【三十六計】空城計アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 8.8万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 10/25〜10/28

●本文

 いつもの簡単な確認も終り例によって‥‥。
「いよいよ最終回っすね‥‥お題は『空城計』っすか‥‥」
「そうねこれは割と切羽詰った時に使う奇策の類だから、使うのにも結構条件が限られるわね」
「っと言うと‥‥?」
「まず、相手がそれなりに頭を使ってくれることと、相手がこちらも頭を使う人間だと思ってくれてるってのが絶対条件になるわ」
「はあ‥‥」
「実際に戦力が足りないのに、更に戦力が少ないような演出をしたり、城門を開け放ったりするわけだから、それを見て素直にその状態を信じて喜んじゃうような相手だったらお話にならないでしょ」
「なるほど‥‥相手があんまりアホだと、おっ、ラッキーとか言って何にも考えずに攻め込んでくるわけっすね」
「そう言う事。逆にこっちがあんまり賢くないと思われてると、見えてる状況に裏も表もないと思われちゃうからやっぱり攻め込まれるのよね。罠を仕掛けて誘い込むほどの余力もないときだとやっぱり一巻の終りってことになるでしょう?」
「そう言えばそうっすね」
「だから、有名な三国志演義の例にある孔明と仲達の対決の場合みたいに、相手のやることにはなにか裏があるんじゃないか、みたいな互いに手の内の読み合いになるような好敵手同士じゃないと成り立たないわけよ」
「孔明が城門を開け放ってのんびりしてる所を見せ付けたら、仲達の方は勝手になにか罠があるに違いないって思って引き上げちまったんすよね」
「そっ、相手の裏の裏をかくっていうか、相手が勝手に深読みしてくれるって所までこっちは読まなきゃいけないわけね」
「なるほど‥‥大変なんっすね」
 ‥‥そして、いつものようにキャスト兼スタッフの募集がかけられることになった。


●三十六計
 書かれた時代も作者も不詳とされる兵法書、最も有名なのは『三十六計逃げるに如かず』で、元になったと言われる最も古い出典『南齋書』の記述に見られる檀公の三十六策が、戦いを避けて軍の消耗を避けるものであった事から来ているとも言われる。
 その時点では三十五番目までの策が全て埋まっていたかどうか定かではないのだが、三十六と言う数字自体は、易で言うところの太陰六六を掛けた数字に由来するらしい。
 序文に曰く。

『六六三十六 数中有術 術中有数 陰陽燮理 機在其中 機不可設 設即不中』

 太陰六六を掛けると三十六になる、権謀術策も同様に数は多い、勝機と言うのは陰陽の理の中にこそ潜んでいる、無理遣り作り出すことは出来ないし、作ろうとしてもそれは失敗に終る。

●第三十二計は『空城計』だ。

『虚者虚之 疑中生疑 剛柔之際 奇而復奇』

 こちらの守りが手薄な場合には、これをいっそう手薄に見せれば、敵に対して疑いの中に更に疑いを生じさせることが出来る。敵が強力でこちらが劣勢の場合、このような奇策もまた思わぬ効果を生むものである。

●今回の参加者

 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3652 紗原 馨(17歳・♀・狐)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4874 長束 八尋(18歳・♂・竜)
 fa5256 バッカス和木田(52歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●楽屋では
 暫く振りの出演となる長束 八尋(fa4874)が恋人の紗原 馨(fa3652)を伴い千葉に声を掛ける。
「とうとう最終回‥‥毎回楽しみにしてた番組だったんですよ。一部でも携われて、勉強させて貰えた事‥‥幸いに思います‥‥こうして馨と共演も果たせたし、なんてね。本当にお疲れ様でした! 」
 ノロケも交えつつ労うと、傍らの馨も、
「紗原です。三十六計シリーズは初参加ですが‥‥宜しくお願いします♪」
 とにこやかに会釈、今回二人は守備側の兵士、伝令兵の朱翔と戦嫌いの香鈴として共演する。
「最終回ですか。教え子が販促広報してから1年‥‥感慨深いですね。ともあれ、最後までどうかよろしくお願いします」
 寄せ手の総大将、蔡鍬を演じるバッカス和木田(fa5256)も番組の発端を振り返る。
「教え子って言うと‥‥もしかして例の格闘家の少年っすか?」
 千葉も記憶をたどってPVの撮影に同行した面々を想い起こす。
「長い間ご苦労様でした。これでこのシリーズも終わるというのはなんだか寂しいものがありますね。最後まで頑張りましょう」
 番組中盤以降、多くの回で脚本の取り纏めに深く関わってきた弥栄三十朗(fa1323)も千葉に労いの言葉を掛ける。今回の役は守り手側の軍師、孔良だ。
「おはようございます。うぅ、ついに、最後の計ですねっ。あの、あの、すっごくお世話になりました‥‥」
 守備兵、更紗を演じる、いつも元気な春雨サラダ(fa3516)も今回はちょっとしんみり――っと思いきや。
「今までこの番組に参加できて、楽しかったです! 沢山お勉強になりましたっ。皆さんの邪魔にならないように、ここは、感謝の踊りを躍らせていただきますっ」
 例によって踊りだすハルサ、やっぱり今日も元気一杯であった。


