ホワイトデードラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/15〜03/19

●本文

 去る2月14日はバレンタインデーでした。日本では、女性から意中の方へ愛を告げる日となっています。あなたは果たしてどのようなバレンタインを過ごしたでしょうか。
 ‥‥いえ、今はそれを話していただかなくとも結構。私が伺いたいのは、バレンタインの話ではないのです。重ねて言えば、伺いたいわけでもないのです。
 これからあなたが体験する事柄を、ほんの少し、覗き見させていただければよいのです。
 折しも今日はホワイトデー。バレンタインの余韻を受け継いで、今一度盛り上がる日です。そう、例えばこちらの方々のように――

「なあ、たまにはお前の好きなようにやってみないか」
「え‥‥」
「わかんないか? 俺を、好きにしていいんだぜ」

「ちょっ‥‥やだ、何してるの!?」
「何って、そうだなぁ‥‥‥‥ご奉仕? バレンタインにもらったチョコのお返しだよ♪」
「いい! いいってば!!」
「あははっ、遠慮しないで☆ 僕が気持ちよくしてあげるっ」

 ――とまあ、色々な意味で盛り上がっておられるようですが、これに限らず、若者同士の情熱を垣間見る事がこの年寄りの数少ない楽しみ。‥‥悪趣味と思われますかな? しかし私は、自分を恥じてはおりません。愛を告げるという事、愛を受け入れるという事、愛し合うという事。これらはとても素晴らしく、私もその愛の片鱗に触れたいだけなのです。
 ですから、ほんの少しでよいのです。‥‥よろしくお願いしますよ?

●今回の参加者

 fa0227 高遠弓弦(21歳・♀・兎)
 fa0910 蓮城 郁(23歳・♂・兎)
 fa1108 観月紗綾(23歳・♀・鴉)
 fa1169 翡翠(22歳・♂・狐)
 fa1390 アンリ・バシュメット(17歳・♀・狐)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa3115 (22歳・♂・鷹)
 fa3120 (14歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●彼女の場合A
「貴方は今、何をしてるのかな?」
 佐々峰 菜月(fa2370)は、一人でお気に入りのカフェにいた。今日はホワイトデー、周りは見るからに恋人同士とわかる組み合わせがほとんどだ。このカフェは確かに彼女のお気に入りだけれど、今日はほんの少しだけ居心地が悪い。
 バッグから振動を感じて、彼女は携帯を取り出した。メール受信を知らせるマークが出ている。抑えようとしても高鳴る胸をそれでも抑えながら、折り畳み式の携帯をそっと開く。差出人は友人。彼女が待っている相手ではなかった。彼女は携帯を閉じると、元通りにバッグの中へしまった。
「‥‥嘘つき」
 白いカップには、湯気のたつブレンド。ため息を隠すように口をつけると苦かった。
 突然でどうしようもなかった引越しが、彼女と彼女の恋人を引き離した。当然かもしれないが、彼女は恋人と離れたくなかった。何度も我侭を言った。離れたくないと彼にしがみついて‥‥感情が高ぶって泣き出した事もあった。そんな彼女に彼は困ったような、それでいてとても優しい声でこう言ってくれたのだ。
 ――いつでも電話で話せるよ? メールも毎日送るよ。
 けれど昨日はメールが来なかった。彼女が最近仕事を面白く思うように、彼も仕事で忙しいだけだと考えても、つい気分が落ち込んでしまう。
(「声が聞ければ嬉しいし、メールがくると貴方かも、って期待しちゃう‥‥でもね? あたしは会いたいんだよ?」)
 名前を呼んでくれる声が好き。特徴ある文面のメールも好き。けれど一番好きなのは、彼のぬくもり。
「貴方と会って、貴方の全てを愛したいな‥‥」
 自らの独り言に彼女は赤面した。想像の世界で繰り広げられるもやもやを、手で払って霧散させる。
 やはり自分の我侭でしかないんだろうか。どんなに声を聞いてもメールしても足りなくて、会いたいと切望しているのは、自分だけなんだろうか。
 再びカップに口をつけようとして、彼女はまた振動を感じた。今度こそ待ち望んでいたメールだった。『今度、暇ができたら会おうな』と、たったそれだけ。それだけで彼女の心臓は跳ね上がった。
(「ほんと? 嘘じゃないよね? あぁでもこんな嘘をつく人じゃないし‥‥ほんとなんだ。貴方もあたしに会いたいって思ってくれてるんだ!」)
 こんな些細な事で幸せになれるくらい、あたしって単純なんだ――新たな自分の発見を噛みしめて、彼女はカップに多めの砂糖とミルクを入れた。今、自分の感じている幸せみたいに甘くてほっとするものになるように。
「今度会った時はめいっぱい可愛がってもらうんだからっ♪」
 にこにこしながら、彼女は返事を打ち始めた。

