クリスマスドラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/26〜12/30

●本文

 皆さん、お久しぶりです。私を覚えていらっしゃいますかな? ――ああ、いえいえ、覚えていらっしゃらないのであれば、それはそれで結構。確かに覚えていただけていたならば嬉しいですが、例えそうでなくとも、私には何の不利益も及びません。私の望みは別の所にあるのですから。
 さて、クリスマスというものを、皆さんはどのようにお考えですかな。教会で行われるミサに参加される方もいらっしゃるでしょうし、ケーキやご馳走に舌鼓を打たれる方もいらっしゃるでしょう。聖なる夜と呼ばれるクリスマス‥‥しっかりと計画をたててある方もいらっしゃる一方で、行き当たりばったりの方もいらっしゃるはず。
 ‥‥いえ、今はそれを話していただかなくとも結構。私が知りたいのは計画ではないのです。私が知りたいのは‥‥そう、聖なる夜にこそ祝福されたいと願う男女の愛の交換こそ、私の望むものなのです。
 これからあなたが体験する事柄を、ほんの少し、覗き見させていただきたい。今日はクリスマス。イルミネーションで彩られた街に否が応でも心ときめき、小雪がちらつけばさらに雰囲気も盛り上がりましょう。そう、例えばこちらの方々のように――

「あら、これもいいわね♪」
「え〜? まだ買うの? もう持てないよー」
「何言ってるの、まだまだ足りないわよ」
「いくら使う気さぁ。そもそもなんで、折角のクリスマスなのにショッピングで潰さなきゃならないのさーっ」
「あーもう、うるさいわねっ!! ‥‥‥‥仕方ないじゃないの。他に二人で過ごす方法が見付からなかったんだからっ」
「食事とか映画とか、色々あるじゃない」
「そっ、そんなに密着して面と向かってたら私が真っ赤になってるのがすぐにばれちゃうじゃないの!」

「どうした?」
「ん、ちょっと肌寒いかなって」
「そうか。じゃあ、俺が暖めてやろうか」
「暖めて、って‥‥‥‥ひぁっ!?」
「‥‥わかるだろ? 俺、こんなに熱くなってるんだ。お前の事もすぐに暖めてやれるさ」

「はい、プレゼント」
「わぁ、何だろう♪ ――これ、って」
「気に入ってもらえたかな」
「‥‥ほんとにこれを受け取ってもいいの?」
「ああ。でなきゃ贈らないさ。これからずっと、僕と一緒の時間を過ごしてくれるかい」
「うん‥‥うん、勿論!」

 ――とまあ、、これに限らず、若者同士の情熱を垣間見る事がこの年寄りの数少ない楽しみ。‥‥悪趣味と思われますかな? しかし私は、自分を恥じてはおりません。愛を告げるという事、愛を受け入れるという事、愛し合うという事。これらはとても素晴らしく、私もその愛の片鱗に触れたいだけなのです。
 ですから、ほんの少しでよいのです。‥‥よろしくお願いしますよ?

