【AoW】変わる世界にヨーロッパ

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 フリー
獣人 9Lv以上
難度 難しい
報酬 169.4万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 10/25〜10/29

●本文

●2007年――秋
 様々な事態に遭遇しながらもオリンポスで発見された件の遺跡は、その最奥と思しき第六階層にまで探索の手が及んでいた。
 そして最奥まで踏み込んだ者達によって、これまでに見られたものとは明らかに異なる外見を持つNWが確認されている。
 これまでの経緯から火と鍛治の神『へパイストス』の名を冠せられた巨大なソレの外見は、中世の鎧を纏った騎士のようにも見えたと言う。
 更に『へパイストス』を守るように別のプロトミテーラと思しき巨大NW――これも神話にちなんで『キュクプロス』と名づけられたのだが――の存在も報告されている。


 一方、近年、大規模・広範囲で発生しているNWの活動に対して、WEAは一つの見解を発表した。
 これまでに類型の見られなかったNWの異常な変化の影に、『シンクロニシティ』と呼ばれる現象が存在することが判明したと言うのだ。
 そのため、情報体としてのNW達の間に集団連鎖とも言うべき現象が発生し、それがミテーラやプロトミテーラと言ったこれまでに見られなかった種の出現や、従来個別に活動していたNWの集団行動に繋がったというのがWEAの結論であるらしい。

 更にこれまでNW戦に絶大な威力を発揮するオーパーツの供給を通じてのみ接点のあった謎の人間集団『カドゥケウス』が、シンクロニシティの効果を逆に利用してNWを一網打尽にすべく、WEAに協力を申し出てきたのだ。

 これに呼応するかのように世界各地にあるNW関連と思われる遺跡では大規模な異変が発生しつつある。

―― 世界は今、何かが確実に変ろうとしていた ――


● Last Hunting
 静寂の中、時折マウスのクリック音だけが響いていた部屋に呟きが漏れる。
「シンクロニシティ‥‥か‥‥どうやらカドゥケウスの連中も表に出てきたらしいな」
 古よりオーパーツの技術を現代に伝える『人間』達の集団があるらしいことはルークも聞き知っていた。
「このタイミングで連中からの作戦の提案が来るって事はそれなりに準備を進めてたってことか? 独自の研究で同じ結論に達したのか‥‥いや、違うな。こっちで分析してた内容が駄々漏れなあたり、WEAの機密保持は穴だらけらしい」
 自らも時折WEAの機密ファイルを盗み見ていただけに抜け道ならいくらでもあることは想像に難くない。
「例のバケモノが俺の手に馴染むかどうかはともかく、久々に潜ってみるか」
 いかにも愉快そうに喉を鳴らしながら、傍らでやはり情報を検索していたマネージャーに声をかける。
「‥‥受け入れるでしょうか?」
 取り上げた受話器を操作しながらマネージャーが疑問を投げると――。
「‥‥そうだな‥‥とりあえずヤツを呼び出せ。出たら俺が替わる」
 一瞬、考えたがそう指示を出す。
 無言のまま頷き、電話に出た相手と言葉を交わすと、ややあって「今、替わりますので」と応じつつ保留する。
 手元の子機を取り上げたルークは電話の向こうの相手と上機嫌に言葉を交わす。
「ああ、俺だ。広報を見たが中々面白そうなことになってるようだな‥‥‥‥何? 面白くないだと、ハハハ‥‥まあ、そうカリカリするな、相変わらず冗談の通じないやつだ。‥‥ああ、そう言う事だ、そっちも手はあったほうがいいんだろう?」
 どうやら今回の件でかなり仕事が立て込んでいるらしく、ルークの軽口に付き合っている余裕はないらしい。
 全世界的なNWの封印と言う今回の作戦が、ルークの嗜好に反するのではないかと懸念を示す相手に、
「ふっ、心配には及ばんさ。そっちが俺の邪魔をしなければ、俺もそっちの邪魔はせんよ。所詮はなるようにしかならんだろうからな。どんな結果になろうと俺にとっては『停滞』より『変化』のほうが望ましいと言うだけのことだ」
 どうやらルークの言葉に相手も一応の納得はしたようだ。
「面子の方はそっちに着くまでに集める。で、例によって消耗品の支給もよろしくな。‥‥ああ、基本的な弾や薬だけでいいから現地に用意させておいてくれ。じゃあな」
 電話の相手も毎度のことで既に心得ているらしい。
「っと言うことだ。至急腕の立つやつを集めてくれ」
 電話を切って指示を出すルークに、マネージャーが頷きながら別の懸念について資料を示す。
「はい。それと、以前の報告ですと他にも例の遺跡内で動いている者がいるようですが‥‥おそらく‥‥」
 探索隊の報告にあったダークサイドと思しき件の遺跡への侵入者の存在に注意を促すマネーシャーの言葉を軽く手を振って遮る。
「だろうな。だが、誰が動いていようとかまわん。俺の邪魔をしようとするならそれなりの覚悟をすることだ」
 口角を上げて丈夫そうな犬歯を覗かせながら事も無げに言い切ると深々と椅子に身を沈めた。

