温もりが恋しくてアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 1人
期間 12/24〜12/26

●本文

 会いたいな。
 唐突にそう思う事、ありませんか?

 何気ない日常。
 ふとした瞬間。
 その人がたまたま隣に居ない時間。
 ‥‥恋しくて恋しくてたまらなくなる。

 言葉を交わし、
 指を絡め、
 手を繋ぎ、
 腕を組み、
 腰を抱き寄せ、
 肩に頭を乗せ、

 その人の温もりを感じたいと、
 その人が今確かに自分の隣にいると感じたいと、
 思ってしまう事、ありませんか?

 ならば、
 ――感じましょう?

 ◆

「クリスマスの予定って何かある?」
「‥‥ちょっと、みちる。喧嘩売ってる?」
「ええ!? 売ってないよ!? なんでそうなるのっ」
「彼氏持ちにクリスマスの予定尋ねられても、惚気言われてるようにしか聞こえないって言ってんの。こちとら彼氏いない歴イコール年齢だよ? せいぜいが昼間は友達同士で夜は家族、っていうのが相場」
「そうねぇ‥‥ずっとそうしてきたんだものねぇ‥‥私達3人とも。今年も去年と同じだと、たかをくくっていたのに」
「洋子までそういう事言なんてぇー」
「まあ、言ってしまえば独り者の僻みです」
「あたし達を置いて遊びに行くんなら、楽しんでこなきゃ許さないからね?」

「あー‥‥これいいなぁ。美味しそう。あっ、こっちも美味しそうだなぁ‥‥この店、この時期しかアイスケーキ売らないんだよねぇ。これは買いかなぁ‥‥買いだよなぁ‥‥1個で足りるかなぁ‥‥。ん? あの店のメインはブッシュドノエルかぁ‥‥チョコがいい味してそうだなぁ‥‥」

 クリスマスの過ごし方なんて人それぞれですけれども。
 ひとまずはらぶらぶな時間を過ごしてみませんか。

●今回の参加者

 fa0481 石榴(22歳・♀・猫)
 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa2475 神代アゲハ(20歳・♂・猫)
 fa3309 水葉・優樹(22歳・♂・兎)

●リプレイ本文


 クリスマスという一大イベントに向けて街はひと月も前から飾り立てられるが、当日限定の飾り付けやイベントもあり、通りは一際輝いて見える。そして通りよりももっと瞳を輝かせる石榴(fa0481)に、水葉・優樹(fa3309)は「どうぞ」と肘を突き出した。恥ずかしさから暫し躊躇したものの、石榴は優樹の腕に自分の腕を絡ませた。
「えっと‥‥とりあえず見て回るか」
「そ、そうだねっ」
 腕は組んでも、体はなかなか密着しない。余計歩きにくいだろうに、そこが付き合い始めて間もない二人らしい。
「優樹さん、いつもマフラーとかってつけてないよね? 見てて寒そうなんだけど‥‥」
「そうか? 俺は別にこの格好でも結構平気なんだけど」
「ダメだよ。気づかないうちに風邪引いたらどうするの」
「‥‥へぇ、心配してくれるんだ」
 お説教モードに入りかけた石榴に、優樹はニヤリとニコリの中間と表現するしかない笑い方をした。照れくささからだろう、案の定石榴は格段の反応を示し、赤くなった自分をすかさず隠そうとした。となれば絡んでいた腕も離れてしまうのだが、それを優樹は許さなかった。結局、石榴の照れた顔は至近距離で優樹に覗き込まる事となった。
「首元暖かいって、幸せな気分になれるよ? そうだ、僕がマフラーをプレゼントするよっ。‥‥駄目、かな?」
「いや、君からの贈り物なら喜んで受け取るよ」
 自然と上目遣いで尋ねてくる石榴に、優樹は今度こそにっこりと笑いかけた。

「どんなのが似合うのかちょっとよくわからないけど‥‥こんなのとか、どうかな?」
「俺もよくわからないからなぁ‥‥」
 男性向けのブティックではマフラー談義を繰り広げ、
「色とか形とか、希望はあるか?」
「ううん、特には。それに僕は‥‥優樹さんに選んで貰うって事が、一番大事で、嬉しいな‥‥♪」
 煌く髪飾り達の前では、輝く彼女の照れまじりの笑顔。

