【三十六計】樹上開花アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 8.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/13〜10/16

●本文

 いつもの簡単な確認も終り例によって‥‥。
「で、今回の策っすが‥‥『樹上開花』って言うわりに解説に花も樹も出てこないっすけど」
「お題そのものは元々花の咲かないような樹に花が咲いているように見せかけるって意味なんだけどね」
「まるで花咲か爺さんのインチキバージョンみたいっすね。で、代わりに解説の方は『鴻』っすか‥‥鳥っすよね?」
「おおとりって言うと白鳥なんかの大型の水鳥をさすことも有るし、雁の仲間で一番大きな『ひしくい』をさすこともあるみたいよ。要はいわゆる雁行みたいに威儀を正して立派に見せるって感じね。孔雀とか河豚なんかもそれに近い感じかしら」
「でもって例によって解説の半分以上は易の丸ごと引用なんすね‥‥」
「まあ言いたいことは単純すぎるくらい単純だから、意外と書くこと無くなって来たんじゃない。結構内容的にも微妙に重複してる感じの策が幾つかあるし、卦の内容って言うよりは『見た目を立派にする』って事を現すのに引っ張ってきただけかもしれないわね」
「そんなもんすかねぇ‥‥」
「具体的にはよくあるパターンだと兵隊の数を多く見せかけるために竈の数を増やして見せるとか、牛や馬の尻尾に箒みたいなのを括り付けて土ぼこりで大軍に見せかけるとかがあるわね。今までにも使ったけど農民に旗指物を持たせて銅鑼や太鼓を盛大に叩かせるとか‥‥あとは、食料が残り少ないのに態と宴会をして余裕を見せ付けるなんてのもあるわよ。加えて間諜を送り込んで見せかけの攻撃を大げさに騒がせるなんて手も有るし」
「賭け事なんかで、大した手でもないのに賭け金を吊り上げて相手が下りるのを待つみたいなもんすか? 三宅さん得意っすよね」
「まあね‥‥って何の話よ」

 ‥‥そして、いつものようにキャスト兼スタッフの募集がかけられることになった。


●三十六計
 書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
 その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
 序文に曰く。

『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』

 太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。

●第二十九計『樹上開花』

『借局布勢 力小勢大 鴻漸于逵 其羽可用為儀也』

 色々な手段を使って勢いがあるよう見せかければ、力が小さくても勢いだけは大きく見せることが出来る。これは易の『風山漸』上爻に言う『鴻が雲間を進む時、その羽の威容は公の儀式に用いても良いほどのものだ』に喩えられる。

●今回の参加者

 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa5256 バッカス和木田(52歳・♂・蝙蝠)
 fa5541 白楽鈴(25歳・♀・狐)
 fa6031 xファーストx(26歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●楽屋では‥‥
 今日もまた楽屋には元気な挨拶が響く。
「こんにちはー。今回もよろしくお願いします」
 今回『藍』の間諜・霧雨を演ずる春雨サラダ(fa3516)は例によって千葉を相手に衣装のお披露目――っと思いきや不意に顔をずぃっと近づける。
「ふっ、番組開始前に踊ってばっかりじゃ芸がないですよねー」
「あ‥‥はは‥‥そっ、そうっすかね‥‥」
 可愛い女の子のドアップに目尻を下げながらしどろもどろで返す千葉だが、
「はい千葉さん、だから、今回は‥‥」
 スッと顔を引くと意味有りげに瞳をキラリーンとさせる。
「‥‥、緊張を紛らわせるため、やっぱり踊りまーすっ」
 いつものように楽しげに踊りだすハルサを眺めて暫し脱力する千葉であった。


