【物語】問いかけアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 11.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 12/12〜12/17

●本文

 黄色い空は、燃え盛る焔を映して紅く染まる。
 逃げ惑う人々の悲鳴をかき消すように、馬のいななきと駆ける音、刃を振るう者達の雄叫びが幾度も響く。
 勝ち鬨。
 嗚咽。
 殴打。
 囁き。
「悦んでいるのね」
 腰まで届きそうな金の髪を持つ少女が語りかける。鏡写しの姿を持つもう一人の少女へと。
「ええ。ここには死が溢れているもの。‥‥貴女も悦んでいるのね?」
「ええ。新しい命が産まれてきたの。‥‥残念ながら母親は、貴女が悦ぶ事になってしまったけれど」
 二人の少女が居るのは、戦場と同じ場所でありながら違う場所。薄皮一枚だけ隔てた異なる世界。見えるのに触れない。そこに居るのに居ない。隣に立っているようで、星と星の距離ほど離れている。
「見つかったのかしら?」
「さあ、どうかしら。判断するのは私ではないわ。そして貴女でもない」
「そうね。私達は伝える為に見て廻るだけ。いつか戻って語る為に」
「きっと待ち望んでいるわ。私達の還りを。詩が教えてくれるもの」
 黄昏時は終わりを告げて、深い闇の広がる夜へと変わる。二人の少女は彼方から聞こえてくる、彼女達にしか聞こえない詩に導かれて、次の場所へ赴く。
 いつか戻ったその時に、語るべき物語を求めて。

 ◆

 【物語】はドラマです。「二人の少女が様々な世界・場所・時間を巡り、廻った先の光景を眺めて『物語』を探す」という形式をとっています。参加者の皆さんには、ひとつのテーマに沿って「物語」となるストーリーを作成してもらいます。異なる世界・場所・時間を舞台とする複数のストーリーを作ってもらってもかまいませんが、描写はその分だけ分割されます。

 ハッピーエンドに限りません。サッドでもバッドでも、ストーリーの主軸となる人物が幸せになろうと救いがなかろうと、かまいません。そこに「物語」があれば。
 多少の描写はCG処理でどうにかなります。ですがあまりにも無茶すぎるものは「『物語』がない」と判断され、失敗となる可能性があります。また、CG処理ができるからといって、半獣化及び完全獣化をする事は許可されません。
 上記の導入部分に登場している二人の少女はNPCとして扱います。PCが彼女達の役を演じる事はできませんし、ストーリーに関わらせる事もできません。

 募集をするのは、演技者のみです。一部配役などの都合であれば、声のみの出演もOKとします。

 今回のテーマ:「問いかけ」

●今回の参加者

 fa0611 蒼月 真央(18歳・♀・猫)
 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa2832 ウォンサマー淳平(15歳・♂・猫)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4002 西村 哲也(25歳・♂・ハムスター)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4717 金緑石(21歳・♂・狐)
 fa4852 堕姫 ルキ(16歳・♀・鴉)
 fa4916 (18歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文


 金の髪を持つ鏡写しの少女が二人。向かい合い、手と手をを組む。長い睫毛をおろし、狭間の世界に居ながらにして、遠い隣の異世界の声に耳をそばだてる。
 ――皆の思う『楽園』って何なの‥‥?
 彼女達は両の瞳を見開いた。