 駅前のイルミネーションは、通りなど比べ物にならないほどだった。一定時間ごとに色が変わる様はとても幻想的で、通りすがっただけの人達も思わず足を止めずにはいられないほどだった。点在するベンチは二人がけ。大体が恋人達だ。そのうちの一組がベンチから離れたので、優樹と石榴はそこで足を休める事にした。
「駅前って、もっと人が居るかと思ってたよ」
「そろそろ夕食時だからな。レストランに行ってるのかもな」
「そっかぁ」
 石榴の吐息は白く、冷え込んできた事実を如実に表している。暖と、何より優樹を求めて、彼女は優樹の左腕に抱きついた。
 寄り添ってきた石榴に優樹は多少驚いたが、次の瞬間には表情を和らげ、空の右手で紙袋をまさぐった。買ったばかりの髪飾り。花の形をした、色鮮やかな細工物。石榴のつややかな黒髪を撫でるように梳いてからその髪飾りをつけてやると、彼女はまた照れた。
「うん、似合うよ、石榴さん」
「ありがとう‥‥。お返しにさっきのマフラー、僕が巻いてあげる‥‥」
 こちらも同様にマフラーを取り出し、優樹の首に回す。必然的に二人の距離が近くなる。ふわりと、軽く。抱きしめるように。
「っ!?」
 焦って身を引く優樹。石榴が一旦離れる時、柔らかい感触が頬に当たった。何が当たったかは、微笑む彼女を見れば一目瞭然。
「ちょっとだけ、聖夜の悪戯だよっ♪」
 彼女はまた近づいて、マフラーを巻くという行為を続行しようとする。
 愛おしい。改めてそう思った時には、優樹の瞳に映るのは石榴だけだった。右手が動き、石榴の顎に軽く触れる。石榴が見上げてくる。思考などもう要らない。その唇がほしい。
 見開かれた石榴の瞳も、優樹の意図を理解すれば閉じられて。静かに長く、くちづけが始まった。


 弥栄三十朗(fa1323)は花屋で悩んでいた。あくまでも招待の礼としての花束を買いに来たはずが、彼女に似合うだろうか、彼女は喜んでくれるだろうか、そんな事を前提にして選んでいる自分がいる。困惑して、三十朗は苦笑した。
 マリーカ・フォルケン(fa2457)から突然に届いた、彼女のクリスマスライブのチケット。仕事上の付き合いでしかない彼女からなぜこんな物が届くのか、三十朗にはわからなかった。簡単に思いつく理由は「彼女が自分に特別な感情を抱いているから」なのだが、それには自分で首を左右に振った。この理由が事実であったなら勿論、自分にとっては喜ばしい事だ。彼女に惹かれている自分が居る事は否定しないし、否定できない。けれど彼女はとても魅力的な女性であり、だからこそ贔屓目に見ても容姿に優れているわけでもない中年男が、彼女から好意を持たれるなどありえない、と判断した。
 ただの気まぐれであろう。かといって、折角招待されたのに行かないというのももったいない。何よりも三十朗が彼女の歌の信奉者である事は紛れもない事実であるのだから。

 時間があれば来てほしい、とだけ書いた。詳しい事には触れずに。ライブ開始を目前に控え、マリーカは控え室でじっと、出会いを思い出していた。
 この店のように設備の整ったライブハウスではなく、場末のクラブで唱っていた頃。将来への展望など見出せず、音楽だけでは食べていけず、自分には才能があるのかと疑念に苛まれながら、意に沿わぬ酔客の相手をさせられていた。
 そんな時、彼と出会った。何が目に留まったのだろう、彼が演出する舞台の音楽スタッフにと誘われた。それが転機になったのは言うまでもない。
 自分を闇から拾い上げてくれた人だ。あの時からずっと、彼には恩義を感じている。そしてそれ以上の想いも‥‥次第に、一人の男性としての彼に惹かれていく自分を抑える事は出来なかった。彼には既に大切な家族がいて、自分が入り込めるような場所などはないと、頭ではわかっていても。
「マリーカさん、時間です」
「‥‥はい」
 想いが募って、彼にチケットを送った。クリスマスというこの日を、彼はきっと家族と共に過ごすのだろうけれど。スポットライトが落ち、舞台が引けた後、そこに彼が居てくれて、拍手の一つも送ってくれたなら。それが自分にとって、何よりのクリスマスプレゼントになる。
 分の悪い賭け。
 明るく照らされた舞台の上からは、暗い客席がよく見える。どの席もカップルとわかる二人組だらけだ。彼らのように、私もあの人と――

