【神魂の一族】幻惑の宴アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/30〜07/04

●本文

「やぁ〜だ、それだけぇ〜? そんなんじゃ貴方にはあげられないわぁ」
 石造りの城、冷たい空気の謁見の間に、甘ったるく間延びした声が広がる。
「しかし今日はこれが精一杯で‥‥」
「何よぅ、アタシに口答えしようっていうの〜? ‥‥いい度胸じゃなぁい」
 光り輝く宝石に彩られた禍々しい玉座には、女性がふんぞり返っている。人の身ではありえない、桃色のグラデーションをした髪を床にまで届かせた、豊満な美女だ。ただし顔の造形にはどことなく幼さを残しており、体の凹凸を強調する服装とのギャップが、彼女を見る者の興味関心愛情を引き寄せる。
 現に、彼女の前に這い蹲る男は、頭部を踏みつけられるという屈辱にも進んで甘んじるほど、彼女に心を奪われていた。――そう、文字通りに奪われていた。この部屋を満たしている香りは、彼女の口調のようにまとわりついてきて、吸い込んだ者、特に男は、彼女の言葉を素直に受け入れるようになってしまう。
「言ってごらんなさいよぅ。貴方のご主人サマは、だぁれ〜?」
「そ、それは勿論、目の前にいらっしゃる貴女様でございます!」
「そうよぉ。じゃあもうひとつぅ。‥‥アタシはだぁれ?」
「シュティフタ様でございます!」
 血の色の唇がにんまりと笑う。
「よく言えましたぁ〜♪ じゃあご褒美にぃ、ほんのちょっとだけあげるわぁ」
 その女性シュティフタは、男の頭部から脚を下ろすと、今度は強引に顎をつかんで上向かせた。苦しい体勢ながら、男は必死で口を開く。開いた口の中に、怪しく蠢くシュティフタの舌先から垂れた唾液が、ぽとんと一滴、入っていった。
 そして男は慌てて口を閉じる。至福の表情で、口の中のものを味わいつくす。
「うふふ‥‥オイシイでしょう〜? もっと欲しければ、もっと持ってくるのよぉ〜?」
「はいっ、今すぐに!!」
 その唾液は周囲を漂う香りが凝縮されたもの。直接摂取させなければならないという弱点はあるが、まだ回避の策のある香りと比べ、桁違いの威力を持っている。余程の精神力の持ち主でなければ抗う事はできないだろう。
「ふふ‥‥うふふふふふ‥‥きゃははははははははははっ!!」
 去っていった男の愚かさに腹の底からの笑いを投げかけて、シュティフタは傍らに控えるお気に入りの青年を我が身に引き寄せた。

 シュティフタの居城から戻った男は、自宅にある金品をかき集めた。途中、家族に見つかり制止を受けるが、シュティフタの唾液の効果で家族の声は彼の耳には届かない。乱暴に押しのけ、家族が心身ともに傷つく事も厭わず、金品を抱えて家を飛び出した。
 街中では、彼のようにシュティフタの魅了を受けた者が人を襲い、店を襲い、暴れまわっていた。他の誰よりも金品を獲得し、シュティフタの機嫌をとるために。彼女からもっともっとたくさんのご褒美を受けるために。

 ◆

 アニメ【神魂の一族】

『設定』

【世界観】
 いまだ未開の地が多く残る大陸、ハウドラド。
 強大な力を持つ異形の化け物――魔物が跋扈し、人々はいつ襲われるかと怯えながら日々を過ごしていた。ただの人間に魔物と戦い退けるだけの力はなく、ひとたび目をつけられれば、一夜にしてひとつの街が壊滅させられてしまう。
 人々にできた事は、存在するかもわからない神に祈る事のみだった。

 剣と魔法のオーソドックスな西洋ファンタジー。あまり目立つと魔物に狙われるのではないかという考えから、また、対魔物で精一杯であり他国と争うほどの余力はないため、幾つかの国家は存在しているものの、他国を占領して大きくなろうという元首はいない。武器防具や建築等、戦いに関する文化はある程度の水準があるが、全体的な文化レベルは低い。大陸間移動の出来る航海術もない(このため、和風テイストは基本的に無し)。