●ドラマ『空城計』
 壊走する『房』の軍勢を追い立てながら、『庚』の副将を務める牛双(マサイアス・アドゥーベ(fa3957))は、その巨体と膂力で敵を圧倒しながら部下達を煽り立てる。
「もはや勝利は確実。存分に手柄をたてよ」
 一進一退の均衡を保つかに見えていた両軍の攻防は、房の主力部隊の妄動によって一気に戦況が傾く。
 眼前にある房の軍勢は既に戦う意思を失っていた。
「房めの命運も尽きるでしょうかね。均衡を保っていたのが、いきなりの敗走に告ぐ敗走。我が国の有能揃いの武官文官の層の厚さには、敵いませんとも! いかに名軍師と呼ばれる孔良が居ても、配下がアレですからね!」
 後方の陣にあって蔡鍬も味方の大勝振りを満足げに眺めている。
 蔡鍬の上機嫌が伝染したかのように浮かれる陣中で、一人徐攸(巻 長治(fa2021))だけは納得のいかぬ様子で眉を顰めていた。


 同じ頃、房軍の本陣には若い伝令兵の乗った馬が駆け込んで来る。
「伝令〜! 伝令〜!」
 大声で叫ぶ朱翔の行く手を遮ろうとした護衛兵達も味方の旗印に道を開けた。
 迎えに出た孔良の姿を認めると、朱翔は馬を止め転げ落ちぬばかりの勢いで孔良の前に跪く。
「先生、前線が維持できません‥‥! ご指示を!」
 日頃孔良を師と仰ぐ朱翔の戦場らしからぬ呼びかけに、孔良の謹厳な面にも苦笑が浮かぶが、すぐさま周囲の者達に矢継ぎ早の指示を出し始める。
「ご苦労だった。奥に下がって暫く休め。‥‥予備の兵力を投入し敵の側面を突かせよ。だが、敵の陣中に深入りはせぬよう徹底するのだ。一時でかまわん、敵の追撃を鈍らせる。その隙に体勢を整え、全軍を先に占領した砦まで後退させよ」
 命を受け本陣付の伝令達が散っていく。
 孔良付の兵士香鈴から与えられた水を一息に飲み干した朱翔は、肩で息をしながらもその場を立ち去ることなく孔良の采配を観察していた。

 どうにか残兵を糾合し橋頭堡とする砦へと辿り着いた孔良ではあったが、既に房の軍勢に反転攻勢を掛けるだけの余力は残っていなかった。
 無理な撤退戦により味方の兵達にも怪我人が多く戦力は激減している。
 孔良は即刻全軍に本国への撤退を命じた――とはいえ砦に蓄えた兵糧なども運び出さねばならず、負傷兵や輜重部隊を抱えての行軍は歩みが遅い。
 このまま全軍が砦を放棄して敗走に雪崩込めば、敵の追撃を受けて更なる打撃を被る事は火を見るよりも明らかであった。
 全軍の危機は将兵たちにも伝わっている。
 軍に身を置いて間もない更紗も、孔良のそば近くで書類の整理等の雑用を手伝う香鈴に不安を漏らす。
「あう、ぁ、軍師様どうするんでしょう? 何だか怖いです」
 生来、人や生き物が傷付くのが苦手だと言うおっとりした香鈴に、はかばかしい答えができようはずも無く、
「‥‥はぁ、私‥‥戦は苦手なんですよね」
 と顔を見合わせ溜息を吐くばかりであった。
 そんな中、一計を案じた孔良は少数の兵力を従え自ら砦に残る。
 殿をのぞく全軍が本国を目指して退却を始めると、残った将兵達に命令を下した。
「砦の城門は開け放ち、いかにも無防備に見せるのです」
 自ら志願して孔良の元に残った朱翔が思わず声を上げる。
「な‥‥っ、それでは簡単に攻め陥とされてしまうのではっ!?」
「心配はいらぬ、卿らは砦の周辺に伏兵の陰を匂わせる仕掛けを施しなさい。あまり露骨でなく、普通では気付かないが目の利く者であればそれと気付く程に」
 更に仕掛けの委細を説明すると、朱翔もその準備に散っていく。
 孔良の大胆な策を聞き、未だ右も左も分からぬ体の更紗でさえも驚きを隠さない。
「そ、そ、そんな事をしてもし気づかれたら! あ、でも、軍師様が言うのなら、その通りにした方が良いですよね」
 経験の浅い朱翔にも、孔良の策の全てが飲み込めてはいないが、師と仰ぐ軍師の言でもあり信ずる他はない。
 策の要諦など尋ねたい事もあったが、今は寸刻を争う。
「先生の策を信じよう‥‥すぐに、戻ります」
 砦に残る戦に不慣れな他の自軍兵士を心配しつつ、香鈴に声を掛けると砦を後にする。
「待機って言われても、戦なんでしょう?」
 香鈴はと言えばやはり戦には乗り気でない様子でポツリと呟きながら出て行く兵たちを見送った。

