【神魂の一族】生粋の闇アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 8.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/23〜03/27

●本文

 石造りの回廊。痛いほどに冷え切った空気。かつん、かつん、かつん。踵の音。揺れる赤い髪。まるで紅蓮の炎。瞳の色も赤く。そちらはまるで、滴る血。
 しかし彼は生まれてからこの方、自らの血を流した事など一度もない。彼の名は、ディエル。その力の強大さによって、禍魂の一族の指導者的立場にある者。
「ちょっと、ディエル」
 呼ばれて、規則正しかった歩調が止まる。体ごとではなく、肩越しに、声の聞こえた後方を振り向いた。
「たまにはアタシのとこに来てくれてもいいんじゃないかい? 今晩とかさ」
 床に溜まるくらいに長い、黒く暗く昏い髪。誘うようにウェーブのかかった髪をけだるい動きでかき上げながら、艶なる女が回廊を支える柱に寄りかかっていた。
「行く理由がありません」
「つれないねぇ。――自分の子供、産ませといてさ」
 ぎりぎりのラインまで入ったスリットから、髪とは真逆の色をした足を伸ばし、彼女はディエルに歩み寄った。腕をまわし、ディエルの首に絡みつかせる。
 ディエルの眉間にほんの少し、皺が寄った。甘ったるい香りが鼻をついたからだ。それは彼女のにおい。彼女の調合した、彼女だけが纏う事のできる香り。ディエルの嫌いなにおいだった。
「あんたの望むように産んでやったし、育ててもやってる。少しくらいはご褒美をくれても、罰は当たらないと思うんだけどねぇ? 一族にはあんたの力とアタマを妬ましく思う奴ばっかりだけどさ、アタシはあんたが気に入ってるんだよ。顔と、体と、それにあっちのほうも」
 首から腕が離れる。代わりに体を這いずり回る。道化師のような上下にシャツという姿のディエルだが、その上着の合わせ目から彼女の手が滑り込み、シャツのボタンをひとつ、はずした。
 彼女の侵入に伴い、どんどん深くなっていくディエルの眉間の皺。だがそれも、ちりんちりんという鈴の音で和らいだ。虫を追い払うように無造作な仕草で張り付く彼女を振り払うと、膝を折って、鈴の音を迎え入れる為に両手を広げた。
「エリス」
 ぱっと明るい表情で彼の両手に飛び込んだのは、一人の幼女だった。特徴的な髪の色――根元は黒く、毛先に行くに従って赤くなる――ゆえに、その幼女こそが、女の言った彼女とディエルの子供なのだと知れる。
 幼女がディエルにしがみついて幸せそうなのと、幼女を抱き上げて立ち上がったディエルが微笑んでいるのを見て、女はこれ見よがしに舌打ちした。
「その子に向ける興味の幾ばくかでも、アタシに向けてほしいもんだね」
「ああ‥‥そうですね。思い出しましたよ、貴女に用事があった事を」
 ディエルはここでようやく、女に体を向けた。微笑みは、張り付いた笑顔に変わっていた。
 ひ、と喉から空気を漏らして、女が一歩後退した。ディエルの笑顔に恐怖を感じたからではない。我が子の――エリスの赤黒い瞳が、ただの障害物を見る目つきで母を見ていたからだ。
「そろそろエリスを受け取りに行こうと思っていたんです。シュティフタもいなくなりましたしね。そしてエリスはもう私の腕の中。つまりは」
 障害物とは、取り除く物。
 エリスが瞳を見開いた。

