東北演劇祭・べるばらっアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 08/12〜08/16

●本文

 本格的な夏の暑さがやっとやって来た東北の地。そこで行われる一大イベント。

 『夏の大演劇祭in東北』

 毎年、東北の都市を順番に会場とし行われてきたそのイベント。その地域のアマチュア劇団から、幾つかのプロの劇団まで参加する舞台演劇のいわば祭典。数多くの参加団体に、大きな劇場、広い会場。その開催が近づいてくると、いやでも街は活気づいてくる。

 ・ ・ ・

 都市の郊外にひっそりと建つ大きな建物。そこは元は教会であった建物で、その屋根の上には巨大な鐘が吊るされている。
 その元教会は、現在は改築・改装されてスパリゾートとして営業を行っていた。その名は『スパ鐘才(かねさい)』。鐘才はここ数年赤字が続き、経営危機に陥っていた。
 そんな鐘才のことを、屋根の上の鐘(ベル)を見て、いつしか周辺住民はこう呼ぶようになった。‥‥‥‥『鐘才湯(ベルサイユ)』と!!

 その日、偶然ベルサイ湯を訪れた数人の芸能人たち。彼らは経営者に頼み込まれ、ベルサイ湯の経営危機を救うために様々な活動を行うことになった。
 まず考えられる活動はなんだろうか。そう、まずはPRだ。広報だ。ということで、ベルサイ湯の名物は何かと聞く芸能人たち。すると帰ってきた答えは、店内にある食堂に来てくれという言葉。
 前面に出したいテーマはこれだぁっ! 目の前のテーブルに出されたものは、食堂の豚肉料理。通称『ベルサイ湯の(豚)バラ(肉)』!!
 とりあえず、一口食べてみようと箸を伸ばすと。突如口を開く経営者。
「君は(豚)バラ(肉)を食べるのか?」
「いけないのか?」
「そんなことはない、むしろ推奨です」
 なら何で「食べるのか?」とか聞いたよ?

 そんな感じのベルサイ湯。芸能人たちは、見事その経営危機を解決してやることが出来るのか!?

 ・ ・ ・

 という、舞台。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa2459 シヅル・ナタス(20歳・♀・兎)
 fa4611 ブラウネ・スターン(24歳・♀・豹)
 fa4905 森里碧(16歳・♀・一角獣)
 fa4940 雪城かおる(23歳・♀・猫)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)

●リプレイ本文

「うーん、とりあえずは宣伝だろうなー。豚バラの良さ‥‥すき焼きにも親子丼にもいける、とか?」
「親子丼に入れたら他人丼になりますよ」
 ひょんなことからベルサイ湯の経営危機のメシアとされてしまった芸能人、ブルー・エトワール(ブラウネ・スターン(fa4611))が考え付くものを列挙すると、ベルサイ湯の従業員である鐘宮(小鳥遊真白(fa1170))がそんな揚げ足取り。
「豚バラ料理以外に、何か加えられる要素は無いのか?」
「すいません、私の料理にレパートリーが無いばかりに‥‥」
「あー、いえ、料理以外の要素でもいいんだが‥‥」
「構わないんじゃありませんか? 宣伝はバラだけでも。キャッチフレーズは『豚バラいいぞー、みんな来い』で決まりですわ」
 謝罪するベルサイ湯出入の食材業者で出張料理人(のくせにバラ肉料理しか作れない。それもそれで器用な話である)でもある下総 縫衣(森里碧(fa4905))。その肩に手をぽむと置いて、ベルサイ湯の女将、万里(姉川小紅(fa0262))が提案する。
「実は既に、宣伝用のチラシは印刷してもらっておりますの」
「へえ、それは話が早い。って何も決まらないうちにですか」
「善は急げですわ」
 じゃあ何のための相談か。
「聞きましたわよ、鐘才さん?」
 突然響く女性の声。やって来たのは誰が呼んだか安達ユキエ(稲森・梢(fa1435))。その手にはA2のフルカラーポスター。『豚バラいいぞー、みんな来い』。
「今更こんな事をしても無駄だとわからないのかしら? もっとも、無駄だとわかるくらいの頭があればここまで赤字経営を続けることもなかったでしょうけど? ホホホ‥‥」
「ちょっと女将、何やってるんですかあんな大きいポスター!」
「大きい方が目立ちますから、たくさんの人に見て頂けるんじゃないかと思いまして」
「加減ってものがあるだろう‥‥幾らかけてるんだ宣伝費」
 安達スルー。可哀相なので解説しておくと、鐘才含む周辺の土地を買収してスパリゾートを立てたい社長さん。今回のお話における悪い人。
「‥‥と、とにかく。悪あがきも適当なところで切り上げて、この土地を明け渡す準備でもしてもらいたいですわ。高く買い取って差し上げますから。ホホホホホ」
「困ったものだな。これだけの宣伝では、向こうの力に打ち勝つことは出来はしない‥‥もっと別のアプローチ方法を考えなければ」
 唯一鐘才の男性従業員大須かおる(神楽(fa4956)/日向みちる)だけが安達社長の言葉に反応して、その帰宅を強い目つきで見送った。

