明日のために!?アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
不明
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/13〜02/17
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●本文
バレンタイン――名前の由来になったご当人の生き様はともかくとして‥‥。
この時期、毎年のようにやってくる恋のイベント――義理やらなにやらはあるにせよ――大小を問わず、菓子類を扱う店は特設スペースを設けて、色とりどりのラッピングなどなどを競い合う。
我らが業界も御多分に漏れずこのイベントを200パーセント活用しようと様々な企画が立てられている。
その一つ、完成品ではなく主に素材を扱うメーカー数社がスポンサーに付き、バレンタイン本番の前日、オリジナルの手作りチョコを作って、その出来を競い合おうと言う企画が立てられていた‥‥はずだった。
‥‥はずだったのだが、どこでどう間違ったのか、あろうことか一般視聴者への公募の手配がすっかり忘れられていたのである。
当然のことながら担当各部局は蜂の巣をつついたような責任のなすりあいになる。が、もちろん番組に穴を開けるわけには行かない、っということで急遽手の空いている若手芸人に召集がかかったと言うわけである。
番組としては、用意された材料でオリジナルの手作りチョコを作り、協賛各社の代表が審査して優秀作品を選ぶと言う過程を追うという単純なもの。
スポンサーが用意した各種チョコレート素材以外はスタート時に渡される1万円の予算内で買物も自由。
制限時間は買物も含めて(放送時間は編集されるので短いが)9時から5時まで。
無論、奇を衒って食べられないようなものを作る番組ではない。あくまでもまともなもので、そのオリジナリティを競うものである。
●リプレイ本文
●shopping
年頃の女の子ばかりが勢ぞろいしたスタジオは中々に華やかだ。
収録が始まり、それぞれ買い物用の現金が入った封筒を受け取ると、思い思いの方角へと買出しに出かけることになる。
「あら、勿論お菓子作りは得意よ? いつもお母さまが作ってくださるもの」
収録開始直後にマイクを向けられにっこりと微笑むリドル・リドル(fa1472)。今回最年少のリドルは、フリフリのアリスチックなエプロンドレスを一着に及んでいる。
お嬢様育ちらしく、日頃あまり料理をしないにも拘らず自身満々のようだ。
自家製のジャムを持ち込むつもりだったらしいのだが、それでは材料代の枠に意味がなくなるということで、輸入食材などを扱う店と、ジャムに使えそうな無農薬の薔薇を扱っていそうな店に買出しにいくことに。
青薔薇――英語の表現で『不可能』の代名詞として用いられて来たのだが、日本の某大手洋酒メーカーがオーストラリアのバイオ関連会社と協力し、10年がかりで開発に成功したらしい――のジャムも作りたかったようだが、開発から7年あまり、遺伝子組換えの問題などで未だ商品化されていないなどの事情により断念してもらことに。
「あら、お父さまが育てているのよ? ジャムはお母さまが作っているわ」
との発言は、後々色々と物議をかもしそう‥‥っと言うことで編集でカットされることに。
控え室での会話から、彼方 菖蒲(fa2926)に誘われて即席のチームを組むことになったアジ・テネブラ(fa0160)とおのた(fa2802)達三人も買物の相談などに忙しいらしく――。
最初は一人でと思っていたらしいアジもまんざらではない様子。買物を分担しようかという案もあったのだが、時間的に余裕があることもあってみんなで一緒に出かけることになる。
チョコも予算に含まれると思っていたらしいおのたは、共同で作るものの副材料意外さほど買出しの必要もなかったのだが、ここはお付き合いと言うことで。
デビューして初めてのバレンタインと言うこともあってか、特別な思い入れを持って臨んだらしいアヤメは、なにやらびっしりと買物リストの書かれた紙を握りしめている。
行先は100円ショップや普通のスーパー。『如何に普通の女の子が作れる作品にするか』と言うのがアヤメのテーマらしい。
チョコフォンデュを作る予定のシャウロ・リィン(fa0968)も使えそうな果物を買出しに――実際の製作作業自体は極シンプルなものなので買物の時間は十分に取れる。
その点はぇみる(fa2957)も同様。和洋折衷のあんこを練りこんだチョコを計画しているが、買物と言ってもチョコと合わせるあんこと砂糖、後は型を取る入れ物を調達すればよいのでさほど時間はかからないはず。
(幾ら仕事とはいえ、贈る相手もいないのにチョコを作るのは何だか虚しいものがあるわね)
