造られた笑顔アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 1Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 2.2万円
参加人数 9人
サポート 0人
期間 03/18〜03/20

●本文

 ホテルの一室で、記者会見が開かれた。
 フラッシュの嵐の中、たくさんのマイクを向けられて、それでも葛原みちるは臆す事なく、笑顔を保ち続けていた。
「水元さんとは、同年代という事もあって、仲良くしてもらっています。私はこの世界に入ってから日が浅く、まだまだ知らない事、勉強しなければならない事がたくさんあります。水元さんは先輩として、そんな私を指導してくれるんです」
「その仲の良さが恋愛感情から来るものなんじゃないですか!?」
「違いますよ。私と水元さんはお友達なんです。それにさっきも言ったように、私はやらなければならない事でいっぱいいっぱいで、正直な話、恋愛どころじゃないんです。仕事が恋人、っていうんでしょうか。この年頃の女の子としてはちょっと寂しいのかもしれませんけど‥‥でも私、この世界で長く続けていきたいですから」
 同じような質問が何度も繰り返される。気の短い者ならば怒り出しそうなものだが、みちるの言い分は一貫していて、変化する様子はない。
 記者達もうんざりとし始めた頃、マネージャーが記者会見の終わりを告げた。

 ◆

 こと。
 みちるは自分の携帯を、よく整理されている勉強机の中央に置いた。仕事用にプロダクションから配布された物ではないので、置いていっても支障はない‥‥少なくとも、仕事上は。
「準備は終わったの?」
 開け放していた扉から、母親が呼びかける。振り向いたみちるの手には、可愛らしくも機能的な旅行鞄があった。
「終わってるよ。もうマネージャーさんが迎えに来た?」
「ええ――あら。携帯、忘れてるわよ」
 上着の襟を正しながら横を通り過ぎようとするみちるを、母親は引き止める。だが彼女は足を止めなかった。
「いいの」
「咲ちゃんと洋子ちゃんから連絡が来たらどうするの」
「ふたりには、今日からロケだって言ってあるから大丈夫」
「でもあなた確か、約束があるって‥‥」
「約束してたのは咲と洋子じゃないよ。それに、もういいの」
 たんたんたん。
 一定のリズムで足音を立てながら、みちるは階段を下りていく。彼女の唇がきつく噛みしめられている事に、母親は気づかない。いや、ちょうど死角になっていて見えないのだ。
 ――どうせ一方的な約束だったんだし‥‥。
 色々なものが際限なく湧いてくる心。持ち前の演技力は、そんな心さえ、深く暗い場所へ隠してしまう。

 みちるの入院は、彼女が出演しているドラマの撮影スケジュールを、大幅に遅らせた。予定が狂い、スタッフや共演者はあまりいい顔をしなかったが、そこは必死で頭を下げた。
 彼女がいなかったせいで撮れなかった部分は急ピッチで撮っていかなければならなくなっていた。しかし元からロケを予定していた場所、避暑地のコテージでの撮影許可も、その予定の期間しか得る事はできない。今更ロケの日程は動かせないという事だ。
 スタッフが下した決断は以下のようなものだった。ロケは行う、ただしかなり厳しいスケジュールにして、本来の日数よりも早めに切り上げる。ロケを短い期間で終えて、あいた時間を、入院していた間に撮るはずだった部分の撮影にあてようというのだ。
 よって、みちるは数日間、学校も休んでロケ地に泊り込む事になった。

