【神魂の一族】歌作成アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/05〜05/09

●本文

「え、あのアニメの続編を作るんですか?」
「なんだか微妙に需要があるっぽくてねぇ」
 そんな風に話す、苦労性のADとお気楽な監督。
「まあ需要があるのならいいんですけど」
「ていうかね、もう作っちゃった♪」
「はぁっ!?」
 熊のような髭面でにこにこしながら、監督がビデオの再生ボタンを押すと――流れてきたのはアニメだった。ただしまったくの無音のアニメだ。
 しかもどうやら作中の映像ではなく。テンポよく魔法や剣戟が繰り出されたかと思えば、荒野にひとり佇む長髪の剣士の後姿が映し出されるなど、メリハリが利いている。ADは思わず「あー‥‥」と声を漏らした。
「オープニングの映像だよ。どうどう、いい出来でしょう」
「いやまあ何と言うか‥‥こういう事だけは早いんですから」
「だってさ、この前声を貸してくれた子、主題歌を歌わせてほしいって言ってたじゃない。それもいいなぁって思ったわけ」
「いいですけどね。ちゃんとやるからには設定ももっと練りこんでくださいよ。監督の言う、この前声を貸してくれた皆さん。すんごく混乱してたみたいですしねえ」
 腰に両手を当てて仁王立ちするADの前に、にこにこも影を潜めてしまう監督だった。

 ◆

『募集』
 アニメ【神魂の一族】の主題歌を作成してくれる人(作詞・作曲から演奏・歌唱まで)
 ただし、必ず以下の条件に添うようにしてください。
 ・アニメの内容に相応しい歌である事。
 ・特定の技や武器、キャラクターなどの名称を入れない事。

 ◆

『設定』

【世界観】
 いまだ未開の地が多く残る大陸、ハウドラド。
 強大な力を持つ異形の化け物――魔物が跋扈し、人々はいつ襲われるかと怯えながら日々を過ごしていた。ただの人間に魔物と戦い退けるだけの力はなく、ひとたび目をつけられれば、一夜にしてひとつの街が壊滅させられてしまう。
 人々にできた事は、存在するかもわからない神に祈る事のみだった。

 剣と魔法のオーソドックスな西洋ファンタジー。あまり目立つと魔物に狙われるのではないかという考えから、また、対魔物で精一杯であり他国と争うほどの余力はないため、幾つかの国家は存在しているものの、他国を占領して大きくなろうという元首はいない。武器防具や建築等、戦いに関する文化はある程度の水準があるが、全体的な文化レベルは低い。大陸間移動の出来る航海術もない(このため、和風テイストは基本的に無し)。

【神魂の一族】
 フリガナは「みたまのいちぞく」。古き時代に神々と交わった人間達の子孫。個々に持つ紋様を指で宙に描く事で、額にその紋様が発現する。発現と同時に、生まれ持っての力を使えるようになる。弱く力を持たない人間達のためにのみ力を振るう事を絶対の掟としており、逆に言えば、この一族の持つ力こそ人間達が魔物に対抗する唯一の手段でもある。
 その存在は一般の人々には知られておらず、一族以外の者との婚姻も認められない。一族の里がある場所をはじめ、一族に関わるすべては、一族以外の者に話してはならないとされている。
 最近になって一族の長が代替わりし、積極的に魔物討伐を指示している事から、一族の存在は噂として徐々に一般の人々の間に広まりつつある。