●今回の参加者

 fa0103 シグフォード・黒銀(21歳・♂・竜)
 fa0160 アジ・テネブラ(17歳・♀・竜)
 fa1390 アンリ・バシュメット(17歳・♀・狐)
 fa3351 鶤.(25歳・♂・鴉)
 fa3849 クーリン(12歳・♂・犬)
 fa4786 K・ケイ(19歳・♂・鴉)
 fa4826 ミズホ(13歳・♀・猫)
 fa5270 藍原 凛音(16歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●彼と彼女の場合A
 シグフォード・黒銀(fa0103)は慣れないスーツを着てネクタイを締め、緊張した面持ちで正座していた。ちゃぶ台を挟んで彼の正面で腕組みしているのは、彼の隣ではらはらしているアンリ・バシュメット(fa1390)の父親だ。
 一触即発以外の何物でもない空気を乗り越えて最初に発言したのは、父だった。
「例の番組を見た」
 深く低く、怒った声。
「いい度胸だな小僧。全国ネットで娘にプロポーズするなど‥‥しかも親である私達に無断でだ」
「それは、申し訳なかったと思っています」
 神妙に頭を下げるシグ。けれど父は立ち上がると身を乗り出し、分厚い掌でシグの横っ面を張り倒した。
「わかっているのか、貴様は大事な娘を公衆の面前で傷物にしたんだぞ!」
「父さんやめて! 母さん、父さんを止めて!」
 シグは頬を押さえながら上体を起こす。すると今度は反対側の頬を殴られた。切れた唇から滲んだ血が父の拳に付着して、それを目にしたアンリが二人の間に割って入った。
「殴るなんて酷いわ!」
「いいんだ、アンリ。こうなるとは思ってたし、覚悟もしてきた。だからお前は下がっててくれ」
 アンリをそっと押し返すと、シグは彼女の父を正面から見定めた。
「親父さん! 俺、絶対にアンリを幸せにします! だからお嬢さんを‥‥アンリを俺にください!」
「その口でよくも言えたものだっ」
「ぐっ!?」
 シグの体はそれなりに鍛えられている。厳格な風貌ではあるが各所に衰えの見え始めた父の拳など、受け止めようと思えば容易くそうできるだろう。しかし決して受け止める事はなく、避けようともせず、むしろ自分から殴られに行っているようにすら見える。
「俺の事なら何発殴っても構いません! でも俺本気なんです!! 何発殴ってもいい! 芸能界から身を引けと言うなら引退だってします!!」
「アンリから身を引かんか!」
「それだけはできません!」
「この‥‥っ!!」
 何度も殴られ、血の滲む場所は増えていく。額。瞼。頬。顎。父の拳からも血が滴り始める。二人共息を荒くして、体全体で酸素を補給している。アンリは手出しも口出しもできず、じっと我慢して、大好きな二人のやり取りから目を離さない。
「わかってください、親父さん! 他の誰でもない、アンリに、俺の隣にいてほしいんです! アンリも俺と同じように思ってくれてるんです!」
「貴様、知った風な口を!!」
「必ず幸せにします! だから、俺達の結婚を認めてください!」
 頭部が畳に擦り付けられるほどの土下座。恥も外聞もなく、愛する彼女の父に認めてほしい、ただその一念で。
 父が歯噛みした。いまだ固く握り締められた拳は小刻みに震えている。涙を零しそうに見えたのはアンリの気のせいか。父は背を向けたかと思うと、座敷から出て行こうとして襖に手をかけた。
「親父さん‥‥」
「その言葉実行できなければ、その時こそは許さん」
「‥‥父さん」
「‥‥娘の成長とは、早いものだな」
 振り返る事なく、父は出て行く。母が心配そうに追いかけていった。

「無茶しすぎよ」
 傷口を消毒しながら、アンリはシグに言った。
「でも嬉しかった‥‥今日は本当に最高のクリスマスだわ」
 認められて結婚したかった。愛する彼を、愛する父に認めてほしかった。その為にこんな傷まで負ってくれたシグを、一層愛しく思わずにいられようか。
「アンリ、愛してる‥‥世界で一番‥‥誰よりもな」
 傷に響かないよう優しく抱きしめるアンリの耳元で、シグが囁く。アンリは少しだけ体を離した。
「まだ言ってなかったわよね‥‥メリークリスマス‥‥」
 もう一度抱きつく。今度はキスを交わしながら。

●彼と彼女の場合B
「ありがとうございましたーっ」
 露出度のやや高い衣装も、熱いスポットライトを浴びるアジ・テネブラ(fa0160)には何と言う事もない。
「OK! 本番もこの調子で頼むよ皆っ」
 ステージで頭を下げる彼女に客席から声が飛ぶ。このクリスマスライブを取り仕切るディレクターの声だ。リハーサルがようやく終了した合図でもある。アジは舞台袖に控えていたマネージャーからタオルを受け取ったが、びっしょりかいていた汗を拭き取るよりも先に彼女がした事は、携帯のメールチェックだった。
「何もなし、か。そうだよね‥‥」
 携帯の示す時間は、愛しい人、クーリン(fa3849)のライブが開始する頃合を示していた。彼も彼女と同じ、シンガーとしての予定が詰まっている。‥‥本当は二人で聖夜を迎えたかったけれど。歌う事、聞いてもらう事が好きな二人である上に二人の間柄が秘密とあっては、どうしようもなかった。
 姉ちゃん、と幼さの残る顔立ちで笑いかけてくる彼を思い出し、アジの胸が締め付けられる。
 その時、携帯が震え始めた。それがクーリンからの電話であると察したアジは、人目を避けて大道具の陰に隠れ、通話ボタンを押した。
「クーリン!?」
「あっ、姉ちゃん? あのさ、今から始まるんだけど‥‥俺のライブ、絶対見ててね。そこでメッセージを送るから」
「メッセージって――」
「ごめん、もう行かなきゃ。絶対見てよね、絶対だよ!」
 電話が切れる。すかさず彼女は控え室に飛び込んでテレビをつけた。彼のライブが始まり、彼の歌うクリスマスソングが響く。
 気づけばアジは泣いていた。ライブの最後、クーリンの歌うラブソングで、どうしようもなく胸が熱くなっていた。