【神魂の一族】
 フリガナは「みたまのいちぞく」。古き時代に神々と交わった人間達の子孫。個々に持つ紋様を指で宙に描く事で、額にその紋様が発現する。発現と同時に、生まれ持っての力を使えるようになる。弱く力を持たない人間達のためにのみ力を振るう事を絶対の掟としており、逆に言えば、この一族の持つ力こそ人間達が魔物に対抗する唯一の手段でもある。
 その存在は一般の人々には知られておらず、一族以外の者との婚姻も認められない。一族の里がある場所をはじめ、一族に関わるすべては、一族以外の者に話してはならないとされている。
 最近になって一族の長が代替わりし、積極的に魔物討伐を指示している事から、一族の存在は噂として徐々に一般の人々の間に広まりつつある。

【シュティフタ】
 虫や動物に似た姿の魔物よりも更に強力だとされている、人間型の魔物。誘惑の術に長けており、己の欲望を満足させるために人間を使役する。現在は古い城を占拠し、近くの街の男を片っ端からたぶらかしている。素早さを生かした速攻と、意のままに動かせる髪が、戦闘における特徴。

●今回の参加者

 fa0531 緋河 来栖(15歳・♀・猫)
 fa0658 梁井・繁(40歳・♂・狼)
 fa1986 真田・勇(20歳・♂・猫)
 fa2333 三条院・棟篤(18歳・♂・ハムスター)
 fa2738 (23歳・♀・猫)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa4029 牛野みるく(20歳・♀・牛)

●リプレイ本文


 だぶだぶマントの女の子顔美少年フェリオは、その街に入るやいなや、眉を顰めた。
「感じるのか」
「はい、無差別に近い悪意を‥‥」
 ロングコートを羽織った青年クロードに確認されて頷いたフェリオの額には、紋様が淡い光を放っている。今回彼らが赴いたのは魔物に人々が操られている街。警戒の為、既に能力を発揮させていた。
「あらあら〜、確かにこれはひどいです〜」
 白く長い髪を揺らして、カウベルがおっとりと喋る。その声に促されて横を見た剣士シグルーンは、目を丸くした。まさに男が商店を襲おうとしているところだった。
 シグルーンの行動は素早かった。男が反応するよりも早く駆け寄り、当て身をくらわせた。ぐったりとした男を連れて戻り、カウベルに言い放つ。
「浄化してやってくれ」
「は〜い」
「それと、今度からは気づいたならもっと早く言ってくれ」
「はいはい〜」
 わかっているのか、カウベルはにこにこしたまま、宙に指先で紋様を描いた。同時に、彼女の額にも紋様が浮かび上がる。そして気絶中の男に向き直ると、首に下げていた虹色の石のアミュレットを、男の額に触れさせた。
「石よ、魔の抱擁からこの者を解き放て〜」
 アミュレットが輝いた。輝きは徐々に広がっていき、遂には男の体全体を包み込む。
 程なくして輝きが消え、男は目を覚ました。
「おたくは魔物に操られてたんや。覚えとるかいな?」
 太い寸胴のような体型をしたジョニーに顔を覗き込まれ、男は戸惑ったがそれも束の間。質問の意味を理解すると、頷いた。
 もっと話を聞いてみると、操られていた間に自分が何をしたか、ある程度は覚えているらしい。魔物の居城の場所も知っているとの事。街の入口付近でたむろしているよりは男の家に入れてもらい、そこで情報を聞かせてもらう事となった。
「今回の魔物って、美人でスタイルがいいって話だけど‥‥カウベルさんだけじゃ大変だし、あたしの魅力で操られてる人の目を覚まさせてあげようかなあ」
 踊り子のような服装をしたクリスが、腰まである太い三つ編みを揺らして提案した。「どう?」と隣にいた幼顔の少女ルーナに感想を聞いてみると、ルーナは満面の笑みを浮かべてこう答えた。
「そうだね、いいんじゃないかな。わたしには負けるけどね」
 そして軽く上体を逸らす。顔と年齢に見合わぬサイズの胸が、ぽよんと揺れる。
 負けを悟り、クリスはうなだれた。自分の胸を見て、少しはあるのになぁと悲しくなる。そんな彼女を慰めようとして、カウベルがクリスの肩を叩いたのだが‥‥振り向いたクリスの視界に飛び込んできたのは、彼女のたわわな胸だった。
「‥‥あたしだって、いつか必ず大きくなってやるぅっ!」
「いきなり何だ、騒がしい! 人が集まってきたら面倒な事になるだろうがっ」
「ふーんだ、クロードくんこそ、そんなに怒ってばかりいたら皺が増えちゃうんだから〜っ」
 八つ当たりである。
「‥‥また‥‥甘い香りがする‥‥なんだろう?」
 一歩退いて彼らを眺めるシリル。彼はローブのフードを引っ張って、更に視野を狭くした。


