腕を鳴らせば射撃王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/29〜08/31

●本文

 ファンタジーランド。その名を知らぬ者はいないと言ってもよいほどの、大規模遊園地である。魅力溢れる世界観とそれに基づいた数多くのアトラクションは老若男女の心を捉えて放さず、たとえ平日であっても多くの来園者で賑わっている。
 一年の間には数多くのイベントがあるわけだが、ファンタジーランドではそれらを活用し、その時だけの限定で色々やるものだから、人々はつい引き寄せられてしまうのだ。「限定」――ああ、なんと甘美な響きである事か。

「本日もファンタジーランドにご来場いただき、まことにありがとうございます!」
 超ハイなテンションで挨拶の第一声を上げた、女性二人。プールでもなく海でもないのに、水着着用。しかもセパレート、というかビキニ。きわどい。でもしっかりパレオを装着しているので、男性客は軒並み悔しそうな顔をしている。あとはサンダル。頭部にトロピカルな花だけでなくインカムを装着している事が、彼女達をこのファンタジーランドのキャストと証明している。
 さて彼女達の背後にあるアトラクション――いや、ジャングルからは、ギャアギャアと正体不明生物の鳴き声が聞こえてくる。暗幕が垂れているのか、入り口から先の様子をうかがい知る事はできない。
「これより皆様にご紹介いたしますのはこちらのアトラクション!」
「夏休み限定っ! その名も『ジャングル・シューターズ』!!」
 ぐぎゃああああっ、と、ひときわヤバそうな何かの声が響いた。
「では、ご説明します♪」
「まずあの洞窟の中に入っていただきます!」
 ばばっと彼女達が手で示したのは、暗幕、要するに入り口。
「中にはゴンドラがありますので、スタッフの指示に従って、2名一組でお乗りくださいませっ」
「ゴンドラに乗った瞬間から、皆様は『ジャングル・シューターズ』の一員となります! ゴンドラに備え付けられている銃を巧みに操って、ジャングルに巣食う危険な生き物達をなるべく多く仕留めてくださいねっ」
 要するに、勝手に動く乗り物に乗って決められたコースを辿りながらの射的である。
「仕留めた生き物の数は銃の脇にあるカウンターが勝手に数えてくれるのでご安心を☆ 1匹1点となりますっ♪」
「た・だ・しっ!! 生き物の中には1発では仕留められないものもいるので、注意が必要ですっ! そんな生き物と運悪く出会ってしまったら、銃を連射してくださいね☆」
「見事倒せたら、10匹分として点数に加算されるので、頑張ってくださいねー♪」
 最後に一発逆転のボーナスキャラが出てくるのは、もはやお約束であると言えよう。
「そしてそしてーっ! こちらをご覧ください!!」
 彼女達が次に示したのは、古めかしい木材で作られている、入り口横の掲示板だった。
「優秀なシューターの皆さんは、こちらのランキングに記載されるのですっ」
「ランキングに載るといいコトがあるかもしれませんっ! 頑張ってランキングの上位を目指してくださいねーっ!!」
 顔写真と名前と点数が公開されるものの、ランキングという名称はそれだけである種の者達の心をくすぐってやまない。

