午後の思いつきTVアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
呼夢
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/20〜02/26
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●本文
しばらく続いていた寒さもいくぶん緩んだ、とある冬の午後、私の上司である第3企画室長が突然口を開く。
「無人島でサバイバルでもやってみようかしら」
「はぁっ? 長期休暇でもとるんですか?」
「バカね。あたしがするわけじゃないわよ。企画よ。キ・カ・ク」
20代半ば、私より5つほど年下の上司はいたずらっぽく笑いながら応じた。
この若さで企画室を任されているのには理由がある。と言ってもうちの会社が彼女の親の持ち物と言うわけではないのだが、代々この業界で成功してきた家系だけに上の方や関連企業にも顔が効くということだ。
一族は、表向きいくつかの芸能プロダクションなどを経営する一方、芸能で芽の出ない獣人や無名のまま終った獣人を雇って、ナイトウォーカー戦の後始末などにも手広く『商売』を展開している。『裏』の仕事だけにそれなりに利益も上るし各方面にコネもできやすい。
そのおかげで、交渉ごともスムーズにいくことが多く、当然のことながら上の方の覚えもめでたい。普通なら採算がどうのと言われるような企画でもポケットマネーで通してしまうと言う強引さもあり、同期やちょっと上の先輩連中からは微妙な目で見られている点は否めないのだが。
そして、企画室次長の肩書きを持つ私が彼女のお守り兼ブレーキ役をおおせつかっていると言うわけだ。
前任者が3日で辞表を出したという曰く付きのお嬢様らしく、配属された時には周囲から一斉に同情されたものだが、相性が良かったのか既に1年になろうとしている。
で、今回思いついた企画と言うのが先の『無人島サバイバル』ということらしい。
「今、冬ですよ」
「だからいいんじゃない。夏場だったら単なるバカンスでしょ。過酷な環境の方が視聴者は喜ぶわよ」
「風邪でもひかれると後々大変ですが」
「とりあえず、丈夫そうなのを集めるのね。心配なら近くの港に医者を乗せたクルーザーくらい準備するわよ。なんならヘリもね。撮影スタッフもいるんだから人知れず死んでたなんてことにはならないでしょう」
「人が集まりますかね‥‥」
「ア・ツ・メ・ル・ノ」
立ち上がって正面にくると、スッと顔を近づけ、一言づつ区切りながらダメを押す。こういう状況でなければ悪くない眺めなのだが‥‥どうやら決定事項ということらしい。
背後では同室の若い女の子がくすくす笑っている様子もうかがえる。無駄な抵抗を、というわけか。
「解りました。至急、手配します」
私の返事に「ハイ、よくできました」とでもいうように艶然と微笑むとくるりと踝を返した。
●リプレイ本文
●上陸
6人ほどの人間と荷物を載せたゴムボートの底が砂をこする。幸いにも好天に恵まれ、湾曲した入り江の中は波も穏やかだ。
一息に砂浜に飛び降りた緑川安則(fa1206)がロープを手繰り寄せた。
「サバイバルか‥‥懐かしいな。陸自レンジャー部隊訓練で富士の樹海を一週間かけて走破したのを思い出すな」
迷彩服を着込み、ジャングルブーツで砂を軋ませながら懐かしそうに辺りに目を配る。
「曰く付の気配がするけど、これも修行だよね」
続いて砂浜に降り立った風和・浅黄(fa1719)も、ボートの中の荷物に手をかけながら相槌を打つ。
「そう言えば、緑川さん、サーチペンデュラムで水源を探してみるって言ってたよな?」
一行の中で最年少のゼクスト・リヴァン(fa1522)が荷物を担ぎ上げながら訊ねると、緑川はかぶりを振る。
「あれば探しやすいとは言ったが、あいにく持ってはいない」
「これのことだろ?」
あさぎが襟元のバンダナをまさぐりチェーンを引き出すと、「あるとこにはあるんだな」と言うように頷く。