 ピアノ演奏に乗せて、澄んだ歌声が店内に広がっていく。マイクなど不要なほどの声量。幅の広い音域。幻想の世界に連れて行ってくれる容姿。彼女を見出した自分の目に間違いはなかった。彼女の歌に耳を傾けながら、三十朗は心の底からそう思った。今でさえかなりのレベルにある彼女だが、様々な事柄を経験して、これからまだまだ成長していくだろう。その成長をずっと隣で支えていけたなら――
 いや、と三十朗は自身の考えにストップをかけた。この想いは口には出せない。この想いは彼女を苦しめるだけ。ならば今はまだ、歌姫とその信奉者のままでいい。「今はまだ」と、それでもつけずにはいられない自分を愚かに感じながら、壇上で礼をする彼女に、控えめな拍手を捧げた。

「先生‥‥来てくれたんですね」
「ええ。今日の歌、とても素晴らしかったですよ」
 薔薇と薔薇を引き立たせる白く小さな花の花束をマリーカに渡しながら、三十朗は彼女に賛辞を送った。羽織袴を常とする彼が今夜は珍しくスーツにネクタイなものだから、マリーカは上手に三十朗を見られずにいる。
「チケット、ありがとうございました。おかげで素敵な時間を過ごせました。お礼と言ってはなんですが、クリスマスの贈り物としてこれを――」
「先生」
 小ぶりの箱を開けようとした三十朗の手に、マリーカの手が重なる。相手の脈が自分のように速くなっている事を、彼らは気づかない。その脈動で手の感触を味わうのもままならないうちに、意を決したマリーカが顔を上げた。
「‥‥貴方の事を愛しています」
 真摯な告白。三十朗には、心臓を貫かれるような衝撃。想いを表に出さないようにと決めたすぐ後にこれでは、抑えようがない。
 応えたかった。これ以上ないくらいに優しく、マリーカを抱きしめる。彼女の肩に在ったショールが滑り落ち、彼女もまた、驚きと喜びに震えながら、彼を抱きしめる。
 瞬きと共に、透明の涙を一滴流して。


「変なものはやめろって言ったよな?」
 緑川安則(fa1206)がポケットから出した物を見て、鷹見 仁(fa0911)は不機嫌を隠す事もなくそう言った。仁が己の背中で隠しているのは彼の秘密の恋人、女優の葛原みちる。
 一応フォローを入れるなら、安則はただみちるにクリスマスの贈り物をしたかっただけだ。だが彼が贈ろうとしたのは、銃。一般人ならモデルガンだと思うかもしれないが、彼を知る者ならばまず本物だと判断するだろう。そして今回もやはり本物だ。
「USSRトカレフ、中古を日本のヤクザを使える部品で組みなおした再生銃が有名だが、これは38口径に再設計された欧州輸出モデルだ。装弾数は8発、整備のしやすさと汚れに強い安定した性能を持つ銃だ」
「説明始めるなっ!」
「ごめんね。せっかくのクリスマスを騒がしくして。でもみちるちゃんの事を兄様に相談したら、ぜひ応援したいって」
「もっと別の方法で応援してくれよ‥‥」
 鈴のように笑う、安則の義妹、緑川メグミ(fa1718)。げんなりとする仁を押しのけ、みちるの耳元にそっと唇を寄せた。
「この間あげた勝負パンツ‥‥有効に使ってね♪」
「きゃーっ!?」
「どっ、どうしたみちる!」
 みちるが近所迷惑も考えずに大声で叫び出すのも無理はない。メグミの囁きが聞こえていなかった仁が、みちるのそんな反応に驚愕するのも無理はない。安則はこの光景を見て楽しそうに笑うだけ。メグミも心底楽しそうだ。
 仁とみちるは緑川義兄妹から確かに応援されているのだが、一方でどこか遊ばれているのかもしれない。慌てふためく二人を置き去りに、義兄妹は颯爽と車に乗り込み逃げ出すのであった。

