私の想いを捧ぐ人アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
言の羽
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/09〜02/13
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●本文
現役女子高生の女優の卵、葛原みちるはとあるテレビ局のスタジオで休憩をしていた。ドラマの撮影をしているのだが、区切りがいいからという事で少し遅い昼食の時間となっていた。
「はい、マネージャーさん」
「いつもすみませんねぇ」
紙袋から取り出した弁当箱をマネージャーに渡し、その後で自分の分の弁当箱も取り出す。膝の上に乗せ、包みを解き、蓋を開く。栄養と彩りに気が配られた、家庭の味を予想させる弁当だ。
この弁当の作成者はみちるの母親である。彼女は制作側が用意する仕出し弁当ではどうにも不安らしく、みちるの仕事の時間が何時であろうとも、食事時を含む場合は必ず弁当を作って持たせてくれる。しかも、ひとり分を作るもふたり分を作るも同じ手間だからと、マネージャーの分まで一緒に。
「いつもながらこのから揚げはおいしいですよ」
「お母さんの一番の得意料理だもん。私もお手伝いしながら作り方を習ってるんだけど‥‥なかなかこの味は出せないんだよねぇ」
「長年作り続けてこその味なのかもしれませんね」
同じく母親の入れてくれた緑茶を水筒から注ぐ。ほぅ、と一息ついて、ふたりの頬も軽く緩んだ。
するとそこに、革靴の足音が聞こえた。視線をやると、共演者である水元良だった。
「なぁ葛原さん。ちょっといいかな」
水元良は、世間的には18歳とされている。素朴な性格とルックスが売りで、最近は奥様方を中心にじわじわと人気を伸ばしている。
その良が少し照れくさそうに声をかけてきた。断る理由もないので、みちるは食事を中断して彼についていく。
◆
戻ってきたみちるの表情はなぜかさえなく、再び箸を握ったもののぼんやりとしていて、何を掴むわけでもない。不思議に思ったマネージャーが尋ねてみても力なく首を振るだけで、答えようとしない。
一方、良の様子は元気はつらつ。妙に意欲的で、まるで誰かに自分のいいところを見せようとしているようだ。
その後の撮影で、みちるはNGを連発した。
日が変わっても、彼女の様子は変わらない。
確実に、仕事に支障が出ている現状をかんがみて、マネージャーは社長へ連絡を入れた。――みちるが話を打ち明けてくれそうな人はいるだろうか、と。
●リプレイ本文
●わかっていないのはひとりだけ
「さて、と。なんとなく何があったか想像つくけど、憶測だけじゃどうにもならないし、裏もちゃんと固めないと駄目だね」
ラシア・エルミナール(fa1376)がそう言うと、阿吽の呼吸で嶺雅(fa1514)がマネージャーを部屋から追い出した。
彼らがいるのは、みちるの所属するプロダクションの一室。応接間と言ってもいいだろう。コの字型のソファに腰かけながら、狭霧 雷(fa0510)は携帯を取り出した。みちるの親友である咲と洋子の携帯番号は、マネージャーから既に聞き出し済みだ。
この場にいる全員で話ができるように、借りた機械を携帯に取り付けて、まずは咲にかけてみる。
『――誰?』
知らない番号からの電話ゆえに、警戒した声で返事がきた。だが雷が名前を言うとその警戒も解かれ、雰囲気が和らいだ。和らぎはしたが、雷の説明の後、協力を求められた彼女の出した答はノーだった。『バレンタインにチョコをくれ』と、水元良に半ば強引に押し切られてしまったのではないか、みちるには想い人がいるようだから余計に悩んでいるのではないか、と予測を付け加えても咲の対応は変わらない。
「確かにあまり気分の良い事ではないかもだけど、みちるさんのためと思ってやってもらえないかな?」