 一面に咲き誇る、白い鈴蘭の花。甘い香り漂う中、そびえ立つは荘厳なる古城。石の城壁には蔦が這い、その城が生まれてからの歳月を物語る。街と繋がる道はきちんと整備されたものではなく、それでも惹かれてしまうのは城の持つ魅力ゆえか――それとも主の術中に嵌っているのか。
 やってきた一行は、鈴蘭の香りにむせ返っていた。スカーフで口元を覆い平気な顔をしているジョニーを見て、クリスが羨ましそうに三つ編みのリボンを弄ぶ。
「気をつけなくてはならないのは、やはり魅了された一般市民だな」
「数が多いと、さっきみたいにはいかないですしね」
 白い花畑を見渡しながら言うシグルーンに、フェリオが同意する。そこへ、足の踏み場がないため仕方なく鈴蘭を踏みながら、クロードが歩み寄って会話に加わる。
「この香りの漂う所が向こうのテリトリーだとすると、俺達の動きが既に察知されている可能性がある。まずは俺達自身が魅了されないよう、細心の注意を払わないといけないな」
 城はまだ静かなものだ。余裕の表れなのか、門番の姿すらない。
「さっきの人の話からすると、魅了されちゃうのは男の人だけじゃないんだね。わたしも気をつけないと」
「そうそう〜、これを身につければ〜魔物の力に対抗しやすくなると思います〜。是非持っていてください〜」
 クルスが武器であるブーメランを携えて気合を入れれば、その気合がどこかへ飛んでいってしまいそうな口調でカウベルが虹色の石を全員に配る。その石はカウベルの能力で作られた、魔物の力を封じる力を持つ石だ。強力な魔物である人間型にどれだけ通じるかはわからないが、それでもある程度は軽減してくれるはず。だから皆はカウベルから石を受け取った。フェリオ以外は。
「僕の能力をもってすれば、回避できると思うんです」
 カウベルは折角作ったのだし、せめて御守として持っていてくれと食い下がったが、フェリオはにっこり笑って「僕、反抗期なんです」と言い放ち能力を発動させると、事もあろうか単独で、城めがけて走り出した。
「情報を持って帰りますから、皆さんは休んでいてください!」
「待て、離れたら危険だぞ!!」
 どんどん遠ざかっていく姿にいち早く反応したのはクロードだった。カウベルは持ち前ののんびり加減で反応が遅れたし、他の者は、鈴蘭の花を食べ始めたジョニーを止めるのに気をとられていた。
 それでも慌てて追いかけたが、クロードが城内に足を踏み入れた途端、入口への道を塞ぐようにして、魅了された人々が大挙して姿を現した。倒れ伏す事で鈴蘭の陰に隠れていたのだろう。
「‥‥やるしかないのか」
 人々は手に刃物を持っていた。彼らに傷を負わせる事なく事態を収集するのは不可能に近いのではなかろうか?
 気が進まないながらも、各自が武器を構えたその時だった。
「我が血に眠りし者よ‥‥。来い! エアリエル!」
 頼りなげな声から確かな自信に満ちた声への変化と共に、風が優しく人々をなぎ払う。頭上に風の精霊を呼び出したシリルのフードが風を受けてはずれ、露になった額には紋様が輝きを放っていた。