周囲の賑やかさを他所にリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)は恋人のいない現状に虚しさを感じつつ――プロを目指すものとして全力で仕事に挑む覚悟。おかしくもないのに笑えるか等と言っていては俳優は務まらないのも確かである。
●cooking
オープニング部分の収録後、一旦は出演者達が買物に出払ったスタジオだが、1時を回った頃から再び活気を呈し始める。
昼食を外で済ませてきたらしい一行が次々と戻ってきて調理開始。
スタジオに戻った三人組は、まず共同制作の雪だるまのチョコを作り始める。
アヤメの発案になる『チョコレート・ラヴァーズ』。ホワイト版とブラック版のチョコを買ってきたコーンフレークに絡めて、10cmほどの雪だるまを作るらしい。
素材のチョコは馴染み深いということで、日本での歴史も古い某老舗メーカーのものをチョイス。
アヤメの案では袋詰めしたした雪だるまを、新聞紙を細かく切った物を箱に詰めて倒れないようにしようとしたのだが。
「土台をガトーショコラにすればどうかな?」
というアジの提案を入れて、まずは卵を卵白と卵黄に分けて生地の製作に取り掛かる。やや小ぶりのケーキ型に流し込んだ生地を熱したオーブンに入れると次はチョコの番だ。
おのたやアジはもう一品別のチョコも作るつもりらしく、ビター・ミルク・ホワイトの三種をそれぞれ分担して包丁で細かく刻むと湯煎にかけて融かし始める。
もっともこの辺り一旦湯煎にかけたチョコに再び艶を出すのはそれなりにコツが必要で、融かしたチョコを型に入れて固めただけだと完全な艶消し仕様になってしまうのだが。
一方ホワイトチョコレートを薄く延ばしたロッテは、それを薔薇の花びらの形に繰り抜くと、細いプラスチックの先に幾重にも重ねている。
こうして作った白い薔薇の花を幾本も使って花束を作ろうと言う構想――西洋ではバレンタインに花とお酒を贈る習慣があることにちなんだもの――もちろん包み紙も純白のものを使用する。
リドルは薔薇の花びらを一枚ずつ丁寧に洗って付根の部分を取り除くと、レモン汁や砂糖と共に小鍋に入れて煮詰め始めた。一応輸入品の薔薇のジャムも、明るいピンクと深赤色の2種類ほどは購入してきていたが手作りのものも加えたいようである。
火加減をとろ火にすると、今度は刻んで湯煎にかけたチョコを浅くくり貫いた大粒の苺に流し込む。どうやら「あかい」「まあるい」「おおきい」「うまい」をキャッチフレーズにしたお目当ての苺を手に入れてきたようだ。
「寒い季節の苺が一番美味しいのよ。知っていた?」
様子を覗きに来たカメラに向って手を休めずににっこりと微笑む。
チョコを流し込んだ苺を楊枝で固定して冷ましながら、今度は生クリームを泡立てて、先ほどくり貫いた苺を潰して苺クリームを作り始めた。
「どのチョコとあんこの相性が良いのかな?」
えみるは何種類か買ってきたあんこと主催者が用意したチョコを食べ比べて相性のいいものを探す。これはと思えるものが見つかったのか、削って湯煎にかけたチョコを取り分けると、一方を型の中に少し流しいれて土台の部分を作っておく。
取り分けた残りのチョコには仕入れてきたあんこを入れ、ゆっくりと満遍なく混ぜこむ。
「出来るだけ甘さは控えた方が良いよね、くどくなるから」
時折独り言を言いながら集中して味を調えていくが、突然司会に声をかけられてビクッっと後ろを振り返った。ややひきつり気味の笑顔が、相手を確かめるとほっとしたように緩む。
「お菓子作りって好きなんですよね♪」
問いかけに対する受け応えも楽しそうだ。どうやら彼女をびくつかせていた原因は控え室で聞いた「バラエティだから妨害とかあるのかな?」とか「パイ投げくらいは」などという参加者達の冗談にあったらしい。
先ほどの土台に、チョコとあんこを混ぜたものを入れて、その上から更に普通のチョコレートを流しいれて形を整える。言わば生地の代わりにチョコを使った今川焼きとでも言ったところか。
あとは冷蔵庫に入れて冷やして固めれば完成である。
やや遠くまで買物の足を延ばしていたらしいリィンも、牛乳や生クリーム、それにイチゴ、オレンジ、パイナップル、バナナ、キウイ、メロン、リンゴ等の果物を一山抱えてスタジオに到着している。
「チョコの甘みと果物の酸味が口の中で広がって凄く美味しいんだよ♪」
迎えるカメラに向って元気にアピール。チョコソースのベースになるスィートチョコに加えて、いくつかの違った系統も配合して甘くなりすぎないように工夫する。
チョコレートソースの方はあまり早くから作っても仕方がないので、とりあえずフルーツの切り方や盛り付け方に気を使う。
暫くは楽しげにフルーツの盛り合わせ作っていたのだが、突然ぼろぼろ涙をこぼし始めた。
慌ててカメラからはずそうとするスタッフに、ディレクターの指示は‥‥どうやらそのまま映して訳を訊ねようということらしい。バラエティ番組らしく、突発的なアクシデントこそもってこいのネタということか。