 凹凸の残る道を古ぼけて傷だらけの馬車が行く。二頭の馬の手綱を御者台で握る少年二人。茶色の髪と、灰色の髪。
 後方に廻れば、荷台の縁に腰掛け足をぶら下げている少女。黒い髪と同じ色の古書を抱えた彼女は、どんどん遠ざかるもまだ終わらない轍を、眺めている。
「まだ着かないのか! 俺の研究が滞るじゃないか!」
 幌の内側、荷台から御者台へと銀の髪の青年が叫ぶ。
「騒々しいな、幾つまで数えたかわからなくなってしまったよ。また最初からやり直しだ!」
 他の全員に比べて少しだけ良い身なりの、いや、良い身なりに見せようとしている青年の座る足元から、一枚の銅貨が転がっていく。それは数本のナイフを磨いていた少女の膝に当たった為、少女の手から青年に返された。
「そんなに根を詰めていては、また頭痛の種となりますよ。座長さん」
「数えぬほうがより強い頭痛を伴うのだよ、薬師殿。その言葉は学者殿に言ってやってくれ」
 お抱え薬師から注意が飛ぶが、青年の心には届かない。彼には金を数える事のほうが重要だった。そして彼が顎で示したのは先程の銀髪の少年が爪先で何度も床を叩く様子。少年の前では、竪琴を奏でる中性的な容姿の少年と、その曲に合わせて腕を棚引かせ拍を打つ、際どい服装の少女‥‥但し肌寒いのか上着を羽織ってはいる。
「おい、五月蝿いんだよ。思考に耽る事もできないじゃないか」
 学者の少年が文句を言うが、音楽は変わらず馬車を満たす。
「聞いてるのかっ」
「‥‥五月蝿いのはそっち」
 ナイフを磨く手を止めない、道化師の姿を解かない少女から、反論が飛んだ。
「練習は必要‥‥それでご飯食べてるの‥‥邪魔をするトアが悪い子‥‥」
 芸を磨かねば明日はない。その論を出されては、芸人としての価値は薄い学者の少年には敗北しかない。
 苛つきの矛先は向きを変える。地平線を眺める本の少女へと。
「お前も、いい加減その本見せろ。大層な装丁の上にその古さ。さぞかし上質な知識が詰まってるんだろう? 渡せよ、俺が解析してやるから」
 少女は陽炎のように佇むばかり。本を渡す素振りなどちらとも見せず。だがそれが学者の少年を更に刺激したのは言うまでもなく。
「渡せ! お前だって『楽園』に行きたいんだろう!?」
「やっ‥‥」
「彼女に乱暴はやめてください!」
 一座の雑務をこなす少年、それまでは本の少女を愛しげに眺めていた彼が、本を取り上げようとした学者の少年を後ろから羽交い絞めにする。二人の少年は体力も腕力も拮抗している。決着はつかず、揉み合いも続く。
 石に乗り上げた時のように弾んで、馬車が止まった。御者台から灰色の髪の少年が荷台に入ってきて、学者の少年を拳で張り倒した。

 彼らは、楽園を目指す旅芸人の一座だった。

 やがて辿り着いたとある街。何の変哲もなく、特色もなく、よくある街だ。特筆すべき娯楽施設もなく、故に街の住民は酷く小さな旅芸人の一座であっても、最大級の歓迎をした。
 本を開き口上を述べる少女。転がる玉の上、何本ものナイフでジャグリングをする少女から投げ渡されたナイフを、灰色の髪の少年が更に投げる。ナイフは学者の少年の頭部すれすれの位置に突き刺さる。竪琴を奏で吟じられる恋の詩。少女の舞が切ない想いを観る者の胸に刻み付ける。
 どんな芸でも、溢れる笑顔、響き渡る歓声、拍手の嵐。これらは芸人にとって最大の賛辞に等しい。見物料で膨れる皮袋は座長の心も懐も温かくした。

「ねぇ‥‥ここに住まない‥‥? きっと‥‥ここが、『楽園』なんだと思うの」
 楽しいと思った。幸せだと感じた。安らぎを得た気がした。ならばこの街こそが自分達の求める「楽園」であると、本を抱いた少女は笑顔で述べた。
 けれど彼女に浴びせられたのは、猜疑や不安や困惑の眼差しだった。
「どうしたの‥‥? 皆はここが『楽園』じゃないって思うの‥‥? じゃあ皆の思う『楽園』って何なの‥‥?」
 いつも俯き加減の少女が、強い感情を剥き出しにして問いかける。
「ならばなぜ、お前はここを『楽園』だと思う!?」
 受けて立ったのは学者の青年。声を荒げるのはいつもの事だが、今回ばかりはいつもと違うと皆には伝わった。
「『楽園』の場所を特定する為に、俺が日々どれだけの苦労を費やしているか! こんな所にやすやすと『楽園』があってたまるものか! そうだろう、そう思うだろう皆も!?」
 この問いにも、皆は互いの顔を見比べるばかり。答は、得られなかった。

「やはり俺には信じられない。‥‥この街は平和すぎる。俺はこの剣と鎧で皆を守ってきた。だがこの街ではそれができない。俺の居る意味がない。この街では、俺は腑抜けになってしまう」
 一座の騎士を自認してきた茶色の髪の少年は、夜毎紅い月に見下ろされながら頭を抱え、
「『楽園』とは、そもそも場所を示すのでしょうか。それとも心の置き所を示すのでしょうか。既にその時点から、わかりません‥‥」
「だよねぇ。急にあんな事を言われたって、わっかんないよう‥‥」
 理解の及ばないものから逃れるように、吟遊詩人と踊り子は技を磨き続け、
「こんな、こんなみすぼらしいままでいる。これが『楽園』であるわけがない。私には欲しいものがある。やりたい事がある。その為にはもっと金がなくてはならないんだ!」
 座長は何度数えても変わりようのない金の量を何度でも数えては落胆し、
「『楽園』って何なのか‥‥まだ、よく、わからない。‥‥だからこれからも答えを探して、旅を続ける‥‥」
 道化師の少女は静かに紅い月を見上げた。