「それでは皆様のご参加を――」
「「お待ちしておりまーっす♪」」

●今回の参加者

 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa1704 神代タテハ(13歳・♀・猫)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3014 ジョニー・マッスルマン(26歳・♂・一角獣)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●入口前
 流れる音楽、ざわめき、楽しそうな人々、動き回るキャラクター。遊園地というものは入り口を通ったその瞬間からまさに別世界であり、否が応でも大興奮する人がたいはんである。そう、姫乃 唯(fa1463)のように。
「わ〜いわ〜い、遊園地〜♪ 遊園地自体小っちゃい頃に一度行ったきりだし、ファンタジーランドに来るのは初めて!」
 彼女の首には一日パスポート、手にはポップコーン入りのカップ(Lサイズ)。できれば双子の姉と一緒に来たかったところだが、仕事の都合もあるので仕方ない。
「しかも夏休み限定アトラクションですってよ奥さん!」
 奥さんって誰だよ。彼女の声が聞こえた周囲の人は皆、胸中でそう思った。
「何だかベタな名前だけど、面白そうだね」
 可愛い笑顔でさらりと述べる因幡 眠兎(fa4300)。それを言ってはいけない。そういうものだからだ。
 そしてキワドイ発言をしたのは眠兎だけではかった。彼女のパートナーとなる冬織(fa2993)もまた、つっこんではいけないところにつっこんでいた。
「其のテンションを持続するには疲れるじゃろうのう‥‥」
 まるで孫を心配する祖母の如く、キャストの女性を捕まえて。しかも銃を使うアトラクションなのに「刀はないか」と聞く始末。嫌な顔ひとつせず、高いテンションを維持したままで対応したキャストは、さすがである。
 また、露出の高いキャストはやはりなるべく見目のよい者が選ばれる傾向にあり、このアトラクション担当の彼女達は水着姿の為、選出にスタイルも考慮されたようだ。高いテンションゆえに動きが激しく、たわわな胸も揺れ、男声諸君に強い刺激を与えている。十代半ばのマリアーノ・ファリアス(fa2539)とて例外ではない。先程から彼女達に見惚れ続けている。
(「‥‥にゃ、マリス君。どこ見てるのにゃ‥‥」)
 そんな彼氏を横から見つめる神代タテハ(fa1704)は気が気ではない。ぷっくりと林檎のように赤くなった頬を膨らませ、ジト目でマリスに鋭い視線を送りつける。
 自分に突き刺さる抗議の視線を感じとったのだろう。マリスはそっと目だけ動かして大好きな彼女の様子をうかがって、心の底から「やばイ!」と思った。だが激烈に機嫌を悪くしている彼女に声をかけて謝る事さえ、彼女の気迫に圧されてできやしない。カッコイイところを見せてご機嫌取りをしようと考える、まだまだお子様のマリスであった。
「さて‥‥如何するか」
 一方こちらは、DarkUnicorn(fa3622)ことヒノトと、御鏡 炬魄(fa4468)の身長差30センチ以上、歳の差もひとまわり以上の、色々と規格外のカップル。
「遊びと割り切ってしまうのも良いが、或いは勝負事として挑んでみるか? 俺はどちらでも構わないが」
「最初は遊び感覚で行くつもりじゃったが‥‥ランキングと聞けば話は別なのじゃ」
 静かに佇んでいるかと思いきや、その実、ヒノトは熱く燃えていた。

●其々の勇姿
 やりたい、と唯は思ったものの。ジャングル・シューターズは二人一組が前提であり、一人で遊びに来ている彼女は門前払いされてしまう。肩を落として別のアトラクションに向かおうとした唯だったが、そこへ20代前半ほどの青年から声をかけられ、足を止めた。自分も一人だがこのアトラクションで遊びたいから、一緒に乗ってくれないかという事だった。
「友人誘ってやってみたら、あまりに楽しくてさ。何度もやってたらさすがにもう嫌だ! ‥‥って言われて」
「何回遊んだんですか?」
「両手じゃ足りないくらい」
 そりゃ無理だ。友人さんもよく付き合った。
 しかしそんな人でも唯にとっては、渡りに船。よろしくお願いしますと頭を下げて、二人でいそいそと列に並んだ。
「次来るよ! 首と尻尾の先!」
「はっ、はいっ!!」
 その青年は何度も繰り返しただけあって、次に出てくる的の位置をほとんど記憶していた。銃の射程範囲に的が来るよりも前に、その位置を唯に教えてくれるのだ。おかげでとっさの動きが特に得意というわけではない唯でも、しっかりと銃口をそちらに向ける事ができた。
 ――が、当たるかどうかはまた別の話。
 狙いを定める前には無駄撃ちしない分、狙いを定めたら連射、とにかく連射。そんな彼女の作戦は、下手な鉄砲数撃ちゃ何とやら。
「カウントが増えない、なんでーっ!?」
「当たってないからだよっ。落ち着いてもっとよく狙って!」
 その作戦を決めた当時、彼女は「本当は下手な鉄砲は数撃っても当たらないらしいけど。しかも別のものに当たったりするらしいけどっ」とわかっていた。実によくわかっていた。事実、彼女の銃の横にあるカウンターは、本当にたまーにしか変動しない。青年のカウンターはみるみるうちに変わっていくというのに。
 焦った彼女は、さらに多くの鉄砲を撃った。意地もあったのかもしれない。ランキングは二人の総合成績で決定するゆえに、自分が青年の足をひっぱるわけには行かない、と。その結果‥‥
「手は痛くないんだけど、腕が! 腕がぴきぴき言ってる〜!」
「これで最後だから、頑張ってっ」
 ラストの大ボス連射の時には、彼女の腕は悲鳴を上げていた。