●今回の参加者

 fa2670 群青・青磁(40歳・♂・狼)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)
 fa6088 ククルス(16歳・♂・小鳥)
 fa6120 篠崎・紫乃(22歳・♀・狼)
 fa6122 瑠璃堂・瑠璃華(22歳・♀・虎)
 fa6123 鬼島・絹夏(22歳・♀・鷹)
 fa6137 雛鳥・雛子(22歳・♀・鷹)

●リプレイ本文


 集まったのは奇妙な一団だった。
 狼の覆面をした演歌歌手だと言う壮年の大男群青・青磁(fa2670)。
 最年少の小柄な少女、月詠・月夜(fa5662)をリーダーとする、NWハンターを名乗る4人の女性達。
 篠崎・紫乃(fa6120)、瑠璃堂・瑠璃華(fa6122)、鬼島・絹夏(fa6123)、雛鳥・雛子(fa6137)と名乗った4人――それぞれ今回月夜の命を受けて集まり、月夜の指示で行動すると言う。
「ルークさん‥‥月夜は第四階層に行ってみたいのですが‥‥」
「あそこは粗方掃除されたはずだが何かあるのか?」
 意外な申し出にルークは怪訝な表情を浮かべた。
「個人的な復習です‥‥以前ここに来た刻に瀕死の重傷に陥った事があって‥‥あの刻は、NWと戦うのも初めてで、まともに戦う事も、逃げる事も、できなかったですけど‥‥今は違います。NWとの戦いの経験も積みましたし今回は一人で離れている刻に狙われるといった事が無い様準備もしています。NWの封印が完了すれば二度とここに来る機会も無いでしょうし‥‥あの刻の悪夢に終止符を打つ為にも、ここでけりをつけます」
「なるほどな。その準備ってやつが連れの面々って訳か‥‥もしNWがいなかったらどうする?」
 ルークも納得したように頷き疑問を呈する。
「そこも準備はしてあります」
 振り向いた月夜が合図すると、瑠璃華が持参してきた水筒をテーブルに乗せた。
「‥‥?」
「NWが出ていなければ水筒の中に入れてきたカエルを壁画の前に感染媒体として出してNWの実体化を試みます。‥‥少し待ってNWが取り憑いた様子が無くてもそのまま潰して処分します」
 疑問の眼差しを送るルークに、瑠璃華が簡単に説明する。
「実体化と言っても、サイズの増加は取り憑いた相手の2、3割増しがいい所だぞ、3センチのカエルが4センチになった所で獣人を捕食できるとも思えんが‥‥まあ好きにするさ」
 月夜達の計画にニヤリとする――が、監視所の警備員から状況を確認したらしいルークのマネージャーが口を挟む。
「お話中失礼ですが‥‥」
「んっ?」
「どうもここ数日来遺跡内の状況が変っているようで‥‥どの階層でも大量のNWが発生しているようです。既にかなりの数の討伐隊が突入して各階層で戦闘を開始しています」
「つまり、中は『祭り』の真っ最中って訳か、どうやらカエルの出番はなさそうだな‥‥で、そっちの荷物は?」
「黒ペンキです。瑠璃華さんの実験でもNWが出なかった場合に、遺跡の壁画をソード等で削ったり、塗りつぶしたりして感染経路を潰そうと思ったのですが」
「‥‥さすがにそいつはやめとけ、後で上から大目玉を食らうぞ。尤も今の話じゃそんな余裕もないだろうがな」
 紫乃の説明にルークが首を振ると、絹夏も質問を投げかける。
「ヒーリングポーションなどの回復薬は用意できないでしょうか?」
「ああ、回復薬と銃弾はそれなりに用意させてるが‥‥」
 言葉を切って月夜達の様子を一瞥する――明らかに全員が人間形態では装備超過らしくどことなく動きが鈍い。
「まあ、中は聞いた通りの状況だ、余分な物は置いて各自必要なものを持てるだけ持って行くんだな」
「俺には復讐も第四階層もそんなの関係ねぇ!! ラスボスのヘパイストスを倒しにいってくるぞ!!」
 傍らで黙って話を聞いていた群青も、長引く話にさすがに焦れてきたのだろう、苛立たしげに吼える。
 群青がその重装備にもかかわらず平気そうなのは、トレードマークの狼覆面の下でこっそり獣化している為だ。
「だそうだ。俺とファルケは群青に付き合う。端からザコに用はないしな‥‥そっちもその頭数なら易々と食われもせんだろう」
 ルークは傍らに控えるマネージャーを顎でしゃくりながらニヤリと牙を覗かせる。
「後からルークさんの言う強敵を見に行きます、近くまで行ったらトランシーバーで連絡をしますので」
 ルークが頷くと一行は改めて荷物を纏め始めた。