●彼と彼女の場合A+B
「今からでは場所が――」
「そこを何とか頼むよ!」
 翡翠(fa1169)が親友の蓮城 郁(fa0910)と呑みに行った際に聞いた、彼の会社の話。最近若者の間で話題のブライダルノートオフィス、略してBNO。その名の通りメイン事業はウェディングコーディネートだが、ホワイトデーを記念して愛を深めようという企画が大当たりした。プレ結婚式とでも呼べばいいのか、チャペル等を借りて時を過ごすのだ。
 話を聞いて翡翠は「これだ!」と思い立ち、郁に頼み込んだ。翡翠には妻、高遠弓弦(fa0227)がいる。ただし諸般の事情で式は挙げていない。これ以上のお返しはないと、三日前になってそんなの無理だと渋る郁に何度も頭を下げた。

 当日。弓弦はうきうきしながら翡翠の帰りを待っていた。
「‥‥花が変わった事、気づいてくれるでしょうか」
 花瓶に新しい花を挿す弓弦。部屋はすっかり綺麗にしたし、夕食には奮発して翡翠の好きな物を揃えてみた。
 お返しは何だろうと楽しみで仕方がないのは事実だが、気になる事も一つある。ここ数日、彼の帰宅がとても遅いのだ。年度末で仕事が立て込んでいるとしても、今日だけは、とつい望んでしまう。
「食事‥‥冷めないうちに頂けるといいのですが‥‥」
 しょんぼりしつつ花に語りかけていると、ドアベルが鳴った。小走りで迎えに出てみれば翡翠はなぜか興奮している様子だった。
「どうしたんです?」
「その格好じゃ外は寒いよね。はい、俺の上着着て」
「え? え?」
 手を引かれるままに外へ出る。不思議に思ったものの、到着してのお楽しみという翡翠の言葉に、弓弦は頷いた。

 小さな教会。人気はなく、けれどだからこそ荘厳な雰囲気を纏う、そんな教会だった。
「ここ、は‥‥」
「どうぞ、弓弦ちゃん。ハッピーホワイトデー!」
 口に手を添えて驚く弓弦を、翡翠は笑顔で教会に招き入れる。電灯はなく、明かりは蝋燭の揺れる炎と、正面のステンドグラスから差し込む月と星の明かりが、十字架までの道を照らし出している。
「もしかして、此処をお借りするために最近遅かったんですか‥‥?」
「だいぶ安くしてもらったんだけどね、それでも足りなくて。仕事が終わった後に工事現場でアルバイトしたんだ」
「そんな‥‥」
 呟いた弓弦の瞳から、ぽろりと涙が零れた。寂しい想いをさせてごめんと謝る翡翠に、彼女は首を振って応えた。何だか嬉しくなってしまったのだと。
「‥‥弓弦ちゃん、大好き」
 お約束の言葉や物語の主人公みたいな格好良い台詞も一杯考えて心の中で練習したのに、口から出たのはたったこれだけ。普段のままの、でも、ありのままの、本当の気持ち。
「いつまで経っても落ち着き無くて頼りない夫でごめんね」
 稼いだ金額は指輪を買うまでには至らなかった。翡翠は弓弦の左手をとり、その薬指にキスを落とした。
「君と出会えて良かった。これからまだまだ苦労する時もあるかもだけど、それ以上に楽しい毎日を約束するよ」
「翡翠さん‥‥これからもずっと貴方の傍にいられますように‥‥ふたりだけの、約束です」
 弓弦も翡翠の左手をとる。同じように薬指へ口づけて、幸せそうに微笑んだ。