 下手な鉄砲数撃ちゃ(以下略)を作戦としている者達はまだいた。
「斯様な物には余り慣れておらぬ。慣れてはおらぬが‥‥負けず嫌いでもあるのじゃよな、わし」
 普段から持ち歩いているのか、ゴンドラに乗った冬織が取り出したのはたすき。彼女の服装は和装。至るところはたすきがけ。
「其れは因幡殿も同様と見たが‥‥?」
 キュッと音が立つほどにきっちりとたすきを結び終えた冬織は、唇の端にどこか黒い笑みをたたえながら、隣の席に立つ眠兎に問いかけた。
「夏休み限定とか言われたら、遊びの伝道師としては触らずにはいられない‥‥」
 クスクスと不敵に笑う眠兎。イタズラっぽさの宿る、いや燃える瞳に、自称ながらもその称号をかけるほどの強い意志がうかがえる。
「やるからには勝つ! 目指せランキング1位!」
「わしの見込んだ通りじゃな。‥‥気合で行くかのう」
 マッドな雰囲気の二人に、後ろに並んでいた客が引いていく。しかし彼女達はお構いなし。
「おらぁ!!」
 見た目だけなら清楚可憐な冬織の口から、次のゴンドラの客が怯えるような声量でそんな言葉が出てこようとは、誰が想像できただろうか。気合が入りすぎだ。むしろ、入れる気合の種類を間違えているようにも思える。
「捉えた! はあああああっ!」
 一方、眠兎は上のほうを奥から手前へ移動してくる蝙蝠を狙って、まるで機関銃のように掃射を開始――要するに、連射しながら銃口を移動させている。おかげで狙っている的以外にも命中しているようで、カウンターはある間隔で変わっていく。冬織のそれよりは余程。
「来た、ボスだよっ! けど的が妙に小さい!」
「当てる回数だけではないのか‥‥小癪なっ!!」
 ボスの周りには蝙蝠が飛び交っていて、その間を縫うように撃たなくてはボスの的に攻撃が当たらない。二人の目つきがますます鋭く険しくなっていく。
「ギャアギャア煩いぞえっっ! とっとと倒れるのじゃぁぁ!!」
「もおおっ、しぶといんだからあああっ!」
 ‥‥一層迫力のある言葉が耳に届き、彼女達の次のゴンドラに乗っていた客は、泣きじゃくりながら出口に向かう事になった。

 次の下手な鉄砲(略)はマリスとタテハ。
「じっちゃんが『下手でも撃っていればいつかは当たる』って教えてくれたのにゃー」
 とタテハは言うが、じっちゃんはもっと抽象的な意味を孫娘に伝えたかったのではないだろうか。
 マリスはマリスで、このアトラクションの間にタテハのご機嫌をとる方策を練らなければならないのだ。カッコイイところをみせれば名誉挽回、きっと彼女もあの痛い視線を投げてこないようになる、はず。
 自分の落ち度を認めて彼女の為に頑張るのは彼女の事を大好きだからだ。彼女が怒っているのだって、自分の事を大好きだからだ。だから、やれる。
 ‥‥というのもわずかな間。
「半分しか当たらないなら、倍撃てばイイ! タテちゃん、、そっちはまかせたヨ!」
「おっけーにゃ! じっちゃんの教えどおりに撃てば絶対イケるはずなのにゃ〜っ」
 実年齢よりも幼く見える二人はまだまだお子様であり、アトラクションが開始された途端に、ジト目とその経緯を忘却の彼方へと追いやっていた。
 この二人。共に射撃の腕前があるわけではないが、的を追う能力はなかなかのもの。マリスにはそれに加えて格闘技で鍛えられた体力がある。‥‥ここまでならば冬織・眠兎ペアと似た傾向であるし、眠兎など女性とは思えないほどの体力だ。けれどマリス・タテハペアは彼女達よりももっと順調にカウントを稼いでいく。なぜならば二人は基本的にはラブラブのカップルだからだ。
「にゃっ!? ひとつ逃したにゃ!」
「大丈夫、マリスがやってみせる‥‥っ!」
 ゴンドラのレールがくねくねしているせいで、時折、銃の向きを変えても的に届かなくなってしまう。しかしそんな時でももう一人が素早く反応すれば事なきを得る場合もある。一朝一夕では築く事のできない、固い絆が、二人を栄光の勝利へと近づけていく。