「プライバシーなのはわかるけど、このままだとプロダクションから横槍入って、余計話が大きくなっちまいそうだぜ? そうなったら誰のためにもならないし、少なくとも理由さえ伝えれば、静観してくれるはず。そうするようにあたしらからも頼むから」
小桧山・秋怜(fa0371)とラシアが続けざまに言ってみたが、ダメだった。
『咲、どうしたの?』
『みちるの様子がおかしい理由、聞き出してくれって』
向こうに洋子が加わったらしい。電話口から少し離れて説明するのが、ぼそぼそと聞こえてくる。洋子の反応もかんばしくなさそうだ。
「ふたりがみちるさんを元気づけてくれるなら、何も聞かずに任せてもそれはそれでいいと思うでぇ」
みちるに辿り着く前に彼女の親友という壁へぶち当たったわけだが、それでもゼフィリア(fa2648)はのんびりおっとりとした様子だ。
「そんなっ、それじゃお仕事にならないよ!?」
「まあ最後まで聞いてや。‥‥あんな、咲さん。3人寄れば文殊の知恵言うし、うちらにも適切な助言が出来るかもしれへん。それにうちは誰であろうと困っている人はそのままには出来へんのや」
腰を浮かせた大海 結(fa0074)を押しとどめ、親友達の説得の言を続けたゼフィリア。ワンクッション置く事で、あくまでも柔らかく、それでいて切実に頼み込んでいる。雷やラシアのように親友達と面識があるわけではないが、その態度はとても真摯だった。
そしてこの態度が咲と洋子を動かした。ひとつ聞きたいんだけど、と彼女達は鷹見 仁(fa0911)を名指しして、いるかどうかを尋ねてきた。
その場にいる全員の瞳が自分に向けられては、黙っている事さえできない。なぜ自分が指名されたのか理解不能のまま、仁は返事をした。
『やっぱりいた。――あなたの意見を聞かせてくれる?』
咲は強気を通り越して、声だけでも判別できるほど喧嘩腰になっている。仁の戸惑いもますます強くなるが、それで質問を避けられるわけでもない。覚悟を決めて、彼は口を開いた。
「‥‥俺は‥‥皆に聞かれたくないというのなら、聞かせられる人に聞かせられる事だけで構わない。みちるが何を悩んでいるのか、聞いてやってくれないか?」
『私達にだって、大体の予想はついてるわ。あなた達と同じで。だから尚更お断りしたいんだけど』
「前にみちるの学校に行った時、助けに行った筈なのに現状認識の甘さから彼女に辛い思いをさせちまった‥‥。あんなのはもうイヤなんだよ」
『‥‥はぁ‥‥何もわかってないのね、あなた』
はばかる事のないため息。なんでこんなのがいいのやら、という呟きもかすかに届く。
『仕方ないわね。このままだと仕事に支障が出るっていうし、やるわ』
散々嫌がった挙句のこの結論。咲の性格を思い知らされた一行は、それでもとりあえず胸を撫で下ろしたのだった。
●わかっていないのはやっぱりひとりだけ
次の日が、みちるの一日オフの日だった。マネージャーを運転手に、一行はみちるの家に到着。呼び鈴を鳴らし、急な訪問に目を白黒させるみちるをよそに、勝手知ったる何とやらの咲と洋子に案内されて家に入る。
「はじめまして、僕は小桧山秋怜っていいます」
「あんたらが咲さんと洋子さんやな。今回はよろしくなぁ」
礼儀正しく靴を揃える秋怜、挨拶を交わすゼフィリア。そんな彼らと何食わぬ顔で会話している親友達に、何事かとみちるは彼女達の腕をとろうとした。だがその矢先、みちるの目と鼻の先ににゅっと紙袋が差し出される。条件反射で受け取ってみれば、ほんのりと温かい。
「‥‥メロンパン‥‥です‥‥どうぞ‥‥。ほんの‥‥手土産と‥‥お近づきの‥‥しるし‥‥です‥‥」
まだ温かいメロンパンのように温かい微笑を浮かべて、湯ノ花 ゆくる(fa0640)はみちるの手にそっと自分の手を重ねた。
「あ、ありがとう‥‥」
雰囲気に呑まれていくみちるだった。
「咲、キッチンってどっち?」
「久しぶりね、ラシア。そのドアの向こうよ、準備は大体できてるから」
「はいはーい、荷物通るよー」
「あれ、北城先生!? なんで先生がここにいるの?」