 これまでの戦闘でほぼ制圧したらしい第一階層を通過し、第二階層へ踏み込んだ一行は、周囲に満ちる戦闘の音に包まれた。
 耳障りな蟲達の叫びに混じり、仲間たちの怒号や銃声、闇を裂く稲妻と共に轟く雷鳴――それらと重なるように、今も有志からなる『楽団』の歌が響いている。
「マイクのオーパーツがありゃあ俺も演歌で攻撃できたんだがな。WEAが用意できねぇもんをルークが持ってるわけもねぇか!! 手持ちのもんでやりくりするしかねぇな!!」
 早速に襲い掛かってきたNWの一団に斬りつけながら、群青が隣でいつもの大刀を振るうルークに声を掛ける。
「あぁ、俺は音楽業界には縁が無いしな」
 ルークが応えながら目の前に現れたNWのコアを両断する。ファルケも上空から援護射撃を開始した。
 月夜が翼を打つと、左右を守るように絹夏と雛子も地面を離れ、地上では瑠璃華と紫乃がソードを手に道を切り開く。
 弾丸に多少の余裕はあるが、月夜の目的はもとよりこの階層にない。
 絹夏と雛子の援護射撃を受けながら日本刀を振るい、地上の瑠璃華や紫乃と連携して確実に蟲達を潰していった。
 この辺りの階層に用が無いのは群青達とて同様、勢い周囲で繰り広げられる戦いを他所に、この階層のNW殲滅より邪魔な相手だけを排除して先を急ぐ。
 やがて一行は砂の階層を横切り、第三階層へと下る通路の入り口に到達した。
「やはり、第四階層を目指すか?」
 ルークの問いに月夜は硬い表情で頷く。
「俺達は予定通りここから第五階層に直行する。まあせいぜい死なん様に頑張るんだな」
 それだけ言うと群青達と共に近くにある直通の通路へと向う。
 群青達のヘッドランプの灯りが闇に消えると、月夜達も通路へと足を踏み入れ、メンバー中最強の格闘力を持つ瑠璃華を先頭に地下へと向って行った。



