【AoW】始まりの詩アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 呼夢
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/25〜10/29

●本文

●2007年――秋
 近年、大規模・広範囲で発生しているNWの活動に対して、WEAは一つの見解を発表した。
 これまでに類型の見られなかったNWの異常な変化の影に、『シンクロニシティ』と呼ばれる現象が存在することが判明したと言うのだ。
 そのため、情報体としてのNW達の間に集団連鎖とも言うべき現象が発生し、それがミテーラやプロトミテーラと言ったこれまでに見られなかった種の出現や、従来個別に活動していたNWの集団行動に繋がったというのがWEAの結論であるらしい。

 更にこれまでNW戦に絶大な威力を発揮するオーパーツの供給を通じてのみ接点のあった謎の人間集団『カドゥケウス』が、シンクロニシティの効果を逆に利用してNWを一網打尽にすべく、WEAに協力を申し出てきたのだ。

 もし、この計画が成功すれば我々獣人は長きに亘るNWとの不毛な戦いから解放される――筈なのだ。

 これに呼応するかのように世界各地にあるNW関連と思われる遺跡では大規模な異変が発生しつつある。

―― 世界は今、何かが確実に変ろうとしていた ――

●東京
 アイベックスの事務所にも慌しい空気が漂う。
「本間君、すまんが至急ライブのメンバーを招集して中国へ飛んでくれ」
「‥‥‥‥!?」
 本間の顔に俄かに緊張が走る――中国と言えば始皇帝陵、そして今そこは――。
「うむ、例によってかの地の騒動を芸能イベントで人間達の目から覆い隠そうと言うWEA本部からの指令だ。安全には最大限配慮する、なんとかメンバーを集めてくれ」
 目的を説明する上司の表情にも苦悩の色が浮かぶ。
 これまでもNW絡みの大規模な事件が発生するたびに実行されてきたWEAの『十八番』と言ってもいい。
「解りました、すぐに参加可能なメンバーを当ってみます」
 本間は硬い表情のまま頷くと、席へ戻り直ちに心当たりのメンバーへと連絡を始めた。

−−情報操作のため危険地帯でのライブステージ、だがその先には新たな希望も見え隠れしていた−−

●今回の参加者

 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3211 スモーキー巻(24歳・♂・亀)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)
 fa5538 クロナ(13歳・♂・犬)

●リプレイ本文

 スモーキー巻(fa3211)と打合わせていたクロナ(fa5538)に後から声がかかる。
「やあ、クロナ君ご苦労さんだね」
「きゅっ? 社長さん」
 ぽふっと頭を撫でられ振向くと杉原の姿。
 亜真音ひろみ(fa1339)と慧(fa4790)も挨拶に訪れ、
「今回は『BLANCHEUR』で慧さんとご一緒ですの。今までも顔を合わせてはいますけれど組むのは初めてですわ。宜しくお願いしますわね〜王子様♪」
 事務所で馴染みの星野 宇海(fa0379)も「非常事態だけど、僕にできる精一杯を」と真剣に語る相方を他所に暢気な様子。
「ラキと『アドリバティレイア』で参加です。宜しくお願いします」
 明石 丹(fa2837)も相方と共に挨拶、柊ラキア(fa2847)は。
「マコ兄と一緒は久々で純粋にうれすぃー」
 とご満悦。
「大変な事になってるけど、それだけにここで成功させてせめて皆が心配なく戦えるようにしなくちゃね。中国でのライブは初めて、かな。こっちでも知ってくれてる人がいると嬉しいけど、どんなステージでも盛上げて何より僕ら自身が楽しむのが大事。頑張ろうね、ラキ」
「盛上げていこう、がんばろう! 仲間のためってものあるけどお客さんに楽しんでもらおうねー!」
 丹の声にラキアも張切る。
 挨拶を終えたひろみは例によって本間と話し込む。
「例の騒ぎから一般人の目を逸らすためのライブか。せめてこのライブの間だけは獣人にもゴタゴタを忘れて欲しいね。状況は緊迫しているけどライブをやるからには自分も楽しんでやるよ」
「そうね、やっぱり演奏者の気持ちってお客さんにも伝わるものだし」
 相槌を打つ本間に荷物を探っていたひろみが包みを差出す。
「これ、ショールなんだけど、いつも世話になってるから‥‥最近寒くなってきたし、夏もクーラーの冷過ぎを防ぐ膝掛けにも使えると思ってさ」
「ありがとう。夏に寒さ対策も変だけど、アレ、結構堪えるのよね」
 嬉しそうに礼を言うと包みを受取る。
 椿(fa2495)もメンバーを紹介する。
「今回は、冬織ちゃん、まきサンと「季月」で参加デス。俺達『Stagione(季節)』+『蜜月』で季月なんダヨ♪」
「中国読みじゃと『チユィエ』かえ‥‥季月は陰暦9月ゆえ、丁度良かったかもしれぬのう」
 そう呟く冬織(fa2993)も、今回の事変に触れ、
「世はNW大封印で俄かに騒々しゅうなっておるのう。その衝立代わりにわしらの出番かえ。何時であれ、如何様な理由であれ…歌は心で歌い、楽しむに変わりはないがの。聴衆の気、盛上げようぞ」
 見かけによらぬ年寄り染みた物言い。
「冬織ちゃんはともかく俺は戦闘の方では余り役に立てないのデ、目隠し役頑張りマス!! ――とは言っても、いつも通りにLiveすればイイことだヨネ。時々ポカやるコトもあるケド、いつでも俺は全力投球デス! ‥‥だカラ、お腹も空くんデス!!」
 っと椿は涙目でハラペコの主張。一方仁和 環(fa0597)は、
「裏で頑張ってる連中の為にも、いつも以上に頑張らんとな。全力投球のいつも以上なんてやったら、倒れそうではあるが」
 言葉半ばで笑いに紛らせ「ま、そういう心意気で」と。
「椿君も相変わらずだね。顔ぶれから言っても椿君達にトリを取ってもらうからよろしく頼むよ」
 一向に大物振りを感じさせない椿の様子に苦笑しながら締めを依頼する。


