FL開園25周年記念アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 言の羽
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/20〜09/22

●本文

 ファンタジーランド。その名を知らぬ者はいないと言ってもよいほどの、大規模遊園地である。魅力溢れる世界観とそれに基づいた数多くのアトラクションは老若男女の心を捉えて放さず、たとえ平日であっても多くの来園者で賑わっている。
 一年の間には数多くのイベントがあるわけだが、ファンタジーランドではそれらを活用し、その時だけの限定で色々やるものだから、人々はつい引き寄せられてしまうのだ。「限定」――ああ、なんと甘美な響きである事か。

 今回の限定はどんな限定かというと、「ファンタジーランドの開園25周年限定」である。キリのいい年数での誕生日イベントとくれば、元からお祭好きのファンタジーランドの事、天井知らずの盛り上がり方となる。その盛り上がり方についていけるか否か。それがファンタジーランド通と評されるかどうかの分かれ目となるのである。

 ◆

「本日もファンタジーランドにご来場いただき、まことにありがとうございますーーーっ!!!」
 いつもハイテンションな2名一組の女性キャストだが、今日はまた一段とハイにハイを重ねてハイだった。
「今月を持ちまして、ファンタジーランドは開園25周年を迎えます!!」
「これもひとえに皆様のご愛顧のおかげです!!」
「「本当に本当に本当に‥‥っ! ありがとうございまーーーすっ」」
 二人で頬をくっつけ、手と手を重ねて、ぴんと伸ばす。なんだか妙なポーズだが、テンションからして妙なので、周囲の客は誰一人として気にしていない。むしろ、客も同じテンションに染まりつつある。
「さてさて、そんな25周年イベントを園内各地で催しているわけですが!」
「ここ、『ゴーストマンション』でも勿論! イベント開催中ですっ」
 ここで、片方のキャストが図解の張られている掲示板を示した。
「まず受付で、この特殊な計測器を首からぶら下げてもらいます!」
「ご一緒に中に入られた方のうち、どなたかお一人でも悲鳴を上げずに出口へ到着できれば、そこでプレゼントを差し上げております!」
 ちなみに、プレゼントが何であるかは秘密。先にわかってしまったのではつまらない。
「ぜひぜひ、がんばって下さいね!」
「あ、口を塞ぐとか、ズルはいけませんよ!」
「ぜぇーんぶ、わかっちゃいますからね!?」

「それでは皆様のご参加を――」
「「お待ちしておりまーっす♪」」

●今回の参加者

 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)
 fa5331 倉瀬 凛(14歳・♂・猫)
 fa5810 芳稀(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文


「この間のおにーさん、結局満点とれたのかなぁ?」
 姫乃 唯(fa1463)は今日も一人だった。家族や友人とはなかなかスケジュールが合わないのだから仕方がない。それでも彼女がファンタジーランドまでやってくる理由はただひとつ。「限定」がそこにあるからさ。
「えーっと‥‥あれー、リンサンだぁ」
 お目当てのアトラクション『ゴーストマンション』に向かう途中、唯が目にしたのは同じく一人の倉瀬 凛(fa5331)の姿だった。「凄ーい、芸能人に会っちゃった!」と喜んでいるが、自分も芸能人なのだという事を忘れているのだろうか。
「ああ。姫乃さん、こんにちは。一人なの?」
「はい♪」
「そっか。僕は友人に強引に連れて来られたんだけど、はぐれちゃって。この人の多さだと探すのは無理っぽいと思って、諦めかけてたところなんだ」
 人混みって苦手だし、と凛は言う。集合時刻は決まっているから大丈夫だというし、それじゃあ、と二人は並んで唯のお目当てに向かった。
「「本日もファンタジーランドにご来場いただき、まことにありがとうございますーーーっ!!!」」
 そして、女性二人組キャストのテンションを初めて目の当たりにした凛は、絶句した。
「何だか凄いね‥‥?」
「あのお姉さん達はいつもあんな感じだよ。今日はひときわ凄いけど!」
 唯は既に慣れたらしい。笑顔でキャストに手を振り返す余裕まである。決して楽しくないわけではないが、ついていけない――アトラクションに入る前からくじけそうになる凛だった。すぐ横を入口に向かってツカツカ進んでいく千音鈴(fa3887)と芳稀(fa5810)との対比で、可哀想に見えるほどに。
 受付スタッフの鼻も白むような態度の二人だけではない。『ゴーストマンション』はお化け屋敷だが、限定イベントのせいか、どうにも本来の楽しみ方とは異なる方法で楽しんでいる者が多いように見受けられる。例えば、黒帽子に黒マントで一足早いハロウィンのコスプレで来場の雅楽川 陽向(fa4371)。
「ダメやろか? ごっつ楽しみにしてきたんやけど」
「ゲストの皆様に楽しんでもらうのが私達キャストの使命、ゲストの皆様の使命は楽しむ事です♪」
 その格好のままで宣伝を手伝いたかったようだが、笑顔でさっくり断られた。
 かと思えば、お化け屋敷の正統な楽しみ方として、入る前から怖がっているDarkUnicorn(fa3622)ことヒノトのような者もいる。
「相手にとって不足無しじゃ!」
「ヒメ。足が震えているようだが」
「こ、これは武者震いなのじゃぁぁ‥‥」
 先日、人生のパートナーとなる事が決定した御鏡 炬魄(fa4468)から指摘を受けても、彼女は認めようとはしなかった。お化けごときにびびるなど、認められるはずがなかったのだ。
 そしてもう一人、角倉・雨神名(fa2640)。大好きなホラーへの挑戦を前に、自信満々で胸を張る。
「この前お友達と一緒でお化け屋敷行って、克服できたもん!」
 主観的には克服できたらしいが、乗り切っただけの事を克服とは表現しない。


