【神魂の一族】試練の業アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 8.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/31〜11/04

●本文

 神魂の一族の里がある位置は、一族以外の者に知られてはならない。
 一族の中には老齢であったり、逆に若すぎたり、また他の何らかの事情で戦えない者もいる。万が一にでも魔物に襲われてしまったら、最悪、里が滅ぼされてしまいかねない。
 故に、掟は里の者に禁じている。里に関する全てを里の者以外に語る事を。
 だが魔物の中に探知系の能力をもつ者がいないとも限らない。掟だけでは安心できない。退治から戻った者が安らげるように、妨げなく次代を育てられるように、里は結界で覆われている。結界を生じさせるのは一族の長の役目――いや、結界を生じさせられる事が、長となる為の最も大きな条件だった。

「‥‥それは、真ですか、兄上様」
 祭壇の前に膝をつき、銀の髪を床に流し、神に祈りを捧げながら、その少女は呟いた。
「ああ。俺もまさかと思い本人達を呼んで確認してみたが、見間違いなどではなさそうだった」
 広い部屋。高い天井。居るのは兄と妹の二人だけ。一族の長たる少女と、長と里を守る任にある青年と。
「では『彼ら』が動き出したという事でしょう。元々が歓楽を好む者達です。魔物達の後ろで大人しくしている事に飽いたという事くらい、想像に容易い‥‥」
「表に出てきたのはまだ一人だけだが、それを早いうちに潰しておかなければ、二人目、三人目と出てくるだろうな。そうなったら歴史の繰り返しだ」
 苦虫を噛み潰したような、青年の表情。彼に背を向けている上に両の目を閉じている少女には見えるはずもないのだが、彼女には彼の気持ちが手に取るようにわかっていた。
 暫しの無言。
「‥‥勝てると、思いますか」
 口を開いたのは少女。
「‥‥‥‥一人だけなら総力戦で何とか勝てるだろう。だが二人目が出てきた時点で、今の一族の面々では‥‥」
 うなだれる青年。それだけ、『彼ら』の能力は大きなものなのだ。しかも『彼ら』は、自らの欲求を追及する為には手段を選ばない。人々の命と暮らしを守りながら戦わなくてはならない神魂の一族と比べて何のしがらみもなく、どんなに人の道からはずれた行為も臆さず実行に移す。
 『彼ら』を超える能力を持たなければ、敗北するのは必至だ。
「仕方ありませんね。兄上様、やっていただけますか」
「あれをやるか。――やらざるをえないんだな」
「ええ、刻は多くは残されていません。わたしが場所を作ります」
 祈りは終わったのか、少女は立ち上がる。着物の各所を飾る金属どうしがぶつかり、軽やかな音を奏でた。
 
 まっすぐ伸びる通路を、かかとを鳴らして歩く。歩くというよりも走るに近い速度だ。
 一人は、一族の中で長の次の地位を誇る青年。そして青年の後ろに二人、よく似た顔の男女が青年に遅れないようにして続いている。
「確認しておく。殺さなければかまわん。腕がもげようと足が千切れようと、生きてさえいれば回復能力のある者達の力でどうにでもなる。いいか、お前達の役目は、相手を極限状態にして能力を引き出す事だ」
「はい、ルベール様」
「我ら二人、心得ております」
 青年の命に、後ろの二人が淀みなく応える。はきはきとした受け答えに、青年も満足気に頷いた。
「ルー」
「はい」
「ラッド」
「はっ」
「俺が引き出したお前達の力、存分に揮え」
「「仰せのままに、ルベール様」」
 三人の指先が空中をなぞる。ほぼ同時に額へと浮かび上がる紋様‥‥だが額だけにとどまらず、紋様は頬を伝って首を通り、胴を抜けて四肢の先まで伸びていった。

 ◆

 アニメ【神魂の一族】

『設定』

【世界観】
 いまだ未開の地が多く残る大陸、ハウドラド。
 強大な力を持つ異形の化け物――魔物が跋扈し、人々はいつ襲われるかと怯えながら日々を過ごしていた。ただの人間に魔物と戦い退けるだけの力はなく、ひとたび目をつけられれば、一夜にしてひとつの街が壊滅させられてしまう。
 人々にできた事は、存在するかもわからない神に祈る事のみだった。

