【神魂の一族】OVAアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 16.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/04〜09/08

●本文

 好評のうちに終了したアニメ【神魂の一族】。そのOVAが急遽作成決定となった。
 
 ◆

「まあ‥‥なんて立派に育ったのかしら」
 金色の小麦畑を前に、そのうちのひと房に手で触れながら、流れる銀の髪の少女シェラは感嘆の声を上げた。
「今年はいい条件が揃ったんだそうだ」
 シェラの隣には、彼女をここまで連れてきた兄、ルベールの姿がある。ルベールは頬を赤らめて喜ぶ妹の姿に笑みを浮かべ、しかし徐々にその笑みを胸の中にしまいこんだ。
「わかっているか? 小麦がここまで育ったという事は――」
 くっと顎を引いて前を見るルベールは、兄としてではなく、一族を率いる者の一人としての顔をしていた。
「‥‥ええ、兄上様」
 答えるシェラの表情も引き締まるというもの。
「収穫の季節。神に感謝を捧げ、次の実りを願う季節」
「そうだ。そして、神の元に居る者達の安息を願う季節でもある」
 戦う為の力を持つ彼ら一族は、里の指導者に選ばれれば、魔物との戦いに赴く。力があるといえど、容易に勝てる相手でもない。気の緩みは怪我に繋がり、死に繋がる。気が緩まずとも、何らかの要因で命を落としてしまう可能性はゼロではない。
 一族の祖が神と交わってから、一体どれくらいの時が流れただろう。祖を始めとして、今までに亡くなった全ての仲間は、里のはずれにある巨石群を墓として葬られている。
 収穫の季節は、そんな今は亡き仲間と神に捧げる祭の季節――‥‥

 ◆

 アニメ【神魂の一族】

 剣と魔法のオーソドックスな西洋ファンタジー。あまり目立つと魔物に狙われるのではないかという考えから、また、対魔物で精一杯であり他国と争うほどの余力はないため、幾つかの国家は存在しているものの、他国を占領して大きくなろうという元首はいない。武器防具や建築等、戦いに関する文化はある程度の水準があるが、全体的な文化レベルは低い。大陸間移動の出来る航海術もない(このため、和風テイストは基本的に無し)。

【神魂(みたま)の一族】
 古き時代に神々と交わった人間達の子孫。個々に持つ紋様を指で宙に描く事で、額にその紋様が発現する。発現と同時に、生まれ持っての力を使えるようになる。弱く力を持たない人間達のためにのみ力を振るう事を絶対の掟としており、逆に言えば、この一族の持つ力こそ人間達が魔物に対抗する唯一の手段でもある。
【シェラ】
 神魂の一族の長。里を魔物や禍魂から守る為の結界を張る能力を持つ。
【ルベール】
 シェラの実兄。一族のナンバー2であると同時に、里と長を守る最後の砦。雷使い。



 <以下、今回の設定>

 TV版よりもすこし時間をさかのぼります(その為、第二段階覚醒はPCの演じるキャラにはありません)。
 里で行われる祭はお盆+感謝祭ですが、どちらかというとお盆色のほうが濃いです。シェラが長として祭を取り仕切ります。歌と演奏と踊りで亡き仲間を弔った後、宴が催されます。

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa0531 緋河 来栖(15歳・♀・猫)
 fa2832 ウォンサマー淳平(15歳・♂・猫)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3599 七瀬七海(11歳・♂・猫)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa5669 藤緒(39歳・♀・狼)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)

●リプレイ本文


「わぁ、今年は見事に実ったね!」
 金色の絨毯を前に、同じ色の髪をした小柄な少年ラエルが目を細める。穂が風に揺れて奏でる曲を一通り聴いた後、彼はブーメランを取り出した。金属製ではない故に刃はないが、類似した性質を持つほどにその片側が薄く削られている。
「えいっ」
 気合と共に投げられたそれは、実りの重さに頭を垂れる穂を次々になぎ倒していく。周囲で鎌を片手に作業しているおば様方から賞賛の拍手を送られて、彼はご満悦、手を振って賞賛に応える。
「神様、皆、ありがとう‥‥」
 空を見上げて思いを馳せれば、聞こえてくるのはどこか寂しげな鐘の音。祭が始まる前の予鈴だ。祭の準備も手伝わなくてはと、彼はくるりと畑に背を向けた。