●『変わらぬ謳』―BLANCHEUR―
 浮かび上がるステージに二筋のスポットライトが宇海と慧を照らし出し。
 白いシルクのシンプルマーメイドラインのロングドレスに、シルクジョーゼットのロングストールを羽織った宇海。ストールにはホワイトから淡いアイボリーへのグラディェーションでドレスと共に清楚で品のよい光沢感を出す。
 パールホワイトのハイヒール、サイドアップの髪に散りばめたパールとライトストーンがキラキラと反射する。
 慧は、パール・ミルキー・フロスティと微妙に風合を変えたホワイトの薄手カットソーを重着し、白スラックスに白革靴、フワフワ羽のロングマフラーを纏う。
 バックの三人も白系統の衣装で統一。

 会場に宇海の優しく大らかなアカペラが流れ出す。
 柔らかな高めのアルトに続いて慧の温かみのあるテノールが次の詩を紡ぐ。

「眠る世界」「明ける大地」
「回る世界」「萌える緑」

 一瞬の間、バックをスポットが照らし、椿の流麗なヴァイオリンと丹の奏でるベースの芯のある低音、環の転がるように彩りを添える木琴が一気になだれ込む。

「さざ波沸き立つ」「心の水面」
『蒼い星に二人生きて笑う』

「言葉」「重なる」『想い』

 それぞれのソロから声が溶合い明るいハーモニーを奏で、会場も徐々に明るさを増す。

「藍から(僕から)」「蒼に(きみに)」『ながれ』
『変わる空の色のように』

「哀から(こころに)」「愛を(夢を)」『そそぎ』
『静かに移りゆく時のように』

 宇海の詩に慧の声が重なり、着かず離れずのツインボーカルが、光に満ちた雰囲気を織成す。

『アナタを想い 謳う』

『変わる世界 変わらないモノ』
「私の」「僕の」
「奇蹟の輝き(優しい響き)」

 音程を駆上り、会場全体に光が溢れる中。

『変わらぬ 愛を 謳おう
 希望を 胸にいだき
 lala・lala・lalala‥‥
 アナタを 想う この歌をすべて』

 バックも加わり、壮麗なミドルテンポのバラードをゆったりと伸びやかに歌い上げ。
 さざめくようなヴァイオリンの中、最後の歌詞を天に届けと高らかに歌い。
 余韻が響く中、木琴をノスタルジックに奏で緩やかにテンポを落として優しく演奏を終える。
 拍手の中、優雅な一礼で会場に応えた。