 車は海沿いを走る。日没後の冬の海は、夏とはまた別の趣がある。
「みちるちゃん‥‥幸せになるといいな〜」
「有名なアイドルとまだまだ若い映画監督か。先が楽しみだね。‥‥む、もう一つのプレゼント、渡すのを忘れてしまったな」
 仁が本気で怒り出す前に退散したわけだが、おかげで用件をやり残した。かと言って今更戻ってあの二人の時間を邪魔するのも野暮なので、安則は車を前に走らせ続ける。
 車内には暖房がかかっているが、設定温度が高く火照ったのか、メグミは細く窓を開けた。
「ねえ、兄様‥‥ううん‥‥ヤークン。今だけ、今夜だけ昔に戻っていいかな? 母様の再婚で兄妹になっちゃう前の‥‥二人に」
 窓の外、流れる景色に視線を向けながらの問いかけ。目尻には涙が浮かんでいたが、窓に映る安則は前しか気にしていないので、彼女の涙には気づかないだろう。
「不適切な関係は却下だ。美羽に悪いしな」
 案の定、安則は顔色を変える事なく即答した。美羽とは安則の恋人の名であると、メグミは知っている。
「今は美羽のほうが男としては好きだ。だが妹メグの事が好きなのは変わらんさ」
 それは安則なりのフォローであったろう。しかしそのフォローでは、メグミの真の望みは決して叶えられないと告知されたと同じ。
「うん‥‥もちろんわかってるわ。美羽お姉さんは私のとってもお姉さんになるかも知れない人だもん」
 メグミは背筋を伸ばし、振り向いた。ガイドブックを開いた彼女は、確かに微笑んでいた。
「とりあえずこの店へ行くわよ! せっかく二ヶ月も前から予約していた最高級レストラン! ワインも美味しいのあるって評判なの♪ あ、飲酒運転はだめよん。飲むなら代行頼むからね♪」
「はい、姫様。どこへとも参りますよ」
 それが彼女の精一杯の空元気である事は、安則にも痛いほどわかる。だが彼女を彼女の望むように受け入れる事はあってはならないし、そのつもりも今の彼にはない。故に彼はただ、彼女の空元気に付き合って、その我侭に従うしかできずにいる。

 実は自分も稼いでいるほうだが彼もそれなりに凄いんだなぁ‥‥と、みちるは感嘆した。仁が連れて行ってくれたホテルのレストランは、明らかに格が違った。普通ならば高校生だけで行ける所ではない。慣れた様子で注文する彼に、なんだかどきどきしてしまうのだった。
「みちる、こっち」
 美味しい食事を終えて、現在時刻の確認をと早速手首につけているペアウォッチを覗いていると、仁がみちるを呼んだ。一目で人気がないとわかる路地裏だ。何か見つけたのかと思ったが、そうではなかった。仁はコートを脱いでみちるに着せると、即座に翼を生やし、彼女を抱いて空を目指した。
「うわぁ‥‥」
 降りたのは、この辺りで一番の高層ビルの屋上。眼下には光の絨毯、頭上には冬の澄んだ空気と満天の星空。
「綺麗だろ?」
 恋人の喜ぶ姿に自分も喜びながら獣化を解く。その拍子に、ついくしゃみが出た。
「あ、コート」
「いいよ。そのまま着てろ」
「でもジン君が風邪ひいちゃう」
「俺はみちるが風邪ひくほうが嫌だ」
「‥‥着て」
「‥‥着てろ」
 二人は睨み合ったがそれはまさしく犬も食わない類のものであり、放っておけば勝手に仲直りするもの。現に、業を煮やしたみちるは仁に飛びついて、自分ごとコートを着せようと試みた。
 折角の好機、引き剥がすのも勿体無くて、仁は頬を朱に染めながらもここぞとばかりにみちるを抱き寄せる。勝利に耽るみちるがコートの位置調整の為に動くのでくすぐったい。尚強く抱くと、意図が伝わったのかそれとも彼女もその気だったのか、そのままキスのしやすい位置に移動した。

●ピンナップ


水葉・優樹(fa3309
クリスマス・恋人達のピンナップ2006
癸 青龍


マリーカ・フォルケン(fa2457
クリスマス・恋人達のピンナップ2006
緋烏