 下手な(略)はもういない。だが代わりに、負けず嫌い第二弾。
「策はない。が、いつも通りやれば大丈夫じゃろう」
「上位を狙うと言ったわりには無策なのか。‥‥まあ俺の方は適度に楽しませて貰う事にしよう」
 そう言ってサングラスのずれを直す炬魄は格闘系であり、射撃に自信はない。対してヒノトは、このアトラクションに必要とされる要素を全て兼ね揃えている。
「精々我がヒメ様の足手纏いにはならない様、それなりに尽力するとするか」
「何を言うのじゃ」
 カション、と金属のすれる音。ゴンドラの扉が閉じられて、ゆっくりと動き出す。
「わし一人ではなく炬魄も居る。二人の絆の前にはどんな敵もイチコロじゃ。二人一緒ならば恐れるものは何もない。そうじゃろう?」
「‥‥そうだ、な。そうだったな」
 まるで戦場に向かう戦士のように――否。ように、ではなく、まさに彼らは戦士であった。

●結果発表
「はい、こちらのペアの得点が私の手元に届きました!」
「見せて見せてっ♪ ん? んんんっ!? ‥‥おおお!」
 テンション高いキャストのお姉さんがすぐ横でわなわな震えていても、マリスはもう目を奪われたりはしない。しっかりと手で繋がれたタテハだけを見ている。
「えっと、さっきはごめンネ?」
「‥‥何の事かにゃ?」
 意を決しての謝罪は、甲斐なくさらりと流される。ただし、繋がった手に力が篭った。満面の笑みを浮かべるタテハに、マリスも笑う。
「はい! お受け取りくださーいっ」
 そんな二人にひとつずつ手渡されたのは、可愛いが鈍く光る牙のせいでシュールな兎のぬいぐるみ。
「え? なんで――」
「お客様くらいまでのお子様ペアが見事ランクインされた時の記念品ですっ」
「このランキングは老若男女の別がありませんので、このようにさせていただいてます☆」
 前述の通り見た目はまだまだお子様な二人ゆえに贈られた、ランクインの記念品『がおーうさぎ』だった。
「お揃いにゃー♪」

「そういえば、話があると言っていたな」
 がおーうさぎと違って正統派ラブリー兎の『ステップバニー』。上位ランクインの証であるそのぬいぐるみをそれぞれ小脇に抱えて、炬魄とヒノトは比較的人気のない所にいた。明らかに様子のおかしいヒノトが誘ったからだ。
「うむ、そのじゃな‥‥その‥‥今日は、そのッ、一緒にデートできて楽しかったのじゃ♪ それでじゃな‥‥」
 わざわざお揃いにしてきたサングラスをはずし、うむうむと繰り返す。言いにくそうな様子に、彼女が何を言いたいのか、炬魄にはおおよその見当がついた。
「炬魄と居ると変に肩肘を張らずに素直な気持ちになれる‥‥わしは、これからもずっと、炬魄と二人で一緒に居たいのじゃ」
 見当と違わない話であれば、炬魄に断る理由はない。自分としても、何時かはと考えていたのだから。
「‥‥そのッ、炬魄の妻として‥‥のッ、互いを認め支え逢う家族と言うものになりたいのじゃッ」
 そして、違わなかった。ヒノトから炬魄への、精一杯のプロポーズだった。
「我侭かのッ‥‥」
「いや、俺のほうがもっと我侭だな。‥‥ヒメ。俺のモノになれ」
 炬魄もサングラスをはずす。だがヒノトのそれとはわけが違う。炬魄は、普段は人前で素顔を晒しはしない。
「素の眼で俺が見る事が出来るのはヒメ、お前だけだよ。逆にお前以外の前で外すつもりも無い。そういう事だ」
「炬魄‥‥。わ、わしはもう、この気持ちを止められないのじゃ‥‥」
「ああ、俺もだ」
 やや遠くに聞こえる喧騒でさえ、彼らの夢心地を彩る。重なる影、重なる唇。
 少し早い、誓いの口付けだった。

「本気で点数とろうとすると、結構難しい‥‥」
 ランキング表を見ながら唇を尖らせる唯に、同乗した青年はにこやかに微笑んだ。
「でも燃えるだろ? ありがとう、君のおかげでまた一歩満点に近づいたよ」
「もしかして、満点をとるまで乗り続ける気じゃ――」
「当然そのつもりだけど。あ、なんならまた付き合ってくれてもいいよ」
 嘘だ。連行する気満々だ。
 これはお友達が逃げ出したのも仕方ない。唯は未だ悲鳴を上げる腕をさすりながら思った。

「わしの名前は国東冬織で頼む」
「私は因幡眠兎でっ」
 ランキングには入ったものの上位ではなく子供でもないので、悲しいかな、記念品はない。しかしどこか誇らしげな二人に、周囲から拍手が送られる。
 彼女達の後に出てきた、涙の跡の乾かぬペアをのぞいて。