●ドラマ『樹上開花』
 怒濤のごとき『藍』軍の猛攻の前に王都を守る最後の砦も落ちたとの報を受け、『季』の朝議は重苦しい空気に包まれていた。
「『夏』との同盟締結の停滞がこのような事態を招くとは‥‥」
 季の君主、紀礼(弥栄三十朗(fa1323))の表情にも常の威厳は影を潜め焦燥の色が滲む。
 が、その場の空気を振り払うように集った群臣に向って声を放つ。
「今更泣き言を言っても仕方がない。良き策があるのなら、誰でもよい、申してみよ。この局面を打開出来るのなら、余の首を差し出すぐらいの覚悟はあるぞ」
 紀礼の言を受け、連戦連敗の参謀達の中からこれまで目立たなかった軍師の一人、管秋(巻 長治(fa2021))が声をあげた。
「ここは一つ、先日断られた夏からの援軍の話を、承諾してもらったように見せかけるのが上策かと」
 管秋の献策に老臣が異を唱えようとするのを紀礼が一言の元に封じ。
「して、成算はあるのか?」
「はい、藍の情報収集能力はこちらより数段劣り、なおかつ侵攻軍を率いる高烈将軍は猛将ではありますが側に知恵者が居りません。それに引換えこちらには夏の出身である徐恒将軍も居られますゆえ、夏の援軍を装うのも容易。成功は間違いありません」
 彼我の情勢を挙げてきっぱりと断言する。
「良かろう。すべてそなたに委ねる。思う存分やるがよい。失敗しても余の首が飛ぶだけであろうからな」
 聞き終えた紀礼は管秋に策の全権を委ねた。
 管秋から藍軍の背後に回って夏の援軍を装う別働部隊の指揮官として指名された徐恒(烈飛龍(fa0225))も勇躍して任を受ける。

 管秋の指示により直ちに偽装の為の準備が開始された。
 徐恒は別働隊に夏の援軍が含まれているかのように装うべく、連れて行く配下の軍勢に予め夏の訛りや方言、言い回しなどを教え込んでおく。
 一方、管秋とその指示を受けた清柳(白楽鈴(fa5541))は、王都の周辺が季と夏の連合軍で溢れかえるかのように見せかけるべく奔走していた。
 まずは季と夏の旌旗を大量に揃えて掲げさせて、その中で竈の煙のような煙を随所に上げさせ、あたかも『大軍が待ちかまえている』かのように見せかける。
 敵が近くに来れば、煙を立たせる火の中には、態と香草や肉汁等を放り込んでいかにも大層な料理を作っているかのような匂いを際立たせておくことも怠らない。
 更には、こちらでも夏の訛りを教え込んだり夏が使っている具足などを用意し、傭兵や自国の兵、更には夏の訛りを話せる村人まで駆り出し、彼らに纏わせて敵の間諜に『見せる』為の夏兵に仕立て上げた。
 一方で徐恒は出撃に当たり配下の部隊に対して軽挙妄動を厳に戒める。
「俺たちの任務は時間を稼ぐ事だ。俺たちが動き回っているだけで、敵は勝手に疑心暗鬼になってくれるはずだ。此処は軍師殿の策を信じて戦い抜こうじゃないか。欲張ってちょっかいを掛けて、大怪我するのも馬鹿馬鹿しいからな」
 やがて準備を終えた徐恒の部隊も、夜陰に乗じて密かに藍軍の背後へ向けて進発した。

 王都を守る最後の砦を陥落させた余勢を駆って、一路季の都を目指していた藍の武将、高烈(マサイアス・アドゥーベ(fa3957))は、眼前に広がる季と夏の入り混じった大量の旌旗を見て己が目を疑う。
「むぅっ、どういうことだ? 夏との同盟は不調に終わったはずではなかったのか? 季の軍にこれほどの余力があるなどと聞いておらんぞ」
 高烈率いる藍の軍勢は、侵攻開始以来破竹の快進撃を続けてきていた。
 とはいえ長征の途に就いてより幾度もの戦闘を重ねており、それなりに疲れも見え始めている。
 風に乗って流れてくる食事の支度と思しき煙の中には、藍の軍勢が近づいたのを確認した清柳の仕込みでいかにも贅沢な料理を拵えているような匂いさえ混じっていた。
「霧雨はおるか?」
 暫し考えを廻らした後、全軍停止の命を発した高烈が声をあげると何処からともなく一人の少女が姿を現す。
「将軍様、お呼びでしょうか?」
 周囲の慌しい様子とは懸け離れたおっとりとした口調で答える少女。
 その出で立ちも戦場には似つかわしくない普通の町娘風であるが、高烈は見慣れているらしくすぐさま指示を伝える。
「季の国も今や王都を残すのみ。事前の情報では夏との同盟は決裂し、これまでの戦いで兵力もさほど残ってはいないはずであったのだが、眼前には季と夏の旌旗が林立しておる。その方、少し探りを入れて参れ」
「はーい」
 なにやら間延びのした口調で応ずると、霧雨は何処へともなく姿を消した。

