まった使者は安堵の胸を撫で下ろし、宿舎へ引き上げるやいなや国元へと急使を立てる。
 知らせを受けた『素』の宮廷もひとまず安堵に包まれたのであった。
 が、そんな『素』の宮中にあって菜白は渦滋の姿を探していた。
 あの日、父雷和に直訴しようとした菜白だが、朝議から戻った父のいつになく様子に気後れして、周囲の女官に、
「父上すごく怖い顔だったの、良くない事があるのかな?」
 などと尋ねるものの答えるものはなく、数日後に顔を合わせた禾李に渦滋の所在を尋ねても硬い表情で「遠方に旅立った」と答えるばかり――「またあえるかな?」という問いにも、ただ視線を逸らすのみであった。


● 裏方さんは‥‥
「ハルサです。よろしくお願いします。裏方のお仕事は手伝えそうにありませんので、役に徹して、頑張ります〜」
 初出演となるハルサが「台本を読み込んでやるぞ〜」っと気合を入れれば、こちらも初出演のシオも、
「初めまして、兵法という物が良く解っていませんが、よろしくお願いします」
 尤もこちらは裏方として人のザワメキや足音などの効果音や、楽器を教えるシーンの音入れなども担当する。
 幼いお姫様役の神楽に、琴や琵琶などを教える役どころでもあるのだが、シオ本人が「教えるより習う方があってる気が‥‥」と言うように、実は年下の神楽の方が楽器の演奏技量は上であるらしい。
 一方、本業が大道具のきばは現地スタッフに交じって、赤と金を基調にしてまとめた主な舞台となる『素』の城内や、張りぼてとCGを組み合わせて作る、城壁に囲まれた街と中心部の城という、いかにも中国の城塞都市の遠景の政策に余念がない。
 他方、2作目の出演となるスラッジは自らの役名を解説しながら、
「以前、『無中生有』の回に将軍として演じた名前と同じだが、他に思い付かなくてな」
 などと千葉に向かって頭を掻き。
「どこかの番組でも、同じ役者が同じ役名で微妙に違う立場の人物を演じていたので、同じ様に番組が続くにつれ馴染みの顔と名前で覚えてもらえたらとも思う」
 と、隠れた効果を期待していることも告げると、千葉も感心したように相槌を打つ。
「なるほど、確かにこの番組の形式だと、ある程度国や人物の名前を使いまわした方が親しみがわくかもしれないっすね」
「え〜っと、メルさんの役、『淵』の国の女官長になってますけど、『派閥としては、王子を差し出して歓心を買おうという方向性』と言うことでしたから『素』の方でいいんですよね?」
 脚本をチェックしていたスタッフからの確認なども飛び交い、


●『隔岸観火』とは‥‥
 終劇の文字と共にスタジオに移ったカメラは、役のままの装束の面々の自己紹介を兼ねた挨拶を映し出す。
 開口一番、映像的には直截な表現を避けたとはいえ『手土産代りの生首』にされた『巍』の王子役を演じたスラッジが一同の感想を尋ねる。
「むぅ‥‥今回はちょっと後味の悪い話になったかな?」
 この策の例としてよく取り上げられる曹操の場合もやはり同じ結末になっており、ここは策の性格上止むを得ないのではという見方で意見は一致を見た。
 本来の陰鬱さを紛らわす為と言う訳でもないのだが、策とは無縁のほのぼの場面もちりばめられてもいる。
 一方、脚本家のマキさんはしばらく前の『趁火打刧』との比較を試みた。
「『趁火打刧』では相手の内紛を利用して攻めかかりましたが、こちらは相手の内紛をあえて傍観することで勝ちをとる策ですね。どちらが好ましいかはその時の状況によるでしょうが、一つ言えることは、中途半端に手を出すのが一番まずいということでしょう。結局、何もとれずに火傷するだけに終わりかねません」
 演出家でもある三十朗も更に解説を重ねる。
「今回の策は、仕掛ける側からすると失敗しても失うものが少ない。幾つかの布石の一つで、他の策を仕掛ける事も後々可能という点が今までの番組で紹介してきた計略との違いですね」
 実際、戦いで疲弊した軍をすぐさま新たな戦場に放り込む代りにある程度再編の為の時間的余裕もでき、相手の自壊が確信できる状況ならまさに一石二鳥と言えよう。
 その後も様々な話題を出しつつ番組はエンディングを迎えた。