●『僕からの夜明け』―アドリバティレイア―
 丹とお揃いの白いカジュアルスーツを着たラキアが駆出してくる。
 首に提げたゴーグルを弾ませ、客席に満面の笑顔を振撒きつつ丹の隣へ。
 ラフな着こなしの丹との差は、首に巻いた白のマフラー、大好きな『フリジア』を初めて歌った思い出の衣装。
 丹が『アドリバティレイア』と『僕からの夜明け』を簡単なセルフMCを交えて紹介する。

 アイスブリザードとフレイムストームが最初の音を会場に落とす。
 ゆっくりと、だがはっきりとした音を丁寧に響かせ、やがて明るいリズムへ。

「千年前から朝はくるもので
 昨日の自分と夢も一瞬から過去に変わる」

 歌声がメロディを乗せ、ギターとベースのリズムが追いかける。
 一瞬の間。

「目が覚めたら思考するもので
 出来ないことが出来ちゃったりして気付く」

 弾むリズムに乗った歌声が復活――少しおどけたメロディへ。
 ラキアはギターを演奏しながら、ゴーグルを弾ませステージを駆回り「一緒に楽しみましょう!」と声をかけながら派手なパフォーマンスで観客を煽る。
 丹もステージを広く動き回り、少しずつ強さを増す演奏に観客をノせ盛上げていく。

「眩しすぎて目を逸らす夜明けがそこにあるって
 ゼロも∞も同じ 残数気にしても仕方ないんだ」

 盛上った曲は間奏へ、ステージ中央に集った丹とラキアが背中合せに演奏の掛合いを披露。

「今 歩く道を千歩数えたところで
 この道行けるのは 僕しかないって分かったから
 希望と不安連れて踏み出すんだ
 全てが重なって積もって繋がってここにいる」

 力強い音に乗せ発した『今』という言葉から一フレーズ毎に間をおいてギターのアクセント、一つ一つの言葉を区切って前に向かう意思を乗せ。

「夜が暗く遮ったとしても
 光る星を背に 夢歌い歩いていこう」

 一転、テンションを落としたギターとベースで歌声を際立たせ――やがてギターが、次いでベースも音を消すと、二人の歌声だけがゆっくりとハーモニーを奏で夜空に長く余韻を残して消えていった。
 ラストを一息に歌いきった二人に、拍手が沸き。
 並んで手を繋ぎあった丹とラキアが会場に向かって「ありがとう!」っと叫びながら深々と一礼――恒例パフォーマンスを披露してステージを後にした。


●『マイペース』―亜真音ひろみ―
 普段と変らぬジーパンとタンクトップに革ジャンを羽織ったひろみが、ショルダーキーボードを抱えステージへ。
 ひとしきり歓声に応えたひろみは簡単な挨拶に続いて曲名をコール。
「あたしがやるのはこの曲、『マイペース』だ」

 打ち込んでおいたベースとドラムのサウンドが流れ出す。

「激しく万華鏡のように移り変わる世界

 歩いて来た道も振り返らず
 息も切れ切れに付いていく

 たまに口から出るのは内に抱えた想いではなく深いため息」

 激しい調子で始まった曲は、やがて緩やかなメロディへと転じ。
 間奏にはキーボードのソロ。

「世界に合わせ自分を変え過ぎていないか?

 変わる事は悪い事じゃないけど
 無理して自分を変える必要はないんだよ
 自分のペースで進めばいいんだ

 一緒に想いをぶつけ歩いていこう
 世界はそれを糧に変わりゆく

 ほら見えてくるだろう
 足早に過ぎ去るだけじゃ見逃していた大切なもの

 俺たちはこれからもこの世界で生きていく
 想いをぶつけながら」

 緩やかなメロディに想いを乗せた歌声は徐々に力強さを増し――突然全ての音が消え。

「世界はそれを糧に変わりゆく」

 ひろみの声だけが夜空に響き、吸込まれていった。


●『Dreamer for life』―Zephyr―
 キーボードが持込まれ、バックのドラマーやギタリストもステージに上る。
 ベースを抱えた巻は、グレーとブラウンを基調にしたシンプルな衣装。
 一方、キーボードのクロナは半獣化で実力を補うため、尻尾と耳を隠す薄手のコートにキャスケットを被る。
 マイクに向った巻が訥々と今回の歌のMC。
「今日の曲は『Dreamer for life』。変わりゆく世界の中で、一体どこまで来られたのだろうか? でも、『どこまで来たか』も『どこまで行くか』さえも実は問題ではなく。生きている限り、どこまでも行くだけなんだ‥‥と、そんな曲です。では」