 剣と魔法のオーソドックスな西洋ファンタジー。あまり目立つと魔物に狙われるのではないかという考えから、また、対魔物で精一杯であり他国と争うほどの余力はないため、幾つかの国家は存在しているものの、他国を占領して大きくなろうという元首はいない。武器防具や建築等、戦いに関する文化はある程度の水準があるが、全体的な文化レベルは低い。大陸間移動の出来る航海術もない(このため、和風テイストは基本的に無し)。

【神魂の一族】
 フリガナは「みたまのいちぞく」。古き時代に神々と交わった人間達の子孫。個々に持つ紋様を指で宙に描く事で、額にその紋様が発現する。発現と同時に、生まれ持っての力を使えるようになる。弱く力を持たない人間達のためにのみ力を振るう事を絶対の掟としており、逆に言えば、この一族の持つ力こそ人間達が魔物に対抗する唯一の手段でもある。
 その存在は一般の人々には知られておらず、一族以外の者との婚姻も認められない。一族の里がある場所をはじめ、一族に関わるすべては、一族以外の者に話してはならないとされている。
 最近になって一族の長が代替わりし、積極的に魔物討伐を指示している事から、一族の存在は噂として徐々に一般の人々の間に広まりつつある。

【シュティフタ】
 虫や動物に似た姿の魔物よりも更に強力だとされている、人間型の魔物。前回で体に光の矢が刺さったが、仮面の奇術師が連れ去った為、生死は不明。今回は登場せず。

【仮面の奇術師】
 シュティフタが「パパ」と呼び慕う男。本当に血の繋がりがあるかどうかは不明。顔の上半分を隠していた仮面の下、額には、紋様を持っている事が前回で判明。携えているのは30cmほどの銀の杖のみ。主に火に関わる力を使うもよう。今回は登場せず。

【ルベール】
 神魂の一族、現在の長の実兄。長と里を守り抜く事を使命とする、一族のナンバー2。その能力は高く、剣を振るう姿は雷神と称される。

【ルー、ラッド】
 ルベールの直属の部下で、双子。ルーが姉、ラッドが弟。双子だけあって意思の疎通がずば抜けている。

●今回の参加者

 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa0531 緋河 来栖(15歳・♀・猫)
 fa1058 時雨(27歳・♂・鴉)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa3599 七瀬七海(11歳・♂・猫)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)

●リプレイ本文


 古びた、そしていかにも重そうで頑丈そうな扉の向こうは、意外にも広い部屋だった。何もなく、ただ広い。天井も高い。
 全員が部屋に入ると、両脇に控えていた男女が、扉を閉めた。
 中央付近に白い鎧の青年が立っている。手指にまで紋様が現れているのが遠目でも確認できる。
「長殿の御前だ、控えろ」
 青年が誰であるか、全員が知っていた。青年の名はルベール。一族の長の実兄だ。
「始める前に名乗ってもらう。簡単な能力説明もつけろ。誰にこの試練を課したか、管理しておく必要があるんでな。ルー、記録を」
 ルーと呼ばれた女性も、軽装ながら明らかに武装している。ポニーテールを揺らしながら、彼女はペンを構えた。
「俺はジョーカー。能力は爆発かな」
「クルスだよ♪ 自分でも自分以外でも、宙に浮かせる事ができるよ〜」
 まずは相手が誰だろうと臆さない二人が前に出る。とりあえず見目はよい少年と、大きなブーメランを二つも抱えた少女。
「ウィルだ。空間をいじれる」
 続いて、ルベールではなくルーに視線を送りながら、女性的な容姿の少年が短く述べて。
「シーグです。相手の精神に働きかける事での攻撃を得意としています」
 無表情の青年が淡々と自分を紹介した後に、
「フェリオです。周囲の悪意を感じる事ができます」
 ウィルとはまた違う方向に女性的な容姿の少年が柔らかく言った。
「僕はシリル‥‥。その、風の精霊を呼べるよ‥‥」
(「リュート‥‥。テレパシーと、サイズ‥‥」)
 フードで顔を隠している少年と少女は二人して人見知りで、近い血縁関係にある互いを拠り所とするように支えあっている。少女の声は全員の頭に、直接ささやかに響いてきた。
「クロードといいます。冷気を操る事が可能です。――ルベール様、俺はできればあなたと1対1でやりたい」
 最後に、折っていた膝を伸ばし、立ち上がってから、ロングコートの青年が要望する。
「クロードくんが敬語使ってるー!」
「当然だ」
 付き合いのあるクルスが茶々を入れたが、素っ気無く返された。
「駄目ですか」
 フェリオに宥められながら嘘泣きをしているクルスには目もくれず、クロードはルベールを睨みつけた。睨みつけるという表現が一番しっくり来るほど、その眼光は鋭かった。
「‥‥いや、いいだろう。お前の相手は俺がする。他の者はルーとラッドに相手をしてもらえ」
「「ルベール様!?」」
 想定外だったのか、ルーもその弟のラッドも、驚いた声をあげる。
「クロード。先日『あれ』の報告をした者の一人だったな。『あれ』を見て足元が揺らいだか」
 しかし部下達の訴えは退けられた。ルベールは一旦両の掌を合わせ、それを左右に引き離していく――ばちばちと火花を鳴らしながら、彼にしか扱えない、彼だけの、雷そのもので形成された剣が、彼の前に発現した。
 雷の剣と何よりルベール自身の放つプレッシャーに、寒気を覚えたのはクロードだけではなかった。まさに全員が、絶対的強者を前に、己の小ささを感じ取らされていた。
 そして絶対的強者はルベールだけではない。
「「‥‥仰せのままに」」
 ルベールと同様、紋様第二段階覚醒者であるルーとラッド。ルーの右手と左手には色違いで一そろいの曲刀が。ラッドの背後には彼を護る盾のように十を数える魔法陣が。
「来い! エアリアル!!」
 既に走り出したクロードに横目で激励を送りながら、シリルが高らかに風の精霊を呼び出した。