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa2105 Tosiki(16歳・♂・蝙蝠)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa2925 陽守 由良(24歳・♂・蝙蝠)
 fa3461 美日郷 司(27歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●顔合わせ‥‥と言っても知り合いが多いらしい
 集合場所として指定されたのは、とあるスタジオだった。そして録音のための部屋ではなく、学校の音楽室のような白い防音壁に囲まれた、何もない部屋だった。少々戸惑った面々だったが、ADと名乗る青年が現れたので指示を受け、作ってきた歌を監督の前で演奏するために機材を運び入れた。
 電子楽器も複数あり、調整にはある程度の時間がかかる。この時間を利用して、声を使う面々は準備の邪魔にならない場所にかたまり、喉の調子をみる。
「‥‥今回やってみてわかったのだが‥‥全員で作って演奏というのも楽しいものだな」
 幼馴染の名をつけたエレキギターを撫でながら、美日郷 司(fa3461)が無愛想に言った。空調が効いているからいいものの、一歩外に出れば暑くなりそうな黒色のスーツを着ている。だからだろうか、エレキギターの色が浮き上がって見える。
「グループで、っていうのはあっても、仕事受けた奴全員でってのはそうそうないからな」
 キーボードを置くスタンドを組み立てているのは陽守 由良(fa2925)。今回使う中では最も大きな楽器であるドラムセットを女性の細腕でセッティングしている文月 舵(fa2899)とは、「アドリバティレイア」というバンドを組んでいる。あちらの方で声出しをしている明石 丹(fa2837)もそうだ。
「由良、準備できた? ちょっと合わせてみたいんだけど」
「了解」
 今回、キーボードはもうひとりいる。Tosiki(fa2105)だ。彼の場合はスタンドを立てるだけではない。音源を入力済みのパソコンとキーボードを繋ぐというスタイルのため、また別の手間がかかる。
 このトシキが所属しているが、ハミングしている歌い手組の中にいるラシア・エルミナール(fa1376)と、「俺はヴィジュアル系歌手でいたいっ!!」と宣言していたがやはり心のお友達であるタンバリンとは離れられず、共にマイクを用意している嶺雅(fa1514)も加えた、計三人の「flicker〜R2〜」だ。
「‥‥アニメの主題歌って初めてだけど、何か特別な歌い方あんのかな?」
 ハミングが途切れた後、ラシアがふと漏らした疑問に丹が答える。
「どうだろうね、僕も初めてだからよくわからないな。他の皆も多分初めてだろうし」
「そっか。それならそれで、いつもどおりに歌うだけさ」
 あの曲の時はこの音で、音量はこれくらいで‥‥とひとつひとつ確認していると、扉が開いて熊のような髭面の男が、ADを伴って入ってきた。
「やあやあ、おはよう皆!」
 指の太い手を振る熊男こそ、アニメ【神魂の一族】の監督その人である。そうと気づいた姫乃 舞(fa0634)は、頬を紅潮させながら監督に駆け寄った。
「おはようございます、前回のアニメの収録ではお世話になりましたっ」
 ぺこりと頭を下げた彼女に監督は最初首を傾げたが、すぐに合点がいったらしい。
「ああ、フィオか! ツンデレお嬢様の! この前はよかったよ、ありがとね、出てくれて」
「いいえ、私なんてまだまだです。一緒に参加した皆さんのお力がなければ――監督さんこそ、以前収録の時に言っていた事‥‥本当に独り言と言う感じでしたが、覚えていて下さったのですね、嬉しいです。ありがとうございます」
「面白そうな事、有意義な事。そういった事はできる限り汲み上げていきたいと思ってるのさ」
 髭が揺れ、太鼓腹も揺れる。本当に嬉しそうな舞だったが、ADは渋面になっていた。監督の思いつきで割を食うのはいつだってADだからだ。

●OP曲案1
「さて。準備も終わったようだし、早速聞かせてもらおうかな」
 ADがどこからか運んできた椅子に座り、監督は言った。並べられた機材の真正面であり、ある意味かぶりつきだ。
「じゃあ作曲は俺、作詞はラシアの『‐Oath‐』から」
 トシキが言うと、各自の表情がぐっと引き締まる。
 最初はシャンシャンとタンバリンによる一定のリズム。そこへエレキギターが加わる事でメロディーができる。あくまでも静かな、どこまでも広がる草原を想像させるようなケルト風のイントロに、今度はトトトトトとドラムが加わって深みと勢いが増す。ジャン! と一際大きなタンバリンとハイハットシンバル。そして行軍調のメロディーへと変化させる二台のキーボードが奏す竹笛ケーナの音色に、舞とラシア、交互に歌う二人の歌い手の声が入ってくる。