 ◆

 所属プロダクションの社長にみちるのマネージャーから連絡が来たのは、ようやく予定の三分の二ほどの収録が終了した頃だった。連絡の内容は「スタッフの中にナイトウォーカーの感染者が紛れ込んでいる可能性がある」。テレビ局に雇われている雑用アルバイトが何人かいるのだが、その中のひとりがどうも怪しいというのだ。
 ぶつぶつと独り言を呟きながら作業をするその青年を見かけ、マネージャーはそれとなく他のバイトに聞き込みをした。しかし、あの人はもとから根暗なんですよ、と笑って返されたので、引き下がるしかなかった。あんなに怪しい行動を笑える時点で、答えてくれたバイトは獣人ではないだろうし、それ以上は逆にこちらが怪しまれるだけだろう。
 何か理由をつけて全員撤退させるのが最も安全な策だと思われるが、おしているスケジュールを更に過密にしても許されるだけの、よい理由は考え付かない。
 だが勿論、犠牲者が出てからでは遅すぎる。マネージャーが監督とプロデューサーに話をしてみたところ、まず本当に感染しているのかを確認し、必要であれば退治してくれる者を雇う事になった。そのための費用は、今回のスケジュール変更の原因であるみちるとその所属プロダクションもちで。

「きれい‥‥」
 深夜。暗幕を彩る星々は、街中で見るよりも明るく瞬いている。
 ――早く忘れなくちゃ。
 ――勝手でごめんなさい。
 ――‥‥ごめんなさい‥‥
 窓の内側から暗幕を見上げるみちるの頬を、透明な涙が伝って、床に落ちた。

●今回の参加者

 fa0027 せせらぎ 鉄騎(27歳・♂・竜)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0510 狭霧 雷(25歳・♂・竜)
 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa2648 ゼフィリア(13歳・♀・猿)
 fa2775 闇黒慈夜光(40歳・♂・鴉)
 fa2859 ダンディ・レオン(37歳・♂・獅子)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)

●リプレイ本文

●伝達事項
「何ですか、それは」
 挨拶のため集まった面々を一通り眺めた後、葛原みちるのマネージャーは尋ねた。それ、と指で示したのはせせらぎ 鉄騎(fa0027)が持つ布を巻いた長物。まあポセイドンの戟なわけだが。
「ああ、物干し竿だ。‥‥いや、冗談だ。カモフラージュ用の嘘だからな、本気にしてくれるなよ?」
 獣人ならばともかく、それ以外の存在に武器を携帯していると知られるのはまずい。鉄騎だけでなく他の面々も各自、隠すなり偽装するなりしている。
「問題の人物は獣人ではありません。この業界への就職を望むものの芽が出ず、アルバイトとして辛うじて関わっている程度です。きつい仕事を任されるうちにそれなりの体力はついているようですが、特に武術を習った経験はないようです」
 これがその人物です、と写真が手渡される。局から送ってもらった、履歴書に貼ってあった物のコピーだ。西村・千佳(fa0329)と緑川メグミ(fa1718)が覗き込んで、「あ、違う」とほぼ同時に声に出した。
「例のストーカーではないかと懸念していましたか。少なくとも、あなた方に感染しているかどうか見極めてほしい人物はアレではありません。私も彼の顔は知っていますからね。万が一整形でもされたらわかりませんが、あの子に自分だと判別をつけてもらえなくなるような状態にはしないでしょうし」
 むしろ私が懸念しているのは‥‥とマネージャーは目を細めた。視線の先には、他の者とは別ルートで現地入りした狭霧 雷(fa0510)と鷹見 仁(fa0911)。雷の愛車である小型バイクに乗ってきてつい先程到着したため、彼らはまだヘルメットを抱いたままだ。
「記者会見は見ましたか? 『そういう事』になっていますので、余計な事は喋らないようにお願いしますね」
「わざわざ騒ぎを起こしたりはしませんよ」
 雷はそう言って苦笑したが、マネージャーの表情は固いまま。
「ならいいのですが‥‥ああそうだ。鷹見さん。たとえ偶然でもあの子と顔を合わせるなんて事のないように」
「‥‥偶然でも?」
「ええ、偶然でも」
 きっぱりと冷ややかに言い放たれて、仁の歯の根がぎり、とかすかに鳴った。