 藍の軍勢が目論見通り動きを止めたのを確認した紀礼は直ちに次の指示を出す。
「こちらの予想通り行き足が止まりましたか。程なく間諜を送り込んで真偽を探ってくるでしょう。偽兵がそれと悟られぬように。それと、別働隊が藍軍を背後から挟み撃ちにしようとしているという噂を近隣の村に流すのです」
 命を受けた清柳が軍中に伝令を走らせる。

 暫くすると近隣の村に高烈の命を受けた霧雨が姿を現す。
 村はずれから遠目に眺める季の陣営にはどうやら夏の物と思しき武具に身を固めた兵の姿もちらついており、近づいてみると夏の訛りらしきものの混じった会話も聞きえてくる。
 奥の様子こそ覗えないが、大量に立てられた旗や、夕刻も近い時分とてそこかしこで上がっている竈の煙の多さにも驚きを隠せない。
「あ、あんなに沢山の旗、もしかして、兵士が沢山潜んでいると言う事? 煙も、これほどまでとはっ」
 急いで村の中に戻ると、村人らしい老人(バッカス和木田(fa5256))が近づいてくるのが目にとまった。
「あっ、おじいさん、おじいさん、季の事、知ってそうですねー、え? 知らない? 嘘だー、教えてくださいよ!」
 にこやかな笑顔を浮かべて近づくと気安げに声をかける。
「田舎もんだでたいしたこたぁ知らねぇですが、同盟約定果たして貰えンでもうお仕舞ぇかと思ったけンど、徐恒様のお陰で援軍来て良かったよォ」
「あーっ、やっぱり夏の援軍来たんですかー?」
 初めは面食らっていた老人も、次第に自分の見聞きしたことや耳にした噂を自慢げに語り始める。
「夜半にな、聞いたンですよォ。大勢の車と馬と兵士が、村の横を通って行った物音を。重さで軋む車輪の音に、沢山の蹄鉄と具足の音が途切れねェとです。訛りが夏の兵でしたワ。朝お城見たら、案の定、旗がいっぺェ立ってて竈炊かれてます。あれ、兵糧と矢ですワ」
 実を言えば老人の聞いた行軍の音は、土嚢を積んだ馬車や蹄鉄と具足の音を盛大に響かせるだけの小部隊が何度も往復していただけなのだが、老人本人もすっかり信じきっており、ことのついでに紀礼が流した別働隊の噂まで見てきたような話を始める。
 一方聞き手の霧雨も「おーっ!」「すごいですねー」などと内心の動揺を笑顔に隠しながら表面上はホッとしたかのように相槌を打つ。
 日も沈みかける中、立ち去っていく老人の姿が薄闇に消えると同時に、霧雨の表情からも笑みが消え、
「大変、早く将軍様に伝えないと!」
 周囲の様子を覗うと何処へともなく姿をくらませた。
 闇に紛れて高烈の下へ向かう霧雨の耳に、季の陣営からは足音や馬の蹄の音が間断なく届き一層焦りを募らせる。

 そのころ、藍の背後に展開した徐恒の別働隊も、季・夏の入り混じった偽の旌旗を盛大に立て連ねて圧力を加えつつあった。
「戦う機会はいずれあるだろう。今は軍師殿の策に従おうじゃないか」
 逸る部下たちに向かって徐恒は大きな顔の刀傷を歪めて笑みを見せながら宥めている。

 野営の陣中で報告を待っていた高烈の下へ霧雨が姿を現す。
「将軍様、季の様子、しかと見届けてまいりました! 大変ですぅ、あの、かの国には、まだ多くの兵士が潜んでいるかと!」
 探ってきた情報――管秋や清柳が故意に流した偽の情報ではあるのだが――を、立て板に水と次々と高烈に伝える。
「このまま攻め入れば、我が軍もただではすまないようですぅ」
 内容とは裏腹なおっとりとした口調で霧雨は報告を締めくくった。
 渋面を作りながら報告を聞き終えた高烈が「ご苦労」と短く応えると霧雨は再び何処かへ姿を消す。
 入れ違うように慌てた様子の兵士が飛び込んできた。
 管秋の指示を受けた徐恒の別働隊が、夜陰に乗じて藍の輜重隊を襲い兵糧を焼き払ったと言うのだ。
 更に前線からは季の陣営より大軍が動き出したかのような具足や蹄鉄の音が響いてきているとの報告も続々と入り始め――既にこのとき藍の軍勢は完全に浮き足立ち始めている。
 事ここに至って高烈も管秋の術中に嵌っていた。
 直ちに後方から襲って来た敵を迎え撃つべく兵力を裂いて複数の部隊を索敵に向かわせる。
 とうに姿をくらませた季の別働隊を探して藍の部隊は闇の中を奔走することになった。