 唸る暴風。それそのものが巨大な刃である竜巻は、触れたものを微塵に切り刻んでしまう‥‥はずなのに。ルーは曲刀を構えてまっすぐにシリルを狙ってくる。彼女の上下左右をラッドの魔方陣が護っているからできる事だった。
「うぐっ‥‥」
 脅威の速度を保ったまま竜巻を通り抜けたルー。予想を上回り突然前方に現れた彼女の攻撃に対し、シリルは反応するよりも早く胸に×印の傷をつけられていた。
「シリル様!」
 すぐ横にいたフェリオが悲鳴に似た声でシリルを呼んだ。シリルの肉に刃を埋めたままで、ルーが切れ長の瞳をフェリオに向ける。
「‥‥悪意を感じ取ると言っていたな。私の悪意、感じ取る事ができたか」
 感情の隠された瞳から、苦痛に顔を歪めるシリルから、フェリオは目を逸らせない。逸らせないまま、ふるふると首を左右に振った。
「だろうな。私はお前達に悪意を持っていない。だからお前は私を感じ取れない。これからの戦いには致命的だ、役には立たない」
「役に‥‥立たない‥‥?」
「『彼ら』の中にはまったく悪意を持たずに命を貪る者がいるだろう。そういう連中だ。『彼ら』にとってお前は普通の人間と大差ない――いや、なまじ力を持っているだけに、格好の餌だな」
「そんな‥‥」
 ようやく、ルーの刃がシリルから離れる。ぽたぽたと垂れる赤い雫。その雫に濡れた刃がフェリオに向けられた時、フェリオの中に強い感情が飛び込んできて、咄嗟に身を引いた。間髪をいれずに、リュートの大鎌が上空から勢いに乗って振り下ろされた。小さな体に似つかわしくない大きな武器を使う少女は歯をくいしばり、ルーに視線を突き刺す。ルーもまた、咄嗟に身を引いていて無傷だった。
「悪意以外も感じ取れるようになるといい」
 床に突き刺さったはずの大鎌は、引き抜かれる流れでルーに向かう。だがルーは階段状に次々と移動する魔法陣を足場にして、あっという間に上空へ登っていった。
 追いかけようとするリュートだったが、その手段がない。迷っていると、足が地面から離れた。
「飛ばすよ!」
 クルスだった。彼女がリュートに浮遊をかけてくれたのだ。
(「ありがと‥‥」)
 リュートからの心の声がクルスに届く。その声には、近親者を案じる気持ちも詰まっていた。クルスはただでさえ少ない自分の衣服の布地を裂いて、フェリオと共にシリルの手当てを始めた。