 ・ ・ ・

「「評論家を呼ぶ?」」
「そうだ。料理評論家でも温泉評論家でも突撃隣の豚バラ肉でもいい。お客さんの意思に影響を与えられる人にベルサイ湯を評価してもらえば、きっとお客が来る」
 それが、ブルーが経営再建のために提案した方法。だがその実行前に、ひとつ相談しなければならないことがあって。誰を呼ぶのか。
「有名な人だと評価基準が厳しいでしょうね‥‥そもそも有名な人が来てくれるのかどうかも問題ですね」
 下総が悩む。
「大丈夫ですわ。もうお話は通しておきました」
「え?」
 またも突然の万里の言葉。この人は他人の考えを読み取る力でもあるのだろうか。
「フランソワーズさんと仰る方で、お話したら来てくださるそうで」
「ふ、フランソワーズですって!?」
 こちらも突然に叫ぶ下総。
「評論家フランソワーズといえば、フランソワーズ・由美。貴族のお嬢様で、味に対する評価は激辛で知られる‥‥こういう場に呼ぶにはあまりに不適当な人物っ!!」
「その通りですわ!!」
 オーッホッホッホッホと聞こえる高笑い、続いて馬の嘶き。皆が窓から外を見ると、ベルサイ湯の入り口には馬車が横付けされていて。
「まさに庶民が集う場所といった風体ですわね。このわたくしをわざわざこのような場所に呼び出したのですから‥‥当然、わたくしを満足させる料理が作れると考えていいのかしらね?」
 純白のドレスに日除けのシルクでレースの帽子をかぶりやって来たフランソワーズ・由美(シヅル・ナタス(fa2459))。
「ええ、満足させてみせますわ。この私が」
 やって来たのは安達社長。驚く皆を尻目に、フランソワーズと万里に提案する。
「どうでしょう、この鐘才の全てを賭けて、私どもとあなた方で勝負をするというのは。こちらが勝てばあなた方にはここを立ち退いてもらいます。その代わり、そちらが勝てば計画の中止と、無利子での借金の肩代わりを約束しますわ。もっとも、そんな事が起こるはずが無いのですけれど。フランソワーズ様には、どうかその審査員をお願いしたく思うのですが、いかがでしょうか?」
「いいでしょう。では、勝負の日時は明日、この場所で。どれほどの料理が出されるか、楽しみにしておりますわよ」
「女将、権利書と印鑑を準備しておいて下さいね?」
 勝手に一方的に二人だけで物事を決め、帰っていく二人。
「‥‥何だか大きい話になってきたなぁ‥‥借金ってどのくらいあるんだ?」
「えぇと、細かくは覚えていませんけれど、調度品にイタリアの有名彫刻家の作品を先月買いましたわ。この鐘才も、2回ほどリフォームを」
「ちょっと待て、どこにそんな金があったんだ? 経営危機だってのに」
「ローンですわ」
「‥‥‥‥」
「とにかく、勝手ながら勝負をすることは決められてしまったわけですね‥‥よし、では勝負に勝つ為に、私が幻のバラ肉を手配します。私、下総縫衣が料理と給仕に馳せ参じます!」
 頼むしく胸を叩いて、下総はすぐさま走り出す。幻のバラ肉とは、そしてそれを手配出来るという彼女の正体は‥‥
「ですからお客様、ここは宮殿では‥‥」
「♪だって、ベルサイユはこちらだと聞いて‥‥。だってこんな大きな建物だから♪」
 大須と共にいきなりやって来た来訪者。フランス革命前の市民のような時代錯誤の衣装とメイクをしているが、もう誰がどのタイミングで出てきても驚かない。
 彼女‥‥露座璃恵(雪城かおる(fa4940))は、親の仇を探してフランスのベルサイユ宮殿に行くつもりが、住民に道を聞いてきたら何故か鐘才湯に辿り着いたのだという。ま、そりゃそうだ。
「♪ここも素晴らしいロココ調の装飾がなされた建物ですが‥‥違うのでしたら帰りますわ♪」
「待ちなさい」
 しょんぼりして帰ろうとする露座を、大須が止める。そして勧めるのはご宿泊。
「ヴェルサイユ宮殿に相応しい貴婦人になるなら、この鐘才湯で玉の肌に磨きあげるが良い」
「♪まあ‥‥では、一晩だけお願いしようかしら♪」
 そして大須に導かれるままに、奥へと案内されていく露座。経営危機のベルサイ湯としてはお客はありがたいが、しかしこの時期でなくてもとは思う。
「いいや、これはチャンスだ。再建に向けた新たな取り組みをやってみて、その実験台になってもらえばいい」
 実験台とか言葉は悪いが、ブルーが言う。その言葉に皆も頷いて、気持ちを新たに。
「♪すいません♪」
 奥からひょっこり顔を出す露座。その服装はいつの間にかシンプルなドレスになっていて。
「♪ここに来る途中に聞いたのですが、『バス小ぃ湯』はどちらでしょう?♪」
「ああ、えーと‥‥たぶん全室にある客室露天風呂のことだと思いますけど」