 銀の髪の少女の額に、第三の瞳が浮かび上がった。
「どうした、いきなり? 顔色も悪いようだが‥‥」
 少女は神魂の一族を統べる者。気丈な彼女の事、人前では己を通り抜けたモノを必死で隠しただろうが、今は自室で実兄と二人きり。彼女は即座に自身の紋様を発現させたのだった。
「‥‥っ、探されています‥‥」
「何?」
 心配そうに肩を抱いてくる兄にすがりつき、彼女は苦痛と吐き気をこらえている。額の瞳はぎょろぎょろと動き、見えない何かを視ようとしていた。‥‥否、視えているのだろう。
「これまでにも何度か、探されているような感じはありました‥‥けれどこんな圧迫感は初めて‥‥っ! 今までは陽動だった‥‥? それとも、まさか‥‥練習していた? っ! うああああっ!!」
「シェラ!? くそっ、誰か、誰かいないか!?」
 体を二つに折り曲げる少女、シェラ。彼女が張っている結界によって、神魂の一族の里は外部から隠されている。彼女なくしては里の存続が危うい。
 兄ルベールは隣室に控えているはずの侍女達を呼ぼうと声を張り上げる。それから居ても立ってもいられなくなって、妹を抱き上げた。細くて軽くて小さな妹。
 ――こんな儚い存在に頼らなければならないなんて。
 ぎりっ、と歯が鳴る。ルベールは冷静になるように努めながら、何とか思考を働かせていく。飛び込んできた侍女達に妹を預け、自身は選別の為、部屋を出た。
 そう、選別の為に。シェラの容態を安定させて結界の強化を図るまでの時間を稼ぐ、囮となる者達を。

 ◆

 アニメ【神魂の一族】

 剣と魔法のオーソドックスな西洋ファンタジー。あまり目立つと魔物に狙われるのではないかという考えから、また、対魔物で精一杯であり他国と争うほどの余力はないため、幾つかの国家は存在しているものの、他国を占領して大きくなろうという元首はいない。武器防具や建築等、戦いに関する文化はある程度の水準があるが、全体的な文化レベルは低い。大陸間移動の出来る航海術もない(このため、和風テイストは基本的に無し)。

【神魂(みたま)の一族】
 古き時代に神々と交わった人間達の子孫。個々に持つ紋様を指で宙に描く事で、額にその紋様が発現する。発現と同時に、生まれ持っての力を使えるようになる。弱く力を持たない人間達のためにのみ力を振るう事を絶対の掟としており、逆に言えば、この一族の持つ力こそ人間達が魔物に対抗する唯一の手段でもある。
【禍魂(まがたま)の一族】
 古き時代、神魂の一族とは異なり、魔物と交わった者達の子孫。紋様は額に常時発現しており、力も常時使用できる。己の快楽追及や弱肉強食などを行動理念としており、個体数は少ない。
【ディエル】
 禍魂の一族の長と呼ぶべき存在の男。30cmほどの銀の杖を携え、炎を自在に操る。
【エリス】
 ディエルの実娘。父親をかなり慕っている。

・第一段階と第二段階
 神魂の一族の紋様の発現には、一族の者なら誰でも可能な第一段階と、死線を経験して己の力を引き出す事に成功した者のみが使用可能な第二段階とがある。第二段階になると力が飛躍的にアップする。

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa2605 結城丈治(36歳・♂・蛇)
 fa2738 (23歳・♀・猫)
 fa2832 ウォンサマー淳平(15歳・♂・猫)
 fa3090 辰巳 空(18歳・♂・竜)
 fa3578 星辰(11歳・♀・リス)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)

●リプレイ本文


「長の容態が安定するにはまだしばらくかかる。お前達の働きに、里と一族の命運がかかっていると知れ!」
 選別され集められた者達は、ルベールから激励を受けて出発する。だがいつもと違い、今回は激励だけで終わらなかった。
「クロード」
 ルベールが、コートを翻して退出しようとしていた青年を呼んだ。
「お前が戦う理由は見えたのか?」
 クロードは足を止め、振り返ると同時に首を左右に振った。
「正直なところ、まだわかりません」
「‥‥そうか」
「けれどアレが‥‥想いを踏みにじって哂っていられるのが『禍魂』だと言うなら俺は‥‥俺は、アレを討つ事に迷わないつもりです」
 迷わないという覚悟。それを見せられ、ルベールはクロードに何かがあった事を察する。報告を受けている以外のところで、彼の心を揺るがす事態が起きたのだろう、と。何かの詳しい内容については、問わない。必要があれば自分から言ってくるだろうとルベールはふんだ。
「なんだよ師匠。かわいい弟子には声かけてくんねぇの?」
 クロードがついてこないので様子を見に来たのか、逆立てた黒髪のカミオンが扉付近に顔を出した。同系統の能力を使う事から、彼はルベールの元で訓練を受けてきている。
「そうだな‥‥皆に迷惑をかけるなよ。お前が下手を打つと非難は俺に来るんでな」
「クロードへの言葉と違いすぎねぇ?」
 わざとらしく頬を膨らませるカミオンを視界に入れて、クロードがうんざりとした表情に変わった。
 だが改めて姿勢を正したカミオンは、打って変わって決意を露にしていた。
「里の為、長の為、絶対にヤツラを近づけさせません」
「ああ、その意気だ。さすがは俺の弟子だな」
 カミオンの決意は一族の掟に従ったもの。そしてクロードが迷っていた理由もそこにあった。
 心中に浮かんだ苦笑を押し隠しルベールは、戦地に赴くように己が選んだ者達を、送り出した。


