【神魂の一族】刹那の暇アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/04〜05/08

●本文

「落ち着いたようだな」
「兄上様‥‥」
 神魂の一族の長、少女シェラの寝室。部屋の主は寝台の上で上半身を起こしている。兄であるルベールが入ってきた事を受けて、彼女を診ていた薬師は一礼の後に退室していった。
 兄に椅子を勧めようとしたのか、寝台から出ようとしたシェラをルベールは押しとどめた。そのまま彼女の傍ら、寝台の縁に腰掛けて、彼女の頭の上に手を乗せた。安堵の微笑を浮かべながら。
「あの‥‥禍魂は」
 微熱と兄の優しさに頬をほんのりと赤くしつつ、シェラが尋ねる。
「お前が持ち直すまで時間を稼いでもらったおかげで、今回はあれ以上の進撃をする気が失せたらしい。多少は警戒を強めてあるが、ほとんどのところは通常の状態に戻っている」
「そうですか‥‥すみません。わたしが不甲斐ないばかりに」
「いや、お前はよく頑張ったよ。白状すると、持ち直すまでもう少しかかると思っていた」
 そうなっていたらきつかったがな、と付け加えて、ルベールの回答は終わる。

 禍魂を潰す、との提案が円卓を囲む老人達にもたらされたのは、それから数時間後の事だった。
「なんと‥‥できるはずがございませぬ!」
「誰を送るつもりなのです!? その者達の命、無駄花となりましょうぞ!」
 否定意見ばかりが出てくる。自分の利益を確保しようとする保守派であればこそ。
「できぬ。無駄だ。どうしてそう決め付ける?」
 最も上座に位置する席から部屋の隅々まで、ルベールの声が朗々と響いていく。
「それに禍魂の全員を相手にするのではない。あれの‥‥長殿の結界を乱した存在。対峙した者の話ではまだ子供だというが、成長すれば必ずや今以上の力を身につけるだろう。今でも十分に脅威だというのにな。だからこそなるべく早く潰さねばならんのだ」
「しかし、それほどの禍魂と正面からぶつかるなど死にに行くようなもの。むざむざ貴重な戦力を減らさずとも――」
 だん! ごつごつとした手で作られた拳が円卓を叩いた。
「考えてもみろ、長殿ほどの結界を張れる者がいるか!? いないだろう!? だからこそあれが長をしているのだからな! あれを守らねば里が、一族が、即座に危険に晒されるのだぞ!!」
 一息で一気に怒鳴りつけたせいで、ルベールはしばらく肩で息をせざるをえなかった。
 彼のあまりの迫力に老人達はうろたえた。気圧されているというのもあるが、彼の発言は確かに危惧すべき内容だった。現在の長、シェラに万が一の事があったとして、代わりを務められる者はいないのだ。
「我らが一族には、禍魂だけでなく魔物を討伐するという役目もある。多くの命がかかっている以上‥‥相応のリスクを払わねばならんのだ‥‥。それがたとえ不本意であったとしても‥‥」
 滲み出る苦悩。それは上に立つ側の者が抱くジレンマ。
 ほどなくして、全員一致により彼の案は採択された。

 もし命を落とさずに済んだとしても、
 無傷で帰れようはずがなく、
 何が起きたとしても悔いの残らぬよう、
 迷い惑う事なく戦えるよう、
 ――ひと時の、ほんのひと時ではあっても、ひと時の、休暇を。

 ◆

 アニメ【神魂の一族】

 剣と魔法のオーソドックスな西洋ファンタジー。あまり目立つと魔物に狙われるのではないかという考えから、また、対魔物で精一杯であり他国と争うほどの余力はないため、幾つかの国家は存在しているものの、他国を占領して大きくなろうという元首はいない。武器防具や建築等、戦いに関する文化はある程度の水準があるが、全体的な文化レベルは低い。大陸間移動の出来る航海術もない(このため、和風テイストは基本的に無し)。

