【三十六計】笑裏蔵刀アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 04/28〜05/02

●本文

 いつもの簡単な確認も終り例によって‥‥。
「今回の策は『笑裏蔵刀』っすね」
「そう、懐に刀を忍ばせながら穏やか〜に、にこやか〜に振舞いながら、相手が油断したところで一気にブスリ‥‥ってわけ」
「なんかかなり黒いっすね」
(というよりアンタのニヤニヤ笑い口調の方が不気味なんっすけど‥‥)
「そうね。三十六計の中でもこの辺りは『敵戦の計』って言われてる部分で、割と敵味方の実力が伯仲してる場合を想定してるのよね。正面から戦うと負けないまでも被害が大きいとか、ヘタな引っ掛けじゃ簡単には乗ってくれないような相手の時には、入念に策をめぐらして油断させたりしてできるだけ味方は無傷でって方向かしら。この辺りが『勝戦の計』との差別化で、前にやった『声東撃西』と『暗渡陳倉』の違いになるわけ」
「相手がちょろいかどうかの違いってことっすかね?」
「そうね。武田信玄が織田信長からの貢物が入ってた箱の漆を傷つけて見て、何重にも重ね塗りした高級な物だから信長の誠意は本物だって家臣に話してたみたいな逸話もあるでしょ? 一筋縄じゃいかない相手にいかにもっともらしく誠意を見せるかがポイントかしらね」
「なんか現代でも使われまくってるって言う感じっすけど、舞台はやっぱ古代中国なんでしょうね」
「有名なのは呉の陸遜が蜀の関羽を引っかけた例とか、始皇帝がまだ秦王で政と名乗ってた頃に暗殺しようとした荊軻の例なんかがあるわね。後の例なんかだと何回か映画化もされてるでしょ」
 言われてみればえらく画面がカラフルな映画の方だけは見たことがある−−尤も映画館に足を運んだわけではなくDVD鑑賞ではあるが。
「他にも潰したい相手をわざと自分の側近に迎えて厚遇しておいて油断したところで罠にかけて罪に陥れたなんていう例も確か中国の古代だと思ったけど‥‥」
「宮廷の勢力争いっすか?」
「なんとなく復讐劇っぽい感じだったわね‥‥裏で糸引いてた人もいたはずで、結婚相手まで世話したとかしないとか‥‥ん〜と、出典なんだったかしら?」
「騙す方も結構大変なんっすね‥‥」
「まっ、何をするのも大変なのよ。っということで今回もよろしくね」
 ‥‥そして、いつものようにキャスト兼スタッフ募集がかけられることになった。


●三十六計
 書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
 その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
 序文に曰く。

『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』

 太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。

●第十計『笑裏蔵刀』

『信而安之 陰以図之 備而後動 勿使有変 剛中柔外也』

 友好的な態度を示して相手を安心させながら陰かにこれを図る。十分に備えを行った後に始めて動き、しかもこちらの異変を敵に知らしめない。中では攻撃の態勢を整えながら、外面はあくまでも柔和に見せかけるのである。

●今回の参加者

 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa3470 孔雀石(18歳・♀・猫)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4832 那由他(37歳・♀・猫)
 fa5367 伊藤達朗(34歳・♂・犬)

●リプレイ本文

● ドラマ『笑裏蔵刀』
 蒼い月明かりが回廊を照らしていた。
「今宵も主上はあやつめの元にお渡りか?」
 柱廊にめぐらされた手摺に凭れながら那鳳(那由他(fa4832))が物憂げに発した問いに、傍らに控えた紅雪(敷島ポーレット(fa3611))は答えに窮したまま俯く。
「そのようでございますな。こちらにも足が向くように色々と水を向けてはいるのですが‥‥」
 代って部屋の中から答えたのは男の声、宋講(弥栄三十朗(fa1323))だ――無論、後宮に王以外の男性がそうそういようはずもなく、所謂宦官である。
 かつては『巍』王・王喜(伊藤達朗(fa5367))の寵愛を一身に集めた那鳳であったが、王の心が新たに入内した歳若い緑石姫(孔雀石(fa3470))へと移って久しい。
 六尺豊かな偉丈夫である王喜は近隣の小国を平らげ『巍』の隆盛を築いた覇者でもあったが、また『英雄色を好む』を地で行く人物でもあった。
「本当に‥‥主上に置かれてはあのような得体の知れぬ他所者に‥‥」
 俯いていた紅雪も悔しそうに口を開く。
 遥か西方よりやってきたと言う緑石姫は、その名の通り緑色の瞳と銀色の髪を持つ異邦人である。
 城下で評判となった占いの腕が王の耳にも届き、技を披露する為に宮中へ呼ばれたのだが――加えてその独特の風情もあってか、どうやら王喜が甚くお気に召したらしく、そのまま後宮へと召し上げることになった。
「異国の占法でなにやかやと占って見せては相談に乗るなどして、近頃では主上ばかりでなく側室や宮中の女官たちの中にも取巻きを増やしている様子」
 部屋から出てきた宋講も言外に悔しさを滲ませる。
 那鳳から王喜の心が離れると供に、那鳳と親しくしていた宋講の立場も凋落の兆しを見せ始め――。
「‥‥ほんに、口惜しいことよのう‥‥」
 黙したまま聞いていた那鳳も部屋の灯から顔を背けるかのように月を仰いだ。