「多分、すぐにばれるとは思いますが‥‥」
 広い草原。ただし少し行けば森がある。向こうには山。探せば川もあるだろう。自給自足ができそうな場所であれば、隠れ里があったとしても不思議ではなかろう。
 淡々と述べた剣士風の青年フレドリックだったが、小柄なミリアはポニーテールを揺らして、そんな彼の背中を叩いた。
「ルベール様が実力を見込んで任務を授けてくれたんだもん、頑張らなくちゃ!」
「そうですね。時間を稼ぐには、陣地を敷いて迎え撃てるこの手は有効ですから」
 フレドリックは早速宙を指先でなぞって紋様を発動させ、そのまま第二段階へ移行する。額の紋様は頬を伝い首を通り、全身へと広がっていく。音を作り出す事のできる今の彼が次にとった行動は、故郷たる神魂の一族の里の日常の音を流す事だった。
 人の息遣い、話し声。子供達の駆け足。時折響くのは恐らく訓練による爆発音。
 故郷の音に故郷の姿を思い浮かべながら、ミリアは祈りを込める。その手に、ルベールから預かった小さな結界石を握り締めて。

「あとは向こうがいつ来るか、だな」
 黒い皮鎧の少年ジョーカーが、拳にした右手を左の掌に打ち込んだ。
「早く若の勇姿を見たいものですな」
「何言ってる。筋力なら負けないぜ?」
 なぜかジョーカーに付き従っている中年の男ザジがそんなジョーカーを持ち上げると、肉体美を誇る金髪巻き毛の少年ステラが、対抗するように両腕の力こぶを誇示し始めた。
 戦う事に疑問を抱いていない。なぜなら戦う事が好きだから。
「‥‥フェリオ。どうだ?」
 クロードは自分とは違う者達から視線を移動させ、だぶだぶのマントの下で禍魂の力を感じ取ろうとしている少年に声をかけた。
「なかなか見つかりませんね。折角気を張っているというのに、ままならないです」
 光を抱く瞳で遠くを眺めているフェリオには、他の誰とも違うものが見えているのだろう。里に結界を張る長の視界に近いかもしれない。もし長にお目通りがかなうなら尋ねてみたい‥‥あなたには何が見えているのですか、と――そこまでフェリオは考えて、ふと気がついた。里の結界を探られて、長は苦しむ事になった。では偽りの里を探られたら、結界石を発動させているミリアはどうなる?
「大変です、早くミリアさんたちと合流しないと‥‥っ!!」
 焦燥感に追われたフェリオが叫ぶ。しかし叫んだ直後に体を固くする。感じたのだ。覚えのある力の形、灼けるような炎の力を。それだけではない、かつてないほどに昏く、底の見えない力までも。