荷物を下ろし終えたボートはジーン(fa1137)と飢虎(fa2995)が操って、残る二人のメンバー、橘 遠見(fa2744)と今回の紅一点レティス・ニーグ(fa2401)、それに残りの荷物を運ぶ為に本船へと戻っていった。
―― 出発前 ――
最初の顔合わせでヘヴィ・ヴァレン(fa0431)は予定の説明に来た企画室次長にNW対策を依頼していた。具体的には出演者以外のスタッフ全員の安全な場所への退避、それに関連する部分の編集時のカットなどを同行する獣人スタッフに伝えることだ。
その際、現地での安全管理面の担当だと言う黒木と名乗る男を紹介された。ヘヴィの依頼した辺りの一切を取り仕切るらしいこの男、口調こそ穏やかだがほかのスタッフとはやや毛色の違う雰囲気を漂わせている。
「緑川安則だ。元陸自、レンジャーと空挺にもいた。今は声優だがよろしくな」
(この男‥‥)
獣人としてはやや異色の経歴を持つ緑川は、口にこそ出さなかったが黒木に何かを感じたらしい。『人間』だと知らされたスタッフが席を外したところを見計らって仲間達も含めて注意を促す。
「一応言っておくがNWが存在する可能性は否定できない。必ず連携を。可能な限り1人にはならないこと。まあ‥‥女性には少しアレだが仕方ない」
「連中、弱い個体を狙うくらいの頭はあるようですしね」
荒事はやや不得手らしいトオミも頷く。
基本的に人中での実体化は避けようとする傾向の強いNWも、無人島に少数の獣人が集まっているとなれば好機と見る可能性は高い。
(外から持ち込まれ感染するのか。それとも‥‥)
ジーンも無言のまま思いを廻らす。
やがて一行はスタッフと共にロケ地へと向う車上の身となり、神戸港に待つ船へと向った。
●拠点
全員が上陸すると、各自荷物を担いで上陸地点からさほど離れていない高台にある数件の漁師小屋に向う。到着すると位置を確認したあさぎがさっそく持参した地勢図に記録。
残骸――とはよく言ったもので、どれも傷みようは激しい。とりあえず一番広そうな物を選んで掃除と修復に取り掛かる。かなり昔のものらしく、窓はガラスではなく板戸を跳ね上げて棒で支えるようになっているだけなので、とりあえず全開にして中の掃除から始める。
床はなく、土間の中央には石を組上げただけの簡単な地炉が半ば崩れかけているが、窓が締め切ってあったせいか思ったほど雑草などは蔓延っていない。
まずは荷物を外に置いて全員で小屋の片付けにかかる。
床がある程度片付くと周辺から廃材を集め始める。ゼクストは専ら小屋の修復の材料を、ヘヴィはそれに加えて薪や武器に使えそうな棒状の得物も探している。薪の方は小屋の横に纏めるが、武器に使う棒のほうは手ごろな太さの立ち木を切って削り出すことにする。
小屋の中がある程度片付き、荷物を運び込むと、ジーンや緑川が廃材で小屋の修復作業を続ける傍ら、あさぎは地勢図の上にサーチペンデュラムをかざす。もう一つの重要課題である水場の探索だ。
とりあえず何箇所か目星が付くと、組んで行動する予定のゼクストを伴って調査に向う――同じ事務所のレティスは、常に猪突猛進しがちな若いゼクストが幾分気になるようだが。
あさぎの計画では、最初、到着後に島の外周を一回りするつもりだったものの、1日で30キロあまりを踏破するのは不可能だと判明。ジーンもトオミと組んで逆回りでに調査に向う。
あさぎとしては、NWがロケ隊の機材に潜んでいる可能性を考慮して、機材運搬の困難を理由に小屋の周辺に残っての撮影を提案したのだが、無人島の調査と言うインパクトのある画を諦めるはずもなく、数名の撮影スタッフが同行する。
小屋の修復がある程度進んだ所で、緑川とレティスは、小屋の周辺に、釣り糸や周辺に生えている蔓などを利用して鳴子や罠を仕掛け始めた。
何の為、と訝る人間スタッフにレティスは、野生動物を食料として捕らえるための罠だと説明する。実際、網を使った捕獲用の罠も用意しているのだが、鳴子も張り巡らせている時点で若干の無理があるのは否めない。普通の動物なら鳴子の音で逃げ出しそうである。