 数時間後、BNOの社屋にて。観月紗綾(fa1108)はパソコンを終了させて、上体を伸ばした。ただでさえ企画が当たった中に親友夫妻のためとはいえ仕事が増えて、ここのところ残業続きだった。それが今日ですべて終わり。同僚であり恋人でもある郁が内緒で用意したフラワーシャワーに目を丸くしていた親友夫妻の顔を思い出し、ぷっと吹き出した。
「あれ、郁さん?」
 そろそろ帰ると伝えようとしたが、郁の姿が見当たらない。探してみると、他に誰もいない休憩室のソファで仮眠をとっている真っ最中だった。彼も親友夫妻の希望を叶えようと努力していたし、疲れたのだろうと備え付けの毛布をかけてあげる事にした。ついでに、久々に寝顔を堪能してやろうと身をかがめた。
「‥‥っきゃぁ!?」
 途端、腕をとられていた視界がぐりんと回転し、天地が逆さまになった。郁が涼しい顔で紗綾の紅潮を観察している。
「狸寝入りなんて酷いじゃないか!」
「いいえ、寝てました。‥‥さっきまでは」
「なっ‥‥離して、誰か来たらどうするの!?」
「そんなに暴れたらそれこそ人が来ますよ」
 照れてどんなにもがいても、紗綾は開放してもらえない。タイトスカートでは動きづらく、スリットから覗く足をしげしげと見つめられたり、シャツのボタンを外されたり。耳元で囁かれるのが恥ずかしくて顔を背ければ、細い首筋から浮かび上がる鎖骨へと、切なげに降ってくるキスの雨。
「だから暴れないでくださいよ」
 また暴れ始めた紗綾の頭を撫でてから、郁は彼女を抱きしめた。大きな窓の外に広がる夜景。街の灯すべてにそれぞれの暮らしがある。郁がぽつぽつと語り始めたので、紗綾も自然と落ち着きを取り戻していく。
「今日も沢山の笑顔を見ましたね。お客様の夢や希望を実現する、ほんの少しのお手伝いではありますが、誇らしい仕事です。世界中の人々の幸せを祝いたい、尊大ですが‥‥叶えてみたい私の『夢』です」
「本当に沢山の笑顔に逢えて‥‥うん、いい仕事だなあと思う。皆がくれる笑顔でこちらも笑顔になるし。嬉しそうな郁さんを見るのは好きだ‥‥貴方と共にその光景を見られるのが何より嬉しい」
「ねえ紗綾さん。この先も一緒に、その夢を叶える為の道を歩んで下さいませんか」
 紗綾の手を取り指輪を嵌め、今度こそ唇に深く口づけて。
「私からのホワイトデーの贈り物です。‥‥愛しています」
「私も‥‥愛してる。これからも、ずっと。いつまでも郁さんと一緒に」

●彼女の場合B
 アンリ・バシュメット(fa1390)は恋人を待っていた。駅前の待ち合わせスポット、植え込み横の街灯に寄りかかるようにして、バレンタインのお返しを渡しに来てくれるはずの彼を、じっと待っている。
 ここに到着してから、一体何度腕時計を確認しただろう。ため息も幾つついたかわからない。けれど我慢しなければならない時間はあと少しだけ。約束の時間まで、あと少し。
 ひゅうと吹き抜けた風に肩を抱いた時、着信メロディが流れた。彼専用の曲。はっとしてバッグから携帯を取り出し、電話に出る。
「え‥‥遅れる、の‥‥?」
 一瞬、気が遠くなった。ふらついた足に何とか力を込めて、体を立て直した。一方で、電話の向こうで謝り続ける彼の情けなさに怒りがこみ上げてくる。
「ちょっとそれどういう事よ!? 今日は大丈夫だって言ってたじゃない!」
 今日という日を長く楽しむために、ここ数日残業してまで仕事を先取りして終わらせたのに。昨夜確認した時はまかせとけと自信満々だったくせに。
 人のいい彼の事だ。どうせまた、誰かを手伝ったりミスをカバーしたりして、余計な仕事を背負い込んだに決まってる。
「あぁもうわかったから急いでね! レストランの予約の時間迫ってるんだから! あ、急いでるからって信号無視なんてするんじゃないわよ!?」
 いつもの調子でつい、彼を怒鳴りつけてしまう。困ったような笑顔で頭をかく彼の姿が目に浮かんだ。
 電話が切れた後もたっぷり数十秒間、耳から携帯を離せない。名残惜しくて、余韻に浸っていたくて、その携帯を持つ手にも力がこもる。
「‥‥早く来てよ、馬鹿‥‥」
 どうしようもない想いを込めて呟く。そして空を見上げる。周囲は見たくない。互いのぬくもりを分け合う二人だらけだから。本当ならもう、自分も彼らと同じように彼のぬくもりを感じていたはずなのに‥‥腕の時計が示すのは、約束した時刻の5分後だ。
 どうして私は一人なの。どうして私を一人にするの。私はあなたと一緒に居たいのよ!
「っ!?」
 心の中で叫んだ直後。もう一度流れてきた彼専用の着信メロディに驚いて、持っていたままの携帯を慌てて耳に当てた。
「‥‥もうちょっとで着く!? えっ、ぁ‥‥も、もう待ってられないわよっ。今どこなの、そっちに行くから!」
 電話の向こうから聞こえてくる息遣い。彼は走っている。彼女に会うために。
 待っているだけなんて我慢できない。彼女も走り出した。居ても立ってもいられなくて。
 強引に彼から場所を聞き出して、すぐそこの交差点だと知り、駆けて、彼が走ってくるのが見えて、嬉しくなる自分がいて――信号は青。彼の足は止まる事なく、彼女の足も止まらない。止まる時は、互いの腕の中に互いを感じる時。
 二人は往来を意識の外に置き、強く抱きしめ合った。