 結界は消滅していた。強固な精神を持つ長が陥落寸前にまで追い込まれたその力に対し、肉体的にはともかく精神的には未熟なミリアでは、結界を保てるはずがなかった。
 地面に転がった結界石に目をくれる余裕もなく、ミリアは必死で息を整える。彼女の前ではフレドリックが剣を抜いて構えている。仲間の到着まで、敵として対峙しているのに微笑み続ける奇術師をなんとか退けておけるように。
「コ‥‥コイツが、シュティフタの言ってた『パパ』なの‥‥?」
「恐らくは。しかしあの子供は情報になかったですね」
 奇術師然とした服装の、赤い髪の男。それが禍魂の頂点に君臨するディエルだと聞いている。そこにいる男がまさしくそうだ。だが男が抱いている幼女など、話にも聞いた事がない。
「いつもながら、無駄な真似をするのが好きな人達ですね。少し考えればわか――」
 やれやれと肩をすくめ、余裕たっぷりに前口上を述べ始めたディエルだったが、彼の声は途中で途切れてしまった。不思議そうな顔をしたかと思うと口を閉じたり開いたり、耳を軽く叩いたり。やがて、にぃっと唇を吊り上げると、大げさに唇を動かした。――面白い、と唇は言っていた。
 ぞくりとする。来るのがわかる。フレドリックは咄嗟に剣を握る手に力を入れた。正解だった。気づけば銀の杖と競り合いになっていた。
 ぎぃんっ。互いに弾きあった金属の間で火花が散る。予想以上にディエルの一撃は重く、フレドリックは自分の首筋を冷や汗が伝うのを感じた。
 対してディエルは笑っている。地に下ろした幼女を気遣うでもなく、唇を吊り上げたまま杖を振る。杖の先から迸る炎。フレドリックは炎を切り払い、更に横へ跳んだ。避けるだけでなく一度切ったのは、ミリアの為だ。ようやく通常の呼吸ができるようになり、戦闘可能になるまであと少しかかる、ミリアを慮っての行動だった。
「まんまと誘き出されたくせに‥‥」
 なんでそんなに余裕綽々なの?
 息を吐き、吸うミリア。攻撃手段であるところの鉄球が繋がった鎖を手に取る。取ったところで、ちりんちりんと、軽やかな鈴の音を聴いた。続いて耳にかかる吐息。ミリアはすかさず飛びのいた。飛びのきながら、幼女がつまらなさそうに手元の刃物を持ち直す様を見た。
「ミリアさ‥‥っがぁっ!?」
「‥‥‥‥ん? あーあー。あーーー。ああ、どうやら術は解けたようですね」
 フレドリックの鳩尾に突き刺した杖を引き抜いて、ディエルはやはり笑顔のまま言ってのけた。が、すぐさま杖を左右に、上半身を捻って後方に、余分な動作を省いた動きで振りぬいて。ジョーカー、ザジ、ステラの一斉攻撃を全てはねのける。
 多少の傷も与えられなかったが、とりあえずはそれでいい。まずはミリアを落ち着かせ、フレドリックを後方へ下げる事。その為に幼女のほうへもクロードとカミオンの牽制が放たれていたが、幼女はつたない足取りでディエルの元へ戻っていった。
「おや、見覚えのある顔が。その節はずいぶんお世話になりました」
 後続の面々を見渡したディエルは、向き直ったクロードとフレドリックを解放するフェリオに気づき、丁重に頭を下げる。あまりにも丁重すぎて、逆に不快な気分にさせるほど‥‥それすらも見越しての行動かと思わせるほどに。
「なんで子供がいんだよ」
 吐き捨てるようにカミオンが言う。ディエルは幼女の頭を撫でて、応えた。
「私の娘です。エリスといいます」
 答には、数人がぴくりと反応した。
「ただの魔物でしかなかったシュティフタと違って、血の繋がった本当の娘です。可愛さもひとしおですよ」
 あの場にいた者、あの場にいた者の心情を察せられる者にとって、戦闘再開の合図とするに十分すぎる言葉だった。

 草原にクレーターができた。ザジの能力によるものだ。ディエルを狙っての攻撃はしかし命中する事はなく、対象は両手を使っての何度かの回転ですんなりと避けていた。速度なら負けないと追い上げたジョーカーが、オーラに輝くを振るって爆発を起こしたが、ディエルは自らの力で生み出した炎で相殺し、もう一撃さえも加えた。
「爆発っていうのはこういう使い方も出来るのさ!」
 ジョーカーももう一撃加え、相殺がディエルの特権でない事を示す。ディエルは悔しがりもせずに杖で弧を描き、ザジの巨剣を防いだ。
 ここで確認しておきたいのは、相殺という言葉の示すところだ。ぶつかり合う力の大きさが同等ならば完全に相殺できよう。しかし、一方の力のみが大きかったら?
 技の応酬のさなか、ディエルは突然、放出する力のレベルを上げた。神魂で言うところの第二段階のようなものだ。第一段階の力では対抗できない。そしてジョーカーが第二段階で使える力は、このような応酬に使えるものではなかった。
「うああああああっ!!」
「若ぁっ!!」
 相殺しきれなかった力はジョーカーを飲み込みんで尚燃え盛る。彼を助けようとザジが駆け寄っていく。一目散に。それはまずい。また、炎が。
 炎が凍った。肌に痛みを感じるくらいに冷えた空気。
 凍気の刃を携え立ち塞がったクロードに、ディエルは襟元を正した。

