東北演劇祭・音響戦士!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/12〜08/16

●本文

 本格的な夏の暑さがやっとやって来た東北の地。そこで行われる一大イベント。

 『夏の大演劇祭in東北』

 毎年、東北の都市を順番に会場とし行われてきたそのイベント。その地域のアマチュア劇団から、幾つかのプロの劇団まで参加する舞台演劇のいわば祭典。数多くの参加団体に、大きな劇場、広い会場。その開催が近づいてくると、いやでも街は活気づいてくる。

 ・ ・ ・

「ということで、よろしく頼むよ円井君」
「まあ‥‥うまくいくといいですね」
 劇団『gathering star』主宰の円井 晋ですら返答を棒読みでしてしまう相手。その名はドイツの劇作家、ヘラルト・リヒタ。今年の東北演劇祭にあわせて来日した彼が持ってきた芝居というのが、なんと。

『音響戦士・ヒビクンジャー(仮名)』!!

 両端のスピーカーの無いステレオコンポに頭と手足が生えた姿のロボをメインに据えた舞台。何か邪悪な力に取り込まれ、ヒーローを倒すために変化した家電怪人とかを思い起こさせる。
 ヒビクンジャー(仮名)の操縦は大きなリモコンで行う。パイロットは操縦席に座り、内部でリモコン操作と、赤いボタン、マイクを駆使して敵と戦うのだ。
 赤いボタンは必殺技。押すとマイクが定位置まで伸びて来て、パイロットの熱いシャウトを両手の平にあるスピーカーから音波ビームとして発射する。熱ければ熱いほど威力の上がる必殺技、その名も『バーニング・シャウト』!
 他にも、腰部にCD型のミサイルを連続発射する機構などが備えられた、全長3mのロボ、ヒビクンジャー。

 巨大ロボを舞台演劇に‥‥ヘラルトの野望が今、実現しようとしていた‥‥!

 ・ ・ ・

 そして、演劇祭当日。
 『音響戦士・ヒビクンジャー(仮名)』本体が届かなくて困り果てているヘラルトその他公演関係者達がいた。配送のどこかでミスがあったらしい。
 この公演はヒビクンジャー(仮名)がなくてはどうにも立ち行かない。だが肝心のヒビクンジャー(仮名)はいない。どうするべきか。
「作るんだ」
「‥‥つ、作る?」
「そうだ、作るんだ! 幸いにもここはオタクの聖地、日本! ロボットの造形くらいパパパッとやってしまえる猛者がゴロゴロいるだろう。そんな人々を集めて、手近な材料でヒビクンジャーを再設計・製造するんだ!」
 急ぎ人集めを開始するヘラルトとその他公演関係者達。劇場とその周辺で手に入る道具、材料、人員だけで、どこまでやれるのか‥‥

●今回の参加者

 fa2605 結城丈治(36歳・♂・蛇)
 fa2683 織石 フルア(20歳・♀・狐)
 fa3211 スモーキー巻(24歳・♂・亀)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4946 二郎丸・慎吾(33歳・♂・猿)
 fa5196 羽生丹(17歳・♂・一角獣)
 fa5615 楽子(35歳・♀・アライグマ)
 fa5851 Celestia(24歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●基本構成と資材調達
「荷物届かねぇって‥‥ソンガイバイショーとか考えた方がいいっスよ」
 二郎丸・慎吾(fa4946)がそう言って新聞巻きながら怒り心頭であるとおり、日本の配送業者では滅多に起きない、荷物が届かない事故。どうやらヒビクンジャー(仮名)はドイツを出発する際、乗る飛行機を数本遅らされてしまったらしい。荷物のみ。荷物は日本に着いたところでそのまま劇場まで送ってもらう手はずだったからスタッフは気付かなかったのだ。連絡を受けたのは、ちょうど劇場に着いてから。
「そろそろ(仮名)は卒業させようか。ほら、これがヒビクンジャーだ。ラフですまないが」
 ヒビクンジャーの企画段階からの、言わば生みの親である織石 フルア(fa2683)が、出来るだけ以前の通りに、丁寧に、しかし急いで書き上げたイラスト資料を皆に配る。
「色はこの案のがいいね。白だとメカっぽさが少し無くなってしまう気がするよ」
 と、フルアの用意した塗装プランからヘラルトがお気に入りのひとつをチョイス。全体的に銀色をベースにし、胸元をライトブルー、細部を黒で装飾した塗装だ。胴体はベニヤで外側を作る予定だが、銀をそのまま塗ると表面の毛羽立ちが結構目立つ。対策として白を一度下地として塗ってから、銀を上塗りする。普通はベニヤに直塗りはせず新聞紙などを貼ってから塗装するが、残念ながら今はそんな時間は無い。
「作業出来る場所、確保しましたよ。買い出し班にはメールで連絡しておけば、まっすぐ来てくれると思います」
 楽子(fa5615)が劇場の奥から走ってやってきて、皆を誘導する。荷物や資材の運び込みは羽生丹(fa5196)や結城丈治(fa2605)が、他劇団から要らない資材をもらってまわるのは百鬼 レイ(fa4361)が行い、既に向こうに集合している。
「よし、急ごう!」
 フルアと楽子はそのまま奥へ走って行き、慎吾は途中まで一緒に。買い出し班の荷物運び込みを手伝いに向かう。
「CD−Rは買ってきたよ。あとパン。でもさすがに、フルアさんご所望のLDまではね‥‥」
「仕方無いっスよ、時間限られてますし」
 スモーキー巻(fa3211)が車からデカいビニール袋2つを引っ提げて登場。荷台からはCelestia(fa5851)が既にレジャーシートなどをまとめて下ろしている。
「さすがに調達先がコンビニだけとなると、たいしたものは手に入らないな」
 セラはそう言うが、それでも集まった資材は相当な量と種類になった。工具などは劇場にしっかりとあるし、普通の舞台演劇に使う資材も多少はストックがある。きっと足りるだろう。
「そういえば、この代金は誰に請求すればいいんだろう?」
「ヘラルトさんでいいんじゃないっスか?」