●彼と彼女の場合C
 撮影終了後の打ち上げも終わり、飆(fa3115)と苺(fa3120)はタクシーを呼ぶと、一旦事務所に寄る事にした。
「ただいまなのだっ♪」
 ふかふかのソファに飛び込む苺、その頬は酒を飲んでもないのに上気している。打ち上げでの興奮が尾を引いているのだろう。
「えへへー、飆さん、今日はお疲れ様っ。誘ってくれてありがとー♪ 一緒にお仕事できて嬉しかったのだっ」
「‥‥なぁ、苺」
 一方の飆は、普段は飲まない強い酒を飲んだせいで、足元がおぼつかない。
「俺、ホワイトデーは興味ないって言ってたが‥‥ホントは苺に渡したいものがあったんだ」
 デスクに寄りかかるようにして一番上の引き出しを開ける。大切にしまわれていたのは、苺が欲しがっていたマイクとオルゴール。それらを手にまたふらふらと歩いて、苺の隣へ静かに腰を下ろした。
「良かったら貰ってくれないか‥‥」
「ぇ、おいらにくれるのだっ? ありがとー、大事にするのだ」
 にぱっと明るい笑顔を振りまく苺に、飆の中を暖かい気持ちが満たしていく。ゼンマイを巻くとオルゴールからは優しい曲が流れ出した。瞬間その曲に聞き惚れた苺の手からマイクを奪い、机上のオルゴールの横に置くと、彼女は不思議そうな顔で見上げてくる。それはそれはとても無防備な様子で。
 止められない衝動。溢れる想い。勿体なくてゆっくりと近付くも、一度彼女の唇に触れてしまえば、後はひたすら求めるのみ。体重をかけて、彼女もろともソファに倒れこんでいく。
「苺‥‥好きだぜ‥‥俺は‥‥仕事の相棒としてだけでなく女としても――」
 続く言葉はもう、聞こえない。

「コーヒー飲むか?」
「いらないのだっ!」
 やけにすっきりした様子の飆とは反対に、苺はご機嫌ナナメだった。ソファの上で体育座りをして、飆に背を向けている。
 さすがに強引過ぎたかと頭をかく飆。彼はまだ知らない。苺が怒っているのはただの照れ隠しにしか過ぎない事を。
「あれ、あんな所にいつカメラ置いたのだ?」
「いや、俺のカメラはバッグの中に‥‥」
 電灯の陰に設置された小型のカメラ。しかも撮影内容がすぐさま別の地点に送られる類の。
 隠し撮りされていた事に気づいた飆は即行で停止ボタンを押し、プロデューサーに連絡をつけたが逆に説得されて、差し支えない部分のみドラマ風味に仕立てて放映する事に同意した。

●ピンナップ


観月紗綾(fa1108
PCツインピンナップ
零円