「なんて簡単な条件なのでしょうか。はっ、この私を恐怖に陥れようなんて100万年早いです」
「そうよねえ。怖さを演出する演技なら、私だって出来るもの」
 お化け屋敷内では怯えや驚きから立ちすくんだり、そうでなくても急の事態に対処できるよう、足取りがゆっくりとなるものである。だが彼らにとって、それこそありえない事だった。唇の片端を歪め、血の跡をせせら笑う芳稀。点数を付けてあげると言わんばかりにチェックを怠らない千音鈴。
「どれだけ意外性をもってアクションをかけてきてくれるのかしら?」
「期待するだけ無駄ですね。こういう場所には大抵来るものなのですが‥‥案の定、出ましたわ」
 曲がり角を曲がった直後、天井から逆さまに落下してきたのは、けたけたと全身を鳴らす白骨。それを片手ではねのけ、彼らは進む。
「あら、クローゼットの山。行き止まりね。少し戻らなくちゃ」
「戻ろうとして背を向けたところでクローゼットの中から急に飛び出してくるんですよね」
 今まさに包帯男が内側から押し開けようとしているのを注視しながらネタを先読みし、
「この割れた窓を通り過ぎて少しすると、窓から這い出てきて私達を追いかけてくるはずです」
「あらあら。芳稀の言う通り――って、誰の許しを得て触ってんのよっ!」
 腐敗が進んだ身体を引きずって追いかけてきたゾンビ、それが肩に手をかけた瞬間にあろう事かグーで殴りつけ(しかも鳩尾に入れた)、
「くどい。絡んでくる時間が長すぎます。次の人の為にさっさと持ち場に戻ったらどうですか」
 苦しみに呻いてうずくまるゾンビを絶対零度の眼で見下ろし、とどめの一発。
「ほんと、この程度で怖がるとでも思ったら大間違いよね。スタッフは修業積んで出直してくるがいいわ、おーっほっほっほっ!!」
「この計測器、全くの役立たずで邪魔でしたね」
 彼女達の功績により、キャストの控え室が自信喪失と涙と嗚咽で染まったのは、言うまでもない。