 当の緑石姫の部屋では――。
「緑石姫様、主上の御成でございます‥‥あっ」
 供に旅を続けてきた縁で入内後も女官として使えることとなった詩夏(月見里 神楽(fa2122))が来訪を告げる暇もなく王喜は既に室内へと足を踏み入れている。
「緑石姫、息災であったか?」
「お戯れを‥‥昨夜もご一緒したばかりですのに」
 尋ねる王喜に緑石姫は妖艶に笑みを浮かべて応えると、詩夏に目で合図を送りながら立ち上がり王喜へと寄り添う。
 詩夏は一礼して卓に歩み寄ると広げてあった占いの道具を片付け始めた。
「今宵の占いは何か瑞兆でも見えたか?」
 一際小柄な詩夏の姿など目に入らぬように王喜は緑石姫の肩を抱き寄せると別室へと誘う。
「はい、主上がお見えになると言う‥‥」
「こやつ、申すわ」
 黙々と片付けを続ける詩夏の背後で、受け答えする緑石姫の声と豪放な王喜の笑い声が遠ざかっていった。

 やがて、一つの噂が囁かれ始める――緑石姫様御懐妊――これは王喜の寵愛が遠のいた後も相変わらず後宮での権勢を保っていた那鳳にとってその足元を揺るがす事態であった。
 尤も火元はと言えば、女官の一人が緑石姫に「密かに宮中で飼っていた猫が生んだ子猫の処遇」を相談したのを、たまたま耳にした別の女官が勘違いしたと言う他愛もない勘違いではあったのだが――。

 そんな折も折り、那鳳の元を訪う者がいる。
「おお、楠葉ではないか。久しいのう」
 紅雪に案内されて姿を見せたのは那鳳の遠縁に当る娘、楠葉(雅楽川 陽向(fa4371)だ。
 かつて那鳳が王の寵愛を受け始めた時分には、
「那鳳様が主上に気に入られるのは当然の事ですわ。外見の美しさだけで無く、教養も併せ持ったお方なのですもの」
 と、我事のように自慢していた娘なのだが‥‥。
「大きゅうなられたのう。見違えるようじゃ」
 鬱々としていた那鳳も満面の笑みで迎える――が、話が進み、事が緑石姫の懐妊の噂に及ぶと那鳳も急に顔を曇らせ――。
 小さく溜息を漏らす那鳳の様子を見て、楠葉も心を痛める。
「‥‥楠葉なら‥‥」
 慰めようと言葉を掛ける楠葉の様子をじっと見つめていた那鳳が徐に口を開く。
 ふと那鳳の脳裏をよぎったのは一つの策であった――楠葉を新たな寵妃として王喜に近づけ、緑石姫を追い落として再び楠葉の後見人として那鳳の復権を図ろうというもの。
 緑石姫を退けた所で、移り気な王喜の愛が再び自分に戻って来ないと言うことは那鳳も十分に承知していた――この上はせめて後宮での権力だけでも、と。
 無論王喜の眼鏡に適う為には、生来の魅力に加えて相応の芸事や宮中での所作、果ては王を虜にする為の房中術に至るまでを身に着けさせなくてはならない。
 予てより姉のように慕う那鳳の為とあっては、楠葉も否やはなかった。
 長く使えている主の意を受け、秘密を守る観点からも楠葉の教育には那鳳に忠実な紅雪が当ることに――。
 命ぜられた紅雪は自らの持つ知識を尽くして宮中での礼儀や舞踊など教え込み、楠葉の魅力を引き出す。
 楠葉も持前の芯の強さを発揮して、厳しい制約の中教えられる内容を貪欲に吸収していった。
 同時に緑石姫やそのお付の女官にも取り入って油断を誘うことも怠らない。
 緑石姫付の女官達の中でも最も若くおっとりした詩夏などはいかにも御しやすいらしく恰好の的となる。
「この度は緑石姫様御懐妊とか。おめでとうございます」
 などと紅雪が鎌をかけると、怪訝そうな顔で首を捻り。
「この前の占いでは王様に御子が出来なさるのは数年先と申してましたよ?」
 と、あっさり否定する。
 尤も、この噂は王喜の耳にも達したらしく、一時は侍医が派遣されるなどの騒ぎになったが、緑石姫本人も否定し、侍医の見立てもそれを裏付けたことから、それなり立ち消えとなった。
 懐妊の噂が間違いだと判ったとは言え、那鳳の嫉妬や権勢に対する執着が収まるわけでもなく、一度回りだした歯車は止る筈もない――楠葉の教育は着々と進められていく。
 那鳳達の策を打ち明けられた宋講も、後宮への楠葉の出入りを手引きするなどして力を貸す。
 無論、全ては那鳳と結んで後に宋講自身の栄達を願わんが為である。