●囮作戦
 面々はまず、班行動での観察を行う事にした。日の高いうちから対象をどうこうするわけにもいかない。撮影スタッフは獣人ばかりではないのだ。雷が提供したトランシーバーを携え、散った。

「んー‥‥この前のストーカーはいない‥‥かな?」
「ふむ、そうか。それは良い事であるな。問題が増えては対応が大変になるゆえな」
 雑用に走り回る裏方達をひと眺めしての千佳の言葉に、ダンディ・レオン(fa2859)が自らの顎を撫でる。隣にはゼフィリア(fa2648)もいて、同じく目を光らせている。新人育成の一環としての見学、それが彼らの使っている建前である。千佳は自分が出演するのでなくても現場にいるだけでわくわくするらしく、楽しそうにちょこまか動き回っているので、その後を追うだけでもひと苦労だったりするのだが。
「うにゃ、みちるお姉ちゃん発見。‥‥って、忙しそうだにゃー」
 すぐそこをみちるが通るが、後ろに複数のスタッフを引き連れて走っている。短時間で衣装替えをするのだろう。前だけを見ていて、面識のある千佳にもゼフィリアにも気がつかずに遠ざかっていく。
「‥‥自分の心に素直に生きられないとは難儀なもんやな。女優ってのはそない自分の心を殺してまでやるほど価値のあるものなんやろか?」
 記者会見を見ていて抱いた疑問を漏らすゼフィリア。万が一何か起こっても対処できるよう、みちるの側にいようと提案する。それに千佳は大きく頷き、レオンは追随する形となり、三人は揃ってみちるの後を追った。

「んじゃ、今から作戦開始するんでよろしくー」
 佐渡川ススム(fa3134)は同じ班である仁にトランシーバーを放り投げて渡すと、その仁から離れた。向かう先は感染の疑いのあるアルバイトの青年である。ぽんと気軽に青年の肩を叩き、
「ちょっとさぁ、見てほしい機材あるんだけど来てくんないかなー?」
 素で軽いススムだが、意識的に軽い口調を用いて更に軽く見せる。青年は数秒間ススムを眺めていたが、じきに了解の意を示し、工具箱を持った。
 ススムの目配せを受けて、仁は容疑者が網にかかった事を他の班に伝えた。