「怖くない怖くない怖くない怖くない‥‥」
 それがまるでアミュレットか何かであるように、首から提げた計測器をぎゅっと握り締める雨神名は、なんと単独でのチャレンジだった。
 壁に大きな穴の開いた子供部屋には壊れた玩具が雑然と広がっていて、穴の奥でちかっと一瞬光が灯るのが見えた。何かあるとわかっていながらも覗かずにはいられず、ゆっくりと穴に目を近づける。すると。「キャハハハハッ」という甲高い笑い声と共に、半分が見事に焼け爛れた女の子の顔がどアップで映し出された。
「‥‥っぁぅ、こ、怖くない、怖くないよ‥‥平気ですっ!」
 喉を駆け上ってきた悲鳴をどうにか飲み込み、ただし目尻には既に涙を滲ませながら、それでもお茶目にカメラのありそうな所へむかってVサインを決めてみせる。モニター室では上客の出現に、神へ感謝の祈りを捧げている頃だろうか。
「あ、あれ‥‥? 行き止まり‥‥?」
 人間心理を巧みに利用した誘導によって、ほとんどの人がクローゼットの行き止まりにたどり着く流れに乗ってしまう。雨神名はこういうものに簡単に引っかかるほうのようだ。しかも、必死でここまでたどり着いた為、別の道があった事もわからないでいる。
 妙に静かで、それがまた恐怖をそそる。
「平気、平気っ‥‥うぅ、でも次どっちかなぁ‥‥」
 あまりきょろきょろしたくないのだが、するしかない。警戒しつつ今来た道を確認して、別の道にもようやく気づいた。だがクローゼットからミイラ男が飛び出してきて、喜びに浸る間もありはしなかった。溢れ始めた涙が後方に流れていくのもかまわず、ただただ走って逃げる。それでも悲鳴はまだ上げていない。立派なものだ。
 とはいえ、もともとがそんなに丈夫ではない堰だったのだ。与えられ続ける恐怖に、いつしか耐えられなくなり。ゾンビに追いかけられる頃には決壊してしまっていた。
「いやぁぁー! 本物のゾンビが出たようっーー!」
 本物のはずがない。けれど雨神名の怖がりように嬉しくて仕方のなくなったゾンビは、腹の底から楽しそうな笑いを通路に響かせ、彼女を追いかける。追いかけて追いかけて‥‥ついに彼女が出口を飛び出して涙でぐしゃぐしゃの顔を他の客に披露するまで追いかけた。――キャストの控え室では歓声が上がった。

 怖がり雨神名のやや後方には、陽向がいた。
「なるほど、ああやって怖がらせるのですねっ!」
 演出の為に『ゴーストマンション』内は薄暗くなっているのだが、ご丁寧にペンライトを持参していた彼女は、それで自分の手元を照らしながらメモ帳にざかざかと書き込んでいく。芝居の勉強になるらしい。
「心細さをあおったり、驚かせたり、色や明るさ、もちろん見た目も重要なんかな」
「そこのお嬢さん」
「今は取り込み中なんです。後にしてもらえますか?」
「一体何をしておいでなのかな」
「何って、‥‥首なし男?」
 遠ざかる雨神名を追いかけようとした陽向を呼び止めたのは、自分の首を小脇に抱えている紳士だった。
「何をしておいでなのかな」
「観察や」
 答えながら、陽向は首なし男の首元に手を伸ばした。ない様に見えるが、ある。無いはずの頭が、ちゃんとある。冷静に考えてみれば当然の事なのだが。
「黒いネットで覆ってるんか。それやったら、こんな薄暗いとこで見たら何もない様に見えるわなぁ」
「あの、ちょっと」
「こっちの偽首は‥‥かぶれるようになってるんやな。成る程ー、これをかぶったり外したりしてたら、首がくっついたり取れたりしてるように――って、なんで逃げるんやー!?」
 紳士は手に持つステッキを振り回して陽向が近づけないようにしながら、走っていってしまった。可哀想に。彼は今日の仕事が終わり次第、同僚と酒を飲み、べそをかきながら愚痴をこぼして相談をする事だろう。

