【三十六計】調虎離山アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/07〜07/10
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●本文
いつもの簡単な確認も終り例によって‥‥。
「今回の策は『調虎離山』っすね‥‥」
「虎を狩ろうと思ったらこっちから山に入っていくんじゃなくてうまいこと虎を山から引きずり出したほうが楽ってことよね」
「楽‥‥っすか?」
「木が鬱蒼と生えてたりしたら弓や銃で狙うのにもじゃまだし、網を掛けようとしても木の枝や下生えなんかにひっかかってうまく行かないでしょ。平地におびきだしちゃえば、周りを囲んで一斉に弓で撃つとかできるし。第一隠れるものが多くて向こうが熟知してるテリトリーの中にわざわざ入っていくなんて危ないじゃない」
「そう言えば前に鮫のNWと戦った皆さんも敵を浅瀬に追い込んでたっすね‥‥水の中で鮫の相手じゃ圧倒的に不利だし」
「そう言う事。要は相手が有利な条件の場所に構えているなら、別のこっちが有利な場所に戦場を設定して相手がそこに来ざるを得ない状況を作ってやればいいわけよ。天の時を待ってとかなら要害に籠った敵を包囲だけして攻撃せずに兵糧攻めにして打って出ざるを得なくするとか、人の力を用いるなら『孫子』にもあるように『その必ず救う所を攻め』て誘い出す方法や、態と弱いと見せかけて敵が大挙して砦を出てきた隙に別働隊で砦を乗っ取るなんてのもアリね」
「専ら砦や城に籠った相手に有効ってことっすか」
「まあ『孫子』でも城攻めをするには敵の十倍の戦力が必要だって言ってるから、勢いそう言うパターンが多くなるけど、敵が山の上なんかの有利な地形に陣取ってるとか、先に戦場に到達して完全に陣形を整え終わってるとか、とにかく相手に有利な状況での戦いを避けてこっちの思い通りの状況なり場所なりに相手を引っ張り出すってのが大事ね」
「はぁ‥‥そんなもんっすか」
腑に落ちたような落ちないような微妙な感じではあるが。
‥‥そして、いつものようにキャスト兼スタッフの募集がかけられることになった。
●三十六計
書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
序文に曰く。
『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』
太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。
● 第十五計は『調虎離山』だ。
『待天以困之 用人以誘之 往蹙来返』
天の時を待ち、以って敵を困しめ、人の力を用いて以って敵を誘い出す。じっと籠っていればおびき出し、出て来たところを返り討ちにする。
●リプレイ本文
● 本番前
配役が決定した会議室では、兵士に協力する村人、熊月役のティタネス(fa3251)が、
「口調とか性格はほぼ普段のあたしと同じような感じでいいかな?」
っとスタッフに演技の確認を取り。
一方では村に残る兵士雨天役の春雨サラダ(fa3516)が千葉を相手にしきりに首を捻る。
「村人を装った兵士を演じるんだよ。‥‥と言う事は、私は、村人を装った兵士を装うって事だよね〜。
‥‥? 何だか、こんがらがってきたけれど、村人の時と兵士の時と演技を変えればいいよね?!」
やや混乱気味のようだが、どうにか納得したらしく笑顔を向けた。
● ドラマ『調虎離山』
国境沿いに布陣を整えつつある自軍を視察していた牙暁(長束 八尋(fa4874))は満足げに頷いた。
「ははっ! ざっとこんなもんだ。国許のご老体達も取り越し苦労が過ぎる」
年長の将軍達からは若輩者と侮られることの少なくない牙暁だが、己が実力には自信がある――無論、この若さで一軍を任される以上、主上からはそれなりの評価を受けているとの自負もある。
出征に当って単独での先走りを懸念する歴戦の諸将に向って、