 熱風の吹きぬける近道を下った群青達は間もなく第五階層へと到達した。
「けっ、噂通りくそ暑い所だな、こんな場所はさっさと抜けてボスの所に行こうぜ!」
 ごつごつした岩の間を時折熱風が吹き荒れる中、悪態を吐く群青に応えずルークは前方に視線を送り、ファルケも銃を構える。
 視線を追った群青が慌てて飛び退くと同時に、今まで彼等の居た空間を炎が焦がした。
 金属を摺り合わせるような咆哮と共に単眼が赤く光り、足元には多数の蟲が蠢く。
「中ボスとその取り巻きのお出ましか! 邪魔なんだよ!」
 一斉に群がってくる蟲達に群青は俊敏脚足で撹乱しながらマシンガンの弾をバラ撒く――元より狙う必要すらない数だ。
 空中に舞い上がったファルケは、キュクプロスの頭上を飛び回りながら銃撃を加え、地上の二人がザコの相手をする間、注意を逸らそうとする。
「鬱陶しいやつらだ‥‥少し同士討ちでもやってろ」
 大刀を振るって蟲を屠りながらルークが口にすると、中型のNWの何匹かが小型の仲間を狩り始めた。
「いいかげんザコの相手はたくさんだぜ!」
 群青は不意にNWの間に生じた混乱を訝りながらも、『地壁走動』を発動して近くの壁を駆け上がるとキュクプロスの頭上へと達し、マシンガンを乱射しながら飛び降りて日本刀を突き立てる。
 キュクプロスが払い除けようとする腕をかわして近くの石柱へと跳び、マシンガンを乱射してザコを蹴散らしながら再び壁へと走る――ヒット&アウェイで攻撃を繰り返すがどうやらさほどダメージを与えていないようだ。
 攻撃しつつコアを探すが、それも発見できず――。
 と、乱戦の中、近づいたルークが不意に群青に声を掛ける。
「少し休むか、近くの石柱に上がれ」
「あのデカブツはどうするんだ?」
「面白いものを見せてやる」
 言うが早いかさっさと手近な石柱を駆け上がる。
 群青も丈夫そうな柱に目星をつけ続く。
 上りきってルークを見やれば、その手に大刀は無く――石柱の足元には新たなNWが姿を現していた。
 キュクプロスほどではないが、やや大型のソレは周囲のNWを蹴散らしながらキュクプロスへと攻撃を始める。
「なんだってんだ?」
 足元から上って来ようとする蟲をIMUZIで牽制しながら群青が訝しげに首を捻り――。
 見ればルークの足元に這い登るNWは例によってファルケが撃退している。
 群青達を狙っていたNWの群れも一部がソレに向い始める――が、キュクプロスとソレの勝負は一方的なようであった。
 だが、ソレは炎に焼かれても爪に切り裂かれても執拗にキュクプロスに挑みかかり――間もなくソレは何度目かの攻撃を受け地面に倒れる。
 キュクプロスがゆっくりとルークの立つ石柱に近づく――っと、突然足元に群がる同族に向って炎を浴びせた。
 続いて群青の立つ石柱の周りにも。
 生き残ったNWが算を乱して逃げ散っていく中、キュクプロスの巨体は宙に融けるように消滅した。
「どういうことだ?」
「何のことだ? 先へ進むぞ」
 降りてきた群青の問いを軽くはぐらかしたルークは、再びその手に現れた大刀を満足げに眺めると、奥に向って歩き始める。
「群青様、Curiosity killed the cat.と言う諺をご存知ですか?」
 ファルケが群青の耳元に囁きながら後を追うと、群青も一つ頭を振って後に続いた。



 第三階層は事も無く過ぎた。
 水中には相変わらず不気味な影が遊弋していたが、水面に架かった石造りの橋の上までは攻撃してこない。
 時折散発的に襲ってくる羽蟲も難なく撃退する。
 第四階層へと続く通路の入口周辺では、一角獣の獣人達が待機し、下から上ってくる怪我人に対応していた。