「うあーん!」
と大泣きしているリィンに、「どうしたの?」等と声をかけながら司会者が近付いていく。昔好きだった男の子のことを思い浮かべながらチョコを作っているうちに、色々と思い出してしまったらしい。
ひとしきり大泣きすると、さっぱりしたのか、「あたし、頑張るよ! 愛情を込めて作らないと」と腕まくりをして作業を再開。盛り付けの一番上には切ったリンゴの皮をハートに抜いたものを飾った。
審査時間ぎりぎりを見計らって、刻んで湯煎にかけたチョコレートに温めた生クリームを加え、風味付けのブランデーを少々、更に温めた牛乳を少しづつ加えながら滑らかに延して、チョコフォンデュのソースを完成させた。
再びリドル。小さな器に苺クリームを搾り出し、固まったチョコ入り苺を可愛く乗せていく。
それが出来上がると、もう一品、トリュフの製作に取り掛かる。こちらは、ビターチョコとホイップクリーム、ラム酒少々を加えて丸めたチョコに、ココアパウダーをまぶすだけと言うシンプルなもの。
アクセントには買って来たものと手作りのものを取り混ぜた薔薇のジャムを飾りに乗せて完成。ピンクや赤など彩りも楽しげである。
白薔薇の花束を完成させたロッテは、続いてワインボトルの型に溶かしたミルクチョコレートを流し込んでおいたものを取り出してくる。型からはずした半分ずつのビンを、融かしたチョコを接着剤代わりに貼り合せると、苺のクリームソースを作り始めた。
これを固まったチョコのビンに流し込み、苺のクリームソースを中身のワインに見立てたチョコレート製のワインボトルの完成というわけだ。
これで、バレンタインに贈られる花とお酒の形をしたチョコレートを作るという構想がが形になった。基本的に味よりもアイデアで勝負するつもりらしい。
アヤメ達も最後の追い込みだ。
コーンフレークを混ぜ込んだホワイトとブラックのチョコで小さな塊を作り、それぞれ10cmほどの雪だるまに形作っていく。
頭にはアイスクリームにも良く付いてくるミニハードコーンの帽子を被せ、白い雪だるまには目と口をブラックチョコで描き、黒い雪だるまにはその逆の化粧。
冷やしたガトーショコラのくぼみに並べて納めると、
「これ‥‥こうやってパウダーシュガーを降らせて、雪みたいにすると良いんじゃないかな‥‥?」
目の細かい篩を手にしたアジが、雪だるまの恋人達の頭上に甘い粉雪を降らせる。
作品が完成すると、100円ショップで買ってきた、英字新聞がプリントされた茶色の包装紙に包み、赤いリボンと金色のプレゼント用シールで飾って出来上がりである。
協力して作業を進めながら、手の空いた時間にアジは融かしたチョコを型に流して作った一口サイズの蓋と器のセットを、おのたは持参した箱の中に融かしたチョコを入れて、かわいらしい『手乗りおのた』を製作していた。
●tasting
試食タイムが始まると、日頃の元気ぶりもどこへやら思いきり緊張した表情のリィン。「ど、どうかな‥‥?」などと小声で呟きながら、真剣な表情で審査員の様子を覗っている。
「とてもおいしいですけど公園で手渡しと言うわけには行きませんわね‥‥やはり、本命の方をお部屋にご招待して‥‥」
女性審査員の一人はそんな講評を加えながら、何を想像したのか勝手に赤くなる場面も‥‥。
一方、『手乗りおのた』が審査員の口に運ばれるたび、なにやら居心地の悪そうな様子のおのた。やはり『私を食べて〜』なコンセプトのチョコは食べさせる相手を選ぶようだ。
「コンセプトは、『色んな人に食べさせてあげたいチョコ』だよ」
アジは、蓋付きの小さな器状のチョコの中に、ブランデーに漬けた各種フルーツや、杏その他のフルーツジャムを具として入れて食べるという、一口チョコの食べ方を説明する。
審査の結果、接戦を制したのはリドルの作った『苺のホイップチョコと薔薇のジャムを添えたトリュフ』と言うことになり、賞金が手渡された。
番組の最後に放送するためのレシピを書き込んだフリップも作成されていたが、実際のところエンディングで流す時間はメモなどを取るには短かすぎ、最終的には『番組のHPはこちら』と言うことで作品の写真と共に掲載されることになっている。
無事収録も終わり、スタッフなどにも作品が味見に供される中、主催者の許可を貰ったリドルはプロダクションの友人たちへのお土産などにと出来の良いものを選んでラッピング中。
とりわけ『大好きなお父さま』用の選定は慎重に、『ひっそり心の中に芽吹いた蕾、どうぞ召し上がれ』などとカードも添えて――恋にはまだすこぅし早いらしいリドルちゃんである。
そんなスタジオの華やかなざわめきの中、作ったビターチョコを口にしながら少しく表情を曇らせるアジ。
「‥‥誰だっけ? 苦いチョコが好きだって言ってくれた人‥‥」
何か思い出しかけたかのように曖昧な記憶の糸を手繰りながら‥‥。
さまざまな想いが交錯した収録もこうして無事終わりを告げるのだった。