「先の戦いで疲弊した敵など、この牙暁が一思いに平らげて参りましょう! 将軍の手を煩わすまでもございますまい」
と大見栄を切って臨んでいた。
一方、国境にほど近い城塞都市の中央に位置する庁舎では――。
次々を上げられる報告を聞きながら趙文(弥栄三十朗(fa1323))が眉を顰めていた。
「どうやら、状況はあまり芳しくないようですな」
先の戦いで深手を負った前任者に替り、太守として赴任してきたばかりなのだが、兵の損耗も予想を遥かに超えており、再編にはそれなりの時日を費やさねばならない。
加えて、国境には新たな敵の兵力が展開しつつあるとの報が――。
「敵ながら、良く兵力が続くものだ‥‥」
密偵からの報告を見る限り、現在の戦力で正面から当った所で到底勝算が立たない事は明らか。
机上に広げられた付近の地図を凝視していた趙文の目が一つの村の上に止まる――『籐華村』――国境に接するこの村は、趙文の居る場所からもさして距離は無く、敵の進路上からも外れていない上、周囲の地勢から兵を伏せて敵を包囲しやすい。
伏兵による不意打ちと言えどもそれを実行できるだけの態勢を整えるには多少の猶予は必要。
かの村へ敵を誘い込み、かつ油断させて足止めする算段を立てた趙文は、兵の補充や武器の調達を急がせると供に、策を実行に移すための人選に取掛った。
翌日、籐華村の村長宅に、趙文自ら一団の兵を引き連れて訪れる。
村人に策を説明して協力を求めると、村に居る戦える年齢の男性を拠点へと引上げる――戦いに備えて壮丁は全て徴兵され、女子供しか残っていない無防備な村を演出する為。
一方で、村人に扮した女性兵士や間諜が村の要所要所に紛れ込む。
遠ざかって行く村の男達を見送りながら、村人の纏め役となった月香(浦上藤乃(fa5732))は眉を曇らせる。
前村長の未亡人である月香は、当初、村を囮にすると言う策に強く反対したのだが――結局は趙文の説得に折れ、協力を約束することとなった。
「さあて、敵さんを迎える準備でもしようか? とりあえず何から始めりゃいいんだ?」
供に見送りに来ていた熊月が景気良く声をかける。
「へんっ、敵のやつらに一泡吹かしてやるんだ。熊月姐も手伝っておくれよ」
頭二つ分ほども小さな少女亜鈴(月見里 神楽(fa2122))が、日頃から懐いているらしくがっしりとした長身の熊月の袖を引く。
「おいらも手伝う!」
まだ幼い梢星(山南亮(fa5867))も、やや怯えた様子ながら拳を振り上げる。
「なあに、そう心配しなくてもなんとかなるさ」
子供達の様子を心配そうに見やる月香に向って、亜鈴と梢星に両手を引かれつつ熊月は笑顔で声をかけた。
「そう‥‥ですね」
不安な気持ちを振り払うように月香も微笑む。
「へへっ、ここがあたいらの腕の見せ所ってね。梢星、ぬかるんじゃないよ」
日頃の悪戯の技術を存分に発揮すべく、亜鈴が弟分の梢星共々気勢を上げる。やがて子供達に囲まれ熊月は村の中へと入っていった。
同じ頃、敵陣に近い村の外れには趙文の命を受けた兵士達の姿があった。
「行って来る」
緊張した面持ちで短く告げる雪華(都路帆乃香(fa1013))に、村に残る雨天が声を掛ける。
「御武運を」
山菜取りの村娘に身をやつした雪華は、単身敵陣に近付き、態と見つかって敵を村に誘き寄せるという任を帯びていた。
雨天から手渡された籠には首尾を連絡する為の伝書鳩が入っている。
尤も声を立てられては困るので、敵に接触する前にどこかに隠さなくてはなるまいが‥‥。
雪華の姿が見えなくなると雨天は踝を返す。
村に戻るとそこかしこで罠作りが行われていた。
「「熊月姐! こっちこっち〜」」
亜鈴達の元気な声に応えて熊月が巨大な岩を坂道の上に運び上げている。
「ねえちゃん、危ないよ!」
近付こうと叢に足を踏み入れた雨天に、籠に入れた石飛礫を運んでいた梢星が注意を促す――既にあちこちに落とし穴が掘られているらしいのだが、目を凝らしても見つからない。
「‥‥たいしたものだ」