 じきにアジのライブも開始された。最後に彼女が歌ったのは予定になかったクリスマスソング‥‥おかげでアカペラだ。だがだからこそ、彼女の切ない想いは客席の人々に涙を流させた。

「よかったですよ今日のライブ!」
「あ、ありがとうございます」
 ライブ終了後、マスコミの突撃インタビューに捕まったアジは、どこかそわそわしていた。上着のポケットに隠して大事に握る携帯で、先程一通のメールを確認したからだ。
 『待ってる』――クーリンだった。早く行きたい。今この瞬間にでも。
 だがマスコミは彼女を解放してくれない。壁時計が時を刻む音がやけに大きく聞こえる。そしてその時計はすでに22時を回っている。この特別な日のうちに、どうしても彼に会いたいのに。かといってマスコミを邪険にはできない。このまま諦めなくてはならないのかと、返事のトーンが一段低くなる頃。
「すみません、これから打ち上げするのでこの辺で」
 バック演奏の一人が、場の雰囲気を悪くする事なく、アジを裏に連れて行った。
「急いでるんでしょ。後は何とかするから」
「は‥‥はいっ」
 走る。走る。ヒールの高い靴はすぐ脱いで。人が変な目で見てくるがどうでもいい。
 滑り込む。公園の、時計台の下。スポットライトのように照らされて。‥‥誰もいない。時計は日付が変わる寸前。息が苦しい。胸が苦しい。足が痛い。心が痛い。
「くーりん‥‥っ」
 もうダメだ。溢れてくる涙が止められない。アジはその場にへたりと崩れ落ちた。
「姉ちゃん!」
 背後から呼ばれる。恐る恐る振り向けばそこに。鼻の赤くなったクーリンが。
 時計は日付が変わる寸前。まだ、聖なる夜。

●彼の場合A
 都内の練習用スタジオの一室を、アコースティックギターの生音が満たしていく。観客はただ一人。自らのギターに合わせて歌い始めた鶤.(fa3351)の前で椅子に座す、たった一人だけの為のライブだ。
 ――新曲を考えてきたんだ、良かったら‥‥聞いてくれないか?
 普段は無口な鶤がそう切り出したので、今は静かに耳を傾ける彼女は、大層驚いていた。バンドに所属する以上は歌を歌ったり楽器を演奏したりする事は普通だが、本番以外で聴ける機会はなかなかない。それに新曲だというのなら、自分がその曲を聴く最初の一人なのだろう、と。

愛が降り続く この枯れた大地にも
降り積る涙は無くても 愛で生きていられる

例え触れられないとしても この距離感
今は 大切にしていたい
君を傷付けたくは 無いから

 バンドに熱を上げているせいで、鶤は彼女をあまりかまってやる事ができない。メンバーの都合がつくなら、デートを切り上げてでも練習に行くほどだ。
 勿論、そんな態度が彼女に不満を抱かせ不安にさせると、鶤にもわかっていた。器用でない自分に、彼女を心安らかにさせる為に何ができるだろうかと考えた時。思い浮かんだのはやはり、歌だった。
 今宵はクリスマスであり、己の気持ちを彼女に伝えるには丁度いい。寂しい想いをさせてしまっている彼女に、この気持ちを。

I love you
抱締めたい気持ちは 永遠
I need you
いつかは必ず この手に‥‥

 ゆったりとしたテンポの、囁きのようなバラード。十二分に心のこもったその歌が終わると、彼女は立ち上がって拍手を贈ってくれた。鶤はギターを置き、嬉し涙と共に拍手し続ける彼女に、そっと歩み寄る。逃がさないように抱きしめて、外はね気味の短い髪を撫でる。目尻の涙を指ですくい取る、もしくは舐めとる。
「‥‥喜んで、もらえたか‥‥?」
「うん‥‥うん‥‥っ」
「‥‥愛している。同じ想いを、これからも共に‥‥奏でていたいんだ‥‥」
「私っ、私も‥‥」
 どんなにすくっても舐めても、彼女の涙は後から後から流れ出す。仕方のない奴だと、鶤は自分の額を彼女の額にこつんとぶつけた。鶤の長い髪が、カーテンのように二人の表情を隠す。
 ‥‥それから随分と長い間、二人はその体勢から動きはしなかった。