 金属製の杖が風を斬る。ちりんちりん。鈴を揺らしてエリスは避けた。
「何やってんだ、次の段階行けよ! 子供でもそいつは禍魂なんだぞっ」
 雷を撃って援護するカミオンは、なかなか第二段階に移行しようとしないステラを叱り飛ばす。しかしステラはこう言ってのけた。
「わかんないな、俺バカだからっ!!」
 確かに、ステラの尋常ではない筋力を利用した攻撃があの幼女の体にヒットすれば、ひとたまりもないだろう。とはいえ、エリスは身軽だ。当たらなければ意味がない。ステラも第二段階になればエリスを上回る速度を得られるというのに、彼はそうしようとしない。カミオンが焦るのも無理はない。
「戦い楽しんでる場合じゃねぇんだよっ」
 仕方ない。そう判断して、先に第二段階になっていたカミオンは、己の持つ最も驚異的な攻撃の為に力を溜め始めようとした。
「わたしもそう思うわ、雷使いのお兄さん」
 血色のいい唇が開いて、鈴の音よりも軽やかな、エリスの声が。
 黒い焔がステラの胴体に巻きついた。きつく締め上げてくるその焔に実体はなく、離そうとしても離れない。首に巻きつかれてはとステラは必死に首を守ろうとしたが、そうして必死になるのを待っていたかのように、焔は首に這い上がる。
 空気を求めてステラの喉があえぐ。カミオンの力のチャージが終わったのを見越して、エリスは挑発的な視線を彼に向けた。

 向こうで爆発音が起きるも、クロードには気を配る余裕がなかった。空気中の水分を凍りつかせる彼の刃とて、ディエルの炎が相手ではどうしても威力をそがれる。
「秘技、下手な鉄球数撃ちゃ当たる攻撃ぃっ!」
 戦線に復帰したミリアから、何度も何度も鉄球が放たれる。大振りな攻撃だ、当たらなくて当然。隙さえ作ればいいとミリア本人からして考えている。もとより連携を前提に戦おうとしていたクロードならば、その隙を逃しはしない。
 傷だらけだったシュティフタの姿が、クロードの脳裏をよぎる。
 刃を振りかざし、振り下ろす。迷いはなくなったと思っていた。
「パパ!!」
 ディエルを呼ぶエリスの声が聞こえた瞬間、凍気の刃は霧散した。ディエルの肉を凍りつかせる直前になって。
「困ったものですね、感情というものは」
 同情しているらしい表情で、ディエルはクロードの鼻先に片手を差し伸べ、炎を放った。
 炎はまだ焦点の定まらないクロードを吹き飛ばし、吹き飛ばされたクロードはミリアを巻き込んだ。
「お父様のおっしゃっていた通りね。あれの死を悼んでいるんだわ」
 全くもって不可解ね、と言うエリスは、うつ伏せに倒れたカミオンを下敷きに座っている。カミオンもエリスのパパ発言により動揺し、力の制御に失敗して、エリスの反撃に倒れる結果となった。
「これまでにも沢山の魔物を殺してきたというのに、おかしな話。自分達と相似の姿かたちを持ち、意思疎通ができるからといって、あれは魔物なのに」
「ですから、私は貴女に余計な感情は廃するようにと教えているのですよ、エリス。――里は見つかりましたか」
「いいえ、お父様。少々お遊びが過ぎたようですわ。体勢を整えられてしまっていますわね」
「ふむ‥‥まあ今回はこれでよしとしましょう。貴女の力量もわかりましたしね。さすがは私の娘です」
 ディエルはにっこり笑うとエリスに歩み寄り、彼女の小さな体を抱き上げた。その様子は、かろうじて開いている瞼の隙間から見ていたクロードとカミオンにとって、受け入れがたいものだった。
 桃色の髪とあどけない顔で喜びを表現していた「彼女」は確かに魔物だった。今はもう、どこにもいないけれど。

●CAST
ミリア:日下部・彩(fa0117)
ジョーカー:相麻 了(fa0352)
ザジ:結城丈治(fa2605)
フェリオ:晨(fa2738)
カミオン:ウォンサマー淳平(fa2832)
フレドリック:辰巳 空(fa3090)
ステラ:星辰(fa3578)
クロード:藤井 和泉(fa3786)