漸く目印らしきものを見つけて苦笑した雨天は、足元に気をつけながら別の場所で罠を作る大人達の方へと近付いていった。
視線の端では、岩を運び終えたらしい熊月が今度は数本の丸太を軽々と担ぎ上げている。
牙暁の陣に接近し鳩を隠た雪華は、敵の様子を注意深く伺いながら大将と思しき人物に当りをつける――。
やがて先陣を切って進軍する牙暁の姿を認めると、態と視界に入るような動きを見せ。
案の定、目敏く雪華の姿を捉えた牙暁が馬首を回らす。
「娘‥‥そこで何をしている?」
雪華の行く手を遮った牙暁は馬上から声をかけた。
怯えたように地面にひれ伏す雪華と二言三言のやり取りの後、軍を休められる場所を尋ねる。
「あ、あっちに村はあるけど小さな村だから行っても何もないだよ‥‥」
雪華は、おどおどと顔を上げると籐華村の方角を指し示す。
「何もないと言っても水や食物くらいは補給できるだろう‥‥行き掛けの駄賃か。たかが小村如き、猛虎 牙暁には造作もない! そうだろっ?」
部下の将兵を振返ると軽口を叩きながら豪放な笑みを浮べる。
方向を変え、村へと向う大軍を雪華は地面にひれ伏したまま見送った。
砂塵と軍馬のいななきが彼方に去ると、雪華はやおら立ち上がり鳩を隠した叢に急ぐ。
目にした敵の情報などを手早く紙片に認めると、村で待つ雨天の元へと放った。
そのまま近くにある川を目指す――小舟で川を下れば牙暁の軍より早く村に着ける公算が大きい。
牙暁の軍に先んじた雪華は雨天や村人達に迎えられる。
先に送った報せも届いており、村はすっかり敵軍を迎え撃つ準備を整えていた。
更に詳しい情報を伝えると供に間諜の一人を趙文の下へも走らせる。
やがて牙暁の大軍が姿を現した。
村の入口で出迎えた月香に、牙暁は馬上から「村長が居るか」と尊大に尋ね――。
「村に男はいません。皆さんを迎え入れるのはかまいませんが、村での一切の掠奪暴行をしないことを約束していただけますか?」
「女子供まで武を以って降伏せしめん、なんて野暮は言わん。お前ら! 手酷くし過ぎるなよっ」
牙暁が部下に向って厳命を下すと、軍団は村へと入って行った。
多少のいざこざ――家禽を徴収しようとする敵兵を相手にぐずっていた梢星が、本気を出されそうになって脱兎の如く逃げ出したりする騒動など――はあったものの取立てて大きな事件とはならず。
数日後――
村人に混じって敵の様子を探っていた雪華や雨天達の下へ趙文からの報せが届く――どうにか整備を終えた戦力を村の周囲に密かに展開し終えたと言うのだ。
牙暁に顔を知られている為あまり村の中をうろつけない雪華に代って、雨天が月香の下を訪れ決起の手筈を整える。
月香は戦えない者を密かに逃がそうとしたのだが、亜鈴などは、
「ここはあたいらの村だよ、他人だけに任せるなんて訳にいくもんか」
と気丈に言い返す――戦乱馴れしているとは言え子供ならではの無謀さとも言えるのだが‥‥。
やむなく月香は従うものだけを安全な場所へ避難させる。
雪華ら村人に紛れた兵士や、熊月のように残って罠を発動させる者達も三々五々持ち場へと向った。
村外れを急ぐ雨天は、不意に通りすがりの小屋の影から腕をつかまれて「きゃっ」っと小さく悲鳴を上げる。
「娘、こっちに来て酌でもしろ」
見ると数人の敵兵が小屋にたむろして酒を酌み交わしている。
「ひっ、お許しを」
酔漢とは言えさすがに一人で相手に出来る数ではないと見て、怯えた様子で震えながら逃げ出そうとするが、逆らうつもりと見た敵兵達が出てきて雨天を取り囲む。
が、次の瞬間、ブンッっと風を切る音と供に二人ほどが一気に吹き飛ばされる。
やはり持ち場に向おうとしていた熊月が抱えてきた丸太で薙ぎ払ったのだ。
呆気にとられている残りの敵兵の胸を雨天の隠し持った短刀が貫く。
「愚か者が」
「きっ、貴様ら‥‥」
更に丸太が振われ、短刀がきらめき――たちまち全員が地面に転がる。
「さっ、急ごうぜ」
雨天は先を促す熊月に頷くと、
「己の愚行を呪うがいい」
と、嘲りの言葉を投げかけ後に続いた。
やがて、村を囲む森から一斉に鬨の声が上がる。