 照明が幾分落とされ、二人の姿がスポットに浮かぶ。
 優しいスローバラードのメロディに乗って巻が静かに詩を紡ぎ。

「長い旅に 疲れ果てて
 疲れた足を止め 座り込んだ
 夢はまるで 蜃気楼のように
 どこまで行っても 遠いままで」

 クロナのボーイソプラノに巻の声が重なり。

「(きっと)どんなに遠く見えても
 (届く)諦めさえしなければ
 (だから)埃払い顔を上げ
 (信じて)もう一度」『歩き出そう』

 力強さを増す二人の声が最後の一節をハモり。

「例え何度も迷っても 例え何度休んでもいい
 また歩き出せたなら」『夢はまだ消えてない』

 一言一言力強く訴えかける歌声に合せる様に、徐々に照明アップで夜明けを演出。

「(人は)誰もみんな自分の道
 (歩く)自分なりの速さで
 (明日へ)続くその道を行けば
 (夢へ)いつの日か」『辿り着く』

「夢の終着点なんて 本当はどこにもないんだ
 辿り着いた時には」『次の夢が見えてる』

「だから何度迷っても だから何度休んでもいい
 いつまでも消えない夢」『どこまでも追い続けよう』

 二人は優しくも力強いスローバラードを歌い上げた。


●『Don’t be memory 〜不使変成回想〜』―季月―
 ブルーグレーのシャツに紅の装飾を施した白基調中華系のアレンジスーツに身を包んだ椿が、立弾用にセットされた琴の前に。
 傍のスタンドにはアコギ。
 髪をラフに束ねた環も白をベースに藤色の部分柄入りチャイナスーツを一着に及び。
 お嬢様風にサイドアップした冬織も、冬華と黒地に金銀模様の帯――に、牙を剥いたうさぎのぬいぐるみ『がお太郎』を抱えて登場。

 三人の足元をスモークが覆い、椿の琴からサビ部分をアレンジしたメロディが流れ出す。
 柔らかな光に包まれ、調べに乗せて。
「何かが想い出になった時点デ、何かが変わっているのカナ。
 でも、想い出さなきゃイケナイ状態じゃナク、想い続けて一緒に変わるのもイイヨネ?
 そんな気持ちの歌デス、『Don’t be memory』‥‥不使変成回想」
 最後に中国語のタイトルでMCを締括ると、メロディを環の三味線に引継ぎ、傍らのギターを手に。
 軽やかに爪弾くギターが三味線に優しく絡み――冬織が最初の詩を。

「駅のホーム 交差点の途中
 ふとした時によぎる場面」
『人はそれを想い出と呼ぶのでしょう(叫回想)』

 冬織と環のハーモニーに、後を追う様に椿がフレーズを重ね。
 ギターに寄添うように装飾的な音を加えた三味線が、一転主旋律を奏で代って椿が支えるように音を広げ。

「形あるモノは全部
 いつかその姿を変え崩れ落ちてゆくけれど」
『目に見えない何か 確かにこの胸に(在胸里有)』

 其々の楽器が連符を繰返してアクセントを添え、照明が徐々に茜色に変化しノスタルジックな雰囲気へ。

「今笑う為(想笑)」『時に泣き(哭了)』
「歩く為(想走路)」『立ち止まった日もある(停止了)』

 楽器の澄んだ音色と響き合う様に、椿のソロから環とのユニゾン――そして主客を替え、其々のフレーズと重なるように冬織が詩の響きを曲に調和させる。

『光と影(光亮和影子)』『表と裏(表面和背后)』
『寄り添いながら(正接近)』

 冬織と環の詩の旋律を椿が追復し、畳掛ける様に掛合いながら盛上げて行く――と、照明が揺動く白い光に包まれた穏やかなものへ。

『Don’t be memory
 想い出にはしたくない』
「私を作る全て想い続けていくよ(不使変成回想)」

『置き去りにせず一緒に』
「向かいたい未来へ(一起忍受)」

 冬織の、そして椿のソロに環がリズミカルに合の手を入れつつ、三人の歌声が力強く想いを表すように盛上げ――

『Never continue』

 数拍の間。
 各自の音色で高らかに伸びやかにハーモニーを奏でると、音を上げたままジャランと余韻を残し、ふわりとした明るさが広がる中穏やかにラストを締括った。