東北演劇祭・当日準備班アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 香月ショウコ |
| 芸能 | 1Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 1万円 |
| 参加人数 | 8人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 08/12〜08/16 |
●本文
本格的な夏の暑さがやっとやって来た東北の地。そこで行われる一大イベント。『夏の大演劇祭in東北』
毎年、東北の都市を順番に会場とし行われてきたそのイベント。その地域のアマチュア劇団から、幾つかのプロの劇団まで参加する舞台演劇のいわば祭典。数多くの参加団体に、大きな劇場、広い会場。その開催が近づいてくると、いやでも街は活気づいてくる。
そんな大きなイベントだからこそ、何かしらのミスも起きやすいし、ちょっとした事件も起こってしまう。
・ ・ ・
「ちょっと待て、手配出来てないってどういうことだ。つーか、去年も似たようなことを言わなかったかお前」
「すいません、担当の奴がファックス送ったつもりで送ってなかったらしく‥‥え？ 去年？ いえ、俺は演劇祭のスタッフは今年からですけど」
でかいイベントを目の前に控えた当日早朝、急ピッチで最後の仕事が進められていく劇場内。そのど真ん中で交わされる会話。
「とりあえず、そのへんうろついてる暇そうな奴らに片っ端から声をかけまくれ。最低限の人数と最低限の常識さえあれば何とかなる仕事だろう」
「そうですね、表でビラ配りしたり劇場内の案内板設置確認したり、受付設営と受付お姉さんとか看板設置＆確認とか警備とかゴミ拾いとか劇団の荷物運び＠当日搬入分の手伝いとかレースクイーンとかそんな程度ですから」
「レースクイーンは要らん。‥‥そうだな、あとはその他各人が気付いた雑用か。とにかく一分一秒でも早く人を集めて来い。集まらなきゃ、お前とファックス忘れた担当者に３０人分ずつくらい働いてもらうからな」
大演劇祭開会式まであと２時間。準備は間に合うのか！？
●リプレイ本文
●結成、当日準備班「さて、そんじゃ俺は買出しに行ってくるぜ。要る物は今のうちに言っといてくれよ」
「木」
「飲み物」
「朝ごはん」
「携帯ゲーム」
「誰だ今ゲーム言った奴」
はい私です。
それはともかく、ヘヴィ・ヴァレン（fa0431）は葉月 珪（fa4909）を買出しのお供に自分のトラックが停めてある駐車場へ向かい、そして。
すぐ帰ってくる。
「あのー、すいませんごめんなさい、引きずらないでください！ 僕、僕はっ！ あっ、そこの方達、助けてください！ 僕お客さんなのに突然襟首掴まれて‥‥へ、へるぷみー！」
だがしかし。誰も助けてあげない。だって彼女も芸能人。仕事手伝わせるには一般人より役に立つ。
と、いうわけで。姫野蜜柑（fa3982）、大演劇祭スタッフのパシリとして参戦。
改めてヘヴィと珪が出発すると、皆はそれぞれに出来る仕事に取り掛かる。如鳳（fa2722）は会場で使用出来る電源の上限を確認しに向かい、ダミアン・カルマ（fa2544）と四條 キリエ（fa3797）はまず最優先の看板を設置しに、宇藤原イリス（fa5642）と蜜柑はビラ配りに外へ飛び出していく。
２時間。長いようで短い、スタッフ達の修羅場が始まる。
●ビラ配りはテキパキもこもこ
「このチラシをお父さんかお母さんに渡してねー。演劇って知ってるかな？」
今日は朝から暑い。東北は首都圏や沖縄と比べればまあ涼しいが、でも今年はかなり暑い。日本列島全土で３０度以上が記録される日もあった程の酷暑。それに耐えるために麦わら帽子を被って、蜜柑はちょうど通りかかった人達にビラを配っていた。
「しってるー。あーいうねこさんがでるやつー」
「え？」
ビラを渡した子どもが指差すその方向を蜜柑も見ると、そこには半獣化してメイド服、笑顔でビラを配るイリスの姿。
（「い、イリスさん、大丈夫なんですかその格好で‥‥！」）
（「大丈夫ですよ、万博とかオリンピックとかのキャラクターっぽいでしょう？」）
（「ま、まあ‥‥マスコットにしては頭身が高くて見る人が見れば気持ち悪いですけど」）
蜜柑はずずずいと走り寄ってイリスの格好を咎めたが、しかし確かにそうはばれないかもしれない。やっぱり人間の「こういう姿の生き物はいない、着ぐるみやコスプレに違いない」という先入観のおかげだろう。
結果、蜜柑はそのままのビラ配り、イリスはマスコットとしての客寄せをメインに、笑顔で人を引っ張る引っ張る。