 時は夕焼けで空が朱に染まる頃。監督とプロデューサーにマネージャーから話をつけてもらって、撮影現場から少し離れたコテージを一棟、借りてある。常に逃げ道を考えながら歩いていくススムと、ぶつぶつ呟きながらついていく青年と――その二人の後をつけている闇黒慈夜光(fa2775)に鉄騎。
 それまでスポーツバッグに詰めていた武装を、夜光は今やすっかり身に付けている。鉄騎もポセイドンの戟に巻いた布をいつでも外せるようにして、二人はススムの無事を確認しつつも極力気配を消そうと努めていた。
「‥‥くくく‥‥さぁて、鬼が出るが蛇が出るか、お立会いってなもんですなぁ」
「おいおい、何言ってんだ。殺る気満々だろうがよ。怪しいと思った奴の腕、片っ端からねじり上げやがって」
「さぁて、白だった場合はただの素人さん、殺しやしやせんよ。灸を据えるのはありかもしれやせんがねぇ‥‥」
「かーっ! 怖いねまったく!」
 天を仰ぐ鉄騎をよそに、ススムと青年はコテージの中に消えていく。夜光が扉にぴたりと張り付いて中の音に耳を傾ける。そうして待っている間に、みちるの側に残ったゼフィリアとこの場に近寄る者がいないかを監視している雷以外の全員が、ずらりとコテージを囲んだ。
 ――うををぉぉぉぉっ!?
 突如、悲鳴らしきものが聞こえた。身構える彼らは扉に注目する。扉からまずススムが転がり出てきて、次に青年だったモノ‥‥昆虫の如き外骨格が皮膚の一部を覆い、両の脇腹から棘のある脚を生やした、ナイトウォーカーが現れ出た。ぎちぎちと動く口元から鋭い牙が覗く。
「みんな、後は任せた! 俺はNWが逃げ出さないようサポートに回るからなっ」
 颯爽と茂みに飛び込むススムの声など、誰も聞いていなかった。戦闘は既に始まっていた。
 夜光による最初の一撃、間違いなく腹部の臓器を狙った一撃は、さほどの効果を上げなかった。何かの硬い感触‥‥びりびりに破れているものの辛うじて残っている衣服の下はおそらく、甲殻で覆われているのだろう。
 完全獣化していた夜光の黒い羽が散る。棘の一撃は見た目よりも鋭く素早かったが、夜光は体を逸らして避けたのだ。楽しそうなのは何ゆえか。翼を震わせ、再度構える。
「ボディーががら空き♪」
 攻撃後のラグを狙い、千佳が瞬速縮地で敵の懐に入り込む。戦闘は得意ではないが仕方がない。完全獣化した手にナックルをはめての攻撃。だがやはりあまりよい感触のないまま、もう一度瞬速縮地で後方に下がった。
 そんな千佳の頬すれすれを弾丸が通る。サイレンサーまで使用してメグミが撃った一発は、しかし明後日の方向に飛んでいく。自信に技術が伴っておらず、とりあえず千佳の背筋を凍らせる事には成功した。
「うおおおおおお!!」
 獅子の咆哮。金の鬣なびかせて、肉を引き裂くための鋭い爪をレオンは振り上げる。迎え撃とうと同じく棘の脚を振り上げたナイトウォーカー、その背に鉄騎の戟が突き刺さった。棘の脚はでたらめに動き、鉄騎やレオンの腕に血を流させるが、レオンはこれしきの事、と敵の顔面を切り裂いた。
 額に鈍く光るコア。皆の視線がその一点に集まる。
「どいてくれぇーっ!」
 機会をうかがっていた仁が叫んだ。全力での破雷光撃、指先から放たれた雷撃はまっすぐにナイトウォーカーへ。
 焦げた臭いが立ち込める。なのにまだ、棘の脚は獲物を求めている。傷つく事を厭わず関節を狙う夜光の鼻先に紅い筋を作る。代わりに夜光は相手の肩関節に指先をねじ込んだ。
 遠慮は無用であり、容赦も必要ない。天敵を排除するため、彼らは一丸となる。各自がとどめの一撃とばかりに渾身の力を振り絞り、敵の体にぶつける。
 ――その敵の体が肉の塊と化すまで、残りわずか。

●二人の顛末
「では頼みますよ、お二人とも。くれぐれも間違いが起こる事のないように」
「わかってるって」
「傷ついた人を癒したのだし、明日も早いんでしょう、あなたも部屋に戻っておやすみなさいな」
 いつまでも去らずに残るマネージャーを、ゼフィリアとメグミは二人がかりでドアから押し出した。乙女の寝室だからと厳重に鍵をかけると、笑みを引っ込め、真剣な面持ちで窓を指差した。
 しかし茶を淹れていたみちるには、二人の行動が何を意味しているのかわからない。首を傾げたのでもう一度、窓の外を示される。ちょうどベランダに、灰色の翼を一打ちして、仁が降り立ったところだった。
「いい? あなたにはまだチャンスがあるの‥‥メグと違って。チャンスがあるなら足掻いて泣きついて。頑張りなさい。行動しないで諦めるなんて勿体無いわ」
 そう言ったメグミに背中を押され、みちるはもたつく足で窓に近付く。けれどまだためらっている。なぜ彼がいるのかという驚きも多分に彼女の動きを止めている。
「確かにあんたは女優なのかもしれへんけど、一人の恋する女性である事も確かなんやでぇ。どちらかじゃくて、どちらもあんたなんや。それを忘れてもう片方の自分を拒絶したら、結局もう一人の自分も駄目になるでぇ」
 ゼフィリアの言葉に泣きそうになって、とうとうみちるは窓を開けた。すると仁がすかさず踏み込んできて、問答無用にみちるを抱き上げ、再びベランダに出ると翼を大きく羽ばたかせた。
「がんばりやぁ!」
 どちらにともなくゼフィリアが檄を飛ばす。星空の下、遠ざかる二人の姿を見上げながら。