 実りの秋。死者を悼む秋。そんな秋という季節が来るたびに、ネピスは一族の使命を全うしようとして命を落とした夫の事を、殊更強く思い出す。息を引き取る間際の夫から頼むと言われた娘がいなければ、すぐに後を追っていたかもしれない。娘の成長が彼女の生きがい。それでも、夫が共に娘を見守っていてくれたならと、そんな考えが時折脳裏をよぎってもいた。
「お母さん?」
 娘の名はミリア。ミリアに彼女の赤毛をポニーテールに結うやり方を教えたのもネピスだ。
「‥‥何でもないわ。あなたも大きくなったな、と思ってね」
「そうよ、私ももう18歳なんだから。こんな鉄球だって振り回せるのよ」
 そう言ってミリアの手には、鎖。鎖の先には、棘付の鉄球。新しい物を鍛冶師に頼んでいて、つい先程受け取ってきたばかりだ。
「そんな武器を選ぶなんて。あなたはお父さん似ね」
「お父さんはすごい怪力だったんだってね。私はぼんやりとしか覚えてないけど‥‥でもこれで、お父さんの分までお母さんと一緒に戦えるよ!」
 ミリアは屈託のない笑顔をネピスに向ける。それがまた亡き夫にそっくりで、ネピスの胸の奥の奥がちくりと痛んだ。
 一族の使命をよく果せるというのにどことなく嬉しくなさそうな母に、ミリアは多少の違和感を覚えたが、近所に住んでいるクルスが声をかけてきたので、ついそちらに意識を向けてしまった。
「見て見てー! じゃーんっ! 鍛冶屋のおじさん特製、私専用、十字型ブーメラン、しかもふたつ!」
「わあっ、格好いい! でも私の棘付鉄球だって負けてないわっ」
 クルスが歩いてきたのは、墓のある方角。両親を失って久しい彼女の事だ、武器と近々訪れる初陣についてを両親に報告していたのだろう。
 娘と歳が近く仲がいいという事から、ネピスは時折クルスの面倒も見てきた。喜んで戦いに向かう彼女達を眺めていると、在りし日の自分を思い出してならなかった。
「昔のネピス殿を見ているようだな」
 低い老人の声がして振り向くと、年齢不相応な筋肉の盛り上がり方をしたダインだった。
「‥‥戦いがどんなにつらく、果てのないものか。あの子達は、まだ知らないから」
「いずれ必ず知る時が来る」
「その時抱かされる痛みを、味わわせたくはありません」
「味わわねばならんのだよ、ネピス殿。戦い云々をさておいても、あの痛みは人に成長を促す。人は成長せねばならん。我等は使命のみで生きるに有らずだ」
 既にどこかで一杯やってきたのか、手に酒の入った小瓶をぶら下げ、ダインは武器談義を続ける少女達に近づいていく。
「あ、師匠! 見てくださいこの鉄球!」
「ツヤといい、堅さといい、棘の鋭さといい‥‥なかなかだ」
 そのまま談義に加わるダイン。ネピスはふっと微笑んだ。

「今日はこれで終わりだ。祭まで休め」
 紋様の発動を終わらせると、ルベールは弟子であるカミオンに背を向けて歩き始める。だがカミオンはそれを良しとしなかった。
「師匠、俺の初陣っていつになるんだ」
 長に次ぐ地位にあるルベールを師匠として、厳しい訓練をこなしてきた。カミオンは自分にはもう十分な力が備わっていると感じていた。なのにルベールはいつまで経っても、初陣の機会を授けてくれるどころか、「よくやった」の一言すらない。
「‥‥明日からはまた通常訓練だ。羽目をはずしすぎるなよ」
 明確な回答を求めるまっすぐな視線をすっと外し、ルベールは別の場所――黒手袋におさまっているカミオンの右手に一瞥をくれ、そしてやはり立ち去っていく。
 ルベールに選抜をされなければ魔物退治に里を出る事はできない。自分も神魂の一員。使命を果たしたいというのに、その為の道を阻まれる理由がわからない。
「ラッド、例の氷使いに率いさせたグループはどうした?」
「昨夜遅く、全員無事に戻ってきました」
「早いな。‥‥そうか、あれは優秀だな」
 護衛兼右腕である青年とルベールの会話、その内容が風に乗ってカミオンの耳にも届いてくる。そして沸いた、暗い感情。強く握り締められたせいで、手袋がぎちっと鳴った。