●製造、ヒビクンジャー!
 徹底的な軽量化を図るならば、人が乗る部分以外はダンボールで作り、その補強として角材やら何やらで骨組みを作るだけにするのが妥当だ。だが、今は時間が無い。ここまでにかかった時間が30分、動作チェックと修理・修正にかかる時間を多めに見積もると1時間、塗料が乾くまでにぎりぎりで1時間半。昼食時間と舞台袖への輸送も含めてあと2時間半ほどで完成させなければならない。多少の重量化は無視し、ガチガチと作っていかなければ。
「そういえばこれ、どうやって動かすんだろう?」
「元々のヤツは、中に竹馬が入ってて、中に入る人が頑張って歩かせるんだそうですよ。踵の方が大きめに作られていて、転びそうになったら重心を後ろに持っていけば安定するつくりだったみたいで」
 スモーキーの疑問に、レイがヘラルトから聞いた情報を教える。腕は長い金属棒が入っていてそれで動かし、CDミサイルは手動で投げるものだったという。必殺技の時には胴体の前面の一部がハト時計のように開き、そこからパイロットとマイクが覗く作り。つまり、人間が乗れるロボットを作ったというよりは、高さを水増しした人間に被り物を乗せた感じだ。
 だが残念ながら、ここには竹馬も金属棒も無い。一から作り直してヒビクンジャーを歩かせるのは難しいので、ヘラルトと公演関係者達は急ぎヒビクンジャーは歩かないものとして舞台構成を変更している。となれば、軽量化は頭や腕にのみ必要な処理になってくる。
 本体の製作は、スモーキー、セラが手足、レイが胴体をだーっと、楽子が頭部、慎吾が胴体と脚部の骨組みという分担で現在は進んでいる。
 それそれそれと次から次へラッカースプレーでベニヤ板やダンボールに色を塗っていくレイ。しっかりと色の境界線になる部分にはマスキングテープを貼り、急ぎながらも丁寧な仕上がりを目指す。それら外装はまだ組み立てられていないが、先に塗装をしておけば組み立て時には乾くだろう。手足の製作と平行してセラが行っている胴体から腕にかけての骨組みなどが完成したら、貼り付けていく。
「うん、これくらいの作りだと、腕は多少重い方が扱いやすいかな」
 セラが用意したペットボトルとワイヤーを組み合わせた腕部の稼動装置を試してみたスモーキーが言う。ワイヤーで引く動かし方で、かつ腕部が軽いと、ちょっとした力で必要以上に腕が大きく動いてしまう。それを防止するために、腕の重量をほんの少し増やしておく。
 腕への外装の追加は、出来るだけリアリティを追求した作りを目指して行った。ヒビクンジャーの行動を阻害するような部分には余計なものを付けず、敵の攻撃を防ごうとした時に必要そうなところへ装甲として追加する。それは足に関しても同様で、出来るだけリアルに、シンプルに。
 慎吾は椅子や脚立などを骨代わりに組み込みながら、胴体の内部を作っていく。客席から見えない背中から人が乗り込めるよう脚立の角度や椅子を設置し、腕や足の骨組みには手伝いを頼まれた時からずっと作り続けている新聞棒を加えてガムテープでぐるぐるギッタギタに補強する。これでもかとばかりに固めた内側は、相当重い人が乗って暴れたりしなければ壊れることは無いだろう。
 楽子は頭部を新聞紙とダンボールベースで製作していく。このヒビクンジャーステレオコンポはラジオも聞ける仕様のようで、頭部の右後ろには細長い新聞紙製のアンテナが立っている。このような小さいサイズのものには白い紙を貼った上で、すぐに乾くマジックペンで塗装してある。
 他の部分の塗装については、はじめは白い紙を貼り付けてから塗装の予定だったが時間の制約上没となったため、コンビニで大量買付けしたり演劇祭の受付から余ったものをもらったりの折り紙などを大量に使用している。既に塗装してあるこれは、貼るだけで外装が完成するという優れものだ。
 さあ、本体の製造が進み段々と形になっていく中、武器製造部門は‥‥?