慌てて飛び出した牙暁揮下の兵士達を森から飛来した矢が貫く。
陣屋を飛び出した牙暁は愕然とした。
「なっ、謀られた!?」
十字槍を振るって矢を打ち払いながら愛馬に跨る――が、周囲は既に指揮を執れる状況ではない。
「くっ‥‥皆すまない‥‥っ」
歯噛みしながらも槍を振い、勇猛に道を切り開こうと試みた。
辛うじて村から出る街道にたどり着いた者達も背後から迫る地響きに気付き振り返る。
巨大な岩が轟音を響かせながら坂道を転がり落ちてくるのが目に入り慌てて馬首を回らす。
間に合わずに巻込まれる者もいれば、道を外れ叢に退避する者も――だがその叢も安全ではなかった。
足元の地面が次々と人馬を飲み込んで行く――深さこそ無かったが馬の足を止めるには十分だ。
更にその頭上からは村人達が投げる石飛礫も降り注ぐ。
「ざま〜みろっ! おととい来やがれってんだ!」
亜鈴が石を投げながら威勢のいい啖呵を切り、梢星もせっせと印字撃ちに加勢する。
別の道を通って脱出を試みた一群は、崖下に差し掛かった所で頭上から落ちてくる丸太に押し潰された。
崖の上では熊月が積み上げた丸太を敵兵に向って蹴落としている。
丸太の下から這い出そうとする敵兵に雨天が次々と止めを刺す。
崖を降りた熊月も手ごろな丸太を拾い上げると振り回し始める――唸りを上げて襲ってくる丸太は剣で受け止めることもできず、鎧も役に立たない。
やがて森の中から矢を射ていた趙文揮下の正規軍も姿を現し牙暁軍の進退は完全に極まった。
「はっ‥‥やるな。俺もまだまだ‥‥か」
馬上で槍を振い続けていた牙暁もついに捕縛される。
(主上‥‥申し訳ございません)
趙文の前へと引き据えられながら牙暁は己が不明を深く恥じ入るのだった。
村を守り抜いた熊月や亜鈴、梢星などが凱歌を挙げているところへ、月香も避難していた村人を連れて戻り。
村人達の指揮を執っていた雪華や雨天も趙文の下へと馳せ参じてこれまでの経過を報告した。
その後、更に軍備を整えた趙文は国境に対して十分の布陣を敷き、遅れて到着した敵の本隊も、なす術もなく侵攻を断念せざるを得なかった。
●『調虎離山』とは
終劇の文字と供に画面はスタジオに移り、参加者達の挨拶を映し出す。
「今まで見る方で今回初めて参加させて頂きましたが、面白いシリーズですね。ただ今回のように女性の参加者が多いと策に当てはめてシナリオを書く方は大変そうですけれど」
初参加となった藤乃が出演の感想を述べると、
「今回は参加者の多くが女性だったと言う事で極端な策の見せ方をしましたので、若干リアリティーには欠けたかも知れませんね」
このところ、毎回番組構成に深く関わっている三十朗もやや物足りなそうな口吻を漏らす。
ちょっと湿りがちな空気に、今回唯一の敵役を演じた尋があっけらかんと応じた。
「あは‥‥本当に誘き出された猛虎の気分でしたー。策次第で相手の優勢は覆るし戦局も変わる、と」
「ドラマでは村人が地の利を活かして、準備を整えてますよね。だからわざわざ正面切って打ち破る必要がなく、自分達の得意な戦場まで引っ張ってきて、少人数で大軍を打ち負かせたのだと思います。罠とかで追い討ちをかけて、勢いに乗ってるのも、この計略に当てはまる部分ですよね」
今回元気一杯のガキ大将を演じた神楽もドラマの流れに沿って解説を加え、
「好きな人が出来ても、相手に恋人がいたり振られるかも知れないので、相手の気を惹いて向こうから誘いを掛けてくるのを待つ恋愛の駆け引きもこんな感じでしょうか?」
囮役を演じた初出演のトロは現代版の解釈を試みる。
かと思えば、ハルサは策というより女の子目線な発言を。
「うーん。虎を山からおびき寄せるって言うけど、そもそも虎を狩るって言うのが怖いなぁ。だって、虎だよ?」
うまい言葉が見つからないのかじっとみんなの話を聞いていたティタネスも、意を決して口を開く。
「一言で言うなら『押してだめなら引いてみろ』で‥‥いいのかな?」
やや自信なさ気な辺りが前回も出演した父との差か。
その後も解説は続き、和やかな雰囲気のうちに番組はエンディングへと続いた。