 月夜達の一行は更に下を――因縁の地、第四階層を目指す。
 辿り着いた第四階層は、やはり第二階層と同様、戦いの音に満ちている。
「‥‥、行きます」
 暫く闇を凝視していた月夜が低く呟き歩き出す。
 一行は無言のまま頷くと絹夏と雛子が『鋭敏視覚』で周囲を警戒しながら後に続いた。
 周囲で続く戦闘の間を縫い、行く手を遮るNWを排除しつつ『あの場所』を目指す。
 地上では『俊敏脚足』を使用した紫乃がNWを撹乱しつつソードを振るい、上から援護する絹夏のパイソンを除けば一行の中で最大の攻撃力を持つ瑠璃華も『金剛力増』で更にパワーアップした筋力でソードを振るう。
 時折飛来する飛行型のNWを退けながら雛子もM92で上空から援護し、時折西部14年式を発砲しながら日本刀で上から攻撃する月夜が止めを刺していく。
 ――やがて。
(コレ‥‥なの?)
 いったい何匹のNWを屠っただろうか――月夜は眼下に対峙するNWのコアをじっと見つめる。
 不意を突かれ、多量の出血によって意識を失うまでの僅かの間に垣間見たNWの姿は目に焼きついているが、NW個体毎の特徴などそうそう見分けがつくものでもなく――。
 完治したはずの足の傷が疼くような感覚も、単なる錯覚か本能が知らせるのかさえも定かではない。
「手を出さないで!」
 援護しようとする仲間達に向って叫ぶなり、周囲に姿を溶け込ませる。
 姿を消し、位置を変えながら上空から続けざまに銃撃を繰り返す月夜に、眼下のNWは反撃すらできない。
 逃げ回る力の無くなったNWのコアに向けて銃弾を撃ち込み、生じたヒビの中心を目がけて日本刀を突き立てる。
 コアが砕け散ると共にNWはその動きを完全に止めた。
「こんなヤツの為に‥‥」
 油断して不意を突かれさえしなければ――。
 周囲を警戒してくれる仲間がいさえすればば――。
 相手の手の届かない空中から一方的に攻撃できる月夜にとって、地上を這い回るだけの蟲など、いくら強力な爪や牙を持っていようと決して脅威となる相手ではなかった――おそらくは、かつての未熟な腕であっても‥‥。
 全ては経験不足から来るこの場所の危険に対する状況判断の甘さ――安易な単独行動と、自らの実験に気を取られて周囲への警戒を怠った故の醜態だった。
 いざと言う時は助太刀しようと、月夜の戦闘の推移に注意を払いながらも、群がってくる他のザコ共を蹴散らしていた面々も戦いながら月夜の周囲に集まってくる。
「‥‥行きましょう、第六階層へ」
 月夜がポツリと呟くと、一行は再びNWを排除しつつ前進を始めた。



 時折咆哮を上げるヘパイストスを遺跡の陰から観察しながら群青が呟く。
「マジにWAAOOO語しか喋べらねぇんだな‥‥冷静になって見てみると馬鹿っぽい野郎だな‥‥頭が悪そうだ」
 群青の腹積もりでは、ここに殺到しているであろう仲間達の攻撃でヘパイストスが弱ったところで一気に突っ込む算段だったのだが、どうやらまだ攻撃は始まっていないようだ。
 偵察に来たらしい獣人達の一団も情報収集を終えると早々に引き上げに掛かる。
 黙ったままヘパイストスに視線を注いでいたルークが軽く舌打ちした。
「ちっ、使えんか‥‥」
「で、どうするんだ? 俺たちだけでやるのか? それとも上の連中を待つのか?」
 群青が問いかけると、ルークがニヤリと笑う。
「どちらも無理だな。多少足しに成りそうなのはあの嬢ちゃんの空圧風弾くらいだろうが、それ以前に嬢ちゃん達だけじゃ第五階層までも辿り着かんだろう‥‥拾いに行って引き上げるぞ」
「くそっ、もっと仲間がうじゃうじゃ居ると思ったんだが当てが外れたぜ! しかし、いいのか?」
「それなりにNWは減らしてやったしWEAも文句は言わんだろう。『俺の』目的も半ば果たしたしな」
 言うなりその場を離れ来た道を戻り始める。
「‥‥俺の目的? キュクプロスのことか? ったく訳の解らねぇ野郎だぜ!」
 無念そうにヘパイストスに一瞥をくれると、端から答えの期待できない相手にぼやきながら群青も後を追う。

 途中、第四階層で足止めを食っていた月夜達と合流した一行は、再びNWを排除しつつ出口へと引き返して行った。