「並の武将ならともかく、相手があの徐攸ならば、この意味に気付くでしょう。‥‥いや、気付いて貰わねば困るのですが」
 一人城楼に登った孔良は呟く。


 大勝の余勢を駆って砦近くまで攻め寄せてきた庚軍であったが、突然その進軍をピタリと止める。
 止めたのは徐攸であった。
 砦に拠って反撃の布陣を敷いているはずの房の軍勢が影も形も無い――とはいえ、砦の様子を遠望する限り全軍が砦を放棄して撤退したようにも見えない。
 が、納まらないのは先陣を切っていた副将の牛双である。
「どういうことだ! 敵の指揮系統は混乱し、敵は動揺している! 打ち破るなら今しかあるまい!」
 根っからが武闘派である牛双は、国主の弟と言う血筋と年齢だけで今の地位に就いている無能な総大将の蔡鍬など端から認めず、臆病とも見えるその采配振りに日頃から不満を隠そうともしない。
 事あるごとに激しい口調で迫る牛双であったが、蔡鍬ものらりくらりとかわす。
「まぁ少しは落ち着きなさい。徐攸が敵の様子をおかしいと‥‥そういえば、徐攸は敵の軍師孔良と同門。かつて同じ将に仕え、また敵として対峙した事も数度ではききません。手の内も承知してますね」
 傍らで斥候の帰りを待つ徐攸へと話しの矛先を変えた。
「砦の周囲に布陣する敵の姿が全く見えません。かと言ってあれだけの軍勢が全て砦に籠れる筈も無く‥‥」
「敵陣の守りが多少薄くなっているようでも、特に不自然とは思わん。せいぜい先ほどの負けがこちらの想像以上に堪えてでもいるのであろう」
 好戦的で深く考えることをしない牛双は、徐攸の懸念を真っ向から否定する。
 徐攸としても斥候の報告を待つしかない。
「ああ、この戦況は五年前の見事な攻城戦に似てます。三年前の敗走に乗じた策も圧勝でした」
 牛双の矛先をかわした蔡鍬は、自慢気に近年の戦勝を引き合いに出して薀蓄を垂れ始めた――気弱で軍務にも疎いのだが過去の戦争や因縁には妙に詳しい。
 肩を竦める徐攸と憮然とした表情の牛双を他所に幾分偏った知識を延々と披露する。
「‥‥まぁでも、昨年の虚兵でのハッタリや攻防の背後からの伏兵は‥‥?? どうしました?」
 慌しく駆け込んできた数名の斥候を、徐攸が待ち兼ねた様に迎え――。
「‥‥どうも伏兵の気配があります」
 斥候達の話を聞き終えた徐攸の報告に蔡鍬が顔色を変える。
「なに! 伏兵の気配ですか?」
 蔡鍬の狼狽など意にも介さず、牛双は更に強硬論を主張する。
「今の房に伏兵できるほどの余裕などあるはずがない! あったとしても所詮は小勢、伏兵ごと踏みつぶせば済むことではないか!」
「確かに相手の陣はどう見ても手薄で、攻め込むなら今しかないが‥‥とはいえ、よく考えると先ほど突出してきた部隊も誘い込むための捨て石だとすれば‥‥?」
「うむ、徐攸がそう言うのですからね、慎重に。慎重に。逃げるが勝ちですね!」
 徐攸の逡巡に蔡鍬も早々に浮き足立つ。
 自己保身の意識が強い蔡鍬であれば、手痛い敗北を喫して兄王からの叱責を受けるなどもってのほか。
「ここは一旦陣を引き、敵の様子を探った上で万全の策を持って攻めたほうが」
 徐攸の案に牛双は猶も食い下がろうとするが、蔡鍬は聞く耳を持たない。