 時は流れ、折りしも宮中では春の到来を祝う宴が盛大に催されていた。
 当然のように王喜の隣に席を占めるのは緑石姫だ。
 そんな宴の最中、王喜のご機嫌を伺いに近付いた那鳳が一座の余興にと楠葉の舞を勧める。
「遠縁の娘ですが中々の名手、お目汚しとは存じますが是非一度ご覧になってみては?」
「ほうっ、そちの縁者か? よかろう、舞って見せい」
 酒盃を片手に上機嫌で頷いた。
 最初のうちこそ片手間に眺めていたが、舞い進むにつれ次第に身を乗り出す。
 舞を終えて御前に平伏する楠葉に声をかけた。
「楠葉と申したな。面を上げて見せよ」
 言われて一度は面を上げたものの、すぐに恥らうような素振りで顔を伏せてしまう。
 そんな初々しい所作も存外王喜のお気に召したらしく。
「どうじゃ、予の室として宮中に入らぬか?」
「恐れ多いことでございます」
 王喜の言葉に恭悦の体を装う楠葉に傍らから那鳳も言葉を添えた。
「なんと、ありがたきお言葉。家の誉れとて両親もさぞかし喜びましょう。分らぬ事があれば私がなんなりと世話を致すゆえ、謹んでお受けするが良かろう」
 楠葉もここぞとばかり那鳳を持ち上げる。
「那鳳様に後ろ盾頂けるとあればなんの心配することがありましょう。ありがたくお受け致します」
「うむ、委細は那鳳に任せよう。楽しみにしておるぞ」
 王喜も上機嫌で那鳳に声をかけると、那鳳も満面の笑みを浮かべながら畏まって王命を拝するのだった。

 予め準備が進められていたことも有り楠葉の入内は異例とも言える早さで執り行われ、早速王喜も楠葉の元へと通い始める。
 勢い、緑石姫の元へは足が遠のく事になったが、那鳳達の復讐はこれに留まらなかった。
 暇を託つこととなった緑石姫を慰める体を装い、那鳳自ら茶会などに招いては同情するような素振りで楠葉への恨み言などを態と引き出しては、裏で針小棒大に膨らませて喧伝する。
 更に紅雪も甘党らしい詩夏に珍しい菓子などを振舞っては手懐け、占いの道具に細工をしようと画策していた。
 緑石姫が那鳳に招かれて退室した折に、道具を片付けていた詩夏がその上にお茶をこぼして占い札を濡らしてしまったのを見つけた紅雪が、詩夏に言い含めて予て用意した物とすり替えたりもしたのだが。
 戻って来て再び占いを始めた緑石姫が何枚かの札を取り落とす――普段と違う感触に詩夏を問い詰めると、自分がダメにしたのを紅雪が親切に代りを用意してくれたなどと話してしまう。
「そうか‥‥現れた表象を読み解くのは己の心一つだから道具など構いはしないけど‥‥‥‥これはだれの暗示かしら‥‥」
 詩夏から注意を拾い上げた西洋風の占い札に移す――陰謀を示唆する『隠者』、厄災を示す『崩れ落ちる塔』、そして『死神』――最後の呟きは謝り続ける詩夏の耳には届かなかった。