こっちはこっちで慌しい。一般家庭のキッチンの広さなどたかが知れているのでこの人数が入りきるはずもないが、そこはダイニングのテーブルを使う。キッチンでなくともできる作業はそちらで談笑しながらだと、昨日のうちに打ち合わせてある。
これから何を始めようというのか。知らないのは、みちるただひとり。メロンパン入りの紙袋を抱いたまま呆然と、玄関口で立ちすくんでいる。ゆくるも自分用のメロンパンを持って行ってしまった。疑問符を浮かべるみちる、そこでようやく結が教えてくれた。
「今からお菓子作るんだよ。みちるちゃんも一緒に作ろうね♪」
「え‥‥お菓子?」
「そうだよ、もうすぐバレンタインだから、って」
みちるの表情が固まったのを、結は見逃さなかった。彼は女の子同士がするようにすぅっとみちるの肩を撫でてあげた。
「僕は別に、バレンタインってそんなに気にする事でもないと思うんだけどね。ほら、外国だと男の人もプレゼントするし、僕も実際にお菓子とかあげた事あるもん。でもやっぱり女のコには意味が違うのかな?」
大好きで大切な人にあげられれば、それが一番だよね。そんな言葉をかけながら。
一方、運転手の役目を終えてプロダクションに帰ってきたマネージャーは、資料やパソコンとにらめっこをしている雷と仁に、コーヒーを入れる事にした。
「何も無ければそれで良し。何かあっても事前に知っておけば対処策はありますので」
いつもの天使の微笑を崩す事なく、雷はカップ片手にさらりと言ってのけた。敵に回すと怖いタイプだな、とマネージャーは心中で苦笑した。水元良の身辺調査までするとは思ってもみなかった。
同業者に聞いてまわるという彼に、それならまず、うちのプロダクションで調べられる事を調べてからにしてくれと言ったのは、話が大きくなっては困る上に、良の所属プロダクションに気づかれては後々面倒な事になりかねないからだった。ただでさえ最近は、上昇中のみちるの人気に目をつけたゴシップ記者が、そこらをうろついているのだ。用心を重ねるに越した事はない。
「仁さん、どうですか?」
「いや、まだ特に何も」
もっとも、週刊誌のページをめくる仁こそが一番の爆弾である事は、マネージャーもうすうす感づいてはいるが。
――もし良が裏のある奴だったら、みちるを止める。それで嫌われる事になってもな。
自嘲にも似た、しかし確固たる決意を露にした仁。うまく事が運べばいいのだがと、愛用の頭痛薬を取り出すマネージャーだった。
「できましたぁ‥‥♪」
嬉しそうに自身の作ったお菓子を掲げるゆくる。本物のメロンを入れたメロンパンを、メロンパンの形をしたチョコの中に入れた物であり、まさにメロンパン尽くしである。試作品だというが、完成品はどんな物になるのだろう。
他の者はクッキーだったり、チョコを溶かして固めたりと無難な物を作った。自分達が食べる分をとりわけ、残りを思い思いにラッピングする。特にバレンタインを意識していない者もいるなかで、嶺雅はじーっとラシアのほうを見ていた。
「何?」
「それ、俺にくれるんだよね?」
「は!?」
「ラシアが作ったモノは全部俺のモノのハズ。違う?」
頬がほんのり紅潮しているラシアに、ずずいっと詰め寄る嶺雅。どうもつきあっているらしいふたりの惚気劇場はさておいて。
暗い顔のみちるの手にも、可愛らしいラッピングの包みがある。中身はチョコ。ひとり分しか作っていない時点で、彼女の想いは決まっている。それなのに彼女の表情が優れないのは、ひとえに不安だから。怖いから。
「‥‥やっぱり‥‥そのっ、‥‥今の‥‥自分の‥‥本当の‥‥正直な‥‥気持ちを‥‥相手に‥‥話すしか‥‥ないと‥‥思います」
潰れそうな勢いでメロンパンを抱きしめながら、ゆくるは語る。
「‥‥好きな人に‥‥気持ちを‥‥伝えないと‥‥恋は‥‥いつまでも‥‥恋のままです‥‥。みちるさんの‥‥今‥‥本当に‥‥好きな‥‥人は‥‥誰‥‥ですか‥‥」