 翌朝、夜通しの警戒に疲労困憊した藍の軍勢を、本体と合流して体勢を整えた徐恒将軍率いる季の軍勢が襲う。
「散々我慢させられたんだ。この鬱憤、晴らさせて貰うぜ」
 徐恒も愛用の得物を手に自ら先陣を切る。
 夜通しの奔命に疲れた藍の軍は混乱を極め、充分な抗戦をすることもなく総崩れとなって撤退を余儀なくされ、本国へと向けて落ち延びていった。
 藍の軍勢を蹴散らして凱旋する徐恒将軍らを、傍らに管秋らを控えさせた紀礼が喜色を湛えて出迎える。
「王都を戦火に巻き込まずに済んだか‥‥誰ぞある。城にあるありったけの酒を運ばせよ。余に出来るのはこれくらいであろうからな」
 藍の大軍から辛うじて守り抜かれた季の王都は歓喜の色に包まれていた。


●『樹上開花』とは
 終劇の文字とともに映像がスタジオへと移ると、出演者たちが思い思いに挨拶。
「今回は何もしない役でしたが、こうした主君の方が部下にはやりやすいと言う事もあるのかも知れませんね」
 主君を演じた三十朗が話を切り出すと、
「やー、情報収集役が間抜けだと、強い国でも崩れる事ってあるよね。でもでも、今回の策は、それ以上に作戦勝ちかなって感じ?」
 情報収集役を演じたハルサが元気良くお題を投げかけた。
「まあ、一言で言ってしまえばハッタリですけどね」
 参謀役のマキさんがすっぱりと切り捨てる。
「単なるはったりをそれらしく見せるのは色々と工作が必要みたいだな。まあ、だから計略になるんだろうが」
 身も蓋もない言い様にフェイロンが笑いながらフォローを入れると三十朗も、
「はったりもこれくらいまで大掛かりだと逆に引っ掛かり易いのかも知れませんね」
 などと相槌を打ち、
「ハッタリって、決まると格好いいよね! 私は、結構好きだな」
 ハルサも威勢良く『ハッタリ』を礼賛。
「しかしふと思ったのであるが、この策の場合、『嘘を見抜いてしまうような頭の良い相手』に効かんのはもちろん、ハッタリをかけても無視して突っ込んでくるようなバカにも効かんのではあるまいか?
 してみると、やはり高烈にとっては副将の不在が災いした感じであるな。策を見抜ける知恵者でも、躊躇なく突っ込もうとするバカでも、どちらかが側にいればこうまで見事に策にはまることはなかったであろう。
 もちろんその辺りの事情を見抜いた上でのこの策なのであろうが‥‥」
 策に掛かった敵将役のマシーは役を演じた感想に絡めて、次回のお題にも通じる彼我の策の読み合いに話題を振る。
「言うまでもないことですが、あまりにも嘘くさい嘘ではすぐに見破られてしまいます。どの程度までなら相手が『あり得る』と思ってくれるのか? それを正確に把握すると同時に、常日頃からその範囲を広げておくことが鍵でしょうね」
 マキさんもそれを受けて虚々実々の駆け引きについて解説。
 これに対して名も無き村の老人を演じた和木は自らの教員時代の体験を引き合いに出し、
「教員時代、夏休みのレポートを紙の嵩でごまかした子、居ましたわ。あと、文化祭の発表時にステージ豪華に書割で飾ったり、助っ人部員呼んで口パクして貰いましたりねぇ」
 更に、現代日本の世相なども持ち出し、
「見せ金に先物取引に空手形‥‥とかですか。決済日までに資金調達するまでが勝負です。他にはモック展示を発表会に出すとかですね。商売にはハッタリも必要‥‥と」
 結局のところ『ハッタリ』に行き着くようである。
 それらの話題とは別に、出演者たちの前に置かれたお茶請け代わりのおにぎりは、どうやら鈴がドラマの中で炊き出しを兼ねて作っておいたものであるらしい。

 様々な話題で盛り上がる中、番組はやがてエンディングへと続いて行った。