 薬師の少女は本の少女の部屋を訪ねた。
「私は‥‥貴女がここに留まってしまうと考えただけで寂しいです」
「なら、一緒に‥‥」
「‥‥私達は『楽園』を求める者。私が考える『楽園』は、皆が笑顔になれる所。この街では確かに貴女は笑顔になります。でも他の皆さんの中には、笑顔になれない人もいます。つまりここは」
「‥‥嫌、言わないで‥‥お願い、言わないでっ!」
 耳を塞ぎ、眼を塞ぎ。少女の抱いていた本が大きな音を立てて木の床に落ちる。
 彼女がそこまでしたにもかかわらず、薬師の少女が告げたのは、非情なる決別の言葉。
「ここは、『楽園』ではありません」

 小さくなっていく馬車。誰も振り返りはしない。黒い古書を抱えた少女の旅は終われども、彼らの旅は終わっていないのだから。
「ここは『楽園』‥‥そうだよね?」
「そう。そうだよ、僕にとってはキミの居るこここそが、『楽園』さ」
 黒い古書を抱きしめる少女。少女の隣を選んだ少年は、少女の肩を抱いた。

●キャスト
・ピエロ/由良:蒼月 真央(fa0611)
・ナイフ投げ/武:鷹見 仁(fa0911)
・騎士/クレイン:ウォンサマー淳平(fa2832)
・踊り子/絵里:春雨サラダ(fa3516)
・雑務/直人:倉橋 羊(fa3742)
・座長/隆俊:西村 哲也(fa4002)
・薬師/ユリ:ジュディス・アドゥーベ(fa4339)
・学者/綾貴:金緑石(fa4717)
・本の少女:堕姫 ルキ(fa4852)
・吟遊詩人/章:柳(fa4916)

 時代はうつろう。


 小さな施設に朝を告げる小鳥の囀り。
 いつかどこかに在ったような顔ぶれ。そんな彼らが其々の活動場所へと赴く慌しさ。普段通りの朝だった。
「出かけた筈じゃ?」
 施設を運営する青年が、戻ってきた少年少女達を見て首を傾げた。
「門の所に倒れてた」
 灰色の髪の少年の腕の中には、黒い髪の、黒い古書を抱えた少女。気を失っているのか眠っているのか、一見しただけではわからない。
「ひとまず様子を見るさ。お前らはもう行かないと、遅刻する」
 少女がどこの者なのか、なぜ施設の前に倒れていたのか。少女の体の具合の他にも気にかかる事は多かったが、皆は出かけないわけにもいかなかった。少女にはぬくもりがあった‥‥確かに生きている、その事実でひとまず己を落ち着けた。

 由良は焔を恐れていた。焔は大切な人やものをいとも容易く奪い、壊してしまうから。
 どんなに小さな火種でも、きっかけさえあれば大きく育つ。凶器に変わる素質がある以上、それはどんな状態であっても安全だとは言えない。
「由良、大丈夫?」
「何が? ――ああ、平気平気♪」
 調理実習、調理室。コンロに在って鍋を煮立たせる、紅い焔。どんなに見ないようにしても、由良の眼には焔が映り、耳には悲鳴が聞こえてくる。焼かれていった家族の悲鳴。家族を失った自分の悲鳴。
「‥‥っ!」
 吐き気を覚えた由良は、調理室を飛び出した。

「よぅ。お前、反撃してこないんだって?」
 細い路地裏。数人の少年に囲まれる少年、クレイン。
「今さぁ、むしゃくしゃしてんだよねぇ。殴らせてくんない?」
 にたつく少年達。柔道部に籍を置くクレインなら、負ける事はないだろう。
 けれど彼は拳を振り上げられずにいる。少年達の拳と脚がクレインに襲い掛かる。
「それでお前の気が済むのかよ」
 数分後、クレインは無傷でその場に立っていた。虚ろな視界では、灰色の髪をかき上げつつ、武が拳についた血を倒れた少年達の服で拭っていた。
「ダチを見捨てたんなら、優先したものをほったらかしにすんなよな。でないと俺みたいになるぜ」
 起き上がって来た者の頬を殴る。唇が切れたらしく血が飛んだ。
 クレインが大会出場を優先して、不良に絡まれた親友を見捨てた時と、酷似する光景。