 とん、とととん、とん、ととととん‥‥。
 静かに響く、太鼓の音。巨石群の前に設置された大きな篝火がはぜて、その揺らめきが幻想的で厳粛な雰囲気を生み、集った一族の者達は誰も言葉を発しない。向こう側が透けて見えるほどに特別薄い生地で作られた羽衣を手に、クルスを含め、舞を得意とする者達が篝火の周囲をゆったりとした動きで廻る。
 一段高くなった雛壇には長とルベールが並んで座っている。――彼らとて、一族の使命で両親を喪ったのだ。沈痛な面持ちは、かつての両親の姿でも思い出しているからかもしれない。
 前に出る女性がひとり。ネピスだ。彼女は膝を折って頭を下げ、それから再び立ち上がると、澄んだ歌声を星空に響かせた。
 いつ聞いても綺麗な声だと、ダインは思った。この声に子守唄を歌ってもらってきた自分はなんて幸せなんだろうとミリアは誇らしく感じた。
 神へ。神の元へ召された者達へ。愛した人へ。届け、届けと、歌い手だけでなく聞き手も、自然と心から願っていた。

 歌はやがて終わる。終われば今度は、皆からの拍手が鳴り止まない。
 しかし拍手もやはり終わる。立ち上がった長の流れるような銀の髪がいつも以上に輝いているように見えて、里の者達は一瞬、息を呑んだほどだった。
「皆さん、一年間お疲れ様でした。今年は作物の出来がよく、今宵の料理はきっと皆さんの舌を喜ばせる事でしょう。たっぷり食べて、しっかりと栄養をつけてください。向こう一年、また頑張ってくださいね」
 笑顔がまぶしいのは、篝火のせいだけではないだろう。俄然盛り上がる民達に、ルベールはやれやれと苦笑する。
「まだまだ踊るのだ〜♪」
 晴れ着のまま踊り続けるクルスだったが、いつもの事なので誰も気にしない。料理だ酒だと大忙しなので、彼女にかまっている暇がないのだ。
「あ、あの、僕も踊ってもいいかなっ」
 ラエルが頼むと、クルスは勿論快諾した。弔いの舞には決まった型があるのでそれを教えるのだが、おっとりしている為か、なかなかどうしてうまくいかない。余計な動きが加わって、見る者の笑いを誘ってしまう。
「違うよ、そうじゃなくて、こう!」
「あ、あれ? こうかな?」
 手本を見せてもらっても、駄目なものは駄目。
「いいぞボーイ! その調子だ!!」
 ダインやその酒飲み仲間から囃されるほど、いい酒のつまみになっていた。


 太鼓の音や演奏される楽曲も随分リズミカルで賑やかな感じのするものに変わり、歌でさえも今は収穫を歓ぶものばかり。
 けれど楽しくはしゃぐ者ばかりではなく、生来の生真面目さが災いしてうまく場になじめない、クロードのような者もいた。
「‥‥あそこでもっと、こう深く切り込んでいれば、より迅速に倒せたか?」
 宴の会場だけでなく里全体も見渡せる小高い丘で、クロードはひとり、今回の討伐についての反省会を行っていた。予想されていた日数よりもだいぶ早く帰還したというのに、まだまだそれでは足りないらしかった。
「見つけた。お前だな、昨夜帰ってきたばかりの氷使いってのは」
 そんなクロードの前にいつの間にか、カミオンが立っていた。
「誰だ‥‥?」
 同じ一族、同じ里の者であれど、訓練のための隔離や初陣に出る時期の違いなどから、世代が異なれば顔と名前が一致しない場合も多い。クロードとカミオンの場合がまさにそうだった。
「師匠が認める力量‥‥使命を果たす者の力がどんなものか、見極めてやる!」
 クロードから名前を尋ねられた事など聞こえなかったかのように、カミオンは拳を振り上げ、クロードに殴りかかった。だが戸惑っているとはいえ、クロードには実戦経験がある。するりするりと、ロングコートの裾をなびかせながらかわしていく。
「ほらほらどうした! びびって反撃もできないのかよ!?」
「お前が仕掛けてくる理由がわからない。これでは反撃したところで無意味だ」
 パシッ。乾いた音と共に、クロードが掌でカミオンの拳を受け止めた。
「‥‥そうかよ。じゃあ、これならどうだっ」
 それが余程悔しかったのだろう。カミオンは指先で宙をなぞり、己の額に紋様を浮かび上がらせた。かと思うとすぐさま、雷を両手に纏わせていく。
「反撃しろよ、俺に力を見せてみろ。でないとお前、黒焦げになるからな!」
 雷は球状に膨れていき、暫しのチャージ期間を経て、放つに十分なほどに育った。さすがにまずいとクロードが判断するくらいには。
「雷撃、撃ち貫けーーーっ!」
 なおも反撃してこないクロードに業を煮やしたカミオンの手から放たれた雷撃は、まっすぐ標的に向かう。
 あくまでも自分達の力は使命の為にあるとして防御に専念した結果、その態度がカミオンを更にいらつかせた事に、クロードは気づいていない。しかし迫る雷撃を眼にしてついに、クロードも宙をなぞり紋様を発動させると、自分の体長の2倍ほどある、大きな氷の盾を作り出した。