 上空では、もっと前に浮遊をかけてもらった者達と、魔法陣を操るラッドとの戦いが繰り広げられていた。
 ジョーカーの振るった小刀を受け止めた魔方陣が、ぎぃんっと聞き難い音を立てる。他の魔方陣はラッドの頭上から、ジョーカーだけでなくシーグやウィルに向けて光の玉を打ち出す。
 その光の玉は、威力はさほどでもないが数が多く、避けるのが非常に困難だった。それでも、主に喰らっているのはシーグのみで、ウィルは自分の周囲の次元を歪めて玉の軌跡を逸らしているし、ジョーカーに至っては持ち前の素早さで回避しつつ小刀で玉を叩き落した。
「スピードで俺に勝とうっての?」
 おどけた調子で言うジョーカー。しかしその目は決して笑ってなどいない。ギュイィィィ‥‥と小刀を唸らせて、己の内でたぎるオーラをその小刀へ集めていく。
「オーラ‥‥バーストぉぉぉっっ!!」
 ラッドを囲む魔法陣の間を縫って接近したジョーカーは、オーラで光り輝く小刀を、渾身の力を込めて叩きつける。――しかし。
「‥‥何ぃ!?」
 涼しい顔をしたルーが、それを受け止めていた。二振り持つ曲刀の一振りで。
「ぐぁっ!!」
 もう一振りの曲刀が、皮鎧で覆われていない部分のジョーカーの肌をえぐるように切り裂いた。痛みに顔をしかめたジョーカーへ、今度は曲刀二本の柄が、揃って脳天に叩き込まれる。衝撃で彼の視界は霞み、半ば無抵抗に真下へ落下した。けたたましい衝突音と共に大きなクレーターが出来上がる。
「待ってよ、お姉さん!」
 魔法陣を飛び降りて追撃に向かうルーを、ウィルがテレポートで追いかける。大技を使うには、ルーとラッドが近くにいてくれたほうが効率がいい。彼は自分自身を囮にしてでも彼ら姉弟を一箇所に固めようとしていた。
 上空では、ラッドが何事かを唱え始める。魔方陣が定められた位置に並んでいく。シーグがラッドの精神に働きかけて詠唱を邪魔しようとするも、はじかれて終わる。それでも一瞬の隙にはなった。その一瞬に、飛んできたリュートの大鎌が、冷たい光を煌めかせた。
(「よくもシリルに!」)
 けれどそれは、詠唱の完成とほぼ同時となってしまった。魔方陣でできた魔方陣。リュートの視界を光が覆う。声を出せないリュートの悲鳴は、痛みとなって全員の頭を貫いた。

 結界の中の閉じられた空間。里に影響を与える心配もなく、全力で戦う事ができる。
 ‥‥そして、全力で戦った結果が、この凄惨たる有様だった。
 自らの無力さを嘆くフェリオ。血の止まらないシリル。背中を強打したせいでうまく呼吸のできないジョーカー。不利を承知でルーとラッドをひとつ所に集めようとして挟み撃ちに合い、曲刀の餌食となったウィル。至近距離から強力な魔法を喰らい、全身が焼け爛れたリュート。
「切り裂けぇ〜っ!」
 今すぐにでも泣き出しそうな声で、クルスがブーメランを投げる。目標はラッド。魔方陣で防御できないよう、シーグが両腕を広げ指先を動かし、ラッドの精神にちょっかいをかけて集中の邪魔をする。
「これであなたの心は捕まえた‥‥」
 だがそれまで。ラッドの精神は堅牢で、シーグには彼だけで手一杯だった。ルーが曲刀でブーメランの軌道を変えるのも黙って見過ごすしかできなかった。
 ひっ、とクルスが息を呑む音。背中にルーの肘がめり込んでいる。そしてそれに気をとられたとシーグが我に返った時には。ラッドの詠唱は完成していた。