「悲鳴はダメでも歓声ならいいの? 大きい声そのものがダメなら、あんまりはしゃぎ過ぎないようにしないといけないんだけど」
 唯のずれた質問にも、受付スタッフは笑顔で答えてくれる。
「歓声でしたらOKですよ。悲鳴かどうかは、その計測器を通して、こちらで判断できますので」
「『特殊』な計測器か。どんな風に特殊なのか、一寸気になる‥‥」
 凛は受け取った計測器を、その向きを変えながらまじまじと見つめてみた。手のひらサイズだが重みを感じる計測器はカバーに覆われているが一部切り抜かれており、小さな画面が見えるようになっている。まだ何も表示されていない――というか、何か表示されるのかどうかすらわからないのだが。
「大きい建物だよねぇ。セット組むの大変だろうなぁ」
 そのままマンション内部へ進んでいく二人。しかし、唯は楽しみ方がやはりずれていた。何故今日はこういう客ばかりなのだろうと、入口付近のキャストが嘆いていた事を彼女は知らない。
「折角だから、ゆっくりと色々見て回ろうか」
 凛のこの言葉も、どことなく場違いではなかろうか。
「そうだね。あ! ね、ね、あの仕掛けってどうなってるのかなぁ?」
 落ち着いた様子で歩く凛の手を引き、唯が駆け寄った先は、次のフロアに進む為の、木製の扉である。ただし勝手に開閉を繰り返しているので、開いている隙を狙って滑り込まないといけない。
「人が近くにいる間は、開閉が緩やかになるみたいだね。コンピュータ制御とセンサーかな」
「考えた人、大変だっただろうなぁ」
「どうだろう。基本的な仕組み自体は単純そうだけど」
 凛は唯を先に通す為、扉を押さえながらそう答えた。直後、扉が突然ガタガタと大きな音をたてて震えだしたかと思うと、真っ白い仮面をかぶった黒いローブ姿の男がぬっと顔を出した。
「‥‥っ!」
 一瞬のけぞる凛。だが声は上げなかった。表情もいつもと変わらない。逆にローブ姿の男のほうが拍子抜けしている様子だった。
「不意打ちはずるいよ、一寸吃驚した」
「あはは、幽霊サン凄ーい! なんだか可愛いよっ!」
 さして驚いているようには見えずに悲鳴も上げなかった少年に驚いたと言われ、怖がるどころか笑い出した少女には可愛いと言われ。誇りを持ってゴースト役を演じてきたローブ姿の男も、遂に一歩退いた。そうしたら、扉がばたりと閉まった。
「前言撤回。結構凝ってるね、仕掛け」
 凛は今度は、壁に突き刺さったまま紅い液体を滴らせている斧に視線をやっていた。
「ステージの演出に使えるかな。覚えておこう」
「さっきの幽霊サン、本物みたいだったね。相当演技力いるんだろうなぁ‥‥って、ダメだ、ついそういう目で見ちゃうよぉ」
 自覚はあったらしい。

「一つずつ観察してみるか。今時は如何な物で脅かそうとしているのか興味もある」
「うむ、お化け屋敷など皆、作り物なのじゃ」
 余裕綽々の炬魄に手を握ってもらっている時点で、ヒノトが精一杯の強がりを言っているのだとわかる。つい手をついた壁がぎぎっと耳障りな音をたててた事に身をすくませている。
「いや、しかしこの住み心地の良さを嗅ぎつけた本物のお化けが居ついておったりするじゃろうか‥‥」
「いつも戦っているアレの方が、俺達にとっては脅威だろうに。ほら、コートから出てこい」
「アレはコアを砕けば倒せるのじゃ。しかし、お化けは何をやっても倒せぬのじゃ!!」
 ただでさえ薄暗いのに、周囲を見たくなくてヒノトは炬魄の着ているコートの内側に隠れている。本当に怖がっているのだろう。
 炬魄はちょっとした段差にもつまずくヒノトを支えながら、先へ進む。全身を鳴らす白骨が降ってくる。長身の炬魄の頭部に、手指の先の骨が触れる。
「撫でられてしまったか」
「何? 何にじゃ?」
 繰り返す。炬魄は淡々としたものだ。だがヒノトはそうではない。炬魄が何に撫でられたのかを気にして、ついコートから顔を出した。そして見てしまった。前方を、すぅー‥‥っと、青白い上半身が、上半身のみの女性が、横切って消えたのを。
「出たのじゃあああっ!」
 その場でひっくり返ったヒノトは、立てなくなっていた。腰を抜かしてしまったのだ。情けないと自分でも思う。
「抱えてやろうか?」
 質問の形式をとってはいたが、返事は不要のようだった。炬魄は軽々と、ヒノトを横抱きに、いわゆるお姫様抱っこに、してしまった。
 しがみついているヒノトにしてみればやや照れる行為ではあるが、ゴーストそっちのけで炬魄の鼓動のほうにドキドキしてしまうのである意味でとても有効な手段だった。ドキドキするのに、暖かくて安心するのは何故だろう。おかげで、悲鳴は1回上げただけで済んだ。