 その後も、宋講や紅雪を通じての那鳳の画策は続き、やがて新たな寵姫となった楠葉に呪いを掛けた罪に陥れられた緑石姫は王喜の不興を買って処断されることとなる。


● ドラマの裏で‥‥
 今回は宮廷内での復讐劇と言うことでほとんどの場面が後宮内で進んでいく。
 脚本と演出を一手に引き受けた三十朗はセットにも拘りを見せた。
 古代中国の後宮に関する資料を掻き集めると、美術スタッフを指揮していかにもそれらしい部屋の内部を作り上げていく。
 同時に寵姫達が纏う衣装もそれぞれ相応しい物を調達に勤め、不足する物は新たに製作させる。
 三十朗自身も元寵姫側に付く宦官役で出演する予定だ。
 一方で国王役を演じることになったたつやんも役作りの確認をしている。
「出来る限り、好色そうに演じさせて貰いますわ。後宮の側室達については取り替えの効く駒程度の認識と言うことで、新しい娘に興味を惹いたら、すぐに乗り換えるような君主として演じるという事ですわ‥‥なんや女から見ると、最低のような気がせんでもないけど‥‥」
 役柄とは言うものの苦笑しながら頭を掻く。
 陽向も自分の役を確認する。
「うちの役は考え方では刀にあたるんやろうか? 最後にどんでん返しするで♪」
 三十朗が用意している衣装を眺めながらちょっと心配そうな発言も‥‥。
「ヒラヒラの衣装着るんよね、舞でこけんように気ぃつけんと、危なそうやな‥‥大丈夫やろか?」
 化粧部屋ではナユが年下の国王役に合わせるべく常にも増して若作りなメイクを施してもらう一方で、ポーはクーの異邦人振りを際立たせる為もあって金髪を黒い鬘で隠してもらっている。
(「特殊メイクしたら神楽も宮廷に住まわっていてもおかしくないくらい大人になれるのでしょうか?」)
 そんな周りの様子を鏡越しに見渡しながら、神楽も出来上がっていく自分の姿に期待を込めて子猫のように目を輝かせていた。
 小学生以下の子供ならいざ知らず、実際の年より若く見せなくてはならないナユも、大人に見せたい神楽もメイク次第で何とかなるものである。
 場合によっては性別すらさして問題にならない。


●『笑裏蔵刀』とは‥‥
 終劇の文字とともにスタジオに移ったカメラが出演者達の挨拶を次々と映し出す。
「今回は後宮を舞台にしての復讐劇に『笑裏蔵刀』の策を絡めてみました」
 挨拶が終ると、脚本を纏めた三十朗がまず口火を切る。
「実際に昔の宮中では権力や愛情の奪い合いのドロドロした女の戦いがあってたのでしょうね。笑顔でブスリ、怖いわね」
 ナユが思わせぶりな笑みを浮かべると、ポーもそれに続く。
「武器持った戦い、愛巡った戦い、商人の金の戦い。いろいろあるけど笑顔で近付いてくるもんには注意せんといかんのかもね〜」
「実際、どこかの後宮では同じような事が起きていたかも知れませんね。後宮での女の戦いというのは刃こそ交えませんが、相当熾烈なモノだったでしょうし、これくらいの事はもしかして日常茶飯事だったのかも知れませんね」
 再び、三十朗が話題を引き取る――確かに「王はあなたが口元を覆う仕草が好きだそうよ」などと親切ごかしに教えられてその通りにしていたら「わしがそんなに臭いと言うのか!」と処刑されてしまった話なども伝わっている。
 陰惨に流れそうな話題の中、今回あまりやったことのない女性に囲まれる役を演じたたつやんは。
「お芝居とはいえ、こないな美人に囲まれるとはまさに役得でしたわ」
 などと言っては周りを和ませる。
 今回の計略の使い方として神楽も現代版のバリエーションを披露。
「勉強がよく出来る相手と一緒に勉強して、いっぱい教えて貰います。威張る相手に馬鹿にされても持ち上げて、めげずに勉強。テストで満点とって、教えてくれた相手に「簡単だったね」と余裕の笑みで、ショックを与えたりできるかな?」
 実際にいい点数を取らないとあまり効果がないので結構な努力が必要になりそうだ。
 その後も様々な話題が飛び出した座談会は、三十朗の、
「個人的には次の策では戦場を舞台にするものを描いてみたいですね」
 っと言う希望で締め括られた。