 ・ ・ ・

 決戦の火豚は切って落とされた。焼き豚。
 ベルサイ湯と安達カンパニーの戦いは、盛大なフードファイトとなった。審査員には昨日とは違うデザインの純白ドレスを着たフランソワーズと、やけにもふっとした薄緑色のドレスを纏った露座。ファイトの取材には地元紙の記者がちらほら。
 両者は同時に調理を開始。厨房に並べられた食材を覆う布が払われると、その場に居合わせる全員から歓声が上がった。
 安達社長の連れてきた料理人が用意した食材は、どれも一級品。国産の肉・魚・野菜を筆頭に、多くの食材がこれでもかと並ぶ。
 対するベルサイ湯、下総の用意したのは豚肉のみ。あとはベルサイ湯の厨房に以前からストックされていた野菜程度。あまりに見劣りするそれ。だが。
「この(豚)バラは近所の牡狩ファームで健康に育てているものを使用し、ジューシーなコクとさらりとした甘味を持っているのだッ!」
「そう。そしてこのブランド豚の首を飾る最高級品質の証、『�X』の刻印をご覧ください! 元教会の司祭様が女将さんに捧げるために手配した豚ですわ。バラを構成する三豚会。皮は自由、脂肪は平等、肉は博愛を示し、三つの部位が一体となり、まったりとしてコクがありシャッキリポンと舌が踊るのです」
 鐘宮に続き、下総もその豚バラ肉の素晴らしさについて審査員へ訴えかける。その訴え、主張にフランソワーズは目を見張る。
「その口ぶり、その食材へのこだわり‥‥そんな料理人をわたくしは一人しか知りませんわ。あなたはまさか‥‥」
「そう! 私は下総縫衣。グルメブック『ラ・瀬井の星』の三ツ星料理人!」
 きらりーん、と歯が光るような笑み。でも何のことか分からない人もいたりする。
「出来ました!」
 突然横合いからかけられる声。それは安達社長の連れてきた料理人が料理を完成させたという宣言。やべーやべーと準備を始める鐘宮と、ちょっぴりやる気無さげな下総。
「どうしたんですか下総さん、ここからが勝負の本番ですよ」
「え? 勝負? バラ肉の運命に生まれた人が勝者ってことでいいんじゃない?」
 ばっかやろー、とラジオのあっちゃんばりの修正パンチ。最近見ないなぁ。
 仕方なく、メイド服から戦闘服に着替える下総。仮面&レオタード。三ツ星って、味より外見の奇抜さで印象に残ったからじゃねーの?
 料理は結局鐘宮が中心で作らされ、下総はアドバイスと豚バラ肉の取り扱いのみへの参加となった。ベルサイ湯サイドの料理は肉の旨みそのものを味わえる焼肉、キムチを挟んで夏の暑さに負けない食欲を誘うキムチトンカツ、じっくり煮込んで老化を防ぐ豚肉の煮込み。
「まあ、美味しそうですわね」
「食べないでください女将!!」
「ベルバラなら幾らでも食べられますわ」
「だから食うなお前ぇ!!」
 そんな大騒ぎは置いておいて、安達社長チームの料理の審査。フランソワーズに続き、露座も味身をする。
「ふぅむ。まぁ、これくらいのレベルならばわたくしの家の食卓に1回くらいは出させてあげてもよろしくってよ」
「何だ、意外とそっけない反応だな。あの料理見た目は美味しそうなのに」