「こんちはー、そこのお兄さん方、こういうのやってるんでよろしくー。受付のお姉さんが、かなりの美人で一見の価値ありかもね」
「そうだよー、でも受付で止まらないで、ホール内まで入ってほしいけどね」
そんな感じで若い客に宣伝してまわり、その勧誘ににやけた男数名が一緒にいた女性に拗ねられるという光景を何度か見ながら、ビラを配る。ビラは近くのコンビニや許可されている電柱にも貼り、残りはたくさん配る、配る、配る。しかしやはり時間が朝ということもあって、もとから演劇祭が目当てでやって来た客以外にはなかなか人が通らない。
「よう、ちょっと資材運びたいから手ぇ貸してくれないか。あんまり人も通らねえだろ」
帰ってきたヘヴィが、トラックの荷台から色々と荷物を降ろしながら声をかけてくる。その向こうでは珪がスポーツドリンクなどを入れたビニール袋を２つ両手に持って、劇場へ入っていく。
「じゃあ私が手伝ってくるよ。こっちよろしくね〜」
と、イリスがヘヴィの援護に。
ここからは劇場内のお仕事を見ていってみよう。
●看板受付案内板、急げ地獄の３連荘
「そら、持ってきたぜ」
「ありがとうございます。これでここの設置は終わりだね」
ヘヴィの持ってきた資材は一旦そこらに置き、ダミアンは完成し（組み立て）た看板を立てて足に重石を置き、ちょっと立ち上がって離れたところから見る。
「角度も大丈夫。色合いも目立つし目に痛くない。うん、完成だ」
劇場の入り口すぐ傍に置かれたその看板は、縦３ｍ横５０ｃｍという縦長２枚組。玄関の両側に阿吽の像のように置かれたそれらが、これからやってくる客を撃退する。‥‥いや、出迎える。
「あとは奥に何か立てるのか？」
「その前に、ここにもうひとつ小さいのを。『Ｗ．Ｃ』」
手頃なサイズの紙に大きく『トイレ』と書いて、近くの柱にペタリと貼る。劇場内にはデフォルトでトイレの案内くらいはついているが、込み合うとそれが客の目に入るかどうかは分からない。念のために戦力補強をしておく。
奥ではキリエが、分解して仕舞ってあった看板を組み上げた後で、看板の枠の木がささくれ立った部分を削り落とす作業に没頭していた。時間が無いのは分かっているが、こういうところを見過ごすことは出来ない。もし放っておけば、やって来た子どもが触って怪我をするかもしれない。それは美術屋として許すことの出来るものではない。
「お疲れさん。ほら、飲み物だ。一服しろ」
「ありがと。やー、作製からポカじゃなくて良かったけど、でも看板みんな古いね。もし時間と材料と人手があれば、全部作り直したいくらいだよ」
「おっけー、おっけー‥‥これもおっけー‥‥」
「イリス、角度とかは一応私やダミアンやルーさんもチェックしてるから大丈夫だよ。ヘヴィさんが舞台の荷物運びに行くそうだから、イリスは劇団の荷物搬入の手伝いとかに行ったらどうだい？」
「そうだね、そうするよ。いってきまーす！」
・ ・ ・
「受付はこの辺で大丈夫かな？」
「大丈夫だと思う。スペースはあまり取れないけど、仕方ないかな」
キリエとダミアンは看板の設置を終えると、次は受付の設営に移る。劇場大ホール前に設置されるそこは、入場料徴収とパンフレット配布を行い、また迷子案内所やサービスカウンター的役割も兼ねる場所だ。
「有名劇団の公演とかだったら、ここで一緒にグッズ販売をやったりもするんだけどね。今回はパンフだけだからバックヤードはそんなに広くなくてもいいね」
キリエの言うとおり、残念ながら『大演劇祭Ｔシャツ』などは販売されない。あしからず。
「チケット入れ、半券入れ、パンフレット‥‥金庫と帳簿は担当の人が直前に持ってくるから、とりあえずは大丈夫。キリエ君も一度、チェックリスト見直してもらえるかな？」
「了解だよ」
言ってキリエにチェックを頼み、ダミアンは腰に装備したペットボトル飲料を飲む。手が濡れたり床に水滴が落ちたりしないよう対策のされたそれには保冷剤も入っていて、疲れた身体に心地良い冷たさを保っている。
「ん、大丈夫じゃないかな。あとは担当の人が来たら念のためチェックしてもらって。‥‥ところでさ、ここの天井に『受付』プレート吊るすのは難しいよね」
天井を見上げるキリエ。それにつられてダミアンも見上げるが。
「確かにね。ざっと見ても１０ｍはありそうだ」
混雑している時でも遠くから受付の位置を確認出来るようにとプレートを吊るしたかったキリエだが、それはどうやら叶いそうもなく。仕方が無いので妥協案として、受付の奥に長い棒を立ててその先にプレートをくっつけておいた。
・ ・ ・