【神魂(みたま)の一族】
 古き時代に神々と交わった人間達の子孫。個々に持つ紋様を指で宙に描く事で、額にその紋様が発現する。発現と同時に、生まれ持っての力を使えるようになる。弱く力を持たない人間達のためにのみ力を振るう事を絶対の掟としており、逆に言えば、この一族の持つ力こそ人間達が魔物に対抗する唯一の手段でもある。
【シェラ】
 神魂の一族の長。里を魔物や禍魂から守る為の結界を張る能力を持つ。
【ルベール】
 シェラの実兄。一族のナンバー2であると同時に、里と長を守る最後の砦。雷使い。

【禍魂(まがたま)の一族】
 古き時代、神魂の一族とは異なり、魔物と交わった者達の子孫。紋様は額に常時発現しており、力も常時使用できる。己の快楽追及や弱肉強食などを行動理念としており、個体数は少ない。
【ディエル】
 禍魂の一族の長と呼ぶべき存在の男。30cmほどの銀の杖を携え、炎を自在に操る。
【エリス】
 ディエルの実娘。父親をかなり慕っている。

・第一段階と第二段階
 神魂の一族の紋様の発現には、一族の者なら誰でも可能な第一段階と、死線を経験して己の力を引き出す事に成功した者のみが使用可能な第二段階とがある。第二段階になると力が飛躍的にアップする。

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa0531 緋河 来栖(15歳・♀・猫)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa2738 (23歳・♀・猫)
 fa2832 ウォンサマー淳平(15歳・♂・猫)
 fa3090 辰巳 空(18歳・♂・竜)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa5196 羽生丹(17歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文


 逆立つ黒髪を揺らし、カミオンは走った。目指すは彼の師匠でもあるルベール。廊下の先にその姿が見えて、彼は溜まらず大声を出した。
「師匠っ」
 ルベールはカミオンに気づくと、話していた側近へ口早に残りの命令を伝えて下がらせる。
「何だ、騒々しい」
「師匠。俺、師匠に聞きたい事が――」
「選抜に関する事ならば答えないぞ」
 さすが、と言うべきか。師匠は弟子が何を聞きに来たのかを既に理解していた。決戦には誰を選抜するのか。その選抜の中に自分は入っているのか。そんな問いには答えないと、ルベールははっきりと述べた。
「話はそれだけか。なら戻れ。やらなければならない事が多くて忙しいんだ」
「俺を選んでくれっ!!」
 敢えてラフな仕草でカミオンを追い払おうとしたルベールだったが、カミオンが瞳をぎらつかせて叫んだ事で、ルベールの瞳もぎらついた。
「選ばれたい‥‥戦いたいんだ! 俺には力がある。必ずやり遂げてみせる。だからっ」
「お前ならば禍魂の長を倒せると言いたいのか?」
 ルベールの胸倉を掴み揺さぶるカミオン。ルベールはカミオンの手を握力で引き剥がすと、抵抗をものともせず、床に放り投げた。
「自惚れるな。俺にも勝てん子供が」
 弟子に一瞥だけくれた後、執務室へと入っていく。重い扉がゆっくりと閉まる。
 カミオンは悔しさで視界が歪もうともかまわずに立ち上がった。倒すべき敵と同じように炎を操る少女、アイリンを呼びつけ、自分と戦ってもらおうと。


 神魂の一族は、古き時代からずっと戦い続けてきた。戦いに赴く者は力量や能力によってその時々で選抜されるが、そうして出向いた戦いで命を落とした者も、長い歴史の中では少なくない。むしろ数が多すぎて、個人の墓が作られないほどだ。
 亡くなった者の名が刻まれた、大人でも見上げるほどの巨大な石。それが幾つも寄り添うようにそびえている。里のはずれにある巨石群が、神魂の一族の墓だった。
「リズ‥‥聞いているか?」
 腰まであるストロベリーブロンドを風に棚引かせ、少年シュアリーは巨石の一つにそっと触れた。
「俺は、お前を守りきれなかった。お前の為に命を賭ける事が出来なかった。‥‥悔やんでいたよ、ずっと」
 婚約者を目の前で喪ってからは、戦いに身を投じる事はなかった。選抜されても辞退したし、先日の騒動の時でさえ、事態が鎮まるのをただじっと待っていただけだった。
 しかしフェリオが――まだまだ子供で危なっかしい、婚約者の弟、自分にとっても弟になるはずだったフェリオが、決戦への参加を望んでいると知った。
「フェリオをお前の元へ呼ばないでくれ。俺がフェリオの盾となって守るから。今度こそ、命を賭ける事を誓うから」
 長い間納屋の奥に放り込んだままだった武器防具を引っ張り出し、婚約者へ会いに来たのは、伝える為。
「魂はここに置いていく。だが命はフェリオのものだ。‥‥お前なら、わかってくれるよな」
 くるりと背を向け、歩き出す。返事を聞く必要はなかった。愛した人の笑顔が、自分の背中を押してくれていた。