●彼と彼女の場合C
「あのさ‥‥クリスマスって暇? もし良ければ二人でパーティーしない? 準備もしなきゃいけないんだけど」
「クリスマスパーティーですかっ!? いいですねっ♪」
 K・ケイ(fa4786)と藍原 凛音(fa5270)がこんな感じでパーティ開催を決定したのはクリスマスの数日前。もっと言うなら知り合ったのは半年前だし、付き合い始めたのは三ヶ月前。実に初々しいカップルで、まだまだ清い間柄だ。
 事前に本でチェックしておいた料理の材料をカゴに入れていく凛音を、傍で見守るケイの表情の何と穏やかな事。小さいながらもツリーを買い、飾りも揃えた。時折何事か叫びながらも必死で自分の為に料理してくれる凛音に笑いをこらえながらの飾りつけは、心の休まる時間だった。
「あ、ケイさん。てっぺんの星は残しておいてくださいね」
「じゃあ星は二人でつけようか」
 まだ手が触れるだけで鼓動が早くなる二人。それがまた、互いを実感できて、妙に嬉しく感じる。
「‥‥変なにおいしない?」
「そういえば、本に『焦げやすいので注意』って‥‥ああああっ!!」
 あわててキッチンに駆け込む姿は一層可愛らしく、ケイは腹を抱えて背中を丸め、絨毯に転がった。

「メリークリスマス、凛音。乾杯」
「メリークリスマス、ケイさん。乾杯です♪」
 会話を楽しみたいという凛音の希望で、グラスの中身はノンアルコール。折角の日だから、しかと記憶にとどめておきたい、というのもあったようだ。まだ歴史の浅い二人。知らない事はお互いにまだまだ多く、沢山話す事でそれをひとつずつ知っていく事は、些細ではあるがとても大切で、とても幸せな行為だった。
「そろそろかな」
 話し疲れ、やがて一息ついた二人。ケイは隠していたひとつの箱をテーブルに乗せると、凛音のほうへ押し渡した。
「はい、クリスマスプレゼント。開けてみて」
「あ‥‥」
 緩やかに箱を開ける。小さな箱に入っていたのは、小さなオルゴールだった。凛音は早速ねじを巻いてみた。徐々に澄んだ音が流れてくる。
 凛音の瞳が丸くなった。流れてきた曲は、ケイがライブで始めて演奏した曲――つまり、凛音と出会うのキッカケの曲だった。
「色々悩んだんだけど、凛音がイイネって言ってくれた曲だから。それにこいつが凛音と会わせてくれた訳だしね」
 テーブルに肘をつき指を組むケイ。嬉しそうに何度も何度もねじを回しては曲を聴きふける凛音を眺めている。自分の選択は間違っていなかったと確信しながら。

 それでもパーティーはいつかは終わる。
「片付けは明日でいいよ」
「でも‥‥んっ」
 皿を重ね、流しに運ぼうとする凛音の手に、ケイの手が乗る。少し困った顔で見上げてきた凛音へ、ケイは今度は唇を重ねた。ぽっと朱色に染まる頬。強張った体は、しかしそれ故にすんなりと抱き上げられる。
 優しく下ろされたのはサイドの小さなランプだけが灯された、暗がりの中のベッド。ぎしっと軋ませて、凛音の体をケイの四肢が囲む。しなやかに動く指で胸元を隠している紐を解けば、すっきりとした白い肌と鎖骨が現れた。
「ケ、ケイさん‥‥?」
「‥‥ダメ、かな」
 眼鏡を外した後の手は、流れるような動きで服の下に滑り込む。ひやりとした感触に、凛音の思考は沸騰せんばかり。熱は彼女の瞳を潤ませ、涙はケイの心をさらに掻き立てる。たまらなくなって抱きしめてくるケイを、凛音も、震えながらもきつく抱き返した。
 了承さえもらえれば、彼の行動を拒むものは何一つなく。凛音の肌のまだ見ぬ部分を求めて突き進む。
「綺麗だよ‥‥凛音。愛してる」
「あ、わ、私も‥‥ふぁっ!?」
 乱れる吐息。もはや制御のきかない心と体。互いの存在を、気持ちを、確かめる為、二人は求め合う。


 今宵は特別な夜なれど。
 愛と愛の営みこそ、特別なもの。