「お花くださいなー♪」
「いらっしゃ‥‥あら、絵里さん。章さんも」
 商店街にある花屋。看板娘であるバイトの少女が振り向いた先には、同じ施設の仲間がいた。
「今朝の子にね、お見舞いをと思って。見繕ってもらえるかな、ユリさん」
「はい、おまかせください」
 章も絵里も、ユリと同様に裕福ではない。安くて見栄えのする花を、ユリは手早く選んでいった。
「今日はバンドの練習は?」
「用事があるって抜けてきた」
「私は補修受けてたんだけどさ、急に先生が怒り出してもう帰れって」
「ダメですよ絵里さん。また踊りだしたんでしょう? さあできましたよ」
 礼を言い、セロファンで包まれた花束を受け取る絵里。絵里と章の笑顔に、ユリもまた笑顔になった。

「他人のくせに口出しするなよっ」
 罵声で、本の少女は目覚めた。罵声の主を宥めようとする声も、小さいながら聞こえてくる。
 布団の中で上半身を起こす。程なく白湯を持った青年が襖を開けて入ってきた。青年は少女に、少女が発見されてからのあらましを告げた。
「‥‥ありがとう。ええと」
「隆俊だ」
「隆俊、さっきのは‥‥」
「聞かれてたか。――綾貴といってな、うちで面倒を見ている子だ。ここを出て行きたいらしくて遅くまでバイトしてるんで叱りつけたら、逆ギレさ」
 肩をすくめる隆俊を、少女は遠くを眺めるような眼差しで見つめた。そして気づいた。彼の唇の端に、血。
「誰にも言うなよ。肺にがたがきてるのさ。治療する金は、勿論ない。あればあいつらの為に使ってる」
 口止め料だと、彼は少女の手に甘い飴を乗せた。

 特に異常のなさそうな少女の様子には、誰もが安堵の表情を見せた。一人ずつ自己紹介をして、最後に少女の番となった。
「私は‥‥『楽園』を探してるの。‥‥ここが、あなた達の『楽園』なの?」
 本を抱きしめ、彼女は彼女を見つめる一人一人の瞳を見つめ返す。
「あなた達にとって『楽園』って何なの?」
 けれど彼女に浴びせられたのは、猜疑や不安や困惑の眼差しだった。

「皆いきなり質問されて戸惑ってるだけなんだ」
 膝を抱える本の少女に、直人は声をかけた。上擦っているのは、彼女に心配以上の想いを抱いたから。
 隣に並んだ直人の瞳を、少女は覗きこむ。
「あなたにとっての『楽園』は何?」
 どこか冷えた、けれど一縷の望みにすがる様な。
「『楽園』なんて、自分の手の届く範囲以外で探したらただの『夢』だよ。‥‥今の自分を生きるのに精一杯だしね、ぼくは」

 顔を突き合わせ、少女からの問いかけを己の深い所に問いかける。
「認め合える仲間と、一緒にいるって事‥‥一緒にいられる場所が、『楽園』じゃないかな‥‥? 」
 章が意見を出し、
「うん。仲間がいて、私がいて、こんな素敵な事は無い。多分、ここが『楽園』だと思う」
 絵里が同意して、
「みんなと一緒に笑顔で居れるこの場所が‥‥寂しさも悲しみも拭ってくれるこの場所が‥‥あたしの『楽園』なんだよ」
「ここが俺の『楽園』だ。俺を必要としてくれる皆がいて、皆がいてこそ力を発揮できるここが俺の『居場所』」
 由良とクレインが呼応して、
「『みんなが』の部分が本当は一番大切なんですよね〜」
「‥‥俺も、本当は皆と一緒に居たいと思う」
 ユリの言葉に、綾貴が呟き、
「俺達にとってはここが『楽園』だって事だな」
 武が全てをまとめた。

「自己満足かもしれない。それでも俺は、『独りじゃない』って事を言ってやりたかった。何があったって、受け止めてくれる人がいるって事を」
 金よりも大事なものがある。隆俊は柔らかな光を降らす月を見上げていた。

「灯台下暗し、かな」
 直人は笑って、少女の瞳を覗きこむ。黒い瞳に安らぎを覚えた刹那、その瞳が細められる。
「‥‥変わらないね」
 誰も変わらない。気づいていなかっただけ。

 『楽園』は、ここに在る。


「見つかったのかしら?」
「さあ、どうかしら。判断するのは私ではないわ。そして貴女でもない」
「そうね。私達は伝える為に見て廻るだけ。いつか戻って語る為に」