 去っていくシュアリーとすれ違い、クルスは大きな三つ編みを揺らして肩越しに彼の様子をうかがった。
「‥‥考える事は皆、同じなんだなぁ」
 彼女が墓前を訪れたのも、大切な人に会う為。
「来たよ、パパ、ママ」
 巨石に刻まれているのは、戦いにより相次いで亡くなった、彼女の両親の名前。
「ごめんね、なかなか来られなくて。色々あったんだよ。第二段階に覚醒したり、初めて禍魂と会って戦ったり、禍魂にいいように動かされてた魔物を弔ったり‥‥ほんと、いろんな事がありすぎて‥‥今すぐ、相談、のってほしいくらいだよ‥‥」
 鼻をすする音がして、彼女は熱くなり始めた目頭を少々乱暴にこすった。
 魔物といえど、外見は自分達と似通っていて言葉も通じる、そんな存在が居る。彼女の中に生じた迷いは、魔物だからといってそのすべてと戦わなければならないのかという事。神魂や人間にも、いい存在も居れば悪い存在も居るというのに。
「そうそう、舞もたくさん練習したんだから。見せてあげるねっ」
 踊り子らしい露出度の高い服で舞う彼女は、時折散る涙を抜きにしても、十二分に綺麗と言えるものだった。
「いつも褒めてもらってたけど‥‥ふふっ、もっと上手になったでしょ?」
 踊り終えた後、涙声で笑ってから、彼女はしばらくじっと目を閉じた。幾つもの記憶を廻る。
 やがて彼女は瞼を開く。
「やっぱり行くよ。もしかしたらもうすぐ会えるようになっちゃうのかもしれないけど‥‥そうなったとしても、精一杯やった結果なら必ずまた、褒めてくれるよね?」
 まだ涙が滲んでいても。瞳が充血していても。両親は死に際にあっても彼女がそうする事を望んでいたから――彼女はとびきりの笑顔を浮かべ、巨石に背を向け、振り向く事なく、その場を立ち去った。

 ぱっと見はごく普通の村娘でしかないミリア。彼女は自室に篭って膝を抱えていた。
「禍魂の長とその娘‥‥すごく、強かった」
 先日の一戦では彼女が結界石を使っていた為に、あの幼女から精神的な圧力を受けた。内側から切り刻まれるような苦しさ。結界の維持などできなかった。
「鉄球も全然当たる気がしなかったし、悔しいけど‥‥今の私じゃ、手も足も出ないよ‥‥」
 圧倒的な力の差というものを思い知らされた。恐怖を通り越して畏怖を覚えた、あの瞬間。
 今も怖いとは思う。けれど根がぽけぽけしている彼女は、それよりももっと強く、悔しさを覚えた。そんな彼女が最終的に到達したのは、リベンジだった。
「あ、でも一度負けた私が選ばれる事ってあるのかなぁ? んー、不安だなぁ。ルベール様にこっそり聞きに行っちゃおうかなぁ」
 抱えていた膝はすっかり伸びてしまっている。乙女らしくスカートをふわりとさせて、彼女は部屋の中をうろうろ動く。
「けどそれで『選ばれるかも』なんて言われたらどうしよう‥‥嬉しくて舞い上がっちゃうよ! だってそれって、私みたいな新人にもルベール様は目を掛けて下さってるって事だものっ!!」
 乙女らしく(?)壁をばしばし叩いて独りで盛り上がる。
「はっ! もしかしたら、ルベール様に特別に思われてるっていう可能性もほんの少しはあったりしちゃうかも‥‥? きゃあああああ♪」
 今度は頬に手を添えて照れて悶えて叫んで。先程までの緊張感は欠片もなくなっていた。
「こうなったらいつ選ばれても良いよう特訓あるのみだよね!」
 ここまで来ると、いっそ清々しい。
 自分は攻撃の手段を磨くしかないと思った彼女は、部屋を飛び出すといつぞやに愛用の鉄球を作ってくれた鍛冶工房へ向かった。「待っててねー、ルベール様ー♪」とまるでピクニックへ行くかのように。