 悲しみに染まる 風の声が流れ
 幾千もの灯火が消える

 涙あふれる川を見下ろしながら
 繋いだ手を握り締めてる

 膝をつきただ無力を 嘆いているだけじゃ
 悲しみの雨は止まないよ

 テーマは『使命』と『絆』、使命は人間を護る一族の、絆は護られる側とのそれ――と作詞したラシアは言っていた。コンセプトは内容が『分かりやすく』『歌いやすく』、歌詞の前半は人間を、サビからの後半は一族をそれぞれ表している、とも。
 そのサビの部分になると曲調はがらりと変わり、明るく前向きなものになった。歌い手二人の声が重なり、サブを担当する丹と嶺雅のハモリがさらに重なって、女声だけでは出せない味が出てくる。

 強く強く古の誓約を心に抱いて
 光る剣に込めて振り上げる

 目に見えない翼広げ 祈るその瞳は
 巡りゆく運命の中で 何を見つめるの

 胸の奥眠る力 解き放つ言葉は
 勇気ある戦士たちにだけ 受け継がれている

 一度は重なった歌い手の声は分離し、再び重なる。元気に明日を、未来を見つめている者達の姿が監督の脳裏に浮かんだ。

●OP曲案2
 続いては、司作詞の『夢幻』である。各自演奏する楽器はそのまま、メインボーカルが交代してラシアと丹になり、舞はサブにまわる。
 カッカッカッ、ジャン!
 舵が拍子をとった直後、全ての楽器が一斉に鳴り始める。賑やかにアップビートで突き進んでいく。ピコピコという電子音の和音は、監督にゲーム音楽を思い起こさせた。

 愛は幻 現(うつつ)の彼方に 
 今は幻 時空(とき)の彼方に
 非情の掟 身を委ねても
 守りたい物 有るはずだから

 「一族の掟に縛られながらも過酷な運命に立ち向かう主人公をイメージした」とは司の言葉。大事な者を守り、未来への礎になろうとする強い心。それこそまさに、力を合わせて魔物に立ち向かう一族の存在意義であり理念である。

 心が叫んでも 魂が軋んでも この手で出来る事があるなら
 体が泣いても 朽ち果てようとも 誓いのままに闘うだけさ

 ためらう事なくボリュームを出す丹と、パワーボーカルが売りのラシアによるサビは、聞く者の心の扉を何度も叩く。あくまでシャウトではないが、全て吐き出すように訴えかけてくる。
 だが、サビが終わった途端にすとんとテンポが落ちる。ポロロンと単音のアルペジオが入り――

 ただ進む事 言い聞かせて いつか出会う安息に

 独り囁き呟く、丹。バラードにも似た切なさを感じさせたまま、流れをラシアが引き継ぐ。その後はひとりで歌う部分と二人で歌う部分とが交互に来る。ひとりで歌う部分のバックにはサブボーカルによるスキャットが入り、無情と希望という相反するものが混ざった感じを表現する。

 何も聞こえない 何も見えない 
 ただ風が吹くだけ
 何も感じない 何も触れない 
 ただ空が見てるだけ 

 人々を苦しめる魔物を退治するために地平線の彼方へも向かっていく一族のように、遠くなっていく音色。最後は小さくシャン、とタンバリンを鈴に見立ててひとつ鳴らしてしめられた。

●ED曲案
 最後は舵が作詞した『始まりの空』である。
「キャラとストーリーは毎回変わると姫乃さんから伺ったので、そこも考えに入れて作りました。募集要項が主題歌いう事でEDとして提案したいんですけど、その辺りの判断は監督さん達にお任せします」
「ほうほう、成る程ね」
「監督‥‥あなたがまた中途半端な表現をするから、皆さんが気を回してくれたんですよ。わかってます?」
 ADが頬の筋肉をひくひくさせている間に、司はエレキギターを下ろしていた。代わりに持ったのはバイオリンである。顎と肩の間に挟み、弓を引いて音を確認した後、他のメンバーに準備完了の合図として頷いてみせる。
 ボーカルは更に変わり、丹と舞になる。流れ出したメロディーはバイオリンがメインで、それをストリングス系の音色に設定したキーボードが膨らませていく。