 眼前まで迫りながら突如進軍を止めた敵の様子に孔良は頬を緩める。
 数刻の後、庚の大軍は大挙して引き揚げ始めた。
 敵の姿が地平に消えると共に孔良は砦に残った将兵たちに撤退の命を下す。
 搦手の城門を後にした房軍は、周囲に伏せていた朱翔らと合流すると一路本国を目指した。
 一行の中、更紗も狐に抓まれたような様子で香鈴に話しかける。
「庚の人達どうしちゃったんでしょうね? あっ、でも、でも、やっぱり軍師様ってすごい方ですよねぇ」
「‥‥庚なんてどうでもいです‥‥戦さえなければ‥‥」
 はしゃぐ更紗とは対照的に、相変わらず投げ遣りな香鈴であった。
「徐攸であるからこそ、成功したとは何とも皮肉な話ですね。今頃どんな顔をしているのやら」
 馬上に揺られながら呟く孔良の言葉を耳にした朱翔が訝しげに尋ねる。
「彼の方相手なら‥‥とは? まるで、旧知の仲の様な口ぶりではございませんか‥‥」
「徐攸とはかつて同じ師の下で軍略を学んだ仲ですから、互いに性格も手の内も解り過ぎる程解ります。それ故、徐攸はこちらの策を深読みしすぎて自縄自縛に陥ったのですよ。同じ手は二度と使えませんが」
 朱翔の問いに孔良は笑いながら答える。
「流石は先生‥‥です」
 一抹の不安は拭いきれずにいた朱翔だが、改めてその手際に感嘆するのだった。


 翌日、陣を整え改めて斥候を出した徐攸は、既に砦が蛻の殻であることを知る。
「空城計か!」
 してやられた、と臍を噛む徐攸。
 大魚を逃がしたと知りヒステリックに喚き散らす蔡鍬を他所に、牛双は憮然とした面持ちで空になった砦を眺めるのであった。


●『空城計』とは
 終劇の文字とともに映像がスタジオへと移る。
「謂わば『敗戦計』の一つですがー、本当に賭け要素の強い奇策で‥‥本当に起死回生って言うか、勇気の要る策じゃないかな」
「最後の計は、まさかの大胆策でしたね! 決まったから良かったものの、これ、相手が策略に気づいたらやばいよねー。腹の探りあいって怖いー」
 挨拶が一渡り終わり、尋とハルサが口々に感想を語る。
「まあ、この辺りは虚々実々と言ったところであろうな。裏などないにも関わらず、裏があると思わせることで相手を立ち止まらせる。リスクの高い奇策であるし、あまり一般的に使える策ではないがな」
 マシーが受けると和木と三十朗も、
「こういう策は相手が経験豊富。さらに自分もその手の内を熟知している、ライバル同士でなければ成立しませんね」
「策士策に溺れるではないですが、なまじ知恵があったばかりに足下を掬われましたね。ある意味名声を武器にした策とも言えるのかも知れませんね」
「なまじ考えるから失敗する、と言うことも世の中にはある。もちろん、考えが足りなくて失敗することの方が多いであろうが」
「あは‥‥僕って単純なんで、もし敵が手薄に見えたら‥‥すぐに突撃しちゃうかもです。こういう人ばっかりだったら、罠には掛かり放題ですけど‥‥今回の策は、成立しないんですよね?」
 大人達の解説を頷きながら聞いていた馨が苦笑しつつ尋ねる。
「何事も過ぎたるは何とやら、ですよ」
 笑いながら答えたマキさんがちょっとした実験を試みる。
「厳密にはこの計とはちょっと違いますが、読み合いと言えばこんな話もありますね。‥‥ジャンケンの時に『私はグーを出しますから、パーを出して下さい』と言ったらどうします?」
 首を捻る面々を見回し、
「相手は本当はチョキを出してくると思って、その裏をかいてグー。でも相手はそれも読んでパーを出してきそうだから、こちらはさらにその裏でチョキ。‥‥そうやって、相手が素直にグーを出したのに負けたりするわけです」
 一同納得。
「羹に懲りて膾を吹くような、そんな状況を利用するわけですから。現実では‥‥若い方なら野球の読み合いがそんな感じですかしら。んー、適当な事言っちゃったでしょうか。こういう場合は‥‥逃げるが勝ちです!」
 和木も例を引いておどけつつ『兵法三十六計』究極の策へと話題を繋ぐ。

 やがて番組も終盤。
「これで本当におしまいなんですね。今までありがとうございました」
 ハルサが名残惜しげに最後の挨拶を告げると、引いて行くカメラにスタッフも現れて一緒に手を振る。
 こうしておよそ1年に渡った番組は幕を閉じた。