更にレティスは木の上に見張り用の簡単な小屋でもと思ったのだが、小屋周辺に高い木がないことや、材料・手間なども考慮して断念。
やがて、小屋の修復を終えた飢虎と共に釣りに出かける。飢虎の調べではこの辺はメバルが狙い目で、初心者にも釣り易いらしい。
道具はレティスが持ち込んだ竿・糸・鉤に飢虎が持って来ていた錘と餌を組合せる。
尤もレティスが持って来たのは釣竿ではなく1m程の竹の棒である。釣竿よりも転用性が高いと踏んでのことだ。
トオミやゼクストも小屋の周辺の森で食べられそうな植物を採取している。
水場を探しに出かけた一行は何箇所かの湧き水や小川を発見していた。最悪水場が見つからなかった場合を想定して緑川は海水を沸騰させて蒸気を集めることも考えていたし、レティスは植物から水の調達を試みるための参考に野草辞典を持参していたのだが、どうやらそこまでしなくとも済みそうである。
トオミやジーンが持ち込んだポリタンクに水を汲んでくる。
初日の夕食は、皆で大鍋をつつくのがサバイバル生活での仲間意識を深めるのに最適、という飢虎の提案で魚介類に野草を加えた鍋ということになった。
普段最低限の自炊しかしねえんだが、と言うヘヴィは、菜箸、玉杓子、小麦粉に調味料として塩、味噌、調味酒、砂糖とやけに準備がいい。
魚のアラでとったダシに醤油を加えたもので鍋を仕込む傍ら、余分の魚を一晩程度保存するための下処理などをする飢虎の手際を見てレティスが感心する。
「たいしたもんだね。いい主夫になれるよ」
「柄じゃねぇが料理は割と好きなんだ。って、主夫か俺はッ!」
そんな会話も交えながら、鍋を囲んで今回参加した理由などを語りあう。野性の勘を取り戻したいと言う者、体力、筋力増強の為と言う者、ケガのリハビリと言う者、気分転換がてらサバイバル能力の向上などと様々だ。
島を調査した結果の動植物相なども話題になる。
その後、火の番も兼ねて二人一組で夜の見張りを立てると小屋に入って休むことに。レティスの寝る区画だけは余分に持参した毛布で仕切られている。ロケ隊も就寝までの画を撮り終えると本船に戻っていった。
●生活
翌朝、一行は明け方の見張りに立っていた者を除いてテレビカメラに寝起きを襲われることになる。いわゆるお約束と言うヤツだ。
昨夜下ごしらえをしておいた食料に、持参した携帯食なども交えて簡単な朝食をとる。そして‥‥サバイバルといえば、その生活の大半は食料の確保に他ならない。
根性で自作した釣道具一式を抱えたジーンも今日は釣に参戦だ。
「釣るぞフグ! アイナメ、カサゴ、来いっ!」
根っからの釣好きらしく、何でも食う、までは良いのだが、何を思ったかフグの捌き方の本まで持ってきている――無論免許はないらしいのだが。
冬の珍味と言うことで、見た目は悪いがナマコの捕獲にも挑戦してみるつもりらしい。
尤もそんなカメラサービス的な言動の間も、周囲への警戒は怠るわけには行かない。カメラの前では半獣化でさえもできれば避けたいところ――その格好で一度放映されてしまうと、以後いやがうえにもコスプレ芸人という評価がつきまとうことになるのだ。
動物はもちろん、特に鳥を警戒。行動範囲を考えると、餌に惹かれて他島から渡ってくる恐れもあり、妙な動きをするものがいれば、念のため、全員に警告を発する必要がある。
トオミはどちらかと言えば漁といったほうがいい手法。ヘヴィらとの陸地での猟やらレティスらとの野草の採取にも参加。炊事洗濯、水汲み、薪拾い等、こまめに働いている。
ヘヴィの方も時には釣糸を垂らしたりはしているが、燃料用の廃材集めや水汲みなど力仕事がメイン。
レティスも釣がメインだが、干潟や浜辺で貝や海藻を採ったり、森で食べられる木の実を探したり。
あさぎとゼクスト、緑川、飢虎は食料の調達も兼ねて島の調査を継続。あさぎにとってはトレーニングも兼ねているようだ。
食事はやはり海の物が多くなる。森から探してくる野草の類も、冬場だけに量は望むべくもない。飢虎などは予め栄養のバランスが崩れることを警戒してビタミン剤を持ち込んでいた。