 幼い頃に聞いた 懐かしい遠い物語
 めくるページは白い羽ばたきに変わり
 過ぎる景色を追い越してゆく

 いつも誰かに始まりは訪れて
 いつかどこかで終りはくるけれど

 ドラムとタンバリンが落ち着いて一定のリズムを刻む事で、ノスタルジックに子供だった頃を思い出させる。毎日空を眺めては自分に無限の可能性があると信じていたあの頃。
 しかしいつまでも懐古ばかりしているわけにはいかないと、間奏になってメロディーに勢いがついてくる。何度も繰り返される和音。歌い手二人のユニゾンとサブ二人のハモリで、その広がりはとどまる事を知らないかのようだ。

 踏み分けた道 振り返ることも
 朝焼けの空 高く見上げることも
 果てのないような その先を走ることも

 握った拳で何が出来るかは自分次第
 何もしないままで ただ下ろしてしまうのか

 広げた両手をどうするかは自分次第
 風を掴まえて また繋がっていく 明日の空へ

 丹が抱いたイメージである「始まりの予感」をベースに、舵が設定したテーマとコンセプトは「始まりの予感と希望」だった。これらは歌詞にもメロディーにも存分に表されており、監督もにこやかにプレゼンテーションの終わりを告げた。

●結果は
「皆さん、お忙しいところこの仕事を引き受けてくださり、まことにありがとうございました」
 几帳面にも直角に礼をするAD、他の者もついついつられて頭を下げてしまった。
「先ほど少々お時間をいただきまして、監督と僕とで協議しました結果、オープニング曲に『夢幻』を、エンディング曲に『始まりの空』を起用させていただく事となりました」
 ADは続けて、それらの曲を起用した理由を述べていく。
 『夢幻』にあった「ただ進む事〜」のフレーズは、既に作ってあるオープニング映像における長髪の剣士の後姿にぴったりだという事。そして作詞者である司のコンセプトを聞いて、監督はアニメの内容をよく理解してくれているととったのだ。
 『始まりの空』は一話完結型の【神魂の一族】のエンディングにはよく似合うという事。その回に出てくる魔物は勧善懲悪的に必ず倒されて終わるため、たとえ一時であろうとも安らぎと平穏がおとずれる。この安らぎと平穏が生み出すであろう未来をうまく出している、というのが監督の見解である。
「『‐Oath‐』もいい出来だと思うんだけど‥‥。監督、折角なんだし挿入歌にするとか‥‥無理かなあ?」
 丹が言うと、監督は暫し考え込んだ後、満面の笑みでビシッと親指を立てた。OKらしい。
「ただし、場面の長さに合うように適当なところで切らせてもらう事になると思うがね。まあこれは他の曲でも言える事ではあるけど、挿入歌だとその辺は一段と厳しいから」
「それならこれを使うてください。歌のみ、演奏のみ、歌&演奏‥‥三曲とも三種類ずつのデータを入れてあります」
 すかさず舵がオーディオを差し出す。実際に監督の前で演奏ができるかどうかがわからなかったために用意してきたという。「本当、気をつかっていただいて――」とADの冷たい視線が監督に容赦なく向けられる。
 二人の様子に苦笑する舵からオーディオを受け取り、ADは部屋を出て行った。
「オーディオはデータをコピーした後に返却するよ。‥‥そうそう。スタッフロールには君達の事を何と表記すればいいかな?」
 残った監督が話を続ける。もしかしたら最も重要かもしれない話題だ。
 ここでトシキは、待ってましたとばかりに胸を張って答えた。
「『【神魂の一族】アニソン(笑)・プロジェクト(仮称)』で! あっ、(笑)と(仮称)も含めてね!」