 魔方陣から放たれる幅広の光。横たわりながらもその光を感じたリュートがうっすらと目を開ける。誰かの背中が見えた。
(「ダメ‥‥そんな身体で憑依したら‥‥」)
 弱々しくリュートが呼びかけるも、既に発動しているものへの制止は無意味。
 風の壁が光を遮り、地に伏す者達を護っている。それは精霊を自身の身体に憑依させたシリルの技――いや、シリルの制御を離れて暴走を始めた精霊の技。
「シーグくん、シリルを抑えてっ!」
 悲痛な叫びも風にかき消されていく。その光景を遥か彼方から見物する感覚に、シリルは囚われていた。
(「誰か死ぬのはもう嫌!」)
 急に彼の足を襲ったぬくもり。綺麗な亜麻色のおさげはどこへ行ったのか。角度のおかしい右腕。従妹のリュート。
「う、あ‥‥うああああああっ!?」
「今だ!」
 心の隙間に侵入するシーグの力。暴走精霊の強い抵抗が彼をも蝕もうとする。
 刃を砕かれていたはずのリュートのサイズが再生していく。彼女はサイズをよすがに立ち上がった。その指先に浮かぶのは第二段階の紋様。
 だがそこまで。リュートは意識を失った。
 それを機に、暴走を抑えたシーグが倒れ、精霊を支配下に置いたシリルが倒れた。彼らにも、進化した紋様が浮かんでいた。


「向こうも終わったようだな」
 ルベールはうつ伏せになったクロードから背を向けようとした。が、足が動かない。はっとして足元を確認すれば、足が氷に捕らえられていた。その氷はまさしくクロードより生じ、ルベールの元まで伸びてきたもの。
 冷気が周囲を急激に冷やしていく。不敵に笑うルベールは剣で足元の氷を砕いた。
「‥‥来るか」
 クロードの短剣を覆っていた氷は全て剥がれ落ちていたはずだった。けれど今や短剣は透き通る氷で自らを装い、それまでに彼が見た事のない鋭さと美しさを兼ね備えた長剣となっていた。紋様は変化を遂げ、彼の中の力を目覚めさせている。
「俺は‥‥俺の貫くべきものは‥‥っ!」
 冷気がごうと鳴ってクロードを包み、剣を包む。膨れ上がる冷気ごと、クロードはその剣を振り下ろした。
「動かされるな! 自ら動け! 己の意志を、希望を、心情を、他者と何より自分自身に縛られないように!」
 ルベールも剣に注ぐ力を増量する。彼の剣は周囲を巻き込んで放電し、飲み込もうとする。
 ガキンッ。派手な金属音。剣と剣が噛み合い、互いの刃を喰らおうとする。ますます膨大化していく、冷気と雷。
 ピシッ。ルベールが微細な音に気づく。己の剣に、本当に小さいものだが、ヒビが入った音に。
「やるな‥‥だが、俺にも意地があるっ!!」
 ルベールの全身で紋様が光を放つ。雷の波が彼を守るように彼の肌の上を流れ、雷で構成された剣にもより一層の力を与えていく。
 次に何が来るのか、動物的な勘でクロードは察知した。ルベールを真似るように、クロードの全身もまた光を放つ。
「「はああああああっ!!」」
 腹の底から声を、力を絞り出す。足りない。まだまだ足りない。力がほしい。必要なんだ。力を手に入れなければならないんだ。力を持たなくてはならないんだ。
 ――己という存在を成り立たせる為に!
「っ!?」
 はじけた冷気がルベールの剣を華麗に弾き飛ばした。剣は回転しながら遠くへ飛び、地面に突き刺さる頃には、氷の塊の中に閉じ込められていた。
 焦りの生じたルベールは、追撃が来る前に何とか2本目の剣を生成しようと試みる。
 が、生成が終了する前に、クロードが倒れて動かない事に気づいた。
「‥‥この世代では一番の有望株かもしれないな。絶対の掟に疑問を抱けるという事は、その疑問が払拭された時、何よりも強固な意志を抱けるという事だ」
 息がある事を確認して、悲しそうに笑いながら、ルベールはそう言った。

●CAST
ジョーカー:相麻 了(fa0352)
クルス:緋河 来栖(fa0531)
シーグ:時雨(fa1058)
リュート:美森翡翠(fa1521)
ウィル:ウィン・フレシェット(fa2029)
シリル:カナン 澪野(fa3319)
フェリオ:七瀬七海(fa3599)(代役)
クロード:藤井 和泉(fa3786)