 爆音が里中に響いたのはその直後の事だった。一族の誰もが驚いて、音の発信源を見ると、もうもうと土煙のようなものが立ち込めていた。
「ルー、ラッド、あの馬鹿はどうした!?」
 杯から唇を離して、ルベールが側近を呼んだ。
「今夜はもう休むと先程‥‥」
「まったく、いらんところにばかり頭が回るようになるっ」
 実妹である長に「心配するな」と言い含めて、ルベールは丘に向かう。何が起きたのか心配する者とただの野次馬とが、彼の後に続く。

「まさか、全部受け止めたのか‥‥?」
 呆然と立ち尽くすカミオンの瞳は、皿のように丸く見開かれ、見事に心情を表していた。
 確かに全力ではなかったとはいえ、氷の盾はひび割れてすらいない。クロードも全力ではなかっただろう。――純粋に力で負けたのだと、思い知らされないわけにはいかなかった。
「この、馬鹿弟子がっ!!」
 未熟の烙印が押される痛みを味わった途端、脳天に降ってきた強い衝撃。潤む瞳を何とかこじ開けて確認してみれば、急いで走ってきたルベールだった。
「同族の者に攻撃を仕掛けるとはどういうつもりだ!」
「ま、待ってくれよ師匠、俺はただ、討伐に出るにはどれくらいの力が必要なのかを知りたかっただけで――」
「言い訳はいらん! お前の初陣など夢のまた夢だ!」
「そんな‥‥」
 普段はきわめて冷静なルベールが怒り心頭の様子に、他の誰も手出しはできなかった。
「すまなかったな。こいつは、俺が責任を持って教育しなおす」
「‥‥いいえ俺こそ、正当防衛とはいえ、里の中で力を使ってしまって」
 カミオンの首根っこを掴んだまま自分に頭を下げる里のナンバー2に、クロードは恐縮した。とはいえ、発した言葉は本心だった。
「そうだな‥‥ああ、宴を抜けてこんな所にいた罰だ。お前は歴戦の勇者の相手をしてこい」
「え――うわっ!?」
 今度はクロードが首根っこをつかまれる番だった。つかんだのは、すっかり出来上がって顔が赤くなっているダインだった。
「はっはっは〜。一名様お連れしま〜す」
 大きな鉄球を片手で振り回すほどの膂力に勝てるはずもなく、ずるずると連れられていく。
 クロードは下戸だったが、「ワシの酒が飲めんというのか」というお約束の台詞を出されては断りきれず、ついに倒れてしまうまで、延々と飲まされ続ける羽目になった。


「おばあさん、僕の未来を占ってください」
 宴の余興は歌と踊りだけではない。力を利用して占いをしている者もいた。恋人同士や友人同士の情の深さを気にする者は結構いるものだ。
 けれどフェリオはあえて、『自分の』未来を占ってほしいと告げた。老婆は頷き、水晶の玉の上で手を動かし、やがて、ぽつりと呟いた。
「火難の相が出ておるな。火に気をつける事だ」
「火‥‥?」
 それはまさに、さして遠くない未来を示していた。そしてフェリオだけではない、里の、神魂の一族全体の未来だった。

 だがそれを知る者はまだいない。宴の終わりを告げる追悼の鐘が悲しく切なく響くのを聞きながら、誰もがまた、いつもの日々に戻ろうとしていた。


●CAST
ミリア:日下部・彩(fa0117)
クルス:緋河 来栖(fa0531)
カミオン:ウォンサマー淳平(fa2832)
ダイン:モヒカン(fa2944)
フェリオ:七瀬七海(fa3599)
クロード:藤井 和泉(fa3786)
ネピス:藤緒(fa5669)
ラエル:メル(fa5775)