 クロードは目を見開いた。眼前に広がる光景に身震いした。まるで蜘蛛の巣に囚われた蝶の如く、桃色の髪に四肢を囚われたフェリオの体が、謁見の間に飾られていたからだ。髪の持ち主が楽しそうに手を伸ばしてくるのもいけなかった。精神的な圧迫感に、息をする事すら難しくなっていく。
「うふふふふ‥‥怖がらなくていいのよぅ、痛い事はなーんにもないからぁ。むしろ気持ちいいコトだらけよぉ?」
 玉座に腰掛ける彼女が、今回の討伐対象、魔物シュティフタ。無表情でその隣に立っている青年は彼女のお気に入りなのだろう。
 いや、お気に入りだった、と言うべきか。彼女は今まさに新しい玩具を手に入れようとしていて、それが新たなお気に入りとなるのだ。
「フェリオ、目を覚ませ!」
「ムダよぉ。あの子はアタシの香りにあてられてぇ、身も心もアタシ色に染まっている真っ最中なんだからぁ。それよりもぉ‥‥ねぇほらぁ、こんなにどきどきしてるのよぅ」
 いつの間に玉座を離れていたのか。立ちすくんでいたクロードに息がかかるほど近くで、シュティフタは彼の手を取り、豊かな胸元へと導く。
「離せっ」
「いいのぉ? アタシの虜なのよぉ、あの子はぁ」
 振り払おうとしても、見た目からは想像もできない力でしかと掴まれている。しかも彼女は、暗に示している。自分に逆らえば、代わりにフェリオをどうにかしてしまう、と。
 悩めば悩むほど、部屋には鈴蘭の香りが充満していく。思考が緩慢になっていく。瞼が重くなる。
「うふふ‥‥可愛い子‥‥」
 せめてもの抵抗で固く閉じられた唇すらもこじ開けて、香りよりももっと甘い液体が、クロードの体内に注がれる。やがて喉が鳴り、腕がだらりと垂れ下がった。