「曲を?」
「少しでも気分がよくなってもらえればと思いまして」
 ルベールを尋ねた二人目はフレドリックだった。木製の弦楽器を携えたフレドリックの普段の役目は、吟遊詩人として各地を回り、情報を得る事だ。その折の話を交えて、心安らぐ演奏を長に聞いてもらおうというのだ。
「そうだな‥‥では頼む。今の長にはそういう時間が必要だ」
「はい、おまかせを」
 フレドリックが頭を下げると、ルベールは手を叩き、案内役の侍女を呼ぶ。ルベール本人は来ないのかと不思議に思ったフレドリックは、その疑問をふと口に出した。
「お出かけですか?」
「気になる事があってな」
 肩をすくめるルベール。フレドリックはもう一度頭を下げて、ルベールを見送った。

 巨石群とは反対側のはずれに立つ、灰色の髪のクロード。指先で宙に紋様を描き、直後に第二段階へと移行する。全身に紋様を浮かび上がらせながら短剣を鞘から抜き、握る手に力を込める。短剣は氷に包まれて刃を成し、大剣となった。だがそれ以上の変化はない。第二段階を発動させているのだから、氷が解放されて、凍気そのものの刃が現れるはずなのに。
 クロードは歯を食いしばった。そうでもしないと、己への悪態が喉を突いて出てきそうだった。
「自分にあたるな」
 呆れたような宥めるような声。クロードが振り向けば、ルベールが立っていた。
「お前が律儀にもぼかさず報告書を書いてくれるおかげで、先日何が起きたかは把握できた」
 ざくざくと土を踏みしめ、ルベールはクロードに近づいてくる。クロードは顔を背けた。
「率直に言わせてもらうが、お前は馬鹿だな。それも馬鹿になりきれない馬鹿だ」
 しかしそんな不躾な態度にかまわず、ルベールの手がむんずとクロードの首根っこを掴み、そのまま引き摺り始める。
「ル、ルベール様!? 何を――」
「以前、お前と同じように迷った馬鹿がいてな。そいつの受けた療法と同じものを、お前に受けてもらう」
 クロードはその能力ゆえに前衛タイプだが、体力に特別秀でているわけではない。秀でるルベールの手を彼が振り払う事はできない。
 途中、何事かと伺う視線の集中砲火を浴びたけれど、ルベールはかまう様子もない。クロードは仕方なく彼の隣を歩き、その視線のまっすぐな事に改めて自分がどれだけ不甲斐ないかを思い知らされる。
 連れて行かれたのは、会議室や長の私室のある、里の中心とも言える建物だった。段々と誰の元に放り出されるのかがわかってきて、クロードの気が重くなる。
「おかえりなさいませ、ルベール様。‥‥おや?」
 とりわけ清楚な扉の向こう。弦を爪弾いていたフレドリックが奏でる事をやめて、顔を上げた。
「曲の最中にすまないな。今度は俺に聞かせてもらえるか」
「ええ、それはかまいませんが」
 立ち上がるフレドリックと交代で、クロードが突き飛ばされて天幕の傍に寄る。
「シェラ、その馬鹿はクロードというんだ。後は頼む」
 ルベールが呼びかけると、天幕の内側から衣擦れの音がした。
 扉は無情にも閉まり、残されたクロードは仕方なく天幕に向き直る。
「‥‥長、ですか」
「はい」
 鈴のような声をこんなにも近くで聞く事は、重職にでもつかなければ難しい。これはルベールがクロードに与えた、ひとつの試練だった。