「後になればなるほど相手は希望を抱いて、それがこっちにとってはプレッシャーになって断りづらくなるという悪循環になるでぇ」
ゆくるに続きゼフィリアも、厳しいが実のある言葉をみちるに贈る。
唇を噛みしめて、涙が流れるのを必死で我慢するみちるを、咲と洋子が彼女の部屋へと連れていった。
本命としてのチョコをもらえないか。それが、水元良からみちるが言われた事の内容だった。要するに、恋人になってほしい、と。断ろうとしたが、断る前にもう一度考えてみてほしいとも言われた。それだけ本気なのだという事だ。
みちるが好きなのは、良ではない。別にいる。それが誰であるかは、やはり皆の予想通り。
咲と洋子が泣きじゃくるみちるから聞き出した話は、リビングでじっと待っていた者達を通して、マネージャーにも伝えられた。
●ようやくわかってくれただろうか
「久しぶり‥‥元気だったか? 初詣、一緒に行けなくてごめんな」
周囲の気配りにより、みちるは自室で仁とふたりきりになっていた。外で会うのは少々危険だからだ。
実は秋怜が仁にくっついて入室しようとしたのだが、仁を牽制するつもりでいた嶺雅と共に、雷が止めた。
「え、あ、そ、そんな事ないよっ」
「そうか? ――っと、これじゃ恋人の挨拶みたいか。ちょっと馴れ馴れしかったな」
ははは、と場つなぎに笑うも、その行動がみちるを傷つけている事を、仁はまだ気づいていない。みちるが背後にチョコを隠している事も。
好機は待ってくれませんし、必ず次があるとも限りませんからね‥‥雷の耳打ちを思い出し、ともすれば挫けそうになる自分を奮い立たせる。みちるは覚悟を決めて、仁に向き直った。
「あのねジン君。その‥‥私が、誰かを好きになったら、どうする?」
「‥‥そうだな。誰かを好きになる事はきっとみちるにとって良い経験になると思う」
最初から答を用意していたのだろう。大して考える事なく、仁はみちるの問いに答えた。
「たとえ結果的に辛い事になってもそれは女優としてのみちるにはプラスになる筈だ。だから監督としての俺からはやめろとは言えない。‥‥言えないな」
高校生ながらに映画監督でもある仁。監督として、女優であるみちるを見る限りでは、むしろ多くの経験を積んでほしいくらいだ。
けれどひとたび監督である自分を忘れれば、浮かび上がるのは違う感想、異なる思考だった。
「俺にこんな事言う権利が無い事を承知で言うぞ。――みちるが誰かと交際する事になったとして、もしその交際を続ける事でみちるが不幸になるってわかったら‥‥俺はお前に嫌われる事を覚悟で邪魔しにいくからな」
それは本音。――本音ではあったが、友としての本音か、それとも‥‥
「‥‥笑うなよ。俺、そんな笑われるような事言ったか?」
「ジン君らしいなって思って」
自分でも知らぬ間に笑っていて、そんな自分の様子に、仁が自らの頬をかく。なんとなく幸せに似たものを感じながら、みちるは包みを差し出した。
「私がチョコを贈るのは、ジン君だけ。私が想うのも、ジン君だけ。――私が好きなのは、ジン君だよ」
「え‥‥」
「受け取って。それで、ホワイトデーにお返ししてくれると嬉しいな。返事は、その時に。いっぱいいっぱい、私の事、考えてほしいから」
初詣で引いたおみくじ。『待ち人』の欄には「腰を据えて待て」、『恋愛』の欄には「積極的に行動せよ」。
みちるはおみくじの導きに従った。コンポからは、秋怜の作曲したアップテンポのインストゥルメンタル、『Tomorrow(明日へ)』が流れていた。
残る問題は、水元良。
「何これ‥‥みちる、このままだとヤバイんじゃない?」
雷が広げた資料に、嶺雅の眉が釣り上がる。
良には何も悪い所はなさそうだった。あるとすれば、彼の母親だ。出来のよい息子を可愛がるばかりに、どんな手を使ってでも息子の希望を叶えようとする‥‥一部ではかなり知られた話だそうだ。
スッパリと断る方が優しさだと思う、と先刻みちるに告げていたゼフィリアは、嫌な予感を感じとっていた。良から告白されたその場で断っておくべきだったのではないか、と。