「フェリオ! クロード!」
 シグルーンを先頭に、一行は謁見の間へなだれ込む。
「やぁだ、もぅ来たのぉ?」
 桃色の髪。幼顔の美女が、玉座の上で何かにまたがったまま振り返る。振り返ったおかげで見えた玉座に座る者の姿は、瞳に生気のないクロードだった。
「扉は開かないようにしてきたさかい、あの人らを使う事はできひんで」
「んもぅ。これだから人間って役立たずよねぇ、足止めもできないなんてぇ。これももういらないから持ってってくれるぅ?」
 クロードに抱きついたまま、髪を使って彼女が放り投げたのは、用済みと言われた青年だった。その衰弱した様子に、カウベルが駆け寄って能力を発動させる。
 ふとクルスが見上げれば、いまだ目を覚まさない囚われのフェリオの姿があった。
「これからいいとこなんだからぁ、邪魔しないでねぇ」
 言いながら、シュティフタは焦点の定まらないクロードに体を押し付ける。するとクロードの両手が動いて、彼女を抱きしめた。
「あん♪ もっとぉ♪ もっと強くぅ♪」
 恍惚とするシュティフタ。
 ぷつん、と何かの切れる音がした。
「クルス! 髪を切ってフェリオを取り戻せ! あの馬鹿を正気に戻すのはそれからだっ」
 巻き起こった強風が甘い香りを吹き飛ばす。クロードの不甲斐なさに怒り心頭に達したシリルだった。
「まかせてっ。ジョニーくん、援護よろしくっ」
「しゃぁないなぁ。ちぃとまちぃや」
「切り裂け〜!」
 回転しながら飛んでいく、二つの十字型ブーメラン。取り付けられた刃は髪を切り裂き、フェリオの体が前のめりに垂れ下がる。そこへジョニーの撃ったボウガンの矢が飛んでいき、ひっかかっていた部分に着弾した。落ちていくフェリオ。すかさずシグルーンが受け止めに走る。
 しかしその頃には、氷の刃を持ったクロードがシグルーンを狙っていた。フェリオを抱いたシグルーンでは対処ができない。首筋を狙う氷の刃。はじいたのは、ルーナの棒術だった。額に輝く紋様。とっとっとっ、と爪先立って弾みながら、棒を返してクロードの胸を打った。
「だらしないなあ〜。ほら、シャキッとして!」
 そのまま腰の辺りを引っ掛けて、カウベルのほうへ投げる。彼女はすぐさまクロードと、助けたフェリオの魅了解除に入る。
「街の人を苦しめた報いは受けてもらうぞ」
「できるかしらぁ?」
 瞬間移動にすら思える身のこなし。シグルーンは壁に激突してようやく、シュティフタに蹴り飛ばされたのだと気づいた。
 代わりに向かっていくのはルーナ。けれど彼女の行く手を髪が阻む。かまわず進むと、意を解したようにブーメランが飛んできて道を作った。
「くらえっ、テンエイト・ブロー!!」
 百八発の突きが一度に繰り出される。のけぞったシュティフタに、やったかと思ったが。
「今のはちょっと痛かったぁ」
 さほどこたえた様子もなく、彼女は立ち上がった。今度はこっちの番だとばかりに髪をなびかせ――突然顔を引きつらせた。
「いやあああっ、アタシの髪を食べないでよぅっ!」
 ジョニーがその髪を咀嚼していた。切り落とした部分ではなく、まだ彼女に繋がっている部分だ。「うぇっ、マズっ」と吐き出したのを見て、髪にもよほどの自信があったのだろう、目尻に涙が溜まっている。
「さて。悪いが『悪夢』の時間は‥‥終わりだ」
 ゆらりと立ち上がる影。正気を取り戻したクロードだった。
「ちっ、待たせやがってっ」
「行くぞシリル!」
 吹き荒れる風。混じる氷の粒。香りはかき消され、髪も切り刻まれて、見るからにシュティフタは不機嫌になっていく。そんな彼女の、力任せな目にも留まらぬ打撃は、同じ速度の世界に生きるルーナが受け止める。シュティフタの不意をつくように、クロードはルーナの影から飛び出して、氷の剣を振り下ろす。これはすんなり避けられる。だが計算のうちだ。
「マキシマム・サイクロン!」
 極限まで溜められた闘気を纏ったグレートソードが、反対側からシュティフタを襲う。今度こそ吹っ飛んだ彼女は、もうもうと立ち込める粉塵の中、自分の頬を撫でた。そこにはじわりと血が滲み始めていて、彼女の白い指先を紅く汚した。
「‥‥アタシの顔に、傷がぁ‥‥」
 シュティフタは呆然と自らの血を眺めていた。一行は警戒を解かないながらも、何事かと彼女を観察し‥‥次の瞬間、強く奥歯を噛みしめた彼女に、誰もがぎょっとした。それまでの彼女はどんな時も強者の余裕に満ち溢れていたが、今の彼女は、傷つけられた事に対する憤怒と怨恨で綺麗な顔を歪ませていた。
「許さない‥‥絶対に許さないんだからぁっ! 塵すらも! 残らないほどに! 徹底的に滅ぼしてあげるわよぉっ!! お望み通りにねぇぇっ!!」
 拳をぶつけ、一発で壁に穴をあける。鈴蘭の花園と空が見え、光が差し込む。シュティフタは穴から外へ――クルスやルーナの能力を駆使しても追いつけない速度で、雲の彼方へと消えていった。
「‥‥ごめんなさい」
 そうして静かになった謁見の間で、カウベルに膝枕されたフェリオの小さな声が響く。
「あんな強敵、ひとりでどうにか出来ると思うなんて、自信過剰だったよね‥‥」
「あなたはまだまだ成長途中なのですから〜‥‥同じ間違いを起こさなければよいのですよ〜」
 体力消耗の激しい彼の銀髪を、彼女は何度も何度も撫でたのだった。

●CAST
クルス:緋河 来栖(fa0531)
シグルーン:梁井・繁(fa0658)
ルーナ:真田・勇(fa1986)
ジョニー:三条院・棟篤(fa2333)
フェリオ:晨(fa2738)
シリル:カナン 澪野(fa3319)
クロード:藤井 和泉(fa3786)
カウベル:牛野みるく(fa4029)