「ああもう! 違う! あいつはそんな動きしないんだって言っただろ!!」
「‥‥そう言われてもな‥‥これが私の戦い方なのだから‥‥」
「だからって、模擬戦になんねぇじゃねぇかよっ」
 アイリンの放つナイフを避け、カミオンは雷の玉をお返しに放つ。対ディエル戦の為にと、アイリンにはカミオンが知るだけのディエルの戦い方を伝えたつもりなのだが。
(「あいつはナイフなんか投げねぇよ!」)
 伝えたとおりにアイリンが動いてくれない事に、苛立ちが募る。
「‥‥私と‥‥同じ戦い方‥‥」
 アイリンにしてみれば、まだ見ぬディエルよりも、自分と同種の戦い方をするカミオンのほうにこそ興味を持てた。
 遠距離での撃ち合いの後は接近戦での殴り合い。その頃には二人とも第二段階となっていて、各々の身体に能力の具現を纏わせていた。
「‥‥ここまで私と同じとは‥‥」
 青い炎が同化した手足を振るい、アイリンは雷の鎧を砕こうとする。
 二人の戦う様子をオブザーバーとして見ているフェリオには、二人が放つ力の大きさがみるみるうちに伝わってきた。
「すごい、力がこんなに大きくなってる――」
 フェリオの背後には数名の治癒術の使い手が控えている。彼らはルベールの弟子であるところのカミオンが戦えなくなってはと、気が気ではないのだ。
 ごうっと唸りを上げて、アイリンの炎が膨らんだ。力も一気に膨れ上がっていく。
「奥の手を使わせてもらう‥‥」
「なっ!?」
「‥‥サラマンダードライヴ‥‥」
 同化している手足ごと、炎は素早さを伴いカミオンに向かって伸びる。まさに喰らいついてくるような、炎の顎。カミオンも大技で応戦しようとするが、間に合わない。
「うああああああああっ!!」
 炎が雷を飲み込む。
 ――困ったものですね、感情というものは。
 空回るカミオンを嘲笑う為か。ディエルの声が聞こえてきた気がした。

 長は天幕を開き、寝台を降りていた。優しい手探りで、クロードの涙を拭っていた。
「真面目すぎるのですね。兄上様と同じ‥‥ああ、それで兄上様はあなたを私に預けたのですね」
 細い指。小さな手。このか弱き少女に、クロードはすべてを語った。語れば答がもらえると思っていた。なぜなら彼女は長であるのだから。
 しかし長自身の戦う理由を問うと、彼女はすまなそうに笑った。そして答えた。自分も戦わなければ兄の負う傷が増えるから、と。
 なんて利己的な理由。だが考えてみれば、少女に大それた理由や目的を望む事は難しいのだ。しかも結界という能力ゆえに、長に祭り上げられたという点を鑑みると――
「それが人です。私達の祖先とて、家族を守りたくて神と交わったのですよ?」
 クロードの思考を遮り、年齢など関係ないと長は暗に述べ、
「‥‥あなたの守りたいものはなんですか、クロード」
 それを見つけられたなら地に膝つく事なく戦えると、彼に道を示した。


 今は亡き者に己の決意を告げる者。
 戦いに向けて己の武具を新調し、あるいは改良する者。
 迷いを黒く塗りつぶし、一心不乱に力を求める者。
 迷いが晴れ、守りたいものの為に力を発揮せんとする者。

 クロードの手には、里の子から激励の意を込めて贈られた花冠がある。純白の鈴蘭で作られた花冠が。

●CAST
ミリア:日下部・彩(fa0117)
クルス:緋河 来栖(fa0531)
アイリン:槇島色(fa0868)
フェリオ:晨(fa2738)
カミオン:ウォンサマー淳平(fa2832)
フレドリック:辰巳 空(fa3090)
クロード:藤井 和泉(fa3786)
シュアリー:羽生丹(fa5196)