 相手の料理を見ただけで負けたななどと思っていたブルーが拍子抜けする。だが、それは大きな間違いだ。知っているだろうか、フランソワーズは決して負けを認めない。引き分けも認めない。それなのに先の仕方なく譲歩したというような言葉は、つまり、最上級の褒め言葉なのだ。‥‥そう知っててもイラッとくるが。
「どうです? 当社の施設が建てば、いつでもこの料理やエステが楽しめますのよ?」
「まあわざわざわたくしから出向くほどのものでもありませんけど」
 撃沈。
 そして次に、ベルサイ湯チームの料理。これもまた美味しそうで‥‥一部食べかけだが。
「‥‥比べるまでもありませんわね」
 大きく肩をすくめて見せるフランソワーズ。その反応は先の安達チームの料理の時とは全く違っていた。
「わたくしの家では、このようなものは食しません。そもそもの次元が違いますわ」
「では、勝負は‥‥」
「ええ、勝者は‥‥ベルサイ湯ですわ」
 は? という表情を皆が浮かべる。その反応に、庶民はこれだから‥‥とフランソワーズは呆れて。
「この店は、大衆浴場で間違いないですわね?」
「は、はい‥‥」
「スパリゾートとやらも、結局はその域を出ない」
「まあ、意味合い的には‥‥」
「ならば、答えは明白でしょう? 先も女将がこの料理をつまみ食いしていましたが、そのような卑しい庶民が集う大衆浴場には、それ相応の料理が必要。庶民の場に貴族の料理を持ち込んだところで、敬遠されるだけですわ。大衆浴場で必要なのは利用する庶民のレベルに合わせた、しかし美味なる料理と、そして万人に行き届いたサービス。そこの執事は何度も席を外し、温泉の管理に行っていましたね?」
「いや、執事じゃなく普通の従業員だけど‥‥まあ」
「それこそが庶民の真髄。つまり今回の勝負は、勝負にすらなっていなかったということですわ。同じ土俵に上がってすらいないのですから」
 ではわたくしは帰りますわ、とフランソワーズはすぐに帰宅の準備を始める。彼女曰く貧乏暇無しは嘘なのだという。貴族こそ民のために忙しいのだと。
「‥‥私の目が曇っていた様ですね。約束は約束です。計画を白紙に戻して援助をさせて頂きます。鐘才湯さんには期待させて頂きますからね?」
 結局、その安達の敗北宣言によって、ベルサイ湯争奪フードバトルは幕を閉じた。ベルサイ湯の勝利を祝ってか、普段正午にしか鳴らないはずのベルサイ湯てっぺんの鐘が鳴りだす‥‥
「うふふ、素敵でしょう? スイッチ一つで鐘が鳴るように致しましたのよ」
「♪赤身バラ肉が、食卓に咲く。嗚呼ー鐘才湯に豚バラが舞う。バラ肉鐘才湯芳しくあれいつまでも♪」
「女将、いつの間に‥‥」
「借金を肩代わりするからって、調子に乗らないように!」
 そんなこんなで最後まで大騒ぎ。でも、無事にベルサイ湯は救われたから。万事おっけー‥‥?

 ・ ・ ・

「すいません、僕、お肉が食べられないんですけど‥‥」
「お肉がダメなら、お菓子を召し上がれば宜しいですわ」
 ニッコリ微笑む女将。ここで出したお菓子が、後の‥‥