 葉の少ない木ばかりの林は、素直に星明かりを受け入れる。人工的な明かりがなくとも互いを判別できさえすれば、今は何の問題もない。
 着地後、仁はみちるをおろすと半獣形態から人間形態に戻った。
「いっぱいいっぱい、私の事、考えてほしいから、か‥‥まったく勝手な事言ってくれるよな」
「ご、ごめんなさ‥‥」
 呆れたような口調でため息混じりに言われ、みちるが萎縮する。だが相手は本当に呆れていたわけではなかった。
「お陰様で俺は、あれから寝ても覚めてもみちるの事ばかり考えてたよ」
 耳に届いた言葉が、いや自分の耳が信じられないと、みちるは目で訴えた。と、その目に仁の首にかかる物が見えた。翼をかたどった銀のペンダント――ただし片翼の。
「これ‥‥チョコのお礼だ。ちょっと遅れたが、貰ってくれ」
 ポケットから取り出されたのはもうひとつの、仁の首にある物と対になるペンダント。仁は金具を外すと正面からみちるの首に両手をまわし、つけてしまう。‥‥そのまま肩を抱き寄せ、キスをした。
「ファーストキスもみちるから。告白もみちるから。あげく告白されてやっと自分の気持ちに気付くなんて‥‥情けないな」
 軽く苦笑し、真剣な顔でみちるの瞳をまっすぐに見つめる。みちるにはただ首を左右に振った。
「でもこれだけは断言できる。俺もみちるが好きだ。だから、お前に俺の事を好きになって良かったって思わせてみせる。約束するよ」
「ジン君‥‥」
「俺を信じてくれるよな?」
 肩に置かれた手に優しい力がこもる。
「‥‥うん。信じる」
 宣言したみちるは、真の笑顔を星明りの下で輝かせていた。

●思惑と未来予想図
「例のストーカーは、警察に報告するしかないでしょうね。既に傷害事件を起こしてますし、エスカレートしたらそれこそみちるさんの生命に関わりかねませんから」
 マネージャーが自室に戻ると雷が待っていた。ストーカーの再来を知人から聞いたらしく、その事について話をしたいと。
「仕方ありませんね。アレはもはや、犯罪に手を染める事に何の躊躇もないようですし」
 なるべくなら警察のご厄介にはなりたくないんですけどねぇ――腕を組むマネージャーが渋い顔をするのも当然の事。被害者であろうとイメージダウンに繋がりかねないからだ。
「それと‥‥もし、みちるさんに相思相愛の恋人が出来た場合、事務所側としてはどうするつもりですか? ‥‥あくまで仮定ですからね?」
 そして雷からの唐突な話題転換。マネージャーの渋い顔は更に渋くなり、眉がぴくりと動いた。
「いろいろと抱え込んだ今のままだと、いずれ腐ってしまうでしょうからね」
「やれやれ。とんだ曲者ですね、あなたも」
 ソファに体を預けて、マネージャーが息を吐く。
「折角両想いになったのなら、いい機会です、幸せな恋人同士とはどんなものなのか、存分に体験してもらいます」
「体験‥‥ですか?」
「ええ、演技の幅を広げるためには様々な体験をするのが一番です。ですから――そのうち別れも体験してもらいますけどね」
 宣告。
 雷は空恐ろしさを覚えた。マスコミに嗅ぎつかれないようにしなくてはと独り言を言うマネージャー、既にいつもとまったく変わらぬ様子のマネージャーに。