陸での猟は銃器が使用できないこともありほとんど成果を上げていない。罠もどちらかと言えば鳴子に驚いて獲物が逃げてしまう。
料理はある程度得意な者が持ち回りで担当するが、ゼクストなども料理が趣味だと言う意外な一面を見せる。
そんな中でも、基本的に行動は全て二人一組と言う不文律は守られていた。
●襲撃
5日ほども過ぎ、さして広くもない島の中もほぼ調査し尽くしていた。
深夜、鳴子の音に最初に気付いたのはトオミだった、例によって野生動物かと思い、ヘヴィに声だけかけて確認に赴くのだが――目の前にいたのは一頭の鹿、しかし角が異様に変形しつつある――そして、突然後足で立ち上がった。
「そう言えば、そんなブームがあったな。余計な流行を持ち込んじまったか‥‥可愛くはねえ」
トオミの背後から手製の得物を構えたヘヴィの乾いた声が響く。この場はヘヴィに任せて小屋に走った。
知らせを受けた小屋は騒然となる。レティスが本船と連絡を取って島にロケ隊がいないかどうかの確認を取る間に、帽子と膝丈のジャケットに隠れて半獣化したゼクストや、素で格闘能力の高い飢虎とあさぎがヘヴィの応援に駆けつける。
小屋に残った緑川やトオミもロケ隊が島にいないことを確認すると半獣化しながら飛び出す。ジーンは外の暗闇で完全暗視を使う為に完全獣化を実行に移す。
先行した面々を加えた四人は、島に来た直後に作っておいた長めの槍を構えてNWを牽制している。更に半獣化して駆けつけた二人が加わると、全員が半獣化して戦力をアップした。
「ちっ、こいつは面倒だな。コアの周りを角でがんじがらめにしていやがるぜ」
完全獣化で駆けつけたジーンが暗視の結果を全員に知らせる。林の中であるため火事を起こさない為にも火を使うランタンの類は明かりとして使えない。懐中電灯を持参したのはどうやらジーンだけのようだ。
唯一の明かりをトオミに預けると前進してNWと対峙する。その間に他の面々も次々と完全獣化。
格闘能力の格段に高い飢虎、ヘヴィ、あさぎ、ジーンらを中心として集中的にコアを狙う。
「すまんな‥‥すべての獣人のためだ。死んでくれ!」
緑川もアウトドアナイフを構えて攻撃を加える。
絡み合った角に手こずりはしたものの、一匹のNWは完全獣化した複数の獣人の力には抗し切れずやがてコアを破壊されてただの肉塊へと姿を変えていく。
「終ったようですね」
一同が獣化を解き息を整えているところへ不意に声が響いた。振返るとレティスに案内されて来た黒木の姿があった。後ろには更に何人かの影。
「ご苦労様でした」
言いながらNWの死骸に近付くと暫くして小さな物体を摘み上げる。小型の音楽プレイヤーだ。
「どうやら昼間獣人のスタッフが紛失した物のようですね。持ち込んだのが『人間』なら本人が真っ先に感染してるでしょうし」
呟きながら連れてきた部下に死骸の始末を任せ、一同を再度ねぎらうと小屋に戻って休むよう促した。
●撤収
最終日、7日間のサバイバルを終えて、いよいよ島を去る準備が始まった。飢虎はゴミ等の後始末をする傍ら、ゼクストやレティスとともにNW戦時に使用したトランシーバーを破壊している。
NWが情報を媒体にするということから出た行動らしいのだが‥‥彼らの行動を見かけた黒木が歩み寄って来た。
「皆さん中々用心深いですね。尤もトランシーバーは携帯ほどには危険じゃないんですが。彼らが潜むのはあくまでも『情報』ですから、音声や画像、文字などの『情報』を保存できる機能がない物は、彼らの通り道にはなっても、それ自体に潜むことはできない、と言うのが今の所我々の見解になっています」
「そうなのか?」
「ええ、メール、待ち受け、着信音などをDLして持ち歩く方がよほど危険なんですけどね。まあ、用心深いのは結構なことです。破壊した機材の分は今回のNW戦の手当て――といっても危険を考えれば微々たるものですが――に上乗せするように上申しておきますよ」
穏やかな口調でそれだけ告げると、再びロケ隊のほうへと歩み去っていく。
「なるほどな‥‥そっちの専門家って訳か」
背中を見送りながら緑川はポツリ呟くのだった。