「にゃあぁぁ！ 台車が止まらないです〜！！」
「こらー、イリス遊ぶなー」
「遊んでないです〜！！」
・ ・ ・
案内板は先だって如鳳が制作していた。設置と確認だけで良いかと思っていたら、案内板本体と案内図・プログラム表などは用意されていたが、これらが合体していなかったのだ。つまり、ただの看板と紙。それを一つひとつ貼り、置きに行く場所ごとに分類して置いてある。
「じゃ、僕らはこれ置いてきますね。‥‥あれ？ 如鳳さん、これ怪獣の予定じゃなかったですか？」
如鳳が描いているのは子供向けに作られた高さの案内板。子どもの興味を強く引けるよう、子どもウケする、舞台に関係するイラストを盛り込もうとしていたのだが。
「いやの、よく調べてみると怪獣は出て来んのだそうじゃ。だから方針を変えて、戦隊ヒーローに出てくる正義の部隊風にしてみたんじゃ」
そういうわけで、方針転換。でも怪獣でなくても、最近の特撮ヒーローを思わせる絵なら何でも気を引けそうなので、きっと大丈夫だろう。
「案内板は、これで全部だね。工具類は受付の裏に置いても大丈夫かな？」
「受付のスペースをあまり広く取ってないから、事務室に置かせてもらった方がいいんじゃないかな。私は今から、案内板の最終チェックに行って来るよ。間違いがあったら大問題だからね」
「じゃあ奥の方を頼むよ。僕は事務室に工具を置かせてもらってから、入り口の方を見てくる」
作業を終えると、ダミアンとキリエはそうして最後のチェックに向かう。これが終われば、あとは彼らの仕事は看板や案内板が破損した時に修理に向かうだけだ。
●受付に流れる様々な空気
開会式の時間も迫ってきた。
劇場内に不審な人物でも紛れ込んではいないかと、資材の運搬がてら見てまわっていたヘヴィは、ある地点で不審な空気を感じた。それは、つい先ほど設置が完了し、少しずつお客の姿も見えてきた受付の近辺で。
そこには、二人の男女と真っ向から向き合う蜜柑の姿。
「おや、さっきのお兄さん方じゃないですか。ふっふっふ、美人の受付でーす（ニヤリ」
それは不審な空気というか、白けた空気というか、凍りついた空気というか。決して蜜柑が美人じゃないというわけではないが、でも自分で言っちゃあおしめぇよ。
はいはい、と蜜柑の首根っこを掴んでどこかへ消えていくヘヴィ。蜜柑は「あはは、冗談冗談、向こうにいるよー」と珪を指して捨てゼリフを残し。それ以降彼女の姿を見た者はいなかった（嘘
それはさておいて、受付。珪はまだそれほど多くない客に早めにパンフレットを渡して入場手続をとらせホール前で遊ばせつつ、空いた時間に受付内の荷物の整理を行っていた。たった今やってきた受付担当者と自分の仕事が円滑に進むように、何がどこにあるか分かりやすく、また取り出しやすく配置しておく。これだけでも混雑時の受付の作業がだいぶ楽になる。
朝の段階ではそれほど元気過ぎる子どもの数も多くなく、今のところ迷子の保護や連絡の仕事は舞い込んではいなかった。このまま演劇祭の最中もずっと何も起きなければいいのだが。
「うーん、演劇見たかったなぁ‥‥」
受付の内側でポツリと呟くイリス。彼女は荷物搬入の手伝いが終わったので、今度は受付の手伝いにやって来ていたのだが、受付はほぼ１日業務。途中に長い休憩を挟んで舞台１本くらいは見られるかもしれないが、それでもやはり見逃してしまう作品は多い。
「録画出来ればいいんだけど、私は暇が無いし、カメラ放置は頂けないし‥‥」
「あら、イリスさん、演劇祭の公演は全て運営の方がホール備え付けのカメラで録画しているんですよ。そういうことなら、事情を説明して後でダビングとかしてもらったらどうですか？」
「えっ！？ そうなの？ やった、じゃあ早速頼んで来てもいい？ 善は急げだよっ！」
「ええ、大丈夫ですよ。でも急いで転んだりしないように、気をつけて行って来てね」
こちらは少しゆるゆるモードで。大丈夫、誰も油断せず、適度に緊張は保っている。きっと無事に開会を迎えられるだろう。
●作業完了っ！
「やっと終わったな‥‥あとは撤去だけか」
無事にスタートした開会式の音が小さく漏れてくるのを聞きながら、ヘヴィは劇場の奥の方で座り込んで休憩する。キリエやダミアンもここで休んでいる。珪や蜜柑、イリスは今も受付の手伝いを続けている。最も混雑する今と昼過ぎを越えられれば、それほどの仕事も無いだろう。
「全部終わったら、皆で焼肉にでも行こうかの。もちろん、わしが奢るぞ？」
「おっ、そりゃいいね。ぜひお呼ばれさせてもらうよ」
「すいません、ご馳走になります」
こんな感じの舞台裏の苦労を土台にして、大演劇祭はスタートした。