●こちら必殺武器研究所
 本体の製造が進む中、フルアと丹はヒビクンジャーの必殺技『バーニングシャウト』用の音響機器を持ってきていた。それらは始めからヘラルト達が使うと申請していたので探すのに苦労は無かったが、しかし舞台構成が変わったとなると使わない機材・必要になる機材も出てくる。それらを選別し、どこにどう配置するかを決めていく。
 そして。配置が決まったら、お仕事終了。あとは本番前に、舞台上で設置することになる。今はその設計図を作っただけ。バーニングシャウト班はしばしお休み。ここからは音波ビーム班の仕事がスタートする。
 音波ビーム班にはフルアの他、本体製作の方の仕事をほぼ片付けたスモーキーと慎吾も参戦する。フルア案では両手のビーム部分には本物の音が出るスピーカーを用意する予定だったが、腕が重くなり過ぎること、舞台上を歩かなくなったので舞台奥のスピーカーで代用が利くようになったこともあり、ストッキング二重使用でスピーカーらしく見せるだけという慎吾案が採用された。
 その慎吾案の腕の中には、スモーキーが赤いライトを仕込んだ。手の先の方に入れると重心も先に行って重くなるために二の腕に入れたそれは、「音波ビィィィムッ!」の掛け声と共にスイッチを入れることで、音と共に赤い光が放射されるようになる。ちなみに何故赤かといえば、必殺技が『バーニング』シャウトだからだ。
 一方、孤軍奮闘するセラはCDミサイルの発射機構を作っていた。内部を斜めに作ることで一枚ずつCDが発射され、その度に弾が補給される形にし、そこにフックに掛けた輪ゴムを用意。CDに引っ掛けてセットし、パイロット手元の仕掛けを使うと輪ゴムについたフックが次々外れるようにしておく。これで、本物のヒビクンジャーには無かった自動発射装置が完成する。
 また一方で。
「リモコンも作っておいた。手抜きだが」
 塗装した線香の箱の中にレーザーポインタが固定されたもの。でも、時間が無い中充分な品である。

●それいけ稼動実験
 パーツごとに作られたヒビクンジャーを組み立て、その途中塗装が剥げたりした部分は楽子が適宜ペンで修正していく。最後に、金色の『S』oundマークを胸に付け、ついに完成。目をはじめ細部に彩られた、ヘアスプレーで細工されたアルミが鈍く光る、3mの巨人。
「‥‥あ、あの、折角だからロボと一緒に記念写真を撮っても構わないだろうか?」
「フルアさん、まずは稼動実験してからですよ。時間も無いですし」
「あ、ああ、そうだな」
 普段冷静(に見える)フルアの突然の発言に、レイが釘を刺す。嬉しい気持ちはよく分かるのだが、しかしもうちょっと待て。カップ麺はちゃんと3分待った方が美味しい。
 緊張の一瞬。
 乗り込むパイロット。沈まない、歪まない、壊れない! 安定性は問題なし!
 次に腕を動かす。右手も左手も、無事にちゃんと持ち上がり、元に戻る。問題なし!
 そしてCDミサイル。‥‥1・2・3・4・5! 全弾無事発射! 文句なし!
 音波ビームのライトもちゃんとストッキングの奥から放たれる。電池おっけー!
 リモコンにも電池は‥‥大丈夫。
 最後に。パイロットが降りてきて、機体にも搭乗者にも問題なし。オールグリーン!
「よし、それじゃあバラして舞台袖に持っていくとしますか!」
「なっ、何っ!? レイ、さっきお前」
「冗談ですよフルアさん、どうぞ好きなだけ、記念撮影を♪」
 そんなレイのお茶目ないたずらもありつつ、フルアは無事にヒビクンジャーと記念写真。ついでに握手。
 こうして、ヒビクンジャー再製造の仕事は無事に幕を降ろしたのであった。


 って違ーう! まだ仕事が残ってるでしょ! 残り時間は30分。その間に一度ばらして、舞台袖まで持っていかなければならない。とは言っても舞台袖は近く、途中で壁にぶつけないようゆっくり運んでも10分余裕があるという素晴らしい結果と相成ったが。あとは前の公演が終わった後で、舞台上で組み立て、マイクなどの接続を行うだけ。フルアや丹はその音量にちょっとしたこだわりを持っていたようだが、しかしその辺はヘラルト率いる裏方陣の音響担当者が音響卓を操作して決めることで、ちょっかいは出せない。あしからず。ヒビクンジャーの効果音は舞台下手(客席から見て左側)の舞台奥スピーカーを用いるのであった。

●その後
「まさか、完成直後に本物到着とかいうことはないっスよね? そしたら俺泣くよ?」
 そんな慎吾の心配は杞憂で。大丈夫、ヒビクンジャーは演劇祭の終了時刻になってから、ようやく到着した。
 大演劇祭終了後、会場から帰る人々の目には、劇場の入り口左右に立つ2体のヒビクンジャーが映ったのだった。